No.115480

Sky Fantasia(スカイ・ファンタジア)四巻の1

今年最後の作品です。今回は、少し書き方を変えてみました。

今回のテーマは、季節外れの夏休編。
リョウがバイトをするために魔連の手伝いを。
そして、リョウの新しい武器とは?

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2009-12-31 11:17:39 投稿 / 全17ページ    総閲覧数:718   閲覧ユーザー数:699

プロローグ

 

 

 夏休み初めの日

 今日も空からは暑い日ざしが降り注いでいた。

 その炎天下の中、一人の制服を着た少年は目的地に向かっていた。

 あ~ちぃ~

 その少年の胸の中では、さっきから同じ愚痴が何度も呟かれていた。

 少年の名は、リョウ・カイザー。特徴のあるツンツンした銀髪に、黒い瞳をした少年である。リョウは今、学園からの帰りであり、左肩には勉強道具が入っている(にしてはとても薄い)かばんを提げられていた。

 リョウが通う《セイント・エディケーション学園》とは、この世界の治安組織《魔導連邦保護局》通称《魔連》が運営する学園である。ここでは、戦闘学や魔法学、機械情報学など、多くの分野を学ぶことができる。

 そして、今日はその学園の終業式だった。

 だが、それが終わってから、今、向かっているのは自分の家ではない。

 その目的地は病院だ。

 なぜ、病院に向かっているのかというと

 今日がリリの退院の日であるからだ。

 リリ・マーベル、肩に掛かる長さの黒髪に特徴ある灰色の瞳をした少女である。その少女とリョウとの繋がりは、二年前に起きた、大きな事件がきっかけで、リョウが居候させてもらっている家主の娘だ。

 そして、なぜ入院しているかと言うと、一週間前の試験のときにいきなり化け物に襲われたのが原因で、怪我を負い、そのまま入院してしまったからだ。

 そして、なぜリョウが病院に行く理由は……

 学園が終わった直後

 いきなりマリアから電話があると、

『リリが今日退院するからその荷物運び頼むわ、ね』

と言うなり、俺が何か言う前にすぐに切った。

 もちろん、リョウには拒否権などはなく、この暑い中向かう羽目になったのだった。

 

 病院に着くと、そこは別世界だった。

 

 ……涼しい

 この病院は二つの病棟でなりたっている。分け方は大雑把に外科、内科だ。

 今、俺はリリの病室がある外科の病棟を歩いている。部屋の近くの廊下を歩いていると、突然、リリのいる病室から白衣を着た女性が出てきた。

 女性はすぐに俺に気付いた。

「おっ! やっと来た」

 女性は後ろ手でドアを閉めた。俺は女性のほうへ近づいた。

「エイルさん。リリの調子はどうだ?」

 すると、女性の表情が急に険しくなった。

 それを見た瞬間、何かあったのかと思い、気を引き締めると次のエイルの言葉を待つことにした。

 すると、エイルはゆっくりと話し出した。

「今は、なんとも言えないわね」

「なっ! 待ってくれよ! 今日退院だって聞いたから、俺はここ着たんだぜ」

エイルの言葉に焦りの色が隠せなかった。

「そう言うように、私がマリアに頼んだのよ。あなたに来てもらう為に」

な、どういうことだ、エイルはなにを言ってるんだ?

