No.132920

解けた心

雪月菜絵さん

ツインエンジェル二次創作小説
クルミが遥を気に入らない理由~心を開くまでの経緯を
実機やコミックの演出を交えつつ捏造してみました。

時系列や設定等おかしいところもあるかもしれませんが、大目に見てくださると幸いです。

2010-03-28 23:03:59 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:885   閲覧ユーザー数:872

「おかず交換しようよ!」

草むらでシートとお弁当を広げ、三人の少女が座っている。

遥は無邪気な笑顔で大きなハンバーグをクルミに差し出した。

「遥とはイヤよ! ねっ、葵お姉さま」

「クルミさん・・・」

葵は困り顔でクルミをたしなめる。

「うう・・・今日もダメだった・・・」

遥は落胆した様子で、差し出したハンバーグを仕方なく自分の口に運んだ。

 

クルミが遥に厳しいのは今に始まったことではない。

というか、初めて出会った・・・転校初っ端から遥の胸倉をつかんだあの日以降、

ずっと続いていることだった。

今しがた起こったおかず交換拒否の他、

クルミが葵を捕まえて二人だけで帰ろうとしているとき、

遥も誘おうとする葵にあからさまに反対することもあった。

他にも、少しぼんやりしたところのある葵は気付いていなかったが

(というか、頭の良いクルミは尊敬する葵お姉さまに嫌われないよう、計算してやっていた)

背後から鉛筆をぶつけたり、

遥が葵と仲良く話しているとさりげなく間に割って入り

成績の悪い遥にはわからない数学の問題を振ってみたり、

同時にこっそり(アンタは邪魔よ!)といわんばかりに後ろ足で遥を足蹴にしていたり、

挙句の果てに、葵を待つ遥を気絶させて、その隙に葵と自分の二人だけで帰ってみたり。

クルミのそれらの行動は、ちょっとした意地悪の域を越しているものまであった。

飛び級で進学してきた頭の良いクルミだが、

同時にまだまだ人生経験の足りない十一歳の子供、

気に入らない子に意地悪をしてしまうような幼稚さも残っているのだ。

クルミと葵は遠縁の親戚で、

幼い頃同じ家に住んでいたこともあり、二人でよく遊んでいた。

しかし別れが訪れる。クルミが両親と共にイタリアへ引っ越すことが決まったのだ。

「お姉さま! 私、たくさんイタリアで勉強して、

日本に帰ってきたときには、きっとお姉さまのお役に立ってみせます!」

そう約束した。

そして、クルミはイタリアで、年齢に見合わぬさまざまな分野の知識を身に付けるまでに成長した。

 

いつ日本に帰っても恥ずかしくない、そう思っていたクルミに

天ノ遣に選ばれた、ブルーエンジェル・レッドエンジェル覚醒の報せが入ったのは数ヶ月前の事。

ブルーは先代天ノ遣の血を引く、クルミもよく知っている神無月葵。

だが、レッドは神無月家とは血縁的に何のゆかりも無い、水無月遥という名の少女だという。

(どうして・・・!? 蒼羽の隣に立つ紅羽は私ではないというの!?)

日本に戻りたいという希望も許されず数ヶ月間悶々としていたクルミだったが、

エンジェルたちの活躍によるブラックオークションの壊滅に伴い、背後の黒幕ブラックファンドが出現、

新たな戦いの支援役・・・ホワイトエンジェルとして

やっとクルミも日本に戻れる事になったのだ。

 

(私がオマケ扱いなのは気に入らないけど、

 とにかく、レッドエンジェルとして選ばれた水無月遥の実力を確かめないと)

転校初日に遥にした行為は、

「あんたの実力、試させてもらうわ!」という、ちょっと大げさな宣戦布告だけのつもりで、

その時点では他意はなかったのだ。

 

 

しかし、遥の観察を続けるにつれ、クルミの失望は増すばかり。

しょっちゅう寝坊しては遅刻しかけ

(そのたびに葵に迷惑をかけているのがクルミにはますます許せなかった)

