No.1184330

紙の月外伝 フライシュハッカーの過去

本編のラスボス、フライシュハッカーが主役の前日譚。暴力的な表現あります。

2026-03-20 15:52:30 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:49   閲覧ユーザー数:49

 

 誰も望んでいなかった僅かに道を違えた近未来、内乱や戦争も前時代から引き継いだ世界。力を蓄えた企業が国から独立し、中世に逆戻りした様に都市国家が乱立した。

都市で生活していた幸運な人々だけが外界の戦乱から逃れ、隔離された小さな世界で生きる事を許された一方、衰えた各国の政府は内乱や紛争が続き、国内の治安すら安全を維持できず、力のない者は恐怖に怯える生活を強いられていた。

「我々の目標は一つ。都市国家間を繋ぐ電波塔の奪取だ」

 都市国家の支配を政府に戻すため働く傭兵、アンチと呼ばれる武装集団。その指揮官が己の計画の内容を説明する。狭い軍用テントの中、歴戦の猛者と言った風貌の傭兵たちが集まっていた。

その中に、一人場違いな少年が混じっていた。少年兵にしては身ぎれいで、椅子にふんぞり返るその姿は話を聞いているのかも怪しい。何より異様なのは真っ白な髪の間から覗く両目が虹色の角膜に覆われていて、どこを見ているのかすら分からない。ただの少年、人間かどうかすら怪しい不気味な雰囲気を全身から放っていた。

「聞いてるのかフライシュハッカー! これは重要な作戦だぞ!」

「重要な作戦、ね」

 フライシュハッカーという少年がおうむ返しに呟く。周囲の視線が彼に集まるが、全く意に介さなかった。

「こんな作戦、僕の力を使えば一日もかからない。部下を使うまでもない退屈な作戦だ」

 都市国家は支配する企業によって最先端技術を自分たちで独占している。一方、政府は資源すらろくにない状況だ。扱う兵器の性能差は一目瞭然だ。だから、アンチは奇襲や潜入でかく乱して戦うゲリラ戦術が主になる。

「正面突破だ。奪取したところでこちらに都市国家のセーフティーを破れる様なハッカーもいない。物理的に完全破壊した方がいい」

 フライシュハッカーはそう言う。周囲から鼻で笑う声やひそひそと陰口を叩く声が聞こえる。

「大した自信だ。それならやってみせろ。お前らセーヴァの力とやらでな」

「ああ、ここで見ているといい。セーヴァがただの人間とどう違うかをな」

 そう言って、フライシュハッカーは立ち上がって、テントから出ていく。外には彼よりも年下の様な少年が一人待っていた。

「行こうニコ。僕ら新人類の力をあの原始人共に理解させてやろう」

 

 セーヴァとは、都市国家と政府の戦争が激化する中で生まれた超能力者の名称だ。彼らは皆子供で瞳が虹色に変化し続けているという特徴がある。それぞれが独自の超能力を使え、それ故に戦争で彼らを利用する者が後を絶たなかった。フライシュハッカーはアンチに属するセーヴァ集団をまとめるリーダーだが、その数は百人にも満たない。だが、その人数で同じ数の少年兵どころか兵器に匹敵する戦力として扱われていた。

「ニコ、どうだ? 都市国家の連中に少年兵の脳波らしき物は感じ取れるか?」

 ニコと呼ばれた少年は首を横に振った。この少年は人間の脳波をレーダーの様に感じ取れるらしい。

「それならいい。僕も遠慮なく力を使う事が出来る。念動力を扱えるセーヴァを集めて、見晴らしのいい所で待機してくれ」

 遠くに見える電波塔を見つめる。超能力者の力、セーヴァの力がどれほどの物か知れば、より大きな都市国家への攻撃に参加できる。それがフライシュハッカーの目標だった。

「あの電波塔は僕一人で破壊する。その力の凄さを同じセーヴァに見せる事で、僕らの力がただ大人たちに利用されるべき物じゃない事を彼らも知るだろう」

 双眼鏡を片手にフライシュハッカーは悠々と電波塔に向かう。そこは既に戦闘区域だ。いつ都市国家の軍人や兵器と出くわしてもおかしくない。にも拘らず防弾チョッキすら身に着けず、彼は平然と電波塔へ歩いていく。

