No.117448

『想いの果てに掴むもの ~第8話~』

うたまるさん

『真・恋姫無双』魏END後の二次創作のショート小説です。
前回の後編となります。
今回の目玉は一刀と霞の対決です。

2010-01-09 10:01:23 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:27928   閲覧ユーザー数:19697

真・恋姫無双 二次制作小説 魏アフターシナリオ

『 想いの果てに掴むもの 』

  第8話 ~ 日々またこれ修行(後編) ~

 

 

チュン、チュン

 

まだ日が昇ってまもない時

 

城の侍女達が朝の支度で慌しくしている中、俺は庭で、瞑想をしていた。

そこに、自分の"氣"を重ねる。

昨日、もう一度使えるか心配したが、一度体が覚えてしまえば、後は自分の中で切り替えれば良いだけと、

凪は言っていた。

たしかに、これは自転車と同じだ。

一度覚えてしまえば、後は意識するかしないかだ。

慣れれば、瞑想をイメージしなくても"氣"を内に留めておけるらしい。

凪は、慣れるまでは、何かを想定すれば良いと言っていた。

それは、言葉でも良いとの事。

言葉か・・・一瞬「トレース・オン」とか浮かんだが、あいにく俺は魔術使いではない。

変わりに浮かんだのが、鏡のように、なだらかな水面と、そこに落ちる水滴とその波紋、

その波紋と共に体に内圧が軽く掛かるのが判る。

うん、なんか良い感じだ。

自然と浮かんだことだが、自分に合ったようだ。

しばらくは、このイメージで比較的簡単に、自分の中の"氣"を感じる事ができるだろう。

そして、俺は、そのまま体を動かし、一通り型を行う。

 

シュッ

 

ピッ

 

フォン

 

たしかに、全体の速度は上がった。

力をいれなくとも、体は動くので、筋肉に負担が少ない分、体力に余裕は出来る。

だが、"氣"を使えばそれだけで、体力も消耗していく。

今はまだ、筋肉を動かすより"氣"による体力の消耗が激しい状態だ。

力のほうは、まだ剣を振った事ぐらいしかないが、上がっているのは判る。

だが、この程度では、馬岱と同じように戦えるかと言うと、程遠い。

基本性能が違いすぎるからだ。

それを埋めるためには、"氣"の効率の良い運用らしい。

今の俺の状態でも、それなりに速く動く事はできるが、あっという間にガス欠になってしまう。

それを防ぐには、体全体の"氣"の使用量を減らし、動かすのに必要な箇所にだけ必要な"氣"を送る。

そうすることで、"氣"の消費を抑え、長時間"氣"を扱えるようになると言う事だ。

また、意識して使う分、速度のあがり方も、それに比例してあげる事が出来るとの事

問題は、この"氣"の量の調整と必要な箇所に"氣"を送るという作業

これが難しい、"氣"の出力を上げるのは以外に簡単だが、これを逆に自由に抑えるのが曲者で、うまく

いかない、普通の状態を基準に、100に分けて自在に調整することで効率の良い使用ができるらしい、

凪でもまだ、そこまではいかず、それでも50に分けて調整しているとのことだ。

それでも凄いと思う。

その上、まだ"氣"の凝縮による増幅と言う工程も加わるらしい。

とりあえず、今の俺の"氣"を5つに分けて制御できるようにするのが、凪から与えられた今の俺の課題だ。

次に、"氣"の移動だが、これが今の俺には、とにかく難しい。

体の動きにあわせて、"氣"を送る事を意識しなければいけないため、どうにも遅れてしまい、逆に筋肉が

悲鳴をあげる事の方が多い。

何事も慣れるまで鍛錬することが必要ということらしい。

とにかく、"氣"を鍛えていけば、"氣"の全体量が上がるだけでなく、自然と筋力も体力も上がる、という

のは便利な事この上も無い。

春蘭が『 気合だ、気合が足りん 』と言う、気持ちがよく判るが、春蘭の場合別の意味の方が強そうだ。

 

そうして、四苦八苦していると

俺の部屋で、寝ていたはずの凪が、俺のほうに歩いてくる。

 

「隊長、おはようございます」

「ああ、おはよう」

「朝の鍛錬ですか」

「ああ、せっかく凪に教えてもらったことだから、速く慣れておこうと思って」

「それは、良い事です。

 隊長がよければ、私も明日から付き合いましょう」

「それはありがたいが、いいのか?」

「はい、見ていないと、隊長は無理をなさるでしょうから」

「うわっ、信用無いんだな」

「そういうわけではありません。

 隊長、そろそろ鍛錬を辞めないと、本日の職務に影響が出ます」

「わかった」

 

凪の言葉に、俺は"氣"をやめ、体の汗をふき取る。

・・・・こういうところが心配されている原因なのかな、気をつけよう。

まぁ、凪が傍にいて鍛錬していた方が、いろいろ教えを請う事が出来るのも事実だしな。

 

「そういえば、あの二人は?」

「まだ寝ています。昨日の隊長はその・・・・」

 

凪の言葉に、俺は昨夜のことを思い出し頬をかく。

 

「では、隊長二人を起こしてまいります」

「ああ、食堂で一緒に朝食を食べようと伝えておいてくれ」

「はい」

 

俺は、そう言って凪を見送り

朝の新鮮な空気をもう一度、体一杯に吸い込む。

 

「よしっ」

 

そう自分に気合をいれ、俺は食堂へ足を向ける

 

 

 

 

 

 

グツッ

グツッ

グツッ

グツッ

 

食堂にいくと、そこには、朝食とは思えない良い香りがあたりを漂っていた。

俺には、嗅ぎ慣れた香りだが、こちらの世界の住人達にとっては、嗅いだ事のない香りに侍女や香りに誘

われてきた者達がざわついていた。

俺は、もう一度、香りを嗅ぐ

うん、良い感じのようだ。

 

「流琉、おはよう 良い香りだね」

「あっ、兄様、おはようございます。

 一応、言われたように、夕べから仕込んでおきましたが」

 

俺の声に、流琉が大きな鍋を、かき回しながら挨拶を返してくる。

鍋の中は、魚の燻製を干した物や、各種香辛料や漢方薬を細かく砕いて、挽き

小麦粉を炒ったものと一緒に、肉や野菜や果物を煮込んだものだ。

まぁ、俗に言うカレーだ。

作り方はいろいろあるが、とりあえず、流琉に試しに作ってもらった。

俺はそれを流琉に断って、少しだけ味見をする。

 

「流琉はやっぱり、すごいなーーー、想像以上だよ。

 良くあんな大雑把な作り方から、ここまで美味しくできるとはやっぱり流琉は料理の天才だよ。

 良いお嫁さんになれるよ」

 

俺はそう言って、流琉の頭に手を置き優しく撫でる。

流琉は、俺の撫でられながら、俺の言葉が嬉しかったのか、頬を染めてもじもじしている。

うん、可愛い、こう胸の中が暖かくなる。

流琉のしぐさに俺は自然と頬が緩むのがわかる。

 

「流琉おはよう、もうお腹過ぎて倒れそうだよ。

 夕べの料理まだ完成しないの?」

 

