No.1102346

行きて戻らぬ者へのバラッド2

さん

第二話。復活。2021年11月27日 13:43pixiv投稿したものをお引越し。
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2022-09-13 08:27:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:234   閲覧ユーザー数:234

いきて戻らぬ者へのバラッド

 

不慮の死を迎えた者は、納得ができずにこの世にとどまる。

それが地に縛り付けられる者となったり、怨念となり果てる事もある。

 

リンクは戦いのさなかによく考えていたことがある。

それは「宗教国家ハイラルにとっての必要悪こそがガノンではないか」ということであった。

 

もし100年前にこんなことを口走れば、容赦なく葬り去られただろう。

それがたとえ姫のお気に入りの近衛騎士であっても、だ。

 

しかしハイラルの有力貴族は大半が国外へ逃亡してしまったし、王族もゼルダを除いて生き残った者はいない。

 

100年前のよくわからない土地に船を使って戻ろうとする貴族がどれほどいるものか。

魔物を蹴散らす気概があればできるだろうが、無理だろうとリンクは考える。

 

つまり、当代のゼルダに王家の今後を決める権利が残されていた。

 

「~とはいっても~!」

ゼルダが頭を抱える。

「姫巫女としての修行ばかりでまったく政治のことがわからない私に、どうしろと言うのでしょう」

おおきなため息をつくゼルダの元へ、金髪の剣士が駆け込んできた。

 

「姫様、全員目を覚ましましたよ」

碧眼をきらきらさせながら、息を弾ませるのは今回の対ガノン戦で功績をあげたリンクだ。

 

100年の眠りから目覚めた勇者リンクは、みごと四神獣を解放した。

 

巨大な怨念と化した元盗賊王ガノンを、ひ弱なハイリア人一人で討伐するのは難しい。

そこで古代の叡智を結集して神獣という巨大からくりを作ったのであるが、すべてガノンに乗っ取られたのである。

 

そもそも1万年前の戦いで圧勝したという思い上がりが、このような事態を招いたともいえる。

 

敵の手に落ちたからくりたちを、こちら側へ取り戻そうと唱えたのがゼルダ姫であった。

 

ゼルダは当時の厄災を目にしていたから、神獣に搭乗した英傑たちが命を落としたものだと考えていた。ガノンの性質上、神獣内部は阿鼻叫喚の地獄となっていることも想定済みである。

 

それがどういうわけだか、リンクが乗り込んだときに英傑たちの体はそのまま残っていたらしい。

1人1人丁寧に運び出していたというから、本当に驚いてしまったのだ。

 

普通の魔物から傷を受ければ、通常通りに傷がつく。

 

しかし、カースガノンというガノンの分身から傷を受けた英傑たちは、体が変質していたのかもしれない。

 

とにかくゼルダは4人の遺体に魂を結び付けて復活させた。

「リンク、どうなっても知りませんからね!」

「大丈夫です、姫ならできます!」

リンクが間髪入れずに叫ぶ。

「リーバルとの手合わせが済まないと、俺が死に切れません!」

「私だって復活したばかりなのに、なんなのよ~!」

 

ゼルダは修行の時以来の必死な顔に汗やら涙やら鼻水を垂らしながら、複雑な手の印を組みつつ超常的な力を発揮していく。当然ある程度長い時間をかけて行うものであるし、集中力も問われる。

 

リンクは姫を励ましながら、城にいた魔物の食料を巻き上げて料理やフルーツケーキを作り補助していた。

 

死者をよみがえらせることは自然の摂理にそむくことだが、一代に限って万能の力を望んだゼルダはやらざるを得ない。否、といえばリンクが無言でゼルダの顔を見つめてくる。

 

(できないとは言わせない。やるのです)

 

100年前からは想像もできないほど頑固になった勇者に、ゼルダは根負けしたのである。

 

ハイラルには力と勇気と知恵をつかさどる三柱の女神がおり、歴代の姫巫女は知恵のトライフォースを授かった。

 

ここで頭を抱えている姫は、100年前どの力にも目覚めず苦労していた。

 

