「ん~~…」
あたしは夢とフトンに包まれながら、まだ開かない目をこする。
「もう朝…か」
何時かな?携帯に手を伸ばす。
「7時15分…」
いつもなら、あと10分!とか言いながら
また目を閉じるところだけど
「今日は…土曜日、か~」
休みの日だからあと30分でも1時間でも
2度寝でも3度寝でも出来る、のに
「なんか目が覚めた!起きちゃおう!」
早々とベットから出た。早起きは三文の得って言うしね!
カーテンを開けると眩しい朝の光が部屋に差し込む。
「朝ご飯、どうしよっかな」
顔を洗いながら考える。
朝はやっぱコーヒーとパンかなぁ~。
「あ!あそこのパン食べたい!」
いつも学校帰りに寄るメチャメチャ美味しいパン屋さん。
次の日用に買って帰るんだけど朝って行ったことないなぁ。
「今から行けば焼きたてかも!」
急いで着替えて足取り軽く家を出た。
「ゲッ…」
店の前で立ち尽くす。
「土曜は午後からって…」
シャッターにはしっかりと「OPEN 12:00~」と書かれていた。
「知らなかった…」
どこが三文の得なの!超ガッカリだよ!!
こうなったらもっと美味しいもの食べてやる!
「なんかなかったかなぁ~」
この時間に開いてそうなお店で美味しいトコは…。
「あのタルトのお店はどうかな」
2~3駅先にあるタルトの専門店。あそこならやってるかな?
「まぁ、とりあえず行ってみよう」
駅に向かい歩き出す。今日はいい天気で気持ちがいなぁ~。
快晴ってこんな日の事を言うんだろうな。
「電車、乗るのやめよっかな」
空を眺めてたら何だか街を歩いてみたくなった。
多分歩けない距離じゃないでしょう。
「ココは…ドコ?」
だいぶ歩いて来たけど、目的のお店は見付からない。
って言うか線路沿いを歩いてたはずなのに電車の音も聞こえない。
「…また迷子か」
道に迷うのはもう何度目か。
さすがにもうあせらない。
「携帯で今の居場所もわかるし~」
ポケットを探る。
!?
思わず動きが止まる。
「け…携帯…忘れた…」
ポケットを、って言うかポケット付いてないじゃん!この服!!
え…って事は…!?
「サ…サイフすら…」
さすがに青ざめた。
何も持たずに家を出ちゃったよ!
しかも、ココドコ!?状態。
うわ~どうしよう…。
「とりあえず駅を探そう。んでまた線路沿いに帰れば…」
線路沿いを歩いててこうなったのに…まぁしょうがない。
とにかく駅を目指し歩いてみる。
「どっちに行こうかな…?」
ちょっと大きな通りに出た。
ここは右に行くべきか左に行くべきか。
「右のような気がするからココは自分の感とは逆の左!」
また歩く。どんどん歩く。
イヤな予感を振り切るように歩く。
でもどんなに歩いても駅の気配すらない。
「休みの日だから人通りも少ないし…いざとなったらコンビニか」
でも、ココどこですか?なんて店員に聞くのも恥ずかしいなぁ。
お茶とか買うお金もないしね…。
なんとか自力で辿り着きたい。
何か駅に繋がる手掛かりはないか。辺りを見回してみる。
この先には十字路。
バスとかいないかな?行き先でなんとか方向が分かるかも。
見るとバスはいなかったけど自転車に乗った人が…。
あれ?
なんか見たことあるシルエット…。
自転車は十字路を横切っていく。
「って、あれ十勝だ!!!」
間違いない、あのデカい男は十勝だ!地獄に仏!
「十勝!! とかちぃぃ~~~~~!!!!」
大きな声で叫んだのに十勝は建物の陰に消えて行った。
ちぇ~。気付かなかったか。
いつもいらん時にばっかり来て、肝心な時に来ないなんて…。
「十勝のバカーーーーーー!!!!」
更に大声で叫んでやった。聞こえもしないのに。
「はぁ…おなか空いた…」
そうだった。あたし朝ご飯を買いに出たんだった。
急に足取りが重くなった。
肩が落ちる。視線が落ちる。気分も落ちてきた。
なんでこんな事になっちゃったんだろう…?
歩くのですらイヤになって来た。
立ち止まり、またため息をつく。
「三文の得なんて…バカバカしい」
「誰がバカだって?」
え!?