授業で先生に指されるといつも答えを間違ってばかり、

時には歩きながらお菓子を食べるなど、行儀が悪い部分もあった。

運動能力は確かになかなかのようだったが、

それでも、得意の水泳でも常勝というほどではなく、

その辺にいくらでもいる「ちょっとスポーツが得意な女子高生」程度の能力にしか見えなかった。

 

また、エンジェルとしての戦いの最中も、初っ端から無鉄砲に敵へ向かっていくばかりで、

まずは遠距離攻撃で様子見をして、敵の実力をある程度判断してから戦略を決めるべき、

というクルミとは全く考えが合わないのだった。

けれど、天ノ遣の力を正式に受け継ぐ者は

あくまでブルーエンジェルの葵とレッドエンジェルの遥の二人であり、

ホワイトエンジェルのクルミはあくまでサポート役。

それがクルミには屈辱的であり、遥への意地悪は全く収まる気配がないのだった。

ある日、クルミと葵の二人でこんな話をした。

「クルミさんはどうして遥さんと仲良くできないのですか?

 私はクルミさんも遥さんも大好きです。

 なのに、大好きなお二人が仲良く出来ないのは悲しいです・・・」

「だって、お姉さま。

 遥なんて、バカだし、ドジだし、無鉄砲に敵に向かっていくばっかりで・・・」

まだまだ続きそうなクルミの攻撃を葵は途中で制す。

「クルミさん、人の悪口を言ってはいけませんよ?」

「でも、遥のどこがいいのか、

 何故、天ノ遣が遥を選んだのか、私には理解できません」

葵は驚いた表情をする、クルミにはそれこそ驚きだった。

なぜなら葵にはクルミにはわからない遥の良いところが見えている、ということだったから。

「遥さんの良いところ、ですか?

 そうですね・・・たくさんありますが、一つだけ上げるなら『心』でしょうか。

 遥さんの前向きな心は、いつだって私たちに勇気を与えてくれるんです」

「お姉さま。私“たち”って、勝手に私まで含めないでください」

 

クルミは頭が良いからこそ、敵に適わないと判断したら

効率を重視し無謀に戦うようなことはしない。

しかし、時には、効率を無視しても戦わねばならない時もあるのだと、

そんな力をくれるのが遥の『心』なのだと、葵は言う。

それがどうもクルミには理解できないのだった。

 

「でもっ・・・私のほうが遥なんかよりずっとずっとお役に立てますし、

 遥がいなくたって、私と葵お姉さまだけでエンジェルの任務は遂行可能です」

「クルミさん、そんな悲しいことを言わないでください。

 天ノ遣は一度私と遥さんを選び、けれどクルミさんもまた選ばれた・・・。

 先代の蒼羽と紅羽は二人だけ。けれど私たちエンジェルは三人。

 それにはきっと理由があると思いませんか?」

「・・・・・・わかりません、そんなの!!」

(何さ、何さ! 遥なんか・・・遥なんか・・・!!)

遥の悪口を言ったクルミだったが、

実際にはそこまで悪く言うほど役立たずではないのは本当は頭ではわかっていた。

なのに遥を必要以上に貶してしまう理由・・・

それは嫉妬だ。

(私、こんな嫌な子だったんだ・・・)

