とある昼下がりの事。
「まったく、手古摺らせおって・・・・ほれ、後は任せたぞ」
「はっ!!有難う御座いました」
『酔っ払った男性が街中で暴れている』
警邏の最中に民衆からそのような報告を受けた祭は兵達よりも先に現場に辿り着くと、既にその場は大騒ぎとなっていた。
酔いで顔を真っ赤にした男性二人は罵詈雑言を繰り返し、様々な物が飛び交い、周囲の人々は少しでも被害から逃れようと互いを押し退けるようにその場を離れようとしていた。
その様子に呆れながらも二人の間に入って一喝にて正気に戻した後、一撃ずつ当身を喰らわせて騒ぎを鎮めたのがつい先程の事。
祭は駆け付けた警備兵達に男性二人の身柄を引き渡すと踵を返し、再び警邏の続きに戻ろうとして、
―――――ぇぇぇぇん
「・・・・ぬ?」
ふと妙な声が耳に届き、祭は足を止める。
辺りを見回し、行き交う人の群れの中に目を凝らしてみると、
「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
「・・・・あれか」
道の端に顔をくしゃくしゃにして泣いている少女が見えた。
先程の騒ぎに怯えたか。
それとも逃げ惑う人々に巻き込まれて怪我でもしたか。
「むぅ・・・・」
放ってはおけない。
子は国の宝。
蔑ろになど出来はしない。
しかし、
「子供、か・・・・」
祭は正直子供の相手が得意ではないのである。
日本には『泣く子と地頭には勝てぬ』などと言う諺があるが、祭の場合は正にその通り。
泣きだした子供には手がつけられない。
言葉は通じないし、周囲も釣られて泣きだす事も少なくない。
普段から子供と接しているならばまだしも、当然ながら祭にはそのような経験は皆無に等しく、
従って、このような時の対処法など知る訳も無い。
「じゃが・・・・」
辺りを見回してみる。
駆け付けた警備兵達は後処理に追われ、こちらに手を回せるようには見えない。
周囲を見回してもこの子の保護者らしき者は見当たらない。
「・・・・・・・・儂が相手をしてやるしかなさそうじゃな」
『はぁ』と一つ溜息を吐いて、祭は諦めたようにその子供へと歩み寄って行った。
「・・・・ん?」
「びゃくやさん、どうしたの?」
ふと立ち止まった白夜に、左手を引いていた舜生は不思議そうに振り返り、首を傾げながらその顔を見上げる。
舜生親子の食事処で昼食を済ませた白夜は舜生と一緒に南陽の街を散策していた。
以前の黄巾党の事件から暫しの時間が経った今も白夜は度々あの店に足を運んでいる。
そして食事を終えると集まって来る舜生の友達に物語を語ったり『達磨さんが転んだ』や『助け鬼(またの名をドロケイ)』等の遊びを教えたり、逆に店の常連客の色々な話を聞いたりするのが最近の楽しみになっていた。
閑話休題。
その散策の途中、急に辺りを行き交う気配が多くなった事に白夜はふと疑問を抱いた。
(ここらで何かあったんでしょうか?)
「どうしたんだ、びゃくやのに~ちゃん?」
「おべんじょいきたいの?」
周囲の子供達がYシャツの裾やズボンをくいくいと引っ張りながら尋ねる中、白夜は通行人の一人を呼び止めて、
「あの、済みません。ちょっと、いいですか?」
「み、御遣い様っ!?はいっ、何でございませう!?」
「(・・・・『せう』?)この辺りで、何かあったんですか?」
「え、ああ、さっきまで酔っ払った男性二人が喧嘩してたんです。結構な騒ぎになったんですけど、直ぐに黄蓋様が来て鎮めて下さいました」
「そうだったんですか、有難う御座いました。済みません、態々呼び止めてしまって」
「い、いえいえ、こちらこそお話出来て光栄です!!し、し、失礼しますっ!!」
『きゃ~~~~』とドップラー効果を残して、通行人は去って行った。
「・・・・何か急用でもあったんでしょうか?」
『悪い事しちゃいましたかね?』と白夜が頭に疑問符を浮かべているその下で、
「あのおねえちゃん、おかおまっかっかだったね~」
「びゃくやのに~ちゃんにみとれてたんだろ」
「ね~?」
どうやらこの外史の子供達も情操教育だけはしっかり身につけているようで。
それはさておき。
「もういいの、びゃくやさん?」
「ああ、御免ね舜生君、もういいよ。それで、次は何処に行くんだったかな?」
「うん、え~とね――――」
舜生が行先を告げようとした、その時だった。
「その声は・・・・北条か!?丁度良い所に来てくれた、何とかしてくれんか!?」
彼の良く知る人物の、しかしその人物にしては珍しい焦燥感がありありと感じられる声が耳に届いたのは。
「祭さん?どうかされたんですか?」
「いや・・・・その、な。この辺りで馬鹿共が騒ぎを起こしておったのでな、直ぐに駆け付けて片付けたまでは良かったんじゃが・・・・」
気まずそうに語尾を弱める祭に白夜が首を傾げていると、
「ぐすっ・・・・ひっく・・・・うぇぇぇ・・・・」
(?この声は・・・・)
啜り泣きが聞こえて、直ぐに気付いた。
「女の子ですか?」
「ああ、どうやら迷子らしくてな・・・・親も近くにおらんようじゃし、何とか泣き止ませようと儂なりになだめてみたんじゃがどうもな・・・・」
「うぅ・・・・おかあさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「あぁ、またか・・・・儂はどうすればいいんじゃ・・・・・?」
言って、祭はがくりと項垂れる。
そこには疲労の跡がありありと感じられて、
(辺りの状況からして騒ぎが起こったのは随分前だった筈・・・・それから今迄の間、ずっとこの子の相手を?)
