No.115112

真・恋姫無双 魏エンド後 ~春華秋刀~ 5

mightyさん

年内ギリギリに出来て、よかった~~。
今年最後の真・恋姫無双のSS魏√更新です。
良かったら見てください。

2009-12-29 11:23:37 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:11525   閲覧ユーザー数:8628

一刀は戦場に立っていた。

押し寄せる五胡の兵を切っていた。初めて人を殺しているはずなのに、彼は肉を断つ感触を“知っていた”

 

(なんだ?俺はこの感覚を知っている?しかし、俺が“今まで”覚えている限りでは人を殺したことはない)

 

前から5人、五胡の兵が剣を振り上げながら襲ってきた。一刀は腕を交差して腰に下げている左右の刀の柄を握り、敵に向かって走った

「抜刀術・桜波騎(さくらなみき)」

一刀は五胡の兵たちを通り過ぎた。

風が少し吹くと、五胡の兵士たちはその場に倒れた。一刀の右手には刀身が“淡い桜色”をした刀、左手には刀身が“淡い瑠璃色”の刀をそれぞれ振り抜いていた。

その二振りの刀は美しく輝いているように見えた。今は血に染まり、元々の色彩と血の赤色が組み合わさってより一層美しく見えた。それは見る者すべてを魅了するかのような美しさだった。

 

(人を切る前はあんなに手足が震えていたのに、いざ人を切ったら震えが止まったな。どうやら俺は昔に人を殺していたみたいだな。それもたくさんの数を……、でもなぜか自分の名前、刀の名と戦い方は覚えている。

“淡い桜色”をした刀は青帝(せいてい)、“淡い瑠璃色”の刀が白帝(はくてい)。

昔の記憶はないのになぜ俺はこれらを覚えているんだ?)

 

一刀がそんなことを考えながら敵を倒してると、城壁の上の方から爆発音が聞こえた。

何だと思い一刀は音が聞こえた方を向くと、そこには苦悶の表情をしている銀髪の女性と不気味な笑みを浮かべている男がいた。男は自分の武器を舐めながら銀髪の女性に近づいて行った。銀髪の女性はかろうじて構えていたが、あきらかに無理に構えていた。

「いけない!!あれでは、あの男に殺されてしまう!! だけど……」

一刀は助けに行こうと思ったのだが、あの男から発せられてる禍々しい気を感じて躊躇していた。

「あの男は強い。こんな自分なんか行っても殺されるだけだ。でも、でも」

‘あの女性を助けたい’そう思ってはいるのだが、一刀は恐怖していた。苦悩して女性の方を見てみると、その女性は構えを解き、無防備な状態になった。その女性は観念したのか目をつぶり、天を仰いだ。

「ぐわぁ!!」

そんな姿を見ていたら、突然頭に痛みが走った。一刀は青帝を手から離し、頭を抑えて片膝をついた。と同時に頭の中に映像が映し出された。

 

 

 

『二人とも、とても喜んでました。これで、隊長のために命を賭し、お仕えすることができると。

自分は、それが羨ましくて仕方がありません』

 

 

その映像は白い霧のようなものが周りを包んでいて見ることができなかったが、聞くことはできた。

 

 

『自分も、その……恥を忍んで申し上げれば……隊長の事をお慕いしております。あなたと共に戦いたい。命を賭して仕えたい……そう思ってます』

 

 

しかし、徐々に霧が晴れ、だんだんと見えるようになってきた。

 

 

『駄目です!かけがえのない者と思って下さっているのであれば、尚更……隊長に抱いて欲しいです』

 

 

完全に白い霧は消えて、目の前には長袖のセーターを着てその胸元にはリボンが結んでおり、下は緑色のミニスカートを履いている女性がいた。その女性は顔を赤くして、うつむいていた。そして意を決したのか、顔をあげて口を開いた。

 

 

『あなたのモノに、してください……』

 

 

少し時間がたつと、自分の場所から声がした。

 

 

『……解かった。――、俺のモノになって』

 

 

そこで周りが光りだし、その光が自分を包みこんだ。

一刀は頭痛が治まると、すぐに立ち上がった。地面に刺さっていた青帝を抜き、一刀は城壁に向かった。城壁につくと、今まさに男の狂気が女性に襲いかかろうとしていた。しかし一刀の心にもう恐怖などなかった。迷わずにその女性の場所に駆けつけた。

 

 

ガキィィィィィィン!!

