「・・・さぁ舞踏会はそこです」
誰に言うでもなく、呟く麗の手から手綱が離れ・・・
ついには手放しで、馬の背に踵をあわせた姿勢で真直ぐに立っている。
空を覆いつくすほどの矢の雨を見上げ、微笑を絶やすことなく一言。
「そう来るのは・・・読み筋ですわよ。
進路そのままで密集隊形、頭を伏せ背に力をこめて、私の舞台となりなさい」
麗羽の一言で・・・瞬時にそこには黒い背のステージが形作られる。
麗の身が馬上より宙へ舞った、エメラルドの瞳に笑みを湛えたまま・・・自分の部隊の男達が作る舞台の上へ・・・
ワルツのターンを思わせるほどに優雅な回転を一つ度に、迫り来る矢の雨の一部が黄の方天画戟が届く範囲で消されていく。
当然全てを打ち落とせる範囲ではない、部隊の兵は六千以上いるのだ。
しかし、その背の舞台を作り出すことで守る範囲を狭め、その上で兵とは比べ物にならぬほどの武を誇る将自身が、兵を守る為に戟を振るう・・・
結果、驚くほどに歴然と被害は減り・・・攻め脚は止まらない。
・・・『魔王の軍』は・・・止まらない。
「重傷を負った者、助からないのなら御主人様のために戦って戦場で死になさい。
他の者達は彼らのために道を明け、その姿を模範としなさい」
続く矢の打てぬほどの距離まで詰めた、そう確認して麗は自分の馬にふわりと飛び移る。
麗の異常な行動に、動揺のあまり動きを止めた敵。
・・・それを、待っていた。
「見えたぞ牝猫、お前のおたついた様が。最大戦速
敵後曲を・・・食い破れっ」
麗の異常な行動は、陽動。
一瞬でも言葉を失えば、その隙を見逃す幽ではない。
矢の雨ごときで・・・麗の足止めようなんて、温いな・・・
先生に教わる理論が、『魔王の軍』に通用するなら、誰も恐がりゃしないんだよ
「足元に注意して突っ込め、殺しつくせ」
隊の中ほどにいて敵中央後曲に向けて突撃の支持をだし、そのまま自分は翼の部隊を警戒する。
独自に判断して、突っ込んでこれるような将が、そっちにいるのかい、幽の目はぐるりと戦場を見渡す。旗は三種類・・・どれが来る、それともどれも来ないのか。
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一話一話が非常に短いので、書いていて凄く気楽ですが
読んでいてストレスたまらないといいな、と少し心配ではあります。
どなたか一人でも面白いと思っていただけたら僥倖です