そこへ、季衣の元気な声が聞こえてきた。

 

「季衣、はしたないわよ。 まって、もう少しで食べられると思うから」

 

突然の、季衣の襲撃に、さっきまでの雰囲気は霧散し、

季衣の態度を軽く嗜めた流琉は、そう言って俺をみる。

 

「うん、このまま煮込み続けても良いけど、試作段階だし、味を見るためにも食べちゃおうか。

 本当は3日ぐらい煮込んだ方が、味が滑らかになり、こくが出るんだけどね。

 後は、硬めに炊いたご飯にかけるだけだから、あとで凪達も来るから、みんなで一緒に食べよ」

「やったー」「はい」

 

俺の言葉に、二人が返事をし、早速、お皿を用意しはじめる。

そこへ、食堂に凪達が顔を出した。

と言うか、華琳と桂花以外ほぼ全員が顔を出す。

ちなみに張3姉妹は、一応一般人のため街にいるのでここにはいない。

 

「隊長そろったでー」

「なんやなんや、朝からこう、ごっつうう良い香りさせて、ウチたまらんわ」

「そうなのー」

「自分も皆と同意見です」

「北郷、この香りはなんだ」

「兄ちゃんの天の国の料理で かれい って言うんだって、

 僕達なんか、昨日からこの香りを吸っているから、もうお腹がすいてしょうがなかったよ」

「はい、私も、この良い香りは、作っていて何度誘惑されそうになったか」

「ああ、それは蛇の生殺しやわー、隊長はんも殺生なことをする人や」

「たしかに、この香りを昨日から、かがされていたら、たまらんだろうな。

 北郷貴様、季衣や流琉を嬲り者にでもと、考えていたのなら、我が剣の錆びにしてくれるぞ」

「違うって、何で、御飯一つで首をかけなくちゃいけないんだよ!」

「ふん、冗談だ」

「・・・春蘭が言うと、冗談に聞こえないんだけど」

 

春蘭の言葉に、俺がげっそりしていると、みんなが楽しげに席に着く。

それを見て、流琉や季衣がお皿に盛り付け皆の前に持っていく。

そこへ、俺が先日作らせた木の匙を配る。

 

「北郷、これは?」

「ああ、箸だと食べづらいから、それですくって食べてくれ。

 見た目に関しては、思っていても口に出さないように」

 

そう言って、俺が手本とばかりに、カレーと御飯を一緒にすくって口に運ぶ。

口に入れたとたん、カレーの香りと味が口一杯に広がり、御飯がその刺激の強い味を程よく抑え、

薄れがちになる味を自己主張する。

皆も俺の真似をしてカレーを口に運ぶと、もくもくとその動作を繰り返す。

 

「・・・あのなぜ、皆無口に? 口に合わなかったか?」

 

その沈黙に俺が耐え切れず口に出すと

やがて真っ先に食べ終わった春欄と季衣が

 

ダンッ

 

「貴様、そんな事も聞かねば判らんのか! この態度を見れば判るだろう」

「兄ちゃん、すっごく美味しい」

 

そう言って、二人とも御代わりをしに、席を立つ。

さすが魏の食いしん坊達だ。

うん季衣、君はなんて素直なんだ。

そのままの君でいてくれ、

あれはあれで可愛いが、春蘭のようになってくれるなよ。

 

「一刀、すっごく美味しいでー、天の国にはこんな旨いもんが、いーぱいあるんか?」

「あぁ、いっぱいある、この カレー 一つ取ってもいろんな味があるくらいだ」

「すごいのなの」

「このほど良い辛さと、後から来る微かな甘みが、たまらんわー」

「はい、自分はもっと辛いと文句がありません」

「いや、凪の辛さにあわせたら、ウチ達が食べれんくなるから、勘弁してーな」

「たしかに、これは、癖になる味と判断します」

「風はもう少し甘くても、良いと思うのですよー」

「兄様、この かれー と言うものは、ほかにも味があるんですか?」

「ああ、材料を変えたり、好みや手に入れれる材料によって味を変えれるんだ。

 もともと カレー なんて言うのは総称で、たしか、漢方薬や香辛料を混ぜ合わせて料理したもの

 と言う感じだったかな 」

「はぁ、そういうものなんですか、最初お薬を使うと言うので、吃驚しました」

「そうなのか、北郷」

「ええ、医食同源って、言葉が俺の国にはあるけど、

 バランスええと、均衡の取れた栄養ある食事は、健康の秘訣だという意味だったかな

 とりあえず、使った漢方薬や香辛料は少量ずつであれば、体の体調を整え元気にするんだ。

 むろん刺激が強いから、食べ過ぎるのは良くないけど、たまに食べるなら健康に良いんだって」

「・・・ようは、体に良い薬を程々に、食事として、美味しく食べるということか」

 

俺の説明に秋蘭は、俺の言いたかった事を自分なりに纏めてくれた

 

「まぁ、そんなところかな。漢方薬も香辛料も過ぎれば毒になるからね」

「北郷、貴様我らに毒をもったのかーーーーー!」

 

と、何を勘違いしたのか、毒の言葉に反応した春蘭が、剣を抜いて俺に向かってきた。

 

「ち、違う、誤解だ」

「言い訳無用っ!」

 

とにかく斬られてはたまらないと、俺は、席を立ち逃げ出す。

そうして、机を盾に部屋中を逃げ回っていると

 

「いったい、朝から何の騒ぎなのっ!」

 

凛とした声が、部屋中に響きわたる。

華琳と桂花が部屋に姿を現す。

俺と春蘭は足を止める。

 

「あ」

「華琳様、こやつが我らに毒を」

 

俺が状況を説明をする前に、春蘭が勘違いをそのままに報告する。

華琳は、俺を見たあと、

 

「とにかく、春蘭剣を収めなさい」

「しかし」

「私に2度も、同じことを言わすつもり?」

「わかりました」

「で、秋蘭本当はなんなの」

「いつもの姉者の勘違いです。

 姉者よ北郷は、どんなものでも、食べ過ぎれば毒になると言っただけだ。

 先日姉者が、美味しいといって、水気の多い果物を食べすぎて、お腹を壊したのと同じだよ」

「しゅ、秋蘭そんな事 皆の前で言わなくとも」

「姉者に分かりやすく言っただけさ」

「と、とにかく、北郷、貴様がもっと分かりやすく言えば、私が恥をかかずに済んだのだ」

 

そう言って、俺の頭を軽く殴りつけ席に座る。

いたたたたっ

 

「春蘭、勘違いさせたのは悪かったけど、もう少し俺を信用してくれよ」

「そうね、春蘭、一刀が毒を盛る人間かどうか判るでしょ」

「これに、毒を盛るなんて、知恵と度胸があるとは思えません」

 

俺の言葉に華琳と桂花が乗ってくれる。

桂花のは、俺を罵りたいだけだと思うが、とりあえず、春蘭の方はそれで落ち着いたようだ。

 