 

 

男の漆黒の鋼爪を青帝で受け止めた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

そう言って一刀は女性の方を見た。

 

 

 

 

~許昌・城壁~

 

「ハアァァァァァ!!」

一刀は鍔迫り合いから、強引に刀で薙ぎ払った。羅木はそれを軽々と避け、後ろに下がった。

そして一刀は傍で座っている凪に声をかけた。

「大丈夫ですか?ここは私が何とか食い止めますから、貴女はここから逃げてください」

凪は少し違和感を感じたが、そんなことはどうでもよかった。今、目の前に愛する男性がいるのだから。凪は涙が止まらなかった。

「か、一刀さ―――」

凪が名前を呼ぼうとした瞬間

「まぁ、会って間もない、いや“初めて”会う人間を信用出来ないかもしれませんが、私を信じてください」

一刀は笑顔で凪に話した。

凪は困惑していた。

 

(“初めて”!?な、何を言っているんだ?この方は一刀様ではないのか?まさか、別人なのか?だが、あの笑顔を見間違うはずはない。あ、あれは、あの笑顔は、一刀様ご本人だった)

 

「ひーひゃひゃはひゃははっははーーー!!見つけた、やっと見つけたぞ!!カァ~~~ズトォォ~~~~~~!!」

羅木の声が戦場に響いた。

「俺が!俺がどれほどこの時を待ち望んだことか!!ひゃひはっはっははーー!!」

「貴様は何者だ!?なぜ俺の名前を知っている!?」

一刀を羅木に問いかけると

「あぁ!?何言ってやがんだ?俺の事を忘れたのかぁ?……あぁ、そういえばお前は記憶がないんだっけか!?ひゃははははっ!仕方ないなぁ、俺の名は羅木。だが、今はそんなことどうでもいい!!さぁ!俺と早く殺しあおうぜ!!」

羅木は漆黒の鋼爪を構え、一刀に切りかかった。

一刀は青帝を右に構えて鋼爪を受け止め、左から来る鋼爪を青帝の刃を返し振り払った。その衝撃で羅木が少しよろめいた。その隙を見て、一刀が腰を低くして刀を水平に構え、刃の切っ先を相手に向け

「喰らえ、矢魔桜(やまざくら)」

鋭く早い突きを羅木に放った。だが羅木は鋼爪を交差して爪と爪の間に刀を入れて、切っ先が羅木の胸まで5cmの所で止まった。

「何!?」

「ひゃはっははは、あぶねぇ、あぶねぇ。でも、いいぞ。もっと、もっとだ!もっと俺を楽しませてくれ!!」

羅木は刀をはじいて、薙ぎ払い、突きを繰り出した。

「!!!」

一刀も刀をその動きに合わせ、刀で受け止めた。それから一進一退の攻防は何十合と続いていた。

 

(あ、あれが一刀様か?あの動き、4年前の一刀様では考えられないほど強くなってる。しかし、さっきの羅木と名乗った者が “記憶をなくしてる”と言っていた。ならば、さっきの事に納得できるが……)

 

凪は片腹を抑えながら立ち上がり、一刀と羅木の戦いを見ていた。

 

「ひゃはははっ、ひゃひゃはははっはははーーー!」

切りあっているのにかかわらず羅木は笑っていた。

「くっ!!な、何がおかしい!?」

一刀は刀を両手で握り締め力を込めて叩き切った。

 

ガキィィィィィィィン!!

