No.126952

真・恋姫†無双 臥竜麟子鳳雛√ 7

未來さん

前回の後書きで虹子が嫁ということを公言したことで
『この作者□リどころか○ドかよ』というツッコミが入るかと思われましたが、そんなことはなく一安心でしたww


最近原作を知らないのに劇場版を見るということにハマっています。

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2010-02-27 09:15:16 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:26393   閲覧ユーザー数:17251

「はぁぁぁぁあああ!!」

 

 

ブンッ!!!

 

 

「ぐああああ!!」

「うわああぁぁぁ!」

 

 

華雄が右手で金剛爆斧を一振りするだけで、何人もの袁術軍兵士が地に伏す。

これでも加減しているのだから、恐ろしい。

 

 

「確かに陳宮の言った通りだな。屍でもない者を踏み越えるわけにはいかぬか……」

 

 

痛みでうずくまる兵が辺りを埋め尽くす。

数人の無傷な兵は彼らの治療を行おうと、肩を貸すなどして後方へ下げようとしている。

 

しかし、その数は華雄の猛攻により増え続け、まさにイタチごっこである。

 

 

「周泰の策もただ甘いものかと思っていたが……時間稼ぎにはちょうどよい」

 

 

最初聞いた時は『あのような愚者たちに何甘いことを!』と思ったが、実践して成果が出ると考えも変わるもの。

何より………。

 

 

「ヤツらは憎いが……今は董卓様のことのみを考えなくては………」

 

 

ということなのだ。

 

 

 

 

 

「あら。ホント好き勝手やってるわねー。さながら地獄絵図ね」

 

 

独り言のように呟くのは、袁術の客将・孫策。

あまりにも凄惨な戦場を眼前にしながらも、どこか他人事のように語る。

 

 

「……孫策か。お前の母・文台には世話になったな」

「……私から言おうと思ったのに台詞取られちゃったわね。……もう猪ではないのかしら」

 

 

向こうからわざわざ因縁の相手の話をするとは思わなかった。

愚かに勇み出て母と対峙していたあの頃とは違うのだろうか……。

 

 

「陳宮などには未だに猪などと言われるがな。だが…………」

 

 

華雄は改めて金剛爆斧を構え直し

 

 

「今は違う」

 

 

言い放つ。

 

 

「へぇ。変わったわねー華雄。母様と殺り合ってた頃とは大違い。何か、いい顔してるわよー」

 

 

ニシシ、と孫策は少女のように無邪気に笑う。戦場にも関わらず、旧縁の友と話すように……。

 

 

「人など変わろうと思えばいくらでも変われる。私も、汜水関から退くまでは昔と大差なかったからな」

 

 

感慨深く話す華雄。これまでの行いを後悔するかのように……。

 

 

「ますますおもしろいわねー。それじゃ………始めましょっか♪」

「あぁ」

 

 

こうして2つの刃が交わる……と思われたその時。

 

 

「策殿ーっ!!!」

 

 

怒声にも似た声が響き渡った。

 

 

「ん?」

「やっば……」

 

 

走ってくるのは弓を携えた妙齢の女性。

元々褐色なその肌は、走ってきたことよりもむしろ憤怒で赤くなっている。

 

 

「策殿、何をしておる?」

 

 

眼光鋭く睨む女性に、孫策は乾いた笑いを飛ばす。

 

 

「ア、アハハハハー。ちょ、ちょっと野暮用をねー」

「ほぉ。このような戦場で?」

「ちゃ、ちゃんと冥琳には言ってきたわよ?」

「あれは『言った』のではなく『有無を言わさず手刀で気絶させた』の方が正しい言い方じゃな」

「…………」

「さ・く・ど・の!」

 

 

文字を1つ1つ丁寧に読み上げる女性。こんな名前の呼び方はなかなかない。

 

 

「だってー。絶対籠城すると思ってた虎牢関で、こっちが口上もせずに出てきたのよ?

 絶対おもしろいことになるに決まってるじゃない!」

 

 

妙齢の女性もほとほと呆れるようなことを言う孫策。好奇心旺盛なのは結構だが……。

 

 

「それもこっちに来たのが“あの”華雄!私が出ないわけにはいかないじゃない!」

「だから公謹には眠ってもらったと?」

「そう!」

「まったく、何を考えておるのじゃこの主は……」

 

 

額に手を当て、思わず嘆く女性。普段は自由奔放に過ごしているが、孫策相手には苦労人役に回らざるを得ない。

 

 

「それに………」

 

 

孫策は女性から視線を外し、華雄に向ける。

 

 

「袁術の兵が敵う相手じゃないわよ?もしかしたら……私と祭でも危ないかもね」

 

 

緊張からか、一筋の汗が孫策の額を伝う。それほどまでに、華雄には“風格”というものが滲み出ている。

 

 

「確かに……これは思った以上の強敵じゃな」

 

 

“祭”と呼ばれた女性は、目を細めて華雄を見る。それはさながら、獲物を見定める猛禽類のよう。

 

 

「あまり時間はないぞ、孫策」

 

 

2人の話が長くて思わず警告する。もう制限時間の半分になっているのではないだろうか?

 

 

「あら、そうなの?ざんねーん。じゃーさっさと始めなきゃね♪」

「まったく、本当に世話のかかるお方じゃ。

 儂の名は黄蓋じゃ。手合わせ願うぞ、華雄」

 

 

臨戦態勢に入る孫策と黄蓋。一般兵が持ち合わせることのない覇気を感じ、華雄は微笑んだ。

 

 

「来い、孫策、黄蓋。董卓様への忠義にかけて、私はお前たちを止める」

 

 

 

 

袁術軍客将・孫策が華雄と対峙していた頃、袁紹軍将軍・文醜と顔良の息はすでに荒くなっていた。

 

 

「ぜぇぜぇぜぇ…。斗詩ー。あいつ化け物だってー!!」

「はぁはぁ…。だから言ったじゃなーい!私と文ちゃんだけじゃ無理だってー!」

 

 

2人が対峙するは飛将軍・呂布。

一般兵をはるかに凌駕する武を持つ2人でも、天下無双と謳われる彼女の相手は、あまりにも荷が重すぎた。

 

 

「……………………おまえたち……………弱い」

 

 

呂布は2人に聞こえるギリギリの声量で呟く。息は一切乱れず、その余裕ぶりが窺える。

 

 

「…………………恋、もう少し本気出す」

 

 

いっそこのまま、周囲の兵を含めて気絶でもさせた方がいいのではないか。

そうすれば、袁紹軍は簡単には虎牢関に近づけなくなる。将がいなければ、指揮系統は乱れるはずだからだ。

 

 

…………と、普段はあまり考えることがない呂布は、そんなことをぼんやりと、抽象的に思う。

 

そう、呂布も必死なのだ。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

元々呂布は、董卓との主従関係など意識したことはない。

 

『月は大事な友達』

 

呂布にはその程度の意識しかない。董卓自身にとっても、それは同じだ。

 

 

他人から見れば“その程度”