「で、この原因の元になったのは、この香りの元と同じなのかしら」

「華琳さま、天の国の料理で かれー て言うのを、僕と流琉で作ってみたんだ。

 とっても美味しいだ」

「はい、とりあえず兄様の言うとおりに作ってみましたので、是非ご賞味を」

「そう、では私と桂花の分も準備してちょうだい」

 

そう言って、席に着き

流琉が華琳と桂花の前に料理を置く

それを見て

 

「また、御飯の上に、このようなものをかけて、このような下品な食べ物、私は好かないのだけど」

「そうです、それに見た感じが、まるで」

「わーーーーーーわーーーー!」

「何よ北郷、私は見たままを言おうとして」

「食事中に言う言葉じゃないだろう、とにかく文句は後で聞くから、食べてみてくれ」

 

俺の迫力に、負けたのか、桂花は黙り、二人ともカレーを口に運ぶ

 

「ふむ」

「あら」

 

そう言って、華琳は数口を口に運び、桂花は黙って食事を勧める

 

「華琳、美味しくなかった?」

「悪くないわね、新しい味だわ、これだけ複雑な味が混ざりあってしまっては、素材の本来の味を殺して

 しまっているのが残念だけど、こういうものと思えば納得できるわ、それに香りも良いから、口が進み

 易いでしょうね。

 ただ、残念なのが、香辛料が多すぎる事かしら、これでは、数口で口の中が、辛さで麻痺してしまうわ」

「ああ、やっぱり華琳には辛すぎたか」

「な、何よ、私は当たり前のことを言っただけよ」

「でも、桂花やみんな平気で食べてるよ」

 

華琳の言葉に、俺はみんなを指す。

時に名指しされた桂花は匙を止め

 

「わ、私は、残しては、せっかく作ってくれた季衣や流琉に悪いと思うから、食べているだけなの! 」

 

そう俺に怒鳴る。

 

「いや、その言い方のほうが、季衣や流琉に悪いと思うけど

 あと、御飯粒を口元につけて、そういうこと言っても説得力無いと思うぞ」

「んなっ」

 

俺の言葉に桂花は顔を赤く染めて、慌てて口元を拭く。

 

「あと流琉、今度は華琳用に、香辛料を抑えて、果物とかの量を増やしてみてくれ、

 こういう好みに合わせた味付けに出来るのも、この料理の醍醐味ってやつだから」

「はい、判りました兄様、研究してみます」

「そう、ではそのように作りなさい、こう刺激が強くては、万人向けではないわ

 それと一刀、どうして天の国の料理を作って、皆が食べているのに、私に声が掛からないのかしら」

 

そう言って、俺に"絶"を向ける

 

「あ、あの華琳さん・・・首に刃が当たっているんですが」

「あら、私は聞いているのよ、口答えする気?」

「いや、まだ試作段階だったのと、皆がいるのは、香りにつられて来ただけで、たまたまですはい」

「そう、この香りならば仕方ないわね」

 

そう言って、"絶"を 首から離してしまう。

"絶"はどこにしまったのか、どこにも見えない。

うん相変わらず不思議だ

 

「その首が惜しければ、これから、必ず声を掛けなさい」

「失敗する場合もあるんだけど」

「流琉の腕なら、それでもそれなりに美味しくしてくれるわ。

 それでも駄目なら、一刀に責任持って全部食べてもらう事にするわ」

「うげっ」

 

その言葉に、失敗作を胃に処分する姿を、"絶"を片手に監視する華琳の姿が脳裏に描かれ、

俺はげっそりする。

その様子に皆が笑い出し、城は朝から賑やかさを取り戻していた。

 

ちなみに、カレーは季衣が残らず食べてしまい。

侍女や香りにつられてきた人達を、大きく落胆させた。

まぁ、あれだけ、胃に訴える刺激の強い香りを漂わされ、もうないと言われた気持ちはよく判る。

うん、今度は城の料理人にも教えるから、それまで我慢してほしい

そう心の中で謝るのだった

 

 

 

 

バシッ

 

シュッ

 

トッ

 

ヴォッ

 

パシッ

 

ビュッ

 

拳檄がかわされ、幾つかの攻防を繰り返す。

凪の左突きを

俺が右手で外に逸らし

左の掌打を放つが

凪はそれを一歩踏み込みながら左肩で弾く

 

ダンッ

 

そして、その勢いのまま、強い踏み込みと共に、背打を俺に浴びせかける。

俺はそれを受け止めきれず、後ろによろけた所に

 

シュッ

 

凪の足刀が俺の首元に放たれる。

 

パシッ

 

その足刀を間一髪、片手で受けたものの、姿勢を立て直す事はできずに、そのまま尻餅をついてしまう。

そして、そんな無防備な俺の顔面に向かって、凪の右拳が放たれる

 

ピタッ

 

凪の拳が、俺の鼻先で止められ、時間が流れる。

 

「まいった」

 

俺の降参の言葉で、やっとその拳を収めてくれた。

俺は体を起こし、服の埃を払いながら

 

「やっぱ、凪には、全然歯がたたないなぁ」

「いいえ、そんな事ありません。

 隊長の技は、こちらの虚を付いてくるので、私も必死です」

 

凪の言葉に俺は苦笑するしかなかった。

汗一つかいていない凪に言われても、すこしも自信は持てない。

あれから二ヶ月近くの時が流れ、今も無手での組み手をしていた所だ。

いまだに、剣でも無手でも、凪からは一本も取れないでいる

 

「でも、だいぶ"氣"の扱いに慣れたかな、まだまだ油断すると遅れるけど」

「はい、ここまで来れば後は時間の問題でしょう。

 正直、もう少しかかると思ってました」

「ああ、たしかに、そう思われても仕方ないか」

 

凪の言葉にここ二ヶ月のことを思い出す。

"氣"の調整もさることながら、"氣"の移動の鍛錬が困難極まっていた。

とにかく早く慣れようと、鍛錬の時以外にも、何気ない動作を"氣"で動かしてみようと挑戦し続けた。

言葉にすると、かっこよく思えるかもしれないが、はたから見ると、かくかくと動く面妖な踊りに見え、

なんでも無い所でコケたり、躓いたりしていた。

回りからは、笑われたり、溜息をつかれてばかりいた。

普段傍にいることの多い風も、この時ばかりは、他人の振りを決め込んでいた。

・・・ひどい

 

「まぁ、たしかに酷かったもんなぁ」

「ですが隊長のその熱心振りが、ここまで早く操氣術を身に付けさせたのでしょう」

「身に付けたって程じゃあないけど、笑われた甲斐はあったってことかな」

「おーい、一刀、凪、見に来たでー」

 

俺が、凪と鍛錬の合間の会話をしていると、霞が酒片手に近づいてきた

 

「霞様、また酒ですか」

「ええやん、休みの時くらい好きに飲ませてーな」

「休みじゃない時でも、飲んでいる気がしますが」

「そんな硬い事言わんといてーな、ほれ、一刀も一緒にどうや?」

「うーん、せっかくのお誘いだけど、まだ鍛錬中だから、それが終わったら付き合うよ」

「そうなん、じゃあ、ここで待ってるさかい、頑張ってーな」

「ああ」

「そう言えば、あの二人どうしたん? あんな隅で暗くなって座り込んで」

 