その事に思い至った白夜は柔らかに微笑を浮かべて、
「・・・・そうでしたか、それは御苦労さまです」
「全くじゃ・・・・北条よ、何とか出来んか?」
疲れ切った声で尋ねる祭に白夜は『ふむ』と暫く考え込む。
「うぐ・・・・ふぇ・・・・」
「ああ、もう・・・・いい加減泣き止まんか。顔がぐしゃぐしゃじゃぞ?ほれ、拭いてやるから大人しくせい」
そう言って祭は懐から小さな正方形の布を取り出して少女の顔を拭ってやる。
「・・・・祭さん、それは?」
「ぬ、この布か?以前行商人が『お似合いです』と妙に勧めてきてな・・・・儂も気を良くして買ってしまったんじゃが、どうも儂には綺麗すぎる気がしてな、どうしようかと扱いに困っておったんじゃ。まさかこのような形で使う事になろうとは思わなかったが・・・・これがどうかしたか?」
「ちょっと貸してくれませんか?」
「これをか?構わんが・・・・使用済みじゃぞ?」
言いながら手渡されたその布は、白夜も良く知る物であった。
(これ・・・・ハンカチですね)
少々形が歪ではあるが、間違い無く麻製のハンカチであった。
繊維の色そのままなので、明るい灰色のような色合いをしている。
(そういえば私も―――)
思い立ち、ポケットの中を探ると、
「何じゃ、お主も持っておったのか。それも二枚も」
「うわあ、きれ~♪」
「すっげ~!!」
白夜のポケットの中には、青と緑の二枚のハンカチが入っていた。
失くしたり落としても大丈夫なように普段から二枚持ち歩くのが、白夜の昔からの習慣なのだ。
(よし、三枚あるなら――――)
「皆、ちょっと頼まれてくれないかな?」
白夜は何かを思いついたようで、舜生達に声をかける。
「なに、びゃくやさん?」
「おれたちに?」
「うん。皆、小石を集めてきてくれないかな?」
「いし~?なんで~?」
「いしなんでなににつかうんだ、に~ちゃん?」
「皆、この子を安心させてあげたくないかい?」
「うん、させてあげたい」
「かわいそうだもん」
「だろう?その為に必要なんだ」
「いしが?」
「うん、石が」
「わかった!どれくらいのおおきさがいいの?」
「そうだね・・・・大体これくらいの大きさのを一人四個、拾ってきてくれないかな?」
白夜は人差し指の先を親指の根元につけて小さな丸を作る。
「りょ~かい!それじゃみんな、いくぞ~!」
「「「「「おぉ~っ!!」」」」」
舜生の掛け声に子供達が散り散りに走っていく。
その光景を見て、祭は思わず尋ねた。
「北条・・・・お主は一体何をする積もりなんじゃ?」
「直ぐに解りますよ、もう少し待ってて下さい」
変わらず笑みを浮かべている白夜に、祭の頭の上の疑問符は消えないままなのであった。
「びゃくやさ~ん、あつめてきたよ~!」
暫く経って、舜生達は小石を手に駆け戻ってきた。
「皆、有難う。それじゃあ、ここに置いてくれるかい?」
白夜は少女の横の地面に胡坐を掻き、前の地面をポンポンと叩く。
そして皆が小石を置き終えるとハンカチを開き、中心に小石の三分の一を置いて箱を紙で包装するように折り畳み、端を結んで掌に乗るサイズにする。
「何をしとるんじゃ、北条?」
祭が手元を覗き込みながら尋ねるが、白夜は変わらず二つ目を作り始める。
そして三つ目を作り終えると右手に二つ、左手に一つ取り、
「いいかい?見ててごらん?」
未だ泣きべそを掻いている少女に優しく問いかけ、
右手の一つを、軽く上に放り投げた。
―――――まるたけえびすにおしおいけ~♪
青い色が、宙を舞う。
―――――あねさんろっかくたこにしき~♪
緑の色が、宙を舞う。
―――――しあやぶったかまつまんごじょう~♪
灰色が、宙を舞う。
―――――せったちゃらちゃらうおのたな~♪
口ずさむ、優しい言葉。
―――――ろくじょうひっちょうとおりすぎ~♪
くるりくるりと、三つが回る。
―――――はっちょうこえればとうじみち~♪
ふわりふわりと、音が浮かぶ。
―――――くじょうとうじでとどめさす~♪
不思議な時間が、そこに流れていた。
驚いた。
あれほど泣き止まなかったこの娘が泣き止むばかりか、
笑顔で目を輝かせているではないか。
一つの歌が終われば、次の歌が始まる。
次の歌が終われば、またその次の歌が始まる。
何度も宙を舞う小石入りの布袋。
目を閉じた北条が口ずさむ歌。
実に不思議だった。
その場所だけがまるで別世界のような。
その周囲だけが柔らかに煌いているような。
(『天の御遣い』・・・・か・・・・)
正直、今でもさして信じている訳では無い。
今まで接してきて、よく解った。
この男は、一人の『人間』だ。
自分達と、何も変わりはしない。
