No.114196

『想いの果てに掴むもの ~序章/~』魏アフター

うたまるさん

『真・恋姫無双』魏END後の二次創作のショート小説です。

拙い文ですが、よろしくお願いします。

2009-12-25 00:55:38 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:76754   閲覧ユーザー数:49701

 

 

 

フォンッ

ブッ

ヴォンッ!

 

白銀が不規則に風を切る音。

 

トン

・・・

ダンッ!

 

軽快に、静かに、そして激しく、床が鳴る。

紅い夕日が差し込む道場の中で、一つ影が、時とともに音を刻んでゆく、

目をつぶれば、その空間に響く音が、穏かな心地良さを、感じさせるほどだった。

その姿は、観るものに舞を想わせる域まで、到達しようとしていた。

でもそれは本来なら、そのような心地になるなど、ありえるもはずもないこと。

影の主が手に持つものは模擬刀、時代が時代なら、刃の付いた真剣であっただろう。

その動きは、本来は、人を殺め、己が生き残るためのもの、

先人達が多くの血と魂をもって、昇華させてきたもの、

人を殺める技が、心地良いと感じるなど、常人にあってはならない、

だが、どの世界においても、ある水準を超えた動きは、技は、

人に感動を与えるものと、なるのかもしれない。

それが、たとえ人を殺す技であったとしても、

 

では影の動きがそこまでのものかというと、程遠いものだった。

未熟なのか、いや、そうではない、もしこれを他の者がやったなら、

思わず見惚れるものであっただろう。

少なくとも奉納の舞を観た時のように、

ではなぜ?

影の主のから発せられる気魄、想いが、重りとなって、高みへと行けないでいる。

いや、影の主にとって、高みなど、そもそも目標としていない。

ただの手段の一つでしかないからだ。

影の求めるもの、それは

 

 『どんなことをしてでも守る力』

 

そのためなら、人を殺す覚悟もできていた。

現代において、まして戦などほとんど無縁となった日本の地で、その気魄は、想いは人を遠ざける。

だからなのか、動く影は一つ、剣を振るう相手はいなく、ただ空を切っている。

 

「やめい」

 

年老いた、されど芯の通った声に、影は動きを止め剣を降ろす。

 

「一刀、剣には慣れたようだが、どうだ?」

「ん~、まぁだいたい」

「馬鹿もん!なんだその言い方はっ!

 刃が無いとはいえ、剣を扱っているんだっ! 中途半端な言い方なぞ、もってのほかだっ!」

「うっ、じっちゃんごめん」

 

一刀にじっちゃんと呼ばれた老人は、一刀の実の祖父にあたるが、孫の謝り方に更なる雷を落とす。

 

「ごめんだとっ!」

「あっいえ、すみませんでした」

「うむ、最初からそう言いなさい。

 普段から、お前は口の利き方が悪い。

 修行中は更に気を使えと、何度言わせる」

 

一刀は、祖父の言葉に、身内相手に、そこまで丁寧に使う人間は、普通いないと思いつつ、

それは口には出さないようにする。

まぁ実際、子供の頃から何度も言われ続けられた言葉だが、

ついつい出てしまう、自分が悪いのも自覚していた。

一刀は、口五月蝿いが、修行中以外は気さくな祖父が嫌いではなかった。

ましてや、今は正式な師である。嫌いなわけが無い。

 

「で、どうなんだ」

「動きは一通り、微妙な加減は、もう一週間欲しいと思う」

「ふん、生意気を言いおる」

「いや、きちんと言えって、言ったから言っただけなんですが」

「その剣を渡して、1週間で、それを言えるから生意気だと言ってるんだ。

 まぁ、実際それを言えるだけ、剣を扱ってはいるようだがな」

「まぁ、これだけ剣が軽ければ慣れるのも速いよ」

「ふん、ますます生意気を言いおる。

 まるでそれより重い剣を扱っていたような口ぶりだな」

 

祖父の言葉に、一刀はしまったと口ごもる。

だが実際、一刀が行軍中扱っていた剣は、これより大きく重いものだった。

祖父は一刀の態度に、何も言わずに睨めつけたにもかかわらず

やがて、興味を失せた様に軽く息を吐き、言葉を続ける。

 

