No.123486

剣帝✝夢想 第十三話

こちらへたれ雷電、最新話更新の任務を完了した。

ということで最新話です。第七使徒、名前決定しました。

2010-02-10 15:14:07 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:6540   閲覧ユーザー数:5641

「ど、どどど、どうしたのですか!?」

 

ぐったりとし、血に塗れたレーヴェを抱えた恋を見て、ねねねは驚いた声を上げる。それはねねねだけでなく、他の兵士も動揺していた。最強と信じていた主が血ぬられた姿で戻ってきたのだ、その衝撃はかなり大きなものだった。

 

「…突然乱入してきた変な奴にやられたのだ。ともかくはやくお兄ちゃんをお医者さんに見せないといけないのだ!応急手当はしたけど、詳しいことは鈴々には分からないのだ!」

 

鈴々の苛立った声にねねねはすぐに我に返ると、といっても完全に動揺から抜け切れていなかったが、全軍に指示を出した。

 

「全軍全速前進!本隊直属の部隊は速度を上げて前曲に追いつくのですぞ!そして張飛殿と呂布殿、そして数人はご主人を連れて先を急ぐのです!残りは民間人を守りながら進むのです!」

 

ねねねの言葉に、鈴々と恋は頷くと、すぐさま馬を出し、数人の兵を連れて駆け去っていった。ねねねはそれを不安そうな顔で見送ったが、すぐに顔を引き締め、移動を開始させた。

 

 

 

鈴々たちが急いで移動している頃、桃香たちは最初の城に入城していた。民たちは桃香たちを喜んで迎えてくれ、どれだけ劉璋から民心が離れているかを窺わせた。愛紗と雛里は未確認の部隊の報を受けて、その確認に行っていた。

 

「みんな、大丈夫かなぁ」

 

桃香は最低限済ませねばならないことを済ませると、ずっと城壁の上に立っていた。レオンハルト隊の隊員たちは休むように言ってきたが、それをやんわりと断り、桃香はずっと城壁の上に立っていた。まだ日は高いが、風が出てきていた。

 

「風が出てきましたな。屋内に入りませんと風をひかれますぞ?」

 

仕事が終わったのか、それともレオンハルト隊の隊員に言われてきたのか、星が背後に立っていた。

 

「大丈夫だよ。体は寒いけど、心は燃えてるから。だから寒くなんてない」

 

「ふむ、理想に燃える女というわけですか」

 

「心配に燃えている女でもあるよ?」

 

桃香の言葉に星は愉快そうに笑った。そして穏やかな顔で口を開いた。

 

「皆、無事に戻ってきますよ。そもそも主に傷をつける事のできる人間がこの世にいるとは思えませぬ。きっとあの冷静に、それでいて微かに笑みを浮かべたいつもの表情でもどってくる」

 

「そうだよね。ご主人様はとっても強いもんね。でも、今の私には待つことしかできないからずっと待ってる。それで一番最初にお帰りって言ってあげるの」

 

「やれやれ。では、私もご一緒して構いませんかな?」

 

仕方がないというように首を振った星は桃香にそう尋ね、桃香は笑顔で頷いた。そのとき、城壁からは一つの影が近づいてくるのが見えていた。

 

「おや、あれが我が軍の兵士のようだが…なにか焦っているような…」

 

その姿にいち早く気づいた星がその様子がおかしいことに気付いた。何やら嫌な予感がするが、桃香を促して、城壁を降り、その兵を出迎える。

「何があった!」

 

星は鋭く到着した兵に声をかけた。兵士は急いで馬を下り、早口に言った。

 

「謎の男との戦闘により、レオンハルト様が負傷いたしました!私は張飛様より、先にこちらへ向かい、医者の手配をせよ、と命じられております!」

 

「え…」

 

「なにっ!?」

 

兵士の言葉に桃香は何を言っているのかわからないというような顔をして、星は厳しい顔で、どこか崩れそうな顔をしていた。そして桃香はその兵士も詰め寄った。

 

「負傷って…大丈夫なの!?」

 

「はっ!応急処置は済ませましたが一刻も早い治療が必要とのことです!」

 

「せ、星ちゃん!早くお医者様を連れてこないと!」

 

桃香は取り乱してしまい、それでいて泣きそうになっている。星も内心穏やかではいられなかったが、それでも兵士に悟られない程度には表情を繕っていた。そして急いで医者を連れてこさせようと動こうとしたとき、一人の男が桃香たちのもとへと近づいていた。

 

「すまない、立ち聞きするつもりはなかったんだが、怪我人がいるときこえたんだが…」

 

振り返ると、そこには赤毛の男が立っていた。確かに、城門のすぐ外とはいえ、こんな人が往来するところで話していれば聞かれもするだろう。だが、星は桃香を背後に庇うようにしながら問いかけた。

 

「…何者だ?」

 

「ああ、俺は華佗。五斗米道の教えを受けた流れの医者だ」

 

「い、医者!?だ、だったらご主人様のことを診てください!」

 

