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呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第054話

どうも皆さまこんにち"は"。
今日も皐月回です。
皆大好き不動(ふゆるぎ)先輩との初対決です。

書けば書くほど、原作の皐月から程遠い頼もし過ぎる皐月に変化して行ってます。

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2022-12-05 00:10:37 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:579   閲覧ユーザー数:550

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第054話「皐月 参~新陰流vs倒幕流~」

 夜20:00。学園の門限にてこの時間より外に出る生徒などはいないであろうが、そんな学園内を上下ジャージ姿の皐月が、食後の運動を終え、寮監部屋に帰宅したことを告げて、共有シャワー室で朝を流して自室へと戻った。

「お帰り」

皐月が食事と運動、湯浴みしている間に戻り、明日の授業の準備をしている同部屋の彩夏に挨拶をされて、皐月も「ただいま」と返す。フランチェスカ学園は基本的に一人部屋を割り振られるのだが、それでも在籍において寮代を支払わなければならない為、皐月と彩夏は『勿体ない』とのことで、広い部屋を二人で使用している。

汗臭いジャージを脱ぎスポーツブラを外して、シャワー室で外したサラシも、この部屋共有の洗濯籠に放り込んでは、戻って来る間にて少し蒸れた谷間や脇の汗を拭き取って新しい下着と肌着に履き替える。

「......むむむ、いつ見ても見事なくびれと腹筋。大きく実ったおっぱいですな」

「ちょ、どこ見てるのよ!?」

いつの間にか間近にまで迫って皐月の体躯を見つめる彩夏であったが、事実皐月の体躯は一般より良く成長したバランスの良いプロポーションをしていた。

規則正しい生活。食バランス。剣道によって鍛えられた体幹・脚力。実った胸の脂肪に加え、剣を振り且つ、その乳房を支える為に鍛えられた胸筋により、胸の内側では乳房が押し上げられている。また運動する時に、胸に体重が持っていかれない様にする為、サラシも巻いている。

皐月は寝間着に着替え終えると、残った荷物の荷解きを軽く済ませて、新調した竹刀を組み立て始める。彼女の扱う竹刀は北郷老人お手製の特注で、竹や布、弦それぞれが選び抜かれた一級品であった。中学剣道と高校剣道に関しては、竹刀の大きさが違ってくるので新しく購入したのだ。

手慣れた手つきにて再度竹の笹くれなどを確認して、紙(やすり)で研摩しては、そのまま組み立てていく。

「皐月ちゃんは、やっぱり剣道部に入るの?」

「いや、それに関してはどうしようか考えている」

「考えている?」

言葉をオウム返しする彩夏に対して、皐月は組み立てた竹刀を座ったまま一つ振ってみて、彼女は放課後の剣道場前の出来事を思い出す。

 

 夕焼け沈む中、皐月は入学したばかりにも関わらず学園で有名人であった、不動(ふゆるぎ)如耶(きさや)に声をかけられる。夕方の涼し気な風が流れると、不動の視線に皐月は釘付けとなるが、その沈黙を打ち破って彼女は話し出す。

「お久しぶりでござる鳳皐月殿。全国大会にて相対した時以来でござるな」

微笑しながらそう言われて、皐月は改めて目の前の不動の事を整理する。大財閥・不動グループの御令嬢であり、剣道の腕も全国屈指の実力者である。皐月が台頭してこなければ、確実に日本一の実力者だ。しかし結果は引き分けであり、皐月は大会にて面は外さず、試合を終えればさっさと帰ってしまい、不動はずっと話しかける機会を失っていた。

後に試合を見ていた不動の剣道の師であり祖父の不動老人曰く、『相手に悟らせない絶妙さで力を抜いていた。剣筋は戦国時代に上泉信綱の新陰流を学び、タイ捨流を生み出した始祖・丸目長恵の剣術をさらに昇華した、『北郷新陰流』。現役時代、儂は北郷に勝つことは出来なかった』と言わしめた。