霞が庭の隅の壁際に座って、回りに黒い霧を吐き出して、いじけている真桜と沙和を指して聞いてくる。

俺は、それを頬をかいてどうしようかと迷っていると

 

「いえ、隊長に、手も足も出ずに、あっさり負けたので、落ち込んでいるだけです。

 二人には良い薬なので、放っておいてかまいません」

「へぇーー」

 

凪の説明に霞は面白そうに、俺を覗きこむ。

凪の言葉を訂正させてもらえば、あっさり勝った訳ではない。

沙和の攻撃の多さと、踊るような剣舞は、それなりに苦戦させられたし、

真桜の螺旋槍が脅威なのは間違いない。

ただ、"氣"によって、二人の攻撃を受け止める、又は、逸らすだけの力を得る事が出来たため、

攻略するための手段の幅が、広がったに過ぎない。

それに、沙和は剣舞じみた動きをしているだけに、一度そのリズムを読んでしまえば、攻撃が読みやすく。

真桜は、超重量兵器のため攻撃手段が限られてくる。

俺はそこに付け込んだだけだ。

今は操氣術の基礎中の基礎である、体術への運用と装備への"氣"の付加しか学んでいない。

操氣術は奥が深く、凪でもその一部を知っているにだけだと言う。

また俺の"氣"質は特殊らしく、凪に言わせると、俺の中に二つの"氣"の根源があるらしい。

一つは、今俺が使っている"氣"で俺自身のもの

もう一つは、おそらく天の御遣いとしての"氣"のような塊と言うことらしい。

どうすれば、それを使う事が出来るかは判らないらしいが、それが、俺の"氣"質にも影響を与えていると

言う事だ。

それが判ったのは、俺の刀に"氣"に関する能力があったため、もしやと思ってスーツにも試したところ、

本来、電気や火薬を動力とした多くの仕掛けが、"氣"を代替に使用が可能と判ったからだ。

その上、使用できるだけに留まらず・・・・

とにかく、そんなわけで、自分の"氣"質が特殊だという事が分かった。

なんにしろ、いろいろ手数が増えたのはいいのだが、刀といい、スーツといい無茶苦茶だ。

それを差し引いたとしても、これ・・・使用する場所が光るので相手に ばればれ なんだよね。

夜に使ってみたら居場所を教えるようなものだし、"氣"の使用量も多く乱発は無理だろう。

・・・・・とほほ、良い事ばかりと言えず、不便な事も多いな

そう、少し前のことを思い出していると

 

「なあ、一刀、一度ウチと手合わせしてみんか」

「えっ、霞と? 無理無理、勝てるわけ無いじゃないか」

「べつに、一刀がウチに勝てるとは思っとらん。

 今の一刀の本気が、どんなもんか知りたいだけや、なっ、ええやろ?」

「いや、でも」

「隊長、良い事だと思います。

 霞様なら、最低限の手加減をしつつ、隊長の実力を引き出してくれると思います」

「そやでー、惇ちゃんと違って、きちんと手加減したる。どや?」

 

たしかに、霞は春蘭と打ち合える、魏の猛将の一人だ。

神速の張遼・・・歴史に名を残した猛将に、本気でぶつかれる機会なんて、そうは無い。

それに霞なら春蘭と違って、最低限の手加減をしてくれそうだしな。

それなら俺の答えは決まっている。

俺は覚悟を決め

 

「ああ、霞 こちらから頼むよ」

「それでこそ、ウチの一刀や」

 

そう言って、にんまり笑う

それを確認して、俺は装備を付ける。

いつもの警備の装備だ。スーツの方は、"氣"の運用が体術の方で手一杯なため、まだ運用に不安が多いため

やめておく、何よりせっかくなので、今の俺の全力をぶつけてみたいと思ったからだ。

やがてお互い準備を整え相対する

 

「にへへへへ、一刀がどう、ウチと戦ってくれるか楽しみやわ」

「霞、全力でいかせてもらうよ」

 

俺の言葉に、霞は本当に楽しそうに笑った

 

「では、はじめっ!」

 

凪の言葉と共に

 

俺は意識を

 

色の無い世界へ

 

送り出す

 

 

 

 

 

 

「では、はじめっ!」

 

凪の言葉と共に俺は最初から集中力を全開にする。

 

キーーーーン

 

俺の意識は白黒の色の世界へ飛び込む

相手は正統派の槍使い。

ましてや神速の張遼だ。

迎撃していたのでは、あっという間に終わってしまうだろう。

それに、霞はそんな事は望んでいないだろう

そう判断して、霞に向かって疾走する。

 

「よっ」

 

シュッ

キィン

 

霞の試すように軽く横に払われた偃月刀を、俺は足を止めず上に払う

 

シュッ

キィン

 

8の字を描くように戻ってきた偃月刀を、俺はもう一度剣で払う。

もう一度来る前にと、俺は剣を構え直して、打ち下ろそうとするが

偃月刀は軌跡を変え、張遼の体がくるっと回ったかと思うと、石突の突きが俺を襲う。

 

ドゴッ!

 

「クッ」

 

俺はその石突を"氣"を篭めた刀で受け止める。

今までのような、軽い攻撃ではない。

重い一撃に、俺はとっさに後ろに跳ぶことで、衝撃を殺す。

 

ズザザザザッーーー

 

それでも衝撃を殺しきれず。

俺は踏ん張りながら、後ろに飛ばされる。

気がつけば、最初の位置より後ろまで飛ばされていた。

 

「へぇ、よう受け止めたなー

 真桜ちーや沙和を負かしただけある」

「けほっ、よく言うよ、最初あれだけ手を抜いた攻撃しておいて」

 

霞の言葉に、俺は吹っ飛ばされた衝撃に軽く咳き込み、笑いながら答える。

 

「いやー、一刀が思ったより、いい動きするから、つい力がはいっちまったんやー

 けど、今のでだいたい分かったから、安心してかかってきー」

 

霞の言葉に、背中に冷や汗が流れるのが分かる。

ようは、霞から見れば、俺が自在に手加減できる程度の相手だという事実に。

やっぱ、化物だらけだ。

改めて、武将の実力に戦慄した。

だが、逆に言えば、霞の言葉は、

今の俺の武がどこまで通用するのか、自分の武を楽しんで来いと言っている。

いや、この場合、霞の言葉通りなのか。

なら、せっかくだから楽しませてもらおう。

 

タッ

 

再び霞に疾走する俺を、今度は

 

「ほいっ」

 

シュッ

 

偃月刀の突きが放たれる。

 

チィィィ

 

避わせる速さでないため、俺は刀でそれを逸らし、滑らせるようにして、そのまま霞に向かって走る。

 

チッ

 

フォン

 

軽い音と共に、横にあった偃月刀は、上に行き刀から離れる

代わりに下から石突が、弧を描くように、風を切って払い上げられてくる。

 

ヂィィン

 

それを、刀で軌道を逸らそうとするが、

 

(くっ重い)

 

