No.138281

リリカルなのはstrikers if ―ティアナ・ランスターの闇― act.12

リリカルなのは のifモノ。ティアナを主人公に、strikersのラストから5年後のストーリー。ティアナが執務官の道に進まなかったとしたら? 放映当初の、他人を寄せ付けない彼女のまま成長したら? という仮定の下に妄想される話です。

 オリキャラ多くて大混乱。
 今回はティアナの旅の足跡を追う、第二弾となっております。よりコミカルに、激しく。
 ティアナはヴィータのツッコミに耐え切れるのか?

2010-04-24 00:34:11 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:17069   閲覧ユーザー数:15112

 

かすが「先生! 先生! ホントに先生だッ!」

 

ティアナ「おお、かすが。タバコ切れたから買ってきてくれる?」

 

かすが「再会した瞬間にヒトをパシらせよーとする このダメさ! まさしく本物の先生だッ!」

 

 いきなり何かと思った読者に皆様、これはリリカルなのはの二次創作物です。

 アレクタ、ティシネの続いて、ティアナを訪問してきた見知らぬ人物は、年齢が先二人の中間ぐらいに位置する女の子。

 黒髪をポニーテールのように束ね、前髪をキッチリと切りそろえた髪型は、何か『桃太郎』を彷彿させる外見だ。

 そんな少年みたいな少女がベッドの上のティアナにダイブして、双方揉みくちゃになる。

 なんとも豪快な対面の儀式だった。

 

 ……ティアナの下へ、様々な見知らぬ人が訪ねてくる。

 最初は、赤い鳥を連れた少女・アレクタで、来たのはティアナと同時。もっとも新しいティアナの旅路を知る少女だった。

 次が新進気鋭の警備会社社長・ティシネで、過去にティアナから多くの恩を貰い、その感謝の気持ちが病院へ足を運ばせた。

 今、ティアナに抱きついている少女も、ティアナの旅のどこかでティアナと接点のあった人間だと思われる。

 彼女らを引き寄せているものは、ニュースで放映された事件映像。そこでテロリストを打ち倒したティアナの姿を目撃し、さまざまな人が、この病院へ集う。

 

 ティアナが迎える再会を、一歩引いたところから眺めている者がいた。スバルとヴィータ。

 

ヴィータ「……しかし、あの宵ノ瀬かすが までもがティアナの関係者だったとはなー」

 

スバル「あれ、ヴィータさん あの娘のコト知ってるんですか」

 

 揉みくちゃになっている桃太郎少女を指す。

 

ヴィータ「んあー、今 私が教導してる新人だよ。宵ノ瀬かすが。嘱託を経て機動捜査官候補に抜擢された大型ルーキーで、14歳のクセに もう空戦AAA-のランクを取得してやがる」

 

スバル「私、Bランクとったの15歳だったんですけど……!」

 

ヴィータ「ちなみに なのは は11でSだったな…」

 

 相変わらず才能の差が色濃い業界であった。

 

ヴィータ「出身が、なのは や はやて と同じ地球でな、そのせいか私も結構 目をかけてきたヤツなんだけど、これがまた厄介な生徒でなー」

 

 教導官ヴィータの目が遠くなる。

 

ヴィータ「なんつーか、空戦のやり方が独特でよ、しかも それが相当 危なっかしーんだわ。で、私も なのは も、そういうの矯正させようとするだろ、教導官だし。…全然聞こうとしねーのアイツ。で、そうなると実際 叩きのめして 基本の正しさを教えてやるってのが管理局流なんだけど……」

 

スバル「なんだけど…?」

 

ヴィータ「………勝てねー、模擬戦で、何度やっても」

 

 うわ。

 ベテラン魔導師としてのプライドが ベキベキ折れる音を出し、告白するヴィータ。

 

