No.115400

Café Clown Jewel Vol.6

ディフさん

Broken one day

やっと転1ですかね。このあたりから最後まで三日で最後まで書いた記憶が・・・・

2009-12-30 23:03:56 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:799   閲覧ユーザー数:797

Broken one day 1

 

冬場の街は寒い。

 買出しに雪の降る外へと、繰り出した綾は、羽織っているコートを右手で掴んでいた。

雪がチラついている。

温暖化とか言われている、地球環境の論争も嘘っぱちに思うくらいの、寒さが身に凍みてくる。厚手の手袋だって欠かせない。

 茶色のコートは、夜に身に着けているそれとは違い、当たり前に普通の人々が着るそれだ。

 血生臭い仕事をしている綾だが、普段は一般人だ。良くある服装で、女性らしい冬着をして、街の中を、人ごみの中を歩く。

 赤いコートを羽織っているならともかく、今は誰も彼女が何人もの命を葬ってきたとは、思いもしない。

 左手にはケーキの入った紙の箱。

 中にはショートケーキ、ショコラ、ブッシュドノエル。カフェで待つ二人のお客さんと、自分が食べるクリスマスケーキだ。

 街のケーキ屋さんで買ったものだ。クリスマスとあって、今日のケーキ屋は混み合っていた。

 別にクリスマスケーキを買ってもいいけど、三人じゃ食べきれないだろうと思って、それぞれの好きなケーキを一つずつ買ってきた。

 ショートは自分、ショコラは洋一、ノエルは世代の好きなケーキ。

 二人とも常連なので、何が好きかぐらいを綾は知っている。接客業に従事している身だ。それくらい分かっていないと、リピーターは獲得できない。

 人ごみの商店街を抜け、空を少し見上げてみた。

 分厚い灰色がどこまでも空を覆っている。そこから降ってくる粉雪が積もる事は無い。地面に解けて、濡らすだけだ。

「いい雪ね・・・。でも寒い・・・」

 体に触れる雪は、ただ体温を奪っては解けていく。肩に名残雪が乗っている。

 寒いのは自分の身か、身の上か?

 そんな思いも出てきてしまうけど、べつにそんな事考える必要は無いと思い直した。

 でも、確かに、今のような生活を続けるのも、どうかと思う。昼はマシだけど、夜の事はマシどころかまともじゃない。夜遅い出勤も嫌になってくるし、気分もいいものでもない。

 けど、今の一件は何が何でも、自分でけりをつけたい。何の為にでも誰の為にでもなく、自分の為だろうけど、制裁をこの手で下し、執行の鎌を振るわないと。

 と、少し顔が暗くなっただろうか。

「ねえ」

 ?

 誰かに呼びかけられた?