その言葉を聞いて、剣道にて不敗を誇っていた不動は、皐月に俄然興味が沸いたのだ。向上心旺盛な彼女は更に高見があることを知った。また、本来新入生総代を勤めるのは皐月で、彼女の辞退によって不動に周ってきたことを知り、知識面においても自身の上にいる彼女は目標であったのだ。人によってこれらの出来事は嫉妬に成り得ることもあるが、不動の心の中に起こったのは飽くなき闘争心と挑戦心であった。

「不動さん...だっけね。全国大会以来かな?まさかこの学園の生徒だったとは、世間というものは案外狭くて数奇なものですね」

営業スマイルを見せる皐月をどう受け止めたか知らないが、不動も肩をすくめて微笑を浮かべて鼻で笑う。

「鳳殿も剣道部に?なれば重畳でござる。それがし鳳殿の剣技に惚れておる。これから三年間鳳殿と剣を交えると思うと、胸が昂る思いだ」

不動の真っ直ぐな瞳に対し、皐月は現在の自分の思いをどう吐露すれば考えてしまう。

「いや、不動さん。私は別に剣道部入部の為にここに来たのではないわよ。帰路に道場があって、それを眺めていただけ。まだ他の部活も見ていないし」

「な!?そ、それ程の才能を眠らせておくというのか!?」

皐月の回答に、不動は驚嘆の表情を浮かべる。

「剣道の才能を伸ばす為”だけ”であれば、わざわざ勉強してではなく、スポーツ推薦を狙えますし、フランチェスカより強い高校に入学することも出来ました。私が本当に欲しい物は剣道の名声ではありませんし」

「......剣道では成し得ないこと?」

不動が呟きを漏らすと、皐月はその場を立ち去ろうとするが、不動に手首を掴まれて引き留められる。

「待ってくれぬか鳳殿。一度でいい。一度で良いから某と立ち会っては貰えぬか。手加減なしの本気で――」

そして皐月は明日のこの時間にて、道場前で待ち合わせする約束を取り付けた。

 「なるほど。それでいつも以上に、入念な竹刀の手入れをしているんだ。楽しみにしているね」

「......え?付いてくるの?」

「当り前じゃない。剣道の事はよくわからないけれど、全国の頂点に君臨する二人の戦いなんてそうそう拝めることじゃないし」

「......まぁ、好きにして」

「ギャラリーふやs「呼ばなくていい!!」――」

ドサクサに紛れてトンデモナイ発言を仕掛けた幼馴染を制止させて、皐月はこの日就寝したのであった。

そして翌日の放課後。皐月は竹刀片手に学園の剣道場を訪れていた。そこには道場の中心にて正座をして座っている不動がおり、皐月は靴下を脱いでお辞儀をして場内へと歩を進める。

「......来たでござるな鳳殿」

黙祷していたのか、不動は目を開けて皐月を見据える。皐月も彼女の前に正座して頭を下げて礼を尽くす。

「本日はお招きいただきありがとうございます。......さて、堅苦しい挨拶は終わりにして、本当は二人が良かったのだけれども、私の友人が付いてきてしまってね」

親指で皐月が指さす方向にて、入り口で皐月を見守る彩夏と麗架の二人がいた。

「別にかまわぬ。某も実は親類が付いてきてしまって――」

道場の後ろにて正座で控えている、ブロンズで前髪をカチューシャで留めているの少女がおり、制服はフランチェスカ学園中等部の制服だ。皐月を射貫くかの様な形相で睨んでいる。

