No.132141

恋姫異聞録37 番外編 一馬と花郎

絶影さん

更新遅くなりました。お待たせしてしまい
私の作品を楽しみにしてくださっている皆様
大変申し訳ありませんでした><

今回から三本ほど番外編を書きます

続きを表示

2010-03-24 22:15:16 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:19103   閲覧ユーザー数:14529

褒章式から数日が立ち、国内も安定を取り戻してきた。これからの目標としては司隷に入り

天子様を奉戴し政治的な力を持つといったところだ、奉戴に成功すれば華琳の名は更に高まり

全ての戦に義が生まれる。だが成功すれば西涼の馬騰が黙っては居ないだろう

 

「一体どういうことかしら、春蘭」

 

玉座の間には張り詰めた空気が流れる。華琳の怒りを誰もとめることが出来ず、ただ皆口を閉ざすだけになっていた

 

「も、もうしわけございませんっ!」

 

そんな中ひとり華琳の怒りの的となっているのは春蘭、先ほどからひたすら頭を下げ続け

顔は強張り眼は涙を溜めて冷や汗を流してしまっていた

 

「ど、どうしたんや一体・・・」

 

「あ、あのねー春蘭様が謁見に来ていた張松さんに華琳さまの」

 

「そこっ!うるさいわよっ!」

 

「ひぃっ!」

 

何があったのか解らず部屋へと入ってしまった真桜が、先に部屋に居た沙和に何事かと訪ねると

答える途中に華琳の怒りが向き、二人とも固まってしまう

 

近くに居た凪にこっそり話を聞くと、謁見に来ていた張松に華琳の注釈をした孫子を丸暗記され

そのことで問答となったのだが、どうやら春蘭は華琳の注釈書で学んでいたらしく

 

出しっぱなしにしていた春蘭の書と華琳の注釈書を取り間違え盗み見た張松は春蘭の注釈で問答をしていたようだ

それに途中で気が付いた春蘭は顔が真っ青になり、勝手に自分の注釈書を持ち出していた春蘭に華琳は大激怒

といったところらしい

 

「春蘭、貴方には罰を受けてもらわないとね・・・」

 

「え、あ・・・罰・・・・・・ですか?」

 

そういって顔を赤らめるが華琳はそれを見ると自分がする罰は春蘭にとって罰にならないと思ったのか

 

「二つの中から選ばせて上げる、一つは桂花の好きなように可愛がってもらうこと」

 

「えっ!良いんですか華琳様っ!何をしてもっ?」

 

その言葉に春蘭は更に顔を青くすると「そればかりはお許しください」と懇願して頭を下げる

 

「二つ目はそうね、そこの兵士を夫に迎えさせてあげる」

 

「そ、そんなっ!どうか、どうかお許しください」

 

春蘭は華琳のサディスティックな要求に追い詰められていき眼には涙を溜めていた

周りのものも罪の内容を聞き、春蘭に対する罰を止めたいが相手は華琳である、誰も正が出来ない

 

バンッ!

 

そのとき急に大きな音を立てて玉座の間の扉が開きそこからは青く美しい外套を纏った男がずかずかと

玉座の間に入ってきた

 

「なぁなぁっ!華琳っ!聞いてくれよっ!涼風が俺の似顔絵を書いてくれたんだっ!どうだ似てるだろうっ!」

 

「ちょ、ちょっと兄様っ!今はいけませんって!」

 

「そうだよ兄ちゃんっ!華琳様がっ!」

 

季衣と流流を引きずりながら入ってきたかと思えばその手には自分の子が書いた似顔絵を持ち華琳の元へ

歩み寄っていく、男は周りの皆が唖然としているのに今気が付いたとばかりに周りを見回した

 

「あれ?みんなどうしたんだ?」

 

「・・・・・・こ、の・・・大馬鹿ーーーーっ!!!」

 

バチーンッ!

