No.109554

真・恋姫†無双 ニコ生 SS合同誌企画 サンプル

とりあえず、自分が書いた分 魏延メイン

2009-11-29 13:38:59 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:2757   閲覧ユーザー数:2514

 

宮中の庭園で轟音が鳴り響いていた。

焔耶の鈍砕骨が地面を穿ち、もうもうと粉塵を上げている。

「やったか!?」

「甘いぞ・・・」

すっと焔耶の首に刃が当てられる。

(粉塵に紛れて後ろに!?)

「このぉ!!!」

頭を下げ、後ろに向かって手を支点に蹴りを放つ。

しかし、その蹴りもやんわりといなされてしまう。

そのまま武器を手に立ち上がる。

「焔耶、お前は攻めが直線的過ぎるんだ、もう少し相手の虚をつく戦い方も必要だぞ」

そう言われて、嫌いな奴の顔が浮かぶ、罠ばかり仕掛けてまともな実力勝負なんてしやしない。

苛立ちの浮かぶ顔を見て、愛紗は溜息を一つついた。

「まぁ、わからんでもないが・・・」

「お疲れ様~~♪」

気の抜けた声で話しの腰を折られてしまった。

そんなことを気にした様子もなく、声の主である桃香はお茶の載ったお盆を2人に差し出す。

「こんな暑い中大変だね~」

「いえ!桃香様、この程度」

桃香に対する変わり身の早さに愛紗はまた溜息をついた。

「相変わらずだなぁ」

「ご主人様!?」

突然声をかけられ、愛紗は驚いた様子で一刀に向き直った。

「驚かさないで下さい」

「いや、桃香と一緒に来たんだけど」

「こ、これは失礼を」

「いや、いいんだけどね」

そう言う一刀の服を桃香がクイクイと引っ張っている。

「ご主人様もは~や~く~」

桃香に引かれるまま、木陰で腰を下ろす。

炎天下に寒気を感じ、一刀はばっと自身に刺さる視線の先を追った。

焔耶に露骨に恨めし顔で睨みつけられている。

「な、なに?」

「なんでもない!」

そんな険悪なムードに挟まれた桃香はそれに気づく事無くお茶菓子にかぶりついている。

「し、しかし愛紗と調練なんて珍しいな、今日は蒲公英は一緒じゃないのか?」

その空気に耐えかね一刀は口を開いた。

その言葉を聞くと、焔耶の不機嫌な顔が更に険しくなる。

「ふざけるな!! あいつと調練? あんなの子供の遊びに付き合ってるだけだ!」

焔耶は一刀の胸倉を掴み引き寄せる。

「あぁ、だめだよ焔耶ちゃん!」

「桃香様!なぜこのような輩の肩を持つのですか!?」

一刀の体を放り出し、焔耶は桃香に向き直る。

「私たちがこうしていられるのはご主人様のおかげなんだから、それに、焔耶ちゃんもご主人様のこと嫌いじゃないでしょ?」

焔耶の顔が真っ赤に染まる。

桃香と一刀とすごした一夜が頭に過ぎる。

「あ、あれは場に流されたというか・・・」

そこまで押し黙っていた愛紗が口を開く。

「まぁ、ご主人様の女癖の悪さも原因の一つでしょう」

「俺が悪いのか!?」

盛大に尻餅をつきながら、一刀は悲鳴じみた声を上げる。

そんな一刀を愛紗は冷たい視線で射抜く。

「決して無関係というわけではないのでしょう?」

「それはそうだけど・・・」

一刀自身、身に覚えがないわけではない。

それが原因で焔耶に追い掛け回された事もある。

「そもそも、この好色漢に媚びへつらうなんて、私はごめんです! 桃香様!」

そう言って桃香に詰め寄る焔耶を愛紗が制する。

「ご主人様はどう思う? 焔耶ちゃんはあぁ言ってるけど」

「どうって・・・」

焔耶の一番は厭くまで桃香なのだ、そんな事は鈍感な一刀でもなんとなくわかる。

ただ、それを言葉にして説明することはとても難しい。

なにせこの桃香である、ちょっとした説明で理解できるとは思えない。

一刀はただ黙って焔耶の顔を見つめることしか出来なかった。

焔耶はその顔を睨みつけ、3人に背を向けた。

「まいったな・・・」

一刀が小さく溜息をつくと桃香が口を開いた。

「焔耶ちゃんね、多分ご主人様の事が気になるんだよ」

あまりに突拍子もない言葉に愛紗も目を丸くしている。

「子供みたいだよね、好きな人に意地悪しちゃうなんて」

クスクス笑う桃香を見て愛紗が今日何度目か知れない溜息をついた。

 