だが、呂布にとってこれ以上のことはない。

 

自分の“家族”と共に、絶対に守りたい人。もちろん、その守りたい人の友達も。

 

 

 

 

だから、明命から董卓を救う方法があると聞いた時は、心から喜んだ。

明命の真名の真贋も確かめたりしたが、それは明命のことを何と呼べばよいか分からなかったから。

深い意味などない。始めから明命のことを疑ってなどいないのだから。

 

 

『月たちのことを助けられる』

『明命も恋の友達』

 

 

呂布の中で2つの確定事項が揃っていれば、行動は自ずと決まってくる。友達のことを信じて、進めばいいのだ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

普段はあまり考えることのない戦術というものに思いを巡らせていた時、呂布は陳宮のある言葉を思い出した。

 

 

『霞殿、曹操は袁紹や袁術とは訳が違いますぞ。何を考えてるか分からないのです。十分注意するですぞ!』

 

 

 

「…………………早く終わらせて、霞の所行く」

 

 

気合いを入れ直す。霞なら心配ないとは思う。

それでも、自分に出来ることは精一杯したい。霞も大切な友達であることには変わりないのだから。

 

 

「ふっ!」

 

 

小さく息を吐き、駆けだした。

 

目指すは文醜・顔良の袁紹軍2枚看板。

方天画戟を鋭く振って、呟いた。

 

 

「…………寝てて」

 

 

 

 

時同じくして、ここは曹操軍前衛。

愛馬と共に一般兵を薙ぎ倒していた張遼だが、将らしき者に引き止められ、今は馬を降り対峙している。

彼女達は楽進、李典、于禁と名乗った。

 

 

 

 

「やああぁぁ!!」

 

 

張遼と距離の近かった于禁が突撃をかける。

あまり戦闘が得意ではない彼女も、先程から自身が持つ最大限の力で、2本の剣を振り下ろしている。

 

 

 

 

だがその剣筋は実に分かりやすい。まるで素直な彼女の性格同様であり、読まれやすい。

 

 

「せやから甘い言うてんねん!」

 

 

振り下ろされる刀に合わせて、偃月刀を横に振るう。

力で劣る于禁はその衝撃に耐えられず、その手から剣を離す。

 

 

「きゃあぁ!」

「ぅりゃああぁあぁあ!!」

 

 

李典が続く。狙いを張遼の胸部に向け、素早く突く。

が、張遼はすぐに視界で捉える。

 

 

「業物がデカすぎんのも考えものやな」

 

 

だから見極めやすい。

李典が持つ螺旋に一当てして軌道を変えると、反動で流される李典の腹に偃月刀の柄を叩き込む。

 

 

「かはっ……!!」

「真桜!くっ、であれば、武具など持たなければいい!」

 

 

己の拳のみで戦う楽進が一気に間合いを詰めてくる。

近距離戦は得意中の得意。それが彼女の持ち味であり、体に刻まれた傷の所以。

 

 

「考えはエエんやけどなぁ」

 

 

本来なら肉弾戦を避け、間合いを取って戦うところ。だが……

 

 

「にひひ」

「なっ?!」

 

 

あえて距離を詰める。楽進が詰め切る直前に張遼も前進し、低姿勢で掌ていを見舞う。

 

 

「ガッ!!」

 

 

モロに衝撃をくらい、後ろへ飛ばされる楽進。まともに地面に着地することもままならず、背中を強く打つ。

 

 

「っ!」

「やってみるもんやなー体術も。恋に教わとって良かったわー」

 

 

飛将軍直伝の体術を実戦で使うのは初めてだ。

 

 

「つ、強いのー」

「あの姉さんバケモンなんとちゃうか?」

 

 

3人の表情が現状を語る。こちらはまだ掠らせることしか出来ていないのに、向こうは戦闘を楽しむ余裕すらある。3対1にも関わらず、力に大きな開きを感じる。

 

 

「凪でも無理なんか?」

「………隙がない。一見飄々としているが、目は完全に獣のそれだ」

「凪ちゃんでもー?それじゃ沙和には絶対ムリなのー」

 

 

やたら無闇に突っ込むのは得策ではない。ここは3人息を合わせ、同時にかかるしか……。

 

 

 

 

「何をやっているのだ、お前たちは!」

 

 

そんな時、突然背後から怒声が響いた。

 

 

「3人で挑んで手こずるなど、曹操軍の名折れだ!!」

「も、申し訳ありませんっ」

「せやかて春蘭様ー。あの姉さん半端やないですよー」

「そうなのー。すっごく強いのー」

 

 

現れた上官らしき女性に弁解の言葉を述べる3人。その言葉を聞き、張遼へ向き直る女性。

 

 

「我が名は夏侯惇!張遼、華琳様の元に来ないか?!」

 

 

張遼はその発言に思わず前のめりになる。

 

 

「何で第1声がそれやねん?!もっと言うことあるやろ?!」

「??? 何だ?」

 

 

張遼にも、夏侯惇の頭にハテナが浮かんでいるのが見える。

 

 

「いや、ウチってあんたらの敵やん。もっとこー…なんつーかなー。

 『お前の墓場はここだ!』みたいなこと言えへんの?」

「華琳様がそれを望んでいないのだから、仕方ないだろう」

「そういうことだ、張遼。我々の仲間となってはくれないか?」

 

 

現れたのはもう1人の女性は片目を隠すように髪を伸ばし、非常に落ち着いた雰囲気を漂わせている。

 

 

「曹操軍の弓使い………夏侯淵か」

「あぁ、紹介が遅れて申し訳ない。張遼よ。我々の願い、聞いてくれないか?」

 

 

夏侯淵の言葉を噛み締めるように聞いた張遼は、静かに答える。

 

 

「ええよ」

「本当か?!これで華琳さまに「せやけど」?」

 

 

夏侯惇の言葉を遮り、張遼は笑う。にこやかにではなく、口を歪めて。

 

 

「ウチを負かせられたらの話や。面倒やから5人でかかってきぃ。

 言うとくけど、今のウチは……負ける気がせぇへんで!!!」

 

 

彼女は嗤う。あどけなく、無邪気に、高らかに。

 

 

 

 

「もう少し……もう少しなのです……」

 

 

陳宮が砂時計と戦況を交互に見ながら呟く。

時機に全ての砂が下に落ちる。砂が全て落ちれば、そこからは自分の出番だ。

 

 

親愛なる呂布は袁紹軍を圧倒し、猪突猛進な華雄は袁術軍を蹂躙し、自由気ままな張遼は曹操軍を翻弄する。

本当に予想以上の成果だ。大きな戦果を挙げてくれた3人の行いを無駄にしたくはない。

 

 

「3人とも、調練の時と比べものにならないくらいの戦いですな……」

 

 

呂布の戦いぶりは正に天下無双。

袁紹軍は2将軍以外めぼしい将がおらず、元から役者不足気味なのだが、それにしても凄まじい。

 

 

迅速に索敵し。

敵に向かって疾く駆け。

素早く戟を叩き込み。

再び索敵する。

 