 この前会ったときは、元気だったはずなのに……。なぜ、いったいここ数日になにがあったのんだ? 俺の頭の中には、様々なことが駆け巡った。

「……まあ、説明するより見てもらった方がいいわ」

 その言葉に、俺は我に返った。そして、覚悟を決めると、判った、と返事を返す。

 ドアノブを掴んだ瞬間、

「あまり、音を立てちゃあダメよ」

と、エイルが後ろで念を押してきた。

 薬で寝ているのだろう。

 俺は無言で答えると、ゆっくりと扉を開けた。

 リリの部屋は一人部屋だ。あまり大きくないが、人一人いるには窮屈ではない。

 そして、今、ベッドの前にカーテンが掛かっている。

 俺は寝ているリリを起こさないように、ゆっくりと近づいた。そして、カーテンを掴むと、ゆっくりで片方にスライドさせる。

「……リ、リ?」

だが、予想とは違う光景が目の前に入った。

 もちろん、ベッドの上にいたのはリリなんだけど……。

 そう、白い肌に艶やかな長い黒髪、二年前から一緒の家で暮らしている少女だ。

 そのリリと目が合う。

「……え?」

リリは目を丸くして驚いた表情を浮かべると固まってしまった。

 ベッドの脇に座っているリリは、白い服を着ていた。それは肌がやけに出ている。

 だが、その服が下着姿のだと気付くのに数秒掛かってからだ。

 片手には湿ったバスタオルを持っており、それをもう片方の腕に当てていた。ベッドの脇の机の上には洗面器が置かれており、その中からは湯気が出ていた。その姿はまるで着替えるために体を拭いている最中のような―――

「きゃあああああああっ!」

か細い悲鳴が病室に響いた。だが、俺はいきなりのことに驚いて、すぐに動くことができなかった。

 頭の中で疑問が渦巻く。

 何でリリが起きてんだ?

 エイルさんのあの曇った顔はなんだったんだ?

 ……そういえば、

『音を立てちゃダメよ』

 あのときエイルさんの口元が歪んだような……。

 ―――騙された、のか?

 リリはそばに置いてあった着替えを抱えると、前へ屈みこんだ。

 俺は頭が真っ白なり、身動きできなく、だけど何か言わないといけないと思い。

「大丈夫だ。見えなかったから」

その瞬間、リリは涙で潤んだ上目遣いで俺を睨んできた。

 それが俺の見た最後のリリだった。

「ちょ! お前、待て! これは誤解―――」

リリの左手に白い小さな光が表れると、それはどんどん膨張し始めた。

 そして、ビーチボール位の大きさまでになると、それは俺へと飛んでくる。それは一瞬にして俺の目の前を覆い尽くした。

 激しい爆発とともに俺は病室の壁ごと廊下に吹き飛ばされ、そこで意識を失った。

 

                       ○

 

 数十分後、病院内のレストラン。

 エイルさんはすっかり笑い疲れた様子で、目元に浮かんだ涙を拭っていた。

 一方、俺は顔を絆創膏まみれにされ、痛めた首に冷やしたタオルを当てていた。

 もちろん顔を歪ませて、エイルさんを眺めている。

「あはっ……ご、ごめん。ちょっとサービスするつもりが、まさかここまでうまくいくとは思わなかったから……くっ……あはあははは」

というと、エリアさんは突っ伏して肩を震わしていた。

 こいつ全然反省してねぇな、俺は、呆れた、と溜息をした。

 まったく、この人のしょうもない悪戯のせいで、こっちは危うく死にかけたっていうのに。それに前々から誰かに似ていると思ったのだが、今日やっと判ったぜ。この人、俺の保護者であるマリアさんにそっくりだ。こういう、人で遊ぶところが特に……。

「……で、最初から俺を騙す為に呼んだのか?」

「いや。マリアから連絡があったときにピンッと来てね。面白そうだったから試しただけなんだけど……まさか、ここまでうまくいくなんて、私の演技力も捨てたもんじゃないわ、ね」

