No.124284

恋姫 ~無想~ 001 / 笑顔

へいお待ち。前回の続き、001話をお送りします。
風邪治りました。感謝です。
微ダーク風味。

2010-02-14 01:55:49 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:4777   閲覧ユーザー数:3997

・タグの通りの内容です。

 

 

・ゆっくりしていってね(今回も短いけど)

 

 

・"作品"に対する感想、指摘、批判、大歓迎します。忌憚のないご意見お待ちしてます(_ _)

 

 

 

「――――避けよ!」

 

 

 

 凛とした鋭い声に、北郷は反射的に身体を捻って刃をかわす。言霊の篭った声は、自失していた北郷を強制的に操った。だがそれも一瞬で、仰向けに倒れてしまう。声に続いて飛来した礫が男の腕を撃った。

 

 

 

「チッ、なんだぁ?!」

 

 

 

 激痛のあまり刀を落とした男は礫が飛んできた方向を睨み付ける。白い格好の女が脇目も振らずに駆けていた。飛来した礫、駆ける女の身のこなし――――判断は速かった。

 賊として生きてきた勘が、あの女は危険だと告げている。すべてを捨て置き、馬へ飛び乗った。

 

 

 

「ア、アニキ?」

 

「もたもたすんな! チビ、デク、馬に乗れ! ずらかるぞ!」

 

「わ、分かったんだナ」

 

 

 

 駆け出す前に、男は北郷を睨みつけた。

 

 

 

「クソ、運のいい奴だぜ……。おら、行くぞ!」

 

 

 

 馬を嘶かせ、一気に駆けさせる。背後の女を振り返り、男はお約束の啖呵を切った。

 

 

 

「畜生、覚えてやがれ!」

 

 

 

 賊として、これだけは譲れないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋姫 ~無想~ 001 / 笑顔

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北郷は仰向けに倒れたまま空を眺めていた。蒼天を流れる白い雲、稀に横切る鳥、頬を撫でる風、それらはどこの世界でも変わらず、自分がどこにいるのか分からなくさせる。

 このまま眺めていたいと思っていたが、白い服装の女が視界に割り込んできた。北郷の傍らに立ち、顔を覗き込むように見下ろしている。初めは不安げな表情だったが、北郷と目が合うと、ほっと安堵した表情に変わる。

 

 

 

「どうやら無事だったようですな。身動きひとつしないので、もしやと思いましたぞ」

 

 

 

「(趙雲さんか……そういえば、あの時も助けてもらったっけ……)」

 

 

 

 北郷は何となく、ぼんやりと趙雲を眺める。視界が広がって、焦点が顔から全身へと移り――――、サッと視線を逸らした。北郷の唐突な反応に趙雲はキョトンとしたが、察したのか続けてニヤリと笑った。

 その様子を何となく感じ取り、冷や汗を流す。

 

 

 

「ふむ、死線に追い詰められ肝を潰されたのかと思えば、うら若き乙女の下着を覗き見る……。御仁の胆力は相当の物ですな」

 

 

 

「そ、そりゃあ、そんなとこに立たれたら見えるだろ!」

 

 

 

 思わず顔を向けて反論するが、またもや白を視界に納めてしまう。というか、先ほどより足が開き気味で、尚且つ近づいていた。妖艶な表情と相まって、実に扇情的である。

 

 

 

「――――ッ、隠す気無いだろ!」

 

 

「ならば勃たれればよろしい」

 

 

「字が違う!」

 

 

 

 ああもう! と北郷は立ち上がろうとして、そっと手が差し出された。

 

 

 

「無事で何より。助けが遅れて申し訳ない」

 

 

 

「あ、う、ありが、とう?」

 

 

 

 意地悪な雰囲気はなりを潜め、真摯な表情でそう言われてしまえば、どうしようもない。差し出された手を掴み、戸惑いながら立ち上がる。

 

 

 

「(……ダメだ。助けてもらったんだから、もっとちゃんとお礼をしないと)」

 

 

 

 北郷は表情を引き締めた。先程までの心情はどうであれ、助けてもらった事に変わりはないのだから。

 

 

 

「ありがとうございます。おかげで助かりました」

 

 

「ふむ、見せたくて見せた訳ではないですが、礼ならば受け取っておきましょう」

 

 

「いやいやいや、違うから! 下着を見せてくれてありがとうとか、そんな話じゃないから!