力、勇気、知恵にゆかりある泉をすべて巡った結果、ゼルダは知らぬ間に完全なるトライフォースを手に入れていたのである。万能の力を手にし、何をなすのも容易いと考えていた。

 

一騎当千、無双ともいうべき活躍をしたリンクに報いねばならない。

そう思って褒美を聞いたところ、頼まれたのが英傑たちの復活であった。

「プルア~、若返り実験だけじゃなく蘇生までやりなさいよ~ッ!!」

ゼルダは髪を振り乱し、リンクはフルーツケーキで姫をおだて続ける。

 

そのころ、某研究所では…

「へっくしゅ!へくゅ!」

銀髪の小柄な女の子が何度もくしゃみをしている。

「所長、そんなかっこだから風邪ひいたんですよ」

傍らにいる男がふかふかのはんてんを手にして着せようとする。

 

「それ、デザインダサいから嫌よ」

あっかんべーをしながら、プルアはつぶやく。

「またこき使われそうだから、早めに寝よッと」

資金をエサにして何か無茶を言われたら大変だから。

プルアは自分以上の厄災が復活したことに、いまだ気づいていない。

 

数日後、崩壊したハイラル城にて

 

「相棒、寝すぎて体がいてぇよ」

巨体をゆすりながらダルケルが起き上がった。

 

「また君の顔を見ることになるとは。嬉しくてたまらないよ」

紺の羽の鳥人がドアの傍らで眉間にしわを寄せている。

 

ウルボザは上機嫌でゼルダに飛びつき、美しい髪をすいている。

ミファーはまだうまく腕が動かないといって、陰で休んでいた。

 

ゼルダは英傑たちを復活させたが、彼らにこうも話した。

眠りから覚めたリンクは例外として、もしかすると寿命がそれほど長くないかもしれないということ。

 

そもそもなぜ肉体の損傷がひどくなかったのか、ガノンによる魔障の影響なのかはわからないということ。

 

「こればかりは経過を見ながら、私も調べます」

ゼルダは胸を張った。

 

「頼りにしてるぜ、さすが姫さんだ」

ダルケルが上機嫌に笑うと、リンクに支えられながら小柄な影も姿を現した。

「もういいの?ミファー」

ええ、とはにかんだ少女はよろめきながら背もたれのついた椅子に掛けた。

 

「姫はこの国をどうするのでしょうか」

ゾーラの姫がおずおずと聞く。

「100年前は王国があったけど、どうするべきかねぇ」

ウルボザがゼルダの肩をもみながらつぶやく。

「私もこれまでは宗教面でのみ関わっていましたが、今後は実際の国政にも携わりたいと思います」

ゼルダの目はやる気に満ち溢れているが、薄暗い影も感じられた。

 

リーバルはふっと笑って立ち上がる。

「ま、姫は根っからの研究者だよね」

羽に包まれた腕をゆったり広げながら、紺色の羽をもつ鳥人は話し続ける。

 

「僕が思うに、マツリゴトというのはドロドロしていてつかみどころがないものさ。いざとなったら国民の一部が死んでも為政者というのは平気な顔をしていないといけない」

 

農政、軍事、税務、占術、建築…とリーバルは思いつく限り指折り数えあげる。

 

大きく広げられた腕はどこまでも暗く、迫りくる黒い霧のように揺らめく。

ゼルダは息をのんだ。

 

「生きとし生けるものを救いたくてたまらない、うぶな姫にはたしてつとまるものかな」

リーバルの翡翠色の目がギラギラと姫の瞳を射た。ゼルダは顔を赤らめ、下を向いてしまった。

 

「ちょっと、リーバル。言い過ぎよ」

ミファーが思わずとがめる。

「ごめんごめん。不得意なことまでしょい込む必要はないと思ったんだよ」とリーバルは言った。

かくいう僕だって、力仕事や熱い場所にいることとか苦手はあるんだよ、と笑う。

 

ゼルダは思わず目をぱちくりさせた。

「リーバルにも不得意な事があるんですか?」

「当たり前だよ。ゾーラみたいに泳げないし、ゴロンシティに行ったら焼き鳥になる」

「いつも涼し気な顔をしてるから、なんとも思ってないのかと」

「鉱石の採掘なんて絶対にやりたくない。飛んでくる破片も怖いし、鉱山の爆発も嫌だ」

 