 バチン!と何かが彼の周囲で弾くような音が聞こえた。それから続けて爆竹の様に何度も破裂する音が生じた。

「ニコ、君から見て10時の方角。地図で言うと、そうだな……電波塔から500m位離れた辺りにジャミングをしてくれ」

 取り出した無線でフライシュハッカーが指示を送る。数分後、敵の攻撃がピタリと止んだのでフライシュハッカーは再び歩き出した。

フライシュハッカーの超能力は自分に向かうあらゆる衝撃を無効化する物だ。視認できない距離からの狙撃だろうと、戦闘機の空爆だろうと、その銃弾や爆破衝撃は彼に届く前に同じだけの力で弾かれる。この力は彼だけが使える特異な超能力だ。同じ超能力者のどんな力でも無効化できる。そんな無敵の力があるため、様々な超能力者セーヴァの集団をまとめる事が出来るのだ。そして、その無敵の盾は同時に武器でもあった。

 小隊と前時代から存在する戦車が姿を見せた。指揮官らしき兵士の一人が大声で指示を出すと、戦車がその主砲を彼に向けた。空気を突き破って砲撃が放たれる。生身の人間なら脇を通り抜けた衝撃だけで身体を抉る戦車の主砲を真正面から撃たれたのだ。跡形もなく吹っ飛ぶのが普通だが、彼の力は戦車の主砲すら無効化した。耳をつんざく爆風と衝撃が辺りに響くが、フライシュハッカーと彼の立っているその付近は、全くの無事だった。敵の兵士たちも自分の見ている光景が信じられなかった。

 さっきの指揮官らしき兵が叫ぶと、兵士たちが同時に射撃をフライシュハッカーに浴びせる。中にはRPGロケットを撃つ者もいたが、戦車の主砲も効かない相手には意味がなかった。小銃の銃弾も、ミサイル弾も、彼に当たる前に見えない壁に弾かれる。

 戦車が全速力で彼に突進してくる。その質量で押しつぶすつもりだ。しかし、それでもフライシュハッカーは自分にかかる砂埃の方が気になるという風に、全く意に介さなかった。

 彼にぶつかつ寸前に、戦車は透明な壁に衝突した様にそれ以上前に進む事が出来なくなった。

「失せろ!」

 フライシュハッカーがそう呟くと、鋼鉄の塊である戦車の前面がぐしゃりと潰れ、宙を回転しながら後方へ飛んでいく。自分に向かってくるあらゆる障害を無効化する盾を、自らの意思で逆に相手にぶつける。それはあらゆる物を破壊する最強の武器となる。無敵の盾と最強の武器。その二つを同時に併せ持っているのがフライシュハッカーの超能力だった。

吹っ飛ぶ戦車に巻き込まれて数人の敵兵が死んだ。残った兵と指揮官は信じられないといったように、彼に背を向けて逃げ出した。

「見たかニコ。あいつら泡食って逃げて行ったぞ! そっちにも僕の力はちゃんと伝わったかな?」

 敢えて独りで出撃し、仲間である同じ超能力者に力を見せつける事でフライシュハッカーは超能力者たちを支配していた。時折超能力者の中には彼に反目する者も少なからず存在していた。つい最近では少年兵でもないのに人を殺す事に躊躇いのない少年が、好奇心から彼を殺そうとしてきたのだ。それは返り討ちにしたが、こうやって圧倒的な超能力を誇示してその気概を見せつける必要があった。強力な超能力で戦場を悠々と闊歩する様は、まさに超能力者の王だ。