「軽いというが、それでも、稽古用に、普通の物より、はるかに重いのだぞ

 それより重い剣となると、大太刀となってしまうわい」

 

大太刀とは主に馬上で扱う剣の事。

一刀があの世界で扱っていたのも、そういった使用用途の物のため、

祖父の言うこともあながち間違ってはいなかった。

というか、 今、とんでもないことを言ったような・・・

 

「ちょっとまって、いま稽古用と言わなかった? 素振り用の間違いじゃ」

「言ったがどうした」

 

今、肯定したよ。

しかも、ノータイムで、

まるで

 

 『 なに当たり前のことを、聞いているんだ、こいつは 』

 

と呆れたような顔で

祖父は手にした剣を、ゆっくり抜き放ちながら近づいてくる。

 

「いや、普通、模擬刀同士でで打合わないって

 下手すら大怪我じゃすまないぞっ!」

 

祖父の行動に戸惑っていると、手に持った剣をまっすぐに打ち下ろしてくる。

 

シュッ

 

その剣を祖父に向かって進むことで避わし、祖父を振り向く。

祖父は打ち下ろした剣を、そのまま振り向きながら、体全体を螺旋のようにつかい、

勢いよく払い上げてくる。

 

ギィンッ

 

俺は、剣でその一撃を受け、お互い動きを止める。

目の前の祖父は、笑みを浮かべながら、更にとんでもないことを言う。

 

「だれが、模擬刀同士と言った。

 良く見ろ、わしのは刃がついている。

 正真正銘、真剣だ」

 

祖父の言うとうり、祖父の剣には良く見ると、刃がついていた。

 

「余計なに考えてるんだーーーー!

 孫を斬り殺す気かーーッ!」

 

思わず叫ぶ俺に、祖父はお構い無しに

 

「ほれ、きちんと受けるか避けるか、しんと本当にそうなるぞ」

 

キン

ヒュン

フッ

 

「ち、ちょ、ちょっとまて」

「またん」

 

俺は何とか攻撃を流しながら、祖父を説得する。

だが一向に、攻撃をやめる気配が無いどころか、だんだん攻撃が速く鋭くなっていく。

 

「なんやかんやと、文句垂れるわりに、良く受け続けるじゃないか」

「あたりまえだぁ!、というか今、髪切れたぞ、本気でストップ」

「なに、わしも鬼ではない、わしから一本とったらやめたるぞ」

「いや、一本とったら死ぬか大怪我の二択じゃないか」

「では、あきらめて成仏するんだな」

 

祖父は無常の言葉と共に、詰め将棋の仕上げに入るかのように、俺の陣地を削り追い込んでいく。

防戦一方の俺の受けは、次第に姿勢が崩れてくる。

そこに祖父の強烈な横撃が放たれるが、それを何とか受け止める。

マズイ、この一撃は受け止めさせることが目的としたもの、

そんな一刀の思考の読みどおり、

祖父は、剣を持った方の肘を、そのまま折たたむ様に、さらに前へ踏み込み

反対側の肘を打ち込んでくる。

俺は何とかその肘を、掌で受け止めると、

祖父はそのまま巻き込むように、剣と俺に体重をかけ、俺の姿勢を崩しにかかる。

俺の体勢が崩れかけたところへ、

今迄で、一番鋭い突きを放たれた。

 

シュッ!

 

俺は、胸に向かってくる突きを、更に姿勢を崩すことで、

祖父の更なる外側に、倒れこむようにして、その攻撃をなんと避わす。

髪が数本切れたようだが、あの姿勢でか避わせた事を思えば、安いもんだ。

俺は姿勢を崩しながら、残した左腕で祖父の右手をつかみ

体勢を起こしながら、振り向きざま柄尻を祖父の喉元へ突きつけた。

 

「・・・・」

「・・・・見事」

 

 

 

 

「・・・はぁ~」

 

祖父の言葉と力を抜いたことから、俺は息を大きく吐いた。

 

「たくっ、なに考えてるんだよ!」

「ふん、それはわしが言いたいわ」

 

文句を言う俺に、祖父はそのまま言葉を返してきた。

 

「なんだよそれっ!」

 

訳のわからない、祖父の言葉にますます俺は声を荒げる。

 

