No.144733

真・恋姫無双『日天の御遣い』 拠点:張角・張宝・張梁

リバーさん

真・恋姫無双の魏ルートです。 ちなみに我らが一刀君は登場しますが、主人公ではありません。オリキャラが主人公になっています。

今回は拠点。
張三姉妹はやはり難しいです……

2010-05-22 18:01:49 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:7797   閲覧ユーザー数:6815

【拠点 張角・張宝・張梁】

 

 

『ほわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ! ほわっ、ほわぁぁぁぁああ! ほぉぉぉぉ、ほわぁぁぁぁぁぁっ! ほわぁぁぁぁああぁぁああああっ!』

「…………引くぐらいに盛り上がってるな」

 

 地を揺らすほど強く響く沢山の人の歓声を耳にし、空を霞ませるほど熱く騒ぐ沢山の人の姿を目にして、旭日はほんの少し引き気味にぽつりと呟く。

 反董卓連合の戦いも終わり、束の間かもしれないが――それでも平和な一時が訪れた今日。戦続きだったこれまでの労いと、戦続きになるだろうこれからの奮起の意味を込め、街の広場では何千もの人を相手に数え役萬☆姉妹のライブが行われていた。

 

『ほわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!』

 

 黄巾党としてではなく、彼女たちのファンの証として黄色い布を身に付けた男たちがほわほわと声援を送る。警備隊の隊長であり、張三姉妹のマネージメントも務めている旭日は彼女たちの護衛兼治安警備で何度もライブに顔を出していたが、今回は一番の盛り上がりだ。これならば次の興行まで、数え役萬☆姉妹が金銭に困ることはないだろう。いつもいつも奢らされている旭日にとって、それは実にありがたい。

 

「――お疲れ様です、隊長」

「ん? おう、お疲れさん、凪」

 

 すぐ傍まで近寄ってから律儀に敬礼をしてきた凪に、軽く手を挙げて挨拶を返す。

 

「今のところこっちは異常なしだ。そっちは?」

「こちらも異常ありません。皆、大人しく……と言うのも変ですが、張三姉妹の歌を夢中になって聴いています」

「……最近はごたごたしっぱなしだったからな。こうやって派手に騒げるのは嬉しいんだろ。後はまあ、あいつらの実力か」

 

 沸き起こる歓声。

 リズムよく鳴る手拍子。

 会場を包み込むある種の一体感。

 それら全てを生み出しているのは――舞台の上で歌う三人の少女。

 

「相変わらず凄い熱気だよな……見てるだけでむさ苦しくなる」

「ふふっ、確かにそう感じてしまうほどの人気ぶりですね。ただ……」

「凪?」

「……ただ少し、不安にも思います。華琳さまのご意向は理解しできていますが、張三姉妹が民に与える影響力を目の当たりにすると……どうしても」

「熱にやられてまた黄巾の乱が起こるかも……か? 大丈夫さ、きっとな」

 

 凪の頭をぽふりと軽く撫で、視線をライブ会場に戻せば、そこには熱気を漂わせながら咲き乱れる多くの笑顔と舞台の上で花のように咲き誇る三つの可愛らしい笑顔。

 黄巾党時代の三人を知らないので実際はどうなのかわからないけれど……それでも、わかる。

 彼女たちは、彼女たちの歌を取り戻したのだと。

 笑顔がそう――語っている。

 

「大丈夫さ」

 

 繰り返し、旭日は言った。

 

「あいつらは二度と、悲劇を生んだりしねえよ」

 

 確証はない。

 しかし、確信はある。

 黄巾党という悲劇が起きてしまったのは、彼女たちが歌がどんなものであるのか見失っていたがゆえだ。大陸一になる、そのことだけに囚われていたがゆえだ。

 でも――今は違う。

 目指す夢の為じゃなく、目指す夢を支えてくれる人たちの為に。

 笑顔に満ちた、世界の為に。

 数え役萬☆姉妹は――歌をうたう。

 

 

 

 