ヴィータ「なんかアイツよ、古代ベルカのレアスキル持ちらしくてよ。妙な技使って、私の砲弾も、なのはのディバインバスターもフラフラ避けて当たらねーんだわ。それで私は5分以内に落とされちまうし、なのはですら引き分けが精一杯。それでアイツの鼻っ柱が ますます高くなっちまってよー」

 

スバル「なんというか……、お疲れ様です、ヴィータさん」

 

ヴィータ「その上アイツ、私らのこと『~さん』とか呼んで、先生とか、教官とか、決して呼びやがらねー。なんというか、目上への敬意が……」

 

 ヴィータの愚痴が際限ない その横で、当の問題児である宵ノ瀬かすが は、ティアナに抱きついて、

 

かすが「先生! 先生! 先生! 先生ッ!」

 

ティアナ「はいはい、はいはい、はいはい、はいはい………」

 

 えー?

 

スバル「……超呼んでますよ?」

 

ヴィータ「……………ッッッ!!!!」

 

 どうやら この新キャラ かすが は、ティアナ以外の人間のことを『先生』と呼びたくない主義らしい。

 その一事だけ見ても、少女のティアナへの敬愛が わかりやすい ほどに わかった。

 

ヴィータ「……おいコラ ティアナッ!!」

 

 さすがに堪忍しきれなくなったヴィータが、ティアナに向かって物申す。

 

ヴィータ「……ティアナ。テメーが、そこの宵ノ瀬かすが の関係者だとは意外だったぜ?」

 

ティアナ「私が地球世界に立ち寄ったときに少し……。まあコイツが管理局入りしたのは知ってましたから、もしかしたらヴィータ副隊長か なのはさんの世話になったりして~、とか思いましたけど」

 

かすが「……先生、このチビッコ教官と知り合いなの?」

 

ヴィータ「ちび…ッ?」

 

 現役の教導生は歯に衣着せぬ。

 

ティアナ「昔 世話になったのよ……」

 

ヴィータ「そうだぞ! 私はな、お前が『先生』呼んでる その女の指導官だったんだ! 使えないガキだったソイツを一人前に育ててやったのは私なんだぜ! 私の偉大さが わかったかッ!」

 

かすが「ウソだよ、だってチビッコ、先生の1/5ぐらいしか強くないじゃん」

 

ヴィータ「ぐぬッ!?」

 

 なんたるショックな一言。

 

かすが「ボクはチビッコに毎日勝ってるけど、地球にいた頃 先生には一回も勝てなかったよ? そんなヤツが先生の先生だったって言うの? ウソ臭さ三千丈だよ!」

 

ティアナ「かすがと私が別れてから、もう一年でしょう? アンタも管理局で強くなったことだろうし、今戦ったら負けるかもね?」

 

かすが「そんなことないよー、管理局の魔導師って弱いんだもん、期待はずれ三千丈だよ!」

 

ティアナ「相変わらずアンタ好きね、三千丈……」

 

 ティアナがタバコの煙を吹く。

 その後ろでヴィータは青筋立てまくり。

 

かすが「弱っちいコーチばっかりで練習相手がいないからさ、先生に教えてもらってたときほど強くなってる気がしないんだよねー。ねえ、先生またボクの型見てよ、一人稽古じゃ限界あるんだよ」

 

ティアナ「そこのヴィータ副隊長に頼みなさい。今は その人がアンタの先生でしょう?」

 

かすが「ボクより弱いヤツが先生とかありえない」

 

ヴィータ「ぬがーーーーーーーーーーッッ!!」

 

 ついに堪忍袋の緒が切れたヴィータは、乱心めされて愛用の槌・鋼の伯爵グラーフアイゼンを引き抜く、そして ここが殿中だろうが何処だろうか構うもんかというテンションで真っ下しに悪・即・打。

 

ティアナ「ぐえッ?」

 

 鉄槌は何故かティアナの脳天にクリーンヒット。

 頭から電撃がほとばしり、悶絶するティアナ。

 

かすが「せ、先生ぇーーーッ!」

 