 

鈍い金属音が辺り一面に鳴り響いた。

羅木はしっかりと受け止めたが、地面に足をついたまま後ろに飛ばされた。衝撃が強かったのか羅木の両手は震えていた。しかし、今の一撃を受けてもその表情はいまだに笑っていた

「や、や、やっぱり最高だ、最高だよ!!一刀っっ!!お前と“また”殺し合えるなんて。早く、早くお前の綺麗な、綺麗で甘美な血を、“もう一度”、ひひゃはははは、もう一度俺に舐めさせてくれーーーー!!」

羅木の不気味な発言にその場にいた一刀と凪はゾクッとし、恐怖を感じ、一刀は茫然と立ち竦んでいた。

その隙を羅木は見逃さず、一刀に突っ込みながら鋼爪を構え右手を引き、そして一気に右手を突き出した。すると、一刀めがけて鋼爪が飛んできた。一刀はハッと我に返り、飛んできた鋼爪を上に向かって払いのけた。鋼爪は斜め上空に飛んでいき、好機だと思い一刀は羅木に刀を振り上げ、切ろうとした瞬間に真上から殺気を感じ一刀は左に前転した。そしてすぐに一刀がいたその場所に鋼爪が降ってきた。その鋼爪は黒い糸のようなもので繋がっていた

「な、バカな!?先ほど弾き飛ばしたはずの物が、なぜ上から落ちてきた!?」

一刀は目を疑っていた

「この闇糸(やみいと)に俺の気を送り込めば、俺の意思で操作できるんだよ!!にしても、良く避けたじゃないか一刀!!そうこなくちゃ、おもしろくない。さぁ、まだ殺し合いは始まったばかりだ!!まだまだ、楽しもうぜ!!」

鋼爪はカチャっと音を立てて羅木の手元に戻り、漆黒の鋼爪を構え

「悪いが俺はこんな所で死ぬわけにはいかない!!」

一刀も体制を整えて、青帝を正眼に構えた。

 

 

 

「「ハアアァァァアアァァ!!」」

二人同時に地面を蹴った。

 

 

―――――――――――

 

 

―――――――――――

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

~許昌・城門前~

 

二人が城壁で戦っているころ城門の前では稟が前線の少し後方で指揮を執っていた。

「押されているわね。皆さんを槍兵隊の所まで後退するように発煙筒で合図をしてください」

先ほど遂に城門も破られてしまい、五胡の兵たちに侵入を許してしまった。敵を食い止めてはいたが圧倒的な数の五胡の兵達の前に押されていた。

「皆後退したわね。今です、弓矢隊に合図を!!」

その瞬間、屋根上からたくさんの魏の兵士が現れ、矢を射った。

城門の入口付近の五胡の兵全てに矢が当たった。しかし、すぐにまた五胡の兵たちがこの城門に向かって来ていた。

 

 

(まずいわ。このままでは数に押されてしまう。しかも、こちらの兵の数は足りないし、体力もあまりないわ。せめて今この場に凪がいてくれたら、凪の気弾で挫かせる事ができたかもしれない。凪が今いないのなら、別の策を。私は軍師なんだから、策を見出さなければ。どうする?どうする?

くっ、ダメだわ!今ここを乗り切る策が浮かばない。これではこの許昌が落とされてしまう。華琳様、風、ごめんなさい。私一人では許昌を守リきることが出来なかった。

……、一刀殿ごめんなさい。貴方は私の事を三国で一、二位を争う優秀な軍師と言っていたけど、私はそんな立派なものではなかったわ。愛する人が好きな街を守れなくて何が優秀なのですか。私は、私は貴方が好きなこの街を守れなかった。)

稟は目を閉じた。そしてその瞳から一滴の涙が零れた。

 

 

(一刀殿、もうすぐそちらに謝りに参りますゆえ、待ってて下さい)

 

 

そして稟は涙を拭い、目を開けた

「魏の兵士達よ!もう我らにこの許昌を守り通す力は残されていません」

稟が大きな声で、今皆が頭によぎっている言葉を口にした。その言葉を聞いて、多くの者は落胆した。しかし

「ですが、私は最後まで戦います!」

稟は心強く発言した。その言葉に皆が驚いた。もう自分たちは死ぬ運命にあるというのに、なぜ彼女は前を向いているのだろうと。

「だって、この街は一刀殿が命懸けで守った町ですよ。この街で暮らす私たちが簡単にあきらめてどうするのですか!?それにあの方はきっと最後まであきらめずに立ち向かったでしょう」