「ねえってば」

 みたいだ。

「聞こえてるでしょ?」

「ええ、私に何か用・・・」

 振り向くと目の前、いあ、足元に。

「子ども?」

 子どもだ。目下には何処にでもいそうな、小学生ぐらいの女の子が厚手の黒いフレンチコートに身を包んだものが、こっちを見上げていた。

 綾の所見の感想。その若さが憎い。

「子どもに子どもって言うのも可笑しいものじゃない?まあ、身体は子どもだから仕方ないけど。ああでも、何処かの子ども大人探偵じゃないからね」

「なにこのマセた子。そのネタ自体このご時勢では既に十年前の作風じゃない。正に言った通りね。メンでブラックなドリトル先生にでも危ない薬飲まされた?」

「頭殴られて、カプセルとか飲まされてはないけど、大体同じかしら。しかも比喩が若くないね。’00のSF&コメディー映画ときましたか」

 到底、二十代女性と小学生の話には思えない。

「話は聞いてくれそうだからいいけど」

などと、切り返す女の子。

「早々時間もなさそうだから、手っ取り早く用を済まさせてもらうから」

「用?私の店に何か?今日は繁盛しないから閉店したわよ」

「別に繁盛しない貴方の店には興味ないから。用があるのは貴方のほうよ」

「何かむかつくわね。で、何処から来たのかわからない老けたお頭のお嬢さんは、このお姉さんに何か用ですか?」

「ムカツクのはお互い様。どうでもいいけど、話が進まないから、一々突っかからないでくれる?さっきも言ったけど、時間がないの」

「一々突っかかるってるのはそっちでしょ」

 顔を近づけて、言いかかる。

「はいはい。でも、ホント時間がないわ」

 女の子は三白眼に目を閉じる。

「ほら、さっさとしなさい。折角此処までしてやってんだからさ。少しくらい出てきなさい」

 と、独り言。独り言だ。特に誰彼ほかに出てくる気配は、綾には感じない。目配せしても何処にも、それらしい人物はいない。

「なに?連れて来た子は逃げたのかしら?」

 見当たらないのなら、そう思うのが妥当だろうか。女の子の呼びかけには応えが返っては来ない。

「いいえ、ここに居るわよ」

 などと、女の子は言うものの。

「どこにもいないじゃない。」

 周りに気配はない。

「わたしの周りには、ね。連れて来たのは、わたしの代わりになる予定の子なんだけど・・・」

「え?」

「でも、まだ身体に慣れていないのか。そんなのことは無いんだろうけど、引っ込み思案になっていて、今は献身的に私が体動かしてるわけなの。何のことかさっぱり?そうね、でもそういうわけだし、後でわかるからいいわよ」

 全く持って訳の分からない子どもだ、というのが、一般人思考の今の綾の精一杯の感想だ。

「ああもう。いい加減出てきなさい!強制的に表に出すよ!」

 怒った口調は誰に言うでもない。自分に向かって吐き散らす。

 言を言い終えると、三白眼になっていた目がパッと見開く。

 濁りなく潤んだ瞳の女の子がそこにいた。

「な、なんなの?」

「え!あぁあぁ・・・」

 驚いたのは双方。しかし、女の子の方が大きいリアクションをした。

 概視感が違う。と、綾は思った。

 目を見開く前と後では、女の子の雰囲気がまるで別人になった。

 さっきまでの威勢のいいと言うか、傲慢な少女が、今では控え目というか、人見知りして謙虚に見える。

 二重人格なのだろうか。けど、何かが違う。何が違うのか、わからないけど、違うきがする。

 この子は誰なのだろうか?

 知人でもない。親戚なんて無縁だし、その手の子どもってこともない。

 街中で突然声をかけてきた女の子。自分からは誰とも知れないのに、向こうは明らかにこっちの事を知っている。

「あ、ぁあの・・・・!」

「ん」

 言いたげに見上げる目が、揺れている。

 決意した。一言は――――、壮絶な。

「わっ、私を殺してくれて・・・、あぁりがとうございます!」

「へえっ!」

 無理矢理言い切った御礼は、到底御礼にはなりえない。寧ろ、恨みの一言としか取れないことも多々なニュアンスだ。街中で大声では勘違いされるようなものだ。

「殺した」のに「ありがとう」は、呪言のようで、さながら、並べて噛み合う言葉同士にはならない。

 しかし、この子の言葉に憎悪醜悪さは微塵もない。それは何故なのだろう。

「はい、じゃあこれで、用は終わりよ」

 人格は直ぐに前のものに変わっていた。

「なにそれ・・・どういうこと?」

「どうっていうことって、そういうこと、何だけど、もう時間がないから、説明している暇はないわ」

 振り向く人ごみの中。

「さて、用は済んだし、行かなきゃ」

「何処に行く気」

 踵を返しながら、女の子は助言する。

「また近いうちに。それじゃ」

 そして、人通りのある道の中へ歩み始める。

 追う気はない。が、小さな背中に最後の質問をする。

「名前は?」

 数歩先で止まり、半身だけ振り向いて告げる。

「浅崎殊那(あさざきことな)」

 浅崎殊那、医研の元所長にして創設者、浅崎禎明の孫にして、医研の実験体だった、首だけの少女。綾が殺した。その名前の子。

 そう名乗った女の子は、再び歩き始め、人ごみに消えていった。

「どういうこと・・・」

 同姓同名の他の子なのか、別の子が殊那の名を語っているのだろうか。

そんな筈はない。ありえない。

 綾が殺したことを知っているのは、綾を含め、その場に居た三人だけ。予測の範囲をどう広げても、医研の関連者までにしか行かない。

「これも、あいつら絡みなのかしら・・・」

思わず、臍を噛んでしまう。

情報が乏しすぎて、何もわからない。

「そうそう。早く帰った方がいいわ。でないと、お客さんごと、家がなくなってるかも」

 視界から消える瞬間、少女の放つ言葉は綾へと―――。

「マキナ・・・」

 衝動と焦燥と不穏と不安が溢れ出す、駆り立てる。

 立ち止まっている暇はもうない。と。

 俊足で駆け出し、Café Clown Jewelへの帰路を疾走する。疾く疾く早く速く。

「・・・・・・・・どういうことなのよ!」

 誰に言い当たるわけでもない愚痴を零して、綾は誰にも追いつけない速さと、誰も持ち得ない持久力で、走り続けた。

 