声に驚いて顔を上げる。
目の前に自転車に乗った十勝が居た。
「うわっ!びっくりした!」
「それはコッチのセリフだ!人のコト名指しでバカ呼ばわりしやがって」
怒ってる。そりゃ怒るか。急にバカ扱いだもんね。
聞こえてたのか。
「だって呼んだのに気付かないから~」
「って言うか…なんでお前こんなトコいんの?」
あれ?あんま怒ってないのかな?
「何でって…散歩…?」
「散歩?」
すごい不思議そうな顔してる。
「わざわざこんなトコロをか?」
「ん~実は、駅に行きたいんだよね~」
「駅ぃ!?」
あぁ、そのけげんそうな顔。次の言葉は聞かなくても分かる。
「お前、駅って真逆の方向だぞ?」
やっぱりぃ~~~!
「さっき右の気がしたから左に来たのにやっぱ逆なのか~!」
「なんだそりゃ~!」
意味分かんね~!と大笑いしてる。あたし的にはこれでも必至なのに!
「ま、お前が方向音痴なのは分かった。乗れ!」
「え?」
「駅まで乗せてってやるよ」
「でも何か用事とかあるんじゃないの?」
「ないよ」
「じゃ何で自転車乗ってたの?」
「なんでって散歩だよ」
うぐっ
さっきのあたしのセリフを。
ニヤニヤ笑うな!
返す言葉が無いあたしは素直に自転車の後ろにまたがった。
「怖い!」
亀のように体をすくめ、肩を掴む手に力を入れる。
「このくらいでか~?そんなにスピード出てねーぞ?」
「だって…後ろ初めて…!」
自転車の後ろってこんなに怖いのか!?
いつもはあたしがリクや七子を後ろに乗せる役だから。
「自分で運転出来ないって結構怖い!」
「前を見ろって!目ぇつぶるな!よけー怖いぞ?」
うぅ、そう言われても…。
この後輪に付いてるステップに立って乗ってるのがまた怖い。
でも確かに目をつぶってるのも怖い。
恐る恐る顔を上げる。
青い空が見えた。
顔をなでる風が気持ちいい。
さっき一人で歩いてた時の重い気分がウソのように晴れて行く。
「うわ~!目線が高くて気持ちいい!」
「お?慣れて来たか?」
「うん!」
「おっし!んじゃ飛ばすぞ!」
「ええっ!?」
十勝はちょっと前傾姿勢になると勢いよくペダルを踏み込む。
「うわっ!ちょっと待ってよ!!」
そんなにスピード出したら怖いよ!
必死に十勝の背中にしがみつく。
いつもなら叩いて止めるけど今は手を離すのが怖い。
十勝はどんどん自転車を走らせて行く。
「スピード、出てないよ?」
さっきの速さは何処へやら。のったり進む自転車。
もうしがみつかなくても余裕で乗っていられる。
「って言うか進んでる?コレ」
「お、お前、なぁ…」
息も絶え絶えに返事をする十勝。スゴク苦しそう。
「さすがにこの坂道は無理だよ~」
結構急だよ?、二人乗りで坂道は無謀でしょう。
「やっぱ降りよっか?」
「イヤ、待って」
十勝は足を付くと、はぁはぁと肩で息をする。
「うっしゃ~~~~~~~~~~!!」
気合いと共にまた勢いよく自転車をこぎ出した。
さっき程のスピードはさすがに無いけどグングン坂道を登って行く。
何でこんな無茶するかな~。
ぐぅおぉ~!とか言いながら超必死だし。
十勝って変な奴だよね~。
いつもバカな事を言っては人を笑わせて。
あたしの事、好きとかクチをすべらすし。
でもその後で具体的な、こう…
付き合ってくれ
とかみたいな事は言って来ないよね。
からかわれてるだけなのかな?
「も…も少し…で…」
その声に顔を上げる。
坂を登りきったそこは街を一望できる開けた場所だった。
「わ~~!凄い眺め!こんな所あるんだー!」
ちょっと感動!
「だ、ろ?」
自転車を降りてもまだ息が乱れてる。
ふらふらと自販機に飲み物を買いに行く。
バカだなぁ~。そんなになるまで頑張らなくても…。
スポーツドリンクを手に戻って来た。
「見てみ?アレ学校だぜ」
「あ、本当だ!」
こんな所から見えるんだ~。
「じゃ、あれがいつも降りる駅?」
「いつもの駅はコッチだよ」
十勝は駅を指差したあたしの腕をグイっと右の方へ押した。
「え?左の方じゃないの?」
「左って言うか駅は南だろ?」
「南…?」
「あぁスマン、スマン。お前は方向音痴だったけ」
なんだよ!笑うな!!どっちが南とか分かんないよ普通!
って言うかどこが駅でもいいよ。もうこの際。
ん?駅…?
