No.137213

真・恋姫†無双 臥竜麟子鳳雛√ 7.9 (拠点フェイズ)

未來さん

先日私の生まれ故郷(市は違いますが)にてコミケが行われました。
まさか自分の出身県で……生きてると何か起こるか分かりませんww
あれだけの盛り上がりを私も見たことはなかったので、思わず涙してしまいそうになりました。
チュ○ブルソフトのライブも楽しかったなぁ……。

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2010-04-18 21:17:28 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:28943   閲覧ユーザー数:21359

 

 

 

 

 

 

 

今回のお話から、さながらどうでもいいことではありますが、2点ほど変更点がございます。

 

 

①劉協の真名を天(あまね)から護(まもり)に変更致します。

 

『天』という文字は“天の御遣い”がいることを考えるといささか使いづらい(設定上ではなく文面上)ので、

変更させて頂ければと思います。

 

 

聖と共に“一文字”であること。

そして聖を“護っていくもの”という意味で付けてみました。

 

 

 

 

この真名を考えるために出産・子育てサイトを回ったのは秘密だ♡

 

 

 

 

②麒里の被っている帽子を“リネンハット”から“小さめのシルクハット”に変更致します。

 

もはや『あれ?麒里って何か被ってたんだっけ?』と思われても不思議ではないくらい存在感のない帽子ですが、

作者的にリネンハットよりシルクハットの方が『萌え!』ってなったので、変更させて頂きます。

皆様の頭の中で妄想の切り替えをお願い致します。

 

 

 

 

いつかマイ妹に書いてもらえればいいなーwww

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は恋姫たちに焦点を合わせた拠点フェイズです。(全員ではありません)

各恋姫1ページとなっておりますので、1ページが異様に長い所もありますが、ご了承下さい。

あと、ページ順に時系列が完成しているわけではありません。時系列は気にしない方向でお願いします。

 

 

 

それでは本編をどうぞ。

 

 

 

 

 

追伸:ある恋姫の拠点だけ明らかに一刀が暴走(むしろ普通?)しています。

   『よりにもよってこの娘の拠点かよ!』というツッコミはバシバシ受け付けます。

 

追伸2:今回のお話を書いたせいで、作者の一刀は『100%無印』になってしまいましたw

 

 

 

 

 

 

 

 

反董卓連合が解散してからというもの、大陸の情勢は少しずつ少しずつ変わっていった。

 

朝廷の崩壊という、かつてない変化の節目に身を置く者たちは、これから先のことを見据え行動をし始める。

 

 

 

 

 

 

 

そんな中。

反董卓連合での活躍で『天の御遣い』という存在が名ばかりのものではなく、

有する実力も確かであることを知らしめた一刀たちは、忙しいながらも楽しい日々を過ごしていた。

 

 

それは愛しい人と共に過ごす、大切な時間。

そんな人たちの、とある日常。

 

 

 

 

 

 

 

 

「かー坊ー!準備出来ただかー?」

 

一刀の部屋の前で千奈は声を上げる。約束の時間になったので、自ら足を運んで迎えに来たというわけだ。

 

「ごめん、ちょっと待ってくれー」

「まったぐ、時間を守んねぇ男は嫌われっぞー?」

 

自分で言っておいて、それはないだろうと思った。いったい何人の少女が、この子のことを好いているのやら。

 

一刀が最初に出会ったという朱里・雛里・麒里はもちろん、流琉や明命も態度を見れば明らかだ。

簓に至っては堂々と妄想に耽るし、季衣も最近自分の感情に気付き始めているようだ。

 

最近新たな仲間として加わった中では、月と恋が非常に好意的に一刀を受け入れている。

聖と護の皇族姉妹も、一刀と触れ合ううちに“憧れ”だった感情が徐々に変化を遂げているようだ。

 

霞と華雄は友人のような付き合いだろうか。こちらも良い感情を抱いているため、いつ発展するか分からない。

詠と音々音は……あんな態度ではいるが、それはそれで一刀から目を離せないようだ。

 

こうして改めて考えると……

 

「………種馬だな、かー坊は」

 

これが単に“天の御遣い”として惹かれているのなら分からないでもないが、

皆“北郷一刀”に惹かれているのである。まさしく“天然の種馬”というべきであろう。

 

「………かー坊の国は“一夫一妻”とが言ったが?……無理だな」

 

こんな状態で一刀の国の法律に則っていたら、血を見るのは明らかだ。実に恐ろしい。

 

「……かー坊は向こぉに女いなかっただか……?」

 

チクリと胸が痛む。自分の感情は分かっている。自分も、一刀に惹かれているということを。

 

独占したいとは思わない。

他の娘を蹴落として一刀を独占するなど、他の娘も、一刀も、自分も幸せではないから。

ただ、知りもしない相手が一刀の寵愛を受けていたのではと考えると、気分が悪い。

 

「…………醜ぇ嫉妬だな、千奈」

 

自分がこんな性格をしているなんて、知らなかった。これでは簓のことを偉そうに叱れない。

 

「……どごを好きになったんだが、分がんねぇな」

 

改めて思い返すが、分からなかった。本当にいつのまにか。

気付けば彼の心配をし、世話を焼き、目を離せなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

「困ったもんだ、うぢの“種馬”にも」

「種馬?なんだそれ?」

「きゃっ!」

 

いつの間にか後ろに立っていた一刀に、思わず声が出た。

 

「『きゃっ!』って………千奈もそんな声出すんだな」

「………それはどーゆー意味だか、かー坊」

 

千奈はジト目で訊ねる。まるで自分が女扱いされてないように感じて……。

 

「そ、そんな睨むなって…。千奈っていつも落ち着いてるから、ちょっと意外だっただけだよ」

「……あたしだって女だぞ」

「分かってるってば。千奈は俺にとって大事な女の子だよ」

 

一刀の何気ない発言に、千奈の体温が上がる。

 

「………こっぱずかしいこど言うでねぇだ……」

「何か言った、千奈?」

「なんも言ってねぇだ!」

 

そう言って千奈はずんずんと門の方向へと歩き出す。

そんな珍しく怒り(?)の感情を顕わにする千奈を、一刀はすぐに追いかける。

 

「せ、千奈っ!待った!一緒に見回り行くんだろ、な?!」

 

頭を下げながら、謝罪の言葉を述べながら、一刀は千奈の横を歩く。

そんな一刀の必死さがおかしくて、千奈は笑いを堪えきれずに吹き出すのだった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

それはまるで未来の風景―――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

今日の目的は、街の警備だ。といっても、一刀たち自らが警備を行うのではなく、警備体制の確認だ。

街の保安面や外敵への迅速な対処の要になるところであり、千奈はこれを担当している。

 

「やっぱり西側に比べて東側は治安が悪いな……」

「んだ。まぁ、そん中の一部だけっどな。東南の数区画が特になー……」

「確か……新しく移住してくる人向けの住宅団地だっけ?」

「お、ちゃんと覚えてんだな。だけども、荒れんのもしょうがねぇんだ……」

 

顔を顰めて、一刀に応える。新しい民が続々と入ってくるため、治安改善のスピードが遅い。

 

「んー……もう少し警邏隊の数を増やそうか」

「そごら辺も朱里と雛里に相談してるだ。北西の方は特に治安がいぃがら、そっから数部隊な」

 

一刀の考えることは、当然千奈も対処済みだ。

 

「まぁ、もぉちっと何か対策は打ちてぇんだけどな」

 

試すような視線を向けられる。ここは主として、何か名案を呈する時!

 

「(といっても千奈も思いつかないような案なんて……)あ、そうだ」

「ん?何か思いついただか?」

「あぁ。ボランティアなんてどうだ?」

「……ぼらんてぃあ?」

「そう。東南地区の整備とか清掃を、参加者を募って無償でやるんだよ」

「へぇー。んで?」

「そうすれば街が綺麗になって前話した“割れ窓理論”にも繋がるし、

 前々から住んでた人たちと移住してきた人たちとの交流にもなると思うんだけど」

 

千奈はつま先をトントンと鳴らしながら熟考する。

確かに自分の中にはない考え。天の知識というのは、本当におもしろいものが多い。

 

だが、果たして整備や清掃などを人は無償でやってくれるのだろうか。人を呼び寄せるための何かが……。

 

「………もちろんかー坊も参加するだな?」

「……え?」

「かー坊は言い出しっぺだか、そんぐれぇ当たり前ぇだよなー」

「え、い、いや、俺政務が溜まってて……」

「街ん人もかー坊が誘うんが筋だな。規模がどんくらいになっかは、後で考えっから……」

「お、おーい。千奈ー?」

 

千奈はくるりと振り返り、一刀の胸の中心をトンと小突く。

 

「かー坊とがあたしらが率先すっと、街のみんなもやってくれんでねぇ?

