No.134915

華ノ守人 第伍話《黒》

どうも。

まっこと遅いですがやっと更新。


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2010-04-07 13:33:33 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2483   閲覧ユーザー数:2081

第伍話《黒》

 

 

 

「・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・。」

 

「・・・・ねぇ、兄さん。」

 

「・・・・・・・なんだ。」

 

先ほどから、二人の間に流れる空気が重い。

洛陽からここまで、どのくらい来ただろうか。

会話が、無い。

 

だがさすがにこの空気に堪えられなくなったのだろう。

優理が口を開いた。

 

「えっと、あのー・・・。」

 

「・・・・・・・。」

 

「久しぶりに見た皆さんはどうだった?」

 

「・・・・・・・。」

 

「・・・・兄さん?」

 

「お前が聞きたいのはそんなことじゃないだろ?」

 

「------っ!」

 

走るバイクを止め、ゆっくりと一刀が振り返る。

その目には感情がなく、着けている仮面も相成って、

兄に、いや、目の前の男に本能的な恐怖を感じ、

優理は一刀の目から視線を逸らした。

底が見えない、その目に湛えられた虚空に引き込まれるのを恐れるように。

 

が、そんな優理の様子に気づいた一刀の目が、いつもの優しげな目に戻る。

 

 

「ん・・・、すまん。」

 

「はぁ・・・。兄さんって、いつもあんな目して戦ってんの?」

 

「さあ?自分の目なんか見れんよ。」

 

「だよね。」

 

深いため息とともに、ようやく優理の心もも落ち着く。

やはり、自分の兄はこうでなくては。

 

「聞きたいのは、まぁ、華琳関係の事だろ?」

 

「はうっ!」

 

そこについての話題は終了したと思っていた優理にとって、完全な不意打ちがやってきた。

 

「はうっ!って・・・・・。なんだよ、質問してきたのはお前だろ?」

 

「いやぁ・・・。もうこの話題は終わったものだと・・・・・。」

 

 

それに、あんな目見たらさぁ・・・。何も聞けなくなるって(泣)

 

 

「兄さん。」

 

「なんだ?」

 

「ほんとに怒んない?」

 

「ああ。」

 

 

少しためらった後、意を決して口を開く。

 

「兄さんの正体、曹操さんにあっさりばれてたけど、・・・大丈夫?」

 

「うぅ・・・。」

 

意気消沈する一刀。

先ほどとは一変して、激しく落ち込んだようだ。

もっとも、その表情まではうかがい知れないが。

 

「まさか、目を見られただけでばれるなんてなぁ・・・。

 ちょっとうるっとして、懐かしいと思っただけなのに。」

 

「あの人、鋭そうだしね。しかも、”約束”て言われて、兄さんかなり動揺してたし。」

 

「うーむ。やっぱり、華琳だしなぁ・・・。」

 

若干、遠い目をする一刀。

どこか納得する優理。

 

「ところで兄さん。」

 

「んあ?」

 

「いつまで仮面着けとくの?」

 

「んー。とりあえずは俺らの拠点なるような所見つけてからだな。」

 

余談だが、優理はとっくに仮面を外していたりする。

 

「えー。」

 

「どこで知り合いに会うかわからんからなぁ。」

 

「そんなに会わないでしょ?」

 

 

-------おい!そこのお前ら!止まれ!

 

 

「いや、会うんだよなこれが。」

 

 

-------兄貴が止まれって言ってるだろ!

 

「こんなに広いのに?」

 

-------聞いてんのか!?

 

「この時代は、どこ行くにも大体のルートが決まってるからな。」

 

「ふーん。」

 

 

「「「俺たちの話を聞いてくれぇぇぇぇっ!!!」」」

 

あまりにリアクションを返してくれない二人に、少し泣きながら、三人組の盗賊が叫ぶ。

その距離、二人の正面2m。

 

「あ?」

 

「なに、おじさん達?」

 

「ふっふっふ。俺たちはな-------」

 

「じゃまだ、退け。」

 

「・・・・・・へ?」

 

やっと気づいてくれたと思ったのもつかの間。

一刀の発する、いや、この場合は刃だろうか。

さっきから声高に自らの存在をアピールしてきた彼らにとって、あまりに冷たい言葉。

まあ、盗賊に愛想良くする必要も無いのだが。

 

「ふむ。退けというのが聞こえんかったかね?」

 

「な、な、なななななな!」

 

「なななな・・・・。すまんが、何を言っているのかわからんのだが。

 言葉が喋れんのかね?」

 

「うるせぇ!いいから俺たちの言う事を聞け!」

 

刃の挑発に、逆上してわめき始めた盗賊達。

一方、優理は優理で大あくび。

 

 

「その妙な機械と、服、全部置いてけや。」

 

「・・・。なあ、君達。忠告はしたぞ?」

 

「なにぐずぐずしてんだよ------」

 

------ゴキッ------

 

「・・・・・へ?」

 

突然響く鈍い音。

 

「いぎゃあああああああああああっ!!」

 