その一言に周りの皆が顔をあげた。

「そうだ、天の御使い殿が守ったこの街を簡単に奴らに渡して、どうする!!」

もう一方の所で

「そうだな、隊長は簡単には諦めない人だ、ならば我々も最後まで戦おう!!」

と話していた。

「軽症者の方たちは女性や子供、お年寄り、重傷者を連れて裏門から蜀の国に避難してください。これより我らは敵に向け突撃をし、時間を稼ぎます。それから皆の者すまない。軍師としてこんな策でも何でもない命令をしたくないのですが……」

稟は少し表情を暗くしたが

「気にしないでくださいよ、我らに力がなかったから負けてしまったことですよ」

その言葉に周りの兵や民たちは笑顔で頷いていた。

 

・・・・・・・

 

・・・・・・・

 

「では、これより我らは敵、五胡の兵に向かって最後の攻撃に転じます。皆の者、覚悟を決めましたか?」

稟が問いかけると

「「「「「「「「オオォォォーーーーーー!!!!」」」」」」」」」

魏の兵士達の雄叫びを上げ、武器を掲げた。

「それでは、行きます!!全軍、突げ・・・」

 

 

 

 

ゴオォーーーーン、ゴオォーーーーーン、ゴオォーーーーーーン!!!

 

 

 

稟が言い切る前に銅鑼の音が遠くの場外の方から聞こえてきた。

「銅鑼の音?まさか敵の援軍が来たのか?」

そこに一人の兵士が近づいてきて

「か、郭嘉様、南の方角より、こ、こちらに向かってきている軍勢を確認しました。その数はおよそ、さ、3万!」

兵士は急いで来たのか、肩で息をしながら話していた。

「南からだと!?ま、まさか。その軍勢の旗を確認できたか!?」

稟が兵士に詰め寄って聞くと

「は、はい。その旗は深紅の―――――――――」

 

 

 

 

~許昌・城壁~

 

「「ハアアァァァアアァァ!!」」

 

 

 

ゴオォーーーーン、ゴオォーーーーーン、ゴオォーーーーーーン!!!

 

 

 

 

二人が激突する直前、銅鑼の音が鳴り響いた。

「な、なんだ!?敵の増援か?」

凪が銅鑼が聞こえた方角を見てみると、軍勢がこちらに向かってきていた。

 

「あぁ、なんだよ!!これからが楽しみだったのによ!!誰だ、俺の楽しみを奪った奴は!?」

「い、今の音はなんだ?」

一刀と羅木は武器をひっこめ、凪と同じ方角を見た。

「五胡側が知らない?じゃあ、五胡の援軍ではないのか?では、どこの軍だ?……、あれは深紅の旗!?という事は蜀の援軍か来たのか!!」

凪は嬉しそうに叫んでいた。その言葉を聞いた一刀と羅木は

「味方の援軍か!?」

「ちっ!!蜀からの援軍だと~~!!“那水”(なみ)の奴、しくじったのか!?まさか、一刀がここにいるからワザとじゃないだろうな?くそっ!あの女、一刀が絡むとすぐこれだ。あの女、まさか、まだ……」

羅木が小声で喋っていると

「セイッ!!」

「おっと、そんなもん喰らうかよ!」

一刀が斬撃をはなつと羅木は後ろに飛んで

「こいつはお返しだ!!」

羅木は右の鋼爪を一刀に射出した

「その手はもう喰わない!!」

一刀は上体を左にずらして避けた

「甘いんだよ!!」

「何!?ぐわぁっ!」

一刀は避けたつもりでいたが、羅木の左の鋼爪も射出されていた。

「一刀様!!」

凪は一刀が攻撃を喰らったと思い声を出した。しかし、ぎりぎりの所で一刀は鋼爪を受け止めていた。

「ひひゃはははははっーー!やっぱり、俺を満足させてくれるのはお前だけだ、かぁ~~ずとぉぉ~~~!!」

羅木が笑っていると

 

「「「「「「「ウォォォォォーーー!!」」」」」」」

南から深紅の旗を掲げた蜀の兵士達が五胡の行軍の脇腹を襲いかかった。

 

 

