No.115345

タイムトラベルママ/フォーリンスター・チルドレン 06

イツミンさん

タイムトラベルSF小説

ノーテンキなママの第二話


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2009-12-30 16:31:53 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:779   閲覧ユーザー数:767

 ガサガサと、山の中をアオイは歩く。背の低い草を蹴飛ばし、無遠慮な歩き方だ。

 四十二年前の、季節は現在と変わらない初夏。

 蒸した山林の中で、アオイはぴったりとした長袖シャツとジーンズ、それにブーツといういでたちだ。とても暑いはずなのだが、彼女は「虫に刺されたり草木にかぶれるから」と、夏にしてはかなりの装備である。

 見上げると木々の間から月光に照らされた灰色の雲が去っていく。

「どの辺りに居るんですか?」

『もうちょっと先だな』

 アオイが聞くと、インカムの先で浦沢が答える。

「そこに二人居るんですね?」

『ああ、女の子が二人居る。男の子の方は、ちょっと分からないそうだ』

「すごいですね、四十年も前になると、星が綺麗だなーって思いますよ」

『今より空気も幾分澄んでいるだろうからな。今のプラネタリウムなんかは、その時代の星を映していたりするそうだぞ』

「へー」

 星を見上げて、感嘆の声を上げる。

「ところで局長」

『なんだ?』

「どうして端末持たせてくれないんですか!」

 位置情報端末を見せびらかされたにもかかわらず、アオイはインカムからの音声情報で要救助者を探している。

『君は壊す』

「時々です!」

『五十%の確率を時々とは言わない。それは大半と言うんだ』

 精密機器ブレイカーとこっそり言われていた時期があったりするアオイだ。

「しかしですね、こんなところでかくれんぼするって、どうなんですかね?」

『今の時代には麓にマンションが建っていてな、そこの子達なんだ。それに今では街灯もあるし、遊歩道もある。子供たちにはいい遊び場なのだろう』

「こんな夜にですか?」

『……時間震があったのは昼間だ』

 子供たちが昼間に山中で遊び、時間震に飲み込まれたことはしっかり説明してあった。にもかかわらず、アオイはさっぱり覚えていなかった!

「あ、助けに来てくれたおばちゃん?」

「おばちゃんお菓子食べる?」

 アオイの視線の先で、ひょいひょいっと小さな人影が立ち上がる。ピンクのワンピースを着ている子がちぃちゃんで、ポニーテイルの子がみっちゃんだ。

「……局長、聞いてた話と違いますけど」

 美人なお姉さんを待ってると聞いていたのに、フタを開けてみると二人の女の子はおばちゃんと発し、なおかつ「たけのこの里」なんぞを差し出してきている。

『信じろ。私はちゃんと伝えた』

 子供はどう諭そうとも、伝えたことと違うことを言ってしまうものだ。

 アオイは引きつり笑いを浮かべ、

「おばちゃんじゃないでしょー?お姉ちゃんでしょー?今度言って御覧なさい、ぶん殴っちゃいますからねー」

 丁寧な言葉で返答しようと試みたがいかんせん心境がすっかり出てしまっていた。


 
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