No.120426

真・恋姫†無双 ~祭の日々~11

rocketさん

まさかの即日更新!驚いてもらえたでしょうか!
前回、黒幕の正体に皆さんが「ああ・・・やっぱり」とコメントしてくれたのを見て、なんだか悔しくなってやってしまいましたΣ(゚д゚lll)ガーン
はい、すみません。こんなとこで意地を張ってすみません。
話の展開で驚かせることができるようにがんばります。
まあ今回はつなぎの回になるかなと思ったので、早めに書き上げようとは思っていました。

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2010-01-24 22:01:25 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:8322   閲覧ユーザー数:6702

「お兄さん――ちょっといいですか?」

 

祭さんとの稽古中。

汗にまみれ、全身傷だらけになりながら、やっともらった休憩時間に、図ったように風はやってきた。

いや、実際に図ったのかもしれないが。そこらへん風は如才ないからな。

「ん、どうした?」

「華琳さまへの連絡はもちょっと後になると思うんですがー・・・お兄さんには、ちょっとお願いしたいことがあるのです」

「へ?俺に?」

「はいー・・・というよりは、お兄さんと祭さんに、ですけど」

「?」

ますますよくわからないが。

祭さんとふたり、顔を見合わせる。

「今から大事なお話しをするのですよ。お兄さんも祭さんもよくきいていてくださいねー」

よくわからないまま、風の説明を聞く。

「今回の蜀の挙兵でいちばん忌避すべきことは何かわかりますか、お兄さん?」

「ん?あー、そりゃ・・・戦だろう」

そもそも三国協定は戦を起こさず、三国が平和を保てるように相互協力するために定められたもののはずだ。

俺は制定されるその場にいることはできなかったが、そのようなものだと思う。

「その通りです。あの情報で、今ごろきっと呉も魏も、軍をいつでも出せるように待機させているでしょう。

しかし、風たちは戦を起こしたいわけではありません。というよりむしろ、未然に防げるものなら防ぎたいと思っています」

「当たり前じゃな。・・・じゃが、実際問題、そんなことができるものなのか?」

「そこで、おふたりにお願いがあるのです。

先ほど冥琳さんとも打ち合わせをしてきました。華琳さまからの許可は事後承諾ということになりますが・・・」

「だから、なにが?」

一呼吸置いて、風はそれを告げた。

 

「お兄さんと祭さんに、蜀へ行ってきてほしいのです。お忍びで」

 

祭さんとふたり、ぎょっとする。

「・・・えっと、それはまたどうして?」

「それはですねー、おふたりの存在はまだ蜀に伝わっていないからなのですよ」

「存在?」

「はい。天の御使いが天へ帰り、黄蓋将軍が赤壁の戦いで絶命した――これはつい最近まで風たちも信じて疑わなかった周知の事実です。

実際はお兄さんも祭さんも生きていて、今は呉にいるわけですが、蜀は当然これを知りません。

蜀が今どうなっているのか、以前と同様に一枚岩なのか、間諜に調べてこさせるには時間がなさすぎます。

ですが、祭さんとお兄さんなら――その場で調べ、その場で行動することが出来る」

間諜はもともと、敵地に潜入し、情報を収集してくるだけの存在だ。

彼ら自身が判断し、なにかを成すことはできない。彼らの仕事は情報を得てくることであって、事を起こすことではないからだ。

「そもそも三国が敵同士であったころから、桃香さんの人徳が成す募兵力には恐ろしいところがありました。彼女のその人柄は多くの人を惹きつけますから。今回も同様です。明らかにおかしくとも、桃香さんが言うのならそうなのだろうと、盲目的に信じてしまう人が少なからずいるでしょう。誰かが信じれば、その人の親しい誰かも信じます」

「・・・ねずみ算だな」

というよりも、確証バイアスか。

劉備さんがやっているのだから、何があっても正しいのだ、と。

「あまりに情報がなさすぎて、まだ判断のしようがないことがありすぎます。

この挙兵自体、蜀全員の決定なのかすら怪しいところがいくらかありますし・・・」

「む、劉備がひとりでやっておることだとでも?」

祭さんが驚いたように尋ねる。風はうなずきはしなかったが、否定もしなかった。

「わかりませんー。・・・ですが、本当に朱里ちゃんたちもこれに参加しているのなら・・・もっと風たちは窮地にいるはずなのですよ。気づいたときにはもうどうしようもなくなっているくらいに。ですがまだ募兵している段階なのに風たちは気づきました。いくらなんでも早すぎますね」

「ふむ・・・」

「風は味方を過小評価しません。敵を過大評価もしません。それでもこれはおかしいと思うのです」

 

 

風の話をきいてすぐ、祭さんが少しだけ不機嫌そうに言った。

「・・・儂は戦に出られると思っていたのじゃが」

「はい?」

思わずききなおしてしまう。

この人は、あんな目にあったっていうのに、戦場に出ることに対する恐怖がないのだろうか?

風はそんな祭さんをみて、優しげな笑みを浮かべる。

「どうも、冥琳さんは祭さんを戦場に出したくないみたいですねー。この策も、危なくなる前には帰ってくること前提でしたし」

「そんなことを前提にしたら、なにもできんではないか」

「祭さん」

少しだけ声がきつくなる。風のその声は、祭さんだけに向かっているのではないような気がした。

「彼女たちの気持ちも考えてください。親しい人を失った恐怖も、それが覆った喜びも彼女たちは知ってしまった。

・・・戦が起こるかもしれないという重大事でなければ、本来なら祭さんは隠居させられるかもしれなかったのですよ?」

「な、なんじゃとっ!?」

びっくりする祭さん。

ちらりと風は俺を見る。

・・・・・・まさか風、俺が魏に帰ったあとの待遇もそんなんだったのか?