そして、絶叫。

 

「腕が、腕がぁ!!」

 

盗賊の中で、一番小柄な男の右腕が、刃に触れようとした瞬間、

肘から先が肩に向けて折れ曲がった。

 

「て、てめぇ!チビに何しやがる!」

 

「なにをって・・・、腕を折った。見ればわかるだろう?」

 

「言わせておけば・・・・・ひぃ!」

 

子分を傷つけられて喚く、おそらくリーダー格であろう男は、見てしまった。

人の腕を砕きながらも、何の感情も見られない金色の瞳を。

そこには、苦しみも、罪悪感も、愉悦も。

何一つ映っていない。

 

 

「退けとの忠告も無視したんだ。君達は、死んでも構わんのだろう?」

 

言葉とともに、自らの愛刀”千鳥”の柄に手をかける。

 

一瞬、刃身体がピクリと震える。

 

「兄・・・さん?」

 

そして・・・・・

 

「あ、あああああああ・・・。」

 

ニタリ、と仮面が笑った。その目に映るは、愉悦。

先ほどは無かった感情。

 

殺気が、三人組を捕らえる。

決して爆発的ではない、心の臓を握るような、冷たく、暗い殺気。

 

「うそ・・・だろ?兄さんは、兄さんはこんな殺気発しない!!」

 

 

「死ねよ。」

 

 

ただ一言。

その言葉を最後に小柄な男は、首をはねられ息絶えた。

 

 

 

 

 

 

「♪」

 

「随分とご機嫌だな、雪蓮。」

 

「そりゃそうよ、冥琳。久しぶりの洛陽よ?楽しみに決まってるじゃなぁい♪」

 

語尾に♪がくっつくその女性、その名を【孫策 伯符】。

 

「貴女の場合は、ぱぁてぃで好きなだけ飲める、お酒が楽しみなんでしょう?」

 

肩を竦め嘆息する黒髪の麗人、名は【周瑜 公瑾】。

 

呉の王とその右腕は何をしているのか。

 

ただいま、ぱぁてぃの行なわれる洛陽へ、馬上にて一路行軍中である。

 

「えへ♪」

 

「いちいち語尾に♪は止めなさい。みっともない。」

 

「だってぇー、楽しみなんだもん!」

 

「まったく・・・。」

 

緊張感の無い会話が続く中、慌てた様子の兵士が駆けてくる。

 

「報告します!」

 

「どうした?」

 

ただならぬ配下の様子に雪蓮の顔が王のそれになる。

 

「は、この先で見慣れぬ格好をした二人が、盗賊どもに脅されております。」

 

「その二人、武器は持っていないの?」

 

 

武器がなければ、抵抗も難しいのではないか。

 

雪蓮が顔に嫌悪感を表す。無論、盗賊たちにだが。

 

「長身の男の方は剣と思われるものを持っていました。」

 

「思わしきもの?」

 

はっきりしない言葉に怪訝に思った冥琳は聞き返す。

 

「はい。なにぶん見慣れない形状でしたので。それに・・・。」

 

「それに?」

 

「彼らは、仮面を着けておりました。」

 

「仮面?なぜ。」

 

「さあ・・・。」

 

訳のわからない状況に、三人が顔を見合わせている、その時。

 

 

----------いぎゃあああああああああああっ!!

 

「「なっ!」」

 

苦悶に満ちた絶叫が響いてきた。

 

「これは、拙くないかしら?」

 

「無事だといいんだけどね。どうするの?雪蓮。」

 

「決まってるでしょう!行くわよ、冥琳!」

 

 

風のように駆けだした二人。

この後見ることになる光景を知らないまま。

 

 

 

 

 

まったく・・・。さっさと退いてくれれば良いものを。

 

 

 

そう思うと同時に、千鳥の柄に手をかける一刀。

彼らの武器を砕き、戦意を挫く為に。

 

 

しかし、柄を握った瞬間。

 

 

コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ

 

止め処ない呪詛。

溢れる怨念。

 

サケ!キレ!ツブセ!ウバエ!ナブレ!コロセ!!!

 

チヲスワセロ!

ニクヲソガセロ!

イノチヲクワセロ!

 

オマエハイツモソウシテキタダロウ!

ソウヤッテオレタチヲコロシテキタダロウ!

ナニヲタメラウコトガアル!

 

オマエハダイスキダロウ!?

 

タノシイダロウ!?

 

ヒトゴロシガ!!

 

 

 

一刀の心に流れ込んでくる、命を、血を、肉を求めるどす黒い感情。

 

 

 

・・・・・やめろ、俺はそんな事望んで無い!

 

 

ウソヲツクナヨカズト

 

オマエハワラッテイタダロウ

 

な・・・に?

 

ヒトヲキッタオマエノココロオクソコニアルカンジョウ

 

ソレハヨロコビダ!

 

よろこ・・・び

 

アアソウダ!

 

オマエハダイスキダロウ?

 

マッカナチガ!!!

 

や・・・・・めろ

 

サア

 

コロセ

 

コロセ

 

コロセ!!!!!!!