 ヴィータとしては、やっぱり連敗しているだけあって かすが には苦手意識があるのだろう。ゆえに激情に駆られて襲い掛かるのにも躊躇われた。そこで標的変更。六課時代に 散々イビり倒してきたティアナの方が殴りやすいし、ティアナを敬愛する かすがにも間接的にダメージを与えられる。と説明してみたら少しズルイ魂胆だった。

 

ティアナ「ぐぉ、…おお、私たしか病人なんじゃ……?」

 

かすが「先生! 先生! しっかりして先生ーーーッ!」

 

ティアナ「……かすが」

 

かすが「なに?」

 

ティアナ「アンタ嫌い」

 

かすが「ががーん!」

 

 ティアナとて いきなり殴られた理不尽に憤りたいところだが、相手は教官ヴィータ。ティアナにとっては、ルーキー時代に刷り込まれた恐ろしさは5年経っても忘れられず、面と向かうには どうにも気後れしてしまう。

 そこで、やり場のない怒りが、この災いの原因である かすが へと向くティアナだった。

 

かすが「先生に嫌われたーッ! 何してくれんのよチビ! 生意気なのよ! 先生に謝りなさいよ、ボクに一度も勝ったことないチビ虫がッ!」

 

 そして かすがは自分に勝てないヴィータに何の遠慮もない。

 

ヴィータ「…ッ! …ッ! …ッ! ……一本足打法ッ!」

 

ティアナ「ぐほうッ? ………かすがッ! このバカ! かしの木! 翼種目! キョンシーッ!」

 

かすが「んにゃあぁぁーッ? もう いい加減にしてよ激弱コーチーッ!」

 

 見事な三すくみが完成していた。

 

スバル「キレイな悪循環だぁ………」

 

 その不毛な憎しみのリングを眺めて、呆れるというか、何も言えないスバルだった。

 

ティアナ「……ふっ、人間は、憎しみの連鎖を断ち切ることができない生き物なのね」

 

ティシネ「シリアスそうなことを言っても、ただ八つ当たりが堂々巡りしているだけですから」

 

 横から冷静なツッコミを入れるのは、フォーマルなスーツに身を固めた切れ味鋭い女性・ティシネ。

 現在ミッドチルダで急成長を続けるベンチャー企業の社長で、駆け出し時代はティアナの徒弟として教えと愛情を受けた女性だった。彼女もまた ついさっきティアナとの再会を果たし、堰を切った感情によって童女のように咽び泣いていたが、今では彼女の本質らしい切れ味鋭い冷静さを取り戻していた。

 

ティシネ「ええと、かすが?」

 

かすが「なぁに? えーと、ティシネさん?」

 

 お互い初対面らしい、ティアナを敬愛することだけが共通点の二人。

 

ティシネ「目上の人間には、形だけでも敬意を払っておきなさい。バカな人間ほど、肩書きや序列にこだわる。そういう習性に気付いていれば、バカを扱うのは簡単よ」

 

かすが「なるほど、わかりましたー!」

 

ヴィータ「ちょっと待てや! ちょっと待てやーッ!」

 

かすが「何よ、激弱コーチ?」

 

 かすが が いかにも面倒臭そうにヴィータへ向く。

 

ヴィータ「今のアドバイスの内容にもツッコミ入れたいトコだけど! お前なんで、そこのクロイツ社長に そんなに素直なんだよ! ソイツはな、警備会社 作って、私たち時空管理局の権限に食い込んでくる商売敵なんだぞ、にくにくしーヤツなんだぞ! 教官である私に反抗的なのに、何でソイツに対しては従順なんだよッ!」

 

かすが「イヤだって、さっき先生から紹介されたんだもん、ボクの兄弟子に当たる人だって。それで先生から………」

 

『――― ティシネってヤツはね、自分で道を選ぶんじゃなく、自分で道を創ることができる人間なの。そんな能力をもつ人間は千人に一人もいないんだから尊敬しなさい』

 

かすが「……って言われたの」

 