 さるここのカフェには従業員はおろか、店主もいない。今はだが。

 Closedの掛札が入り口に掛かっている。閉店だという事、は揺ぎ無い。もうここに客は入っては来ない。

 ならば、閉店した店に居るのは、従業員ではないのならば、誰なのだろう。

 などと、いらない詮索をしたところで、彼らがお客様ではない。などと、馬鹿げた答えにたどり着くことがあろうか。

 彼らは単に、閉店しても居座っているこの店の客に他ならないのだ。

「何してるんでしょうねマスター」

「買い物って行っても、商店街も其れなりに近いし、一時間も経てば帰ると思うよ」

 居るのは、スーツの男と近くの高校の制服の女子。テーブルには無数の印刷紙。

「まあ、もう結構たったみたいだし、そろそろでしょうか」

「そうだね。何処まで読んだ?読書が早いわけじゃないとは思うけど、六〇枚は行ったかい?」

「まだそんなに行きませんよ。よんじゅうイクツって所までです」

「そんなものか。チェックしながらだと、読むスピードって落ちるからね」

 洋一は軽くメモ書きを紙に走らせる。

 彼は、しがない小説家で、このカフェの常連の一人だ。仕事と編集担当との会談に、ここを使う。最も利用率の高い客人だ。

 その小説の初稿チェックをさせられている女子高生は、折坂世代。しがない、常明学園高等部の生徒だ。コーヒー好きで、このカフェオリジナルブレンドのコーヒー豆と軽食を求めて、高校帰りに良く立ち寄る、利用客では最も若手と思われる常連だ。

 接点は常連と言うだけだが、小規模の飲食店での交流は意外とあるものだ。殊それが常連同士ならば、ということだろう。見知った仲だ。

 基、洋一がこの店では有名な常連だからだ。一番奥の席を陣取り、何時もコーヒーと紙に塗れたテーブルに座っている、しがない小説家としだ。

 マスターの綾を始めとして、編集担当は勿論のこと、彼と話す人は多い。

ストーリーテイラーであることもながら,ではあるが、それだけではなく、彼がS.I.S.O.の伝達役でもあるからだ。つまり、彼と話している人たちの殆どは、何かしらの連絡を受けていたり、情報を貰いに着ているといっていい。

 S.I.S.O.の浮遊島支部は警察署の内部にある。しかし、署内の関係者としてS.I.S.Oの一員である者意外は、基本はフリーで街中に潜伏している。

昼間はカフェを開き、夜に暗躍する綾がいい例だ。

一般人を装った人たちが、警察署へと頻繁に出入りするのは可笑しい。

内部関係者にはパスを見せればどうにでもなるようにはなっているが、外部から見たら、その人は何度も軽犯罪を繰り返す、危険人物か何かでしかない。

 殊更に隠匿が必要だ。

 そのために、このカフェに彼が居る。

 確かに今ならば、電話やらメールでの伝達も出来るが、重要な資料となれば、または法的に持ち出しが禁止されているもの、などなどは、直接見た方がいい。

情報の流出を防げるからだ。

 その点で、インターネットは特に危惧すべきツールであったりする。

 とは言え、洋一と話すのは、血腥い人間だけではないのも確かだ。

 世代のような女子高生も彼と話すのだから。

「でも、由比島さん」

「うん?」

 世代がしがない質問をする。

「何で、こんなに沢山文字を書かないといけないんですか?」

「何でって言われてもね。仕事だからだよ」

「いあ、それはそうですけど。でもさ、一枚が30字×40行とで、しかも百枚近くあるようなものを、誤字脱字がないが只管チェックするなんて、どうかしてますよ。チェックもですけど、こんなの書くのって、一、高校生の小論文では考えられません」