「わからんと言うなら言うてやる。

 2年前、いきなり本気で鍛えてくれと言ってきたは良いが、なんだあれは」

「本気で修行してただろう。

 あれでも足りないかもしれないけど、時間の許す限り本気で修行してきたつもりだっ!」

 

そう、俺があの世界から戻って2年の月日がたっていた。

あの世界で2年近く過ごしたが、戻ってきたら半日もたっていなかった。

気が付いたら夕方の学校の机上で寝ていた。

まるで授業中に居眠りしていたかのように。

あの出来事が夢だというように。

だが、あれは決して夢じゃない。

その証拠に、制服は戦場を駆け抜けたように ボロボロ

まぁ実際、駆け抜けたわけだけど、体力も筋力も、あの世界にいた時のままだった。

違ったのは、月日がたったにも変わらず、見た目の年齢だけは変わっていない感じだった。

家に帰ると俺の姿を見た母親は吃驚し、俺を叱りつけた。

まぁ、俺も本当のこと言う訳にもいかず、適当に誤魔化したのがいけなかったのだが、

こればかりは仕方が無かった。

 

その日から、俺は自分を磨き続けた。

あの世界での経験は、こちらでも大きく役に立った。

紙が貴重なため、何でもかんでもメモをするわけにもいかなかったため、記憶容量が増えたようだ。

まぁ、実際は忘れるわけにはいかない、ということで集中力が増しただけなのかもしれないが、

勉強するには都合が良かった。

剣のほうも、あちらの世界では、全然たいしたこと無くても、

やはり戦乱を生き抜いたのと、そうでないのでは大きく違うのか、

今まで一度も勝てなかった部長から、軽く勝つことが出来た。

まぁ、三国無双な夏侯惇をはじめ、魏将達に毎日のように

剣で追い掛け回されたり、

ボコスカ にされたり、

矢で張り付けにされたり、

殺されそうになった事なんか、数え切れないくらいだ。

そんな生活でも、確実に鍛えられたようで、

春蘭達の攻撃に比べたら、先輩の竹刀はゆっくりに感じられた。

当然、大会でも、今まで勝てないと思った相手にも勝つことができ、

インターハイや国体で、連続優勝を果たすことができた。

大学に上がる頃には、昔は化物と思っていた祖父からも、勝てるようになってきた。

そんなものでは満足できず、俺は剣も勉強も頑張り続けた。

むろんそれだけじゃない。

農業、工業、商業、政治以外の雑学も、とにかく役に立ちそうなことを勉強した。

分からないことは、調べ、既知で収まるのではなく、既存の知識を吸収していった。

現状に満足しず邁進を続けた。

歩み続けなければ、現状維持すら難しい、あの世界で学んだことだ。

高校では部長も勤め、大学も1年ながら部員の指導に当たっている。

本来なら、俺のような1年は、下っ端として先輩達の指示に、ひたすら従いながら練習するのだが、

自分が、部の中で圧倒的に強いのでは、仕方が無かった。

むろんそれで増長はしない。

あくまで自分は、1年なのだから練習中以外は、先輩の指示に率先して従い動いていた。

だが、やはり先輩方の不満は否めない。

そこは我慢して先輩方の機嫌を取る。

そんなことは、あの上下関係が絶対な世界のことを思えば、何のことは無かった。

そんな感じで、剣道を続けてはいるが、部の師範や剣道協会の先生方には、

自分の剣は良い顔をされていない。

まぁ簡単に言えば、邪道だということらしい。

これは仕方ない事だろう。

自分が求めている剣は、実戦の剣。

剣道としては、汚い技も多いし、反則になるものも多い。

では剣道をやめて剣術に絞ればいいか、といえば、そういうわけには行かない。

剣術だと殆ど相手がいないからだ。

とにかく今は、多くの剣を交えたほうが良い、と自分なりに考え、剣道も続けている。

 

 

 

 

とにかく、この2年、自分なりに一生懸命頑張ってきたつもりだ。

祖父はそれでも不満らしい。

とそう思っていたら、

 

「ああ、この2年おまえが必死だというのは判ってる。

 剣術だけじゃなく、勉強も人付き合いも、一生懸命だったことは、わしも認めよう」

「なんだよ、じゃあ、なにが不満なんだよ」

 

てっきり、まだ頑張りが足りないというのかと思ったら、違うようだ。

・・・・華琳なら確実に言いそうだが、

 

「お前には、余裕が無さ過ぎる」

「なんだよ、それ、

 チンタラやってたら、身に付くものも、身に付くわけ無いじゃないか」

「口がまた悪くなってるぞ。

 まぁいい、確かに、以前のお前のようにやってたら、身につくも、身につくわけが無い」

「じゃあ、なんだよ、いったい、こんな危険なことして」

「危険?