 これ程の力を持っていながら、何故彼はアンチの一部隊に甘んじているのだろうか。

「さて、電波塔に着いた。これより内部に入る」

 無線で逐一ニコに連絡を取りながら彼は電波塔の入口へと向かった。

 電波塔の敷地に着いた所で再び都市国家の軍隊に抵抗にあったが、彼の力は説明済みだから結果は伝えなくても想像がつくだろう。一方的に蹂躙される恐怖を都市国家の軍人たちは初めて味わう事になった。これがセーヴァと呼ばれる超能力者の力だと。

 ほとんどの国、都市国家の間で超能力者の存在は脅威とみなされて、迫害の対象にもなっていた。フライシュハッカーには超能力者を集めて自分の配下に引き入れるに都合がよかった。彼にとって同じ超能力者でも、自分が扱う駒程度にしか思っていなかった。付き合いの長いニコを除いて。

電波塔の内部に入り進んで行く。丁度中心部の辺りになるだろう。制御室手前の通路でフライシュハッカーは立ち止まった。もっとも重要な制御室前にも関わらず敵の姿がない。何かしら罠が仕掛けられていると彼は思った。

「ニコ、僕の周囲に何か反応はないか?」

 答えが返ってくる前に、突然電機が落されて照明が消えた。窓もなく通路と言ってもエレベータもあり、周囲は広い。真っ暗闇の中で彼は一人になった。

「視覚を封じれば銃撃が届くと思ったのか? 甘いな」

 闇討ちをするつもりだったのだろうが、彼の超能力は己の周囲に見えない壁を張っているような物だ。暗闇でもその力は失われない。

「反応が多数……十何個も周囲にあって君を取り囲んでる……!」

 無線からニコの声が聞こえてくる。闇討ちするつもりなのは間違いないようだ。だが、反応があると聞いたが気配はほとんど感じない。妙だと思った。

「真っ暗闇の一人っきり」

 声が聞こえた方に念力を飛ばす。すると、今度は全く別の方向から何者かの声が聞こえた。

「悪い子の所にブギーマンが来るよ」

 さっきと全く同じ声。念力で聞こえた方へ攻撃するが、手ごたえを感じない。

「悪い子の頭を大きく一口」

 また声の聴こえる方向が変わった。これはどういうことだ。

「お前のすぐ後ろだ」

 すぐ背後から声が聞こえた。今度はすぐにその場を飛び退いて暗闇の中を転がる。

フライシュハッカーの背中、着ていた服の背面に一筋の切れ目が出来ていた。

「お前の超能力、やはり弱点があったな。音速を越える銃弾や強力な爆風は無効できても、ゆっくりと近づく物には反応しない」

 また声の聴こえてくる方向が変わる。恐らく相手は一人。遠隔操作で設置した音声機で、こちらの位置を掴めないようにしているようだ。

「やるじゃないか。ここまで僕に近づけたのはお前が初めてだぞ」

「俺はブギーマン。少年兵殺しの怖い怖いお化けだよ」

 恐らく正規の軍人ではない。暗殺や殺戮等を得意とする殺しの達人。だからフライシュハッカーに気づかれることなく背後を取る事が出来た。

「お化けか。そんな埃の被った昔話の怪物など、僕がこの手で退治してやる!」

 暗闇の中、ブギーマンと名乗る暗殺者と超能力者の戦いが始まった。

 息をひそめてフライシュハッカーは自分が屋内のどの辺にいるか思い出す。この暗闇の中では方向感覚すら鈍る。その状態で、音もなく忍び寄る暗殺者を探り当てる事は難しい。

「少年兵殺しと言ったな。聞いたことがあるぞ。少年兵だけを狙って殺す凄腕の傭兵の話を。都市国家の連中に雇われたとは思わなかったが」

「お前たち超能力者を殺すために雇われたのさ。大体の兵士は相手が子供だと一瞬の躊躇いが生まれる。戦場だとそれが命取りになる事が多い。でも俺は何のためらいもなく、お前たちの様な子供を殺せるから」