 キッパリと言う かすが の隣で、言われた女傑が面映そうに視線をそらす。

 

ヴィータ「お前ティアナに言われたら誰でも尊敬するのかッ! おいティアナ! お前から このアホに、私のことを敬うように言ってくれ!」

 

ティアナ「かすが、年上は敬いなさい」

 

ヴィータ「具体性がカケラもねえッ! ティアナもっと! 私のいいところを この問題児に説明しろよ、事細かに!」

 

ティアナ「えぇ~?」

 

 至極 面倒臭そうなティアナであったが、鬼教官ヴィータに凄まれては昔のトラウマがうずくので断るわけにもいかない。数秒、タバコをふかしながら沈思黙考した末に。

 

ティアナ「ヴィータ副隊長の貴重さが わからないのッ? この人ならね、コトに至っても条例に引っかからないのよ!」

 

ヴィータ「このバカァァァァァァァッ!!」

 

 ドゴンッ!

 私は何のために入院してるんだっけ? 体に打撲傷を増やしながらティアナは思った。

 

 

   *

 

 

 ことほどさように、ティアナの病室は賑やかだった。

 訪ねてくるのは機動六課の仲間たちだけではない。彼女が旅路の途中で立ち寄った街の、擦れ違った人々。それらの人々がティアナを さまざまな名で呼び、ティアナの下へやってくる。

 

ティアナ「かすがに会ったのは、二年半ぐらい前ね」

 

 タバコを ふかしながらティアナが言う。

 

ティアナ「ちょうど両腕がボロボロになって療養中の時期に、掛かりつけの医者から『じゃあ平和でノンビリした世界でリハビリしてきたら どうダイ?』って薦められたのが地球でね。前にいったこともあるし、本当に軽い観光気分で旅に出たわ」

 

 そこで、ロストロギアに魅入られた一人の少女に出会った。

 名を、 宵ノ瀬かすが。

 

ティアナ「地球は、魔法のない世界だから、私に出会う前の かすがは自分が何を使っているかも知らないで魔法を使ってた。強い魔法資質を、自律思考型ロストロギアに気に入られて、一方的にマスターにさせられて、ロストロギアの呼び寄せる魑魅魍魎と激闘の毎日だったわ」

 

スバル「そんな子だったんだ……」

 

ティアナ「で、面白そうだったから、魔法に関する基礎知識と、私のもってるスキルの中で あの子に合いそうなものを適当に仕込んでみたの。具体的に言うと空間把握魔法」

 

ヴィータ「テメーも魔導師ってこったな。いい原石を見ると磨きたくなる、ってとこだろ?」

 

 パイプ椅子に座ったヴィータがニシシと笑う。ちなみにティアナを鈍器で殴った謝罪は、いまだにない。

 

ティアナ「いいえ、別に?」

 

ヴィータ「えぇ~?」

 

ティアナ「ただ かすが の特性が『クロスレンジでガチ』みたいなトコロがあったから。空間把握魔法による超感覚力を加えれば どうなるのか? と思って やってみただけ」

 

 空間把握魔法とは、ティアナが旅に出てから身に付けた新スキルで、自分の感覚を空間に張り巡らせ、自分から離れたモノの形を正確に感じ取ることができる魔法だった。

 それは自分の触覚を、自分の体の外に伸ばすことと同意であり。ティアナは この魔法で、自分の目の届かない場所にまで魔力弾を百発百中させることができた。テロ事件中、別室にいたテロリストたちを正確に狙撃できたのも、空間把握魔法があったからだ。

 ティアナは、その魔法を かすが に教えた。

 すると どうなったか?