さて、季節は秋。

チェリーヌ学院では学院祭に向け、連日、授業終了後も遅くまで準備が続いていた。

大変だけど楽しくもある日々も今日で終わり。明日はもう学院祭本番なのだ。

「しまった、店内準備がまだ終わっていないのに気をとられて

 肝心の食材を引き取りに行くのを忘れていたわ・・・」

クルミたちの属する一年椿組の担任、西条女史はつぶやいた。

明日の出し物はメイド喫茶。

メイド服に身を包み、丁寧におもてなしすることで

お客様にお金持ちのご子息・ご令嬢のような気分を味わっていただくのが主な趣旨。

とはいえ、同時に喫茶店なのも確かなので、お茶やケーキが無くては開店出来ない。

教室内を見渡し、買出しを頼める人物を探す。

「そうだ、水無月さん、葉月さん、行ってくれないかしら?」

「先生、でしたら私も・・・」

葵が進言するが

「いいえ、こちらの準備もギリギリだからなるべく人手が欲しいの。

買出しは二人いれば十分だから、神無月さんは引き続き内装を手伝ってちょうだい。

水無月さん、葉月さんを案内してあげて」

この人選は何も適当に選んだわけではない。

遥・葵・クルミの三人はよく一緒にいるが、

どうもクルミは遥をあまりよく思っていないらしい事を西条女史は見抜いていた。

まだ町の地理に不慣れだろうクルミを遥が案内する事で

クルミが遥に少しでも好意的になってくれればと思ってのことだった。

「予約はしてあるから、店員にチェリーヌの一年椿組ですって言えばわかるはずよ。

 これ、お店の地図と代金だから無くさないように。

 それと、最近学院祭の準備で帰りが遅くなる生徒を狙った不良がいるらしいわ。

 まだ明るいから大丈夫だとは思うけど、念のため注意してちょうだい。

 寄り道せずに、用事を済ませたらすぐに帰ってくるように」

そんなわけで、食材を受け取りに行く事になった遥とクルミ。

「全く・・・なんで私が遥なんかと・・・」

基本的に優等生のクルミは西条女史の依頼を快く受けたが、

(どうせなら葵お姉さまと行きたかったのに)と内心不満だったのだ。

対して遥はごきげんだ。

「そう? 私はクルミちゃんと出かけられるの嬉しいよ?

 クルミちゃん、三人でいてもいっつも葵ちゃんとばかり話しているから、

 なかなか二人でお話する機会がなくて。

 お使いが終わるまでの間、クルミちゃんの話色々聞きたいな?」

「なによ、私は遥と話すことなんて何も無いわ」

「えー、でも、私はクルミちゃんと仲良くなりたいのに」

「私は遥と仲良くなる気なんてないの!

 天ノ遣が葵お姉さまのパートナーにあんたを選んじゃったから

 仕方なくサポートしてるだけなんだから」

「でもでも、戦いの時だけじゃなくって、普段から仲良くしたほうが絶対楽しいのに」

 ・・・と、遥はふと、商店街のとあるお店に目を止めた。

「あーっ!? ドーナツ出来立てだって!

 あのお店、大人気でいつ寄っても売り切れだったのに・・・

 ちょっとだけ、ちょっとだけ寄り道していいかな?」

「ダメよ、今はお使いの途中だし、寄り道しないように注意もされたでしょ」

「お願い、クルミちゃん! 5分・・・ううん、3分で戻ってくるから、ね、お願い!」

遥はクルミの返事を待たず、ドーナツ店へ駆け出していってしまった。

 

「全く、バカ遥・・・」

ドーナツ店を見ると、既に結構な人だかりが出来ていた。

遥は3分と言っていたが、あれでは買ってくるまで10分以上ロスしてしまうかもしれない。

(しょうがないから私一人で行ってくるしかないわね。

 地図を見る限りではすぐ近くみたいだし、

 遥の寄り道が終わるころには買い物を終えてここに戻ってこられそうね)

 

そう思って一人で目的の店を探し始めたクルミだが。

「もう、何よ、この地図ちょっと大雑把すぎない!?」

地図は予想以上に多くの細道が省略されていたらしい。

闇雲に歩き回った結果、いつの間にか人気のない路地裏に迷い込んでしまっていた。

そろそろあたりも暗くなってきている。

悔しいけれど遥に迎えに来てもらおうと携帯電話を取り出すが

(あ・・・そういえば、遥の番号聞いてないじゃない)

葵に手間をかけさせるのも不本意だが仕方ないと思ったその時。

「お嬢ちゃん、子供がこんな時間まで夜遊びとは感心しないなあ?」

ニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべた、柄の悪そうな学ランの男子二人がクルミに声をかけてきた。

不良達は、見覚えの無い制服を着たクルミを人知れぬお嬢様校に通うお金持ちの令嬢ではないかと予想し、

こっそり後を付けて来ていたのだ。

地図に気をとられていたクルミはそれに気づかなかったのだ。

(先生も注意してた不良・・・!? こんなところで・・・!!)