先程の軽い攻撃とは違い、重い攻撃に俺は悲鳴を上げそうになるが、

"氣"を廻してその攻撃をなんとか逸らす

 

「まだやっ」

 

そこへ霞の体重の乗った蹴りが放たれる。

俺はそれを両腕をクロスさせて、なんとか受け止めるが、再び後ろへ飛ばされ後退させられる。

 

「次はウチの番や、しっかり受け止めんと死ぬでー」

 

その言葉が終わると共に、霞の偃月刀が、その穂先をまっすぐに俺を襲う。

 

「くっ」

 

俺はなんとかそれを、体を逸らして避けると、次の突きが俺を襲う。

それを刀で逸らして体制と立て直したところに、再び次の攻撃が俺を襲う。

そうして次々と放たれる連檄。

俺は、目に"氣"を送り、攻撃を見切ると、今度は回避と受け流すのに、必要な箇所に"氣"を送り続ける。

そうして10合もすぎた頃、

 

「なら、これならどうや」

 

ヴォン

 

偃月刀が斜め上から、すさまじい勢いで、大きく弧を描いて打ち下ろされる。

 

(回避は間に合わない、ならっ)

 

ギィン

 

刀と手の関節に"氣"を送り、その一撃を斜めに逸らす。

衝撃は体全体を使って殺すが、その一撃があまりにも重く、足りないと感じた瞬間、

体中の関節に"氣"を送る。

 

「へーーーよう、今の一撃を逸らしたでー

 一刀の技は避けたり逸らしたり変わってんなー、それも天界の技ってやつか」

 

霞は攻撃の手をやめ、俺に興味しげに聞いてくる。

こちらは、先ほどの一撃を全力で逸らしたため、手が痺れ、体全体が重くなり始めている

今日は、鍛錬と模擬戦で、もう結構"氣"を使っている。

そこで、"氣"の消耗を気にしてたら、相手にならない相手と相対しているのだ。

"氣"が枯渇しかけていてもおかしくない。

 

「いや、俺の国の技さ、まともに打ち合う事より、避わし逸らして戦うのが基本なのさ。

 相手を打ち砕くのではなく、守りながら敵を討つのが目的だからね」

「ふーーん、守る剣と言う訳か、一刀らしいと言えば一刀らしいな」

「そうかな」

 

俺は、霞に適当に答えながら、頭の中でどうやったら、せめて一撃を入れれる事が出来るか模索する。

"氣"の消耗と体力を考えると、もう、そう何手も打てないだろう。

防御に回ったらあっという間だ。

ならば、攻撃しかない。

幸い、今は霞が手を止めてくれている。

仕掛けるなら、今しかない

 

俺は足の関節に"氣"を送る。

まだだ、これだけでは足りない。

更に足の裏にも"氣"を送る。

そして洩れ出ないように、更に送り続け"氣"に凝縮をかける。

"氣"の増幅だ。

俺には、まだ早いと言われているが、これを足の裏で一気に爆発的に放つことで、爆発的な加速を生む事

が出来る。

これと"氣"を使った歩方を組み合わせたものを"縮地"と言うらしい。

まだ練習中だが、この際、打てる手を全て打って当りたい。

だがこれでも足りない、"氣"の残量からあと一手。

俺は刀を鞘に収め腰を落とすように体を軽くひねる。

その様子に

 

「なんや、もう降参か」

 

残念そうに呟くが、無視して

 

ダンッ!!

 

"氣"の爆発で一気に加速された俺は、そのまま霞に向かって"縮地"でもって、一気に間合いをつめる。

そして、鞘で力を溜めた刀を、一気に鞘の中をはしらせながら開放する。

 

チィン

 

縮地&抜刀術

今、俺が打てる最大で最速の一手

 

ギィィィィィン

 

"氣"を使って反則級にまで上げた最速の一手を、

霞は、神速の張遼は、偃月刀の柄で、受け止めていた。

 

ヂィン

 

俺の刀を受け止めた偃月刀を大きく払われ、

全ての力を出し切って無防備になった俺へ

 

「でぇぇぇぇぇぇぇい!」

 

霞の裂帛の気合と共に放たれた蹴りが、

俺の胸当てごと、俺の胸にめり込む。

 

ドガッ

 

「・・・・・!!」

 

ザザササーーーー

 

まともに霞の蹴りを受けた俺は、

うめき声を上げることすら許されず

そのまま吹き飛ばされ、地面を転がった。

 

「一本、それまで」

 

「・・ゲホッ!ゴホゴホ」

「あぁー、一刀大丈夫かー」

 

凪の宣言後、やっと呼吸が出来て咳き込む俺に霞が、心配そうに声掛けてくる。

とっさに、残る"氣"を胸と胸当てに送ったからいいものの、出なければ、骨が折れていただろう。

とりあえず、今は立ち上がることも出来ないので

 

「・・なんとか」

 

そうやって返事するのが精一杯だった。

 

「霞様大丈夫です。

 隊長は"氣"を使い果たして倒れているだけなので、しばらくすれば起き上がれるでしょう」

「そうなん?、じゃあ、しゃーないな」

 

そう言って、霞は俺のところに来ると、俺の頭を浮かしその下に足を入れて座り込む。

 

「霞?」

「ああ、ええって、一刀がよう頑張った御褒美や」

 

そう言って、俺を膝枕しながら、俺の髪を梳く。

 

「やっぱり霞は凄い」

「ん?」

「分かっていた事だけど、手も足も出なかった」

「あたりまえやん、ウチは神速の張遼やで、

 一刀が幾ら強なったかて、ウチに敵うわけあらへん」

「そうだな、霞達を守れるようになりたいと、頑張って来たけど、全然まだまだだな、俺」

「なんや、そないな嬉しいい事、思ってくれたんか。

 ありがとな、一刀、でも、守るのはウチの仕事や、一刀は一刀で頑張ればええ」

「それでも守りたいと思うさ」

「・・・/////

 うれしいいなぁー、ウチみたいな女を、本気で守りたいと思ってくれる男なんて、一刀くらいや

 でも、一刀は十分ウチを守ってくれてる。ウチの大切なもの、いっぱい守ってくれてるんや、

 ウチはそれで十分満足や、だから、一刀は一刀らしく頑張りー」

「ああ、頑張るよ」

 

俺の言葉に

 

霞は、頬を染め、

 

嬉しそうに

 

幸せそうに

 

微笑を浮かべ

 

俺の頭を

 

優しく

 

撫でていく

 

そして二人を

 

包み込むように

 

温かい風が

 

一刀達を

 

撫でていく

 

 

 

 

 

 

「しかし、一刀、最後の一撃は吃驚したでー、危なく本気でいれられる所やったわ」

「今俺に出来る、最速の一手、いわば切り札だったんだけど、

 油断している所に出したにもかかわらず、あっさり、受け止められたんだよな」

「いやいや、あれは油断しているふりや。

 たとえ話していても、勝負が付くまでは、意識はしっかり気を張ってるもんや

 それが、わからんうちは、まだまだウチの相手やないっちゅうことや。

 でも正直、あの一撃に驚いて、最後は思わず手加減忘れて、全力でやった。

 ごめんなー、一刀」

「いやいいよ、こうして膝枕してもらっている事だし」

「うんうん、ウチの膝枕なんて、ウチの隊の人間が見たら、悔しがるやろうなぁー

 せやから、一刀は幸せ者やでー」

「隊長、良い仕合でした」

「負けちゃったけどな」

「ですが、今の隊長にとって最高の仕合でした」

「そやそや、それはウチが保障したる」

「そっか、ありがとう」

 