「あーあ、すごかったよ」

俺は不機嫌な顔のまま適当に相槌を打った。

 すると、急にエイルさんは優しい笑みに浮かべた。

「でも、リリの元気な姿が見えてよかったでしょ?」

「……まあ、そうだけど」

こういうところがまた、ずるい。

「本当ならもうちょっと感動的になるはずだったんだけどなー」

「……いや、あの状態からじゃあ、まずないだろ」

あの状態からどうもっていけというんだ。というよりもっていく気もない。

 そんなことを考えていたら、急に、俺の横にいる不機嫌顔のリリが口を開いた。

「それでも視線外すぐらい、すぐできるよ」

「いや……だから、あれはエイルさんのせいで……」

「私が騙したっていうの? 人聞きが悪いなー。せっかく若い二人に潤いをあげようと考えたのにー」

「あの状況でどう潤うんだよ」

「うーん……無事な姿を見て、うれしさのあまり抱きしめる、とか?」

なわけあるか、俺はうんざりした顔でエイルさんを睨みつける。

「まあ、アンタだけにサービスした訳じゃないけど、ね」

「……どういう意味だ?」

俺は怪訝顔でエイルさんは見返した。

「もちろんリリの背中を押したに決まってるじゃない。だって、リリ奥手なんだから」

「ちょ! エイルさん!」

すると、リリは急に顔を真っ赤して焦りだした。

 エイルさんは、そんな姿を見て笑うと、そのままレジカウンターの方へ歩いていった。

 俺はその後姿を眺めると、疲れた溜息が出た。

「……ありがとね。迎えに来てくれて」

急に、リリがお礼を言ってきた。俺は視線をリリの方へと移す。

「別にお礼を言われるほどのことじゃねぇよ。それに渡すものもあるし、な」

「渡すもの?」

リリは首を傾げる。

「お前の担任に頼まれたんだ」

俺は持ってきた鞄からクリアファイルを取り出した。その中身は通知表。しかも紙でできている。 技術力が高い世界なのに、これは学園長のこだわりなんだろう。

 俺はそのクリアファイルをリリに渡す。

「あ、ありがとう」

「中身は見てない、ぞ」

「当たり前だよ」

リリは即座に突っ込んできたが、その顔には笑みが浮かんでいた。

 まあ……こいつの成績なら誰に見せても恥ずかしくないだろう。

 外からは蝉の鳴き声が聞こえてきた。暑い日ざしが窓越しに部屋の中に入ってくる。

 これが俺の初めての夏休みの始まりだった……。

一章

 

 

 俺が暮らしているマンションの居室。

 暑い中、俺はリビングで悩んでいた。今、俺はアルバイト雑誌を眺めながら、条件に合うバイトを探していた。だが、なかなか見つからない。俺は暑さもあってか、少しイライラしながら持っている雑誌を机の上に投げた。

「あら、何してるの?」

すると、いきなり俺の後ろから声がした。

 それは俺のよく知った声だ。

「アルバイト探し」

俺は、あまりみられたくなかったなぁ、と想いながら振り返る。

 後ろにいたのは、この部屋の家主であるマリア・マーベルである。

 

 マリアさんは二年前、俺を保護してくれた恩人である。マリアさんが属する《魔法連邦保護局》通称、《魔連》では魔法を使った悪事を防ぐことから、能力がありすぎる者を保護するなどを主に活動している。

 

「あんたはまず、年齢制限に引っかかるでしょ」

「そんなもん、誤魔化せば何とかなるだろ?」

「ならないわよ」

マリアさんは呆れた表情を浮かべてきた。俺はそんなことを無視して、次の雑誌を手に取った。後ろから溜息が聞こえてきたが……。

「……リョウ。それはなに?」

すると、マリアさんがさっきまでとは違うトーンで訊いてきた。

 俺は雑誌から目を離し、振り返る。すると、マリアさんは机の上のある一点を睨みつけていた。俺はその視線をたどると、そこには、二枚の顔写真入りの紙が雑誌と一緒に置かれていた。一枚はスキンヘッドに右頬に大きな傷がある男、もう一枚には、長髪で口の周りに濃いヒゲをはやした男が載せられていた。それらの紙の下の部分には数字が書かれている。

「……あぁ。金がほしいときの癖だよ。もうこの家業はしない。大体、じいさんがゆるさねぇだろうし」

「それじゃあ、これはいらないわね」

すると、さっきとまでとは違い、マリアさんはなぜかうれしそうな表情になった。

 その瞬間、さっきの紙が机から不意に浮き上がった。そう、マリアさんが魔法を使ったからだ。マリアさんは自分の方へと引き寄せた。俺は少し惜しいことしたかな、と思ったが約束したからには仕方がないので、諦めてバイト探しを再開することにした。