 過去に聞いた事がある。少年兵殺しの傭兵が存在する事を。話ではむしろ率先して少年兵だけを狙って殺して回ってると聞いた。尾ひれのついた噂話だと思っていたが、こうして実在するならば、間違いなく精神に異常をきたした殺人鬼だ。だが、戦場ではこういう人間が重用されるときもある。

「銃の使い方をおぼえただけのガキを殺して悦に入る異常者め。超能力者は全く違う事を思い知らせてやる」

 フライシュハッカーはそう吐き捨てて、周囲を警戒する。視覚が封じられた今では聴覚と空気の流れを感じる触覚だけが頼りだ。向こうは暗視スコープなり何なりで準備してるだろうから、状況的にはこっちが不利だ。

「銃さえあれば子供でも人を殺せる。いや、人間なんて大した理由がなくても、手に武器があれば立派に人を殺せるんだ」

 空間にブギーマンの声が反響する。こちらの超能力について入念な下調べと、その効果を研究してきているようだ。

「でも、お前たち超能力者は武器なんて必要ないんだ。隣に何時でも自分を殺せる生き物がいる。その恐怖は想像に難くない」

 両手を床に付く。歩く振動を探せないか試してみるが、全く分からない。全身をフルに活用して相手の居場所を探る。

「お前らは存在してはいけない。殺さなきゃいけない生き物だ」

 咄嗟に左に転がる。右腕に熱の様な痛みが走った。右の方向から思い切り切り付けられた。

「ちぃっ!」

 念動力を放つが、その場所にはもうブギーマンはいなかった。

「絶滅しろ超能力者。俺がお前を殺してやる」

 右腕の痛みに額から脂汗がにじむ。他人に傷をつけられたのは何年ぶりだろう。

「ふっふっふ……旧人類が新人類である超能力者を絶滅させるだって? 面白い」

 終わりなく続く戦争の中で生きてきて、死線を潜り抜けた事は一度や二度ではない。だが、それらも自分にとっては大した障害ではないのだ。そしてこのブギーマンという暗殺者も同じだ。

「お前ら旧人類は全員過去の存在になる。それを僕が教えてやる」

 フライシュハッカーは一歩二歩跳ねるように歩いた後、三歩目で思いっきり飛び跳ねた。

 それから無音の時間が続く。ブギーマンは怪しんだ。着地する音が聞こえなかった。フライシュハッカーは何処へ行った?

恐らく思いっきり飛び跳ねて距離を取ったはず。なのに、どういう訳かそこから着地する音が聞こえない。宙を浮いているとしか思えない。彼の超能力でどうやって? フライシュハッカーの超能力はブギーマンの考えでは、斥力を発生させている物だと思っていた。だから、彼に向かって高速で向かえば向かうほど、同じくらいの斥力で弾かれる。ならば、ゆっくりとじわりじわりと死んだ生き物が腐敗する様にゆっくりと動けば、彼の力を受けずに済む。事実、その考えは当たっていた。だが、どんな力にまで彼の超能力が及ぶかまでは不明だ。物体の運動エネルギー、熱、電気、光、音……まさか重力まで彼の力は及ぶというのだろうか?

 だが、それでも向こうはこちらの位置を把握できない。こちらは暗視ゴーグルがある。暗闇の中、フライシュハッカーの位置を探り当てる。

「ニコ、今動いてる電磁波はどの向きから発生している?」

 フライシュハッカーの声が頭上から聞こえた。見上げて彼を視点に捕らえると同時に、ブギーマンの背筋を恐怖が走る。何もない空間でフライシュハッカーが浮遊している。彼の超能力は重力すら無効にできるのだ。