「とにかく、受けていただけますか?時は一刻を争うのです」

呆然としている祭さんと俺に向かって風は問う。

俺の答えは決まっていた。

「受けるよ。君らのために俺はなんでもやるつもりだし――なにより、戦なんてものを起こさないために」

「・・・お兄さん」

やわらかな笑み。

風はその笑みのまま、俺に抱きついた。

「うわ、ふ、風っ?」

「くふふ・・・だからお兄さんはやめられないのですよー」

「あ、汗臭いって!汚れてるし・・・」

「知りませーん♪」

突然のスキンシップに俺が慌てていると、

「なにをふたりだけで楽しんでおる・・・儂も混ぜい」

祭さんまで俺に抱きついてきた。

「ささ、祭さん!?」

「何を慌てるか・・・おぬしも男なら、これくらい受け止めてみせんか」

「おやおやー、種馬っぷりが留まることを知りませんねー・・・風はちょっと不機嫌なのです」

むくれた風をなだめるのが先か、

「むう・・・意外とたくましいのう。まだまだ足りんが」

冷静に俺の体を調べ始めた祭さんを止めるのが先か、俺には判断できなかった。

「あ、で、祭さんどうします?受けてくれます?」

「おお、受けることにするかな。戦には出してもらえんようじゃし、少しでもお国に貢献せねばな」

慌てる俺を無視して真面目な話をするふたり。

「ちょ、ふたりともいい加減に――!」

 

 

「なにをしているのかしら」

 

 

怒りもあらわな声が背後からきこえた。

慌てて振り返ってみると、そこにいたのは会議で雪蓮に諭されていた人物。

「おお、権殿」

祭さんが話しかけると、孫権さんはその目に涙をたたえながら、花開くような笑みを零す。

「祭・・・・・・生きていてくれて、本当にうれしいわ。都を離れていて、すぐに会いにこれなくてごめんなさい」

「いえいえ、そんな。こちらこそ権殿に挨拶が遅れてしまって申し訳ない。また会えてうれしゅうございます」

「ふふ・・・祭らしくないわね。でも・・・」

ぎろり、と孫権さんは俺をにらんだ。

「誰とも知れない男と戯れているのは、感心しないわね」

「おや、紹介が遅れましたな。こちらは――」

「知っているわ。姉さまに聞いたもの・・・天の御使いだとか」

「・・・北郷一刀といいます」

抱きついたままの風をどかして、挨拶をする。

・・・こら風、むくれないの。

「魏とは今や協定を結んだ仲であるし・・・あなたに対する怒りなどはない。だけど、呉の領内で好き勝手するというのはいかがなものかと思うのだが」

「はい、おっしゃるとおりです」

言い逃れもできない。

なにせ一秒も無駄にできないというときに遊んでいたのだから。

「・・・ふん。とにかく、祭、その・・・帰ってきて早々呉を離れることになってしまったのだけど・・・」

俺と話すときとは打って変わって親しげに祭さんに話しかける孫権さん。

・・・そういや、あんなに呉勢に憎まれることを覚悟していたのに、敵意を向けられたのは初めてなような気がする・・・。

「かっか、かまいませんよ。呉のため民のため、儂ができることをするまでですからな」

「・・・ありがとう」

 

くいくい、と袖をひかれた。

「お兄さん、お兄さん。風たちは退散するべきかと思いますが」

「ああ、そうだな・・・積もる話もあるだろうし。

祭さん、俺たちは部屋に戻るよ」

「ん?ああ、すまんな。今日はこれまでじゃ」

「うん、ありがとうございました!」

修行をしてくれたことに対しての礼をして、俺は風とその場を離れた。

 

 

――三日後。

急かされるまま準備をし、蜀へ出発する日を迎えた。

 

「じゃあ、風・・・みんなによろしくな」

「はい。お兄さんのことはお手紙でしっかりとご報告しておくのですよ」

風は呉でやることがあるらしく、今回の旅にはついてこない。

まあ、今回のことでは魏と呉がいかに連携するかが要のようなものだから、風は必要不可欠だろう。

「お兄さん」

「ん、どうした」

「・・・帰ってきてくださいね」

「・・・・・・」

「約束、もう破らないんですよね?絶対帰ってくるんですよね?・・・風は、待っていますから」

風を抱きしめる。

「待っててくれ・・・絶対帰ってくるから」

「・・・その言葉、華琳さまへのお手紙に書いてもいいのですかー?」

「もちろんだ。俺はもう約束は破らない」

安心してくれたのか、風は微笑んで、うなずいてくれた。

「行ってらっしゃい、お兄さん」

「ああ、行ってくるよ、風」

 

見ると、すでに呉勢と別れを済ましたらしい祭さんが俺を見てにやにやしていた。

「別れはすんだかな、色男殿?」

「からかわないでくれよ・・・じゃあ、行こうか」

「うむ。・・・いいか、一刀?我々の任務は重要じゃ。

敵地に潜入し、情報を集め、場合によっては行動を起こし・・・・・・それらをすべて、死なずにやらねばならない」

「ああ、そうだね」

「今までは、名誉こそ守りぬけと部下には言ってきたのじゃがな・・・今回は違う。

名誉などどうでもいい、なにはともかく生きて帰ること。それを優先させる。・・・儂らよりもよほど危ない橋を、お味方は渡っておるのじゃから」

「・・・・ああ」

 

約束した。約束をもう二度と破らないと誓いもした。

彼女たちのために、この大陸の為に――戦など起こさせやしない。

 

――いざ、蜀へ。

 

 


 
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