「そういえば、何にするか決まったの?」

これはあのことを言っているんだろう。

「一応、な。でも、予算の問題が大きすぎる」

「いくらぐらい?」

「……十万」

少し恥ずかしかったので雑誌で顔を隠した。

「じゃあ、私の手伝いする?」

「手伝い?」

俺は後ろに振り返る。

「そう。うちも人手不足だから、ね。あなたなら頑丈そうだから少しきつくても大丈夫でしょ?」

「……いや、頑丈って」

少し不穏な単語が出たが、流すことにした。

「大丈夫よ。基本的には書類整理や資料集めのみたいな雑務だから。危険なことはあまりないわよ」

 俺はマリアさんの提案について少し考えたが、これ以上の条件が合う仕事はないだろうと思ったので、

「……判った。頼むよ」

「じゃあ、すぐに支度をしなさい。今から行くわよ」

マリアさんは部屋から出て行った。俺もすぐに机の上のものをかき集めると、そのまま持ってあとを追う。

 

                       ○

 

 そんなこんなで一週間たった、魔法連邦保護局南支部。

 俺は雑務の毎日を過ごしていた。初めのころは局員からの視線が少し気になっていたけど、今はあまり気になることなく雑務をこなしていた。

 っで、今は資料の束を持って局長室に来ていた。

「はいよ。これが頼まれてた資料だ」

「ありがとう。こっちに持ってきて」

マリアさんは見ていた書類から一瞬俺の方へと視線を移したが、すぐに書類に視線を戻した。俺は言われたとおり前が見えないほどの資料の束を机の上に置いた。頼まれたときに思たんだが、この量を資料室で探すのは嫌がらせではないか?

「次は……何すればいいんだ?」

俺は疲れた表情を隠せない。

 マリアさんはそんなことを気にもせず、資料から目を離さず壁の方を指した。

「さっき、あなた宛に荷物が届いたわよ」

俺はいきなりの事に首を傾けると、指した方へ視線を移した。そこには風呂敷が架かった一本の刀が立てかけてあった。俺はそれに驚くと、すぐに刀の方へ移動した。

 刀を手に取ると、すぐに風呂敷を取った。

 出てきたのは流れるような綺麗な刃の太刀だ。大きさは俺の身長ぐらいあるが、重さはそれほどなく片手で振り回せる。

「……楽しそうね」

俺が手ごたえを確かめていると、マリアさんは面白いものを見るような笑みで、こちらを眺めていた。

「……べつに、いいだろ」

俺は少し恥ずかしくなり頬が熱くなる。

「そんな風にしていると、年相応に見えて可愛いだけどねぇ~」

「うるせぇよ。どうせ、生意気なガキだよ」

「なーんだ。自覚はしているのね」

マリアさんは笑みを崩さずサラッと言ってきた。

俺は返せば返すほど泥沼にはまると思い、黙ることにする。

「結構苦労したのよ。本来、調べが終わったらすぐに封印するものをこっちにまわしてもらったんだから……っで、どう、使い心地の方は?」

「いい感じだ。やっぱり金かけただけある、な。魔力伝導率も前の刀とは全然違う」

俺は少し魔力を刀に流す。刃に流れる感覚をいつもより感じた。

 これも鍔に付いているルビーのような赤い宝石のおかげである。これはこの刀のAIであり、魔力計算、戦闘の保護などの役割をしてくれる。まあ元々、このAIは前に使っていた武器についていたのだが、二年前に保護されたときに、魔連経由の研究所の方へ取られてしまった。最終的に封印されることになっていたが、マリアさんに頼んで回収してもらった。