 

「くそっ!」

焔耶は厩舎の壁を殴りつけていた。

なぜ、こんなにイライラするのか、焔耶はわかっている。

自身の微妙な立ち位置。

想い人の一番になれない自分、恋敵に引かれている自分。

想いばかりが一方通行で、自分は誰かの一番になれない。

ふと、足元に水滴が落ちた。

それが自分の涙であることを理解するのに、少々の時間を要した。

もう一度厩舎を強く殴る、壁に大きくヒビが入った。

「こぉらぁ~~~!!!」

音を聞きつけ、蒲公英が姿を現した。

嫌な奴に見つかったと、焔耶は顔をしかめた。

「あんた、大事な厩舎になんてことしてんのよ!!」

険しい顔で焔耶に詰め寄る。

焔耶は顔を見られない様に背を向ける。

「何よ!あんたごめんなさいも言えないの!」

「うるさい・・・」

「うるさいって何よー!!」

焔耶はそのままこの場を去りたかったが、後々蒲公英に逃げたと評されるのが癪でそれが出来なかった。

「ほんっと可愛くな~い、そんなんだからご主人様や桃香様に相手にされないんでしょ!」

ガンッと殴られた様な衝撃が焔耶を襲った。

衝撃はそのまま怒りに変わっていく。

「貴様に・・・、何がわかる!!!」

蒲公英に向かって拳を振り上げる。

「待て!」

怒号に焔耶の手が止まる。

「・・・桔梗様」

「焔耶よ、どうしてお主はそう血気盛んなのだ?」

バツが悪そうに焔耶は目を逸らす。

「全く、蒲公英よ少し2人にさせてもらえんか?」

「いいけどぉ、壁はちゃんと直してよ?」

まだ、納得のいかない様子で蒲公英は口を尖らせ、その場を去った。

それを確認して、桔梗は焔耶の真正面に立つ。

「・・・あまり、物にあたるのは関心しないぞ」

「放っておいてください、桔梗様」

「そうもいかぬだろう、戦場でまでそんな調子を持ち込まれてはこちらが迷惑する」

焔耶は黙って地を見つめている。

「なぁ、焔耶よ、おぬしの気持ちもわからんではないが・・・」

「わからないでしょう!!」

こんなもやもやした気持ちが簡単に人に理解できるなら、自分はこんなに悩んでなどいないのだ。

「随分と思い詰めとるようだな、お館様のことであろう?」

焔耶は一刀の顔を頭に浮かべ、苦悶の顔になる。

自分の中には確かに一刀に好意的な部分がある点もわかる。

だが、それを認めてしまうと自分がまるで自分でない生き物に変わってしまうような気がして、少し怖かった。

「あいつさえいなければ、私はこんなに苦しまないで済むのに、桃香様にももっと素直になれるかもしれないのに・・・」

こんな台詞を言ってるのが恥ずかしいやら情けないやらで、涙をぽろぽろとこぼしていた。

「まぁ、何事もそう上手くはいかんだろうに」

桔梗はゆっくりと空を見上げて呟いた。

「今、こうして居れるのもお館様のおかげ、お主と桃香様が出会えたのもひとえにお館様のおかげではないのか?」

「わかっております!!! でも・・・」

「あいつが私を狂わせるんです、あいつに関わってしまってから私はもう私じゃない気がして」

桔梗はクスリと笑うと、焔耶の顔を自分の方へ向ける。

「知っておるか? 『それ』を受け入れると、世界は幾分か輝くぞ」

「・・・詭弁です」

「それは御主しだいじゃ」

桔梗は焔耶の背中をポンっと1回叩くと、そのまま立ち去ってしまった。

 

 