ミファーもにこにこしながら、

「私も臆病者で、カースガノンと戦ったときなんかすごく怖かったですよ」

「嘘。ミファーはぜったいそつなくこなすと思ってました」

「ううん、最初は怖くてルッタの中で逃げ回っていて…」

 

リンクがふっと顔をあげた。

「でも水のカースガノンはだいぶ弱っていたよ。ものすごく大きい仮面で顔を隠していたし、かなりやせ細っていたし」

すごいマッチョな敵が出てくると思ってたよ、とリンクが言うとミファーが慌てる。

 

「もとからそんな姿だったわ、私が反撃しまくってぼりぼりの姿にしたわけじゃないからね!」

「ボリボリにしたんだ!」

リンクが目をキラキラさせると、ミファーの顔は真っ赤になる。

 

「違うの、間違っても相手の顔にかみついたり、力を流し込んで相手の力を削りまくったりとかしてないから!」

普段はつつましく閉じられた唇からぎざぎざの歯をのぞかせてミファーが言いわけしている。

 

「なんだ、ミファーも獅子奮迅の戦いをしていたということだな!」

リーバルが笑う。

「リーバルもうるさい!」

ミファーは目に涙をためて、きっとリーバルたちを見る。

「いやいや、泣いてめそめそしながらガノンにやられたんじゃなくてよかったと思ったのさ」

リーバルは大きな手でミファーの頬に触れる。

 

「君は強くて素敵な、美しいお姫様さ」

ミファーは顔を真っ赤にしたまま、椅子にもたれて顔を隠してしまった。

「もしも君が苦しみながら息絶えたのであれば、水のカースガノンを今からでも消し炭にしてやるからね」

 

リーバルのいたずらっぽい流し目に、ミファーは何も言えなかった。

 

「俺もちょうどガーディアンとやりあっていたから、全員を助けに行けなかったみたいだ」

すまなそうなリンクをちらりとみながら

「ああ、のんきに100年も眠れる美女やってたのかと思ってたけど、この傷だからね」

リーバルは遠慮なくリンクの服をがば、とめくる。

 

プルアの手記には挫傷だらけだと書かれていた。

 

皮膚表面の切り傷にとどまらず、ところどころ内臓の損傷もあったようだ。運び込んだシーカー族もそうとうの修羅場を切り抜けた、肝の据わったものを選んだと考えてよい。

 

鈍器でなぐられたその体にはところどころ裂け谷のような傷もあり、当時のシーカー族の医療技術であっても治しえないレベルであった。運んだ者も死体安置所でないのが解せなかっただろう。

 

頭にもダメージがあったらしく、記憶障害と人格の変容などがあった。

体の大部分は治ったが、皮膚のひきつれやリンクの指が滑らかに動かないところがある事もリーバルは気づいている。

 

こんな状態でよくもまあガノンを討伐できたよなとリーバルは言う。

 

さっきまで顔を赤らめていたミファーは、幼馴染の男の肌のすさまじさに青ざめてとうとう気絶してしまった。

 

「リーバル、刺激が強すぎんだよ!」

ウルボザの鉄拳がリーバルに見舞われ、軽く吹っ飛ぶ。

 

ゼルダは久しぶりに声をあげて笑った。今までは姫らしく、と言われて微笑むことしかしなかったのに、お腹のそこから笑った。

 

100年前に止まった時が、動き出す。

 

「そうさ、姫さんひとりで抱え込まなくていいじゃぁないか。そのために俺たちはここにいるんだ」

ダルケルがガハハと笑う。

 

「おひぃさまはまじめすぎるよ、別にあたしらだってすぐにお別れというわけじゃないんだから」

ウルボザはゼルダの肩を叩いたり、傷だらけの腕をさすったりしている。ガノンとの戦いでゼルダも無傷とは言えなかった。

 

「この国をどうするか、時間をかけて考えよう」

赤い髪を揺らめかせながらウルボザが手を打った。

 

「さぁさぁ、辛気臭い顔をしていないで、食事だよ」

リンクをはじめとして、あわただしく食事の準備が始まった。


 
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