「……っで、そろそろいいかしら?」

俺は少し恥ずかしくなり、頬の方に熱いものを感じながら、ああ、と返事を返した。

 すると、マリアさんは俺の方へ資料を差し出してきた。俺はそれを受け取ると、目を通す。

もらった資料は二枚。一枚はどこかの場所が書かれていた。

「今日、そこで不正取引が行なわれる、という情報が入ったの。それで、あなたにはそこに来た人たちを捕まえてほしいのよ」

「取引の内容は?」

「魔導兵器よ。それも、人の手には余るほどの、ね」

マリアさんはうんざりした表情を浮かべた。まあ、気持ちは判らないでもないが、バイトの俺なんかが行っていいのか、と俺はこの人の考え方に少し呆れた。

 そして、俺は渡されたもう一枚を見た。それには二人の顔写真載っていた。

 一人はスキンヘッドに右頬に大きな傷がある男。

 もう一人は長髪で口の周りに濃いヒゲをはやした男。

 ん? どこかで見た気が……まあ、いいか。

「それじゃあ、今日の夜、お願いね」

マリアさんは俺の返事も聞かず決めてしまった。

 まあ、俺は別にいいが……。

 マリアさんとの話が終ると、すぐに扉が開いた。俺は振り返ると、そこには局の制服姿の女性が立っていた。どこからかの帰りなんだろう、右手には書類を持っている。

「あっ、お疲れ」

「ただいま戻りました。支部長、これが会議に使われた書類です」

すると、マリアさんは少し呆れた表情を浮かべた。

「何時も行ってるけど、そんなに堅苦しくしなくても良いわよぉ。今、ここには家族三人しかいないんだから」

「いいえ。そういう訳にはいきません。ここは職場なんですから」

「……リョウを雇ったときには、あんなにうれしそうだったくせに」

マリアさんの口元に笑みが浮かんだ。その瞬間、女性の顔が真っ赤になった。

「き、局長!」

俺はその女性を呆れながら眺めた。

 

 この女性の名は、ルナ・マーベル。

 俺の姉である。姉と言っても本当の姉ではない。マリアさんが俺を保護する前に起きた事件で保護したからだ。ちなみに、リリの義姉でもある。

 

「もう、局長はすぐにそうやってからかうのですから。リョウさんもお疲れ様です」

さすがルナ姉、立ち直りが早い。

「あぁ、そうそう。今回の任務、ルナと協力してやってね」

「何のことですか?」

ルナ姉は首を傾げた。まあ、いきなりそんなこと言われたら普通そうだろう、

 俺は判りやすく、持っていた書類をルナ姉に差し出した。

 ルナ姉は書類を受け取ると目を通し始めた。

「……判りました。ですが、私一人でも事足りると思いますが?」

「保険よ。あなた一人でも大丈夫だけど、この世に絶対なんてないんだから」

「それはそうですけど……」

「それに、リョウにも経験させてあげたいしね」

すると、マリアさんは席を立ち上がった。

「じゃあ、二人ともよろしく」

と言い残し、部屋から出て行った。

 ルナ姉は納得がいってないのか、マリアさんを見送る横顔は何か言いたそうだった。それが、俺には少しつまらない。

「ルナ姉は俺じゃあ不服か?」

すると、ルナ姉は予想以上に焦り始めた。

「そ、そんなことありません! リョウさんは何も悪くありませんよ!」

「じゃあ、また後で」

俺は予想通りの答えに面白くなり、笑みを浮かぶと、そのまま部屋を出た。

 そのとき、盗み見たルナ姉の顔はもう険しい顔など微塵もなかった。

 

                       ○

 

 そして夜がきた。

 スラム

 俺たちが暮らす街《ミズガルズ》《南地区》の都市外れには禁止区域がある。そこは魔連でもあまりの危険さに、手が出せないほどの力がすべの無法地帯だ。

 まあ、俺もこの世界に着たばかりのときに世話になったのは、今は忘れよう。

 俺とルナ姉は、スラムに入ってすぐにある廃工場に向かった。ここが取引の行われるという情報が入った場所だ。俺たちは現場から少し離れたところから張り込むことにした。

 数時間、一人目のホシが部下を連れてやってくると工場の中に入っていった。それから、さらに数時間後、もう一人のホシがやって来た。どちらのホシも黒服の強面の男たちを引き連れている。どこから見てもまともな仕事をしてなさそうだ。そんなことを考えていると、ホシが建物の中に入ったのを確認した。