俺は凪に礼を言って、惜しいけど霞の膝枕から体を起こす

 

「ん、もうええんか?」

「ああ、体を動かせるだけには回復した」

「そっか」

 

そう言って、霞も体を起こす。

そこへ凪が

 

「では、隊長、今日の鍛錬は、ここまでとしましょう」

「ああ、凪ありがとう

 あと、そこの二人もありがとう」

 

俺は凪と、いまだ、いじけて暗雲の海へ入り込んだ二人にも声を掛けた。

 

「しかし、一刀えらい埃だらけになったなぁー」

「霞に吹っ飛ばされたのが、原因なんですけど」

「ああー、そやったそやった。

 じゃあ、みんなで風呂でも入ろかー

 おーい、そこの二人もいつまでもいじけ取らんで風呂に、行くでー」

「おっ、おい霞」

「霞様」

「ええーから、ええーから

 せっかく、一刀のおかげで毎日風呂が入れるようになったんやさかい、入らな損やでー」

「いや、それは俺じゃなくみんなが」

「ええーから、ええーから」

 

そう言って霞は俺と凪を風呂場へと引きずっていく

そしてそのあとを真桜と沙和が付いてくる。

 

風呂は、二ヶ月前に遡る事、幾つかの技術案を纏めて出したのだが、

その中の、城の炉や窯の廃熱や余熱を利用、更に効率の良い湯の沸かし方の案。

そして水車を動力とした幾つかの技術と応用例と水道橋による水道設備案。

これにより、風呂等幾つかの例を挙げて、労力と経費の削減が出来る。

そう言った趣旨のものがあったのだが、提出した当日、華琳が俺達の執務室に乗り込んで来て

 

「一刀、この件、詳しい事を聞かせなさい!」

 

と俺の胸倉を掴みあげた。

俺はその勢いに負け答えていくが、技術的な話となると

 

「そこの貴女、真桜を大至急連れてきなさい! 最優先事項よっ!」

 

侍女に真桜を即、呼びに行かせ

試験や建設、維持管理などの経費や工程の事となると

 

「桂花、稟、風、そんな職務後回しで、こっちに加わりなさい!」

 

桂花や稟や風を捕まえ、その場で採決した。

あの時の、勢いは凄かったなぁー

魏の将や侍女達も、毎日風呂が入れるようになるかもしれないと分かったら、もうその団結力が凄い凄い。

あらゆる勢いで、設計、試作、工夫や材料の手配、その他諸々を進めていく。

城の男共は、女性陣の勢いに押され、ただ黙って見守る事も許されず、巻き込まれていった。

そして、わずか一月半でこれを完成させる。

ちなみに、工費の半分は華琳や魏の女性将の私費によるものだった。

現在では城下で、俺の案で出した、民衆の憩いの場として、

格安で入れる国営の大衆用の銭湯が、街の女性陣を筆頭に、急ピッチで鍛冶屋街の横に建設中である。

毎日お風呂に入りたいと、言う女性陣の底力を、俺だけではなく許昌中の男性陣が、思い知らされた一件だ。

脳裏に浮かんだそんな出来事に、そんな事もあったなーと、湯に浸かりながら感慨深く思い出していた。

ちなみに混浴ではなく別々だ。

最初は経費の半分が、女性陣が出しているため、女性専用風呂を作ろうとしていたのだが、

(俺は華琳の権限で入れるとは言っていたが、いろいろ嫌な予感がしたので、それを丁重にお断りし)

俺が、経費の半分は公費だから、それは不味いと反対、そこへ男性陣も乗る。

そんな男達の声も、ある女性文官に「なら男共は今までどうりで、いいじゃない」と発言される始末。

いつの間にか男性陣代表の矢面に立たされた俺は、なんとかその女性文官達をなだめ。

ちなみに、男共は女性陣の勢いに負け、部屋の隅で固まっている。

あの、俺もそっち行っていいですか?

えっ、駄目? やっぱりだめですか・・・・とほほ(涙

なんとか、華琳や将達を説得し、女性用に比べると、半分の以下の大きさの男性風呂を作る事が出来た。

お風呂ぐらいゆっくり入りたいもんね。

一度お風呂内でやってしまい、えらい目にあった事があった。

そういう訳で、そういった事態にならないようにしている。

それにこの風呂、女性用の半分以下と言っても、それなりに広いんだよね。

5~6人ぐらいは余裕で足を伸ばして入る事が出来る。

ましてや、今は一人で入っているので、この時代にしては、十二分に贅沢品だろう。

 

そうして体も洗い終わり。

鼻歌気分に湯に浸かていると、誰かが入ってきた。

ん、誰だろう? こんな早い時間にと、そちらを向くと

 

「かーずーとー、入りに来たでー」

「なっ」

 

あまりの予想外の人物に、俺が口をパクパクさせていると

 

「ん? 大丈夫大丈夫、ちゃんと表には『入ってきたら殺す  張遼』と板に書いて立てかけておいたから」

「だぁぁぁぁ、何のつもりだ」

「あれ、ウチと風呂に入れて嬉しゅうないんか?」

「いや嬉しいけど、さすがに風呂内でのことは懲りたから」

「うふふふふ、大丈夫、今は、なんもせん、それは約束するさかい

 ウチはただ一刀と一緒に湯に浸かりたかっただけや、それでもあかん?」

「まぁ、そこまで言われたら、霞を信じるよ(後は俺の息子が暴走しない事を祈るだけか)」

 

俺の言葉に、霞は嬉しそうに俺にもたれかかりながら湯に浸かる

 

「んーー、気持ちええーなーーー

 なぁー、一刀、ウチ今、最高に幸せや、大好きな人がいて、こうして一緒にお風呂に入れる

 昔のウチなら、これで満足する事なんて考えられんかった。

 でも、今のうちは、それなりに満足や、一刀に変えられてしまたんやなー。

 惚れた男と一緒におれて、そんな男に守りたいと言われて、こうして一緒にお風呂に入っている。

 最高の贅沢やっ、だから、今はこうして、ゆっくりしていたいんや」

 

俺にもたれかかりながら、

 

幸せそうに言う霞の想いを

 

俺は少しでも応えられるように、

 

戦乱の世を生き抜いたとは思えないような細い肩を

 

優しく引き寄せ、

 

 

「あぁ、俺も幸せだ」

 

 

そう、俺の想いを告げる。

 

その夜、その想いを

 

確認するかのように

 

俺と霞は

 

何度も

 

何度も

 

体を重ねた

 

 

 

 

 

 

