No.1120397

おい森短編 「母よりレター6」

DS版のおい森にて、たまに送られてくる母よりレター、それをテーマにした短編です。基本的に一話完結なので、番号に関しては特に関係ありません。
今回の話は事実確認をしないまま書いているので、色々間違っている箇所があると思います(例:タランチュラさんの出現時期とホタルの出現時期の齟齬等) パラレル話という形で見てやってください。なんだか不思議な感じの話になってしまいました。

2011年9月23日 17:47にPixivで投稿したものをこちらにも再掲。

2023-05-09 21:14:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:119   閲覧ユーザー数:119

 >Foretへ。

 >川べりに、夜のお散歩、父さんと。

 >見てみてホタル。夏はすぐそこ。

 >都会にはないでしょ? 母。

 

 夏と聞いて、フォレがまず思い出すのは、昨年、トラウマと化したあの出来事だった。

 夏の夜には、ヤシの木や、広葉樹、針葉樹に、たぬきちさんの店でお高く売れる、ヒラクワガタや、コーカサスオオカブトなどの虫がとまっていることがある。

 これはいい稼ぎ時だと、同居人のアニーと手分けして、虫取り網を片手に木々の間を走り回っていた時だ。

 

 カサカサカサカサ。

 

 ちょうどカブトムシを捕まえたフォレは、何かが地面をはい回っているそんな音が耳に入った。

 まるで一週間以上家を留守にしていた時に、部屋中を駆け巡っている、あのイニシャルGの音のようだな、と思いつつ、そんなことはないだろうと、次の獲物を探すべく、別の木を探しに振り向いたその時。

 地面に、黒い塊がいた。

 暗くてぼんやりとしか輪郭が見えず、正体がよく分からなかったのだが、先ほどからのカサカサカサカサという音源はこいつから発せられていたのだろう。

 特に何とも思わず、そのままその場を後にしようとして――

 途端、足から脳天まで痺れるような衝撃が走った。

 上手く動かない頭を無理矢理動かして、足元を見てみる。

 そこには先ほど、よく分からなかったのでスルーしたあの黒い塊が足に噛みついていたのだ。

 ギャア、とも、イギャア、とも取れるようなか細い悲鳴をあげ、虫取り網を片手に、フォレはその場で顔面から倒れて、気絶してしまった。

 

 その後、気がつくと家の前にいたフォレは、運んでくれた住人に一体何が起こったのか尋ねたのだが、曰く、その黒い塊ことタランチュラは、夏の夜、ちょうどフォレとアニーが夢中になって高額売却虫を捕獲しているまさにその時間活動をはじめ、なぜだかは分からないが、虫取り網を持っていると、執念深く追ってきた上で、こちらを気絶させに来るらしい。

 つまりは、遭遇次第、虫取り網を持たなければいいということだが、そんな出来事があってから、フォレは虫取り網を持つのをやめ、夜間、それも夏の間は絶対に外出しようとしなくなった。

 

 もったいないことだな、と、アニーは思う。

 あれ以降、夏の夜に外出しなくなったことに、だ。

 このところ、毎晩アニーは、たぬきちの店が閉店する時間ギリギリまで、虫取りをしている。

 まあ、夜はタランチュラの脅威以外にも、血を吸いにどこからともなくやってくる蚊という迷惑なやつもいるのだが、害を与える虫ばかりではないことをフォレは忘れているのだろう。

 荷物のほとんどが虫一色に染まったところで、一度、木々の連なるエリアから小走りに離れた。

 この村には、都会の街灯が一切ないため、基本的に辺りを照らすのは月明かりのみだ。

 だけどこの時期、川の上流やため池には、ある虫が、辺りをほのかに照らし出す。

 川の音が小さく聞こえだすところまでやってきて、ふと、視界の端に、頼りない細やかな光が明滅した。

 それは夏特有の水辺の匂いと湿気が強くなっていく位置に行くほど、増えていく。

 ふわり、とアニーの顔の前にそれは一つやってきた。

 ――ホタルだ。

 辺りを見回すと、それらは優しくも儚い光を辺りにふりまいて、水辺を舞っている。

 昔、ホタルというのはとても短い命の中で、あの光を出しているんだよ、と、誰かから聞いた。

 何のために、というのは子供だった当時の自分たちは知らなかったが、ともかく、この幻想的な光景は、この時期にしか見られないもので、アニーはこの光景を是非ともフォレと一緒に見たかった。

 そこでふと、あることを思いつく。

 外に出れなくても、この幻想的な光景を楽しめる方法をだ。

 考えるよりはまず行動。早速、アニーはある場所へと駆けだした。

 

 「ただいまー」

 午後十一時。たぬきちさんのお店が閉店する時刻に、同居人のアニーは帰ってきた。

 それも、いつになくすこぶるご機嫌で。

 「おかえりー、なんか今日はいいことあったの?」

 すると、それまでにこにこ顔だったアニーは、にやりっと言わんばかりに何かを企んでいるような顔つきになり、両手を後ろに回してから、言った。

 「おうっ。…悪いんだけどさ、フォレ、電気全部消してくれないか?」

 「なんで?」

 「いいからいいから」

 アニーの言動がよく掴めないまま、とりあえず促されるままにカントリーなテーブルに置いた蝋燭や、部屋の角に置いてある、つい最近村の住人から頂いた、アジアなランプを消して、部屋を真っ暗にする。

 それからアニーが――多分いるであろう――方向を向いて、声をかけようとした。

 「これでい――」

 突如、目の前に現れた光を見て、フォレは言葉の続きを言えなくなった。

 その光は、フォレの目の前を通過すると、天井の方へと向かい、儚い光を徐々に消していく。

 もう一つ、それはフォレの顔の真横にやってきて、これは一体何なのだろうと思い、今度はその光を両手でぽふっと包むように捕まえてみた。

 手の中でもなお明滅するその光源の正体を見ようと、徐々に、けれど逃がさないようにそっと開いていく。

 その中にいたのは、一匹のホタルだった。

 「きれいだろ?」

 いつの間にか近くまでやってきていたアニーが、そういって周囲を見つめる。

 つられてフォレも見てみると、ついさきほどまで、真っ暗闇の中にあったはずの部屋が、十五匹のホタルによって、淡く優しい小さな光で、ぽわぽわと幻想的な部屋の雰囲気を出していた。

 「夢の世界みたいね…」

 「夢じゃない」

 そう言われて、フォレはアニーの横顔を見た。

 ホタルが描く光の軌跡が、時折、アニーの顔の側を通るが、暗闇の中、その表情は伺うことができない。

 一拍の間をおいてから、またアニーが言う。

 「夢の世界じゃないよ、フォレ」

 

 その日の夜は、翌日の夜明けまで、二人して、部屋を舞い踊る、ホタルの光を見て過ごした。

 儚い儚い光を散らして踊る、その姿を、ずっと、ずっと見ていた。


 
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