「あたし達、駅に向かってたんじゃないの!?」
そうだ思い出した!
駅に乗せてってもらってる途中だったんじゃん?
線路なんかすごい遠いじゃん!?
「何でこんなトコいんの?」
「なんでって…」
「あ、分かった!」
「ん?」
ニヤリと十勝の顔を見てやった。
「十勝も道に迷ったんだ!」
「ンなわきゃね~だろ!!」
ナンダ違うのか。迷子仲間かと思ったのに。
「じゃ何でよぉ~」
「オレが、」
ちらっとあたしを見ると残りのスポドリを一気に飲み干した。
「オレがお前と二人でいて、素直に駅に行くわけね~じゃん!」
今度は十勝がニヤリと笑った。
またそんな事を言って…。
何て答えたらいいか分かんないよ。
「バーカ。素直に駅に連れてけ!」
「でも来て損は無かっただろ?」
「…うん、まぁね」
確かにこの景色は一見の価値ありだね。
もう一度街を眺める。
「あの、さ一条…」
「ん?」
十勝の方に振り向いた瞬間、大きな音が響いた。
ぐうぅぅぅ~
二人とも目がテンになった。
それは明らかにあたしのお腹の音だった。
「うそ!聞こえた!?」
さすがに顔が真っ赤になった。これは恥ずかしい!!
返事の代わりにお腹を抱えて笑ってる。
あれだけの大きな音、聞こえて無いわけ、ないよね。
「なんだ腹減ってるのか?」
涙を拭きながら尋ねる。泣くほど笑うなよぉ~。
「ん~実はね…」
朝から何も食べずに歩いてて携帯もサイフも忘れた話をした。
「なんだ、なら早く言えばいいのに」
「だってまさかこんな所に連れてこられるとは」
「悪ぃ悪ぃ!」
ペットボトルをごみ箱に捨てると十勝は自転車にまたがった。
「乗れよ。なんか喰い行こうぜ」
「でも…」
お金持って無いし…。
「安心しろって!今日のオレは珍しく金持ってっから。おごってやるよ」
「昼飯になっちまったな」
「ホントだね」
目の前に念願のコーヒーとタルトが置かれた。
このお店、テイクアウトだけかと思ってたら
店内でも食べれるんだね。知らなかった。
「十勝は本当に食べないの?」
アイスコーヒーの氷をガリガリいわしてる。
「ん~オレ甘いの苦手だし」
「あたしのを二個も頼んじゃったからお金足りなくなっちゃう?」
「違うって。心配すんな」
ベリーのタルトと洋ナシのタルト。
迷ってたら、両方喰えばいいじゃん。と勝手に注文してしまった。
「なんか悪いなぁ…」
「気にすんなって」
ピリリリリ
どこかで携帯の着信が鳴った。
一瞬自分かと思ったけど、そっか今日は持ってないんだっけ。
まだ鳴ってる。
って言うか、この音が聞こえる距離って…。
「十勝の携帯じゃないの?」
バレたか。そんな顔をしてる。
「出ていいよ?」
「イヤ、いいよ」
なんで出ないんだ?
「さては…誰か女子から掛って来てるんだ!」
「ちげーよ!」
疑われて仕方なく立ち上がり、店の外に出て話しだした。
その間にあたしはタルトを堪能する。
やっぱりココの美味しい!この店の生地が好きなんだよね~。
しばらくして十勝が戻って来た。
ちらっと時計を見て座ったのが気になった。
「時間…大丈夫?」
「あぁ大丈夫大丈夫!Qからだったから」
「九梨江?会う約束とかしてた?もしかして」
「や、一条と一緒って言ったから大丈夫」
何であたしと一緒だと大丈夫なんだ?
「って言うかやっぱり会う約束だったんじゃないの?」
「いいんだよ。もう」
ちょっと面倒くさそうにアイスコーヒーを飲んだ。
ふ~ん。ま、いいけどね。
「ごちそーさま」
コーヒーも飲み終わったことだし
あたし達は店を出ることにした。
十勝がレジでお金を払う。
そう言えば人におごってもらうってあんま無いなぁ。
「ん?」
お金を出した時に財布から何かが落ちた。
拾い上げるとそれは1枚の紙だった。
「何か落ちたよ。これは…チケット…?」
「うわっ!」
慌ててあたしの手からチケットを奪い取る。
「ちょっと…十勝ソレって」
「何でもない!何でもない!」
チケットを財布に押し込むと逃げるように店を出る。
「何でもなく無いじゃん!!そのライブチケット日付今日でしょ!!」
追いかけると、もう十勝は自転車にまたがっていた。
「もしかしてさっきの九梨江からの電話って…」
「だから、い~んだってば!」
こいつまさかあたしと会ったからってライブ蹴るつもりか!?