そもそも何が助かるのさ! あ、いや、やっぱ言わなくていいです!」

 

 

「ナニが助かりますぞ」

 

 

「言っちゃったよこの人! 言わなくていいって言ったのに! 何かもう色々と台無しだよ!」

 

 

「友から聞いたのですが、殿方というものは女子の乳房や尻などを目に焼きつけ、食えもせぬのに“おかず”と称しては夜な夜な部屋に篭り、己が倅を扱きあげるとか」

 

 

「いや! やめて! かなり間違ってないけどやめて! もの凄く居た堪れない!」

 

 

「しかし照れますな。下着ひとつでここまで喜ばれるとは、乙女としては嬉しいですが、武人としては複雑ですぞ」

 

 

「乙女としても嬉しがっちゃ駄目だよ! 普通は恥らったり、怒ったりするの!」

 

 

「つまりは恥らったり怒ったりするほうが、御仁は喜ばれるということですかな?」

 

 

「何この流れ?!」

 

 

 

 北郷は早くも趙雲という人物に苦手意識を持ってしまった。いい様に翻弄され、堪ったものではなかったのだ。

 

 

 

「そういえば、まだ互いに名乗っておりませんな。私は趙雲と申します」

 

 

 

「本当に唐突だよね?! あ、ご丁寧にどうも(知ってるけど)北郷一刀です」

 

 

 

 名乗りを聞くと、趙雲は少し驚いた表情になった。

 

 

 

「これはこれは、字まで名乗られるとは、やはり御仁は肝が据わっておりますな」

 

 

 

「あ、違うんです。姓が北郷で、名が一刀なんですよ。字は無いです」

 

 

 

「そうであっても、真名以外の全てを名乗ったということでしょう。ここは礼に習い、改めて名乗りましょう」

 

 

 

 趙雲は背筋を伸ばし体裁を整えると、流麗な仕草で拱手の礼をとった。

 

 

 

「姓は趙、名は雲、字を子龍と申します。以後お見知りおきを、北郷殿」

 

 

 

「は、はいっ、こちらこそ、よろしくお願いします。趙雲さん」

 

 

 

 北郷は何とか礼を返したが、慌てていて少々不恰好になってしまった。天の御遣いとして市民や有力者と礼を交わすことには慣れていたが、趙雲が相手だとどうにもうまくいかない。飄々としていて掴み所がないのだ。

 焦る様子をニヤニヤと眺める趙雲に、どう言い繕うかと更に頭を悩ませようとして――――

 

 

 

 

 

 

「もうよろしいですか?」

 

 

 

「ダメですよー、稟ちゃん。風はもう少し見物したかったのです」

 

 

 

 

 

 

 ――――血が凍るとは、こういう心境を指すのかと、北郷は他人事のように考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

/Side 一刀

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつの間に近づいたのか、稟と風が話しかけてきた。

 

 

 

「おお、やっと追いついたのか。二人は些か運動不足ではないか?」

 

 

「運動は専門外ですので」

 

 

「そうですよー。そもそも身体の作りが違うのです」

 

 

 

 稟、風。俺にとって、大切な女の子たちだ。自惚れでなければ、彼女たちも同じ想いを持ってくれている。……持ってくれていた。

 

 

 

「といっても、とうに追いついて、お二人の漫才を風と見物……ゴホン、様子を見ていたのです。気づいていたでしょう?」

 

 

「よーよー姉ちゃん。笑いと鼻血を堪えて見物してただけじゃねぇか。見栄張っちゃいけねぇぜ」

 

 

「風!」

 

 

「ぐー」

 

 

「寝るな!」

 

 

「おおっ、日差しが気持ちよくて、ついうたた寝をしてしまいましたー」

 

 

 

 変わらないやり取りに、俺は入っていけない。

 

 

 

「ははは、お前たちは相変わらず面白いな。だが見よ、北郷殿が驚いているではないか」

 

 

 