 あたしらのことをもっと身近に感じてくれんだろぉし、あたしらにもたまには気分転換が必要だ」

 

にっこりと笑う千奈。少しおどけたように見せる彼女の笑顔は、実に“らしい”ものだった。

 

「……そっか。それじゃその日は丸々休みにして、みんなでボランティアするか?」

「んだな。その“ぼらんてぃあ”をやんまでは、とりえぇず警邏を増やして対処すっか」

 

そう言って千奈は来た道を引き返す。

 

「もういいのか、千奈?」

「元々かー坊に、ここの現状を見せたがっただけだしな。2人で“ぼらんてぃあ”の計画でも練るだ」

「うーーん……だったらわざわざ帰らなくてもいいだろ?」

「ん?どしてだ?」

 

一刀は建ち並ぶ店を適当に指し示し、千奈に笑いかける。

 

「どうせなら何か食べながら話し合わないか?せっかく千奈と街歩いてるのに、そのまま帰るのはもったいない」

 

追撃は………

 

「千奈ともう少し話していたいしな」

 

ある種の言葉責めである。

 

 

 

 

 

 

 

頬が熱い。何か冷たいものが欲しいところだが、生憎手元にはない。こんなことになったのも……

 

「(みんなかー坊のせいだ)」

 

紅くなった頬が見えないように慌てて逆を向く。こんな姿を見られるのは………やはり恥ずかしい。

 

「か、かー坊がそげに言うんなら、付き合ってやっても……いーだ」

「よしっ、なら行くか」

 

 

 

こうして千奈は機嫌良く歩き出したが……

 

「そういえば前に“簓”が言ってた店はこの近くか……」

「っ!」

 

その一刀の一言で千奈は急に立ち止まる。

 

「? 千奈?」

「……今日はかー坊の奢りだか」

「ちょ、ちょっと待って!俺今月そんなに金が…っ!」

「かー坊から誘ってんだから、当たり前ぇだっ!」

 

顔をさらに紅潮させて、千奈はずんずんと先行していく。

 

「せ、千奈っ!」

「(……簓にまで……やっぱり嫉妬なんて……醜ぇだ……)」

 

千奈は少しの後悔を抱きながら、一刀と肩を並べて歩くのだった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

数日後。

一刀の提案通り、朝早くから武将・軍師も総出でボランティアをすることになったのだが……。

 

「ちょっとこれは………集まりすぎじゃないのか?」

 

辺りを埋め尽くす人・ヒト・ひと。さすがにここまでの規模は想像していなかった。

 

「みんなあっちでもこっちでも慕われてっかんなー。まぁここまでは想像してねぇけんども……」

 

武将は普段から警邏等で街へ出向くことも多いが、軍師勢も街の状況を肌で感じるために街へ出向く。

彼女たちの真摯な態度と親しみやすさが受けて、そこかしこで人気者となっているのだ。

当然、少しでも力になりたいと思うのが当然である。

ちなみに今日、月・詠・恋・音々音、さらに聖と護はお留守番である。

 

「えっと……どうしましょうか、一刀様?」

「ちょっとこれは……集まりすぎちゃいましたねー」

 

麒里と朱里も同じことを考えていたようで、あまりの人の多さに困惑している。

 

「あ、あらかじめ希望人数を確認した方が良かったかもしれません……」

「ほんまやなー。いくら何でも多すぎんでー、一刀ー」

 

さすがの霞も雛里の意見には賛成だ。

 

「これだけの人数がいたら、思うようには動けないぞ?」

「そうですよね…。東南地区だけじゃ溢れちゃうのです」

「だったらこの際人を分けて、範囲を広げればいいんじゃない!?」

 

華雄と明命の言葉から発想を転換して、簓が案を出す。

 

「さんせー!今日で全部片付けちゃおうよ!」

「そうね。これくらいの人数がいたら一日かければできちゃうかも……」

 

季衣は季衣でやる気満々。流琉も想定以上の人数を考慮して、やる気を見せる。。

 

「んじゃ、この際範囲を全体に広げっか。だいたい5つくらいに分けて………」

 

 

 

 

 

 

こうして……

 

「まーた上手ぇ具合に軍師と将軍が分がれるもんだな」

「まぁ偶然とはいえ、行動はしやすいんじゃないか?」

 

すでに仲間たちは持ち場に移動している。組み合わせは北側から5ブロックに分けて

―季衣・麒里組

―華雄・流琉組

―千奈・一刀組

―明命・雛里組

―霞・簓・朱里組である。

 

上手い具合にお目付役がつく形となった。

まぁこの内の大半の少女が、一刀と別の組になったことを悲しんでわけであるが………。

 

「んじゃかー坊、始めっか?」

「そうだな。みんなー!今日はよろしく頼むなーー!!!」

 

こうして街全体を上げての“清掃交流会”が始まった。

 

 

 

 

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「たいしゅさまー!これどこに捨てればいいのー?!」

「あぁ、それはあの角曲がった所にまとめて捨てる場所があるから、そっちに持ってってくれればいいよ」

「うんっ!わかったー!」

 

「みつかいさまー!これはどこに運ぶのー?」

「これは確か……あ、あそこだ。ほら、あっちに宿屋のおっちゃんたちがいるだろ?

 あそこに持っていけば、みんながやってくれるから」

「がってんだー!」

 

「うぅ~~……おもいよ~~…」

「あぁっ!そんなに無理して持たなくていいからっ!自分がちゃんと持てる分だけ、な?」

「はーい!たいしゅさま、ありがとー!」

 

 

 

 

 

 

 

千奈の視線は、太守にも関わらずあちらこちら動き回る一刀に向けられる。

 

「(ほんとかー坊は子供に好かれんなぁ……)」

 

彼のいるところには自然と子供が寄ってくる。

始めは『天の御遣い』という物珍しさもあったのだろうが、今はその親しみやすさのためだろう。

ごく自然な態度で民と接し、笑顔を振りまく。見回りの際に手伝いをすることも日常茶飯事だ。

その“北郷一刀らしさ”が、彼が広く受け入れられている理由だろう。

 

「(自分の子供みてぇに接すんだなぁ……)」

 

子供と同じ目線で話し、助言をしたり叱ったり。

 

「(いい父親になんだろぉな……)」

 

一刀の子供への接し方を見ると、そんなことが安易に想像出来る。

 

「(んで、子供もいい子に育って……)」

 

父の背中を見た子は、のびのびと真っ直ぐに育つだろう。

 

「(あたしとかー坊の子も………)」

 

そこまで考えて、ハッとなる。

 

「(い、今何考えてただか、あたしっ!?)」

 

全身を巡っている血液が、急速に温度を上げていく。

 

「(かっ、か、かー坊との子供なんて……)」

 

再び一刀へ視線を向ける。そこには周囲の人々に指示を出している一刀の姿が。無論子供の姿もあり……。

 

「(かー坊と……3人くれぇの子供と………あたしと………)」

 

想像しただけで、幸せそうな円満家族である。

 

「(うぅ………なんが簓みてぇになってんぞ……)」

 

以前は簓の妄想癖には辟易していたのだが………。

 

 

 

でも。どうせなら………

 

「……そげな未来にしてぇな……」

 

群雄割拠のこの時代。実現するにはまだまだ時間はかかるだろうが……。

 

「あたしだって………かー坊と歩いていきてぇだ」

 

例え異世界から来た人間だろうと……好きなものは好きなのだから……。

 

「…………頑張っぞ!これがらもっ!」

 

両手を握りしめ、ガッツポーズ。

軍師として、女として。少しでも、優しい彼の支えになるのだ。

 

「かー坊ー!!こっぢも手伝ってぐれー!!」

「おー!それじゃみんな、引き続き頼むなっ!」

 

そして千奈は、やってきた一刀の胸を小突く。

 

「かー坊っ、頑張っぞ!」

「ん?それはボランティアをか?」

「……ふふっ。あぁそぉだ。他にも色々あっけど、“今は”ぼらんてぃあ頑張っぞ!」

「……珍しいな、千奈がそんなに気合い入れるなんて……」

「こんだけの人がいんだから、頑張んのは当たりめぇだろ?」

「あぁ、そうだな。頑張ろうな、千奈!」

 

 

お互い気合いを入れて作業に取りかかる。

 

そう。この“ぼらんてぃあ”を頑張ることも、望む未来へ近づくためには、必要なことなのである。

 

 

 

 

「はぁ~……エヘヘッ」

 

見るからにご機嫌な少女。真名は明命という。今日は午後から休みをもらい、ある出来事に挑もうとしていた。

 

「今日は一刀様と“でぇと”なのですっ!」

 

 

 

 

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猫まっしぐら―――

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事の発端は、あの汜水関で簓から渡されたあの手紙。

1つはその先の作戦を知らせるものだったが、もう1つは一刀からのメッセージ。

 

『帰ってきたら街に遊びに行こう』

 

それはせめてもの労い。数ヶ月街を離れて、単独で董卓軍にいた明命への励ましだった。

 

これを明命は、照れながらも嬉々として実行。明命が午後非番なのに合わせて、一刀が休みを得ることとなった。

 

 

 

 

「ごめん、明命っ。ちょっと遅れたっ」

「い、いえっ!大丈夫ですっ!私も今来た所なのですっ」

 

嘘である。もうかれこれ40分ほどは待っている。

といっても、これは明命が来るのが早過ぎたため。一刀は10分ほどしか遅れてはいない。

 

「それじゃ行こう、明命」

「は、はいっ!」

 

頬紅く、少々吃り気味の少女は、こうして街へ繰り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

街中を2人でのんびり歩く。時折店の主人から声を掛けられたり、元気良く走り回る子供たちに迫られたり。

自分が一将軍であったり、隣を歩く青年が街を統べる君主であることなどは、関係ない。

ただ人として。それこそ、街に住まう人々全員を家族として想っているから、自然な振る舞いができる。

 

「ここも本当に賑やかだよなー」

「はいっ!みんなニコニコ笑ってて、こっちまで嬉しくなります!」

 

人の幸せを己の幸福と感じることが出来る。これは明命だけでなく、一刀たちにも共通するところである。

 

「店もかなり増えたしなー。そういや、明命は何か欲しいものとかないのか?」

 

両脇に連なる店舗を見て、一刀が問う。明命が何か大きな買い物をした―――というのは聞いたことがない。

 

「いえっ、特にないのですっ。必要な物は揃ってますし…」

「んー……。猫を飼いたいとかは思わないのか?」

 

あれだけ普段から街の猫たちを溺愛している明命だ。自分でも是非、と思うのが自然である。

 

「そ、そんなっ!お猫様を飼うなんて畏れ多いのですっ!」

 

もはや崇拝の域に達している明命の猫好き。まさかここまでとは……と思う。

そんな一刀がある店の前に立ち止まり、軽く微笑む。

 

「明命、ちょっと服屋に寄ってもいいか?」

「一刀様、何か欲しい服があるのですか?」

「ん?ちょっとなー」

 

心なしかご機嫌な一刀の様子が不思議で、明命は思わず首を傾げる。

 

「おっちゃーん!“アレ”出来てるかな?」

 

店に入るなり声を大きめにして店主に声を掛ける。店内にいた客たちの反応は思ったより少ない。決して飾ることのない、”こういう”君主だと分かっているからだ。

 