 ようは、彼女はチェックするのが疲れたらしい。

「まあ、一度に此処までは書けないけど、何度も同じ量をこなすと、これ位にはなるからね」

 テーブルに置かれた紙束の厚みを見せる。

 それを見る世代は、「小論文をこれだけ書くのは嫌だ」と内心で愚痴る。

「高校の小論文って100から200字くらいかな」

 今度は、洋一が聞き返す。

「そうですよ。長くても350から400字までとかですね。それがどうしたんです?」

「昔から思うんだけど、論文書くには短すぎないか」

「『小』論文ですからね。要点だけしか書きませんし、でも時間の掛かる問題ではありますよ」

「まあ、他の問題の回答を書いているよりかは、かかるだろうね。でも、『論文』としての意味はないきがしないか?」

 世代は少し考えてみる。

「言われてみれば、そうかもしれませんけど、書いているに変わりないから、いいんじゃないですか?」

「点数換算の為にしかないからね、あんなのは。書いていれば、点数になるようなものだし」

「ええ、配点のある問題ですから」

「まあね。書いて点数もらえる分には、昔から私には楽な問題だったけど。タダ桝目を埋めればいいだしけだし」

 それに対し「ええ~」と否定的な声が上がる。

「桝目埋めるの大変じゃないですか。最後の行とか、先生によったりで、桝の余り具合で点数が引かれたりだし」

「そんなの、句読点とか、接続詞とか、文末の変容でどうにでもなるよ」

「どうにでもなるって・・・」

「うん。最後の二行あたりでね。文章の長さを調節すれば、綺麗に入ってくれる。その前に、どれだけ文章を詰め込めるかが、勝負だとおもうけど、点数漏れを防ぐのに覚えとくといいよ」

 考えて、数瞬後。

「やっぱだめそ・・・。ううぅ、やっぱ就職ってしないか」

行き過ぎた結論に至り、テーブルのうつ伏せになる世代だった。

「流石に、諦めるのが早すぎないか?」

「いいんですよぉ。少しくらい現実から逃避させてください」

 そう言って、世代は唸った。

「それはどうぞ」

 洋一は世代が現実逃避させるのを許す。というか、放っておく事にした。この手の高校生は酔っ払いと一緒で、手がつけられないからだ。

「ああ、そうだ。なんなら小説家でもするか?何か面白いのかければ、編集部に売りくらいはしてあげられるけど」

 就職案が一つあがった。けど・・・

「絶っ対、無理です」

 候補には乗ることのないものだった。

「・・・だろうね」

 洋一は予想通りだと思いつつ、嘆息を洩らした。

「小論文だって、好きじゃないのに、その何倍も書かないといけない小説とか、私には無理難題のオイラーの公式みたいなものです」

 訳がわかんない。

「博士の愛したやつだね。でも、それだと、数学も嫌いみたいだね」

「ええ、嫌ですよ。サインコサインタンジェントまでならともかく、それに自然数と複素数とかきたらお手上げです。積分とかきたらもっと無理ですよぉーだ」

「おいおい、それで大丈夫なのかい」

「難しい数学できなくても、文系なので平気です。でも、入試はやりたくない!」

 軽い受験ノイローゼなのだろう。

「そのうち、そうも言ってられなくなるけどね」

「うう、ホントなんでもいいから、職にありつきたいよ・・・」

 あることにはあるけど、その職業を紹介するのは、やめたほうがいい。スカウトしたところで、給料はよくても、危険極まりない所だからな。

「エスカレーターでここの大学にいくといいさ。あと一年の辛抱ってね」

「そんな・・・」

 また、テーブルにグダーッと倒れ込む。

 受験とはなんとも、世代にはストレスの大きいものらしい。

 一方。カフェの外。

 つまり、街ではここに向かって、走ってくるものがいる。

 数は三つ。

うち一つが、穂畝綾。

 うち一つが、一番早く、ここにつく。

 セダンの全スモーク。

 微かに聞こえるブレーキ音。

「うん?」

 先に気付いたのは世代だった。

 窓から外を見ると、一台の車が路上に止まっていた。

「どうした?」

 洋一が訊く。

「スモーク車なんて、怪しいですね。やのつくかたがたかな」

 黒い高級車にガラスも全部黒尽くめ。世代がそう思ってもおかしくない。

「確かに怪しいね。どこかに取り立てかな?」

「こんなの夜中に、ああいうのって、物騒ですよね」

「まったくだね」

 しかし、洋一はふと思う。

「でも・・・」

「でも?」

「ここら辺で、取立てにあっている家は聞かないけどな・・・・」

「へ?」

 

 ガシャーーーーーーーーーーーン

 

