【コウカイ日誌】
誰かが女神と称された。美しいと褒められた。気品があると言われた。
最初はそれをありがたいと思ったし、感謝のようなものだと受け入れていた。
だがしかしある日、自分に対するそれらの称賛の裏には、
別の者に対する邪悪だという差別や侮辱、そして中傷が背景にあることを知った。
それを知ってからは今まで通り称賛の言葉を受け入れることはなくなった。
アプローチも、贈物も、何もかも受け取らなくなった。
称賛を受け取らくなったと同時に、
これまで自分にそれらをくれた人々に対する態度が、
キツくなっていった。………それもそのはす、
その者にとって一番欲しかったのは、裏で中傷を受け続けていたその誰かだった。
それにも関わらず称賛も中傷もなくならない、
その誰ががその者と共にいることに対して居心地がいいとは思えるわけがなかった。
やがて2人は、それぞれ別の世界に分かれて住むことになり、
二度と会うことはなかった。
その数千年の時を経て新たな問題が発生したが、
その問題を解決しようとした人間達は、
自分とその誰かを平等に扱ってくれた。称賛もなければ中傷もなかった。
その人間達の仲間になる時期こそ違ったが、2人はその人間達を通して再会し、
同じ場所に留まることになった。その際、
その者は賞賛が何の意味もないことを知ったから、
その誰かにもう一度一緒にいよう、仲直りしようと想いを伝えた。
その気持ちを受けた誰かは、最初こそ当時と同じ反応を示したものの、
その者が傍にいることを拒否することはなく、受け入れた。
その後、暫くずっと同じ空間に居続けた。ただただ何もせず、同じ場所に佇んだ。
最後には、その誰かが静かに泣き出した。それを見たその者は、
やはり何も言わず、何もしなかったがいつまでも傍にい続けた。
あのときその誰かを助けられなかったこと、
裏であのようなことが起こっていたことを知らなかったこと、
そして何より、自分への称賛はその誰かへの中傷が土台になっていたこと。
その誰かの泣く様子を見て、酷く後悔した。
【とある妖怪の末路】
『自分が一番凄い』
それが口癖の妖怪がいた。
自分の近くに、自分の話を聞いて切れそうな誰かがいたとき、
妖怪はいつもいつも自慢話をしていた。
自慢話をする相手は、選んでいたように思う。
ある日、その妖怪はいつも通り自慢話をしていた。
自分はこんなことをしたとか、これだけいいことを、かっこいいことをしたとか。
相手は特に不快そうではなく、耳を傾けていたようだ。
その妖怪は自慢話をしたらしただけ、そしていい反応が返っただけ満足したのか、
その場から嬉しそうに去った。
…その妖怪が去った後、別の妖怪が自慢話を聞いていた者に近づいた。
別の妖怪は、その相手に本当はこうだと説明した。
特に嬉しそうでもなければ怒っているとかの様子もなく、
ただ真実として淡々と説明をしていた様子だった。
その話を聞くと、自慢話を聞いていた者は困惑し、動揺もした。
その次の日、いつのも妖怪がその相手に自慢話をしていた。
その様子を、別の妖怪は密かにジッと見ていた。
相手は、普段より困っているように見えた。
あるとき問題が起こった。
その問題を解決せんと、その相手は動くことになった。
このとき2人の妖怪が相手に同時に助言をした。
でも、その助言の内容は正反対だった。
自慢話が好きな妖怪は、もう1人の妖怪のいうことなんか信じるな、と言った。
もう1人の妖怪はそう言われても特に動じた様子はなく、落ち着いていた。
相手は、自慢話をしていた妖怪の言う通りにしてみた。
そうしたら、問題は余計に悪化した。
そこで、もう1人の妖怪の言う通りにもしてみた。
そうしたら、問題は改善した。
それがわかると、自慢話が好きな妖怪はもう1人の妖怪に激怒した。
それでももう1人の妖怪はまともに相手にせず、その様子を窺っていた。
激怒しているその様子でさえしっかり観察されていた自慢好きの妖怪は、
後に姿を消した。
【すべてが遅すぎた】
強いと思っていたあのヒトが、実は弱かった。
弱いと思っていたあのヒトが、実は強かった。
愛想のいいヒトが、実は悪かった。
不愛想なヒトが、実は良かった。
………あぁ、ボクってヒトを見る目がなかったんだなぁ。
それがわかった後でも、『もう一度ミンナ仲良く』というのは、無理なんだろうな。
第一これだけは確かで、片方を選べばもう片方は捨てないといけない。
双方の仲が悪いなら尚更。言ってしまえば、切り捨てるってヤツだ。
でも、不愛想なヒトを、
愛想のいいヒトと一緒に拒絶していた時期があると思ったら、
たとえ今になって良かったと思ったそのヒトを選ぶ資格なんてものはない。
だってボクも、愛想のいいヒトと同罪なんだから。
このとき、いい意味でズルいヒトは、身勝手やエゴを承知でソッチを選んで、
人生も関係も何もかもやり直すということができるんだろう。
でも、ボクにはそんな勇気は無かった。なぜなら、愛想のいいヒトに