 真剣でいきなり切りつけられても、余裕で受け、わしから一本取ったじゃないか」

「必死だよ!」

 

いきなり真剣で孫に切りつけておきながら、悪びれもせずに言う祖父に俺は言い返す。

 

「幾ら修行を積んだとはいえ、普通模擬刀で切りかかられたら、動きが鈍るもんだ。

 ましてや真剣となれば、なおさらだ

 それをお前は、わしの本気の攻撃を避わし、一本取って見せた。」

「っ、今本気って言った。

 ますます、なに考えてるんだよっ!」

 

俺の叫びに、祖父は無視して続ける

 

「いきなりで、あれだけの動きが出来る。

 つまり、普段から真剣同士を想定して修行しているって事ではないのか?

 お前は、人切りでも目指すつもりなのか?

 1人稽古の時には剣だけじゃない、

 明らかに相手は、槍の時もあれば弓のような飛び道具相手のような動きをする

 それどころか、多対一の動きもしている。」

「よく分かるなぁ」

 

祖父の言葉に、思わず関心をするが、祖父は更に面白くなさそうに

 

「本来ならば、孫の成長を喜ぶべきなのだろう

 が、はっきり言ってお前の成長は異常だ。」

「ひでぇ」

「なにより、あの目、あの気迫は嫌な時代を思いださせる。」

「なんだよそれ」

 

俺の疑問に祖父は、一瞬表情を無くしたが、すぐに苦い顔をし呟ぶやいた。

 

「戦争だ」

 

・・・・・さすが長生きしているだけあるのか、俺は祖父の観察眼に驚いた。

そっか、じっちゃんは、俺が人殺しにならないか心配してたんだ。

祖父の想いに心が痛む、

 

でも、

 

もう遅い、

 

あの世界で、俺は確かに直接人を殺すことは無かった。

 

だけど、俺は確実に人殺しだ。

 

今の現代なら、大量殺人犯じゃ収まらないだろう。

 

1人、2人じゃない。10人20人どころじゃない。

 

俺の指示でっ!

 

俺の考えた策でっ!

 

何万、何十万の人間が傷つき!

 

命を散らしていった!

 

確かに、この世界のことじゃない。

 

でも、そんなことで逃げていいことじゃない、

 

いいや、やっちゃいけない!

 

それを踏まえたうえで、

 

俺は、生きていかなければいけないんだ。

 

散っていった命のためにも。

 

でも、祖父に、父母に、そんなことを言っても、信じてもらえないだろう。

だから、せめて、このやさしい祖父に、父母に心配させまいと

 

「そっか、心配してくれてたんだ。 ありがとう」

「・・・当たり前だ。 かわいい孫を、心配しない奴がいるものか、

 まぁ、ワシを切り付けず、殺さず、一本取ってみせた。

 心配は、杞憂だったようだがな・・・」

「当たり前だよ。 じっちゃんを本気で傷つけるなんて出来るわけないよ。

 うん、でもだいじょうぶ。 別に人殺しになりたいわけじゃないから。

 俺は、ただ守りたいものを、守れるための力を、身に付けたいと思ったから

 今は、一生懸命なだけだから・・・だから、大丈夫だから、そんな顔しないで欲しい」

 

俺の拙い、せめてものと、一生懸命の言葉に祖父は、力を抜き、いきなり笑い出した。

・・・何故?