 

この繰り返し。だがその動きは常人のそれではなく、幾度も繰り返される。

金色の鎧と相俟って大きな月のような大群であった袁紹軍には、大きな”欠け”が生じていた。

2人の将も、既に眠りについている。

 

 

 

 

華雄もまた同様。敵を見つけては大きく斧を振るい、袁術軍の山を築く。

策の真意を戦いながら学んでいるようで、軍師を務める陳宮としては、心なしか嬉しく思う。

その華雄も先程から袁術の客将2人と当たっているが、押しているように見える。

周辺の兵への警戒もしっかりできているようだ。

 

 

 

 

呂布・華雄の活躍も目覚ましいが、張遼の奮闘ぶりはそれ以上だ。

 

曹操軍の練度は他の2つとは明らかに違う。対人戦での体の流れや隊列の成りなど、そういったものが正確なのだ。

さらに、曹操軍にも有能な将がいる。それこそ、将の質だけならこの連合の中でも5指に入る程の猛者たちが。

 

しかし。

 

それらを相手にしても決して怯むことはない。呂布にも迫ろうかというほどの剛を、今の張遼は有しているのだ。

 

 

「月殿も詠殿も……聖様も護様も、愛されておりますな………」

 

 

呂布・華雄・張遼。この3人が普段以上の力を出せている理由など、容易に想像が出来る。

本当に大事だから、守りたいと思うからこそ、己を超えた力が出せるのだ。

 

 

「“奪う者”と“守る者”とでは背負う重みが違いますぞ、連合軍ども……」

 

 

小さく呟いて、目を細める。己の保身や欲のために結成された連合と、こちらはわけが違うのだ。

守りたい者を守るために戦う。その信念がなければ、この場に居合わせるわけもない。

 

 

だがその連合の中でも……

 

 

「十の牙門旗……明命殿の本当の主、『天の御遣い』………」

 

 

異彩を放つ集団。その真意はごく僅かにしか知られていない、連合の存在意義すら否定する軍である。

陳宮は北郷軍に対する考えを巡らせようと思ったが、少し考え、やめることにする。

 

 

「今はあいつらのことじゃなくて、恋殿や月殿たちが重要なのです」

 

 

頭を振るい、北郷軍への意識を彼方へ追いやる。目の前の現実を片付けなければ、未来を想像しても意味がない。話なら、後でじっくり聞けばいいのだ。

 

 

視線を砂時計に戻すと、最後の1粒がちょうど落ちるところだった。それを見届け、兵たちが待つ後ろを振り返る。

 

 

「銅鑼を鳴らすです!弓兵と槍兵は城壁より敵進軍の阻止!

 それ以外は、将軍たちが虎牢関に戻り次第、城門の死守に当たるです!」

 

 

陳宮の声で兵たちが更に気を引き締める。与えられた任を全うするために。

 

 

「董卓軍の名にかけて……ここを通すわけにはいきませんぞ!!」

「「「おおおおおおおおぉぉぉぉおおおおお!!!!!!」」」

 

 

 

 

「……まさかこれほどとはな……」

「正に鬼神……と言ったところか、姉者?」

 

 

ここは曹操軍前衛。

5対1という圧倒的な数的優位にも関わらず、夏侯惇たちは張遼に決定的な一打を決めきれずにいた。

 

 

「へへっ、情けないなぁ。……はぁはぁ……5人で掛かってきて……これかいな……」

 

 

だがその張遼も疲労困憊。将5人を相手にしての大盤振舞。疲労がないわけがない。

 

 

「随分疲れているように見えるがな」

「はぁはぁ……当たり前や。曹操軍の将5人相手に……ぜぇ……よぉやったわ、うち。

 後で……ねねか月に褒賞もらわなアカンなぁ」

 

 

こんな時ですら、冗談混じりの台詞を言う所が張遼らしい所である。

 

 

「そうか……。ではわたしも本気でいかなくてはならんな」

 

 

夏侯惇のその言葉に、張遼は思わず苦笑いする。

 

 

「あぁー……惇ちゃんやっぱり本気やなかったんや」

「いくら何でも5対1では不粋極まりないからな。……無論、疲れ切ったお前を相手するのも、納得はいかん」

 

 

本来ならサシでやりたかった所。だがそこを夏侯淵に抑えられた。

『華琳様のためだ』と。

 

 

「そろそろお前を捕らえて、華琳様へ献上しなくてはな」

「容赦ないなー。でもまぁ………」

 

 

張遼は改めて飛龍偃月刀を構える。

 

 

「そっちがヤる気なら、うちもヤるけどな」

 

 

 

 

その気迫は、5人と対峙した時となんら変わりない。

いや。それどころか、あの時より増している。

 

 

「ホンマに化け物やで、あの姉さん……」

「……すごすぎるのー」

「くっ……これほどまで差があるとは……」

 

 

少し前から対峙していた李典・于禁・楽進の3人は、唖然として張遼を見つめる。

 

 

「………どうする姉者」

「どうするもこうするもない!張遼を捕らえて華琳様に喜んで「待ちなさい、春蘭」…え?」

 

 

突如背後から声を掛けられた夏侯惇は、気の抜けた声を上げる。

 

 

「ここは剣を納めなさい、春蘭」

「か、華琳様っ?!しかしっ「春蘭」は、はい……」

 

 

明らかに納得いかない様子ながらも、大人しく剣を納める夏侯惇。

 

 

「だいぶお疲れのようね、張遼」

「…自己紹介もしてへんのに名前呼ばれんのは気味わるいもんやで、曹操」

「………それはお互い様みたいだけど?」

「……ははっ。それもそうやなー」

 

 

曹操の返しに対して、張遼は愉快そうに笑う。

 

 

「……私のモノになる気はないのかしら?」

 

 

曹操は目を細めて、張遼に尋ねる。

 

 

「……ないなぁ。生憎うちにはそんな趣味もないねん」

「……もう少しまともな理由を聞かせてほしいのだけれど?」

 

 

曹操はまるで張遼を試すように、言葉を連ねる。果たして張遼の真意はどこにあるのか、と。

 

 

「まぁ聞かせてやりたいのも山々なんやけど……」

 

 

ドオオオォォォン!

ドオオオォォォン!