すぐに反対方向に逃げ出したが、ほんの少し走っただけで行き止まりになってしまった。

不良たちはそれを知っていてここで姿を現したのだ。

 

追い詰められたクルミは不良の片方に羽交い絞めにされてしまう。

「なにすんのよ!!! やめなさいったら!!!」

身動きの出来ないクルミの制服のポケットをもう一人の不良が探る。

「お、結構金持ってんじゃねーか」

「ちょっと、それは先生から預かった大切なお金なんだから!」

(こんなやつら、ホワイトエンジェルに変身出来ればイチコロなのに・・・!)

しかし、天ノ遣の力は極秘事項。一般人の前で変身するわけにもいかない。

絶体絶命かと思えたその時。

「クルミちゃん、やっと見つけた!」

息を切らせた遥が現れた。クルミを探してあちこち走り回っていたのだ。

(遥!? どうして・・・?)

「何だお前、コイツと知り合いか?」

「馬鹿遥! あんたが来てもしょうがないでしょ! 逃げて助けを呼んできなさい!」

クルミは冷静に状況を分析して、最善だろう判断を下した。

「ダメだよクルミちゃん、私一人だけ逃げるなんて出来ないよ!」

遥は真っ直ぐにクルミを見据えていう。

「だからって、あんた一人増えたって勝てっこないわよ!」

「でもっ! 友達が困っていたら助けるのは当たり前だよ!」

(遥・・・どうして、どうしてそんな

 素直に私を助けようとしてくれるの・・・!?

 私はいつもあんたに意地悪ばっかりしているのに・・・!)

「馬鹿! 遥までやられるだけよ、いいから逃げ・・・」

ドタドタドタ・・・

「こらーっ!! お前たち、何をやっているんだ!!!」

騒々しい足音と共に現れたのは数人の警察官。

巡回中、怪しい不良をマークしていたのを見失ってしまっていたが、今再発見したというわけだ。

「げっ、サツか!!」

不良たちは逃げようとしたが、さすがに本職の警察官、人数もあちらの方が上ではかなわない。

不良たちはあっという間に捕まってしまった。

「とにかく、お二人とも無事でよかったです」

「ごめんなさい、水無月さん、葉月さん、私がお使いを頼んだばかりに・・・」

教室に戻ってきた二人を、葵たちが暖かく迎えた。

あの後、警察からしばらく事情を聞かれたが、

怪我もなく、クルミのポケットから盗られた財布も無事に戻ってきた。

念のため警察官が一人護衛してくれ、お使いを無事済ませて学校に戻ってきたのだ。

ちなみに遥の欲しがっていたドーナツは、また瞬時に売り切れてしまったそうだ。

 

「二人ともっ!? 大丈夫だった!?」

警察や先生との話が終わると、

待っていましたといわんばかりに、遥と同じ水泳部のさつきが駆け寄ってきた。

「うん、私は平気だよ」

「なんともないわ、あんなの・・・」

負けず嫌いなクルミは、本当はとても恐かったのを隠してなんともない振りをした。

「え、そうなの!?

 私はあれでもちょっと恐かったのに・・・クルミちゃん、すごいんだあ!!」

(・・・そんなんじゃないのに)

カメラを持ったやよいも寄ってくる。

さっきまで新聞部の出し物を準備していたのだが、

帰宅すべくちょうど教室に荷物を取りに来たところだったのだ。

新聞部にはスクープをかぎつける天性の才能でもあるのだろうか?

「ねえ、来週の週チェリにこの件を載せてもいい?