「君から7時の方向。そこで振動する様に電磁波が動いた」

 その声の直後、全身を巨大な鉄球で打ち付けられる衝撃がブギーマンを襲った。その衝撃で背後の壁に打ち付けられ肉体を潰しながら壁に埋まる。持っていた設備のコントローラも今ので破壊された。照明が起動し、そこら中に仕掛けた音声機からノイズだけが聞こえる。フライシュハッカーは待っていたのだ。ブギーマンが位置を探る瞬間を。音声機や照明はそこから動くことはない。そうなれば位置を探して周囲を見渡す暗視ゴーグルだけが僅かに動く。その電磁波を仲間の超能力者に特定させた。

「鬼(ボーグ)は捕まった」

 フライシュハッカーはそう呟いて、ブギーマンに近づく。ブギーマンはまるで潰れた虫の様だった。だが、この状態でも彼はまだ息があった。

「手加減したが、まだ意識があってよかった。聞きたいことがあったんだ。どうして少年兵を殺すんだ?」

 本人の口からその理由を聞きたいがために、わざと超能力を加減して放った。それでも生きてる保証はなかったが、ぎりぎり生きてる状態にする事が出来た。

「……まだ正規軍にいた時、部隊が奇襲を受けた。部隊は壊滅して自分だけが生き残った。相手は数人の少年兵だった……」

 ぜえぜえと今にも事切れそうな状態だが、ブギーマンは語り出した。

「それから周りの人間が、自分を殺しに来るんじゃないかと怖くなった。味方も子供も、何も信じられなくなった……」

 咳き込んで血を吐いた。何時死んでもおかしくない。フライシュハッカーは黙ったまま話を聞き続けた。

「だから殺した。みんな怖かった。子供でも武器を持たせれば充分人を殺せる。だから相手が子供でも見逃さなかった」

 怪物ブギーマンは戦争で生まれた。そして、ただの怖がりな一人の人間でしかなかった。

「でも、もう終わりだ。ようやく楽になれる。もう怖くはない」

 そう言った後、顔を伏せてブギーマンは動かなくなった。フライシュハッカーは振り返り、無線でニコに伝える。

「ニコ、周囲に他の反応がないか見てくれ。なければ僕の力を最大出力で放出して、この電波塔を破壊する」

 数分後、電波塔のあった位置には大きなクレーターが出来ていた。隕石が落ちて陥没したのではない。まるで地面事えぐり取ったかのように大きな球状のくぼみになっている。何が起きたのか、電波塔が消える直前に都市国家の本部に届いたメッセージは、眩い光が電波塔から放たれたと思ったら消えていた、というものだった。

 核兵器か? しかし、周囲には放射線は検知されず。ミサイルもレーダーには確認されなかった。直前にフライシュハッカーという超能力者が内部に入ったという事が分かり、この現象は彼の超能力の物だという事で決定された。