「桃香様!」

「あ、愛紗ちゃん。 どうしたの?」

「焔耶を見ませんでしたか!?」

「焔耶ちゃんがどうしたの?」

「それが、月と詠が焔耶が武器を持って外に出るのを目撃したそうで」

焔耶の武器はただでさえ大物である、それを持って外に出たということはただ事ではない。

「私、皆を集めてくる!」

「いえ、まだ焔耶の行き先がわからない以上は大事にしない方がいいかと」

余計な混乱を招く結果を避けたい愛紗は桃香をなだめる。

「とりあえず、ご主人様と朱里ちゃん辺りには相談しとこうよ」

「そうですね」

愛紗は一刀と朱里を探しに部屋を出た。

 

半刻後、一刀、朱里、桃香、愛紗、桔梗が顔を会わせていた。

最初に口を開いたのは桔梗だった。

「あやつも子供ではないのだ、そのうち戻ってくるのではないか?」

「いや、あまりよろしい状態ではないな・・・」

一刀が重々しく口を開いた。

「何故ですか? なにか根拠でも?」

「いや、厭くまで俺の世界での話しなんだが、魏延って武将は反骨の将と言われていてね」

「はんこつ・・?」

桃香はオウム返しに聞いてくる、その口調からは到底今の話を理解できたとは思えない。

そんな中、朱里が慌てふためいた様子で立ち上がった。

「はわわ・・・、ご主人様、それって」

「それは厭くまでお館様の世界の話であろう? わしらの世界がそうなるとは限らん」

桃香はつんつんと愛紗の肩をつつく。

「で、どういうことなの?」

愛紗のやや険しい顔に大体察しがついたのか、桃香は小声で質問した。

「焔耶が・・・、裏切ってどこかに行ってしまったかもということです」

「えぇ!?」

「落ち着かれよ、まだそうと決まったわけではない」

「目撃した月さん達はなんて言ってました?」

朱里は自分を落ち着かせるようにゆっくりと言葉を紡いだ。

「多少思いつめた表情ではあったが、別段気にするほどでもなかったそうだ。 ただ、武器に目がいってた事を考えると当てにはならんが・・・」

愛紗も重々しく口を開いた。

「とにかく、今はこうしていても仕方ない。 県境に伝令を走らせて、焔耶を見たか確認させよう」

一刀は朱里と部屋を出て行こうとする、その瞬間に兵士と目が合った。

息を切らした様子で一刀に駆け寄ってくる。

「報告します!」

「どうしたんだ?」

「魏の領土との県境に常駐させていた部隊が壊滅しました!」

「なんだって!」

「曹操さんの軍勢ですか!?」

兵士はやや言いずらそうに言葉を選んでいる。

「いえ、部隊を壊滅させたのは魏延様です・・・」

最悪の事態が起こってしまった。

桔梗は唇をかみ締め立ち上がった。

「どこへ行かれるのですか?」

「あの馬鹿を連れ戻してくる」

「お、落ち着いて・・・、焔耶ちゃんにだってなにか事情があったんだよ、そうだよね? ご主人様」

桃香は泣きそうになるのを堪えながら一刀にすがりつく。

しかし、一刀は黙ったまま下を向いている。

「なんとか言ってよ! いつもみたいに大丈夫だって笑ってよ!!」

「桃香様、落ち着いてください」

愛紗は桃香の肩を抱いて部屋へと戻っていった。

 

 

