No.135874

葉月クルミの悩み事

アツアギさん

冬の合同誌に寄稿したモノですので、尺は短めになっています。

夏のある日――。
体育の授業の準備体操をしている遥は、前の晩に出動したツインエンジェルの仕事でクルミの様子がおかしいことに気が付いた。彼女は葵に相談をして、クルミの悩みを解決するために奔走する。

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2010-04-11 23:01:40 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1361   閲覧ユーザー数:1343

 

 太陽は頂点から地面を焼き、毎日飽き足らず蝉が息を合わせるかのように鳴いていた。

 水泳部員の水無月遥にとって、この夏が一年の中で一番好きな季節である。

 プールは程よい温度で熱せられた身体を冷ますし、何より水の中で汗を掻くのが気持ちいいからだ。プールが気持ちのいい季節に、泳がないなんて勿体ない。そんな風に思う遥は、毎日のように部活で汗を掻き、体育の授業でも妥協せずに泳ぐのである。

 そんな彼女が、体育の準備体操で上の空なのは非常に珍しい事。

 これもそれも、昨晩のツインエンジェル出動時に感じた違和感からだった。

「ねー葵ちゃん。夜のお仕事の時、クルミちゃんおかしくなかった?」

「な、何がです?」

 遥に聞かれて答えるのは、一緒に柔軟をしている神無月葵である。

 神無月財閥の孫娘で、遥と共に天の遣の力を駆使して、ツインエンジェルとなり、夜に跋扈する悪の組織と戦っている少女である。弓道は得意なのだが、基本的に運動全般が苦手で体育の授業はあまり好きじゃない。体育の授業が憂鬱でも授業に勤しんでいた。

 葵の背中をグイグイと押しながら、遥はもう一人のツインエンジェルの事を口にする。

「最近のクルミちゃん、ツンツンしてるじゃん。わたしが失敗した時も、大体怒った後色々アドバイスくれるけどそれが無いんだよ。デレデレが無いとツンデレじゃないよ?」

「何が、言いたいのか、良く、分かりませんが……」

 遥が心配するのは、イタリアの聖ベルナルディ学園から来た葉月クルミの様子である。

 弱冠十一歳の天才少女の彼女は、ツインエンジェルの補佐を務めるため、イタリアからやってきた帰国子女である。普段は、何かと突っぱねる性格をしているが、それは相手の事を想ってのことで、突っぱねた後にフォローする姿は、ツンデレの顕現である。

 そんな彼女は、最近フォローを忘れたかのように、ただ怒るばかりなのだ。

 遥にとって、フォローが無い怒気というのは、西条女史を思わせて気が休まる暇もないことと同義。何とか、デレデレを取り戻してほしいと思う彼女である。

「クルミちゃん、どうしたのかな」

 遥はやよいに取材という名目で拉致されて、一緒に柔軟体操をしているクルミを見る。

 身体が硬いのか、柔軟体操で悲鳴を上げているクルミの表情は、どこか虚勢を張っているように見えた。何かを心に仕舞って、それを見透かされないように隠しているような感じだと遥は思った。

 普段、鈍感な彼女がこれに気がついたのは、夜の仕事を終えてからの対応の変化だった。

 毎度の如く、しましまパンツの普及のため、クルミを脱がそうとしていた遥だった。

 クルミが来た頃だったら、頬を赤らめながら「何するのよ!」と何かと接してくれていたのだが、ここ最近は「うるさいうるさい」と突っぱねられたままなのだ。さすがの遥でもおかしいと感じたのだった。