「よ く な い !!」
思いっきり十勝を睨みつける。
「あたしのせいでライブ行けなくなるなんて嫌だ!」
「お前のせいとかそ~ゆ~んじゃ…」
困った顔でため息をつく。
「今日はさ、お前と…」
「ダメ!九梨江と約束してたんでしょ?大事な約束じゃん!」
「オレはライブよりお前の方が大事だよ」
いや、約束の方が大事でしょ。またそんな事を言って、呆れた奴だな。
しょうがないなぁココはひとつ…
「行ってきなよ。あたしは十分楽しませてもらったし」
怒るのはやめてなだめてみる。
ぱっと十勝の顔が明るくなった。
「マジで?楽しかった?」
「うん。いい景色も眺められたしね!」
そかそか、とちょっと満足そうだ。単純な奴め。
「だから今度は九梨江と楽しんでおいでよ」
「ん~…」
「じゃ今度こそ駅に連れて行って!」
まだちょっと悩んでるみたいだったけど
あたしが後ろに乗ると渋々自転車を走らせ始めた。
「ありがと!」
今度は無事に駅に着いた。
「気ぃ付けて帰れよ」
「うん、じぁゃね~!」
自転車を降りて階段に向かう。
なんか今日は色々あったな。
朝からの事を思い出しながら一段一段ゆっくりと上る。
パン買いに出て、道に迷って、十勝に会って…。
んで携帯もサイフも忘れたって言ったらおごってくれて…。
あれ?
階段の一番上の段に足を掛けて気付く。
「サイフ!」
大慌てで階段を駆け降りる。
お金持ってないから電車に乗れないじゃん!!
下を見るとさっき別れた所に十勝は居た。
ちょっとニヤニヤしてる。
うわ、気付いてるよ。微妙な顔になる。
「ほらよ」
何も聞かずに五百円玉をくれた。
「あ、でもこんなにいらないよ。スグだし」
「いいよ。持ってけ。余ったらそれで家でも建ててくれ!」
「なんだそれ!!」
オヤジギャグ!?ホントに可笑しな奴!
「でも小銭を手で持って帰る訳にもいかないし。ポケット無いんだ」
笑いながらお金を返す。
「だから十勝が切符を買ってくんない?」
お安い御用と自転車を降りた。
今度は二人で階段を上る。
「お前の駅ってそこなんだ~」
切符を取り出しながら十勝がニヤリとした。
「…待ち伏せとかすんなよ?」
「オレをストーカー扱いすんじゃね~よ!」
切符を受け取ると改札をくぐる。
「じゃ今度こそ」
振り返って手を振った。
十勝も軽く手を上げた。
こんなに十勝に面倒みてもらうハメになるとは…。
また今日の事を思いながら電車に乗り込んだ。
「もう寝ちゃおうかなぁ~」
なんだかもう眠い。朝が早かったせいかな。
それとも帰って来てから珍しく一生懸命掃除とかしたからかな。
早々とシャワーを浴びて寝巻に着替えた。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してふと思う。
「そう言えば…あいつ超グロッキーになってスポドリ一気してたな」
つい思い出し笑いをしてしまった。
「そう言えば今日はお世話になった事だし、メールで書いとくか」
[今日は色々と
おごってくれて
ありがとう(^^)
助かったよ☆
んじゃ、
また学校で!
Itsumi]
「こんな感じか。送信、っと」
じゃ寝る支度でもするか。
歯磨きに洗面所に向かう。
戻って来ると、返信が来てた。
「早いな」
[おー
腹減ってたのに
連れまわして
悪かったなー
でも楽しかったぜー
またなー]
なんか間の抜けた文章!ちょっと笑った。
メールでは変な事、言わないんだな。
って言うか、こいつあんまメール自体しないよね。
今どきメール慣れしてない奴って珍しいなぁ。
「ふぁああぁ」
ダメだ。本格的に眠くなって来た。
携帯を充電器に戻すとベットに潜り込む。
やっぱ早起きしたから眠いのかなぁ。
早起きか。三文の得って言うけど…。
「今日は三文以上の得をしたかもな」
でも三文って今の価値でどのくらいだっけ…?
そんな事を思いながらあたしは眠りについた。
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この話はもっとタイトめに書きたかったのに
なんだか内容も無いのにズルズルと会話しちゃって
間の抜けた感じになっちゃったなぁ。
これからもジレジレとした関係が続きますが
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