「どうする? ルナ姉」

横目で見ると、ルナ姉は目を閉じて集中していた。たぶん、ここに着いたときに仕掛けていた探査魔法で、周囲を調べているのだろう。

「建物の周辺に二十人……建物の中に八人居ますね。結界で建物の中の人たちを閉じ込めて、まずは周りの人たちから―――」

「ルナ姉。結界張る前に、俺を建物中に行かせてくれ」

その瞬間、ルナ姉は驚いた表情を浮かべた。

「っ! 何言っているんですか! 危険です! そんなの絶対にいけません!」

あんまり大きな声出すと見つかるぞ、ルナ姉。

「俺の足の速さなら簡単だ。それに、その方が効率も良い」

「それなら私が」

その言葉に俺はおもいっきり呆れる。

「ルナ姉より俺の方が屋内戦に向いている。なにより指揮官が前線に行ったら駄目だろう」

そんなこと言わなくてもルナ姉ならわかるだろうに……

 だが、ルナ姉は、ですが、と下がらない。

 そんなルナ姉の姿に、溜息が出た。

「ルナ姉。今回は俺に任してくれ」

「ですが、リョウさんはまだ学生で―――」

「これを試してみたいんだ」

俺は真剣な顔をして、腰にある刀の柄を握って見せた。すると、ルナ姉は一瞬驚いた表情を浮かべると、すぐに難しい顔をして考え始めた。

「……判りました。ですが、絶対に無理しないで下さい。あなたに何かあったら私―――」

「了解」

ルナ姉が言い終わる前に俺は物陰から飛び出した。背中の方から何か聞こえたけど無視だ。

 俺は物陰から物陰に移動しながら建物の近くまで移動した。そして、手を上げてルナ姉に合図を送る。

 その瞬間、建物の闇が一瞬にして掃われた。

 どうやら、ルナ姉が探査用で使っていた魔法を違う魔法に変換したらしい。俺はそれに混じって建物の中に入り込んだ。

 

 私は発動中の魔法を解除しました。

 

 激しい光が止み、リョウさんが建物に入ったのを確認できました。

 私は〝フラッシュ〟の魔法を使ったので、周りの人たちに見つかった。

 ですが、これもリョウさんから一人でも多く、私に目を向けるための作戦の一つです。

 私はリョウさんの先ほどの言葉で昔のことを思い出しました。

『俺に任せてくれ』

そういえば、かつてあの方にも同じことを言われたことがありましたね。

 昔、私が大好きだった人。先ほどのリョウさんの表情と、あの方の表情がダブって見えてとき少し驚いた。

そう、あれは何かをなそうとする表情……。

 周りの黒服の方たちは、拳銃を取り出し、こちらを険しい表情を向けてきました。

それに対して、私も右手の中指にはめていた指輪に魔力を込めた。その瞬間、指輪は杖に変化した。

「それでは、リョウさんの負担を軽くしないといけません、ね」

その瞬間、私は目の前にいる方たちに魔法を放った。

 

 建物の中に入ると明るく、辺りがはっきり見える。

 

 俺はすぐにホシの二人を確認することができた。どちらもアタッシュケースが握っている。

 どっちが捕獲対象のものだ?