「かまわぬ。其方の友人も上がってもらうがよい」

不動に了承が取れ、皐月は入り口で待機する二人を手招きし、二人は皐月の所作を真似て、靴下を脱いでお辞儀をして、場内に上がって正座で皐月の後ろに控える。

「鳳殿の友人だそうだな。お初にお目にかかる。某は不動(ふゆるぎ)如耶(きさや)と申す者。以後お見知りおきを――」

不動の礼節に則った挨拶に、彩夏は緊張し、麗架のスタイルはぶっきらぼうではあるが、緊張のせいかめちゃくちゃな文法の敬語で挨拶を返した。

「鳳殿の友人と挨拶を交わしたのだ。こちらも礼に応えねば失礼というもの。璃々香」

不動は後ろを向き直り、見学していた少女を手招きして呼び寄せる。

「この者は某の親戚で、中等部の真宮(まみや)璃々香(りりか)だ」

不動の催促もあってか、真宮は素直に自分の名前を言って頭を下げる。それでも未だ皐月のことは睨んだままで、そのことで不動に注意される。

「璃々香よ、本日鳳殿は時間を作って参られたのだぞ。その様な視線を向けるのは失礼だろう」

「で、ですが如耶お姉さま」

「すまぬな鳳殿。この者に決して悪気があるわけでは――」

「いいわよ気にしていないから。それより始めましょうか」

「あぁ。しかし鳳殿、其方の防具は?」

「荷物がいっぱいになりそうだったから、実家においてきたわ」

「なるほど。......某の予備があるからそれを使ってくれ」

「え?それは流石に悪い様な。何だったら私はジャージで参加しようかと」

「本気の其方と組みたいのだ。これは某の我儘でござる。それにちゃんと洗濯やクリーニングを欠かしてはござらぬぞ」

「い、いや...それなら、いいのk「決まりでござるな。璃々香」――」

皐月の言葉を無理やり制して、不動は真宮に用意させていた自身の予備の袴と防具を持って来させ、受け取った後に皐月に渡す。

「更衣室は向こうでござるから、準備して来て下され」

そう言われて、皐月は久方ぶりの道着を身に纏って戻ると、そこにはすっかり打ち解けた不動と自らの友人たちの姿があった。

「そうそう。それで、皐月ちゃんがその虐めっ子を返り討ちにしちゃって――」

「私もその話を聞いて、皐月っぽくて感心したよ。何だったら、私の中学に潜んでいた水泳部の盗撮犯を見つけて縛り上げたり――」

「うむ。流石鳳殿でござるな」

「...そ、それぐらい、お姉さまだって――」

皐月の小中時代の武勇伝を語る二人と、ギャラリー二人の構図が出来上がっており、着替え終わった皐月が、4人を見下ろす様にして仁王立ちをしていた。

「不動さん。本日の要件は早く済ましたいのですが?」

「う、うむ。そ、そうだな。では、早速始めましょうか。はい」

敬語で凄む皐月の気で圧倒されたか、何時もの武士語は成りを潜めて防具を付け始める不動。

「そこの馬鹿二人。用事が終わったら話し合いだからね」

「「は、はい」」

怒れる獅子を刺激しない子山羊達。

「そこの中坊。馬鹿二人の話はすべて忘れなさい」

「ちゅ、中坊!?ワタクシはれっきとした淑jo――」

「あぁ!?」

「ハイカシコマリマシタ。ワスレマス」

上級生の言葉で、有無を許されない下級生がそこにいた。

 先程の動乱は置いておき、道場の中心にて皐月と不動がそれぞれ中段で構えて立ち会っている。

「それじゃあ二方。審判は私が勤めるわね」

「ほう。松原殿も剣道経験者でござるか?」

面を付けた不動は、興味津々とばかりに麗架に質問を投げかける。

「いや、麗架は水泳部員だけど、中学時代に私の学んでいる道場に遊びに来た際、手伝いをしていたからその時に、ルールだけは覚えたのよ」

不動の問いに皐月が答えると、麗架は誇らしげに胸を張る。

「ふふん。弓道にラクロス。ゴルフ含め、美しい女の子が集まりそうなスポーツは、あらかた制覇しているわよ」

「その情熱を少しでも勉学に向けてくれれば、私も楽なのだがな」

「何おぉう。これでも平均偏差値より大分高い位置にいるのだぞぉ」

皐月の問いに、麗架は反論で返す。余談であるが、麗架はスポーツ推薦で入学はしたが、決して運動だけが取り柄の少女ではない。勉学に関しても悪い方ではなく、スポーツ推薦枠での筆記に関しては、ぶっちぎりで首席だったりする。だが本人の性格からいって、勉学は苦手であり、中学時代は試験前になると皐月・彩夏に勉強を教えてもらう為、隣町を越えてわざわざ来ていたのだ。