 

ティアナ「見事に化けたわね」

 

 昔にいたという剣の達人は、殺気で 相手の行動を感じ取ったとか。

 かすがは空間把握魔法で その境地を再現した。頭上だろうが足元だろうが真後だろうが かすがに死角はなくなった。散り落ちる数千枚の花びらだろうと、かすが は空間把握魔法で正確な数を弾き出す。

 結果かすがは、接近戦限定で あらゆる攻撃に、光よりも早く対処できる“達人型 魔法剣士”になってしまった。その特性は『柳に風』で、ヴィータのように、クロスレンジを力押しで いくタイプには天敵だった。

 

ティシネ「しかし、何故そんな指導を あの子に? まあクロイツなら理由もなく子供を助けてしまいそうですが」

 

 ティシネは、ティアナのことを『クロイツ』と呼ぶ。

 ティアナは「かいかぶるんじゃないわよ」と面映そうにタバコを齧る。そして……。

 

ティアナ「地球にね、盆栽っていう道楽があるのよ?」

 

ティシネ「は?」

 

スバル「ぼんさい?」

 

ヴィータ「あの爺ちゃんたちがやってる、小っちぇえ木を鋏で切る趣味のことだろ? それが どうしたんだよ?」

 

 唐突な話題転換に、皆が首を傾げるが、ティアナは それに構わずマイペースで。

 

ティアナ「盆栽ってのはね、決して人の思う通りにはいかない趣味なの。木は自分のペースでしか育たないから、人間はそれに合わせるしかない、どんなに急いでもダメ。枝が伸びる方向も、根の張り方も、葉の茂り方も、木の思うとおりにしか進まない。人の思惑なんかに合わせてくれない」

 

 人間にできることといったら、せいぜい肥料を調節してやることと、細かく枝を間引いてやること。それだけをやって、あとは どんな風に枝を伸ばしてくれるか、どんな葉や花をつけてくれるか、木に任せ、見守るのみ。

 

ティアナ「そうして木が思うさまに伸ばした枝振りに、人間が後付けで“美”を感じる。それが盆栽の楽しみ方。……人間も同じだと思うのよね」

 

スバル「?」

 

ティアナ「私は、かすが に ただ空間把握魔法と、魔法の基礎の基礎だけを教えてやった。それだけで かすがは爆発的に化けた。私の想像を超える、クロスレンジの剣鬼に。でも私は、そうしようと思って かすがにコーチしてやったことは一度もないの。かすがの進む道は、かすがが決める。そうして思うさまに伸びた かすが を見る。それが私の、地球にいた頃の最大の楽しみだったわね」

 

 盆栽は、決してヒトの思うとおりに伸びない。

 人も、決してヒトの思うとおりには伸びない。

 ヒトの想像力など及びもしない可能性を、どちらも もっているからだ。

ティアナ「人間は原石じゃない、種だ。そう私に教えてくれたのは かすがだった。人間は一人一人、とてつもない可能性を秘めている。それが芽吹いて どんな樹となり、花となるのか。それは育ってみないとわからない。かすがは 一日経つごとに、私のチンケな想像を遙かに越えてメチャクチャに化けていく、それが もう大興奮でね」

 

 そんな かすが との生活が一年以上に及んだ末、ある事件がキッカケで かすがは時空管理局に接触し、スカウトされた。そのスカウトを かすが が受けることに、ティアナは反対しなかった。自身が管理局を脱走した過去をもつ以上、反対しても不思議ではなかったが、それは かすがの枝振りに余計な鋏を入れることに他ならなかった。

 

ティアナ「そうして私と かすがは別れた。………そしてティシネ」

 

ティシネ「はいッ?」

 

 名を呼ばれて、もっとも古い教え子が答える。

 

ティアナ「アンタも、すごく私を驚かせてくれたわね。たしかにネバーランドでハンターなんか続けていても、行き着く先は たかが知れてる。それにしたってミッドチルダで起業して、時空管理局に正面からケンカ売るなんて、私じゃ考え付かないわ」

 

 そう言われて、海千山千の女社長は、少女のように顔を赤らめた。

 自分が そんな大それたことをできるようになったのも、目の前にいるティアナの お陰だったから。

 学のない浮浪児に 読み書きを教え、自分の知らない外の世界や、社会の仕組みを教えてくれたのはティアナだった。そんなものは、ハンターが徒弟に教える内容には含まれていないのに。