~許昌・城門前~

「皆の者、蜀より援軍が来た!!それにより、敵は混乱している。その隙を突いて、目の前の敵を倒し援軍と合流する。この戦い、勝てるぞ!!」

「「「「「「「オオォォォーーーーーー!!!!」」」」」」」」」

稟が高らかに声を上げると、魏の兵士達は敵前線に突撃した。五胡の兵達は予想外の援軍に対処できていなかった。そしてそこに士気が最高にまで達している魏の突撃を防ぐことは不可能だった。これにより五胡の前線は壊滅状態に陥った。

 

 

~許昌・城壁~

 

「ちっ、もう来やがったか。あいつら、もう少しは役に立つと思ったが……」

羅木は自国の兵たちが押されてるのを見ても、焦ってはいなかった。そこに、一刀が羅木に刀を向け

「もう、諦めろ。お前たちの負けだ」

羅木が笑いながら

「諦めろ、っだと?ひひゃははっははははっ!何言ってやがる!?俺が死ななきゃ、この戦いは負けじゃないんだよ!いくら雑魚が死のうと、俺が生きてる限り負けたことにはなんね―だよ。そういうわけで、じゃあな!!」

羅木はそういうと、城壁から飛び降りた。

「な、なに!?」

「ば、ばかな!この高さから落ちたら死ぬぞ!!」

一刀と凪は体を乗り出して、城壁の下を見た。そこには羅木が両手の鋼爪を城壁に射出していて、ロープのようにして降りていた。羅木は地面に足を着けると、近くにいた魏の兵士を殺しながら逃げて行った。

「くそっ!このままあいつを逃したら、人がどんどん殺されていく。何か、すぐに降りられる方法は?」

一刀が周りをきょろきょろしていると

「貴方は、貴方は隊長、一刀様なのですか?」

一刀の目の前に凪が立っていた

「ごめん」

一刀は冷静に告げ、顔を背けた

「そ、そんな……」

凪はその言葉を聞いて、凪の心は悲しみに支配された。

「でも、俺の名前は 北郷 一刀 って言うんだ。君の隊長ではないけど、一刀は合っているよ。そして、俺は昔の記憶がなくてね……」

一刀は振り返り、凪の方を見た

「でも、もしかしたら、昔に君みたいな“かわいい”女性の隊長をしていたかもね」

それは笑顔で告げられた

「ーーーーっっっ!!」

凪はまた涙を零した。

 

(あぁ、この人は間違いなく一刀様だ。あの優しい笑顔、そして“傷だらけ”の私をかわいいと言ってくれた。今私の目の前にいる方は私が尊敬し、愛するお方だ)

 

先ほどまで凪の心は悲しみだったが、今は嬉しさでいっぱいだった。

「ごめんね。今からあいつを追いかけなきゃいけないから、俺は行くよ」

そう言って一刀は城壁の外側に向かって走って、城壁から飛び降りた。

「か、一刀様!?」

凪は心配そうな声を上げて、一刀が飛び降りた場所から身を乗り出し下を見た。そこには、一刀が架かっていた梯子の上に乗っており、器用に梯子を立ちながら滑り落ちていた。

順調に降りていたその時、梯子からバキッと、音がした。とうとう梯子が限界を迎えて壊れようとしていた。一刀は梯子から踏み切り前宙して地面に足をつけた。そして、何事もなくそのまま戦場を駆けて行った。

「一刀様、なんて無茶なことを……。いけない、私も行かなくては。とりあえず一度、稟様と合流しよう」

凪はお腹の痛みを堪えて、走り出した。

 

この時一刀は

(ふぅ~~、し、死ぬかと思った。人間頑張れば、な、何とかなるもんだな~~)

平静を装っていたが、心の中では汗だくの状態だった。

 

 

 

五胡の本陣に羅木の姿が見えた。

「ひひゃっはははは!邪魔なんだよ、雑魚共が!!」

羅木は近くにいた蜀の兵士達を殺していた。その鋼爪からは血が滴り落ちていた

「まさか、本陣に敵を許すとはな。しかたねぇ、おい、退却するぞ!!」

羅木は近くいた兵士に指示を出した。

 

