No.137454

真・恋姫無双 EP.0 地獄編

元素猫さん

恋姫の世界観をファンタジー風にしました。
原作や他の方の作品とは違う展開になるよう、心がけるつもりです。勢いだけの作品ですが、楽しんでいただければ幸いです。

2010-04-19 22:29:32 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:18199   閲覧ユーザー数:13652

 

 妙に寝苦しかった。体が重く、息苦しい。

 それに、近くから嫌な気配を感じる。俺は寝汗を拭いながら、目を開けた。

 薄暗く、辺りの様子はよく見えない。

 

「あれ、ここは?」

 

 変だった。確か、自分の部屋で寝ていたと思ったのに。

 俺はゆっくり体を起こすと、寝ぼけていないか目をこすり、もう一度よく周囲の様子を観察した。

 見知らぬ場所……いや、そもそもこんな場所が近所にあっただろうか。薄暗くてはっきりとはわからなかったが、どこまでも何もない空間が広がっているようだった。

 

「なんだよ……」

 

 呆然とする俺は、ともかく周りを調べてみようと思い、足を引きずるようにして歩き始めた。体の調子でも悪いのか、やたらと足が重い。いや、足だけじゃない。腕を上げるのも、一苦労するほどだった。その上、酸素が少ないのか息苦しい気がする。

 

「ダメだ……」

 

 ほんの数分ほど歩いただけで、すっかり疲れ果ててしまった。俺はその場に座り込みたい衝動を抑え込んで、立ったまましばらく休憩をすることにした。

 その時だ。

 

「――ぁ」

 

 誰かの声が聞こえた。何だか嫌な予感しかしないが、一人の心細さに負けた俺は、その場で声の主が現れるのを待った。

 

「ご主人様ぁん!」

 

 鳥肌が立つ俺の前に現れたのは、ピンクのビキニパンツを履いただけの筋肉お化けだった。

 

「だあれが、吐き気を催すほど醜悪で、下水の臭いがする汗が滲んだ筋肉の怪物ですってえ!!」

「言ってねえ!」

 

 突っ込みながら、俺は奇妙な既視感を憶えた。何だろう、この気持ちは。

 

「久しぶり……といっても、憶えていないわよね」

 

 ここまで個性的な人物を忘れるわけはないだろうが、逆に強烈すぎて記憶から消した可能性はある。

 

「私は貂蝉って言うの」

「貂蝉って……」

 

 俺の記憶では、三国志にそういう美女が出てきたはずだ。ゲームにもなっているので、確かだろう。だが目の前の男は、まるでかけ離れた容姿をしている。

 

「私はね、ご主人様に大切な事を伝えるために来たのよ」

 

 貂蝉に俺は何かを言いかけて、けれど口をつぐんだ。どうしてだろう、「ご主人様」と呼ばれることに違和感を感じない。

 

 

「これからご主人様には、やってもらいたいことがあるの」

「やってもらいたいこと?」

「そうよ。これから1年間、ここで修行をしてもらう」

「1年って、そんなに……」

「大丈夫よ。ここは時間の流れが遅いの。ここの1年は外の1ヶ月ほどだから、それほど大した時間じゃないわ。それにここは眠くならないし、お腹も空かないから、1年間はみっちりと使えるのよ」

「いや、さすがにそれはお断りします」

 

 回れ右をして、俺はそこから逃げようとする。だが、次に貂蝉が言った言葉が、俺の足を無意識に止めた。

 

「彼女たちを助けられるのは、ご主人様だけなのよ」

 

 どうしてかわからないけど、胸の奥に温かいものが広がって涙が零れた。

 

「記憶は無くしても、心はちゃんと憶えているのね」

「なんで、泣いているんだろう……俺」

「ご主人様はある外史を、3回体験しているの。その時に育んだ絆が、心の中に残っているのよ」

「外史……」

「そう、想いが紡ぐ望まれし世界の1つ。それが外史なのよ。ご主人様にわかりやすい言葉で表すと、タイムスリップとパラレルワールドが混ざったみたいなものと思えば、まあ、だいたい合ってるかしら」

 

 何とも突拍子もない話だと思った。だが笑い飛ばす気持ちには、不思議とならない。

 

「ご主人様が体験した外史は、いわゆる三国志を元に生まれた世界なの。外史にはね、相性があるのよ。想いの紡ぐ世界だけに、相性が悪いと何一つ上手くいかない。だからまず私たちは、相性の良い人物を見つける必要があったわけ。そして相性が良い人物が見つかったら、今度はより適正を深めるようにする。馴染ませて、その外史にとって必要なパーツとするの。ご主人様が同じ外史を3回も、違う運命で繰り返したのはそういう理由よ」

 

 俺は男の言葉を黙って聞いていた。何も憶えてはいないけど、確かに何か引っかかるものがある。それだけはわかった。

 

「でもご主人様の存在が、『奴ら』に見つかってしまったの。私たちが裏で色々と工作をしたんだけど、3回目の時に介入を許してしまった。そのせいで、強制的に途中退場させられてしまったのよ。外史の狭間に落とされたご主人様を見つけるのは、本当に大変だったんだからぁん」

 

 しなを作る男の不気味さに、俺は視線を逸らした。

 

「何か失礼なこと考えてない?」

「いや、別に……」

「まあ、いいわ。それで『奴ら』はご主人様を追い出したあと、崩壊しかけてた外史を再構築したの」

「いったい何の目的で?」

「あの外史には、英雄の魂が多く集まっているわ。『奴ら』はそれを手に入れて、さらに強大な力を得ようとしているのよ。もしもあの外史で、もっとも大きな3つの魂を取られたら、他の外史や正史にまで影響を及ぼすようになってしまう」

「3つの大きな魂……それは?」

「蜀の劉備、呉の孫策、そして魏の曹操」

「――!」

「再構築された外史は、『奴ら』の影響を強く受けているわ。だから外から手を出すことができないの。外史を破壊する方法もあるけど、それは最終手段。それをすると、その外史に住む子たちもみんな、永遠に失ってしまうから。だから一番相性の良いご主人様が、みんなの想いを一つにまとめて戦いを挑むしかないの」

「俺が……」

「やってもらえる?」

 

 色々と思うことはあった。でもなぜだろう、断るという選択肢は思い浮かばなかったんだ。むしろ、自分から立候補したい気持ちだった。だから俺は、貂蝉の申し出を受けた。

 

「それじゃあ、これからみっちりと鍛えるわ。あの呂布ちゃんと渡り合えるくらいにね」

 

 こうして俺の、地獄のような1年間はスタートを切ったのだった。

 

 

 そして、あっという間に1年が過ぎた。記憶から消し去りたい、地獄の1年だ。

 俺の修行を行った二人の化け物――貂蝉と卑弥呼は、餞別に武器をくれると言い出した。それはとてもありがたかったのだが、俺は今、とても困惑している。

 

「これは……」

 

 その武器というのは、黒光りしている2振りの剣。その正体は、貂蝉と卑弥呼が変化したものだった。

 

「遠慮しないで、ご主人様。いつものように、私のものを握っていいのよん」

「紛らわしい言い方をするな!」

 

 果てしなく、嫌な剣だ。

 

「でも、これさ、鞘がないから危ないよな」

「それなら大丈夫よん。ほら、こうすれば」

 

 すると、黒光りする刀身がみるみる縮んで、柄だけになった。どこのビームサーベルだ。というか、なんで縮んだんだ?

 

「……いや、やめよう。考えたら負けだな」

 

 そう結論付けて、俺は仕方なく二つの柄をベルトに刺した。生温かかったのは、忘れることにした。

 

 
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