 目の前の奴らは、さっきの発光でパニックっているようだ。

「おい! 誰だ!」

すると、スキンヘッドの男の側の護衛の一人がこちらに気づいた。手には銃が握られている。その瞬間、他の者も同じように俺の方を向く。

「魔連の関係者だ! 一応言うが。投降する気あるか?」

と、俺は決まり文句を告げた。

 その瞬間、犯罪者達の放つ空気が目に見えるほどの怒りに変わった。

「ふざけるな! 殺すぞ、糞ガキ!」

犯罪者たちの持つ銃がこちらに向いた。

 だよな、と俺は呟くと、腰にある刀を鞘から抜いた。

 そのとき、感覚を研ぎ澄ますために、目の色を赤色に変えた。

『目的の二人、他六人を視認しました』

鍔についているAIが急に光りだした。

「……おい」

「魔力反応なし……マスター、一般人と判断しセーフティーモードにいこうし―――」

「何時まで機械の真似事してるん、だ? ニア」

俺はAIを半目で睨みつけた。すると、AIが少しの間反応が止まる。

『……まったく。久しぶりに再開したっていうのに、その態度はないんじゃない?』

すると、AI、ニアは明らかにさっきとは違い、人間のような口調になった。

「お前がつまんないことするのが悪い」

『もう少し年上を敬いなさい。まったく、あなたも変わらないわね』

その声色は柔らかく懐かしかった。その言葉を聞くと、俺は自然と笑みがこぼれてきた。

『まあ、積もる話は後にしましょう』

俺は犯罪者達に視線を向き直した。

「そうだな。まずは掃除が先だ」

そう応えると、腰を落とし、左脇に刀を構えた。

 そして、狙いを定めると、

「行くぞ!」

『了解(ヤー)!』

俺は地面を力いっぱい蹴った。

 犯罪者たちは一斉に俺に目掛けて、銃を撃ってきた。

 連中との距離は約五メートル。

 だが、俺は銃弾の嵐を縫ってすぐに距離を詰めた。そして、一人目の相手との間合いを詰めると、低い姿勢から刀を振り上げた。

 その瞬間、俺はあることに気付いた。

 安全装置を付けるのを忘れた。

 だが、振り上げたものは戻すことはできず、そのまま犯罪者を斬ってしまった。

 しかし、血を噴出すことはなかった。

 どういうことだ?

『〝刃なし〟よ。今は切れないから安心しなさい』

すると、ニアが俺の疑問に気付いてか、説明してくれた。

「刃なし?」

『あなた達が言う〝セーフティーモード〟のことよ。ちなみにこの刀、今はペーパーナイフぐらいの切れ味ぐらいしかないから安心しなさい』

 

〝セーフティーモード〟これによって、殺傷能力がほとんどなくなり、怪我させずに相手を無力化することができる。

 

『まったく。私がいなかったら―――って、リョウ! 右!』

訳が判らず、へ? と間抜けな声を漏らすと、言われた方へ向いた。すると、すぐ近くにいる男が、俺目掛けて撃ってきた。俺はすぐに頭を傾ける。銃弾は、俺のすぐ近くを通過した。俺はすぐに反撃の横一文字で、相手をなぎ払った。そして、間髪いれずに、近くに居た二人をぶっ飛ばす。

 残り四人。

 だが、その四人はいきなり、二対二で散開して逃げ出した。俺は迷わずホシの一人、スキンヘッドの一人を追いかけた。

なぜかと言うと、もちろんカンだ。

 男との距離を詰める。だが、護衛の男が、俺を足止めさせるために、発砲してきた。俺は、それをサイドステップでかわす。そして、着地と同時に刀を横一文字に振り、相手の脇腹に叩き込んだ。護衛の男はそのまま吹き飛ぶと、不運にもすぐ近くにいたスキンヘッドの男を巻き込んだ。そのとき、アタッシュケースはスキンヘッドの手から宙に投げ出され、そのまま地面に落下した。その拍子にアタッシュケースのふたが開くと、中から出てきたのは札束だった。

 はずれか、 俺は思うと、すぐにもう一組の方を向く。だが、長髪の男とその護衛は、もう出口の近くまで移動していた。

俺は急いで刀に魔力を込める。その瞬間、刃は銀色に燃え上がった。そして、長髪の男に向けて、飛ぶ炎の斬撃〝炎刀斬〟を放った。

 それは勢い良く、男に向かって飛んでいく。

 だが、護衛の男が長髪の男を庇うように前に立つと、炎刀斬を喰らった。

 それを見て、舌打ちをすると、追いかけるために走り出した。

 距離はかなり離れている。

 すると、長髪の男はいきなり、アタッシュケースからライフルのような形をしたものを取り出した。

 あれが魔導兵器か?