兵士が伝令を出しに行こうとした瞬間、その兵士は切られていた

そこには身の丈以上の戟を持ち、白と黒の服を着ていて、所々に見える小麦色の肌と刺青、そして紅い髪と瞳をした少女が立っていた。

 

その少女の名は呂布。 

天下無双の武を持つ、飛将軍である。

 

「何だ、お前は!?俺と殺ろうってか!?おもしれぇ、見たところお前強そうだしな」

羅木は鋼爪を呂布に向け、構えた。

「!!・・・・・・お前、強い」

呂布は初めて対峙する羅木を直感で只者ではないと見抜いた。

「ひひゃはっはははは!いくぜ、女!!」

羅木は左右の鋼爪を内側から外側に薙ぎ払った。

「・・・来る」

呂布は方天画戟を斜めに構え、柄の部分で受け止めて、戟を振り落とした。羅木は左に横移動をして避け、左の鋼爪で切り下げ、すぐに右の鋼爪で刺してきた。呂布は体を右にねじって避け

 

キィィィン!!

 

刃の部分で右の鋼爪を止めた。

「ひひゃひゃはははは!!!甘いな!」

羅木は右の鋼爪を受け止められたまま射出した。

「!!!」

呂布はそのままの態勢で後ろに後退させられた。すぐに呂布は力を込め、強引に鋼爪をはじき返した。

しかし、目の前には羅木が左の鋼爪を呂布めがけて、振り抜いていた。

「・・・くっ」

呂布は後ろに大きく飛んで斬撃を避けた。羅木と呂布の間合いが大きく開いた時

「羅木様、各自撤退を始めています。羅木様も撤退を」

そこに馬に乗った五胡の副官が羅木の傍に来て、報告していた

「そうか。ならお前らはさっさと行け。俺もすぐ行くからよ」

「了解です!」

副官は馬を走らせ、退却していった

「と言う訳だ、女。もう、おまとえ遊んでる時間が無くなっちまったわけだから。お前はもう殺さしてもらう」

羅木は右の鋼爪を呂布の左肩を狙って射出した。

「・・・・・・あたらない」

呂布は右に避けた。が、羅木はそれを狙っていた。

「ひひゃはははっはあはは!!引っかかったな!!!」

呂布が避けたすぐ近くに、最初に呂布が切った五胡の兵の死体があった。すると、いきなりその五胡の兵の体から漆黒の鋼爪が呂布を狙って飛び出してきた

「!?」

呂布は驚いていた。なぜ死体から鋼爪が飛び出てきたのかと……

「ひひゃははははひっははっは!!悪いな、俺の武器は気を使えば地面の中でも動けるんだよ!!」

呂布の胸に鋼爪が刺さろうとした

 

 

 

ザシュッ!!

 

 

ポタッ  ポタッ  ポタッ

 

 

 

 

地面に血が垂れていた。

 

「ひひゃっははは!やっぱり、やっぱり最高だよ!!」

羅木が大声で叫んだ。

「かぁぁ~~~ずとぉぉぉ~~~~!!!」

 

 

ポタッ  ポタッ  ポタッ

 

 

 

そこには少女をかばい左腕で呂布の腰に手をまわして

 

 

「悪いが、俺が手が届く範囲で“女性”を絶対に死なせたりしない!!」

 

 

右肩から血を流している一刀がいた。

「まだやると、言うのなら」

一刀は静かに少女の腰から左手を離し、自分の右腰にある白帝を手に取り、淡い瑠璃色の刃が羅木に向けられた

「今度は俺がお前の相手をしてやるよ…」

そう言うと、その場に一刀が放つ殺気が漂っていた。

「ひひゃひはああははははははは!!それだよ!俺はそれを求めていたんだよ!!だが、まだ“昔のお前”の方がもっとすごかった!!まだ“あの時”と比べて、全然ダメだ!!まぁ、いい。失ったと思った楽しみが戻ってきたんだ。ゆっくりと、味あわせてもらうとしよう」

羅木の右後ろから馬が近づいて来て、羅木の後ろで止まった。羅木は馬に乗ると、一刀の方を見て

「一刀、また“すぐに“会おう。ひっーーーひゃひゃははっはははは!!!」

羅木は森の中に消えて行った。しかし、笑い声だけは大きく響いていた。

 