 

 

「時間切れや」

 

 

ニカッと笑う張遼。徐々に6人との距離を離す。

 

 

「また会うた時は頼むでー」

「ま、待ちなさいっ!」

 

 

曹操の言葉を聞かず、立ち去ろうとする張遼。後は反転して、虎牢関まで駆ければいいだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だったのだが…

 

 

ブスッ

 

 

「ぐあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

どこからともなく飛んでた矢が、張遼の左目に突き刺さった。

 

 

 

呂布が曹操軍の前線にたどり着いたのは、銅鑼の音が響く直前。

袁紹軍の数が思った以上に多く、時間がかかってしまった。

 

 

 

 

曹操軍を蹴散らしながら張遼を探し、ようやく後ろ姿を見つけることが出来た。

銅鑼の音も響いた。

あとは虎牢関に帰るだけのはずだった。

 

 

 

 

 

……1本の矢が、張遼の目に突き刺さるのを見るまでは。

 

 

「霞!」

 

 

彼女の元まで駆け寄り、普段は出さない大きな声で友達の名を呼ぶ。しっかりその耳に届くように、と。

 

 

「霞!霞!」

「ぐぁ……ぁぁぁぁ!」

 

 

苦しげに悶える彼女を見て、呂布は曹操軍へ視線を移す。

その瞳を、怒りで彩って。

 

 

「………殺す」

 

 

地に置いた戟を再び手にし、曹操軍目指して駆ける。

 

 

「っ?!」

「…………」

 

 

そのはずだったのに、出来なかった。彼女の袖は、友達の手に強く握られていたから。

 

 

「……霞、離して」

「アカン…」

「霞っ!」

「アカン!!!」

 

 

悲痛な声を上げる呂布と、俯きながらも叫ぶ張遼。

 

 

「……あいつら霞のこと傷付けた」

「敵なんやから当たり前や」

「許せない」

「許せとは言わん。でも殺すんはアカン」

「なんでっ……」

 

 

呂布には分からなかった。大事な友達が傷ついても尚、無理矢理自らの感情を殺さなくてはならない理由が。

だから言外に叫んだ。

 

『離してほしい』と

 

『曹操軍を壊滅させる』と

 

 

 

 

しかし張遼から返ってきた言葉は、呂布の思い至らぬモノだった。

 

 

「明命との約束忘れたんか!?」

「っ?!」

 

 

張遼の一言に、呂布の動きが止まる。

 

 

「明命かて頑張ってんねん。うちらも頑張らなアカンやろ?」

「………」

 

 

張遼の言葉に呂布が押し黙る。

 

 

「あの娘がおらんかったら、うちらはジリ貧やった。月たちかて……助からんかったかもしれんやろ?」

「…………………うん」

「明命はうちらの光なんや。せやから……あの娘との約束くらい、守らしてくれへんか、恋」

「………分かった」

 

 

呂布の力が抜ける。そんな呂布に、張遼は心から感謝する。

 

 

「おーきに……恋、帰るで。うちの馬、連れて来てくれへんか?」

「……………うん」

 

 

呂布は近くで曹操軍を蹴散らしていた馬へと駆け寄っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふー」

 

 

今は痛みが引いている。だが、いつぶり返すかも分からない。

であれば、あの問いに答えてやってもいいかもしれない。

 

 

「曹操」

「………何」

 

 

張遼の呼び掛けに、曹操は険しく苦々しい表情で答える。

 

 

「理由、聞かせたってもええで」

「………なら、聞いておこうかしら」

 

 

曹操の表情は変わらない。先程と変わらず、険しい表情。

 

 

「うちらの主君の月…董卓はな、主君の器やない。人を傷つけるんができんような、甘い性格やねん。

 上に立つもんがそないな性格やとアカンことは……あんたもよぉ分かってるやろ?」

「……えぇ、そうね」

 

 

曹操も同じ太守である。その辺りの考え方は、張遼自身よりもよっぽど分かっているだろう。

 

 

「せやけどな……」

 

 

まだ大きな痛みはない。まだ、喋ることが出来る。

 

 

「そんな甘い太守がおってもエエんやないかって思えてん。あんな娘が治めるトコは、平和に違いないやろーって」

「………だからこそ、こんなことに巻き込まれる。……違うかしら?」

「アハハハ……そうかもしれへんなぁ。

 でも…見てみたいって思ったんや。うちは根っからの武人やから、めっちゃ暇になってまうかもしれんけど……

 あの娘が治める平和な町を、見てみたかったんや」

 

 

毒気を抜かれるような、張遼の清々しい笑顔。その顔を、曹操は黙って見つめる。

 

 

「それに、ウチらの主君は優しい上に可愛いしなぁ。何つーか、守ってやらなアカンって気にさせんねん」

「…そうゆう趣味はないんじゃなかったのかしら?」

「うちのは純粋な保護欲みたいなもんやからな。そっちとは違うでー」

 

 

クククッと意地悪そうに笑う。それに釣られるように、曹操も口角を上げる。

 

 

「………霞」

「お、恋おーきに」

 

 

言うや否や、呂布が連れて来た自身の愛馬に跨がる。席は呂布の前。特等席だ。

 

 

「…今回は見逃してあげる。だからさっさと行きなさい」

「華琳様っ?!」

「いいのよ、春蘭。また逢いましょう、張遼」

 

 

曹操の言葉に何故か嬉しそうに笑う張遼。何を思ったか、左目に刺さった矢に手を掛ける。

 

 

「霞っ」

「心配せんでええって…………あああああああ!!!」

 

 

手に力を込め、左目を顔から引きはがす。

 

 

「はぁはぁ………曹操っ!!」

 

 

張遼が投げたのは、左目が尚刺さったままの矢。

 

 

「気持ち悪ぅて敵わんかもしれんけど、見逃してくれる礼や。焼くなり煮るなり、好きにしぃや!」

「…………ハハ、アハハハハ!」

 

 

曹操は突然空を見上げ、高らかに笑う。これほど愉快なことはない、と。

 

 

「料理などに使うのは勿体ないわね。いいわ、もらってあげる!神速・張遼の左目を!!」

 

 

天空に掲げる。この連合で得た、最高の宝だ。

 

 

「……ホンマ、器のデカイヤツやなぁ。恋、頼むわ」

「……………うん」

 

 

呂布が握った手綱が、馬を軽やかに走らせる。そのまま2人と1頭は曹操・袁紹両軍を突っ切っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「……よろしかったのですか、華琳様」

「いいのよ、桂花。張遼とはいずれまた会うでしょう」

 

 

それは確かな予感。だが……

 

 

「……次も敵同士でしょうけどね……」

 

 

曹操のつぶやきは誰に聞こえることもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして虎牢関に戻った張遼と呂布だったが………

 

 

「おのれ連合軍め!張遼をこのような姿にっ!陳宮、出るぞ!」

「分かってますぞ!あの馬鹿共、泣いて詫びても許さないですぞっ!!」

 

 

華雄と陳宮の導火線に火が点いていた。

 

 

「落ち着け言ぅてんねん、お前ら!ほら、恋も手伝ってや!!」

「…………やっぱり許せない」

「なんでそうなんねん!!」

 

 

止めるどころか、加勢すらしかねない呂布の発言である。

 

 

「あんたらには怪我人を休ませるゆー気遣いはないんかーーー!?!?!」

 

 

張遼がゆっくり休めたのは、この数分後のことだった。

 

 

 

 

虎牢関での攻防は数日続いた。

数では圧倒的優位に立っていた連合軍も、呂布・張遼・華雄の突撃により出鼻と戦意を挫かれ、手を拱いてた。

袁紹・袁術・曹操という、連合軍でも5指に入る勢力相手にあれほどの力を見せ付けたのだ。

その他の微々たる勢力には、彼女達の武勇が余程脅威に映ったことだろう。

 