 

頬に強烈な平手を入れると華琳は倒れた男の胸倉を掴みずるずると隣の部屋へと引きずっていく

 

「ふぅ、姉者、後で昭に礼を言っておけよ」

 

「た、助かった~」

 

隣で舌打ちをする桂花に呆れ顔になりながら凪は心配そうに男の引きずられていった方に視線を向けると

春蘭の肩に手を置く秋蘭に質問をぶつけた

 

「あの、隊長は大丈夫なのでしょうか?」

 

「ああ、昔から華琳様が御怒りになったときは昭がああやって鎮めるんだ、臣下の礼をとったときから

あまり見なくなっていたが」

 

 

 

 

ずるずるずるずる・・・・・・どさっ

 

「ふぅ、そこに座りなさい」

 

「・・・・・・ここでいいか?」

 

無造作に男を地面に放り投げると華琳は背もたれの無い長椅子を指差し、座るように促すと男はむくりと起き上がり

まるで何時ものようにといわんばかりに椅子にまたがると、背中合わせに華琳が椅子に脚を伸ばして座り

背を男にもたれかける

 

「貴方のせいで春蘭の困る顔を楽しんでいたのが台無しよ」

 

「性格悪いぞ華琳、本当はそれほど怒ってないだろう?」

 

「まぁね」そう答えると肩越しにこちらを見る男の左頬に残る傷を手を伸ばし指先で撫でる

 

「痕が残ってしまったわね」

 

「最近俺の傷ばかり触るな。嫌なのか?」

 

「ううん、両腕の傷は春蘭と秋蘭への想いだけど、その傷は私に対する想いでしょう?」

 

「・・・そういえなくも無いな、華琳を守ろうとしてどじを踏んだ傷だからな」

 

そういうと華琳はやわらかく笑い、頬の傷跡をしばらく撫でると満足したのか顔を正面に向けまた男の

背にもたれかかる

 

「何か面白い話をしてちょうだい」

 

「突然だな、面白い話しねぇ・・・」

 

「私の楽しみを邪魔したのだからそのくらいはしなさいよ」

 

「解ったよ、そうだなぁ・・・・・・面白いかどうかは解らないが一馬と李通の馴れ初めはどうだ?」

 

「そういえば気になっていたのよ、秋蘭からは聞いていたのだけど」

 

「ああ、一馬はその話をさせると途中でドモリが激しくなってよく解らんから李通に話してもらったんだ、それでいいか?」

 

「ええ、それでかまわないわ」

 

ええっと、あれは俺の意識が戻って寝台で暇を持て余しているときだった。あのときの俺は秋蘭からじっとしていないと

皆の前で秋蘭に言った恥ずかしい言葉をばらすと言われて泣く泣く寝台で不貞寝していたときだった

 

「なぁ李通、そういえば一馬とはいつからなんだ?」

 

「え?ええ、一馬さんとは出会ってしばらくしてからです」

 

「そうか、良かったら話してくれないか?一馬は純情だから話し始めるとどもってしまうんだ」

 

そういうと李通はアハハハと笑って頬を染めていた、李通も純情だからこのての話をさせるのはちょっと

かわいそうかなと思っていたんだが、どうやら一馬との出会いは李通を少し大人にしていたようだった

 

「そうですね、昭様には御世話になっておりますし。一馬さんの義兄様ですから」

 

「すまないな、ところで先に聞きたいんだがどちらが先に好きになったんだ?」

 

「あ、あの・・・私の一目惚れです・・・・・・」

 

そういうと顔を真っ赤にして頬に手を当てて顔を伏せてしまった。何と言うか一目惚れか・・・確かに一馬は

整った顔をしているが李通は顔を重視するような子ではなかったように思えたのだが、そう思っていると

胸に手を当てて深呼吸をすると、顔を上げるとぽつぽつと話し始めた

 

「それでは御話いたしますね・・・」

 

 

 

 

あれは一馬さんが警備隊に配属されたときです。そのとき私は副隊長で昭様に華琳様の元で働くように

誘われてからずっと警備隊を誇りに思っておりました

 

「李通副隊長、隊長から木管が届いております」

 

「ありがとう、そこに置いおいてください後で目を遠します」

 

隊員は指示されたとおり私の使う机の上に木管を置くと眉根を寄せて顔を曇らせ話しかけてきました

 

「所で今日から隊長が御連れする方はこの後、皆の前で隊長と義兄弟の契りをするそうですよ」

 

「えっ!昭様と?」

 

私はその話でびっくりしてしまいました、昭様が義兄弟に認めるほどの方が私達の仲間になるかと思うと

それだけで萎縮してしまっていたのです。その前に凪さんたちが一緒に仕事をすることになったときは

それほど萎縮する事は無かったのですが、さすがにそれほどの御仁とは一体どのような方かと思いました

 