「さて、無駄話が過ぎましたね......始めましょうか」

そう言って皐月は一つため息を吐いて、一度竹刀から手を放し、肩を回してから握りしめ直し、力を落として中段で構えなおす。

「不動さん。一度だけ本気でやってほしいと言いましたね。いいでしょう。貴女の剣道に誠意を込めて、一度だけ私の全力でお相手します」

麗架の号令にて試合は始まる。不動は上段、皐月は中段にて構えるが、両者は一方に動くことはない。よく時代劇であるのが『先に動いた方が負ける』という展開だが、ここではそんな話でなく、不動が攻めあぐねているのだ。

剣道における戦いは、個々の反射神経は勿論のこと、大きく左右されるのは相手の先を読む心理戦。相手の筋肉の動き・癖・足の動かし方その全てを考慮して動かなければならない。無論、殆んどの学生は自身の反射神経などを頼りに戦っているのだが、大会にて上位を占める剣道士の戦いは頭脳戦。本能にて戦う者は所謂『怪物』等と言われるのだが、道場にて立ち会っている二人は、数多の天才・怪物を負かせて来た本物の猛者(もさ)だ。

そんな猛者・不動も本気であるらしい皐月と対峙してから動悸が止まらずに徐々に肩で息をしだす始末。

「不動さん、貴女の剣道の流派は北郷のお爺様から聞き及んでおります。不動(ふゆるぎ)新陰流。開祖は上泉信綱の新陰流だったけど、柳生新陰流を取り組んだ徳川将軍家御流儀の派生が不動流。正しく王者の武術といった感じではあります。しかし北郷流は丸目長恵開祖であるタイ捨流と関ヶ原にて徳川旗本軍を震撼させた、義弘公の薩摩流を合わせた剣。それはつまり、倒幕の型――」

そういうと、皐月は竹刀を少し挙げて水平に構えなおす。

「今から突きを繰り出しますから、避けて下さいね」

そう言った皐月は少し腰を落とす様な姿勢をして、相手の動きを見極める為に不動は警戒する。左右に後ろに...あらゆる避ける手段を模索して彼女の一撃を待ったが、次に思考を取り戻した瞬間、不動の視線は皐月の腹部を見ており、彼女は膝から崩れて座り込んでいた。皐月に一本が入ったことを麗架が宣言し、未だ尻餅を着く不動に真宮が思わず駆け寄る。

「お姉さま!!」

胸を抑えて咳き込む不動であったが、息を整えて真宮に聞く。

「り、璃々香。たしか某は皐月殿と向かい合っていた筈だ。一体何があった?どう攻撃されたのだ?」

不動は自らの力量を測れないほど愚かでもない。皐月との格の違いなど、立ち会った時点にて既に分かっている為に、一撃を加えられて敗れたことに納得していないわけではない。ただ、皐月の攻撃の動作の片鱗すら見切れず、そのまま敗れたことに関して疑問を持った。一体どの様に攻撃されて、どの様に一撃を食らったのか。正面から見定めることが出来なかったのだ。

「鳳...さんは一歩大きく飛び込むに踏み出し、突きをお姉さまに放ちましたわ」

「一歩大きく?馬鹿な。某から見て鳳殿は一歩も動かずに某の前に立ち続けていたぞ。一体どの様にして間を詰めたのだ」

面を脱ぎ取り、疑問が絶えぬ不動は、顎に手を当て考え込む。

「不動さん、実践は難しいですけど、理論は簡単なのでレクチャーしましょうか?」

まさかの人物からの提案に、不動は呆気に囚われながらも素直に応じることとなった。

 


 
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