「おぉ~!これは北郷様。例の”アレ”でございますか?もう出来ておりますよ」

「わざわざありがとな」

「いえいえ。他の何よりも優先致しましたので」

 

その言葉に一刀が少し苦笑いする。

 

「嬉しいけど……そういうのナシって言っただろ?」

「そう言われましても、ここで平穏に暮らせるのは北郷様のおかげでございます。これはせめてものお礼と…」

「……分かったよ、ありがとう」

 

何を言っても聞かなそうなので、ここはあっさり折れておく。どちらにせよ感謝しなくては。

 

「こちらはもう一般に売り出しても?」

「子供には売れそうだけど…勝算あるの?」

「もちろんでございます」

「でもあんまり外では……とりあえず寝間着用ってことなら」

「承知いたしました」

 

恭しく礼をし、一刀に“アレ”を渡す。きちんと謝礼も渡し、満足気に笑う一刀。

 

「一刀様の新しい服ですかっ?」

「いや、違うよ」

「?」

 

あんなに喜んでいたのに自分の物ではないと言う。その様子に疑問符が付いたが、すぐに心当たりを見つけた。

 

「あっ、“ぷれぜんと”ですかっ?」

 

一刀から教えてもらった『贈り物』を意味する言葉。おそらく誰かの誕生日か何かなのではと、予測する。

 

「あぁ、そうだな」

 

ニコリと笑って

 

「はい、明命」

 

手に持ったそれを手渡した。

 

「え、ええぇっ?!わ、私ですかっ?」

「うん。連合に参加する前に、おっちゃんに頼んでおいたんだよ。明命に贈りたいんだーってね」

「で、でもっ」

「……連合軍の時は、明命にかなり負担をかけちゃったからさ。

 これで足りるとは思わないけど、せめてものお礼ってことで」

 

明命は一刀の性格をよく知っている。時折見せる、とても頑固な性格。

これと決めたら決して意志を曲げないその性分は、こんな些細なやり取りでも見られるのである。

 

「………ありがとうございますっ!すごく嬉しいですっ!」

 

だから素直に受け取る。その方が、彼も喜ぶから。

 

「どういたしまして。あっ、そうだ。今日それ着てみてくれないか?」

「え?きょ、今日ですかっ?!」

 

突然の一刀からの提案。まだどんな服かも見ていないため、虚を突かれる。

 

「あぁ。夜に明命の部屋に行くからさ」

「あ、あのっ」

「楽しみにしてるな」

「うぅ……」

 

こういう時の一刀は、実に押しに強い。

 

「それじゃ、他の所も回っていこうか」

「は、はい……」

 

少しの期待と少しの不安、そして多大な気恥ずかしさを胸にして、一刀との“でーと”を続けるのだった。

 

 

 

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数時間後。

夕食・風呂ともに済ませて部屋に戻った明命は、

眼前に広がるその衣装に対し”羨望”と”畏怖”という2つの異なる感情を抱いていた。

 

「こ、これは………っ!」

 

 

 

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「明命ー。いるかー?」

「か、一刀様っ?!あわわっ、はわっ、ふわー!?」

 

ドタドタンッ!!

 

「……何かいろんな人が混ざってないか?」

 

約束通り明命の部屋を訪れた一刀は、明らかに動揺している声を聞く。

発せられた言葉には、数人の軍師からの影響が垣間見えた。

 

「…入っても大丈夫か?」

「は、はひっ!……だ、大丈夫です……」

 

戸惑いながらも入室を促す声を聞いて、一刀は戸を押した。

 

「どうだ、明命?似合うか……な…」

 

部屋に入るなり、一刀は絶句した。

そこにいたのは、まさしく猫。全身三毛模様で彩られた、可愛らしい猫だった。

 

 

 

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明命の猫好きを発端に以前一刀が思い出したのは、テレビに映ったとある光景。いわゆる“ギャル”の特集だった。

その中でも、着ぐるみのようなものを着て街を闊歩するギャルがやたら印象に残った。

あの時は『何を考えてるんだ……』と思ったが、これを明命に着せてみたらどうなるかと考えた。

妄想してみたところ……1人で勝手に悶えてしまったのだ。

 

 

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そしてその姿が、今現実に……

 

「えっと……か、一刀様?ど、どうですか……?」

「…………はっ!わ、悪い。ちょっと意識飛んでた」

 

あえて大きめに作られたその服には、服屋の主人の“理解”が窺える。

 

「(いい仕事しすぎだ、おっちゃん……っ!)」

「あ、あの……」

「……めっちゃくちゃ似合ってるぞ明命!正直言うことなしだっ!」

 

親指をグッと立て、手放しで称賛する一刀。

 

 

 

 

 

 

 

そんな一刀の反応を見て、明命は意を決して紡ぐ。

普段の彼女からは到底考えられない、だが、以前からずっと願っていた、甘美な誘惑を帯びた言葉を。

 

「ででででではっ!えっと…わ、私のこと……お猫様みたいに…か、可愛がって……くれますか………にゃ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

続きはWebにはありませんので、あなたの脳内で展開させてくださいませ。

 

 

 

 

「♪~~♪~~♪」

 

厨房に立つ1人の少女。これから我が主に食事を作るためか、誰が見ても分かるほどご機嫌な様子だ。

昔から料理は好きだった。いろんな人の笑顔が見られるから。それで、ますます力を入れるようになった。

 

……自分の主に作る料理には、特に。力と心がいつも以上に上乗せされているのが分かる。

楽しくて楽しくて、しょうがないのである。

 

 

さて。考え事ばかりしていたら、出来上がりが遅くなってしまう。

親友が腹を空かせてこの厨房へ訪れるには、まだ時間があるはず。慌てることなく、楽しみながら準備をしよう。

 

 

と思っていたら、何やら声が聞こえてくる。その声はどんどん大きくなって……。

 

「………ぅぅぅるーーー!!!」

 

あぁやっぱりだ。毎度騒がしい親友の声である。でもどうしたんだろう。いつもの時間より1時間ほど早い。

今日の調練はよほどお腹の空くようなものだったのだろうか。

何てことを考えているうちに、厨房の扉が開け放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

「流琉!ボクに料理教えて!!!」

「…………私、耳が悪くなったのかな?」

 

 

 

 

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愛情(?)たっぷり召し上がれ!―――

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「季衣が料理ねー」

 

食欲旺盛、食いしん坊の季衣からそんな言葉を聞けば、春なのに明日は雪が降るのではと勘繰りたくなる。

 

「でも突然どうしたの?」

「だってさー……」

 

リスのように頬を膨らませる親友に、思わず吹き出しそうになる。

 

「流琉や朱里がご飯作ると、兄ちゃんいっつも褒めるじゃん!何か……悔しい…」

「……………」

 

全くもって。ここ最近の季衣の変化には驚いてばかりだ。

2人で畑仕事したり、賊退治をしていた頃からは、想像出来ない。

 

「(もぉ……兄様は節操がないんですから。季衣にまで……こんな表情させるなんて…)」

「流琉!ね、教えてよ!」

「はいはい、分かったわよ。教えてあげるから、まずは手を洗ってきて」

「うん、分かった!」

 

そう言って季衣は駆け出していく。その足はまるでバネが入っているかのように弾んだものだった。

 

「とりあえず……今日のお昼は街の食堂かな?」

 

野菜を無駄にせずに良かった、と思わず思ってしまった。

 

 

 

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「うぅぅ……流琉は“すぱるた”だよー……」

 

午後をほぼ丸々使っての料理教室。

調練以上に厳しい表情で臨んでいた流琉に、季衣の口からは天界の言葉が出る。

 

「季衣が色んな手順とか調理器具の使い方を無視するからでしょ?

 今日やったことは、まだ基本中の基本なんだから。」

「う、嘘ー……」

「……ふふっ。最初から料理が上手な人なんていないわよ。季衣だってきっと上手くなるから」

 

季衣の味覚は確かなのだ。料理が上達する可能性は十分にある。それに……

 

「兄様に季衣の料理、食べてもらうんでしょ?」

「………うんっ!」

 

何より、叶えたい願いがあるのだ。

 

 

 

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時間を見つけては流琉に教えを請い、料理を学んでからおよそ半月。

飲み込みは早いようで、流琉からも太鼓判をもらえるようになった。

 

ちょうど夕飯の時間。

彼女は今、自身が作った料理が盛ってある器を手に一刀の部屋の前にいる。

いつもなら何の気兼ねもなく突入していく所なのだが……

 

「(何か緊張してきたよぉ……兄ちゃん、おいしいって言ってくれるかなぁ………)」

 

不安が渦巻く。流琉に何度も味見はしてもらっているが、他の人に食べてもらうのは初めてだ。

 

「(だ、大丈夫だよっ!ボクも味見したし、流琉にだって上手くできてるって言われて……)」

 

本当に季衣にしては珍しく悩みに悩む。自分の中でなかなか踏ん切りがつかないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

悩むのは大いに結構。彼女も乙女。いつもと違う態度が出るのは仕方ないのだろう。

 

 

 

 

だが、場所が悪かった。

 

キィィィ

 

 

「え?」

 

 

ドンッ

 

「ぁ……」

 

ガチャン!!!