 全校の防犯意識の向上にも繋がると思うし・・・」

「私はかまわないけど・・・クルミちゃんは?」

「し、しかたないわね。被害を増やさないためだもの」

「そう、ありがとう。じゃあ水無月さん、もう少し話を聞かせてくれる?」

直接被害にあったクルミでなく遥から話を聞くのは、やよいなりの配慮だ。

 

「クルミさん」

葵は小声でクルミに呼びかけた。

「なんですか、葵お姉さま」

「私が前言ったこと、覚えていますか?」

「え?」

「遥さんの前向きな心は、いつだって私たちに勇気を与えてくれるんですよ」

そういって葵はにっこり微笑んだ。

「クルミさんが来る前、

 ブラックオークションと戦った時にも、いくつもの難関がありました。

 屋根から屋根へ大きくジャンプしたり、ロボットから全速力で逃げたり、

 運動が不得意な私にはとても無理だと弱音をはいてしまった事もありました。

 けれど、遥さんは言ってくれました。きっと出来るって。

 そんな遥さんにたくさん勇気を貰って、私たちは勝つことが出来たんです」

クルミは思い返す。

絶体絶命だと思ったあの時。遥が助けに来た。

かなうわけない、逃げなさいと言ったけれど、あの時・・・。

そう、嬉しかったのだ。

実際に助ける力は無かったかもしれない、

けれど、遥はクルミを助けようとしてくれた。

それは、遥にとっても非常に勇気がいることだったに違いないのに。

その気持ちがとても嬉しかった。

折れかかっていたクルミの心に勇気を与えてくれた。

「お姉さま」

「はい」

「今からでも、遅くありませんか?」

「ええ、もちろんですよ、クルミさん」

数日後。

「おかず交換しようよ!」

遥は今まで拒否されっぱなしのクルミにめげずに言った。

「もうっ、しょうがないわね・・・」

しょうがないと言いつつ、本当は待っていたのだ。

クルミは素直に人へ感謝の気持ちを伝えられる性格ではない。

あの事件のあとも、警察への事情説明などで忙しく、お礼を言うタイミングを逃してしまっていた。

そこで、今まで拒否していたおかず交換を受けるタイミングで、

遥を仲間として受け入れたこと暗に示すつもりだった。

しかし、事件後数日間は学院祭とその代休で、普通にお昼休みにお弁当を食べる機会が無かったのだ。

「ほら、いらないの!?」

クルミはお弁当箱の中からエビフライを差し出した。

「わあっ! ありがとー、クルミちゃん!

 クルミちゃんとおかず交換できたの、初めてだよー」

えへへ、と遥は笑い、エビフライを頬張る。

「ん~っ、美味し~っ」

「あ、ありがと・・・」

これはエビフライを褒めてもらった事もそうだけど、

それ以上に、あの事件の時の「ありがとう」が含まれている。

このタイミングで言うのもちょっとおかしいが、

改めて事件を持ち出して「あの時はありがとう」なんて言うのは恥ずかしくて仕方ないので

とりあえず今はこれでいいということにしておく。

クルミも遥からもらった卵焼きを口に運ぶ。

「・・・・・・。い、意外にも美味しいじゃない」

「ありがとう、クルミちゃん! 生クリームをちょっとだけ入れるのがポイントなんだー」

初めてクルミが自分のお弁当を食べてくれたことが嬉しくて、

遥は聞かれもいない卵焼きのうんちくを語りだした。

食べてもらわないことには、話をすることも出来なかったから。

そんな二人の様子を、葵は微笑んで見守っていたのだった。

数ヵ月後・・・・・・

 

 

毎日のおかず交換会はすっかり定番になっていた。

最近は、最初から交換するのを前提におかずを作ることまである。

目の前のフライパンで、油の海に浸かっている鶏肉はその最もたるものだ。

クルミ自身は脂っこい食べ物はあまり好きではない。

けれど、ここしばらくのおかず交換会で、

どうやら遥は唐揚げが大好物らしいとクルミは学習していた。

 

しかし自分自身はあまり好きではない食べ物、

昔料理の本のレシピを一通り覚えようとした時に数回作ったのみ。

自分が食べるわけではなくても・・・いや、人にあげるからこそ中途半端なものは作れない、と

負けず嫌いなクルミは考え、密かに練習していたのだ。

(見てなさいよ遥、絶対、美味しいって・・・ううん、最高だって言わせてみせるんだから!!)

遥の喜ぶ顔を想像する。

わざわざ自分の好きでない料理を作っているというのに

クルミの顔はほころんでいた。


 
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