 

 

羅木がいなくなるのを確認して、最初に少女が口を開いた

「・・・・・・・ありがとう。お前、誰?」

少女は冷静に一刀に問いかけた。

「別に気にしないでいいよ。こんなかわいい女性を助けるのは当たり前だからね」

そう言って一刀は、笑顔で少女の頭をなでた。

「・・・・・・・・・・ぅん」

そこには顔を赤くして、気持ち良さそうにしている少女の姿があった。

「それと、俺の名前は北郷 一刀っていうんだ。君の名前は?」

一刀がなでるのをやめて、下を向いている少女の顔を見て

「な!?君、顔が赤いよ?だ、大丈夫!?」

そう言って一刀は自分のおでこと少女のおでこをくっつけようとして、自分と少女の前髪を上げた。それに驚いたのか少女は顔を上げた。

「「――――――!!」」

その瞬間、一刀と少女の唇が重なった。二人は驚いて、慌てて離れた

「ご、ご、ごめんね!!ワザとしたわけじゃないんだ。いや、むしろ事故みたいなもんなんだ!!」

一刀が混乱して言い訳している前で、少女は右手の人差指と中指で唇を触れていた。その顔は先ほどよりも赤くなっていた。

「本当にごめんなさい!!君には悪いことを」

「・・・・・・恋」

「えっ??」

一刀が話ている最中、少女は口を開いた

「・・・・・・名前は恋。君、じゃない」

「えっ、でも、それは君の真名じゃないの?いいのかい?俺なんかに真名を預けても?さっきは君に嫌がることもしたし」

少女は首を横にフルフルッと動かして

「・・・・嫌じゃなかった。だから」

「わかったよ、恋。ありがとう。じゃあ、俺の事は一刀って呼んでくれ。俺には真名がないから、こっちが真名に当たると思うんだ」

恋は一刀の顔を見て

「・・・・一刀・・・」

恋は顔はまだ、ほんの少し赤くなりながら、一刀の名前を言った。

 

 

 

 

 

 

【許昌攻防戦】は五胡が撤退し、魏・蜀軍が勝利した。

 

一刀の心中は不安でいっぱいだった。

 

自分は何者なのか?

 

自分は昔何をやっていたのか?

 

五胡の指揮官・羅木はなぜ自分を狙ってくるのか?

 

そして、時々頭の中に出てくる女性達は自分にとってどういう存在なのか?

 

この戦いにより一刀の運命は動き出した。

 

しかし、その先に“悲しみ”が待っているのを誰もが知る由もなかった………

 

 

 

 

 

あとがき

 

何とか、年内に書くことができました。

 

もう少し早く、更新したかったのですが戦闘シーンが難しく、躓いてました。

 

だから、解かり難いところがあるかも知りませんがご了承ください。

 

それと後、今回一刀君の二つの刀の名前と技が出させてもらいました。

 

まず、刀の名前の由来ですが淡い桜色の刀“青帝”そして淡い瑠璃色の刀“白帝”。

 

青帝は五行説で春をつかさどる神様の名前です。白帝は秋をつかさどる神様です。

 

感の良い皆さまなら、もうお解りになったと思います。

 

はい、春蘭と秋蘭です。目が隠れてる側に鞘をもっています。

 

あと、技名なんですが「るろう○剣心」世代の作者なのでどうしても技名を叫びたかったのです!!

 

解かる人なら、解かってくれるはず(笑)

 

技の由来は春と秋の共通点を見つけて、『桜』関係にしてみました。“桜浪騎→桜並木、矢魔桜→山桜”

 

なぜ共通点が『桜』かというと、春は桜が咲きます。

 

秋はコスモスが咲きます。コスモスは漢字で書くと、秋桜なのです。

 

それと、恋がこの話から出てきました。なんか、恋(れん)じゃないみたいとか思う人はいるとは思いますが。

 

それも、ご了承ください。本当にすみません。これが作者なりの恋なのです。

 

一応次回の更新は1月中旬ぐらいだと思います。頑張りますので、来年もよろしくお願いします。

 

今年はありがとうございました。皆さま、良いお年を!!

 

 

 


 
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