No.137020

こっち向いてよ!猫耳軍師様! 16

komanariさん

お久しぶりです。
いつもより少し短いですが、続きが出来ました。

今回は、どちらかと言うと一刀くんのターン? な感じです。ただ、話しがあんまり進まなかったので、20話までに終わるかが段々不安になってきました。

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2010-04-18 00:26:33 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:24780   閲覧ユーザー数:21715

一刀視点

 

 荀彧が俺のために行動してくれたとわかって、そのあまりの嬉しさに、思わず窓を開けたまま一晩過ごしてしまうと言う、ある意味バカらしいことをしてしまった結果、俺は風邪をひいてしまっていた。

 そうして俺が寝込んでいる間に、荀彧が来てくれていたなんて知らないし、まさか俺の頭をなでてくれていたなんて、思いもよらなかった。

 そうして、荀彧が来てくれた後も、俺は数日間風邪で休んだのだが、ようやくその風邪からも、仕事ができるぐらいまで回復した。

(荀彧が俺を助けてくれたってことは、少なくとも、まだ俺のことを必要だと感じてくれたからだろうし。……とりあえずは、今俺に出来る仕事を頑張って、荀彧に恩返しをしないとだな)

 そう思いながら、俺は寝巻から文官の仕事服に着替え始めた。

(そういえば、荀彧や曹操さまは戻られているようだけど、荀彧は俺の政策案に目を通しておいてくれただろうか)

 滅んでしまう前に、出来るだけ俺の知識を残しておこうと思い、荀彧が赤壁に行ってしまった後も、色々と書きまとめて、それを執務室の机の上に置きっぱなしだったことを、ふと思い出した。

(……あ、そう言えば、俺、自分が滅ぶと思っていたから、夏侯淵さまに遺書渡しちゃっていたな。まぁ、赤壁で負けてしまったのなら、渡すタイミングもなかっただろうし、今度受け取りに行こう。死んでもないのに、あんなのが荀彧に読まれるなんて、恥ずかしいしな)

 政策案のことを思い出すと、それに引き続いて、荀彧へと出した手紙、と言うか遺書のことを思い出した。

(確か、夏侯淵さまは襄陽にいらっしゃるはずだから、お戻りになるのはもう少し先か。どうしよう、先にこっちから手紙を送って、あの遺書を捨ててもらおうかな……)

 そんなことを考えているうちに、仕事服へとの着替えが終わっていた。

(さて、とりあえず政策決定局の執務室に行くか。もしかしたら荀彧に会えるかも知れないし)

 そう考えると、なぜか頬が緩んでいた。

(どんな顔であえばいいんだろう。……“俺を助けてくれてありがとう!”とかって言ったら、あんたのためじゃないとか言われそうだしなぁ。でも、そう言ってくれるのもまた……)

 妄想の中の荀彧が頬を染めるのを、ニヤニヤとしながら思い描いていると、ふと部屋の外でもの音がした。

(うん? もしかして荀彧か?)

 先ほどの妄想を引きずっていたこの時の俺は、そんなことを思っていた。

 

 今にして思えば、荀彧が俺を助けるためにとった行動がどんなもので、それが周囲にどうみられるかなんて、荀彧がなぜあそこまで完璧な敗戦を行うことができたのかを知る俺だったら、簡単に想像がついたはずだった。

 けれど、荀彧が俺のために行動してくれたことが嬉しくて、荀彧が俺が滅びないと言うことを選んでくれたことが幸せで、俺はそんな簡単な想像すらできない状態だった。

 

「荀彧!?」

 妄想が少し尾を引いていた俺は、そう言いながら扉を開いた。

 

 

 

――ガチャン

 荀彧が来てくれたのかという俺の期待は、扉を開けた瞬間に俺の思い違いだとわかった。

 扉を開けた先には、俺がいた警備隊とは比べ物にならないほど綺麗な鎧に身を包んだ、美しい女性が3人立っていた。警備隊にいたころから噂は知っていたけれど、実際に見るのは初めてだった。

(そ、曹操さまの親衛隊!?)