 クロイツと名乗っていたティアナに出会わなかったら、ティシネは どうなっていただろう。たとえ独力でハンターになれたとしても、駕籠の鳥のように、外の世界を知らずに人生を終えていただろう。

 

ティシネ「……クロイツ、お願いがあります!」

 

 女社長は改まって言った。

 

ティシネ「私の会社に来てくれませんか?」

 

スバル「ええっ?」

 

ヴィータ「オイふざけんなッ! コイツは元々 管理局員だぞ! ヘッドハンティングするつもりかよッ?」

 

 ヴィータが どのように騒ぎ立てようと、ティシネの決意に変わりはなかった。

 彼女は、自分が ここまでの成長するまでの、すべての原因をくれたティアナに恩返しをしたかった。ティアナが自分に注いでくれた知恵、技術、愛情、形のあるもの形のないもの、すべてに対して感謝を表したかった。

 そのためティアナに、自分が築き上げた城へ来てもらい、自分の成長を 間近で見てほしい。

 しかしティアナは、ティシネの決意を込めた提案に、くすぐったそうに笑いながら、

 

ティアナ「面白そうだけど やめとくわ。アンタからは、もう充分に恩返ししてもらったから」

 

ティシネ「え?」

 

 恩返ししてもらった?

 どういうことだ?

 二人は、ネバーランドで別れたまま一度も出会ってない。だから その間ティシネからティアナへ報恩できる機会など一度もなかった。

 あるいは、ティシネにとって、ティアナと過ごした日々そのものが替えがたい財産であるのと同じように、ティアナにとっても過去の日々が充分な贈り物であったということか。

 

ティアナ「わかんない?」

 

 ティアナは悪戯っぽく笑う。

 

ティアナ「じゃあヒント、利息二割、儲けさせてもらったわ」

 

ティシネ「はッ!!?」

 

 その言葉に、ティシネの全身がビクリと震える。

 利息二割。

 儲けさせてもらった。

 それらが意味するものは……。

 

ヴィータ「オイこら! お前ら二人だけで意味ありげな会話するんじゃねーよ! 私らにもわかるように説明しろッ!」

 

ティシネ「……会社を興すのにも お金が要ります、それも莫大な」

 

スバル「え?」

 

 ティシネはポツリポツリと語りだす。

 起業には金がいる、当然のことだった。

 拠点となるオフィスの土地代。スタッフの人件費、設備投資などは職種によって差があるが、それでも膨大な費用を注ぎ込み、万全なスタートが切れる環境を整えねばならない。

 それはティシネが企業を起こす際も同じだった。

 元来、僻地の孤児の出であるティシネに財産などなく、ハンターとして稼いだ金もあるにはあるが企業資金には足りず、ティシネは自身の道を創造するため金策に走らなければならなかった。

 しかし、コネなどない孤児上がりのハンターへ出資する物好きなどいようか?

 途方に暮れていたティシネへ、しかし、莫大な出資を申し出てる名士が現れた。

 それはもうティシネが必要とする以上の、法外すぎる金を。

 しかしティシネは、その申し出を怪しんだ。出資者である名士とティシネは それまで一度も面識がなく、接点もない。何の繋がりもない女に、何故そこまで金を出してくれるのか? 上手い話を怪しむティシネに、その名士は説明してくれた。

 自分は ただの代理人でしかないと。

 彼の知り合いである、とある人物が、匿名でアナタに金を貸したがっている。自分はその橋渡しをする者に過ぎないと。

 結局その支援金が元になって、ティシネは充分な設備と人材を整え、理想的な形で警備会社クロイツをスタートさせることができた。

 その出資金の利息が、二割。

 

ティシネ「あ、アナタだったんですか……?」

 

 ティアナは、あはははは、と笑う。

 

ティアナ「まさか2年で全額返してくるなんて思いもしなかったけどね。イヤ儲けさせてもらったわ。そういう意味で、充分に恩返しだったわよ?」

 