「華琳様、どうしても華琳様にお会いしたいという者がいるのですが・・・」

「なに? 誰が来たというのかしら?」

口篭った桂花に華琳は問いかける。

「曹操殿はいるかー!」

大声を上げて焔耶が宮廷に入ってくる。

「華琳様!下がってください!」

春蘭が侵入者に剣を構える。

「我が曹魏の領に入ってくるばかりか、宮中に押し入るとは」

「確か、魏延と言ったな? 劉備の配下がこの場に何の用だ?」

秋蘭は落ち着き払った様子で、対峙している。

「私は魏に降る」

「何!?」

春蘭は驚いた様子で剣を構えている。

「春蘭、剣を納めなさい」

「しかし華琳様・・・」

「納めなさいと言ってるの」

「はっ!」

少ししょぼくれた様子で剣を納める春蘭に焔耶は堪らず吹き出した。

「な、何がおかしい!」

「姉者」

秋蘭の嗜めと華琳の視線で春蘭は完全に沈黙した。

「で、蜀の武将が私に仕官したいと?」

「そういうことだ」

「信用しろと?」

「してもらうしかないな」

華琳は焔耶の目をじっと見つめる、その奥にあるものを確かめるように。

「桂花、どう思う?」

「罠の可能性は低いですね、劉備が配下を投げ捨てるような策を行使するとは思えません」

「魏延個人の策という可能性は?」

「余りにも無謀すぎます、見返りよりも背負うものが多いですから」

華琳は満足そうに頷くと魏延の前へとゆっくりと歩きだす。

「そうね、仕官の話は受けてあげる。 ただし、試用期間を設けるわ、精々頑張りなさい」

「ありがとうございます!」

焔耶は深く頭を下げ、謁見の間を出て行った。

「念のため、誰かをつけましょうか?」

出て行ったのを確認してから桂花が呟く。

「そうね、霞あたりをつけておきなさい」

「華琳様!何故、あのような輩を・・・」

春蘭は声を張り上げ、問いかける。

「わからない? あの子、うちに仕官する気なんてないわよ」

「では、虚偽だったと?」

桂花も驚いた様子で聞き返す。

「桂花、あなたは利と理で考えるから見逃すのよ」

「姉者の様に感覚任せでも見逃す者もいるがな」

「秋蘭!お前はわかったのか!?」

「当然だ、戦場で見た奴とは幾分か雰囲気が違ったからな」

華琳は満足そうに頷く。

「真意はわからないけど、このまま魏延を置いておけばいつか手痛い目に合うわ」

「では、何故仕官を受けるなどと?」

「劉備の手札を知るには恰好の材料よ」

 

焔耶は魏領内の邑を見て回っていた、別に桃香に情報を持ち帰ろうというわけではない。

恐らくあの国に自分の居場所はもうないだろう、と考えているうちに足が勝手に動いていた。

「ははっ・・・、私も案外弱いな、自身で決めた事に疑問と後悔感じるとは」

「いやいや、人間そんなもんやで?」

「!?」

突然肩を叩かれ焔耶は驚きつつも反射的に拳を飛ばしてしまう。

それをやんわりとかわされ、逆に喉元に手を入れられる。

「元気ええやんか」

張遼が不敵に笑みを浮かべながら手を引く。

「あっちの国から来たばかりやから、ついててやり言われてな」

「見張りってとこか」

「有り体にいえばそうや」

張遼は焔耶の腕を引っ張り茶屋に連れ込む。

「なぁなぁ、なんでうちんとこ来たん?」

「言いたくはないな・・・」

「そう言いなや、これからは背中を預ける仲間やんか」

けたけたと少年のように笑う張遼に焔耶の警戒心も次第に薄れていった。

「桃香様もあの好色漢も優しすぎるんだ、その優しさが人を傷つけるとも知らないで・・・」

「へぇ、まだ未練あるんや?」

「未練など!」

「ウチなら、見限った君主には間違っても様なんて付けへん」

「あ・・・」

焔耶は失言に気づき、顔を伏せる。

「えぇって他言する気はない、ウチもたまに月のトコが良かったって思うときあるしな」

「だが、あの国に私の居場所はもうない・・・、失うのが怖くて手放したのは私だ」

「何を失うんや? 自分から捨ててきたんちゃうん?」

焔耶はまるで遠い昔のことを思い出すかのように、虚空を見つめ目を細めた。

「失うのは・・・、私自身だ」

「はぁ?」

「あそこにいると、私は自分がどんどん失われていくのを感じるんだ」

「そんな事あるかいな、自分はいつまでも自分や、失うとかそういうもんやあらへんやろ!」

「昔の私は戦場に生きていた、桃香様の近くにいると死ぬのが怖くなったんだ、臆病以外の何がある!」

「あぁ、それは臆病ちゃうよ、ただ守りたい物が出来たっちゅーだけや」

張遼はポンポンと焔耶の肩を叩いた。

「守りたいもの・・・?」

その言葉の意味は今の焔耶には理解出来なかった。

「後は自分で考えたらえぇ」

それから2人はしばし黙り込んで、茶に口をつけていた。

ふと入り口の方が騒がしいと目をやると、凄い勢いで楽進が走っていくのが見えた。

「な、なんだ?」

「ありゃ、誰かを探しとんね。 お~い凪っち~」

その声を聞くと、楽進は張遼のほうへと駆け寄ってくる。

「探しました、華琳様がお呼びです。 魏延殿も一緒に」

「案外、早かったな」

張遼はぼそっと呟くと歩き出した。

焔耶もその後に続く。

 