妖術や仙術も使えはしない。
しかし、この男はいとも簡単に少女の泣き顔を笑顔に変えてしまった。
まるで妖術や仙術のように。
(ほんに不思議な奴じゃのう、お主は・・・・)
その光景に、祭は本当に穏やかな笑みを浮かべるのであった。
空が青から紅に変わる頃。
南陽の街並に、茜色の影が二つ。
「感謝するぞ、北条。儂一人ではどうしようもなかったわい」
「いえいえ、私は大した事なんてしてませんよ」
あの後、少女の母親は直ぐに見つかった。
白夜の周囲に続々と人が集まり始め、その人だかりに気付いた母親がその中心にいた少女に気付いたのである。
ちなみにその時少女は白夜の胡坐の上に座り、満面の笑顔で白夜にレクチャーを受けていた。
「あれは一体何だったんじゃ?」
「『お手玉』という遊びです。本来はもっとちゃんとした布袋に小豆や米なんかを入れた物を使うんですが、これと石で代用したんです」
『お返ししますね』と白夜が差し出す麻のハンカチを受け取る。
「ふむ・・・・大したもんじゃの、お主は」
「そうですかね?」
「大したもんじゃよ・・・・儂には、あの童を笑顔にする事は出来んかった」
「それでも、私が来るまでずっと一緒にいてあげたんでしょう?帰り際にあの子、嬉しそうに言ってたじゃないですか。『有難う』って」
「・・・・まぁの」
仄かに赤く染まった顔を逸らす。
あの時の少女の顔と言葉は、確かに嬉しくあった。
(苦手じゃと思っておったが、こういうのも存外悪くないもんじゃな・・・・)
ポリポリと人差し指で頬を掻いて、
「ふむ、自分の娘でも出来れば多少は扱い方も解るかもしれんの・・・・」
「・・・・はい?」
「どうじゃ北条、本当に儂と子作りに励んでみぬか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何ですと?」
「聞こえんかったか?儂と子作りをせんかと尋ねておるんじゃ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
白夜は呆けたように動かなくなった。
どうやら思考が停止しているらしい。
「何を驚いておる?この地で子を成す事はお主の義務であろう?」
その言葉に白夜は我に返ったようで、
「いや、確かにそういう約束ではありましたけど、その・・・・」
「けど、何だと言うのじゃ?やはり儂のような年増は抱けぬか?」
「いや、そう言う事じゃなくてですね・・・・」
「ならばどういう事じゃ?」
「その・・・・何と言うか・・・・・・」
白夜は完全に真っ赤な顔を僅かに背けて、
「嫌な訳がありませんよ・・・・ただ、私はそういう経験は皆無なのでどうしても緊張してしまうんです。祭さんのような魅力的な人が相手なら、尚更・・・・・・・・」
「・・・・・・・・そう、だったか」
軽いからかいの意味合いも含めて訊いてみたのだが、ここまで真っ直ぐな答えが返ってくるとは思わなかった。
ただ、それ以上に、
(こういうのも、悪く、ないの・・・・)
その言葉を『嬉しい』と感じている自分に気が付いて、
自分の変化に戸惑いを隠しきれない祭なのであった。
後書きです、ハイ。
祭さんの拠点、いかがでしたでしょうか?
いつものように色々とコメントして頂けると有難いです。
さて、ちょっぴり説明を。
『何故に祭さんがハンカチを持っているんだ?』と思った方もいるでしょうが、
実はこの時代にも既にハンカチは存在しているのです。
詳しく知りたい方は↓をご覧ください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%82%AB%E3%83%81
で、白夜が作中で歌っていた歌ですが、
御存じの方は御存じですよね、京都の通りの名前を覚える為の歌『丸竹夷』です。
以前『コ○ン』の劇場版にも登場しましたよね。
本来は手毬唄なのですが、お手玉の歌としても有名なのです。
違う歌詞も存在するのですよ、こちらもウィキで調べましたwwwww
『ウィキペディア』万歳wwwwww
閑話休題
最近巷で噂の『萌え属ったー』でしたか?あれを試してみました。
『jo-ji』での結果
→桃髪おさげ髪でゴスロリのドラムが得意な女の子
本名での結果
→白髪ねこっ毛で着物のドラムが得意な女の子
俺はどれだけドラム萌えなのだろう・・・・?
それでは、次回の更新でお会いしましょう。
でわでわノシ
・・・・・・・・動画へのコメント、感謝感謝であります!!
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