「最後まで聴いてくれてありがとう!」

「次回もまた見に来てねー!」

「さようなら」

『ほわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!』

 

 らいぶを終え、沢山の歓声と拍手を浴びながら舞台の裏へと引っ込んだ天和たちは、三人同時に満足感から息を吐いた。

 

「ふぁーっ、お疲れさま!」

「やっぱいいわね、大舞台って。気分がすっきりするわ!」

「……今までで一番楽しかったかも」

 

 満ち足りた妹二人の笑顔を見て、天和は更に満足そうに笑みを深める。

 黄巾党の時には味わえなかった充実感がとても気持ちいい。何より純粋に歌をうたえるということが嬉しくて、そして誇らしくあった。

 ああ――自分たちは自分たちの歌を取り戻せたのだと。

 今ならそう、強く思える。

 これも全ては――

 

「よう、三人ともご苦労さん」

「あ……旭日っ」

 

 ――舞台の袖からひょこりと現れた旭日に、天和は少しだけ肩を揺らした。

 ずっと一緒にいる地和にも人和にもわからない――ほんの微かな感情のゆらぎ。

 当然そんな揺れを鈍感で有名な彼が気付けるはずもなく、水筒を小脇に抱えてあっさりこちらへ近寄ってくる。

 

「今回も大盛り上がりだったな。ほら、水の差し入れ持ってきたぜ」

「おっ、気が利くじゃない。……んぐっ、んぐっ、んぐっ……ぷはぁっ! もう一杯!」

「旭日さん、私にもおかわり」

「わたしもー」

「……急かすなよ、ったく」

 

 本当に我が侭な嬢ちゃんたちだ、なんてぼやきつつもきちんと水を注いでくれる旭日。歌い通しだったせいか、ただの水なのにどんな高価なものより美味しい飲み物のように感じられた。

 

「んくっ……あれ? この水、ちょっとぬるいよ?」

「いいんだよ、それで。火照ってる時にいきなり冷水を飲んだら身体壊すだろ。冷えてんもちゃんと用意してあるから、もう少し落ち着いた後で飲めばいいさ」

「…………ふぅーん」

 

 生ぬるい水で喉を潤し、やっぱりと天和は思う。

 

「(意外と旭日って気遣いさん、なんだよね……)」

 

 例えば食事を奢らせた時。

 彼はいつもぶつぶつと文句を零すくせ、最後には絶対に奢ってくれる。

 例えば街を歩いている時。

 彼はいつも周囲をさりげなく注意して、自分たちを守ってくれている。

 自分たちがこうも早く大規模のらいぶを行えるようになったのも、旭日が宣伝や下準備などを手抜きせず一生懸命にやってくれたおかげだと、いつか人和も嬉しそうに言っていた。

 

「(……この水とおんなじだ)」

 

 喉が感じるのはぬるさではあるけれど――そこにあるのはまぎれもない温かさ。

 

「(格好いいし、優しいし、笑顔がとっても素敵だし……うん)」

「天和姉さん? どうかしたの?」

「うんっとね……お姉ちゃん、本気で旭日のこと狙おうかなー、と思って」

「………………は?」

「「えっ!?」」

 

 きょとんと首を傾げる旭日とは裏腹に、どこか焦っている様子の妹たちを見て、やっぱり自分たちは姉妹なんだなと天和は笑う。

 いつの日か、たった一人の為だけに歌ってみるのもいいかもしれないと――日色の恋歌を、胸に灯しながら。

 

 

 

 

 

前回のコメントへの返信

 

 

サラダさま>

 

子ども扱いされることを嫌っている季衣と流琉ですが、旭日としては折角の兄貴分妹分なので、子ども扱いしたいし甘やかしたいみたいです。……単純に、旭日がシスコンなだけなのかもしれませんが。

 

スターダストさま>

 

不幸体質だったり主人公体質だったり、よくよく思うとあの借金執事にも似てますよね、旭日。

我らが一刀君に似ているというのは最高の褒め言葉です!

 


 
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