 

 

「うわっ?!ご、ごめん!だいじょ…う…ぶ……」

「……………」

 

扉を開けた一刀の目に映ったのは、呆然と一刀を見上げる季衣の瞳。

そして、床に散らばった皿と料理“だった”もの。

 

「き、季衣っ!?ご、ごめん!悪気があってやったわけじゃ「う……」う?」

 

やがて季衣の瞳には雫がたまり……

 

「うわああああぁあぁぁぁん!!!」

 

ダムは決壊したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぐっ……ひっく………うぅぅ」

「季衣、もう泣くなって、な?」

 

優しく頭を撫でながら、一刀は季衣を慰める。

 

「ぅん…………」

「よし、季衣は笑ってた方がいいからな」

 

なおも頭を撫でながら、一刀は微笑む。

 

「そもそも季衣は何であそこにいたんだ?わざわざ自分の部屋に行って食べようとしてたのか?」

「……違うよ………」

 

首をふるふると横に振る。

 

「…兄ちゃんに………」

「ん?」

「兄ちゃんに……ボクの作った料理……食べてもらおうって………」

「季衣が……料理?」

 

意外だった。いつも食べてばかりだった季衣が………。

 

「流琉にも……いっぱい教えてもらって……」

「そっか………」

 

あれだけ泣いていたのだ。慣れない料理を懸命に頑張っていたのだろう。

不用意に扉を開けて出てきてしまった自分が恨めしい。

 

 

 

ならば……と、一刀は親指で季衣の涙を拭いながら、お願いをしてみる。

 

「ならもう1回作ってくれないか、季衣」

「……え?」

「ちょうど腹減ってたからさ。季衣の料理、食べてみたいんだけどな」

 

一刀がにっこりと笑う。この笑顔が見たいから、季衣は料理を頑張ってきたのだ。

 

「………う、うんっ!任せてよっ、兄ちゃん!!」

 

季衣は満面の笑みを以て、涙を拭い、応えるのだった。

 

 

 

 

 

 

それはとある深い夜。厨房には煌々とした灯りと香ばしい匂い。

そして、2つの笑い声が響いていた。

 

 

 

 

てくてくと、流琉は廊下を歩いていた。いつも通りの歩調。いつも通りの景色。

庭を賑わす動物はその日によって違うけれど、いつも通りののんびりとした日。

 

「(今日もいい天気♪)」

 

こんなに時間を緩やかに感じられるのは、ここが平和であるから。

その一端を担えているのだから、誇りに思ってもいいだろう。

 

「(兄様何の用だろう?)」

 

大広間に続く長い廊下。流琉がここを歩いているのも、一刀に呼び出されたためである。

ぼんやりと物事を考えながら歩いていれば、扉の前に着くのもあっという間である。

個室でもないし“のっく”は必要ないだろうと思い、そのまま扉を開けて中へ入る。

 

「兄様?いますかー?」

 

呼び掛けるとすぐに反応が返ってきた。

 

「流琉、わざわざごめんな」

「いえ、今は休憩時間なので……何かご用ですか?」

「あぁ。実は………」

 

一刀の神妙な顔付きに、流琉の意識が引き締まる。

 

賊でも現れたのか。

もしくは他国からの侵攻か。

それとも、自分にだけ与えられる指令だろうか。

 

流琉は静かに一刀の言葉を待ち……

 

 

 

 

 

 

 

 

「流琉にはアイドル活動をしてほしいんだ」

「……………はい?」

 

なぜかは分からないが、先程感じていた“誇り”が少し減ったように感じた流琉であった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

流琉アイドル化計画―――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

アイドル―――

それは子供たちには夢を、大人たちには希望を与える職業のことである。

多くの者がこれを目指し、敗れ去る。到達できるのは極々わずかな人間のみ。

そう。いわば、幻の存在なのである。

 

 

 

 

「えーーっと……急にどうしたんですか?」

 

当然問いたくもなる。

 

「実は最近“数え役萬☆姉妹”っていうアイドル……というか旅芸人か。

 彼女たちの話を、街に来る商人がしててさ。ちょっとした話題になってるんだよ」

 

この話は少しずつ街に広まりつつあるのだ。

 

「あ、私も聞いたことあります。いつかは季衣と見てみたいねって、話してた所です」

「流琉も知ってたか。まぁこの時代は娯楽も多くないしね……。

 だから、俺たちがそういうことを企画してもいいかなーってね」

「??? 別に街のみんなにも数え役萬☆姉妹を見てもらえば「いや、それには問題が……」??」

 

一刀が顔が顰るので、流琉は耳を傾ける。

 

「3人そろって公演中に『強い人が好きー』って言うらしいんだよ。

 みんな彼女のファン……支援者なわけだから、強くなりたいって思うだろ?

 そんな状態で公演の最後に配られるのが……曹操軍のチラシ……」

「そ、それって……」

「曹操軍が絡んでる可能性が高いってこと。もしそれが本当だとすると、かなり問題だろ?」

 

ただのアイドル活動ではあるが、それをきっかけに曹操側に移る人もいるかもしれない。

ただでさえ実力を有している彼女達に多くの民が流れ込めば………。

 

「というわけで、それを食い止めるための方策でもあるんだよ、“アイドル活動”は」

 

 

 

 

 

 

 

ここまで話を聞いて、流琉はある事実に気が付く。

 

「……ちょっと待ってください、兄様。もしかして“あいどる活動”っていうのは……」

「うん。数え役萬☆姉妹みたいにみんなの前で歌って踊る、みたいな?」

 

それを聞き、流琉の顔から血の気が引いた。

 

「むむむ無理ですよそんなの!わわっ、私に“あいどる”なんてっ!」

「いや、きっと流琉なら出来る!俺が元の世界で見た以上の、最高のアイドルになってくれるさ!」

 

一体どこからその自信は湧いてくるのやら……。

 

「第一何で私なんですかっ!?」

「いや、それが俺も不思議なんだけど、ウチでアイドル活動をって思った時に、

 真っ先に思い浮かんだのが流琉だったんだよ。きっとこれは天からの思し召しだな」

「天は兄様でしょ!!」

 

流琉が珍しく強い口調で突っ込むが、馬耳東風である。

もう彼の頭の中では、流琉が歌って踊っているのだろう。

 

「兄様ぁ。あいどるなんて私には無理ですよぉ……」

 

この上目遣いと弱々しい口調という2つ要素が男を惑わすことを知らないのだろうか。

こんな高度な技を無意識にやってのける流琉に悶絶しながらも、改めてアイドルにしたいという欲求が湧く。

なので一刀は目線を合わせ、真摯に願い出る。

 

「流琉、頼む。流琉ならきっとトップアイドルになれるはずだ。

 俺が全力で支えていくから、一緒に目指してくれないか」

 

一言も曹操軍対策の旨が込められていないのは、気のせいではない。

 

 

 

 

 

 

 

一方流琉は、一刀のあまりに真剣な眼差しに思考回路を狂わされていた。

 

「(兄様がこんな真剣に……。……断ったら兄様悲しむかな……

  ってダメよ、流琉!あいどるなんて私には……)」

 

再びチラリと一刀を見遣る。

 

「(うぅ……。兄様にあんな目されたら断れないよぉ…)

  に、兄様がそんなに言うなら……やってみても……いいですよ?」

 

一刀の顔がエフェクトを施したように輝いた。

 

「ありがとう、流琉!この恩は一生忘れない!」

「そ、そんな……大袈裟ですよ兄様」

「……よし、じゃー早速どれ程のものか見てみよう!!」

「…………え?」

 

困惑している流琉をよそに、一刀は指をパチンと鳴らす。

と同時に、どこからともなく現れる霞と華雄。

 

「ほな行こか、流琉っち」

「…え?」

「お前も苦労するな、典韋」

「え?えっ?」

 

両脇をがっちりホールドされる流琉。そんな流琉を見てにっこり笑う一刀。

 

「実は衣装を用意してるんだ。試しに着てみてくれないか、流琉」

「どうして私が相談される前から用意されてるんですかっ!?」

「大丈夫!絶対似合うから!」

 

それは流琉の質問の答えにはなっていない。

 

「それじゃ霞、華雄。更衣室へ連れてってあげてくれ」

「兄様ーーーっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「………アンタ、あれはあんまりじゃないの?」

「大丈夫だ、流琉ならきっとなれる!トップアイドルに!」

「ご主人様、詠ちゃんが言ってるのはそういうことじゃ……」

 

詠と月がこんな反応を示すのも、無理はないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「(もぅ……。絶対兄様に乗せられてる気がするよ……)」

 

衣装まで用意している一刀の策略に、まんまと嵌まった感のある流琉。

 

「(私には絶対向いてないよ、あいどるなんて……)」

 

そう心で呟きながら衣装を手に取る。

 

「あ……可愛い……」

 

一瞬にして心を奪われた。

 

 

 

あしらわれたフリルは、くどい主張はせず適度な可愛らしさを演出する。

色は全体的に白。清楚な雰囲気を演出するが、所々に使われている黄色が少女らしさも引き立てる。

丈は短すぎず、膝より少し上の辺り。流琉にはちょうどいい長さといえる。

 

自分の普段の服装からは、あまりに懸け離れた衣装。

 

「(……兄様が考えてくれたのかな?)」

 

周囲では見ない服。この時代に生きる人間が考案したものとは考えにくい。

 

「(兄様がわざわざ………)」

 

思わず気持ちがぐらつく。さらに策に嵌まっているような気もするが……。

 

 

 

と、その時。

 

「流琉ちゃーん。着替え終わったー?」

「はいっ?!」

「何だ?まだ終わってねぇだか?」

 

覗き込むのは簓と千奈。

 

「簓さんに千奈さんっ!えと……どうしたんですか?」

「流琉ちゃんがせっかく可愛い衣装着るんだもん。どうせならもっと……ねぇ?」

「着終わったら呼ぶんだぞ?髪、その服に合うようにしてやっがら」

「は、はい……ありがとうございます……」

 

そう言い残すと、2人は更衣室から首を引っ込める。

 

「もぅ……兄様これに何人巻き込んでるんだろ…?」

 

危惧する所は尤もなのだが、正確には彼女達は巻き込まれたのではない。自ら突撃しにいったと言っていい。

 

「…………着てみても……いいかな?」

 

なんだかんだで乗せられてしまっていた流琉なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そわそわしながら待つこと30分ほど。ついにデビュー前のアイドルの姿が明かされた。

 

「え………えっと………」

「…………………」

 

この台詞、上は流琉で下が一刀のものである。

 

普段は活発そうな外見に礼儀の正しさというミスマッチが可愛らしさを引き立てている流琉であるが、

今回はまるで違う。

 

フリルが特徴のワンピースは清楚さとあどけなさが同居し、流琉が着ると愛らしさが滲み出る。

髪型は一度全部下ろした髪を、後ろで束ね上げている。これだけでも大人らしさはグッと増す。

控えめな化粧はアイドルとしては物足りないのかもしれないが、流琉には実にマッチしている。

 

そう。一刀から言わせてもらえば『文句なし』なのである。

 

「わぁ。流琉ちゃん可愛いー」

「へぇー。結構雰囲気変わるのねー」

「ええやん流琉っちー!かわえぇなー」

「うむ、よいのではないか」

 

元董卓軍の面々は口々に褒めたたえる。

 

「簓の化粧にあたしの髪結い。んで、かー坊の衣装だ。いい組み合わせになったな」

「流琉ちゃん可愛いから、お化粧してて楽しかったー。私も大満足っ!」

 

おめかし部隊2人の顔にも充実感に満ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、えと……に、兄様?どう……ですか?」

「…………獲った……」

「へ?」

 

一刀は何事か呟くと、急に顔を上げて叫んだ。

 

「これで天下は獲ったぞーーー!!!」

 

どこかで聞いたような台詞である。

 

「流琉!俺が流琉を精一杯プロデュースするぞ!