桃香は華佗の医者、という言葉を聞くと必死な表情で華佗に詰め寄った。華佗はそれに大きく頷く。

 

「ああ、そのために声をかけたんだ。それで、その怪我人はどこにいるんだ?」

 

「そう大した時間もかからずに到着されると…」

 

「よし、だったら治療の準備をしておこう。どこかいい場所はないか?」

 

「こっちです!」

 

桃香は華佗と兵士を連れて城へと向かっていった。残された星は一人考えにふけっていた。

 

(主を超える武をもつものが今において出てくる?そもそも主を超える武を持つものが今まで何の噂にもならなかったこと自体がおかしい。まさか、主と同じように…)

 

星はそこまで考えて首を横に振った。その答えはおそらくレーヴェが知っているだろう。星は城門で鈴々たちを待ち続けた。そしてあまり時間をおかずに鈴々たちがレーヴェを連れてやってきて、そして星は彼女たちを連れて城へと向かった。

「華佗さん。お願いします」

 

「ああ。任せてくれ」

 

桃香の声に頷くと、華佗はレーヴェの服を脱がせて傷口を見る。応急処置はされていたが、本格的な治療は出来ていなかったようで、出血は完全に止まっていないようだった。

 

「…傷は確かに浅くはないが、上手く急所は避けられている。それにこの傷をつけた相手はかなりの腕前を持っているみたいだ。ここまできれいに斬られていたらあまり傷は残らないだろう」

 

華佗はそう言いながら、鍼を刺していく。そして傷口を消毒した後、縫合し、そして一本の鍼を取りだした。

 

「よし、あとはこの鍼を刺して終わりだ。…我が身、我が鍼と一つになり!一鍼同体!全力全快っ!必察必治癒…病魔覆滅!でええええええええええええいっ!げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

華佗は雄叫び…のようなものをあげながらレーヴェの体に鍼を刺す。一部の武将はひいていたりもしたが。そして、華佗はやり遂げた顔で鍼をゆっくりと抜いた。そして、皆が見ている前でレーヴェがゆっくりと目を開いた。

 

「重剣のアガットか…いや、違う。お前は誰だ?」

 

「まだ起き上がらない方がいい。あんたの傷は深くはないが、決して浅くもないんだからな」

 

「いや、この程度の傷なら…問題ない」

 

そう言ってレーヴェは起き上がった。華佗は起き上がったレーヴェを見て驚いた顔をしている。

 

「あの傷で動けるとは少し驚いたな。いくら俺の鍼で治療したとはいえ、普通は動けないはずなんだが。ともかく、俺は華佗。五斗米道の教えを受け継いだ流れの医者だ。今回、あんたの治療をさせてもらった」

 

「五斗米道…聞いたことはないが助かった。礼を……どうした?」

 

見ると、華佗はなぜか涙を流していた。そして涙をぬぐうと口を開いた。

 

「いや、初めて最初から五斗米道を正しく発音してくれたのを聞いて嬉しくなったんだ」

 

「…そうか。しかし、何か礼をしなければならないな。何か望みはあるか?」

 

「いや、その気持ちだけで十分だ。では俺はこれで失礼する。くれぐれも無茶はしないようにな」

 

華佗はそういって出ていった。レーヴェは、朱里に言って出せるだけのぎりぎりの量で華佗に医薬品を渡すように指示を出しておいた。そして、反対を押し切って玉座へと行き、朱里が戻って来ると、口を開いた。ちなみに、その頃にはすでにねねねたち殿も戻ってきていた。

「現在の状況は?」

 

「はい。現在、私たちは益州の国境付近の城に入城しています。思った以上に劉璋さんから人心が離れていたようで、入城は速やかにかつ、穏やかに進みました。愛紗さんと雛里ちゃんは北方に現れた謎の部隊の確認にいっています。それで、何があったのですか?」

 

「それは愛紗たちが戻ってきてから話そう。…いや、戻ってきたようだな」

 

そう言ってレーヴェが視線を向けると、息を切らせて愛紗が走りこんできていた。

「今戻った!ご主人様は大丈夫なのか!?」

 

「ああ、大丈夫だ。ところで、先に報告を頼む」

 

恐らく戻ってきたときにレーヴェが負傷したという報告を聞いたのだろう。かなり焦っていたようだ。だが、レーヴェの姿を見て安堵したのだろう、力が抜けているようだった。

 

「は、はい。部隊を率いていたのは馬超。世に名高い錦馬超です」

 

「…どうして馬超さんが益州に?錦馬超さんは涼州の馬騰さんの娘さんなんですよね?」

 

「馬騰は死んだ。曹操に殺された」

 

「馬超、待っていてくれといったはずだが」

 

声のした方を見れば、そこには一人の少女が立っていた。

 

「君が馬超か?どうしてこんなところに?」

 

「ああ、戦いに敗れて、行き先もなく流浪している途中で関羽に会ってね」

 

「勝手ながら我らの仲間にならないかと勧誘したのです。そのために一度、我らの主に会ってほしいと」

 