そんな中、一刀たちは汜水関での活躍があったせいか未だに後方を任されており、

言い方は悪いが『暇を持て余す』状態だった。

 

 

「むー……暇だねーお兄様ー」

 

 

一時的に仲間に加わった馬岱こと蒲公英であったが、特にすることもなく少女たちとの会話に華を咲かせていた。

 

ん?呼称がおかしい?そんなことは推して知るべし。

 

 

「しょうがないだろ?ホントに今俺達に出来ることはないんだから」

「万が一に備えて、董卓さんたちの護衛が出来れば良かったんだけど……」

 

 

雛里が言う通り、事実董卓たちの護衛は明命隊の一部で組まれた少数精鋭に任されている。

万が一の事が起きると、対処がしにくい。

 

 

「でもここで不自然に一軍が連合から抜ければ、怪しまれるのは必然だよ」

「袁紹さんや袁術さんは、言いくるめられるだろうけど……曹操さんや孫策さんは……」

 

 

朱里・麒里の言うこともまた、その通りである。おそらく無理であろう。

何かしら疑われ、密偵などを出されるのがオチなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

そんな北郷軍に吉報が届いたのはそれからわずか数十分後。明命の部隊からだった。

 

 

「周泰様が雍州へ入られました。劉弁様と劉協様、並びに董卓様たちもご無事です」

「そっか……良かったぁ…」

 

 

一刀の体から力が抜ける。

 

 

「今頃はもう、我々の領内に入られているかと」

「うん、ありがとう。疲れただろ?ゆっくり休んでくれ」

「はっ。ありがとうございます」

 

 

報告を終えた若干名は、体を休めるために下がっていった。

 

 

「……何とか切り抜けましたね」

「あぁ。後は董卓軍のみんなだな」

 

 

朱里の言葉に聞き、一刀は早速次のことを考える。いよいよ最終段階である。

 

 

「そ、それではご主人様っ。袁紹さんの所に策の進言をしに行きましょうっ」

「よしっ。それじゃ、念のため簓もついて来てくれないか?他のみんなは準備と……たんぽぽへの説明をお願い」

「了解だよっ、かず君!」

「ん?お兄様ー、策なんてあるのー?」

 

 

蒲公英は可愛らしく首を傾げ、一刀に尋ねる。

 

 

「題して『コンビニシフト作戦』!」

「こんびにしふと?」

 

 

蒲公英はその可愛らしい丸い瞳を、さらに丸くした。

 

 

 

 

「傷は痛むか、張遼」

 

 

空の黒が濃さを増した頃、張遼は城壁で声を掛けられた。声の主は華雄だ。

 

 

「ん~?まぁ今は痛み引いてんでー。一時はホンマやばかったけどなー」

 

 

苦笑いしながら張遼が答える。虎牢関に下がった後、たまに痛みがぶり返しては、悶え苦しんでいた。

 

 

「せやけど………今めっちゃ気ぃ重いねん」

「ん?何かあったか?」

 

 

何か気に病むことでもあったのだろうか?籠城は上手くいっていたはずだが…。

 

 

「いや、この眼なんやけどな……」

 

 

今は眼帯で覆われている左目を指差し、憂鬱そうに話す。

 

 

「こんなん見せたら月や聖様辺りが泣くに決まってるやん。

自分らのせいやないのに『私たちのせいで-』って感じの反応するんやでー、きっと」

「ふふっ、そうかもしれないな」

「あの娘ら泣かさんように頑張ろー思うとったのに……あーもー!ツメが甘かったわ!」

 

 

子供のように悔しがる張遼。そんな張遼の姿が面白くて、華雄もクククと笑う。

 

 

「自業自得だな、張遼。別れ際の挨拶などしているからだ」

「……汜水関で突進した猪に言われたないわー」

「ぐっ……」

 

 

張遼は的確な反論をして口笛を吹く。華雄は何も言い返せず、頬を小さく膨らませてイジける。

 

 

「にひひっ。かわええなぁ、華雄もっ」

「からかうなっ!」

 

 

そんな言葉は自分には似合わないと、華雄は顔をほんのり赤くして怒鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

しばし静かな時が流れた後、張遼は目を細めて連合軍へ視線を向ける。

 

 

「……最後の大芝居やなぁ」

「…やはり天の御遣いを信じるか?」

 

 

華雄も目を細め、連合軍――特に前衛を務める北郷軍へ視線を向ける。

 

 

「あっちが示す策で月たちも雍州へ行けたし、ウチらにも目立った被害が出てないんや。その結果が全てやろ」

「………その先はどうする?」

「……本人を見てからやな。仕えてもええと思えるヤツなら、そのまま居座ることにするわ。

 華雄、アンタは?」

 

 

『愚問を』

尋ねた張遼にそう一言伝え、続ける。

 

 

「私は董卓様の臣下だ。董卓様が天の御遣いの下に身を置くというのなら、私も仕えることになるだろう」

「ホンマあんたは月のことが好きやなぁ」

「君主を好かぬ臣下がいるのか?」

「……ハハッ。おらんな、そんなヤツは」

 

 

互いに笑い合う。そんな2人の背後から、2つの人影が現れ、言葉を投げる。

 

 

「………見つけた」

「何をしているのですか?もう準備は出来ましたぞ」

 

 

相変わらずのんびり呟く呂布と、ようやく2人を見つけてやれやれといった様子の陳宮。

 

 

「案外早いやん」

「洛陽へ兵糧を運ばせるだけですからな。時間のかかるものではありませんぞ」

 

 

そう言いながらも、陳宮は張遼を見上げて安堵の表情を見せる。

いくら事の内容が単純だからと言っても、虎牢関を攻められながらの行為である。

通常の篭城より遥かに神経を使う。

 

 

「お疲れやったな、ねね」

「よくやってくれた、陳宮」

 

 

陳宮に労いの言葉をかける2人。そんな2人に陳宮は頬を軽く染めながら、毅然と言い放つ。

 

 

「あ、当たり前ですぞ!ねねを誰だと思ってるですかっ?!」

 

 

そうやって胸を張る陳宮に、もう1人が御褒めの言葉をかける。

 

 

「……………ねね、えらい」

「恋殿……お褒め頂き光栄ですぞー!」

「………何やねん、この差は」

「さぁな」

 

 

張遼・華雄共に苦笑いしか出ない。相も変わらぬ我らが軍師である。

 

 

「ねねー。いつまで恋といちゃついとんねん。もう仕上げなんやろー」

「……うぉっ。そ、そうでしたな。……この馬鹿げた戦いも終わりですぞ」

「あぁ。兵たちには感謝せねばな」

「……………十文字、来る」

 

 

虎牢関に残った者全ては、堂々とその時を待った。

 

 

 

 

月も真上に差し掛かるという真夜中。このような闇の中だというのに、連合軍は慌ただしく動いていた。

きっかけは一刀たちの進言、いわゆる『コンビニシフト作戦』。

関攻めにも深夜のシフトを敷こう、という策を実行に移すためである。

 