 レッスンして、デビューして、一緒にトップアイドルまで駆け上がろう!」

「は、はぁ……」

 

こんなテンションで天界の言葉を連呼されれば、流琉の反応も当然である。

 

「芸名は……真名を使わせるわけにはいかないから……“てんちゃん”か?

 ゆくゆくは麒里や雛里、朱里にも……いや、あえて詠やねねって手もアリか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何かボクの名前が呼ばれた気がしたけど気のせいね。ボクはなにモキいてナイ、キイテナイッタラ……」

「え、詠ちゃーん!しっかりしてーっ!」

「簓ー。一刀がおかしくなってんでー」

「それだけ流琉ちゃんが可愛かったってことだねっ♪」

「そんなに笑顔で言うことなのか、これは?」

「そんだけの開き直りも必要なんでねぇが?」

 

傍観者は言いたい放題である。

 

「…………やっぱり引き受けたの失敗だったかなぁ……」

 

近い将来、彼女がトップアイドルになるのは、また別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?い、今寒気が………」

「おぉっ?!麒里もですか。ねねもですぞ…」

「ねねちゃんも?私もだよー」

「しゅ、朱里ちゃんも?私も今寒気が……」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

鎖は外されて―――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

1人の少女が、新緑が眩しい樹の元で休息を得ている。

今までの生活からはとても考えられないような、本当に穏やかな時間。

彼女の視線は“車椅子”と呼ばれる乗り物に座り、最近出来た友人と談笑する自身の義姉へ向けられている。

 

 

 

 

 

前にあんなの笑顔を見たのは、いつのことだったろうか。

もう義姉の笑顔など見れないのではないかとさえ、考えていた。

 

だが事実、義姉は微笑んでいる。これまで過ごすことのなかった安穏な日々に、身を置いている。

 

皇族としての立場や身体上の問題。辛い思いばかりしてきた義姉。

そんな義姉に安らぎを与えてくれた人々には、感謝してもしきれない。特に明命と………

 

「護?どうしたんだ、こんなところで」

 

天の御遣い。この人にも、大きな恩がある。返せるかどうか不安になるくらいの、大きな恩が……。

自身の真名と気兼ねない話し方を許しているのも、恩返しの一環だ。

 

「……劉弁様を見ていたのだ。あのように笑顔を見せてくれることなど、久方振りなのでな」

「そっか……月たちから聞いた話だと、かなり辛い思いをしてたみたいだしな」

「あぁ。本当に劉弁様は「いや、聖だけじゃなくてさ」?」

 

途中で口を挟まれて、思わず一刀の方を見遣る。

 

「護だって辛い思いしてきたんだろ?聖に代わって謁見を担当していたって聞いたぞ?」

「だ、誰からっ?!「いや、聖からだけど」……劉弁様…」

 

あまり人に触れ回っていい話ではないのだが……

逆に言えば、義姉がそれだけ彼に心を許しているということなのだろう。

 

「(気持ちは分からなくもないけど……)」

「どうかした?」

「……いや、気にするでない」

 

少し気持ちを落ち着けて、一刀へ話し掛ける。

 

「余は辛いなど思ったことはない。これも劉弁様の負担を少しでも「なぁ、護」な、なんだ?」

 

またもや話の途中で割って入ってくる一刀に少し不満げな視線を向ける。

そんな男の口から出た言葉に、護は思わず戸惑った。

 

「別に聖のこと『お姉ちゃん』って呼んでも構わないんだぞ?」

「…え?な、何を言って…」

「そんなに畏まった言い方しなくてもいいだろ?素のままに…」

「そ、そんなこと誰からっ……!」

 

このことは姉の聖しか知らないはず。

皇族としてせめてもの威厳を保つために、それなりに気を配っていたのに……。

 

「えーっと……確か月が話してくれたのかな?」

「(気付かれてたのっ?!確かに月は妙に勘がいいところがあるし、観察眼も……)」

「………護?」

「……いや、何でもないぞ、何でも…」

 

頭の中で出来事を整理し、冷静さを取り戻す。

そして意を決して、というよりはどこか観念したかのように、一刀に向き直る。

 

「……そうだな。“ここの主”が許してくれるのなら、普通に振る舞ってもよいのかも知れぬな」

「からかうなよ。でも……」

 

皇族として今まで振る舞っていた護と聖。年端もいかぬ少女2人には、あまりにも大きすぎる責任。

それを想うと、一刀から自然と言葉が紡がれる。

 

 

 

 

 

 

「護も聖も、もう皇族なんてものに縛られる必要ないだろ?

 これからは普通の女の子として、ここで過ごしていけばいいよ」

 

護に見せる一刀の表情は、誰もが見惚れるような清々しい笑顔で……。

 

「(……明命はもちろんだけど、民までこの人について行く理由が分かるわ…。

 真に人のことを思い遣ることのできる人……。決して飾らずに、君主というよりは民に近くて……)」

 

そう。それはまさに………

 

「(私やお姉ちゃんが目指した統治者の姿………)」

 

だからこそ義姉も彼に信を置けるのだろう。ああやって笑っていられるのだろう。

 

そして自分も………。

 

 

 

 

 

 

 

「……そう…かも……ね。それじゃ、一刀の言葉に甘えることにするね」

 

年相応の口調に、年相応の笑顔。一刀が見たかったのは、まさにこれなのだ。

 

「でも、皇族として協力できることがあればしていくよ。例えば……一刀に帝王学を教えるとか」

「て、帝王学ぅ??」

「そう。民と親身な態度を取るのもいいけど、時には“威厳”というものも見せないとっ。

 一刀ってば全然威厳がないんだもの」

「護………いきなり言うようになったな……」

 

護の口から出る鋭い指摘に、一刀の気持ちが若干凹む。指摘されずとも分かっていたことではあるが……。

 

「あははっ。“普通の女の子”として振る舞っていいと言ったのは一刀だよ?

 皇族として偉そうに振る舞ってると、言いたいことも言えないの」

 

少し微笑んで、一刀を見る。そして右手を差し出し、手を握った。

 

「…………一刀、ありがとう」

「ん?」

 

一刀は不思議そうな顔をして、護に視線を移す。

 

「一刀たちのおかげで、お姉ちゃんは……あんなにも笑っていられる。あんなに幸せそうな顔を見せてくれる。」

「護……」

「お姉ちゃんはこれまでずっと辛い思いをしてきて……皇族としての責任をすごく感じてた……。

 お父様が欲に取り憑かれてしまってからは……本当に酷い状態だった……」

 

力になれなかった自分を自嘲するように、悲しげに笑う護。

 

「だから……本当に感謝してるの。

 月たちが私たちを助けてくれたこと。

 明命が私たちをこの雍州まで導いてくれたこと。

 一刀たちが、この街で善政を敷いてくれていること…」

 

そう言って……

 

「ありがとう、一刀」

 

一刀に笑顔を向ける。あまりにも眩しいそれに、一刀は見とれる。

 

「……………」

「ん?どうしたの、一刀?」

「………い、いや……」

 

こんなに自分たちを信頼してくれているのだ。きちんと言葉を返さなくては申し訳ない。

だから、一刀も笑みを浮かべる。

 

「俺は聖だけじゃなくて、護にも笑ってほしいんだけどな。

 辛い思いしてきた分、これまでの分取り返すくらいに」

 

今度は護が見とれる番。護は頬がどんどん紅くなるのを感じた。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

私は一刀さんが考案してくれた車椅子に座りながら、護ちゃんを見ていました。

護ちゃんはこれまでずっと私を支え続けてくれた、大切な義妹。

私のせいで辛い役回りばかりさせていたと、改めて感じます。

 

 

誰よりも優しい子だから、誰よりも幸せになってほしい。

皇族なんて立場は気に留めないで。普通の女の子として、幸せになってほしいんです。

 

 

だから、目に映る光景は本当に嬉しかったんです。ずっと見ることのできなかった、護ちゃんの心からの笑顔。

それを見るだけで、私は幸せになれます。笑顔になれます。

 

 

 

 

 

でも、少し不安に思うこともあります。一刀さんは、私にもあんな笑顔を向けてくれるでしょうか、と。

最初あの人に抱いていた感情は憧れのようなものだったのに、今では淡い恋心に変わっていて……。

一刀さんは命の恩人で、烏滸がましい話かもしれません。でも………

 

「?? 聖様、何を見ているんですか?」

「あ、兄ちゃんがいるー」

「護様と話してますね」

 

それまで話していた月さん・季衣さん・流琉さんが、一刀さんと護ちゃんに意識を向けました。

3人はもちろん、多くの人が一刀さんを好いています。本当に魅力的な人だけど、とても罪な人だとも思います。

 

「お二人の所に行きませんか、聖様?」

 

月さんが笑いかけてきました。私はその問いに、笑顔と頷きで応えます。

護ちゃんの笑顔をもっと傍で見たいし、一刀さんの声ももっと聞きたいから。

 