 そして、彼はアンチの司令部に戻っていた。本当に、たった一人で都市国家の通信施設を数時間で完全に消滅させてしまった。テロリストたちも彼の力を認めざるを得なかった。

「超能力者か……こんな力を持った連中が一人いるだけで戦況が大きく変わるとは……」

 技術力や兵器の質で都市国家に劣るアンチでも、彼らを利用するだけで対等以上に戦える。その事実を彼らは実感した。

「これで分かっただろう? 僕らはもっと有益になるような戦いがしたい。今回は僕一人で十分だったけれど、全員が必要になる様な重要な任務を受けるべきなんだ」

「よし、太陽都市への派遣を検討しよう。もし、あそこに打撃を与えられれば、都市国家同盟は大きく弱体化する!」

「ああ、よろしく頼むよ」

 ようやく自分の力が認められたことに、フライシュハッカーは喜びを隠し切れなかった。

「じゃあ僕は自分の仲間たちの所に戻る。報告を楽しみにしてるよ」

 そう言ってフライシュハッカーは外に出る。前回と同じようにニコが外で待っていたが、フライシュハッカーと違い表情は暗い。

「今度は別の戦場に行くの?」

「ああ、だが次に行く場所は都市国家でも特に有名な場所さ。そこで僕らの力を見せれば、セーヴァの力がどんな兵器よりも強いと誰もが思うだろう」

「本当に、それでいいの?」

 ニコの言葉にフライシュハッカーの顔から笑みが消えた。

「僕らの力が今の人類より強いとみんなが分かれば、戦争はなくなるって君は言ってた。信じていいんだよね……?」

「ああ、僕ら超能力者がこの世界を統べる存在だと誰もが思う。そうすれば今戦っている連中も、戦争を止めて僕らの前に跪くんだ」

 ニコがじっと彼を見つめる。不安と期待の両方が混じった表情だ。

「うんそうだよね。僕らは戦争を止めたいんだ。君が最初にそう言った事、僕は信じてる」

「さ、ニコも一緒に仲間たちの所へ行こう。彼らにも移動することを伝えなきゃね」

 信じているとニコは言った。彼の超能力ならフライシュハッカーの考えを読む事が出来る。しかし、彼はそれを使わなかった。ニコが本当はフライシュハッカーの事を信じておらず。その真意を知りたくない事の意思表示だ。フライシュハッカーもそれを分かって、ニコに本当の目的について話す事はなかった。

 フライシュハッカーの本当の目的、それは非超能力者、現人類総ての絶滅だった。その為なら、同じ超能力者を利用するのも構わないと思っていた。理由は他人、大人たちへの果てしない怒りと憎悪だ。彼が超能力に目覚める直前、その時代から起きていた紛争で彼は両親と愛すべき妹を亡くした。そして、その遺体が飢えた難民の生きる糧にされた時、彼は人間に対する深い絶望と憎しみで心の内を見てしており、その時に超能力へ目覚めた。

 彼にとって、超能力は家族と自分を絶望の淵に送った人類へ復讐するために与えられた力だと理解した。それ以来、怒りと憎悪を心の中で燃やし続けながら、自分の様な超能力者を集め、人類へ報復する機会を伺っていた。

 そしてついにその目的を果たすチャンスが訪れた。太陽都市は都市国家でも特に繁栄した場所であると同時に、超能力者への迫害が最も苛烈な場所でもあった。そこを超能力者が破壊したとなれば、超能力の強大さを認めざるを得ない。やがてそれは超能力者と非超能力者の人類を分かつ戦争へと変わる。超能力者はこれまで子供の中でしか生まれる事はない。その子供がいつか自分に反旗を翻す超能力者になると知った大人たちはどうするだろう? 愚かな大人たちはきっと子供の間引きを始めるとフライシュハッカーは考えていた。そしてその行為がさらに超能力者に非超能力者への憎しみを増幅させる。己の子供すら信じられなくなった非超能力者は、自ら徐々に数を減らし旧人類として滅ぶべくして滅ぶ。彼はそう考えていた。

 その切欠さえ出来ればそれでいい。究極的な話、フライシュハッカーは超能力者だけの世界の創造なんてどうでもよかった。大人と子供が殺し合い自滅へと向かう世界、そうした狂気の世界を彼は望んでいた。

 フライシュハッカーは空を見上げた。既に夜となり月が夜空に浮いていた。超能力者には月が緑青色に見える。既に自分が人間とは別の存在になった証明だと彼は考えていた。現人類を滅ぼす怪物、恐ろしいブギーマン、自分こそがその存在に相応しいと彼は思った。

 数か月後、彼は超能力者の軍勢を率いて太陽都市への攻撃を企てる。彼の計画は一人の少年によって果たされることなく終わったが、彼の消息はそこで途絶える。それ以降、大きな紛争が起きている地域で、彼によく似た人間の存在が確認されるが、都市国家側、政府側の両方で意見や情報の食い違いと、紛争が沈静化した頃には消えているために現在をもってしても、彼の消息は不明のまま、やがてその未確認情報も途絶えていった。

 

 
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