 このままではクルミがツンデレではなく、ツンツンになってしまうと危惧する遥である。

 うーんと、空っぽと自覚している頭で考えられることは一つ。

「何か悩み事でもあるのかな?」

「あの、遥さん? 私の悩みも聞いてもらえますか?」

 何か魂を口から伸ばし、葵は至極平坦な声を上げていた。

「ど、どうしたの葵ちゃん! そんな絶望したような声出して!」

 クルミに続いて葵までもかと、ツインエンジェルの危機を感じる遥。

「え、ええ。わたしはもう……駄目かもしれません」

「何言ってるんだよ! わたしだけじゃ、ツインファントムに勝てないよ!」

「後はよろしく…………お願いします」

「葵ちゃん!」

 葵はプールサイドに、バタッと倒れた。

 そこで遥は彼女を起こそうとして、ハタと気が付く。

「あ……柔軟で押しすぎた?」

 時すでに遅し。

 悩みに捕らわれていた頭は他のことが考慮に入らず、無意識に背中を強く押していた。葵の限界点を越えるほど強く。

 その結果、弓道部とはいえ硬い身体が悲鳴を上げたのだった。

 

 

 遥と葵は、学園の中庭に居た。

 昼休みになれば、三人で弁当を持ちあって交換し合うのだが、今日はここにクルミの姿は無い。何やら中庭は蒸し暑いやら、食欲が無いやらと二人を突っぱねて、遥が持ってきていたサンドイッチと、葵の切ったウサギ型リンゴを掴んで一人何処かに消えてしまったのだ。

 しかし、それを残念がる雰囲気もなく、遥は黒い邪な笑みを浮かべていた。

「でも、それがいい……」

「……何がいいんですか?」

「これで葵ちゃんと秘密の会議ができるからだよっ!」

 両手に拳を握ってガバッと起き上がる遥に、葵は弁当の中身をひっくり返しそうになる。

「クルミちゃんに元気を出してもらう方法を考えるよ!」

「えっと……そっとしておいた方がよろしいのではないでしょうか?」

 幼いながらもクルミには色々な悩みがあるはずだ。それを根掘り葉掘り聞くのは気が引ける葵である。あまりプライベートな場所に土足で踏み入るのも良くない上に、余計クルミが心を閉ざしてしまう可能性もあった。

 しかし、対して遥はそんな気にしてない様子で、

「え? でも元気になってほしいじゃない?」

「それはそうですが、プライベートに立ち入るのは……」

 葵は相手の気持ちを尊重して、いかにも恐縮そうにするが遥は我関せず。

「でもさ。クルミちゃんがこのままツンツンだったら危ないよ?」

 キャラ崩壊的な意味でと、心の中で付け足しするが葵には理解できていない。

 しかし、遥の思惑とは別に、このままだと危ないなとは葵も思っている。

 ツインエンジェルの仕事と言うのは、三文芝居のようであって実は命の危険も多い。

 ブラックオークションは、自動操縦型のロボを駆使して快盗天使の排除を試みていたし、新しい敵であるツインファントムに至っては雷撃を使って攻撃してくる。

 クルミに何か蟠りがあるのは明らかで、心がツインエンジェルに向いていなければ、自分の身を危険に晒してしまうのだ。幼くも聡明であるクルミであっても例外じゃない。天才だからこそ、逆にそうした風穴で全てを失ってしまう。

「確かに、このままじゃ危なそうですね……」

 お互い違う見解だとは露知らず、遥と葵はお互い頷き合った。

「よし決まり! んじゃ、放課後クルミちゃんを尾行しよう!」

「そうですね。放課後にクルミさんを尾……っ? 尾行!?」

 何やら不穏な単語に、葵は眼を丸くするが遥は至って本気の様で、瞳に力があった。

「だって、クルミちゃんは絶対に尻尾出さないもん。耳は出してるけど」

「そこまでして、悩みを解決させてあげるべきなんでしょうか?」

「だって、ツンツンだよ? どこに需要が……」

「誰に向かって話しているのか解りませんが、尾行はちょっとよろしくないのでは……」

 このままでは快盗天使が、探偵天使になってしまう。

 ブラックオークションのアジトを探す時に尾行はよくするのだが、それは敵を倒すためであって乙女の心に踏み入る為ではない。三人がお互いの気持ちを理解して仲良くしていないと、もしもの時背を預ける事ができなくなる。そうなれば、ツインエンジェルというグループが壊れてしてしまう。