 

「なんだよ、いきなり笑い出して、さっきから百面相じゃないか、気持ち悪い」

「馬鹿もん、気持ち悪いとはなんだ、気持ち悪いとは、

 孫を心配する祖父を、気持ち悪いとは、今に罰が当たるぞ」

「いや、これだけ、突拍子の無い行動が続けば気持ち悪くなって当たり前だと思うぞ」

「ふん減らず口を叩きおる。

 まぁいい、お前が変わった理由がわかったら安心した」

「な、なんだよ、いきなり」

 

祖父の呆れたような笑顔に、なんとなく不安を覚えながら訊いてみる。

 

「女だろ」

 

・・なっ

 

「な、なんだよそれ!」

 

図星を指された俺は、思わずどもってしまうが、祖父は更に面白そうに

 

「あぁ、言わんでも良い。 わかった、わかった」

「いや、勝手に決めるなって」

「しかし、普段のお前を見ると、女遊びしているように見えん

 かといって、女慣れしていないようでもない。

 ふむ、遠距離恋愛か」

 

孫を、ニヤニヤと笑みを浮かべながら見て、勝手な妄想を浮かべる祖父に文句を言うが、

聞き耳を持たないようだ。

くそー、なんで、俺の周りには、こう人の話を聴かないやつばかりなんだ。

 

「2年前というと、たしか制服をボロボロにして帰ってきた時があったな。

 ふむ、よほどの劇的な出会いだったようだな」

 

そういって祖父は勝手に何度も頷いている。

 

「老人の妄想劇場は、ボケの始まりというし、お向かえも近いかな」

 

フォンッ

ギィンッ!

 

「って、いきなりなんだよ、

 真剣でつっこむなんて、危ないだろうが

 どんなドツキ漫才だよ!」

「だれが、老人ボケだ。

 曾孫の結婚式を見るまで、ワシは現役じゃわい。

 それに、余裕で受け止めておいて、危険も何も無いだろう」

 

俺の苦情に、全然悪びれもしない。

いや、今の油断してたしマジに危なかったぞ。

 

「曾孫の結婚式って、いくつまで生きるつもりだよッ!

 というか、俺より長生きするんじゃなねぇか、この妖怪ジジィ」

「まだ言うか」

 

ビュッ

シュ

キン

フォン

チン

 

何度か、剣戟が響く

 

「いや、マジストップ!

 俺、まだこの剣に慣れきってないから、こっちから攻撃できないって」

「その割には、良く受けるじゃないか」

「いや、だから、寸止めがって、アブッ」

 

またや防戦一方のため、だんだん追い詰められていく。

 

「安心しろ、ワシは寸止めなんぞする気無い

 遠慮する必要は無いぞ」

 

とんでもないことを言う。

いいのか法治国家日本、こんな人間に真剣持たせて

 

「余計悪いわっ!って

 本当にストップ

 このままじゃ、曾孫が見れなくなるぞ」

「いや、おまえなら、首が切れても、出来そうな気がしてきたぞ」

「って、無理だって」

 

笑いながら、無茶な事を言いながら、切りかかってくる祖父の姿に、

人のこと心配する以上に、自分のほうが異常じゃないのかと、本気で心配した。

だいたい、首が切れても子供を作るって、どんな種馬だよっ!

とにかく、きりが無い、まだ寸止めには自信の無いので、

剣はこのまま牽制と楯として使い、体術で勝負に出る覚悟を決める。

無論、祖父もそんなこと見通しで、剣で牽制し近寄せさせない。

ならばと、剣を左手に持ち替えながら後ろ軽く飛ぶ。

その隙を狙って、祖父の鋭い突きが飛んでくる。

・・・本気で孫を突き殺す気か?

俺はそんな攻撃を読んでいたので、突きに合わせるように、軽く前に出る。

剣は剣を逆手に持ち替えて、左横に逸らしながら、鍔元へ滑らかす。

鍔元までこれば、俺は自分の剣を離し、離した左手は祖父の手を剣ごと掴む。

それと同時に、祖父の右襟を右掌底を入れながら掴み、体を反転させ、そのまま勢い良くお辞儀をする。

 

ダンッ

 

「・・・・ゴホッ」

 

カランッ

 

「・・・・フゥー」

 

背負投げが決まり、祖父はその衝撃で、むせた後に剣を落とす。

 

 

 

 

しばらくして、起き上がった祖父は、剣を拾い上げると、鞘に納め床に置く。

その動作に、俺はもう斬りかかってくる心配はないと判断し、自分も剣を納める。

 