 稟と風がこちらを向いて、視線が絡む。二人が俺に向ける視線は、まるで初対面の他人に向けるもので……。

 

 

 

「失礼しました。私は戯志才と申します」

 

 

 

「程立ですー。お兄さんと星ちゃんの漫才はとても面白かったですよ」

 

 

 

「こら、風!」

 

 

 

 こうしてまた、この世界の現実を見せ付けられてしまった。俯いて視線を逸らす。視界が暗くなった。二人が何か話しているが、聞こえない。音も、光も、無い。

 

 改めて確信した。この世界は、俺が皆と過ごした世界じゃない。絶望的な事実を認めたくなくて、あの世界の事を――――華琳達の事を強く想う。

 色んな人々と出会い、仲間になり、敵対した。誰もが華琳の覇業を信じ、敵と戦った。戦い続ける中で、俺達は絆を交し合い、仲間は大切な人になって、愛しい人になった。愛する人のために、華琳のために、俺は破滅という運命を受け入れてまで突き進んだ。

 そして俺達は乱世を制し、戦いを終わらせたのだ。その代償が俺の消滅だったとしても、後悔は無かった。皆との約束を破ることは後ろ暗かったが、仕方の無い事だと割り切った。

 それに俺が居なくなっても、これからは沢山の仲間が華琳達を支えてくれる。別れは悲しいが、安心して別れを告げることができたのだ。

 それなのに――――

 

 

 

「(その結果が、この世界なのか?)」

 

 

 

 あの戦いも、将兵や民の犠牲も、華琳達との日々も、全部無駄だったというのか? あの日々はただの夢で、目が覚めれば全てがお仕舞いだというのか? これが、大局に逆らった俺への、天罰なのか?

 

 そんなのは、余りにも酷すぎる。俺は、俺達は、いったい何のために――――

 

 

 

 

 

 

「北郷殿?」

 

 

 

 

 

 

 意識が浮上する。趙雲さんが心配そうに覗き込んでいた。

 

 

 

「如何なされた? 頬以外にもやはり傷が?」

 

 

 

「……いや、大丈夫です」

 

 

 

「……許されよ。もっと早くに助太刀をするつもりでしたが、其処な二人に押し留められてしまい、参上が遅れましてな」

 

 

 

 チラリと二人に流し目を送りながら、趙雲さんは頭を下げた。

 

 

 

「ちょっ」

 

「そうなんですよー。稟ちゃんがどうしてもと言うものですから、少しだけ様子を見ることにー」

 

「ちょっと待ちなさい、風! あなたも初めから同じ意見でしたでしょう! 光が堕ちた場所に見た事もない白い服を着た男がいて、何者かを確かめる為にまずは様子を見ようと言ったのは貴方でしょう! 確かに同意はしたけれど、私だけを悪人に……」

 

「ぐー」

 

「寝るなぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

「――――ふ、あはは」

 

 

 

 

 

「……お兄さん?」

 

 

 

 

 

 気づけば俺は笑い出していた。二人が、余りにも"いつも通り"で。それが、とても嬉しくて。とても、哀しくて。

 

 

 

 

 

「ふっ、うくっ、あは、あははは」

 

 

 

 

 涙を流しながら、俺は笑っていた。

 

 

 

 

「……どうされたのです?」

 

 

 

 

 稟が話しかけてきた。心配する声色。"稟"とまったく同じで、違う。

 

 

 

 

「……ごめんなさい。風が星ちゃんを止めてなければ……」

 

 

 

 

 風も、同じだ。だけど"風"とは違う。

 

 

 

 

「あはは、いや、違うんだ。二人のやり取りが、ふふ、すっごく面白くて、嬉しかったんだ」

 

 

 

 

 そう、嬉しくて、哀しい。

 また逢えて嬉しくて、もう逢えなくて、哀しい。

 

 

 

 

「むー、よく分かりませんねー。泣くほど面白くて、嬉しかったのですかー?」

 

 

 

 

「そう言えば、二人にはまだ名乗ってないよな」

 

 

 

 

「質問に答えてませんー」

 

 

 

 

 不満げな顔だが、どうか許してほしい。こんな想いを、どうやって伝えろというのか。

 涙が引いてきた。うん、気持ちも落ち着いてきた。大丈夫、ちゃんとやれる。難しいことは、また後で考えよう。

 何度も繰り返した、華琳仕込みの礼法だ。完璧に頭に叩き込んでいる。さあ、やれ!