 そういう事からも、プライベートを踏みにじるような行為はしたくない。

「クルミさんが話してくれるまで待ちましょう」

 そう、本当に苦しくなったら、クルミから話してくれるはずだ。

 それがお互いの信頼関係であるし、ツインエンジェルはその三人の絆の強さが力になる。ツインファントムを追い払えるのも、三人が三人でお互いを疑わずに信じるからなのである。

 血が繋がっていなくても、姉妹以上の信頼関係――それがツインエンジェルの強さ。

 だから、葵はクルミを信じて話してくれるのを待つ。

「……葵ちゃん。わたし感動したよ。そこまでツインエンジェルのこと考えていたなんて」

 遥は瞳を潤わせながら、とある身体の一部(胸)が福与かな葵に抱きついた。

 というわけで――――

「聖チェリーヌ学園に馴染みのある駅前の商店街に来ています」

 遥にナレーションをされて、葵は目を点にして配らせると確かにそこは商店街だった。

「え? さっき中庭に居ませんでした? 何でいきなり飛んできているのですか? その前に、感動したから、尾行を止めるんじゃなかったんですか?」

「質問は一つずつにして欲しいなぁ。全部一気に回答すれば、容量の関係です」

「遥さん。先ほどから誰と話しているのか解りませんが、容量の関係とは……」

 コンビニの立て看板に隠れながら、遥は葵に人差し指を突きさして言い放つ。

「察してください」

「……はい」

 遥と葵は身を隠しながら、ブロックが敷き詰められた路上を覗く。放課後の雑踏の中、クルミが一人で何処かに向かっている姿が見える。

 実は帰り際に、一緒に帰ろうと誘った二人だったが、用事があるという事でクルミに断られていたのだ。これが遥の尾行魂に火を付けた原因である。

「どこに向かっているのでしょうか?」

「さー。クルミちゃんの事だから、きっとペットショップだよ」

 猫が大好きだし! と遥は同士の意気込みにウンウンと唸っていた。

「あ、クルミさんが路地を曲がりましたよ!」

「右だよっ!」

「はいっ…………って遥さん! どこに行こうとしているのですか!」

 一瞬の迷いもなく断言をした遥に従って、右に曲がろうとしていた葵は急ブレーキ。

「え? 何のこと?」

 遥が足を向ける先には道が無い。あるのは建物の壁で、自動ドアが備え付けられていた。

 商店街に立ち並ぶ一つの店舗で、看板にはランジェリーショップと書いてある。

「しましまパンツが助けてって呼んでいるんだよ! わたしが買わなくて誰が買う!」

「クルミさんの悩み解決の方が重要です!」

「おお、とうとう葵ちゃんも尾行を肯定したね」

「遥さんがクルミさんの気持より、しましまパンツに興味があるなんて失望しました」

 葵は怒りながら、クルミが曲がった道を進んでしまった。

 遥は仕様が無く、しましまパンツの助けを聞かなかったフリをして、葵の後を追う。

 クルミはまだ他の路地を曲がっていなかったようで、すぐに背中を見つける事が出来た。特徴的な自動猫耳を付けている少女は、日本中探しても葉月クルミ唯一人だろう。

「あ、クルミちゃんがまた路地を曲がったよ!」

「左ですっ!」

「おっけー ……って葵ちゃん! どこに行こうとしているの!?」

 一瞬の迷いもなく断言をした葵に従って、左に曲がろうとした遥は急ブレーキ。

「え? 何のことでしょう?」

 葵が足を向ける先には道が無い。あるのは建物の壁で、手動ドアが備え付けられていた。

 商店街に立ち並ぶ一つの店舗で、看板には激辛カレーショップと書いてある。

「激辛チャレンジが猛者を求めているんです! 私が食べなくて誰が食べるんですか!」

「クルミちゃんの悩み解決の方が先だよ!」

「十分……いや、一分で食べきれば間に合いますっ!」

 普段お淑やかな葵にしては珍しく取り乱していたが、単純な力の差は遥に軍配が上がる。

 天の遣としての使命を受けて産まれた葵だが、彼女にとってまた激辛チャレンジも使命。そう信じてやまない彼女は暴れるが、遥は力に物を言わせて身体を抑えつけると、葵を激辛カレーショップから引き剥がしてクルミを追った。