「それじゃ行きましょー聖様っ!」

「え?ちょ、ちょっと季衣?!それは力いっぱい押すものじゃ…っ!」

「ごーーー!!!」

「っ!!」

 

季衣さんが私の車椅子を思い切り押します。そのあまりの速さに、私は両脇にある肘掛けを掴みました。

 

「兄ちゃーーん!!護様ーーー!!」

「ちょっと季衣ー!聖様が危ないってばー!!」

「へぅー!季衣ちゃん待ってー!」

 

季衣さんが押す車椅子は危なかったけれど、

必死に季衣さんを止めようとする流琉さんと月さんがおかしくて、思わず笑ってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

洛陽では考えられなかったような、暖かな日々。

皇族としての責任を果たせなかった私には、与えられるべきものではないのかもしれません。

 

 

 

 

でも。それでも、私はこの日々を手放したくないと思ってしまいます。

 

 

 

 

だからこそ、私は私に出来ることを、ここで精一杯していきたいと思います。

 

大切な友人たちと―――

大切な天の御遣い様と―――

とっても大切な、私の“妹”と―――

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

守りたい街・護りたい人―――

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「か~ずく~~ん!!」

 

溜まりに溜まった政務を一旦中断し、とりあえず一休みしようと城内を歩いていた一刀。

城壁に辿り着いた所で、頭上から声が掛かった。

 

「簓?今日は非番か?」

「午後からねー!かず君も上がってこないー?!」

 

簓が座っているのは街一面を見渡すことの出来る楼閣。気分転換には丁度いいかもしれない。

 

「分かったー。今そっちに行くから、少し待っててくれー」

「は~いっ。待ってるよー!」

 

 

 

 

別段慌てることなく、簓の待つ楼閣へたどり着いた一刀。

彼女のすぐ横に置かれた“あるもの”を見て、眉を潜める。

 

「…こんな時間から酒か、簓?」

「あ、そんな目で見ないでよー。

 私は霞ちゃんみたいに、いつもこうしてるわけじゃないよ?今日はたまたまなんだから」

 

言い訳がましく聞こえるかもしれないが、事実彼女は昼から酒を飲むことなどしない。

 

『たまたまそういう気分だった』

 

これが今の彼女にもっとも相応しい。

 

「街をね、見てたんだぁ…」

「街?」

 

楼閣から見下ろす街は、遠目から見ても分かるくらい賑わっている。

昔はさほど大きくなかったこの街も、いまや拡大・発展を重ねて大都市へと変貌を遂げた。

 

「田舎にいた時には想像できなかったなー。こーんなに大きな街で、みんなが笑って過ごしてるなんて…」

「そうなの?」

「うん。私の生まれた街だって、みんながみんな幸せってわけじゃなかったもん」

 

自分たちの街にも、貧富の差はあった。自分や千奈、明命はちょうど真ん中。

贅を為していた者もいれば、日々の生活に困窮している者もいた。

 

「だから、この街は凄いんだよー。やっぱりかず君のおかげかな?」

「そんなわけないだろ?俺は相変わらず神輿だよ。

 それこそ千奈たち軍師勢と、簓や明命たち将軍勢のおかげだよ。もちろん、街のみんなも」

 

千奈はこの一刀の人柄がたまらなく好きだった。今までの為政者では、まずありえない言動。

人の功はもちろん、自分の功ですら人の物にしてしまうような、青年の謙虚さ。

 

「(もう少し主張してもいいのになー……ま、これもかず君らしいけどね♪)

 かず君も一杯どう?」

 

手に持った杯を一刀の目の前に差し出す。

 

「あのー……俺まだ仕事中なんだけど…」

「分かってるよー。でも一杯くらいならいいじゃない?そんなに強いお酒じゃないよ?」

「うーーん……だったら…いいのかなー…」

「うんうん!大丈夫大丈夫!はい、どーぞ」

 

何だかんだで、いつも彼女に乗せられてしまう。屈託のない笑顔と、時折年上を再認識させる表情。

病弱そうな外見に反してコロコロ変わる彼女の顔に、いつも敗北する。

 

「それじゃ、頂きます」

「じゃー私もっ。杯2つ持ってきて良かったー」

 

眼下に自らが治める町並みを臨み、2人はゆっくり飲み進めた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「私ねー。結構強くなったんだよー?」

 

杯の中で酒をクルクル回しながら、簓が呟く。頬が少し赤いのは、酒のせいか……。

 

「今まで私たちって、新兵教育とか陣形の訓練が主な仕事だったでしょ?

 最近はそういうのを、部隊長さんとかに任せられるようになってきてねー」

「あーうん、たまに見かけるよ。昔からウチの軍にいた人が、ビシビシ新人の人達を鍛えてるところ」

 

視察に訪れると、その成果を如実に見ることが出来る。

その動きは実に頼もしく、正に街を支える礎となっている。

 

「でしょー?だからね、その分私とか季衣ちゃんに時間ができたんだよー。

 それで霞ちゃんや恋ちゃんと手合わせしてるのっ。もちろん、華雄ちゃんもっ」

 

酒は尚、杯の中で回り続ける。

 

「3人ともすっごく強くてねー。私はまだまだだなーってね。もっともっと頑張らなきゃーって思ったの」

 

簓は一刀の腕に頭を乗せ、体を預ける。一刀の右手の指は彼女の左手に絡まり、その柔らかさを伝える。

 

「ずーーっと……守りたいのは千奈ちゃんや明命ちゃん、それに生まれ故郷の人達だけだった。

 それ以上大きなことなんて考えられなくて……それが精一杯だって思ってた」

 

街は喧騒で賑わっているはずなのに、辺りが静まり返った錯覚に陥る。少なくとも、一刀はそう感じた。

 

「でも、かず君に出会ってからすごく欲張りになった。

 こーんなに大きな街も、たくさんの人も。みんな守ってあげたいって……そう思えるようになった」

 

一刀には、俯いている簓の表情は分からない。ただ、それが決して悲壮なものでないということは分かる。

自らが定めた目標へは、全力で向かっていく少女。それが孟子敬である。

 

「だから、もっと強くならなきゃっ。堂々と『みんなのこと守ってみせる!』って言えるようにね!」

 

そう言って一刀を見上げた簓の顔は、決して枯れることのない鮮やかな花のようで……。

 

「強いな、簓は」

 

羨ましく感じてしまった。

自分はたまに振り返り、後悔してしまう。もっと良い選択肢がなかったのでは、と。

 

「もー!分かってないなー、かず君は」

「えっと……どういうこと?」

「私は『かず君と出会ってから』欲張りになったの!かず君を見て、みんなを守りたいって思ったの!」

 

簓は頬を膨らませて一刀に直訴する。

 

 

 

 

 

「かず君がみんなを見る優しい目が好きだから……かず君がみんなといて、すごく幸せそうにしてるから……」

 

簓の頬が朱に染まる。それは酒のせいではなく……。

 

「……好きな男の子の幸せは、護ってあげたいって思うもん」

 

簓の瞳が潤む。一刀はそれに吸い寄せられるように…

 

「?? かず…んぅっ?!」

 

唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれほど時間が経ったかは分からない。長かったのか短かったのか。

時間の感覚など皆無で、ただ互いが触れ合っていることの心地良さに身を任せていた。

 

 

どちらからともなく、唇が離れる。直後に見せた簓の表情は、頬が真っ赤に染まった不満気な顔だった。

 

「ズルイ」

「な、何が?」

「口づけ……私からしたかったのに…」

「いや、簓のこと見てたらつい…」

 

頬を掻きながら視線を逸らす一刀に対し、簓は腕を一刀の首に回して、先程より深いキスをした。

 

「ぅん?!」

「ふ……んん………はぁ」

 

簓の表情はどこか小悪魔のようで、一刀の理性を惑わせる。

 

「簓……」

 

一刀はさらさらとした彼女の髪を撫でながら、望みを呟く。彼女も望んでいるであろう、より強固な繋がり。

 

「今夜……部屋に来てくれないか?」

「…………ん……」

 

それはとある日に交わした約束。

一刀はしばらくの間、簓の髪を撫で続けた。

 

 

 

 

「一刀様ー。起きてますかー?」

 

快晴の朝。元の世界で言えば、およそ8時30分ほどだろうか。朱里は一刀の部屋の前にいた。

 

「もぉ………一刀様はお寝坊さんです……」

 

反応がないということは、部屋の主はまだ夢の中ということか。

 

「一刀様ー。入りますよー」

 

実は少女たちの間では、一刀が規定の時間になっても起きてこない時は、1人が起こしに行くことになっている。

誰が行くかは当番制となっており、今日は朱里の担当となっている。

実に羨ましいシステムである。

 

 

本日の当番である朱里は、念のため“のっく”をして静かに入室する。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

幸せな朝―――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

他の部屋と何ら変わらないその部屋にいるのは、北郷一刀その人。

寝台の上で横になっている彼の瞳は閉じられ、すやすやと寝息を立てている。

 

 

「(昨日お任せした政務は……ちょっと多かったかな……?)」

 

確かに昨日、結構な量の政務を任せてしまったような気がする。

 

 

 

朱里が主に担当するのは内政。より良い民の生活を実現させることが目的だ。

だが反董卓連合解散後、この街に移住してくる人が急速に増え始めた。

大変喜ばしいことではあるのだが、それに伴う仕事が多すぎる。内政は、特に。

 

雛里が担当する軍部や、麒里が担当する諜報よりも、内政には“一刀の知識”が色濃く反映されている。

街作りには、随所にこの世界ではなかなか思いつかない仕組みが採用されており、人々の評判も上々だ。

よって、自然と一刀の裁定をもらはなくてはならない案件も多くなる。

 

それが昨日は特に多かった。資料と初対面した瞬間の一刀の顔は、なかなか忘れられるものではない。

 

「(ちゃんと全部処理してくださいましたもんね……)」

 

