No.116207

バキ☆すた 3部範馬刃牙15巻より(バキシナリオ)

ハヤトさん

yahooの自分のサイトで書いていた時期が私にもありました

2010-01-03 14:17:26 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1697   閲覧ユーザー数:1657

 

 道場の木の床の稽古場でピンクの髪の少女が逆立ちをしていた。掌、いいや、拳、いいや、親指一本で逆立ちをしていた。彼女の名は高良みゆき、神心会館の首である高良ゆかりの子供である。黒帯を締めて現在親指一本で逆立ち歩きをしている。彼女の進んだ後には彼女のものと思われる汗が水溜りになっていた。

 彼女は全ての体重を親指一本に託しながらも、ある事を思い出していた。それは、彼女がまだ白帯だった頃。

 

 その昔…、

「一周です」

 稽古場の一室で彼女の母、高良ゆかりは門下生に言った。

 高良ゆかりが泉かなたに敗北し右目を失う遥か前のことなので、彼女の目は両目である。まだ幼少の身だった彼女の前でゆかりは自分の女とは思えないごつい指を門下生に見せていた。

「この指だけでこの道場をグルリと一周するワケですが、その握力で拳を固めて…」

 ゆかりは「叩くッッ!!」思いっきり右拳を突きながら喋った。空突きしたその拳から手首を超え、肩までゴウッ!という音を放たれた。

 少女、みゆきはじっと見ていた。見ているというより見とれていた。母親が持っていた、剛の拳、今から自分が身に付けるかもしれない、いや、身に付けなければならない剛の拳。それを見て彼女、みゆきは思った、「これは……すごい」と。

 ゆかりは突いた右を引いたと同時に、彼女は続けて、

「人間でなら、無論一発で。人間じゃなくても正確に射抜けば、牛だって殺せます……。」

 ゆかりは、ニヤケ面で話した。

「……・」

 子、みゆきは閉じない口を開けたままにしていた。

 

―現在

 一人の少女が、神心会館の前に来た。紫色の髪でツインテの女だった。

 みゆきはまだ続けていた。

 今は、太鼓はない。

 ぴたっと、みゆきは動きを止めた。一周を終え、逆立ちをやめたみゆきは立ち上がり、深呼吸をした。

 

―牛ですか……。

 彼女は思い出していた、原始時代からやってきた、岩崎みなみのあの姿を。神心会館の師、柊かがみを倒し、左肩の一部と、右足を喰らった岩崎みなみ、

―フフ……、相手が牛でしたらどれほど楽でしたか…

 敗北をすれば…、彼女と同じ、結果が待っているだろう。いや、もしくは生きてはいないかもしれない。

―だからと言ってどうするのですッ、空手家である私が――――

―空手以外の何にすがるので

 

 そのときだった、

誰かが…、稽古場に入った。

 紫の髪で、ツインテールをして、左肩の一部と右足を岩崎みなみとの戦いで消失した……。

「かがみさんッ!」

 柊かがみだった、彼女は、失った右足を軸に並行立ちをした。

「みゆき……」

 かがみはボソッとつぶやいた。

「かがみさん……。」

 みゆきは驚愕と困惑をしていた。武道家の命といえる脚を喰われ、それでも尚、道場の上に立っているかがみ。

「みゆき……」

 

 

 かがみは、それまで閉ざしていた口を開いた。その口は重くなかった。しかし、軽くなかった。その言葉からは続けて言葉が発せられた。

「不思議な噂を耳にしたの。」

 はっきりと、かがみはみゆきに言った。怒っているわけでもなく、質問しているわけでもなく、言葉の真意が探れないような声で言った。

「さっきの比武(試合)で喫した私の敗北―――――――、その仇をあんた達神心門下で討とうとしているとッ。」

 みゆきは黙って、かがみを見ていた。二人の表情は依然変わらない。

「真偽を確かめたいわ」

 かがみの話が終わったあとも、二人は面を向いていた。みゆきは、何一つの動作も変えずかがみの方を向いていた。

「私が言いだしたことです」

 みゆきの台詞の後、長い長い沈黙があった。どんよりせず、その逆もまた存在しえず。微妙な空気が流れていた。

 

―「不可思議ッ!」

 かがみの口から放たれた声は、道場中に響きわたり、空間に溶け込んでいった。しかし、衝撃はみゆきの五臓六腑に打たれていた。

「わたしに歯が立たない相手に――――――、」

かがみは、少し、時をためてから、続けていった。

「私に指導される立場のあんたたちがあだ討ちなんてッッ!」

 みゆきはまだ、かがみを面と見ていた。自分の言った事に後悔も恥じも無い、そして、だからこそ、

「おっしゃる通りです。武術界の先達であるかがみさんの仇を打つ、出すぎた行為です。……でも、…討ちたい。」

 かがみは、みゆきを直視していた。

「私はもう知ってしまいました、拳雌 柊かがみの武がまるで通じなかった事実。それでもなおっ、いやっ!それだからこそなおッ!」

 

―「私の空手をぶつけてみたい!」 

 みゆきの本心と、意思が、気迫。いや、それ以上のものとなり、かがみへ向けられた。

「うフフ、ヤッパリね。」

「―――――――――――――――――」

 かがみは笑った、まるでこの台詞を予想していたかのように笑っていた。彼女は怒ってもいなかった。ただ笑っていた。みゆきは何も恥じることも無く、かがみを見ていた。

「恩あるあたしに報いるため――――――――とか、詭弁も弄していても、こうして本音が出るのね」

「あだ討ちというのは便宜上のスローガンです。強いならヤリたい――――、そういう生き物です、私たちは。」

「勝てるかしら、あんたの空手でッッ」

 二人は確認の取り合いをしていた、覚悟という言葉の取り合い。格闘家としての覚悟、岩崎みなみと戦うという覚悟、答えは――

「さァ―――――――――――――――。」

 答えは、これだった。そう、わからないということだ。相手は、みゆき達、門下の指導者を倒すほどの人間。しかし、

「勝算があるからやる、ないならやらない。そういう闘いではないと決めております」

 そう、彼らにはそんなルールではない強いならヤル、それが決まりだ。二人の表情から笑顔が見えた、何かの出来事が解決した。

「変わったわね、あんた」

 みゆきは、かがみを見たままの状態で…哂った。

「ありがとうございます―――――――」

 みゆきの台詞と同時に、かがみは、ツインテールをやめて、髪を後ろにやり、ポニーテールに変えた。ポニーテールの状態なので比較的動きやすい。

「みゆき、そういう私もこうして姿形が変わってしまったけど―――――――――伝えられることは山ほどあるわ。……みゆき」

「はい……。」

 かがみは、みゆきの前まで近付いた。何かを伝える為に、此処に来た。真偽を確かめると同時に、教える為に。

 

 

 

「4000年の蓄積を誇る中国武術の4001年目――――あんたが引き継いでみない?」

 

 
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