二話「役割と消える運命」
私は、人間ではない。
百十年をかけて、赤子から幼子へ、少女へと、ゆっくり育った。今の姿は十五、六歳ほど――けれど、私の成長はまだ終わらない。
私は、前世と前々世の記憶を持っている。しかもなぜか、この世界……漫画『BLEACH』の知識までも。
いわゆる「転生したら漫画の世界だった!」というやつだ。けれど、私がいるこの世界は、原作そのままじゃない。歪みが、ある。
たとえば。
小さい頃に異世界から転移してきた母・常沖(つねおき)は、本当の名前を隠している。神である“おんじ”――狼の神様の助言で、名を伏せるよう言われたのだ。
この世界には、“おんじ”を祀る神社がいくつもある。けれど、原作には、巨大な白い狼なんて出てこなかった。
でも、現実には、いる。
そして――何より、浦原喜助が結婚して、子供までいる。
母・常沖がその妻であり、私がその娘だ。
これまでの人生、私は不自由なく育ってきた。幸せだった。……けれど、その穏やかな時間に、じわりと影が差す。
母が、眠ることが増えたのだ。
それは――黒崎一護の両親、真咲さんと死神・一心さんが結ばれた時期と重なっていた。
母が、眠りの中へと引きずり込まれるようになったのは、その頃だった。
私は、怖かった。大好きな母が、遠くへ行ってしまうのではないかと。
でも、てて様……浦原喜助は、すべてを知っているかのように、小さく呟いた。
「……そろそろ、なんスね」
その声は、寂しさと覚悟が滲んでいた。そして、てて様は私に向き直って、こう言った。
「成さん、ボクは“役割”を果たさなきゃいけません。それは、ボクが原因を創ったっていうのもあるんスけど……」
「……役割?」
私の問いに、てて様は静かに頷いた。
「成さん、これからボクがすることに――黙ってついてきてくれませんか?」
それは、優しい口調なのに、決して逆らえない眼差しだった。
私は言葉を飲み込み、小さく頷いた。
「これは、沖さんを救うためでもあるッス」
「救う……って、かか様を?」
「はい。沖さんの存在は、黒崎さんたちによって回り始めた“歯車”の影響で、不安定になってきてる。彼女は、おんじさんと同じ神の血を引いてる。世界のバランスが崩れると、沖さんの“存在”自体があやふやになるッス」
私の胸がぎゅっと痛んだ。
「……夢の中にいるみたいな、そんな感じ?」
「うん、近いッスね。沖さんは今、神そのものに“なりかけて”いるッス」
ぞわりと、背筋に冷たいものが走る。
「……それって、おんじと同じ霊体になるってこと?」
「ほとんど同じ。これからは、存在するために“義骸”を作るしかない。あんまり残るモノを作るの、好きじゃないんスけど……」
「……かか様、消えちゃうの?」
「ううん。この世界から“消える”っていうより、“戻る”だけッス。元のあるべき場所にね」
「でも……離れ離れになるんでしょう?」
私の声が震える。てて様は、そっと私の頭に手を置いた。
「……違う。ボクらは、おんじさんと一緒に“別の世界”へ行くッス。だから、成さんにはこの世界に未練を残して欲しくない」
「そんなの無理だよ!!」
私は叫んだ。
「てて様とかか様がいなかったら、私、生きていけない! 未練があっても、絶対一緒に行く!」
そのとき、てて様は私をぎゅっと抱きしめた。
「……ボクらの都合で、成さんを振り回して、本当にごめんなさい」
「……っ」
「だから、成さんは好きなだけ、ワガママを言ってください。どんなに困らせてもいいッス。ボクがこの世界の問題を片付けたら――今度は、ボクが成さんを助けますから」
“今度は”って、どういう意味?
何を、どう助けてくれるの?
けれど、私は何も聞けなかった。
てて様の声には、どこか……やるせなさと、深い悲しみが滲んでいたから。
私は、ただ頷くしかなかった。
そして、母が“この世界”から消えてしまう運命に、胸が張り裂けそうになりながら、涙を堪えた。
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BLEACHの二次創作です。
浦原喜助の娘の成長話です。