 その銃身はもちろん俺の方へ向いている。

 やばい、このままだと直撃する。

「ニア! セーフティー解除!」

『了解(ヤー)』

 その瞬間、電気が点いたみたいに、刃が白く輝きだした。

「死ね! 小僧おおおおおお!」

魔導兵器から高出力の〝魔弾〟が発射された。

 俺は勢いを殺して止まると、刀を上段に持ち上げた。そして、向かってきた魔弾に向かって、タイミングよく振り下ろした。

 魔弾はものすごい威力で、刀が弾かされそうになる。

 だが、負けるわけにはいかない。

「うおおおおおお!」

 俺は手に力を入れ直す。

 次の瞬間、魔弾が真二つに斬った。

 半分に割れた魔弾は、その勢いのまま、俺の後ろの壁にぶつかり、ものすごい音を立てて爆発した。

「馬鹿な!」

長髪の男は明らかに判るほど、驚いた表情を浮かべた。その間に俺は、男との距離を詰めた。

 そして、下段から刀を振り上げ、魔導兵器を破壊した。そして、左手の掌底をみぞおちに叩き込んだ。

 男は声にならないうなり声を上げると、そのまま胸を押さえて倒れこんだ。

『戦闘終了。お疲れさま。リョウ』

ニアは労いの言葉を掛けてくれた。

「お前も、な。どうだ、久しぶりの戦闘は?」

『まあまあね。まあ、この二年で少しはマシになったじゃない』

少しっか、俺は呟くと、自然と笑みを漏れる。

『……何がおかしいの?』

「いや。変わらないな、と思って、な」

『あなたは変わったわね。少し表情が柔らかくなったわ。昔は捻くれた糞ガキだったのに』

「……悪かったな」

俺は鍔に付いている宝石を睨みつけた。だが、すぐに二人とも吹きだした。

 そう、こいつが俺の相棒だ。

「おかえり。相棒」

『ただいま』

ニアの声色は、うれしそうに聞こえた。

 

 事件から三日後

 

 南支部局長室。

 俺は何時ものように局長室で雑用をこなしている。すると、マリアさんとルナ姉が会議から帰ってきた。

マリアさんは部屋に入ると、すぐに自分の席に座った。

「リョウ。ちょっと来て」

俺は手を止めると、マリアさんの席まで移動した。

「なんだ?」

「まず、昨夜の事件。二人ともお疲れ様」

「……疲れてると思ってるなら、今日は休みにしてくれよ」

言うだけ言ってみる。

「あら? あの程度で疲れたの?」

マリアさんは口元の端を吊り上げて、バカにしたような笑みを浮かべた。その表情に少しイラっとする。

「いや、そんなに疲れてはないけど……」

「じゃあ、今日の仕事も頑張ってねー」

すると、マリアさんはますます楽しそうな笑みになった。

 はめられた、と気付くと、苦虫を噛みつぶしたような気持ちになった。

「まあ、リョウをいじるのもこれくらいにして、本題に戻るわ、ね」

俺は怒りを抑える。

「じゃあルナ。よろしく」

マリアさんはさぞ当たり前かのように、ルナ姉に説明を押し付けた。だが、ルナ姉は表情を崩すことなく説明を始める。その様子を眺めているかぎり、いつもこんなんだなぁ、と少し同情した。

「一昨日のスラムの事件では、リョウ君の活躍もあって、一人も逃がすことなく、全員逮捕することができました。そして、先ほど届いた報告書では、犯人たちは無事〝テラ〟の世界の治安部隊への引渡しが完了されたようです。

 

 ここで出てきた〝テラ〟とは、十二の世界の一つである。俺たちの住む〝グラズヘイム〟とは違い魔法文化がなく、科学技術もこの世界ほどではないが、発達した世界である。あとは、世界がほとんど海だったかな。

 

 だが、俺はテラの単語が出た瞬間、何かが引っかかった。

テラ、スキンヘッド、長髪にヒゲ……っ!

「あ! そいつら確か俺が持っていた―――」

「これでしょ」

すると、マリアさんは、二枚の紙を俺の目の前でヒラヒラ揺らす。

 紙の下の方には、数字が書かれていた。

 間違いなく賞金首の手配書だ。

「惜しかったわねー。一般でやっていたらすぐにお金ができたのに」

「知ってて言っているだろ! あんた!」

俺は目の前でニコニコ笑っている女性を睨みつけた。

「まあ、何事もコツコツ溜めるほうが良いわよ」

「そうですよ。リリも頑張って貯めたお金で、プレゼントを買ってくれたほうが喜びますよ」

もっともらしい意見だ、俺は目の前で微笑んでいる女性の言葉に、これ以上何も言えなくなった。

 ……おい、ちょっと待て

「なんでルナ姉が知ってん、だ?」

すると、マリアさんは悪びれることなく。

「面白いから言っちゃった」

その瞬間、俺は顔が熱くなる。

「ふざけんな!」


 
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