「たく、老人を、ましてや実の祖父を硬い床に叩きつけるなんて、

 とんだ祖父不幸者に育ったわい」

「寸止め無しで、真剣で切りかかる祖父には遠慮は要らないと家訓にあるんでね」

「あるかそんなもん」

「うん、今作った」

「口が減らんやつめ、一体誰に似たんだか」

「間違いなく、じっちゃんの血だと思うけど」

「わしが若いときは、そんな減らず口を叩かなかったもんじゃぞ」

 

正座しながら、アホなことを言う祖父に、自分も正座しながら言い返す。

黙祷した後、座礼をし、本日の修行を終える。

 

「一刀、受け取れ」

 

正座から立つや、いきなり、祖父は自分の持っていた剣を放ってきた。

 

「なにすんだよ、危ないじゃないか」

「やる」

「は?」

 

いきなりの祖父の発言に、思わず聞き返す

 

「だから、その剣は、今日からお前のものだと言ってる」

「だーかーらー、模擬刀ならまだしも、

 真剣を、ポンと孫に与えるなんて、なに考えてるんだよ」

「一刀よ、もうお前はワシより強い。

 技も基本は全て教えた。

 剣術、体術で、もうワシが教えれることは無い、あとはお前しだいだ」

「だぁ、基本しか教えてないなら、応用を教えてくれよ」

 

いきなりの祖父の発言に、俺は反論する。

確かに、俺はこの2年で祖父より強くなり、今では祖父が俺から一本を取ることなど、ここしばらく無い。

だからって、俺のほうが技が上かといったらそうでもない。

やはり、技の組立や動き緩急とか、有利に進めるための技術は、祖父のほうが何枚も上手で、

祖父が若かったら、いまだに一本取ることも難しいに違いない。

まだまだ、この祖父から学ぶことはあるはずだと思っている。

 

「あほう、応用なんぞ千差万別、人それぞれだわい。」

「なんだよそれ」

「わしとお前とは、体格も筋力も違う、

 そうなれば、無論得意とする技、またそれを基本とした組立は違ってくる。

 それだけではない、性格や思考の仕方も違えば、更に違ってくる。

 これはわかるな?」

 

祖父の言っていることは当然のことだ。

祖父と俺では、言うほど体格に違いは無い。

それでも、祖父のほうが背が高くがっちりしているし、リーチはかなり違う。

そうなれば、得意とする技が違ってくるのは当然だ。

祖父の言葉に頷くと、祖父は一度頷き話を続ける。

 

「それなのに、ワシの技をお前が真似しても、

 それは、猿真似でしかなく、お前の技ではない。

 身に付けたとしても、わし以上にスキだらけの技になってしまう。」

「いや、技の継承は模倣から始まるって、じっちゃん言ってたじゃないか」

「基本はな。

 だが、今のお前のレベルから先は、自分で工夫しながら、長い年月かけて組み上げていくものだ。

 それに、今のわしでは、もう練習相手ぐらいにしかなれん。」

 

祖父は申し訳なさそうに言う。

確かにそうかもしれない。 だが、それでも仕合うことで、得るものはまだまだあると思っている。

だから、

 

「じゃあ、付き合ってはくれるんだね」

「当たり前だっ、見取らんと、すぐサボるからな」

「ひでぇ、ここ2年、サボったこと無いじゃんか」

「ふんっ、その前は、理由を見つけてはサボってたじゃないか。

 あれだけ前科があれば、反論は出来まい」

「・・・グッ」

 

まぁ、あの頃は、やる気が無くて、何かと理由を付けてはサボっていた。

それを言われると、何も言い返すことは出来ない。

それでも、今は、祖父の気持ちが嬉しかったので、ここは黙って引くことにした。

 

 

 

 

その夜、俺は変わった夢を見た。

 

鏡がでてくる。

 

それも昔の鏡、確か銅鏡と言われる奴だ。

 

それが、暗闇の中で自分から遠く離れたところに浮かんでいた。

 

俺と銅鏡は向かい合いつづけている。

 

ただひたすらと

 

そんな夢

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・華琳、みんな・・・」

 

そんな呟きともに、俺は朝を迎えた。

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 
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