 

その策は今夜から始まる。映えある第一陣を務めるのは進言した当の本人、一刀たちである。

 

 

「最初はどうなるのかなー思ってたけど、何とかなったねー、お兄様」

 

 

蒲公英が笑顔を見せながら一刀に話し掛ける。

合流してからというもの、北郷軍に一層の明るさをを与えてくれている。

 

 

「言っただろ?俺たちの軍師たちは頼りになるから心配ないって」

 

 

我が事のように胸を張って喜ぶ一刀。

 

 

「策を進言したら『ではやってみなさいな』ですからね。正直助かりました」

「董卓軍の皆さんに苦労を強いることにならなくて良かったですっ」

 

 

麒里と雛里が答えるように……

もし自分達が前衛に回るのが遅かったら、それまで董卓軍は粘らなくてはならなかったのだ。

こんなにも早く前衛に来られたことは、幸運だった。

 

 

「袁紹さんも、虎牢関が汜水関同様に早期陥落しないことに焦っていたのでしょう。

 文醜さん、顔良さんも倒されてしまいましたから」

 

 

朱里の言は正しい。袁紹は明らかに焦っていた。

大事な2人の将軍が倒されたことと、虎牢関が総出になっても堕ちないことに。

だから一刀たちが進言した時は、半ばヤケになって前衛を任せたのだ。

 

 

「他のトゴは、やる気がねぇのが怯えてんのが分かんねぇけんど、

 前衛やろうなんてこれっぽっちも思ってねぇみてぇだしな」

「でも、それが功を奏したってことですよねっ」

 

 

千奈と流琉が述べたことも、この策の成功率を上げたことに与した。

 

 

「ホント、董卓軍のみんなには頭が上がらないな」

 

 

むしろ助けている立場だというのに、このような謝辞が素直に出る所が、実に一刀らしい。

 

 

「兄ちゃ~ん!準備出来たってー!行ってきてもいいー?!」

 

 

前方から季衣が走ってきて、一刀に報告する。そんな季衣の頭を撫でながら、笑って答える。

 

 

「あぁ、行ってこい!これが最後の仕事だからなっ」

「うん、分かった!流琉、たんぽぽ、行こっ!」

「はいはい、分かったから落ち着きなさいよ季衣」

「よしっ、最後くらいは頑張らなきゃねっ」

 

 

そう言って虎牢関へ向かおうとする3人。

 

 

 

 

 

 

そう、ある1人の将軍を除いて……。

 

 

 

 

 

「うぅ~。本当に私お留守番なのー、季衣ちゃーん」

「明命と戦えたんだから、それで十分でしょー簓はー」

「次は後方に下がるっていう約束ですよ、簓さん」

「うぅ…」

「それじゃお兄様っ、行ってくるねー!」

 

 

そうあっさり告げ、無情にも簓を残して虎牢関へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むぅ~……いいも~ん。私はかず君といちゃいちゃしてるから~」

 

 

若干ヤケになった簓は勢いよく一刀の腕に抱き着く。

さながらマシュマロのような彼女の胸が腕に密着し、動揺する。

 

 

「うわっ、ちょ、ちょっと簓っ。今それどころじゃ…」

「あー何その反応ー!かず君の好きな『みんな』には、私は含まれないんだーっ!」

「いやっ、そういうことじゃなくて、今は進軍の……」

 

 

と、そこまで言葉を続けていた一刀は、ふと簓の言葉を思い出し、視線を彷徨わせる。

 

 

「さ、簓?さっきの誰に聞いた?」

「さっきのって?」

「いや、だから……」

 

 

一刀は恥ずかしげに頬を掻く。

そんな一刀を見ているのが楽しいのか、簓は満面の笑みで更に一刀の腕を強く握る。

 

 

「ん~?かず君がみんなのこと好きーってゆう、あれ?」

「ぶーーーっ!!!」

 

 

たまらず吹き出した御遣い様。

 

 

「お母さん、お父さん、私とうとう大人になるんだよ。

 相手の子は年下なんだけど、とっても格好よくて、素敵な人なの………エヘ、エヘヘ……」

「ちょ、勝手に妄想に入るな簓!

 麒里ー!言い触らすなって言ったのにっ……」

 

 

そう、こういうのは人づてに聞かれるのが1番恥ずかしかったりする。

 

 

「……ふわわ~」

「あわわっ、麒里ちゃーんっ」

「このタイミングでふわわ言うなー!?」

 

 

その時のことを思い出して麒里の意識が彼方へ飛んでいくのに対し、一刀は突っ込むことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ほんと、こいつらは今の状況が分かってんのがねー」

「……だからこそ、こんなに笑えるんだと思いますよ、千奈さん?」

「もうすぐ終わっからだか?…………かもしんねぇな」

 

 

朱里の言葉に納得せざるを得ず、千奈はケラケラと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か後ろがうるさいねー」

「何かあったのかな?」

「でも聞こえてくるの笑い声だよ?問題ないんじゃない?」

 

 

虎牢関を眼前にしている3人は何となくその様子が気になったが、気を取り直し前方を向く。

 

 

「さっさと終わらせなきゃだねー♪」

「そうだね。後は洛陽に向かうだけ……」

「終わったら久しぶりに明命にも会えるんだよねー」

 

 

殺伐とした戦場を、3人の笑顔が彩る。

いよいよ終わりの時。

 

 

「それじゃ季衣、号令お願い」

「へ?ボクでいいの、流琉?」

「号令の内容も内容だし、季衣が1番似合うんじゃないのー?」

「そ、そうかなー?」

 

 

蒲公英の褒め言葉(?)に少し顔を赤くして、頬を掻く。

そこまで言うのなら……と、前をキッと見据え、大きく息を吐く。

 

 

「それじゃー………

 みんなーーー!!突撃ーーーーーーーっ!!!!」

「おおおおおおぉぉぉぉぉおおお!!!!」

 

 

さぁ突破せよ、虎牢関を。

そしてその先の眩き空へ。

 

 

 

 

時はわずかに進み………

さながら商人の姿をした一団がある街に辿り着いた。

 

 

「到着したのですっ!ここが私たちの街ですっ!」

 

 

両手を広げてにこやかに笑うのは周泰。自身久し振りに街に帰ってきたこともあり、かなり高揚している。

 

 

「ふわー。あの時よりもお店がいっぱいなのですっ!知らないお店ばっかりです!」

 

 

本当に興奮を抑えられないようで、少し頬を赤くしながら、キョロキョロと視線を移す。

 

 

「す、すごいわね……」

「と、とても賑やかだね、詠ちゃん…」

 

 

賈駆と董卓は唖然としながらその町並みを見つめた。

町の規模は洛陽に勝らないまでも、活気は大きく上回っていた。

これに更に出兵した者が加わるとなると、その活気はどれ程のものになるのだろうか…。

 

 

「アンタから話は聞いてたけど、予想以上ね……」

「私もびっくりです……。私がここを離れた時より、さらに人が増えた気がしますっ」

 