夜遅くに全ての作業を終わらせてくれていた。昨日は珍しく、街などに出掛けての怠業をしなかったらしい。

 

「(ありがとうございます、一刀様………)」

 

この街の主。多くの民に愛されているこの青年も、元はただの一般人。

為政者の経験などなく、普通の学生生活を平々凡々と送っていたらしい。

そんな青年が、人の生活を左右するような立場に立つということは、相当な負担になっていることだろう。

 

「(一刀様は……本当に頑張っていますよ?)」

 

内政だけではない。

戦争というものを実体験したことがない人間にとって、今の現状は相当な心労に繋がっているのではと思う。

なによりその戦に出向く人間が、自分の治める街の住民なのだ。

普段から街や軍に出向くことの多い人だから……いつも見る顔がいなくなってしまったりすれば……。

 

「(つらいですよね……)」

 

彼を祭り上げてしまったのは、他ならぬ自分たち。

この世界の右も左も分からぬ青年を“天の御遣い”として先頭に立たせ、その御旗の元に人を募った。

 

自分たちにはどうしても叶えたい夢があって………優しい世界を創りたくて……。

 

「(絶対に……叶えてみせます……)」

 

そうしなくてはならない責任がある。

 

民のためにも―――

自分たちのためにも―――

この人のためにも―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それにしても………

 

「(……可愛い寝顔…♪)」

 

こんなことを考えるのは失礼なのかもしれないが、女の自分から見ても可愛らしい寝顔である。

元々顔立ちは整っているから、当然と言えば当然なのだが……。

 

「(…………だ、誰もいない……よね?)」

 

もう少し顔を寄せる。その距離およそ30cm。

 

「(……一刀様……)」

 

その距離は徐々に縮まっていき……

 

 

 

 

 

「おはよう、朱里」

 

固定された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

「おーい。朱里ー?」

「………はわっ?!か、一刀様っ!?」

 

慌てて身を退こうとした朱里だが、なぜか動けなかった。頭ががっちりホールドされていたからだ。

 

「起きようと思ったら朱里がじっと俺のこと見てるからさ。起きづらくて……」

「はわ、はわわっ!?一刀様っ、今退きますからっ!」

「いや、退かなくてもいいよ」

「え?」

 

一刀はそう言うと、朱里の頭に手を置いたままくるりと反転する。

 

「はわーっ!?」

 

今度は朱里が下になった状態で、距離はおよそ30cm。

 

朱里の首筋を撫でながら、一刀は呟く。

 

「どうせなら、朝から幸せな気分に浸りたいんだけどな」

「ぁぅ………わ、私だってその……そうなれたらって思いますけど……」

「それじゃ、布団から出るのはもう少し後ってことで♪」

「ぁーーぅーー………」

 

 

 

 

 

結局2人が寝台を降りたのは、1時間以上経ってのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご主人様遅いね、麒里ちゃん」

「そうだね……ここ最近はずっと……」

「………もしかして…………」

「………もしかすると……………」

「で、でも昨日も遅くて、麒里ちゃんが起こしに……」

「そ、それを言ったら一昨日は雛里ちゃんが……」

「…………………」

「…………………」

「あわわわわっ」

「ふわわー……」

 

 

 

 

佇むのは金色がまばゆい短髪の少女と、栗色が柔らかな髪の少女。そして、薄紫の髪を2つに縛った少女。

 

 

その雰囲気は明らかに異質のもの。普段の彼女達からは考えられないものであった。

 

 

 

 

1人は咽び泣き。

 

 

1人は喚き散らし。

 

 

そして1人は、目の前の出来事を受け入れることを拒絶していた。

 

 

 

 

 

 

 

彼女達の足元には、横たわる体躯と鮮やかな赤。

 

天の御遣い、北郷一刀の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

窓から降り注ぐ光の雨。それは、朝の訪れを知らせるもの。

鳳士元は、これまで生きてきた中で最悪の夢を見た。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

A good dream―――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「雛里ー」

 

一刀は雛里の名を呼びながら、城内を回っていた。

先程から何度か城内で見かけるのだが、声を掛けるたびに脱兎のごとく逃げられてしまう。

そんな様子に違和感を覚えたため、気になって探しているのだ。

 

「お、恋にねね。こんなとこでひなたぼっこか?」

 

出会ったのはのんびりとひなたぼっこをしていた恋と音々音。

最近仲間に加わった2人だが、その光景は既に馴染みのものになっている。

 

「なっ、何ですか?!また恋殿に手をっ!」

「ち、違うって!というか『また』ってなんだっ!」

「全く……恋殿、油断してはなりませんぞ!」

「……人の話を聞けと……」

 

こんなやり取りも、すっかりお馴染みだ。

 

「あーもー。本題に入るぞ。雛里のこと見かけなかったか?」

「雛里?見てませんぞ。恋殿は見かけたですか?」

「…………見た」

 

意外や意外。正に予想外の答えが返ってきた。

 

「本当かっ、恋。どの辺りだ?」

「……………あっち」

 

彼女が指し示すのは、書庫がある方角だ。

 

「分かった。ありがとな、恋」

 

そう言って優しく頭を撫でる。

 

「……………うん」

「ねねも。助かったよ」

 

恋と同様に、今度は帽子越しに音々音の頭を撫でる。

 

「なななっ、何するですか?!ね、ねねは何もしてませんぞ!」

「それでもだよ、ありがと。じゃあ俺は雛里を探してくるな」

 

1人駆け出していった一刀。残ったのは少し頬の紅い少女が2人。。

 

「……やっぱり油断ならないのです…」

「……………なでなで……」

 

両者、何かしらの不満を抱きながら一刀を見送った。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「確か恋はこの辺りって言ってたけど……」

 

書庫の近くまでたどり着いた一刀は付近を捜索する。目的の影は意外に早く見つかった。

書庫の入口とは正反対な場所で見えた、三角形の帽子。逃げられないように慎重に足を運び、肩を叩いた。

 

「雛里っ」

「ひゃいっ!?」

 

摩訶不思議な発語である。

 

「どうしたんだ、さっきから。俺何かしたか?」

「………」

「何かしたなら謝るよ。だから「……ふぇ」…え?」

「ふぇぇぇぇええ!ご主人様ぁぁーー!」

「え、えっとー……どう反応すればいいんだ?」

 

抱き着かれた一刀は無意識に頬を掻きながら、思案するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が死ぬ夢?」

「はいぃ……」

 

未だに目を赤く腫らした雛里の話を聞いて、何もそこまでの反応をすることはないだろうと思った。

 

「たかが夢だろ?そんなに気にしなくても」

「うぅ……」

 

そんな一刀の言葉を聞いても、雛里の瞳は潤んだまま。表情が晴れることはない。

 

「初めてお会いした時………お話ししましたよね?夢のこと……」

 

3人同じ夢の中で、暖かな笑顔の青年と笑い合う。

それは奇跡のような、出会いのきっかけ。

 

「……あの夢のおかげで、私たちはご主人様にお会いすることができました。……お仕えすることができました」

 

あの時のことに感謝するように、雛里は呟く。

 

「……あの時みたいに……いい夢だけじゃなくて、悪い夢も現実になるんじゃって……

 そう考えたら……グシュッ」

 

潤んだ瞳が乾くことはなく、未だに涙が滲む。

 

そんな姿が見ていられなくて、一刀は左手で雛里の帽子を外し、右手で頭を優しく撫でる。

 

「心配しすぎだって、雛里は。

 大丈夫だよ。俺には季衣や流琉、簓に明命はもちろん、恋たちまでついてるんだから。

 そんなことにはならないって。………かなり情けない話ではあるけどな」

 

守られてばかりの自分がいささか情けなく感じる。

だが、それでも目の前の少女を安心させたくて、精一杯の笑顔を見せる。

 

「雛里だってついてるんだ。絶対大丈夫だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

我が主は特殊な力でも持っているのだろうか。

まるで心が押し潰されそうな、胸中に抱いていた巨大な塊は、青年の笑顔を見ただけで少しずつ霧散していく。

まるで始めからなかったかのように不安がなくなり、そのせいで余計涙が溢れてくる。

 

「ぅ……ふぇぇええ!ごしゅじんざま゛ー!!」

「だから泣くなってば。目が腫れても知らないぞ?」

 

まるで赤子をあやすように。青年は泣きじゃくる少女を抱きとめ、涙を拭う。

雛里には、泣き顔よりも笑顔が似合うから。自分自身も、雛里の笑顔が好きだから。

 

 

 

 

 

 

だから、次に発せられた雛里の願い事を、一刀は断れなかった。

 

「………ご主人様……また怖い夢見るのイヤだから……今晩一緒に寝ちゃ……ダメですか?」

「………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

その晩。彼の理性が適正に保たれたかは、定かではない。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

美酒は愛しい人と―――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「一刀様。まだ起きていらっしゃいますか?」

 

空が綺麗な黒に染まる中。未だ灯りのついた部屋の前で、少女は部屋の主を呼ぶ。

 

「麒里?開いてるよ」

 

主の声に応じて、麒里はそっと扉を開けた。

 

「失礼します」

「どうしたんだ?こんな時間に珍しい…」

 

麒里がこんな夜深くに一刀を訪れたことは、ほとんどない。実に珍しい行為だ。

 

「実は……これを一刀様とご一緒したくて」

 

そう言って、右手に提げた陶器を揺らす。中からは『ちゃぷちゃぷ』と心地良い音が流れている。

 

「もしかして……酒?」

「はい。いいお酒が手に入りましたんで、是非一刀様と……と」

「突然だね。朱里と雛里は……やっぱりダメか」

「2人にお酒は、酷な話です」

 

親友2人と酒を飲んだら、自分はフォロー役に回らざるを得ない。

せっかくの良き酒なのに、それはもったいない気がする。

 

「分かった、付き合うよ。一緒に飲もう」

「はいっ」

 

麒里は嬉しそうに笑みを浮かべて、一刀の横に座る。

 