「今日から俺達の仲間になる劉封だ、皆仲良くしてやってくれ」

 

「よろしくおねがいします、劉封と申します」

 

昭様が私達の兵舎へ連れてきた方は幾度か遠くで見ることのあった方で、遠くで見たときはよく解らなかったのですが

目の前にしてみると端正な顔立ちと気品のある物腰、私は一目で好きになってしまいました。

 

それまで私はずっと武を重んじる家で生まれたものですから、自分を女だと意識する事はそれほど無かったのですが

どういったことか一馬さんを見ていると急に自分の身なりが恥ずかしく思えてしまって、鎧姿の私をあまり見て欲しくない

などと今まで思ったことも無いような気持ちにさせられたのです。そんな時に昭様は私に

 

「李通、一馬は警備隊の副隊長になる。これから色々と教えてやって欲しい」

 

「えっ!あ、あのっ!副隊長はっ!」

 

「よろしくお願いします。李通さん」

 

いきなり私のしている役職に一馬さんを指名してきたのです。私は驚いてしまって、それと同時に私が今までしてきた事は

なんだったのか、私の今までの努力を全て無にされたような気持ちになってしまったのです

 

「すまない李通、あの時俺は直接口で言えばよかったのに」

 

「いいえ、私が勝手に自分の思考に飲まれてしまっただけです。昭様は悪くありません」

 

それからというもの納得のいかない私は仕事もあまり手に着かなくて、なのにもかかわらず仕事をまじめにこなし

優しく町の人と接する一馬さんに惹かれる一方で、もうどうしていいかわからなかったのです

 

「李通さんは凄いですね、私よりも武がありますし。それに立派な鎧をお持ちだ」

 

「わ、私は元々武家の生まれですし、鎧は華琳様に仕えることになって昭様に頂いたものです」

 

「兄者が、ではよほど李通さんの身を案じていたのでしょうね。それほどの重装備の鎧を送るとは」

 

「あ、あまり見ないでください。恥ずかしいです」

 

「あ、申し訳ない、悪気は無いのです」

 

話しになったとしてもそんな調子で、本当は鎧を褒められるのは嬉しかったのです。初めてこちらに来たときに

昭様に女の子は怪我をしては大変だと、鎧など持っていなかった私にわざわざ新調してくださった美しい紫の重鎧

 

そして短い槍を使う短槍術の私用に槍まで作ってくださったのだと御話したかったのですが

恥ずかしさが先に来てしまって、どうしても素直に話すことが出来ませんでした

 

素直になれない自分と、誇りを持っていた仕事を好きな相手にとられてしまうのを許せない自分が

攻めぎあってしまって、頭を抱えて一人城壁で縮こまっていたときです

 

「やぁ!りっちゃん何してるの?」

 

「あっ!鳳さん・・・」

 

私の肩を軽く叩いて、はつらつとした笑顔を見せる鳳さんがそこにはいらっしゃいました

私は何時も笑顔を絶やさず人当たりの良い鳳さんなら何か答えを持っているのではないかと

勇気を出して相談をしてみることにしました

 

「あの、いきなりなのですが相談があるのです・・・」

 

「むむむっ!ちょーっとまってね~!」

 

そういうと眉根を寄せて眼を細めると私の顔を覗き込んできました。亜麻色の綺麗な髪、水晶のような綺麗な目

私も鳳さんのように綺麗な女の子に生まれてきたらきっと自分に自信を持てたのだろうかなど、そんな考えまで

でてきてしまっていました

 

「・・・・・・りっちゃんは恋の悩みと見たぞ!」

 

「え!わ、解るのですかっ!」

 

「そりゃ解るさ、私と同じだもん!」

 

「鳳さんと同じ!鳳さんも誰かに恋を?」

 

「うん、私は出会ったときからず~っと昭様一筋だよ。私は桂花姉さまに似てるんだね一途なところは」

 

「昭様は奥様が、秋蘭さまがいらっしゃいますよ!」

 

「そうだよ~、それでも好きになっちゃったものは仕方が無いさ!自分の気持ちに嘘ついても仕方が無いし」

 