 

心配などはしていなかったが、変わらず善政を行っていてくれたことがとにかく嬉しい。

やはり自らが仕えるあの方と、彼を支える仲間たちと共にいることは、間違っていないと実感する。

 

 

「やっぱり天の御遣い様ってすごい人なんだぁ……」

「ゆ、月っ?!ホントにそいつがまともな為政者かどうかはっ」

「でも、この町の人、みんな笑顔だよ?それに、私たちのことも助けてくれた」

「そ、それは明命がっ」

「どうしても月たちを助けたいって言ったのは、一刀様ですよ?」

「う、うぅ………」

 

 

賈駆は必死に反論しようとしたが材料が見つからず、徐々にその言葉を萎めていった。

 

 

「と、とにかくっ!月っ!無闇にその男を信じたらダメだからねっ?!何されるか分からないんだからっ!!」

「え、詠ちゃん?」

「詠ひどいですよー!一刀様はそんな方じゃ――――」

 

 

3人の論議はまだまだ続きそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……」

「………」

 

 

一方、こちらも商人の身なりに扮して積荷用の牛車に腰を据えていた劉協と劉弁の表情は、少々強張って見えた。

少し、後悔が滲むような、苦しげな表情……。

 

 

「この街では、こんなにも民が生き生きと生活をしているのだな……」

 

 

劉協の言葉に反応するかのように、劉弁が自身の服の裾をギュッと掴み、一筋の涙を流す。

 

 

「…………そうですね……本当なら、我々がこのように民を導かなくてはならなかったのに……」

 

 

顔を覆って、劉弁が頷く。

いくら先代・霊帝が主因となり朝廷の力が失われたとはいえ、自分たちにはそれを止める術がなかった。

 

『きっと民はこんなことを望んではいない』

 

そう思いながらも、父の為すことに苦言を呈することができなかった。

もしかしたら最も皇帝に進言できる立場だったのにも関わらず……。

 

そして父が亡くなった頃には大陸は荒れに荒れ、自分たちは張譲にいいように利用される始末。

 

 

 

 

 

民を動乱に巻き込んだ責任は、自分たちにもある。

いや……むしろ彼女たちは、自分たちの責任がもっとも重いと感じている。例え何人に否定されようとも……

 

 

だが、なおも進まなくてはならない。

もはや廃位されたに近しい自分たちではあるが、それでも出来ることはあるはずだから……。

 

 

「生きている限り、私たちにも出来ることはあるよ。やれること、精一杯やっていこ?

 ………信じてみたいんだよね?天の御遣い様を」

 

 

義姉を軽く抱き寄せ、劉協は小さく小さく呟く。

その声は劉弁にしか届かず、だからこそ劉弁も義妹の胸の中で小さく頷く。

 

 

無責任なのかもしれない。本来自分たちが果たすべき役割を、他の者に押しつけるなど……。

 

 

それでも……例え表舞台に立つことが叶わずとも、民を思って尽くしていこう。

2人で思い描いていた大陸の未来を、まだ見ぬ青年の元で叶えていこう。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、護様っ!聖様どうかなさったんですかっ?」

 

 

いつの間にか劉弁と劉協のすぐそばで、明命が心配そうな瞳で見つめていた。

そんな心優しい友人に、劉協はそっと笑いかける。

 

 

「いや、何でもない。明命、城内へ案内してくれぬか?」

「は、はいっ!分かったのです!

 みなさん!これから城内の方へ案内しまーす!!」

 

 

董卓と賈駆、そして劉弁と劉協は、明命につられるように軽く微笑んだ。

 

 

 

 

「えーーっと?整理するとー……」

「董卓さんは城で自害して……」

「帝も行方不明ですってぇぇえええぇえぇぇ?!?!」

 

 

洛陽に辿り着いた連合軍は、最重要人物の所在を至急確認したが、返ってきた答えは衝撃的だった。

その事実に誰もが驚愕した。中でも、総大将を務めた袁紹の驚きはあまりにも大きかった。

 

 

「これでは、いったい何のための連合だったというんですの……っ」

「完全に無駄骨でしたねー麗羽様ー」

「でも、皇族の方々はどこに行かれたんでしょう……」

 

 

謎は解明されぬまま、各陣営は炊き出し等の準備を行うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「董卓は死に、帝は行方不明………ね」

 

 

炊き出しの準備を行う配下を横目に、曹操は思案していた。

連合軍にもたらされた情報の真相はどこにあるのかと。

 

 

「正直、どこまでが真実かは計りかねます、華琳様」

「そうね桂花。本当に2つとも真実なのか、片一方だけなのか…………2つとも偽報なのか…」

 

 

曹操軍の筆頭軍師である荀彧を隣に控えさせ、真実を探る。

ここに至るまでの道程をもう1度客観的に見つめ、“違和感”を探し出す。

 

 

「…………汜水関もそうですが……やはり、虎牢関かと」

「…そうね。あれ程の将がいた董卓軍が

 『兵糧、兵士ともに連合軍には敵わないため、早期に降伏する』では、あまりに………」

「はい、不自然です」

 

 

実際に張遼という最高の武将と対峙し、生き様・想いを見せつけられた。

その時の姿を思い浮かべれば、虎牢関での降伏は“違和感の塊”だった。

 

 

「汜水関を突破したのは、北郷と公孫賛の軍だったわね」

「はい。虎牢関を突破したのも………」

「北郷軍…………」

 

 

曹操は遠くで揺らめく十文字の牙門旗を見つめ、笑う。

 

 

「……おもしろいわね。桂花、北郷軍に関する情報を集めなさい」

「はっ」

「成果が上がれば………ご褒美をあげるから」

「は、はいっ!」

 

 

慌てながらも恭しく頭を下げ、自分の部隊へ指示を出しに向かった。その頬は紅い。

 

 

「……この曹孟徳が歩む覇道も……どうやらおもしろいモノになりそうね」

 

 

道を阻む者がいるからこそ、覇道はより崇高なものとなる。

そのことを改めて心に留め、曹操は満足げに嗤った。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ものの見事に城だけ綺麗に焼かれてるわねー。街に実質的な被害はなし……か」

「その街も、ひどく困窮しているわけではない。総出で炊きだしや修繕作業を行う必要性もないだろう」

 

 

孫策の隣に並ぶは、断金の契りを結んだ『美周郎』こと周瑜。

口ではそうは言うが、“声”を得るためにもここで怠けるわけにはいかない。自身の兵に的確な指示を出していく。

 

ちなみに、孫策の頭に周瑜による小さなこぶが出来ているのは内緒だ。

 

 

「ろくな収穫もなく、ここまで来ちゃったわけね、私たちは」

「相手が“あの”袁術だから問題はないだろうが……これでは独立の時機が遅れるな……」

 

 

思わず顔を顰める。

 

『この連合を独立への足掛かりとする』

 

その最大の目的を果たせずに、もうすぐこの連合は解散となるだろう。

 

 