『イヤなヤツ』
と言われることすら、イヤなのだから。そうなれば、ボクが取れる行動はただ1つ。
かつて拒絶したことがあるヒトとやり直すという資格がなければ、
だからといって自分自身の相手を見る目があるか、あるいは養えるかと聞かれたら、
答えは即ノー。………もう、ボクはどうしようもない。
【“あなた”のためだから】
『あなたのためだから』
これが口癖のような人間がいた。
人間は他の誰かが自分がこれがいいと言えば、こちらの方がいいと返した。
別の誰かがあれがいいと言えば、あちらの方がいいと返した。
そう言いつつも、その人間は誰か達に物や言葉や金銭や名誉や地位を与えた。
そして補償も与えた。そのとき例の台詞を繰り返して。
それから数週間後、人間は誰かの主張に対して必ず同じ返しをしていた。
同時に、今まで手に入れてきたモノも付け合わせてあげていた。
人間は、それがいいと思っていたから。自分がそうしてあげるのがいいと思い、
そんな自分の行為を何1つ疑わなかった。
だが、そんな人間には誰1人を感謝をしなかったし、お返しもしなかった。
それどころか、ある者は離れ去っていき、またある者は頼り始めた。
それでも人間は今まで通り同じことを繰り返していた。
それを繰り返していった結果、人間の周囲にいる者達が変わった。
繰り返していけばいくほど、やがて人間は身も心もぼろぼろになっていった。
離れ去っていった者達は楽しそうにし、
頼るようになった者達は怠けるようになった。
しかし、身も心もぼろぼろになった人間を気に掛ける者はおらず、
やがて人間は通院するようになり、居場所から退くことを余儀なくされた。
退く際にも、その人間には感謝はしなかった。それどころか、
『いなくなってせいせいする』
と腹の底の言葉を漏らした。
【井戸の中の蛙と争い】
井戸の中の蛙と争い
1人の蛙が井戸から去った。
その数日後、その数週間後、そしてまたその数か月後、
1人、1人、そしてまた1人と蛙が去っていった。
残った大きな蛙は、どうして皆去っていくのかがわからない。
誰かに尋ねられても、心当たりがないと言う。
一方、その大きな蛙が知らないところで、別の蛙達が集まり、
その大きな蛙の悪口を言っている。
大きな蛙がいる井戸では次々と蛙達が去っているが、
そのことを重く受け止めることなく、大きな蛙が次に、
また次にへと仕事を盛り込んでいった。
別の井戸でも、やはりその大きな蛙の悪い話が広まっている。
勿論、その大きな蛙がやってきたときには皆黙ったり、
適当に流したりしてやり過ごしている。
それに対し、大きな蛙がいる井戸では次々と蛙達が去っているが、
そのことを重く受け止めることなく、大きな蛙が次に、
また次にへと仕事を盛り込んでいった。
別の井戸から、ある1匹の蛙がやってきた。
その蛙は今まで去っていった蛙達とは異なり、大きな蛙にいろいろ尋ねていた。
『困っているのに、なんで手伝わないのか』
『受けたことを最後までこなさないで、なんでまた別のことを受けるのか』
『あくまでこちらにはこちらの聞きたいことがあるのに、
論点をズらそうとしていないか』
そう尋ねられたが、大きな蛙は震えてまともに答えられなかった。
そこで大きな蛙は、獲物や地位を持ち出し、あれやこれや長々と説明した。
だが、結局ある蛙の問いかけは自分の聞きたいことを聞いただけだった。
…そうすると、大きな蛙は『これ以上地位や獲物のことに触れるな!』と憤慨した。
さらには、『こんな大勢いる場所で話すな!』
『空気を悪くするな!自分がやりにくい!』と憤慨した。
そして最後には『お前には感謝している、それを忘れるな!』とも要求した。
どんなに何を言われても、そのある蛙の結論は変わらなかったし、
大きな蛙の正体にも気づいた。
後日、そのある蛙はもう一度井戸へやってきて、
大きな蛙の部下に当たる者達に、こう言った。
『自分に自信がないだけなんだよね。話していることも他人の言葉まんまだし。
耳さわりのいいことを言って、皆を思い通りにしようとしているだけなんだよね。
人目を気にする割にはそれを自分自身認められず、
自分を大きく見せようとしたって、
いつか化けの皮は剥がれる。…もう、たくさんの蛙が去った時点で、
独りでどんなに立派そうに振舞っても、
皆だって本性に気付いてるってことだろうけど』
自分が思っているより回りの者は見ているし、その本性も理解している。
何が正しくて、何が間違っているのか、その現実も歪めてはいない。
今度は、それらを真正面から見ている者達の復讐が静かに始まる。
………気づいた頃にはすべての井戸に広まり、やがて大きな蛙は居場所を無くした。
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内容は【】ごとに別々になっております。
それにしても、とある作家の影響を非常に受けている書き方である。(爆)