そう答える鳳さんの笑顔はとても素敵で、自分の気持ちに素直に生きることができるとこれほど美しい笑顔を

見せることが出来るのか、今の私はどうだろう?素直になれない私はきっと濁ったような笑顔になってしまって

いるのかも知れないそう思いました

 

「ふむふむ、りっちゃんの意中の相手は一馬くんと見たっ!」

 

「ええっ!なんでそれをっ!!!」

 

「ふっふっふっ!私は何でも御見通し!慧眼の鳳と呼んでっ!」

 

得意げに腰に手を当て胸をはると片目を閉じて私のほうを横目で見てきました。どうしよう、私の気持ちを

知られてしまった。どうしよう、そう思っていると

 

「種明かしー!りっちゃんの一馬くんを見る眼が他の人と違っていたし、対応も何処か違っていたから

すぐにわかっちゃったよー」

 

「え?それだけで解るものなのですか?」

 

「軍師ですから!そのくらいは解りますとも」

 

「・・・・・・プッ、アハハハハハハハハ!」

 

鳳さんはまた胸を張っていかにも威張っていますといった風を私にわざと見せてきたのがおかしくって

その場で笑ってしまいました。そのときふと自分の心が軽くなるのがわかって、鳳さんは私の沈んだ

気持ちを冗談と自分の気持ちを打ち明けることで軽くしてくれたのだと気がつきました

 

「ありがとうございます、私は確かに劉封さんが好きのようです・・・いえ、好きです」

 

「うう~ん、いい笑顔だね!でも気をつけないと華琳様に襲われちゃうよ」

 

「え?そんな私など背も小さいし、胸だって」

 

「ううん、そんなこと無いよ。その黒髪だって綺麗だし、背や胸は相手だって好きだったら気にしないよ自信をもって」

 

「・・・ありがとうございます。勇気を出して少し素直になってみようと思います」

 

「そのほうがいいよ、りっちゃんはとっても魅力的な女の子なんだから一馬くんだって一発さ!」

 

「フフッ、鳳さんは華琳様の前と話し方が違うのですね」

 

「そりゃねー、ああいう場所と個人的な部分は分けてるんだーちゃんとね」

 

「これからも仲良くしてくださいね鳳さん」

 

「もちろんさ!私はきっとりっちゃんと仕事をすることが多くなるから私からもよろしくお願いするよ、仲良くして

くれたまえ!」

 

そういって鳳さんは私と握手をすると立ち上がって城壁の階段の所で止まると私のほうを見て何と言いましょうか

口を横に広げて手を口に当てて含み笑いといいますか、そんな顔をされたかと思ったら急に階段の方に話しかけました

 

「素直になるんだってよー!一馬くーん、お兄さんも男気とやらを見せてくれたまえよ」

 

私はその言葉を聞いて驚いてしまいました、それと同時に罠にはまってしまったと感じました

さすがは軍師殿です。私の気持ちを知った鳳さんは一馬さんを連れて階段の影に隠れてさせておいたのでした

鳳さんは手を振って階段を下りていくと、入れ替わるように一馬さんが階段を上がってきて、私は気持ちを知られて

しまったことで頭が一杯で、顔が赤くなっていくのを感じました

 

「あ、あの・・・すみません、盗み聞きするような真似をしてしまって」

 

「い、いえ鳳さんが連れてきていたのでしょう?それを見抜けなかった私にも、その・・・」

 

何を話したらいいんだろう、気持ちを知られてしまった。そうだ、素直にならなければ・・・もう一度気持ちを

 

「李通さん、私はですね・・・」

 

「はい・・・」

 

「実は初めてお会いしたときから凄く綺麗な方だと、そう思っておりました」

 

「え?」

 

「あの、私の亡くなった最初の母は黒髪でとても美しい髪をしておりました。その髪にとてもよく似ていて

本当はそういったことも色々と話したかったのですが、何と言うか避けられていると私が勝手に勘違いをして

それでちょうど鳳さんが相談に乗ってくれて」

 

どうやら相談したらただついて来いとだけ言われて、素直に着いていったら私の告白を聞いてしまったということ

でした。私の告白を聞いて自分の気持ちもまた同じだったと一馬さんの口から告げられました

 

「私も、優しさの感じられる柔らかい物腰の李通さんのことが好きです。ただ私は、その、こ、こういったことはっ・・・・・・」

 