「結局1番名を上げたのはぁ………

 汜水関を責め立てた公孫賛さんと、汜水関・虎牢関の両関所を突破した天の御遣いさんでしたねー」

 

 

周瑜の愛弟子・陸遜がのんびりとした口調で語る。

言葉だけを聞くと、単に事実を述べたのみ。

だがそこには、彼女の洞察力の高さが顕れている。暗に“天の御遣い”に着目しての発言である。

 

 

「呂布に張遼、そしてあの華雄も北郷軍に降った……か。これをどう見る、策殿」

「んー?ここはまず、我らが軍師様に意見を聞きましょ。ね、冥琳?」

 

 

黄蓋の問いには素直に答えず、あえて親友に解答権を移す。

 

 

「…………北郷軍は強敵だ。曹操と並ぶ…な」

「それは戦力のこと?」

「……分かってて聞いてるでしょ、雪蓮?」

「……エヘヘ」

 

 

小さく舌を出し、少女のような笑顔を見せる孫策。親友から予想通りの言葉が返ってきて、少し嬉しくなった。

 

 

「今回の件、北郷軍が何かしら一枚噛んでいたと見て、間違いはないでしょう。

 朝廷の崩壊を裏で主導していたか……それとも、謀って董卓軍を取り入れたか……」

「事実、武将に関してはそうですねー。でも冥琳様、董卓さんにぃ、劉弁様と劉協様はどうですかー?」

 

 

大きな胸に自らの肘を乗せ、“連合軍”の最大の目的について師に尋ねる。

 

 

「確かめようもないな。董卓の顔を知っている者はおらず、皇族も事実洛陽にはいない。

 城もあそこまで完全に焼けてしまっては、死体の確認すらできないだろう」

 

 

まるで油をひいてから燃やしたように、城は完全に焼け落ちている。

これでは

 

『董卓が本当に死んだのか』『帝は存命しているのか』

 

すら分からない。

 

 

「生きてるわよ、間違いなく」

 

 

孫策がここで意見する。それは断定の言葉。確信だ。

 

 

「……またあなたの勘かしら、雪蓮」

「もちろん♪」

 

 

満面の笑み。そんな孫策を見つめて、周瑜はやれやれと呟く。

 

 

「……あなたの勘は当たるものね。信じてみましょう」

「あら、意外。こんなに早く信じるなんて」

「私もそんな予感がしてるのよ」

「目に映るもののみを信じるはずの周公謹が?」

「…………そうね、私らしくはない…」

 

 

周瑜は少し苦笑いするが、すぐに目を細めて孫策を見る。

 

 

「だが、あの天の御遣いが我らの悲願を阻む壁となることは間違いないぞ」

「そうね……そうなるわね」

 

 

孫策は十の牙門旗を見つめ、嗤う。

 

 

「……また逢いましょう、天の御遣い君」

 

 

 

 

数日後

 

 

 

 

 

「董卓、賈駆」

 

 

 

 

2人の少女を見つめ………

 

 

 

 

「それに劉弁様、劉協様」

 

 

 

 

2人の少女へ視線を向ける。

 

 

 

 

「みんなが無事で、本当に良かった………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは始まり。

民を導く者の、新たな歩み。

 

 

 

 

一刀のペルソナは間違いなくマーラ様………そんなことを考える今日この頃。

 

 

 

 

 

答え合わせ

 

第6話:pop'n music

    (とうとう『志在千里』を歌われる茶太さんまでもが参加なされた音楽ゲーム。

    シンパシー4とミミニャミのボイスだけでも、ポータブルは買った価値がありました!ww)

 

 

 

 

 

 

後書きという名の言い訳

 

 

 

――――三国志(史実)との乖離――――

 

これは劉弁の生存と張遼の片眼喪失についてです。

三国志を知らない作者だからできる暴挙と言っていいかもしれません。

 

 

実際、劉弁の死亡や盲夏侯へのこだわりはなかったので、こんな展開もどう?って感じで書かせて頂きました。

以前あれだけ指摘されたのに、未だに三国志の何たるかを知らない作者をお許しくださいw

 

 

 

――――蒲公英の加入――――

 

『加入させたくせに出番少ねぇ!!』

 

 

そんなお叱りが聞こえてきます……。はい……ごめんなさい。

ホントはもっと書きたかったんですけど……飽くまで、今後の展開を楽にさせるフラグ的な存在だったので。

ある意味、作者の力不足を助ける存在なのですww

 

期待してしまった方、ごめんなさいでした!!

 

 

 

――――徐庶の母親について

 

前回多くのご意見を寄せて頂き、本当にありがとうございました。

色々と思案した結果、今のところあのエピソードはスルーすることにしました。

 

皆様から様々な意見を頂いても、イマイチ自分の中で練り込めないというか……。

今後何か良い案が思いつけば組み込んでいきたいと思いますが、現段階では……ということで。

 

本当にたくさんのご意見、ありがとうございました!

 

 

 

――――劉弁(聖)と劉協(護)のご紹介――――

 

一応史実通り異母という設定です。でも奇跡的に双子のように顔や背格好が似ています。

 

姉の聖(ひじり)は生まれつき足が悪い上、話すことが出来ません。

でも妹と触れ合っていると、どことなく伝えたいことが伝わる、そんな設定です。まるでミラクルガー(ry

 

このため、何かと妹に不便を掛けることが多く、常日頃から申し訳ないと思っています。

ですが、その聖母のような天性の包容力で、(無意識に)日々妹を助けていたりもします。

 

 

最初は、発語障がいではなく盲目にしようかと思いましたが『それどこのナ○リー?』って思いやめましたw

 

 

 

 

 

妹の護(まもり)は少しでも姉の支えになろうと、一所懸命頑張る子です。

彼女の進言によって、姉に代わって諸侯の謁見などを担当していました。

聖は聖で思うところがあるのですが、護はそんな姉がいるからこそ、自分は頑張れると思っています。

 

普段は尊大な物言いをしますが、姉に対しては普通の“妹”としての言葉遣いをします。

このような言葉遣いを出来る相手が、これから先は増えることでしょう。

 

 

 

 

互いが互いを支え合う。ある種理想の姉妹というのを目指して、この2人を書いてみました。

 

え?目指せてない?そりゃあれですよ、作者の力量不足ですwww

 

 

髪型は聖が金のロング、護が銀のロングですかね?

遺伝子的なものはこの際無視してくださいww

 

 

体格は……………蒲公英より若干低いくらいの背に、沙和か秋蘭くらいの胸でどうでしょう?

思えば今まで、巨乳か貧にゅ……ん?誰だよこんな時間に…。はいはい、今出ますよー。

 

 

 

 

 

 

 

それでは皆様、今回も拙作をご覧下さってありがとうございました。

とうとう一月に1話の割合になってしまいました……。ごめんなさい、本当に申し訳なく思っております。

こんな作者ですが、是非よろしければ引き続きお付き合いくださいませ。

また次回、よろしくお願い致します。

 

 

 

 

 

 

分かったって!今出るから待ってて………(ry

 

 

 


 
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