No.129551

輪・恋姫†無双 十三話

柏木端さん

十三話投稿です。
今回は……ワンクッションの話?
相変わらず、何進と華雄がボケを担当してます。
黄巾党の話もやっと終わりが見えてきました…。

2010-03-12 11:15:35 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2362   閲覧ユーザー数:2109

 

砦を落とすことに関しては完全に孫の手柄。曹もある程度の評価を受けるだろう。

 

黄巾党を壊滅させられる程度まで弱体化させたのは曹と劉の手柄。各地では劉備義勇軍の徳高さと共に伝わり、崇められている。

 

指導者に関してはどこかに討ち取られているのかどうか、定かではない。

 

官軍は討伐行でもほとんどが大した成果はなく、攻城戦では蚊帳の外。

 

局面は追撃戦に移っている。

 

三々五々に散っていく黄巾党。それを追いかける各陣営の旗。

 

そして、それとは関係の無い場所で、二人の男女が向かい合っていた。

 

「俺が獲物を抜く前に、視界から消えてくれると助かるんだが。」

 

「あなたのように無差別に攻撃を仕掛ける人間をこの先へ、私たちの王の元へ向かわせるわけにはいきません。」

 

男は漆黒の羽織を身に付けた黒髪黒目の相沢祐一。うつむき気味で表情は読めない。

 

女は忍び装束を身に付け、直刀を構えた長い黒髪の少女。

 

「別に、俺は火計をしかけた陣営の指導者さんに一つ聞きたいことがあるだけ。それがあんたの所じゃなければ関係ないし、そうだとしてもどんな答えを返してこようが戦いにする気はない。」

 

「あなたのような人間がそんなことを言って、それをどう信じろと?」

 

「俺からすればこんな策を採用した人間の方が『そんな人間』なんて呼び方をされるべきだと思うがな。」

 

「………」

 

相対している少女は周泰。今回の火計の言ってみれば実行犯である。

 

だが、何故眼の前の男がそんなもの言いをするのかがわからない。

 

あの火計になんの問題があったのか。他の諸侯たちからしてみても功績を一つ奪われたとしても砦の陥落は悪いことばかりではないはずなのに。

 

「どけ。」

 

「断ります。」

 

「じゃあ……」

 

「…?」

 

 

「強引にでもどいてもらう。」

 

 

「!!?」

 

気がついた時には既に自分の隣に拳を構えた祐一がいる。

 

混乱の中、愛刀を振りぬこうとするがその手をつかまれ、

 

 

「……え?」

 

 

気がつけば宙を舞っていた。

 

「無拍子っていうんだ。覚えとけ。」

 

柔道の一本背負いのように投げ飛ばされるが、柔道なんかではつかんだままの腕を離され、祐一の進行方向とは真逆に吹き飛ばされる。

 

「くっ…!」

 

体制を崩しながらもなんとか着地するが祐一は視認できない。

 

完全に、してやられた。

 

 

一方の祐一、冷や汗なんてものではなかった。

 

無拍子というのは、膝抜きのような技術で予備動作の一切をなくし、相手の懐に飛び込むもの。

 

通常であれば打ち抜かれてから接敵されたことに気づくほどの完成度にはしてある。

 

それを相手の呼吸まで読んで、相手が呼吸を吸いわずかに浮き上がった瞬間という最高のタイミングで発動させたもの。

 

相手の虚を付けたことに違いはないが、自分が攻撃を繰り出す前に反撃を出されそうになったのだ。

 

今回はそれほどパワーのない相手で、偶然上手く投げ飛ばせたからよかった。あのまま一騎打ちの殺し合いになればどう転ぶかわからなかっただろう。

 

だが、次に相対すれば同じようにいく保証はないし、愛紗や鈴々なみのパワーで振られていれば上手く投げられず掴んだ手こと振りぬかれて初見で打ち破られていたかもしれない。

 

そしてその結末は怪我ではすまなかっただろうとも予測がつく。

 

「はあ……」

 

らしくない。本当にらしくない。

 

なんだこのざまは。

 

右肩に深手とはいえないまでも矢を受けて血を流し、相手の力量をきちんと測ることもしないで飛びかかる。挙句の果てに自分の切り札の一つを身体能力で破られそうになるとは。

 

「シリアスなことに熱くなりすぎだ。自分よ。冷めろ。あんな記憶の再現を見たくらいでいちいち我を見失うな。」

 

頭を振り、いつもの祐一に戻る。

 

「さて、何処の誰かはわからんが待ってろよ臆病もの。お前の中身を見定めてやる。」

 

祐一はとりあえず一番近い陣営に向かう。

 

その先は、先ほど覗こうと思ったが戦が始まりそれどころでは無くなった陣営。孫の旗の下。

 

 

 

 

「か、華雄さん!華雄さん!追撃だよ!!きっと今逃げてる中に、た、たいへんきょーしの張角さんとかがいるんだよ!!」

 

「言われなくても追撃には向かうつもりだが、大変教師とは何だ?何をどういう風に教えればそんな呼び名がつくんだ?」

 

「あ、あれ?違った?」

 

「いや、私も知らんが。」

 

「じゃあきっとこれであってるよ!みんながそんな風に呼んでたんだもん!」

 

「そうか。では私は黄巾党の追撃に出るが、お前はどうするんだ?」

 

「ボクも出るよ。戦いはできないけど指揮だけならできないこともないから!」

 

「よし!では行くぞ!!皆の者!これより黄巾党を追撃する!!必ず大変教師なる指導者を見つけ、討ち取るのだ!!!」

 

失笑、ツッコミ、その他もろもろ飲み込んで頑張った『おおおぉぉぉー!!』という官軍たちの叫び声こそが愛されている二人への優しさの表れだろうか。

 

 

「敵味方関係なく襲いかかる男?」

 

「ああ、冥琳から伝令が来ての。策殿の手綱をしっかり握れと言ってきおったわ。」

 

「ふーん……」

 

黄巾党の追撃を行っている部隊。その中の孫の旗を掲げるもの。

 

孫呉の王と宿将の会話である。

 

「ねえ、祭?」

 

「なんじゃ?」

 

「その男、なんか面白そうじゃない?」

 

楽しげとは程遠い、獰猛な肉食獣のような笑み。

 

「まあ、策殿や冥琳が何と言おうと今ワシらは黄巾党の追撃が優先。その男とも会うことはないじゃろ。」

 

「そうかしら、なんか私は私たちの思惑云々なんて関係なくその男に会う気がしてならないんだけど。」

 

「それは策殿の勘か?」

 

「ええ、勘よ。」

 

そして、孫呉の王と宿将はゆっくりとある方向を向く。

 

「知ってるでしょ?私の勘はよく当たるのよ?」

 

「ほんと、規格外な連中の多いこと。」

 

振り向いた先にはあきれたような笑顔でため息をつく祐一の姿があった。

 

「あんたらか?この火計を仕掛けた部隊は?」

 

 


 
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