なんやかんやで、ある日、定例報告の会議の中、

やがて、各部署の報告が終わり、次々と人が部屋から出て行く。

そんな中、玉座の間には、華琳をはじめ魏の重臣達だけが残った。

気になった報告がいくつかあり、皆そこに残っていた。

 

「桂花、五湖の動きが不審と言うのは、たしかなの?」

「はい、国境境の小競り合いが減っています。何処かへ兵を集結させているのかもしれません」

「奴等、我らに恐れをなして、撤退したとは考えられませんか?」

「そんな事あるわけないでしょ、あいつらがそんな弱気な民族なら、苦労はしないわよ」

「だが兵を撤収しつつあるのだろ?」

「姉者よ、その撤収させた兵が、何処に行ったか気にならぬか?」

「うむ、それは判らん、なら、小競り合いが減ったのは我らを油断させるためと?」

「その可能性が強いでしょうね」

「稟と風はどう思うの?」

「情報が少なすぎます。 今は油断せず、警戒する以外、手は無いと思います」

「そうですねー、桂花ちゃん、こちらの細作はどうなってますかー」

「相変わらず、無しの飛礫よ。 戻ってくるのは本当に何も無いところだけよ」

「なら、細かく出して、何も無いところを確認して行くしかないですねー」

「何も無い事を確認する事で、それ以外の有を特定するということね、桂花、今はその手しかないようね。

 続けて監視を行いなさい。 霞、あなたの隊をいつでも動かせるようにしておきなさい」

「ウチのとこは、いつでも動けるでー」

「そう、なら他に何か報告はあるかしら?」

「華琳様、朝廷内で不穏な動きがあるようです」

 

そう言って、桂花は俺を一度見る。

それに気がついた華琳は

 

「かまわないわ、報告を続けて」

「よろしいので?」

「一刀に関わる事なのでしょ? そろそろ、ある程度は知っておくべきでしょ」

 

華琳と桂花が、俺を見ながら言う。

朝廷で、俺に関することかと言うことは一つしかないな

 

「朝廷内で、天の御遣いに関する処遇を話し合う声が出ています」

「・・・あそこは今まで、見てみぬふりをしていたはずだけど」

「はい、華琳様が大陸の覇者となり、華琳さまの保護を受けてからは、その発言権を殆ど失っており、

 こちらの要請にも黙って従ってくれていました」

 

傀儡と言うわけが・・・

 

「ですが、ここ最近、献帝が天の御遣いを認める発言が発端となり、話し合いを進めていた模様です」

「それだけ聞くと良い話しに聞こえるのだけど」

「はい、周りの臣達も、最初は認めていくような事だったのですが」

「・・・それで」

「何処からか、天の御遣いではなく、妖術使いではないかとかの噂が囁やかれ、天の御遣いを認める発言

 をした献帝を、廃帝すべきだとの声も囁かれています」

「ずいぶん物騒な話ね、そこまで話が大きくなってきていると言う事は、誰かが裏で糸を引いているわね」

「はい、私もそう判断し、細作に噂の発生源を調べたさせたのですが・・・」

「どうしたの、まさか、蜀や呉だと?」

 

華琳の言葉に皆がざわつく

 

「いえ、私もそれは最初に調べましたが、結果は白でした。

 その二国には、今、天の御遣いを排除する理由がありません。

 逆にその恩恵をあやかりたいと思っている節があります」

「では、三国に属してない邑や諸侯かしら?」

「そちらも、調べましたが、今の朝廷内に手を出せるだけの力がある所は限られており、

 そちらも、比較的友好で、天の知識の恩恵にあやかりたいような交渉が何度かありました。

 またそれ以外となると、三国を敵に廻す力がありません。

 なにかあれば、簡単に押し潰されてしまうような勢力ばかりです。

 今回の件に関しては、彼等に利はありません」

「では、五胡かしら?」

「あそこが今まで、そういった行動を起こしたことはありませんが、否定はし切れません」

「桂花、ある程度目処を付けているのでしょ? それを言いなさい」

「はい、まだ確信は持てないのですが、十常時」

「っ! 十常時は詠、賈駆が処分したはずでしょ!」

「はい、私も最初、そのように思いましたが、早馬で確認を取ったところ、十常時の一人が影武者だった

 可能性が出てきました」

「それは誰?」

「十常時の張譲」

「張譲・・・たしかに、あいつの思いつきそうな手ね、十常時が怪しいと思った理由は?」

「噂の出所を調べるうちに、細作の一人が、手負いで亡くなる前に『・・ち・ょ・・ぅ・じ・・・』

 と言い残した事です」

「そう、その者の家族に謝辞と十分な恩賞を」

「はい」

「でも、華琳さま、いまさら、北郷ごときを排除して、どうにかなるとは思えませんが」

「姉者、そう単純な話ではない

 北郷が天の御遣いでないと朝廷に断言されては、それを擁護した華琳さまにも、その責は免れない」

「だが、今の朝廷は華琳さまの傀儡のようなものだ。 そのように成る事はないのだろう」

「春蘭、口を慎みなさい! 二度とそのような無礼な発言は許しません!」

「・・・はい、申し訳ございません」

「春蘭さま、たしかに秋蘭さまの言うとおりになった場合、華琳様にその責任を問われる事になります。

 そうなれば、華琳様は最低でも王位を退位しなければならないでしょう。

 最悪、また戦乱の世に戻りかねません」

「でも稟ちゃん、せっかく平和になったのに、戦争する理由なんて無いじゃないですか」

「季衣それは違います。

 残念な事に、世の中には戦乱を求める人間もいるのです」

「でも、そんなことしても誰も喜ばないよ」

「季衣、それは違うわ」

「華琳様」

「世の中にはね、戦乱を利用して、地位を築こうとしたり、金儲けを企もうとする下種がいるのよ。

 特にこの、十常時の張譲と言うやつは、その地位を利用して、自分にとって気に食わない人間がいれば、

 その土地に、戦商人と癒着して戦を起こさせ、富を築いた最低の下種よ。

 人の血がお金に見えるような奴なの」

 

そういって、華琳は季衣を優しく抱きしめる。

 

「季衣ごめんなさい、貴女にこんな汚い話を聞かせて

 でも覚えておいて、世の中綺麗な事だけじゃ、成り立たない事を」

「はい、華琳さま、世の中、悪い事も必要だって事は判ってます。

 でも戦争が、人の命が、お金儲けだなんて・・・」

「ええ、季衣、分かっているわ。

 たしかに、戦で生活を支えている人はいるわ。

 でも私は、そんな人には別の生活を見つけてもらおうと思っている。

 それでも、そんな生活を見向きもしないで、罪の無い民を巻き込んででも、戦乱へ導こうなんていう

 下種は、私が残らず地獄に叩き込んであげるわ。

 季衣、またそのときは手を貸して欲しいの」

「はい華琳さま、ボクは華琳さまを信じます」

「そう、いいこね」

 

華琳はそう言って、季衣の頭を優しく撫でると、玉座に戻り

 