そこまで言うと顔を真っ赤にしてフラフラと腰を地面につけてしまいました。後から聞いたのですが一馬さんは

とてもとても純情でそういったことを口にするのも精一杯だったと、ですがこの時はどうしても自分の口から

私に好きだと伝えたかったようで、かなり無理をなされたようでした

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「え、ええ、すみません。どうもこういった事は慣れなくて」

 

「いいえ、ありがとうございます。とても嬉しいです」

 

「は、はい、頑張ってよかった」

 

私は一馬さんの姿を見て最初に受けた印象に可愛いという印象が追加されて、もっと好きになってしまいました

この人に私をもっと好きになってもらおう、そのためには素直にならなくては、そう思って自分のもう一つの

気持ちを打ち明けることにしました

 

「あの私のもう一つの気持ちを聞いていただけますか?」

 

「もう一つの気持ちですか?」

 

「はい、実は今で私は警備隊の副隊長をしていたのですが・・・」

 

「ええ、次は兄者の代理を、隊長代理をなされるんですよね?次期隊長となる為に」

 

「・・・え?」

 

私は止まってしまいました。なんの話しだろう?隊長代理?次期隊長?そんな話は・・・あ!!

 

 

 

 

「あの、もしかしてそれは木管で」

 

「ええ、兄者が辞令を出したと。これから自分に何かあったときのために李通さんを次期隊長にすると

その補佐を私が」

 

あのときの木管だ!一馬さんがいらした時に渡されて眼を通さずそのままだった!それに気がついたとき

私は笑っていました。何てことだろう、全て私の早とちり一人で悩んで一人で苦しんでいただけだと気がつきました

 

そして私は一馬さんの頭を優しく抱きしめました。もう一度ちゃんと告白をしようと、きちんと気持ちを伝えようと

 

「好きです、私の真名を預かってもらえませんか?」

 

「よ、よろしいのですか?兄者に聞きましたが李通さんの真名は・・・」

 

「はい、もう決めました。私をもらってくれますか?」

 

「は、はい!私の真名も預けます。一馬と呼んでください」

 

「一馬さん、私の真名は花郎です。貴方だけに私の真名を」

 

私の腕の中で力強く頷くいて、一馬さんからも私を抱きしめてくれました。震える手で、耳まで赤く染めて

そんな一馬さんをいとおしいと強く感じました。この人とならこれからも共に歩んでいけると

 

そこからは昭様がご存知のとおり戦場で私の真名を呼んでしまってすぐに私達の関係が露見してしまった

のです。本当は皆さんに余計な心配をかけないように全てが終わってからということでしたが

 

「そうか、李通の両親には話したのか?」

 

「はい、真名を預けたあとすぐに手紙を書きまして、返事には全てが終わったら相手の青年と結婚をする為に

一度帰って来いとのことです」

 

「そうか、ならその時は俺も参加させてもらうよ」

 

「はい、ぜひお願いします。昭様がお兄様になられるなんてとても素敵なことですから」

 

そういって俺のほうに顔を向けた李通はとても輝いた笑顔をしていた、きっと鳳と同じ輝くような笑顔というやつなのだろう

 

 

「・・・・・・と、いったところだ」

 

「へぇ、何と言うか随分と真直ぐな恋愛をしたのね。しかも行き着いた先がすぐに結婚とは」

 

そういうと華琳は腕を組んで首を頷いていた、男は色々と考える難しいその顔を横目で見ながら微笑んでいた

 

「いいんじゃないか?純情なもの同士だ、誤解が解ければ真直ぐなものだよ」

 

「ところで鳳のことはどうなの?」

 

「?」

 

「貴方に対してよ!そういうところは慧眼も曇るのね」

 

「ああ、鳳はなんというか楽しんでいるからな、心配は無いよ」

 

「楽しんでいる?」

 

「俺を好きな自分が楽しいみたいだ、恋をすることを楽しんでいる。だから俺を好きになったんだろうな」

 

「・・・絶対に手に入らないから永遠に恋をすることが出来ると?」

 

「ああ、真名のとおり花から花へ飛び移る蝶のようにな。だから違う恋を見つけたらすぐに他にわたるかも知れん」

 

「ふむ、それもまた人生の楽しみ方の一つかもしれないわね」

 