「どんな酒?」

「少し強めのものです。一刀様、飲めますでしょうか?」

「飲んでみなきゃ分からないけど……あ、注ぐよ」

「あ、ありがとうございます」

 

一刀の何気ない優しさに、麒里の笑顔が柔らかくなる。頬も心なしか、朱く染まる。

 

「それでは……“かんぱい”ですか?」

「ん、乾杯」

 

一刀から教わった言葉と共に、小気味よい音が響く。それはささやかな酒宴の合図。

 

 

 

 

 

 

 

 

小一時間。

2人は取り留めのない世間話をしながら、酒を喉に流していた。その時。

 

「……一刀様は……この街はお好きですか?」

 

それは突然の問い。一刀の目が丸くなる。

 

「…どうした、麒里?」

「いえ、どうしてもお聞きしたくて…」

「この街か……そうだなー……」

「…………」

 

麒里は口を閉ざし、答えを待つ。

 

「もちろん好きだよ。街の人はみんな明るくて、むしろこっちが励まされてる感じで……

 未だに、自分がここの主ってことが信じられないよ」

「みなさん、一刀様の御心に惹かれてやって来た人ばかりです。これほどまでに街が豊かになったのも」

「それは違うだろ?確かに”名前”に惹かれて来る人もいるだろうけど……

 みんなが良い政をしてくれるから、この街で暮らしたいって思うんだよ」

 

麒里は思う。我が主は、自分を過小評価し過ぎている、と。

確かに『天の御遣い』の名に惹かれてこの街へやって来る者も多い。

それだけ、その“虚名”は人々に大きな影響を与えるものになった。

 

 

だが、実際この街に住み着くかどうかは、別問題なのだ。

名だけではなく、その”人”に惹かれる数の、何と多いことか。

それでも主は、自分の功を主張することはない。あくまで自分は、武も智もない人間なのだと。

 

「……みんな一刀様を慕って、日々責務に励んでいます。

 一刀様でなければ……ということを、どうか心に留めてください」

「……肝に銘じておくよ」

 

杯を傾けながら、青年に念を押しておく。それは仲間の想いの代弁でもあるから。

 

 

 

 

 

 

だが、本当に聞きたいことはそのことではない。

 

「……一刀様が元いた世界よりも、好きになってくださいましたか?」

 

視線を上げず、杯を見つめながら小さく呟く。声音に滲むは不安。

 

「………俺がいつか帰るかも…とか考えてる?」

「…………」

 

返す言葉は持ち合わせない。事実なのだから。異なる世界から来た青年。不安は自然と付き纏う。

 

「確かに未練がないかって言われたら嘘になるよ。生まれてからずっと、向こうで暮らしてたんだから」

 

生を受けてから20年弱。平和で、穏やかな日々ばかりを過ごしてきた。

特筆すべきことなど1つもない。でもとても大切だった日々。

 

「向こうにはここより便利なものがいっぱいあって、生活は不便しないし」

 

この世界では風呂を沸かすのにも一苦労だ。向こうでは生活に何等不自由しない。それに……

 

「友達や両親もいたしね」

 

かけがえのない人達がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

微かに。本当に微かに、麒里の手が震える。自分でも、震えている理由が分からない。

護るべき主はここにいるのに……愛しき人は目の前にいるのに……。

一向に震えが止まらなかった。

 

「でも……」

 

そんな些細な変化に、一刀は麒里の手を握って応える。

 

「気が付いたら、俺の周りには守りたい人ばっかりだった。

 付き従ってくれる兵士や侍女のみんな。街のみんなもそうだし……」

 

言葉を区切り、麒里を正面から見据える。

 

「麒里のことだって、護りたいと思ってる」

 

言葉はゆっくりと、彼女の心へ染み渡る。

 

「初めて会った時から麒里や朱里、雛里が描いてた夢は、俺の夢にもなってる。

 みんなが笑い合える世界を創りたいって……」

 

そうしてまた言葉を区切り、軽く腕に力を入れ………麒里を抱き寄せた。

 

「そんな世界で、麒里たちと一緒にいたい」

 

その言葉は、まるで自分に言い聞かせるように。

異なる世界からやって来た自分が抱く畏怖を、少しでも押さえ込むように……。

 

 

 

 

 

 

 

 

麒里はずっと、一刀を見てきた。仕えるべき主として。心から想う、愛しい人として。

 

だからこそ、彼の畏怖が分かってしまった。彼もまた、自分と同じ不安を抱いている。

いつか、この世界から消えてしまうのでは……と。

 

「…………私たちは、ずっとあなたのお傍にいます。何があっても、離れたりしません」

 

一刀の背中に腕を回す。

己の不安も、愛しい人の畏怖も消し去ろうと。強く、強く。

 

「それが私たちの願いなんです、一刀様」

 

2つの影は、やがて闇へと消える。

 

 

 

 

 

 

「麒里ちゃん。どうしてわたしと詠ちゃんは侍女じゃなくなったの?ご主人様の補佐もすごく楽しいけど…」

 

 

 

「ボクは今やってる軍師の方が断然いいけどね。でも確かにあのバカは、始めそれを推してたわね……」

 

 

 

「侍女の数はすでに十分……っていうのが理由だよ、月ちゃん」

 

 

 

「麒里ちゃん、十分どころじゃないよぉ。私と雛里ちゃん、断るのにすごく苦労してるんだから……」

 

 

 

「武官や文官の応募と同じくらいあるもんね、朱里ちゃん………」

 

 

 

「はぁ?武官や文官と同じって……それちょっと異常じゃない?」

 

 

 

「原因はすぐに検討がつくんだけど………」

 

 

 

「それじゃその原因を……」

 

 

 

「そうもいかないの、月ちゃん。だって原因は…………ご主人様だから…」

 

 

 

「ご主人様が?」

 

 

 

「………一刀様は度々街に出ては、色んな方々と話をしてるの。

 兵士の皆さんとか、お店のご主人とか……普通に街を行き交う、老若男女に……」

 

 

 

「とても優しいご主人様だから……そのお人柄に触れると……」

 

 

 

「一刀様と少しでもお近づきになりたいって女性が、侍女として申し込んでくるの………」

 

 

 

「…………ち○この遣いね……」

 

 

 

「え、詠ちゃん!!」

 

 

 

「「「………はぁ……」」」

 

 

 

 

 

 

 

「なぁなぁ一刀ー」

 

 

 

「ん?どうした、霞」

 

 

 

「ウチらって、ホンマに一刀の仲間になって良かったん?」

 

 

 

「え、何で?霞たちなら大歓迎だけど……」

 

 

 

「せやけど………なぁ?」

 

 

 

「北郷は小さな娘が好みで周りに侍らせていたのではないか?」

 

 

 

「ぶーーーーっ!!!」

 

 

 

「………………………………???」

 

 

 

「………恋殿、恋殿は知らなくても良いことですぞ」

 

 

 

 

 

 

三国桜に嫉妬の嵐!

 

 

 

 

答え合わせ

 

第7話:ペルソナ3ポータブル

   (友達に誘われてやったパチンコで勝ったので、お礼として買ったソフトでした。

    予想以上におもしろくてもうビックリ。おすすめです)

 

 

 

 

 

後書きという名の言い訳

 

 

 

――――本作品に関して――――

 

投稿が遅れて本当に申し訳ありません。

仕事が色々忙しかったことと、なかなかエピソードが思いつかなかったことで、

こんなにも遅くなってしまいました。

 

 

1ヶ月以上は開けちゃいけないと思いつつ作成はしていたのですが……。

 

 

 

 

そもそもこの話は道筋を立てて作られたものではありません。

 

自分の中には1、2話の構成はあったものの、その後は行き当たりばったり。

桃香たちと仲良くなったり、霞が片目を失ったり、皇族姉妹を引き入れたり………

断片的なエピソードは考えにあったのですが……。皆様の意見を取り入れたこともございました。

 

正直自分の中では『思いついちゃったから書いてみよーっと』ってな軽い気持ちで書き始めたものなので…。

事実今現在もどんな結末を迎えさせるかを決められていません。ヘタレにもほどがある……。

 

このまま失踪………なんてことも頭をよぎりましたが、

支援して下さる変たi……じゃなかった。□リコn……でもないや。読者の皆様に申し訳が立たないと思い、

筆(キーボード)を取らせていただくこととなりました。

 

投稿ペース・話のスピード・内容の展開等々に諦めのついた方のみ、これからもご支援頂ければと思います。

所詮初心者の書いた妄想ですから……過剰な期待はしてないとは思いますが……。

 

話全体としてはだいたい10話ちょっとで終われればいいかなーと思います。

 

 

 

 

――――各恋姫の拠点説明――――

 

 千奈:『いつも簓を注意する千奈でも、妄想くらいしちゃうんです』ってお話。

 明命:『猫好きなら猫にしちゃえ!』ってお話。

 季衣:『結構なグルメの季衣は、意外に料理も上手くなるんじゃね?』ってお話。

 流琉:『暴走一刀の犠牲にしてしまい、ごめんなさい』ってお話。

聖・護:『作者なりの精一杯な姉妹愛』ってお話。

  簓:『恋をすると女の子は強くなる』ってお話。

 朱里:『側近としての責任と朝這いの失敗』ってお話。

 雛里:『怖い夢を見た少女は大好きなご主人様と…』ってお話。

 麒里:『少女と青年の願い』ってお話。

 

 

最初の2つ(桃園姉妹と風稟コンビ)は一刀陣営に加わる前の話ですね。

最後の2つは完全な蛇足です。一応言っておくと月は『太守補佐』という立場です。

 

 

 

ちなみに。もう拠点は書きません。書いていたらいつまでたっても本編が終わりませんので……。

それに作者の貧困な発想力では、エピソードが浮かびません……。

 

 

 

 

 

 

 

 

それでは皆様、今回も拙作をご覧下さってありがとうございました。

次回も展開が早いと思います。おそらく皆様の想像以上です。

 

 

そんな作者ですが、是非よろしければ引き続きお付き合いくださいませ。

また次回、よろしくお願い致します。

 

 

 

 


 
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