まず、アーリンくんがたのんだのは。
「レターセットを、もらっていいですか?」
武志さんが「はい」と速答して、店のすみにあるテーブルへとりにいった。
となりにはポストもあるよ。
まったく使ったことないけど、この店のセットは達美さんこだわりの一式なの。
持ってこられたのは、便せんと万年筆。
便せんは白地に線の入っただけのシンプルなものだけど、インクが染みにくい。
万年筆も書き心地バツグンの高級品らしいよ。
本来は、ここに藤の花が書かれた封筒がつくの。
暗号世界ではインターネットや電話がなくても、不思議じゃないの。
にたようなのがあっても、規格が違ってつながらない。
人の手から手へ運ばれる手紙が、一番確実にとどくんだよ。
アーリンくんはお礼を言って受け取った。
そして便せんを広げ、ペンを手にする。
「僕は、この世界の核兵器は大陸にしかないとにらんでいます」
デリケートな問題きたな!
・・・・・・こらえる。
みんな、今度は無言だった。
「その根拠だと思うのは、スラッグヴォンズというハンターです」
万年筆をはしらせる。
そこに描かれたのは・・・・・・。
なんだかわからないぐにゃぐにゃの線だった。
「201X年に太平洋の静岡県沖に出現したこれは、一目散に上陸。
真っ先に原子力発電所を襲い、放射性物質を食べつくしました。
その後、自衛隊の攻撃をものともせず東京へ向かいます」
これ、地図なの?
それとも、スラッグヴォンズ?
どっちだか分からないや。
他のみんなは、困惑の表情を浮かべてる。
よかった。私だけじゃない。
「東京からは、列島を縦断しました。
その後はーー」
『スラッグヴォンズは、201X年5月14日に太平洋側、福島県沖から出現した大型怪獣です』
割り込んできた声は、デジタル緞帳だ。
そこに写されたのは、灰色のゆがんだ景色。
嵐にさらされた、沿岸の町だった。
「あいまいなのは、嫌いなの」
達美さんだ。
「達美ちゃん・・・・・・」
恋人に心苦しそうに言われて、達美さんは。
「考えるののジャマはしないよ」
まあ、よかったと思う。
朱墨ちゃんは映像を見て、驚いていた。
何の話をしてたかがわかったんだ。
怪獣は、ハテノ市以外でも出現する。
数は少ないけどね。
そのときは、自然発生する大きな力がポルタの役割をすることがあるの。
嵐とか。
沿岸部を写す監視カメラの映像に、海が盛り上がる。
波しぶきをあげて、黒みがかった青い巨体が現れる。
そそり立つ二本の塔のようなもの。
あの先には、一つづつ目がある。
西洋のヨロイ兜、クローズドヘルム、だったっけ?
目の部分がはね上がる兜。
それを思わせるマブタをもつ、目だよ。
全身が、そんなヨロイを思わせるウロコでおおわれてる。
その目をのせた胴体は、太く後ろに伸びている。
その姿は確かにスラッグ(ナメクジ)を思わせる。
だけど。
『ゴャオーン!!』
目の下には、口がある。
『ゴオーン!!』
鋭い牙がならび、上下に開く獣の口が。
海から上がり、あわてて息を吸ったからかな。
『ゴャオーン!!』
激しい叫びを続ける。
胴体を支えるのは、ゾウのような四本の足。
たちまち、進行方向の家をなぎ払う!
なぐさめがあるのは、この上陸が察知されていて、すでに避難が終わっていること。
それだけ。
胴体の後ろから、二本のしっぽが現れる。
ヴォン、ヴォンと、激しく振り回されている。
その音が複数あるから、ヴォンに複数なのを示すズをつけて、ヴォンズ。
そのしっぽの先から、鋭く撒き散らされるものがあった。
スラッグの意味は、ナメクジだけじゃないの。
散弾、銃で撃つと、細かい弾がいくつも飛びだし、広範囲に破壊をもたらす。
それもスラッグと言う。
家が、町が、次々に打ち砕かれていく!
全長89メートル。体重70000トン。
それが悲劇の始まりだった。
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かつて日本を襲った悲劇。
その記録がはじまります。