「そういうことか。オレはレオンハルト。桃香たちの主ということになっている。よろしく頼む」

 

「あ、ああ」

 

馬超はなぜかレーヴェの視線と言葉を受けて顔を赤らめている。体調でも悪いのだろうか、レーヴェはそう思って口を開こうとしたが、一つの声がそれを遮った。

 

「お姉様ってば顔を真っ赤にして恥ずかしがっちゃって~」

 

「た、たんぽぽ!余計なことを言うな!」

 

愛紗たちは気づいていなかったようだが、馬超の陰にいた少女が笑い声を上げていた。

 

「私は馬岱。よろしく!それで仲間になるって決めたの?というよりそれでいいじゃん。お腹も減ったし、お姉様の体育会系にももう付き合うのやだし」

 

馬岱は頬を膨らませて馬超を睨んだ。レーヴェは苦笑しながらも食事の準備をするようにと伝える。

「それで、桃香の皆が笑って暮らせる世界を作る。ということに協力してくれないか?もちろん、オレたちのやりかたが力づくということは理解している。勢力を広げるために君を勧誘していることも否定はしない。だが、桃香たちはそれでもなにかせずにはいられないと立ち上がった」

 

「…そんなことしてあんたたちに何の得があるんだ?」

 

「満足かな。それとみんなの笑顔。それさえあればなにもいらない」

 

桃香の言葉に愛紗たちは頷いた。星とレーヴェは無欲なものだと苦笑していたが。

 

「いいな、そういうの。変だとは思うけど気に入ったよ。あんたたちの部下にしてくれ」

 

「生憎、わが陣営には部下という概念がないようでな、仲間ということになるらしいでは再度名乗ろうか。オレはレオンハルト。レーヴェと呼んでくれたのでいい」

 

「そう…なのか。私の真名は翠だ。これからよろしく頼む」

 

「なんかそういうのたんぽぽ好き~!私の真名はたんぽぽ!よろしくね、ご主人様!」

 

「ご、ご主人様!?」

 

たんぽぽの言葉に翠は驚いているというより、なにか恥ずかしげな顔をしていた。

 

「だってみんなそう呼んでるもん。だから私もそう呼ぶの!」

 

「わ、私もそう呼んだ方がいいのか?」

 

「自由に呼んでくれたので構わない。別に呼び捨てでも気にしない」

 

「ぅ…なら私もご主人様で…」

 

翠は恥ずかしそうにそう言った。そしてその場にいた全員と真名を交わしあった。そして一段落ついたところで、もう一つの話に入った。

 

「それでご主人様。ご主人様が敗れた相手は誰なのですか?」

 

「ええ、あの剣帝が敗れたって!?」

 

レーヴェが敗北したという事実を知らなかった翠は声を上げて驚いていた。たんぽぽも同じく驚いていたが、声には出していなかった。

 

「…やつは…彼は…オレが元いた世界で同じ組織にいた、上司のようなものだ」

 

「元の世界…天の世界のですか?」

 

愛紗の言葉にレーヴェは頷き、言葉をつづけた。

 

「彼は蛇の使徒第七柱、『神剣』マクスウェル。剣技、戦闘力でいえばオレが知る限りでは、最強の人物だ」

 

「それは、主よりも強いということですかな?」

 

「残念ながら、オレのこの様を見れば一目瞭然だ。現在のオレでは彼には勝てない。もっとも、このまま終わらせるつもりも毛頭ないが」

 

レーヴェよりも強い。その事実がレーヴェ自身の口から告げられ、皆の顔が険しいものになる。現時点では彼を倒せるものが存在しないということなのだから。

 

「それで、そのまくすうぇるとかいう人がこの乱世に乗じてどこかの勢力に入れば限りない脅威になりますね」

 

「…それはないな。彼はどこかの勢力に肩入れするつもりはないだろう。彼はそんなことに興味はない」

 

「ならば、なぜこんなときに…」

 

華苑が考え込むように言ったとき、レーヴェは少し考えたあと口を開いた。

 

「恐らくというより、間違いなくオレが目的だ。なにが目的かというのは分からないが」

 

基本的に蛇の使徒の考えていることは良くわからない。それは他の執行者も同じだが、蛇の使徒はそれに輪をかけて得体が知れない。目的を特定するのには情報が少なすぎた。だが、彼は近いうちに姿を現すだろう。だが、今すぐというわけではない。レーヴェが強くなるまでは出てこないだろう。

 

「とにかく、彼のことは心配しなくてもいい。彼はオレが倒す」

 

そのレーヴェの言葉マクスウェルのことに関する話は終わり、これからどうするかという話になった。

あとがき

 

第七使徒、名前はマクスウェルにしました。ちなみに元ネタはHELLSINGのイスカリオテの長、狂信者、エンリコ・マクスウェルだったり。最初はアンデルセンにしようかと思っていました。なんかネタキャラにしてしまいそうでやめましたが。

 

次の話で自分的お気に入りのキャラがやっと出せます。…長かった。


 
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