ティシネ「アナタは…、本当にアナタは………」

 

 ティシネは震えた、震える自身の手を見詰め。この人の凄さに改めて度肝を抜かれるのだった。

 この人は見ていてくれていたのだ。

 離れていても、何処にいるのかわからなくても、自分が駈けずり、死に物狂いで勝負に挑んでいるのを、ちゃんと見ていてくれたのだ。

 かつてクロイツは、ティアナは言った。

『アンタが無茶するたびに、私が何度でも助けてやるから!』

 と。

 彼女は、本当に助けてくれていたのだ。

 ティシネが乾坤一擲の無茶をしたとき、たしかに。

 

スバル「っていうか、なんでティアそんなに お金持ってるの? ティアって もしかして大金持ちなのッ?」

 

ティアナ「旅をしているとね、アブナイ話にもオイシイ話にも出会うのよ」

 

スバル「……ち、ちなみに今、どれぐらい もってるの?」

 

ティアナ「細かいこと聞くな、消されるわよ」

 

スバル「恐いッ?」

 

 ティアナは不思議な女になっていた。違う人間と会うたびに、まったく違う顔を見せる。

 ティアナが消え去り、スバルたちとは違う場所で過ごした、5年間の時間。その時間そのものに興味が湧き始めるスバルだった。

 

 

   *

 

 

 そして一方、上記までの会話に まったく加わっていなかった新キャラ・宵ノ瀬かすが は―――。

 

かすが「ねえねえ、好きな食べ物は何?」

 

アレクタ「…………焼き鳥?」

 

ひなフェリ「(…ビクッ!)」

 

“不死鳥の祝福の地”でティアナに助けられた少女・アレクタの車椅子を押す、ティアナを“先生”と呼ぶ少女・かすが。

 二人は今 病院内を散歩中。

 それが何故かと尋ねたら、かすがに再会したティアナが、年が近い二人を引き合わせてみたからだった。

 

 ―――いい機会だから、お互い友だちになってみなさい?

 

 と。

 12歳のアレクタと、14歳の かすが。

 幻獣フェリックスに愛されたアレクタと、ロストロギア 陰刀“ケガレ”に憑かれた かすが。

 そしてティアナに助けられたアレクタと かすが。

 アレクタは内向的で、かすがは排他的な性格ではあったが、同じ人を尊敬するという共通点は、二人を瞬く間に数年来の親友にしてしまった。

 

かすが「へぇ、じゃあアレクタは魔導師になりたいんだ、先生みたいな」

 

アレクタ「……うん、だから私も退院したら管理局に入ろうかなって思ってる。フェリの魔力を運用できるような魔力制御を教えてくれるところ、管理局ぐらいしかなさそうだし」

 

かすが「そんなことないよー。ボクも最初はそう思って管理局入りしたけどさ。結局“ケガレ”を上手く使える方法は、自分で工夫するしかなかったし」

 

アレクタ「お姉ちゃんが教えてくれたら、一番いいのに……」

 

かすが「ボクもー、先生、またボクに稽古つけてくれないかなー。………あ」

 

アレクタ「どうしたの?」

 

 病院の廊下で、かすがの足が止まったのは、ある見知った顔に遭遇したからだった。

 かすがは現在 管理局に所属する魔導師で、空戦AAA-のランクをもち、にもかかわらず上官への態度が反抗的ということで教導隊からの教導を受けている。

 なので、かすが が その人物を知っているのは不自然なことではなかった。

 だが、何故ここにいるのかまでは知らなかった。

 その人物も、病院の奥からやってくる かすがの存在に気付き、意外そうに声を上げた。

 

なのは「……かすが? なんでアナタが ここにいるのッ?」

 

 昨日、ティアナから拒絶を受けた 高町なのは が一夜明け、病院の廊下で 進もうか、戻ろうか、決めかねていたときのことだった。

 

           to be continued


 
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