 

 

やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 

オチタ!

 

一瞬。

それが周りが感じた時間。

 

だが、一刀の心は・・・・・・

 

 

 

黒く、黒く染まっていた。

 

 

 

 

「アハハ・・・。」

 

「兄さん!どうしたんだよ兄さん!」

 

「アハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」

 

笑った。

その顔を返り血に染め、刃は笑った。

 

「なんだよ・・・。なんなんだよコイツ!狂ってる!!」

 

その顔を恐怖に染めて太った男が叫んだ。

その声に反応した刃と目が合い、

 

「きぃめた。次はお前。」

 

死刑宣告を、彼はされた。

 

逃げようにも、その目、その殺気に縛られて動けない。

 

「お、おいデブ!早く逃げろ!!」

 

「あ、ああああ。」

 

デブと呼ばれた男の目に涙が浮かぶ。

 

「うん。さっきはあっさり殺しすぎたから、次はゆっくり殺そう。」

 

ぼろぼろと涙をこぼしながら、失禁。

 

それにも刃は、気にも留めない。

 

「まずは、右腕。」

 

言葉とともに放たれた斬撃。

あっけなく飛ぶ腕。

 

「いでぇぇぇぇぇ!いだい、いだいっ!」

 

あまりの激痛に気を失う事も出来ずに、絶叫する。

 

「やめろ兄さん!こいつらもう抵抗する力も残ってない!」

 

目の前で起きた惨劇から、ようやく立ち直った優理叫ぶ。

 

「こんなことしても意味無いだろ?」

 

「まったく、うるさいなぁ・・・。わかったよ。」

 

「兄さん・・・・・。」

 

 

わかってくれたかと安堵する優理。

が、まだ彼は刃のままだった。

 

 

「ほら、これでいいだろう?」

 

 

 

シュイィィィン

 

 

 

 

「に、いさん・・・?」

 

刃が、デブの首を跳ね飛ばした。

 

「なぶり殺すのはやめる。これで良いだろ?」

 

「そういうことじゃない!!兄さん、おかしいよ、

 あんたはこんなことする様な人じゃないだろ!?」

 

「はぁ・・・。お前は少し黙ってろ。」

 

「え?」

 

「お前まで俺は殺したくない。」

 

「なっ!」

 

刃が優理向けたモノ。

それは、紛れも無い殺気。

 

「さあ。次はお前の番だ。」

 

「兄さん・・・・・。」

 

刃の注意がただ一人残った男に向く。

 

優理は刃に向けてゆっくりと銃を構えた。

 

 

 

兄さんを止めなきゃ。

 

 

 

そう覚悟した、その時。

 

 

 

「そこまでよ。」

 

凛とした声が響いた。

 

 

 

 

 

 

「まったく・・・。盗賊に襲われていると聞き駆けつけてみれば

 とんだ思い違いだったな。」

 

「そうねぇ。これ、興奮したときの私みたいね。」

 

「それよりも性質が悪そうだが。」

 

突如として現れた二人の美女。

先刻の叫び声を聞いて駆けつけた雪蓮と冥琳は、目の前に広がる光景を見て絶句する。

血の海と、中心に立つ、金目で仮面の男。

その手には血まみれでくすんだ刀。

 

 

「・・・・・貴女達は?」

 

「あらかわいい子。私の名は-----」

 

「孫策。であんたは周瑜、だろ?」

 

突然、彼女達の名を当てるのは、刃。

 

「あら、知ってたの?」

 

さして動揺する様子も無く返す雪蓮に対し、その双眸を鋭くするは冥琳。

 

「なぜ殺した?」

 

「邪魔したから。」

 

「殺す必要までは無かったのではないか?」

 

「あんたらには関係ない。」

 

話が通じないわけではないが、こちらにまともに取り合おうともしない。

 

「埒が明かんな。」

 

「まったくねぇ。」

 

軽く嘆息する二人。

 

「けどまあ、いいや。」

 

「?」

 

「殺す気が失せた。」

 

「それはありがたいな。」

 

先ほどとは違う態度に、一瞬とまどう。

 

 

 

「・・・優理。」

 

「・・・・・なに?」

 

「”一刀”によろしく。」

 

「え・・・?」

 

そう言って、千鳥を鞘に収めた。

同時に、刃から放たれていた殺気が霧散する。

そして、刃が口は開いた。

 

「これは、俺がやったのか?」

 

そこには刃が、否、一刀が立っていた。

 

「貴様、いまさら何を------」

 

「止めなさい冥琳。・・・・・貴方、何をしたか憶えていないの?」

 

「俺は、千鳥を握って・・・・・」

 

「兄さん・・・・・。」

 

「俺は・・・・・、俺は・・・・・・・・っ!」

 

 

 

血の臭いを乗せて、乾いた風が吹き抜けていく。

 

 

 

 

 

 

 

後になって知る。

これは、彼の身に起きる異変の始まりに過ぎなかったことを。

 

 

 

 

 

 

 

To be continue...


 
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