 

 曹操さまの親衛隊は、何も女性ばかりではない。この国の軍の中でも、最精鋭と言われるだけの実力がある人たちが、集まって出来ている組織であるし、当然男性だっている。

 けれど、曹操さまの身辺警護を実際に行う人となれば話は別だ。最精鋭の名恥じない実力と、秀でた容姿をもつ女性だけが、曹操さまの身辺警護を行うことができる。それは曹操さまの趣味と言うところもあるだろうけど、女性である曹操さまが自分の私的な空間にあまり男性を入れたがらないという理由もあるようだった。

 もちろん、男性の親衛隊員が虐げられている訳ではなく、男性で能力のある人であるなら、親衛隊長である許緒さまや典韋さまの直属についたり、副長などと言った役職についたりすることも多い。

 そう言った点において、信賞必罰をうたう曹操さまは公平だ。

 しかし、印象深さなどから言って噂話にのぼるのは、曹操さまの身辺警護をする女性の親衛隊で、そう言った噂話を警備隊で散々聞かされてきた俺にとっては、親衛隊が俺の部屋に来るなんてことは、驚き以外の何者でもなかった。

 

「貴殿が北郷一刀殿ですか?」

 驚きのあまりに俺が何も言えずにいると、真ん中にいた女性が俺に話しかけた。

「は、はい。そうですが」

 先ほどまでの妄想も消えてなくなり、俺はなぜ親衛隊がここにいるのかを必死に考えていた。

(なんでだ? なんで親衛隊が俺の部屋に……)

 そうした考えが結論に至る前に、先ほどと同じ女性が俺に向かって声をかけた。

「曹操さまがお呼びです。申し訳ありませんが、我々とご同行願えますか?」

 言葉だけを見れば、とても柔らかい言葉だったけど、その声と視線から、断ることなど、到底できないものなのだとわかった。そもそも、曹操さまの命令であるなら、俺が断ることなど出来るはずもないのに、それでも先ほどのような言葉遣いをするのは、彼女が曹操さまの身辺警護をする親衛隊だからだろうか。

 そんなことを考えている場合でもないのに、あまりに突然の出来事に、俺はふとそう思っていた。けれど、そうしたことを思うのと同時に、頭の奥の方で何か不安のようなものが生まれ、それが急速に大きくなっていくような気がしていた。

 

 

 

桂花視点

 

 この前の協議の結果、私は華琳さまの直属につき、呉や蜀からもたらされる情報を分析するという仕事を行っていた。その仕事に追われてしまい、他の仕事を行うことができないほどの忙しさだった。

 いや、多少の無理をすれば他の仕事も出来たと思う。特に政策決定局の仕事、つまりは一刀の政策案を添削することなどはやろうと思えば出来た。けれど、華琳さまからの命令で、その他の仕事に手を出すことは出来なかった。

「今は時期が時期だから、他の仕事については他の者たちに任せておきなさい。桂花には桂花しか出来ないことがあるのだから、今はこの仕事に集中してちょうだい」

 華琳さまのおっしゃることはもっともだ。この時勢にあって、他の仕事をしていたから、判断が遅れましたなどと言うことはあってはならない。それに、文官たちの質も、私がこなしていた仕事を分割して割り振ることができるぐらいはあった。

「それに、三軍師に頼り切ってしまっては、今よりももっと軍事に集中しなければいけなくなった時、国の政治が滞ってしまう。そうならないように、今のうちから、こうしたことも試しておかないといけないでしょ?」

 先ほどのお言葉を聞いて、少し考え込んでいた私にそう付け加えた華琳さまに、私はうなずくしかなかった。

 けれど、一刀の事が気になるのは変えようがなかった。赤壁の戦いで一刀が滅びないように努力をしたのに、これからの行動によって一刀が滅んでしまっては意味がない。そうならないようにするには、ちくいち一刀の様子を観察する必要がある。

 それに、一刀に会いたいと言う気持ちも少しはあった。あいつのために苦労したのだから、それに対してのお礼とか、真名を呼んだことに対する謝罪とかを言わせてやりたかった。

(とにかく、今は自分の仕事をしっかりやらないと。一刀のことも気になるけど、基本的にはあいつの知っていた歴史から大きく変えなければいいはずだし、今華琳さまの信任を失うわけにはいかない……)

 そうだ。私は一刀が生き残ることと、華琳さまに天下を取って頂くことを両立しようとしているのだから、一刀だけを気にしてはいられない。華琳さまに信任をいただいている以上、それに応えるだけの働きをしなければならない。そうでなければ、あの時の私の決意が無意味になってしまう。

 

 その時に私はそう思うことで、自分のした行動の責任を取ろうとしていた。けれど、そうであったからこそ、私がそうしている間に、一刀のおかれている状況が大幅に変化したことに気がついていなかった。

 

 

 

一刀視点

 