 そして、クルミは路地を曲がらず、そのまままっすぐ歩いてとある場所で止まった。

「中だよっ!」

「中ですっ!」

 クルミがファンシーな店の自動ドアへと入って行ったのを見届けてから、遥と葵は何食わぬ顔で目の前の通りを歩いて、その店の看板に書かれている文字を読み上げた。

『本場のイタリア! イタリアンジェラート専門店?』

 クルミは店内のレジで、何かケース内にあるアイスを指さしてからエンジェルボムと同じデザインの財布を取り出して支払いをしていた。店員からカップに入ったジェラートを受け取ると、笑顔で受け取っていたが店外のテラスに向かう表情は優れない。

「って、これじゃ尾行がバレるよ!」

「どうしましょう。クルミさんにばれたら……ツインエンジェル崩壊?」

 オロオロとしていたところで解決しないのは解っているが、近くには隠れる場所は無い。

 しかし、ここで走って逃げ出したら、クルミが逆に気が付いてしまうだろう。まさに八方塞がりと言う状況で、ツインエンジェルを結成してから最凶の場面を迎えたと慄く二人。彼女たちは、真夏なのに背筋を凍らす想いをしていた――その時、

 

「美しき乙女たちよ! この仮面を付けたまえ」

 

「み、ミスティナイト様!?」

 声は確かにミスティナイトだったのだが、その姿は何処にもなかった。しかし、遥と葵が路面を見下ろすと、ミスティナイトが愛用している仮面が二つ置いてある。

 ゴクリ――。

 二人は唾を呑みこむと、藁をも掴む想いでその仮面を手に取って装着した。

 クルミは、遥と葵が仮面を被って陣取ったテーブル席のほど近くに腰を据えた。

 木のスプーンでカップに入ったジェラートを掬って、口には運んで溜息を吐く。

「はぁ……ダメねぇ」

 遥と葵からすれば、こんなパラソルじゃ防げないほどの熱射線を受けつつ食べるジェラートほど、美味しい物も無いと思うのだが、クルミからすればそうではないらしい。

「くそぅ……わたしもジェラート食べたい」

「はい……私も食べたいです」

 冷たそうなジェラートを恨めしそうに見ながら、彼女たちはクルミの発言に耳を傾ける。

 そんな中、クルミから放たれた一言に二人は耳を疑った。

「イタリアに帰りたいわ……」

 思わず立ち上がりそうになった遥を、葵は机に押させつけながら口元でシッと言った。

(遥さん! クルミさんにばれてしまいます!)

 遥は眼をまん丸にしたまま、葵に耳打ちするように口元を近づけると声を小さくして、彼女が考え付いたクルミの悩みを口にした。

(ほ、ホームシックなのかな?)

(いえ、クルミさんは帰国子女のはずなので、日本がホームタウンなのではないでしょうか)

 そんなお姉さま達の不安を他所に、クルミは日本のとある物に愚痴を漏らした。

「日本のはダメね。イタリアのジェラートが食べたい……」

 クルミは食べ終わったカップをゴミ箱に入れると、意気消沈をしたまま商店街へと消えていった。遥と葵はそれを追おうとはせずに、二人して黙考していた。

 クルミの悩みは、二本でイタリアンなジェラートに出会えないということだった。

 聖ベルナルディ学園に在籍時に、友人と共に食べ歩いていたのだろう。それを考えれば、本場と、真似た日本では色々味に違いがあるのかもしれない。

 口元に手を当ててそのことを考えていた遥は、携帯のフリップを開いて画面を見た。

「ねぇ葵ちゃん。クルミちゃんの誕生日って、八月三日だったよね」

「ええ。あと、一週間で……あ!」

 二人は笑顔になって、お互いが考え付いた事を確認し合った。

「二人でクルミちゃんに、イタリアンなジェラートを作ってあげようよ!」

「ええ。作ってあげましょう!」

 

 