 甲高く、ガラスの割れる音が店内に響く。

「何々?ここにオツトメ!?」

「なわけあるか!」

 一瞬でパニックに陥る世代を他所に、洋一は冷静だった。

 ガラスが床に散らばる。それらの音に混じって、ゴトッと鈍い音。

 床に転がる金属筒。

 雷管(プライマー)の組み込まれた小型爆弾(C4)。

「伏せろ!」

「ぎゃっぁ!」

 周りにあるテーブルを蹴り倒し、世代を叩き付けるように床に伏せさせる。

 座っていたテーブルが横倒しになり、乗っていた大量の紙が宙に投げ出される。

 舞う紙たちが、床に付くことはなく。

 閃光と爆音。

 膨大な熱量と風圧が、破裂した金属筒のあった場所から広がる。

 爆心地のテーブルや椅子は壊れ、薙ぎ飛ばされ、更に他のテーブルや、カウンターの物を壊していく。

 風圧で、窓が全部割れて吹き飛び路上にばら撒かれる。しかし、セダンまで破片は飛んでこない。

 煙硝が店内に立ち込め、着火点にはまだ火が燻っている。

「いたたた・・・、なんですこれ・・・」

 爆発の最中、洋一に抑えられいた世代が立ち上がろうとする。

 その頭がもう一度、押さえ込まれる。

「まて、まだ来るかもしれない」

「マスターって、どんだけ、借りてたのよ」

「しらないな。だけど、このまま此処にいるのも危ない」

 今は、煙混んでいるが、この煙が薄くなれば、第二の襲撃が始まるかもしれない。

「おそらく、穂畝が炙り出てくるのを待っているのかもな・・・。出てきたところで、トリガーハッピー・・・かな」

「なんでそうなるんですか・・・」

 何でと言われても、教えるわけにはいかない。

「さぞかし、好かれているんだろうね」

 半立ちになり、カウンター側を指す。

「入り口から出るとまずい。家に上がって裏に回ろう」

 世代は頷き、這うようにしてカウンター、其の近くのドアに向かった。

 続く洋一も、頭と腰を低くして進む。

 右耳を抑えながらであるのは、世代を庇って床に倒れたために、爆音から右耳だけ守れなかったからだ。

(鼓膜は・・・たぶんダメだ)

 左でなんとか、音が取れるものの、右はキンキン響いて、体のバランスも巧く取れていない。

 右足がグラつくので左足を軸に、腕で床を押して滑るように進む。

「だいじょぶですか!」

 後ろを振り向いて、世代が問う。

「いいから、行って!」

 こんな時に、心配されても困る。

 と、銃声が五月雨に轟く。

「くそ!やり始めたか!」

 左足と左手の瞬発力でカウンターに飛び込む。

「なんでですか!」

「どうやら、こっちの事に気付いたらしい。出て来なくても撃ち始めるさ!」

 割れた窓ガラスの残りを吹き飛ばし、壊れたテーブルと椅子の残骸に突き刺さっては、その木片を飛ばしていく。

 ハンドガンどころか、ガトリングを使った襲撃だ。車一台分の人数にしては、発射弾数が馬鹿に多い。

「どうするんですか!」

 世代が指示を仰ぐ。

「ここでジッとしておこう!無闇に動くよりも安全だ」

 幸い、カウンターの側面には厚みがある。また、こういった時の為にも合成プラスチック板が組み込まれている。伏せておけば、銃弾くらい幾らでも、防ぎきれる。

 かと言って、このままでいるのも危険がある。向こうが店内に入ってくる可能性だってあるのだから。

「もう!どこの国のクリスマスよ!」

 耳を塞いで世代が喚く。

 珈琲豆の入ったビンが割れて、中身が床とカウンターに散らばる。堕ちてきたものに悲鳴は上げるものの、世代はそれなりに落ち着いてはいた。着弾してカウンターがガタガタ振動するが、銃弾が貫通してくる気配は無い。

 時間にして十秒もあっただろうか、長く感じられた銃撃が止んだ。

 直ぐに洋一が動く。

「早く家の中に入って!」

 なるべく小声でハッキリと指示する。

 指示に従い、世代はボロボロになったドアを押し開ける。

 二人は家の中に土足であがる。

・・・と、音が近づいてくる。

シューッと、何かが飛んでくる音が・・・。

振り向く洋一に眼に飛び込んできたものは・・・

対戦車ロケット弾RPG。

「ふざけんなーーーーー!」

 洋一の罵声の轟きは、着爆した火気兵器の轟きにかき消えた。

 

 


 
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