「お入りください」

 親衛隊の人たちに連れられて俺が来た部屋は、城内の中でも離れになっているような場所の中の一室だった。

 歩いてきた廊下からふと横を眺めれば、生い茂る木々や、手入れの行きとどいた庭園が見え、ここが一介の文官が立ち入れるような場所ではないことが良くわかった。

(国の高官が住んでいる棟か? でも、荀彧や夏侯淵さまの部屋がある棟とは違うみたいだな)

 そんなことを考えていたが、入室を進める親衛隊に怪しまれても困るので、俺は素直にその言葉に従った。

――バタン

 俺が部屋に入ると、続いて親衛隊の人たちも入って来て、3人目の人が部屋の扉を閉めた。

 扉が閉まるのを確認してから、先ほど俺を部屋に入るように勧めた人が、俺に言った。

 

「北郷殿、貴殿にはしばらくの間ここで生活していただきます」

 

 その言葉を聞いた時、俺は軽いパニックに陥った。

(こ、ここで生活!? 曹操さまのお呼びってことだったから、前と同じような感じだと思ってたのに……。てか、ここって明らかに俺みたいな文官が生活できるような部屋じゃないだろう!)

 先ほどの庭園もそうだけど、この部屋の中もかなり豪華なつくりだった。彫り物が施された寝台、きらびやかな装飾の置物、それに、大きな鏡のついた鏡台。そう言った内装を見る限り、さぞかし身分の高い女性が生活するためにつくられたであろうこの部屋で、一介の文官であるこの俺に生活をしろと言うなんて、明らかにおかしな話だった。

 そうして俺が混乱していることに、気付いていないかのように、親衛隊員は話をつづけた。

「曹操様は、貴殿と直接お話がしたいと仰せです。しかし、現在は蜀や呉への対応を決めねばならず、曹操様は貴殿に会う時間をつくることが、非常に難しい状況にいらっしゃいます」

 混乱が収まらない俺は、頭の中に浮かんでくる疑問をどうにか押さえつけて、より多くの情報を得ようとその話しに集中した。

「そこで、特別にこの部屋を用意しました。ここであれば、曹操様に少しでもお時間が空いた時に、貴殿と面会することが可能です」

 親衛隊員はそこまで話すと、一度間をおいた。そして、じっと俺の様子を観察するように眺めてから、また口を開いた。

「何か質問はありますか?」

 親衛隊員の言葉に、俺は少し考え込んだ。

 ここで変なことを聞いて怪しまれるよりも、一度時間をかけて考えをまとめた方がいいのではないだろうか。前回曹操さまに呼び出された時は、前日に荀彧からの話しを聞いていたし、呼びに来たのが夏侯淵さまであったこともあって、なんとか乗り越えることができたけど、今回はそうした準備をする時間を与えられていない。

 実際、今自分に何が起こっているのかわかっていない状態で、変なことを言ってしまう可能性もある。

(荀彧とかなら、この部屋に連れてこられるまでに状況を整理して、それなりの情報を引き出そうとするんだろうなぁ)

 そんなことをふと思いながら、俺は質問する意思がないことを、首を振ることで示した。

「そうですか。では、何か用がありましたら、外にいる者に伝えてください。可能な限り対応いたします。それでは」

 そう言って礼をすると、親衛隊の人たちはクルりと回れ右をして、部屋から出て行った。

 

 

 

(さて、どうしたものかね)

 扉が閉まるのを確認してから、俺は部屋の寝台に体を投げ出した。

――ボフンっ

 日ごろ俺が使っている寝台とは比べ物にならないくらいふかふかで、まるでスウィートルームのベッドのようだった。ただ、現代にいた時にスウィートルームに泊まったことなどないから、実際のスウィートルームのベッドがどれくらいフカフカなのかは知らないけど。

 そうしたことが、自分がここにいるのがいかに不自然であるかを、実感として俺に伝えていた。

(とにかく状況を整理しなきゃだな)

 寝台の横にある窓まで這っていき、外からばれないようにそっと覗いた。

(窓の外には2人か)

 やはりと言うべきか、窓の外には親衛隊の兵士が2人立っていた。

 先ほど、何か用があれば外にいる者に伝えろと言われたから、きっと扉の外にも兵がいるんだろう。

(とりあえず、俺はここからは出られない……と)

 条件を確認していくかのように、俺は頭の中でそうつぶやいた。

(問題は、なんで俺が曹操さまに呼び出されたかと言うことだ。荀彧がらみだと言うことは確かだろうし、前回の謁見の時も、“また話しをしよう”的なことを言われた気がするけど、それがここまで大事になるなんておかしい)