「桂花、献帝の身の安全を確保させなさい。

 くれぐれも丁重に、非礼が無いよう細心の注意を払いなさい。

 では、まず、これ以上の噂の流布を止める事が先決ね。

 誰か案はあるかしら」

「はい」

「稟、教えてちょうだい」

「ます、噂をただ否定しても、民は面白そうな噂に飛びつきます。

 ですから、むやみに否定しても、噂の流布は止まらないでしょう。」

「ならどうするの?」

「噂を否定するのではなく、噂を重ねるのが良いかと」

「どのように?」

「『天の御遣いが妖術使いらしい』なら、『天の御遣いが妖術使いに狙われている』とか

 いかにもありそうな話に、すりかえさせて流布させて、こちらに民を味方に付けます。

 もともと国内の一刀殿の風評は高いため、簡単にいく可能性が高いです。

 ですが向こうも黙って座するとは思いません、ですから、随時噂の発生に目を見張らせておく必要が

 あると考えます」

「そう、ではそのようにお願い。桂花」

「はい」

「貴女は、引き続き、張譲の探索を、あと他に黒幕がいないかも、並行して調べてちょうだい」

「判りました。後、今回この者達に乗っている者も調べておきます」

「まかせたわ

 一刀、そういう訳だから、しばらくは、あまり馬鹿な真似はしでかさないでちょうだい」

「いや、そんな、だいそれたことした記憶は無いけど」

「それでもよ、気をつける事に越した事は無いわ」

「了解」

「では此の件は、これで終わりね。

 他に何かあるかしら」

「華琳さまー」

 

華琳の言葉に、今度は風が手を上げる

 

「なにかしら風」

「蜀の孔明ちゃんから、お手紙が来ているのですよー」

「なんて言ってきているのかしら」

「くー・・・・」

「寝るなっ!」

 

ビシッ

 

また寝る、風に俺の突っ込みが決まる。

 

「おおー、あまりの手紙の内容に、風は思わず寝てしまったのですよー」

「で、なんて言ってきたのかしら?」

「よーはですねー

  『 やい、お兄さんを独り占めしてないで、こっちに貸せやおらー 』

  って書いてあるのですよ」

 

いや、風、今の言葉は絶対、風の言葉ですよね。

あの気の弱い諸葛亮が、ぜったい、そんな書き方しないって

 

「おやー、お兄さんは風の事より、孔明ちゃんの方を信じると言うんですかー」

 

風、頼むから、人の心の中を読むのはやめてくれ

それと、この件に関しては風より諸葛亮を信じるぞ、俺は

そうやって、頭の中で風と会話しているうちに、華琳は風から受け取った手紙に目を通す。

 

「華琳様、こんな奴くれてやってもかまいませんが、まだ、これにはやってもらわねばならない仕事が

 山程あります。

 ここは、できるだけ引き伸ばした方が、良いかと思います」

「桂花、そう言う訳にもいかないのよ・・・」

「は? なぜです?」

「・・・・・・」

「華琳様?」

「華琳さまー、どうされたんですかー? まさかお兄さんを貸す約束でも、されたんじゃないですよねー」

「そんな、華琳様が、そのような約束されるわけが無いじゃないの」

 

ピクリ

 

風と桂花の言葉に、華琳の目元が大きく引きつるのが分かった。

・・・・なるほど

周りを見ると、どうやら、大半が理解したようだ。

華琳は何も言わず黙っている。

どうやら、そのときの様子を思い出しているのか、

体から黒い霧を出して、内から来る激情に耐えているように見える。

その様子に、回りは黙って俺を見る。

なに、俺に言えと言うのか?

この不機嫌MAXの華琳に・・・俺に死ねと?

俺のそんな思いを知ってか、みな黙って頷く

さっさとやれ、と言わんばかりに・・・

・・・クソーなんでこんな貧乏くじばかり

 

「華琳、もしかして約束しちゃったんだ?」

 

ガバッ

 

俺の言葉に、華琳は玉座を降り、俺の胸倉を掴む

 

「しちゃったわよっ! えー、

 そもそも、あんたが勝手にいなくなったのが原因なんだから、あんたが責任取りなさいよ!」

「ちょ、そんな逆切れされても」

「と・に・か・く! 一刀、あなたは蜀に行って、問題をとっとと解決して帰ってきなさい。

 い・い・わ・ねっ!」

「わかった、わかりましたから手を」

 

俺の返事に華琳はやっと手を離してくれる。

俺を締め上げて、華琳も気が済んだのか、落ち着きを取り戻し

 

「呉からは、何か言ってきているの?」

「いいえー、何も言ってきていないのですよー」

「そう」

 

そうですか、呉とも約束されたんですね。

華琳、人のいないところで、人を物のように貸し出す約束はやめて欲しいです。

そう独り言を呟いているところに、華琳が再び声を掛けてくる

 

「一刀、出立はいつ出れそう?」

「んー、3日後ぐらいが、ちょうど仕事のきりがいいかな」

「そう、風も大丈夫ね」

「はいですのー」

「えっ、風も来るの?」

「当たり前なのですよー、風はお兄さんの臣下なのですから、お兄さんについていくのですよー」

「秋蘭、親衛隊から、一刀の護衛部隊を編成して、準備させなさい」

「御意」

「桂花、桃香に今一刀が微妙な立場だって事、よく判るように手紙を出しておきなさい。

 桃香だけでは心配だから、おちびちゃん達にも同じものを」

「判りました」

 

 

そうして、俺の蜀行きが決定した。

 

向こうで、何が待ち受けているかは、分からないが

 

俺は俺らしく、一生懸命やる以外、道はない。

 

なら、困難があったって、それを楽しんでやるだけだ。

 

そう覚悟を決め

 

俺は仕事の合間に、旅支度をする。

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

どうも、うたまるです。

 

 第8話 ~ 日々またこれ修行(後編) ~

 

を無事お送りする事が出来ました。

 

今回で本編となる部分の序章が終わりになりました。

一刀の能力強化も、なるべく自然になるように頑張ったつもりではあります。

実際は、その中で一刀やヒロイン達の想いを描きたかったのですが、

話しの展開上、一部しか載せる事が出来ませんでした。

むろん、今までで、出演の弱かった魏のヒロイン達に関しては、

また何かのおりに執筆して行きたいと想います。(その方が、話の展開を気にせず書けそうなんで)

 

さて、今回で、一刀の武の実力が、判ったと思います。

むろん、多少の変動はありますが、大きな変動となると、まだまだ時間が掛かる段階まで持ってきた

つもりです。

そこで、ケース・バイ・ケースで一刀を助けるのが、策だったり、スーツや刀の力になります。

特に、スーツは、今回の話で、やっとその機能が使用可能になりました。・・・御都合主義の言い訳で(汗

 

さぁ、一刀の周りで、いろいろ不穏な動きが出てきました。

五胡、朝廷、一刀は、これらの思惑に巻き込まれるのかでしょうか・・

 

蜀へ行く事も決まり、

次回からは蜀編となります。

蜀で一刀が待ち受ける運命は?

種馬スキル発動となるのか?

はたまた、風と蜀の女性陣たちとの攻防があるのか?

拙い文ながら、一生懸命書いていきたいと思います。

 

では、また次回お会いいたしましょう。


 
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