 

 背筋を伸ばして、稟と風を見る。なるべく滑らかになるように、ゆっくりと拱手、左手を上に、目線を下に。両足を揃え、僅かに腰を下げる。

 

 大丈夫だ、出来る。言える。

 

 

 

 

「姓は北郷、名は一刀、遠く海を越えた東方の生まれにて、字はありません――――」

 

 

 

 

 だが、ここで口が止まってしまう。いけない、まだ終わってない。口の端を噛む。腹に力を込める。言え、言うんだ!

 緊く閉じた目を開いて、稟と風に、笑顔を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――以後、お見知りおきを、戯志才殿、程立殿」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちゃんと笑えてるだろうか、自分では、よく分からない。

 稟と風が浮かべた表情を見ても、答えは出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

/Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

to be continued

あとがきのようななにか

 

 

うん、短い。

駄目だなぁ、昔は短編ばっか書いてたせいか、どうにも次数が増えません。

Preludeよりは多いと思うんですが……変わらない? あ、そうですかwフヒヒサーセンw

まぁ、その辺は話数で勝負していこうかなと。その意味での001です。ゼロが二つ、無駄に三桁対応です(無謀)

 

今回は出だしから三人称(『Side 一刀』は一人称)

前回からガラリと雰囲気を変えました。前回の雰囲気で読もうとすると、少々戸惑うかもしれません。

ある意味それが狙いではあるのですが、如何でしたか?

(一応どちらもいけますが、ジョン五郎は一人称の方が好きです)

 

次回ですが、正直悩んでます、いい感じの案が2つありまして、さてどうしようかと。

結末は決まってるんですがね。そこに行き着くまでどれだけかかるか……鬱です。

(ダーク書くのに必須の精神状態なので、気にしないで下さい)

そんな訳で少々時間を頂くかもしれません。気長にお待ちください。

 

それでは。

 

PS.おまけ置いときます。

NG、その他、没シーン集 / 0001 「先生、回想そこじゃないです」

 

 

 

 

「そう言えば、二人にはまだ名乗ってないよな」

 

 

 

 

「質問に答えてませんー」

 

 

 

 

 不満げな顔だが、どうか許してほしい。こんな想いを、どうやって伝えろというのか。

 涙が引いてきた。うん、気持ちも落ち着いてきた。大丈夫、ちゃんとやれる。難しいことは、また後で考えよう。

 何度も繰り返した、華琳仕込みの礼法だ。完璧に頭に叩き込んでいる。

 

 

 

 

 ふと、懐かしい記憶が蘇る。

 

 

 

 

『這一禮節,不知起源于何時』

 

『何だい、それ?』

 

『いつからあるのか、よく分からないということよ。この礼法はね、春秋の時代には既にあって、今でも当たり前のように使われている礼法なのよ』

 

『へぇ~凄いな~。そんなに長い歴史があるんだ』

 

『そうよ。だからね、礼すらきちんと出来ないようでは、半人前どころか、人とすら見てもらえないわよ』

 

『……ちゃんと覚えます』

 

『わかればいいのよ……って、右手を上にしてどうするのよ! 縁起でもない!』

※男性がすると凶事になる。または女性用。

 

『う、ごめん。決まり事が多くて中々……』

 

『それとも、股間のモノを切り落としてほしいという意味かしら? もしそうなら、今の礼も間違いではないわね』

 

『華琳様、絶はこちらに』ササッ

 

『ちょっ、桂花いつの間に!? 華琳待って! ごめん、ちゃんと覚えるから許して!』

 

『これで7回目。問答無用よ』チャキ

 

『アッー!』

 

 

 

 

カットカットパイプカット! 終われ!

 

 

 

※今回のラストに挟もうか悩んだ回想シーン。こんなん挟んだら空気読まないにも程がある。

 でも気に入ったシーンなのでおまけで掲載しました。どこかの本編に再掲載するかも。


 
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