 俺はそこまで考えてから体を起した。

(状況が前回の時のままなら、今回の出来事はおかしい点が多すぎる。じゃあ、そのおかしな点の原因は何なのだろうか。前回と今回で決定的に違うことは何か)

 窓から差し込む日差しが、部屋の空気を緩やかに暖めていくのを感じながら、前回の謁見から今までに起こった出来事を思い起こした。

「……赤壁」

 そうだ。前回の謁見の時と決定的に違うことは、赤壁の戦いがあったことだ。

(赤壁の戦いで曹魏が負けたこと。それが前回との違い。じゃあ、その負けが俺にしめすものは何なのか)

 “負け”と言う言葉が頭に残った。

(赤壁での負け。俺の知る歴史通りの出来事……。俺の知る通りの)

 先ほどの“負け”という言葉に引き続いて、今度は“知る通り”という言葉が頭に残った。

(知る通り? ……そうだ。荀彧が俺を守るために、負けを演出したんだ。だから今俺はここにいる)

 そのことが初めて解った時は、あまりの嬉しさに一晩中夜空を眺めていて、そのせいで風邪をひいて、つい先日まで寝込んでいた。

(あの時は、嬉しさに舞い上がっていたけど、冷静に考えてみれば、荀彧はかなり強引なことをしたんじゃないのか?)

 部屋の中は決して熱くないのに、なぜか額に汗が浮かんできた。

(負けただけじゃない。被害を最小限に抑えて負けたんだ。本来なら受けてしまう被害を抑えるために、荀彧は行動を起こしたんだ!)

 ことの重大さが段々とはっきりしてきて、額の汗がどんどん大きくなっていった。

(本来起こるべきことを無理やり変えたんだ。その行動が自然に行われるわけなんてない! まして、曹操さまならその行動の違和感に気付かないはずなんて……)

「……ない」

 粒になった汗が、頬を伝って寝台に落ちた。

 

 

 

華琳視点

 

 北郷一刀を押さえた。

 桂花にはこちらの仕事以外をさせないようにしているから、北郷がいなくなっていることに気がつくまでもう少しかかるだろう。

「それに気付いたとしても、どこにいるかをつきとめるまでに、また時間がかかるはず」

 そうだ。仮に桂花が北郷の不在に気がついても、北郷がどこにいるのかわからなければ、二人は会うこともできない。

(二人に会われて、変につじつま合わせをされては、真実が見えなくなってしまう。それは避けなければならないのよ。そうでなければ、真実が解らなければ、私は桂花を信じられなくなってしまうのだから)

 そうだ。これはあくまで真実を知るための方法。あの桂花がなんであんな行動を起こしたのか。北郷の政策案に、なんであんなことが書いてあったのか。それら全てを知ることが、今私が抱いている桂花への疑念を晴らすために必要なことだと思うから。

(そうよね、桂花。私はあなたを信じたいのよね?)

 死ぬ覚悟で私を試し、そして見事に私の信用を勝ち得た我が子房。同時に、私が女性として愛する大切な娘。

 時には内政で、時には軍略で、時には閨で、私を満足させてくれる可愛い桂花。

 その桂花に名を呼ばれる男、北郷一刀は果たして何者なのか。

「全てを曝してもらうわよ。北郷一刀……」

 私は“ろ過による浄水について”と言う題の書簡に書かれた男の名前を、静かになぞった。

 

 

 

あとがき

 

 

どうもkomanariです。

どうにか月一更新から隔週更新ぐらいまでには戻したいなぁと思いつつ、なかなか投稿出来ずに、いつの間にか4月も中旬になってしまいました。

 

さて、今回のお話なんですが、いつもよりも2000字ぐらい短いです。

理由はと聞かれると、ちょうど区切りが良かったからとか答えようがないのですが、物足りなさを感じた方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません。

内容的には、華琳さまが行動を起こし、一刀くんが状況に気付き、桂花がけじめをつけようと頑張り……な感じでしたが、いかがだってででしょうか?

 

前書きにも書いたのですが、今回区切りがいいからと言っていつもより少なめにしたのと、話しの内容があんまり進まなかったために、予定していた20話以内での完結が難しくなってきました。

「またかよ<`~´>」と思われる方もいらっしゃるとは思いますが、どうにかしてちゃんと終わらせたいと思っていますので、ご容赦願います。

 

と、まぁそんな感じなのですが、今回のお話を少しでも楽しんでいただければ幸いです。

それでは、また次回にお会いできますことを……

 

 

追伸

今期のアニメに良作が多すぎて困っています。

どうすればいいでしょうか?


 
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