華琳は満足したのか男に更に寄りかかり伸びをし、手を下ろすと男の腰に携えた刀に手が当たった

腰に目線を持っていくと刀が二振りに増えていることに気がつきふと新しい方の刀を握った

 

「二本になってる」

 

「ああ、本当はもう一振りあったらしいんだが式に間に合わなかったようだ、この刀は桜の刻印が押してある正式な一本目だ」

 

「そういえば偉天の剣と青紅の剣は気をつけなさいよ」

 

「気をつける?何にだ?」

 

男は疑問をぶつけながら振り向くと、華琳は椅子の上に立ち上がり男を見下ろした

ニヤリと微笑むその顔は悪戯を思いついた子供の顔

 

「私の物になるなら教えてあげる」

 

「遠慮しとくよ」

 

男は前を向き、即答すると華琳は更に口の端を吊り上げて大きな声で笑った

 

「まぁその答えは解りきっていること。手に入りずらい物ほど手に入れたとき喜びも大きいというものよ」

 

「へいへい、頑張ってくださいな」

 

「なによその言い方、生意気ね」

 

華琳は男の首に素早く腕を回すとゆっくり締め上げる。

 

「うぐぐぐぐっ、首は卑怯だぞ」

 

「生意気なこと言ってるからよ」

 

「悪かったよ」

 

「わかればいいのよ」

 

そういって回した腕を解くと今度は男の顔を手で挟み、首を自分の方に向けてまたにやりと微笑んだ

 

「さて、次は春蘭に与える罰を邪魔した貴方に罰を与えないとね」

 

「へ?」

 

バチンッ!

 

華琳の平手が男の頬を撃つ、男は目をぱちくりさせて頬を押さえるとこれからなにをされるのか

想像がついたのか顔を青ざめさせ冷や汗をたらし始めた

 

バチン、バチン、バチン、バチン、バチン、バチン

 

「いたっ!いたたたたっ!ちょっ!ちょっとま、ぶっ!!」

 

「ウフッ!ウフフフフフフフフフフッ!」

 

倒れた男に馬乗りになった華琳の顔が徐々に恍惚に染まっていきその手は止まることを忘れてしまったかのように

男の頬を叩き続け、男は次第に涙目になっていく

 

「いやあああああああぁぁぁぁ!!!」

 

「うるさいっ!私の楽しみを邪魔した罰よっ!」

 

部屋には男の悲鳴と華琳の笑い声がこだまし、近くを通った侍女は身を震わせしばらく夜一人で

眠ることが出来なくなってしまったほどであった

 

 

 

「あ、隊長が戻ってきましたね」

 

「・・・あ、あれ隊長の顔の形変わっとるで」

 

「あはははは、痙攣してるのー」

 

華琳は隣の部屋からまた男の胸倉を掴んで玉座の間へと戻ってくると無造作に男を地面に放り投げた

凪たちは男の変わり果てた姿に心配をして駆け寄るが華琳は「放っておきなさい、そのうち起きるわよ」

と言って凪達の脚を止めてしまう

 

「さて春蘭、あなたには罰を受けてもらわないと、今夜私のところに来なさい」

 

「は、はいっ!華琳様っ!」

 

「姉者」

 

喜ぶ春蘭に桂花はまた舌打ちをする、その隣で秋蘭は男を指差した。ちゃんと礼を言えということだろう

それを見た春蘭は頷きすぐさま男に駆け寄りしゃがみこんで優しく頬を撫でる

 

「ありがとう、助かった」

 

「夜まで待つのも面倒ね、行くわよ春蘭」

 

「はいっ!」

 

そういうと二人は玉座の間から出て行き、桂花もここにはもう用はないと部屋を出ていった

 

「大丈夫か?姉者を助けてくれてありがとう」

 

「いたたた、久しぶりに喰らったが痛いなさすがに」

 

「当たり前だ、だが華琳様が良い顔をされていた」

 

そういうと秋蘭は男のところで腰を下ろし、頭を自分の膝に乗せてやさしく髪を掻き揚げる

大の字になってねそべる男は回りに将達が居ても気にせず素直に秋蘭のしぐさを受けて満足に笑う

自分の主が昔の輝きを取り戻し、小さい頃のように戻れたような気がすることが嬉しくて

他の事は何も頭に入らなくなっていた

 

 


 
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