 そうと決まれば早い。

 神無月家の執事である平之丞に頼み、イタリア現地のジェラート本と旅行ガイド、本場の材料に加えて調理具を整えると、学校が終わってから台所で二人の奮闘が始まった。瞬く間に一週間が過ぎて、神無月家で行う予定にした誕生日会当日がやってくる。

「葵お姉さま、この度は誕生会を催していただき、ありがとうございます!」

「クルミちゃん、わたしも主催者なんだけどー」

「ありがと、馬鹿遥」

「むっ。わたし怒っちゃった! しましまパンツ履かせちゃうからね」

 眉を吊り上げて怒る遥とクルミがギャアギャアと喚いている傍らで、葵は平之丞に持ってくるよう頼んでいた。

 しばらくすると喚き飽きたのか、遥とクルミが肩で息をしながらお互いを睨みながら、プンとクルミはソッポを向いて葵を呼んだ。

「葵お姉さま。馬鹿遥と遊んでいたら、お料理が冷めてしまいます。早く始めましょう」

 葵は料理を促されて、困ったような笑顔を浮かべると、

「ごめんなさい。お料理の準備はしていないの」

「えっ……」

 遥とのじゃれ合いで熱せられていたクルミの顔が、氷でも投げ込まれたように沈んでいく。

 顔を床に落としたクルミの耳は、へたり込む様にシュンとしていた。それもそうだ。誕生日会に呼ばれたのに、食事もケーキも何もないのであれば弄ばれたと思うのは当たり前。

 そんな消沈したクルミの前に、二本の手が伸びる。

「クルミちゃん。お誕生日おめでとう」

「クルミさん。お誕生日おめでとうございます」

 クルミが顔を上げた先にあったのは、シュガーコーンの上に乗ったジェラート。

 イチジクの赤とヨーグルトアイスの白が合わさる紅白のジェラートを持つのは遥。

 レモンの黄色とプルーンの紫色のアイスが合わさったジェラートを持つのは葵。

「これ……」

 クルミは、ただ呆然とその二つのジェラートと二人の笑顔を見る。

 遥は照れたように笑うと、

「クルミちゃんは、美味しいジェラートを食べられなくて落ち込んでいたんでしょ? だからわたしたちで作ってあげることにしたの」

 キョトンとそれを聞いていたクルミは葵を見るが、彼女は苦笑いを浮かべるだけだ。

「し、知ってたの? ジェラートのお店回ってる事……」

「あまりいい方法で知ったわけじゃないですけどね」

 葵はジェラートを持つ反対の手で、クルミの頭を撫でる。

 そんな微笑ましい光景の中、あわわわと目を丸くして慌てる遥の声が部屋に響く。

「あぁあああ、溶けちゃうよぉ! クルミちゃん早く食べて!」

 慌てた遥は、溶けそうなジェラートを思わずクルミの口に押し込んだ。

「ふ、ふごっふもふもっふ!(な、なにすんのよ馬鹿!)」

 口に突き刺さったジェラートを抜き取ると、酸欠気味な肺に大きく空気を押し込んだ。

「何、慌てているのよ! こんないきなり食べたら味なんて解らないでしょっ!」

 フンとソッポを向くクルミに、遥は太陽のように笑いながら聞いた。

「おいしい?」

 クルミは片目を薄らと開いて、

「ふん……イタリアで食べたジェラートの方が何倍も味が良かったわよ」

 ぇえ! と、涙目になりながら女の子座りになってうな垂れる遥。

 そんな遥の前に立ったクルミは、ジェラートを舐めながら片手を腰に当て見下ろした。

 ソッポを向くその顔。そこには、朱色が差し込んでいた。

 

「でも、これだけ味が濃くて、美味しいジェラートを食べたのは初めてよ!」

 

 フンとさらに明後日の方向にソッポを向いたクルミに、遥は思わず抱きついていた。

 こうして悩みが晴れたクルミの活躍もあって、今日もブラックトレーダーの企みを潰していくツインエンジェルである。

 そして、蒼穹が広がる暑い夏の季節。

 夏休みに入った三人が向かうのは、とある街のジェラート店。

 そこには、購入したイタリアンジェラートを三人で騒がしく突き合う姿があった。

 

 

 
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