「来たわね」

玉座に腰掛け、杯を片手に曹操は2人を見下ろしている。

曹操の傍にはいつものジュンイクの姿はなく、郭嘉が変わりに立っている

「何か、御用ですか?」

「そら、用があるから呼んだんやろ?」

曹操は玉座の上で足を組みなおし、魏延を見つめる。

その眼差しになんとなく威圧感を感じ焔耶は目を逸らした。

「本当に喰えない子ね。 まぁいいわ、魏延には戦場に出てもらって、私への忠誠を示してもらうわ」

(来た・・・)

焔耶の唇の端が少し釣りあがったのを曹操は見逃さなかった。

「そんなに戦場に出るのが楽しみ?」

「あぁ、私は戦いたくてここに来たんだからな」

「それが、劉備と戦うことでも?」

「あぁ、しかし随分とやり口が悪質だな」

「その辺の野盗の相手をさせても仕方ないでしょう? 元味方に対して剣を振るえるか、それを見るのよ」

郭嘉は満足そうに頷いている、どうやら郭嘉の立案らしい。

「出立は明日、今日は鋭気を養い、覚悟を決めておいてください。 私と張遼様も明日は同行します」

「・・・わかった」

焔耶は1度頭を下げると、そのままその場を後にした。

「えぇんか? あいつ多分帰ってまうで」

「いいのよ、2人の話を聞くに私のモノには出来ないみたいだし、劉備との決戦を目前に不和の種を置いとくつもりはないの。 ここで劉備に牽制しておくわ」

霞の眉がぴくりと動いた。

「あちゃー、聞かれとったか・・・。 あんま良い趣味とは言えへんな」

曹操は小さく溜息をついて口を開いた。

「君主として知っておかなきゃいけないことはたくさんあるの、これはその一環。 それに兵に尾行されて気づかない彼方じゃないでしょ?」

「はいはい、うちの負けや」

「よろしい、明日の働き期待してるわよ」

「あんまこういう戦は性にあわんな」

「稟なら私の精兵を無事に帰らせれる、霞はこの国では誰よりも冷静に武を振るえる、私の選択は間違っていないはずよ?」

「ま、善処するわ」

霞も謁見の間を出て行く。

少し薄暗くなった空に一番星が輝いていた。

 

 

 

「桃香、まだ出てこないのか?」

「はい、あれから2日ですが、部屋に閉じこもったまま食事も取っていません」

沈痛な面持ちの愛紗が一刀と肩を並べて歩いている。

「心配だな、こじ開けられないのか?」

「出てきたくない人間を引きずり出しても、問題は解決しません・・・」

「でも、このままじゃ・・・」

重たい空気に潰されそうになりながら、2人は桃香の部屋の前で溜息をついた。

こうしていても仕方がないと、一刀は扉を叩く。

「桃香? 頼む出てきてくれ、皆心配してるんだ」

しかし、返事はない。

「もしかしたらヤバイんじゃないか!?」

「ご主人様、離れてください。 はぁぁぁ!!」

愛紗は自慢の武器で扉を吹き飛ばした。

部屋に押し入ると、目を腫らした桃香が倒れている。

「桃香!」「桃香様!!」

2人は慌てて桃香を抱き起こす。

近づくとスースーと規則的な寝息が聞こえた。

「よかったぁ・・・」

一刀はその場にへたり込んでしまう。

「泣きつかれて眠ってしまったようですね」

愛紗の顔にも安堵が浮かぶ。

そうこうしている内に部屋の前に人だかりが出来始める。

「愛紗の部屋で寝かしてやってくれないか? みんなには俺が言っておくから」

「わかりました」

愛紗が桃香を抱き上げ歩き出した瞬間、朱里と雛里が青ざめた表情で駆けつけた。

「あれは俺たちが壊したんだ、何も問題はないよ」

「ち、違うんです! 焔耶さんが!」

「攻め込んで来ました!」

「なんだって!?」

 

「駐留部隊は何をしていた!」

桔梗の怒号が響いている。

「それが、先日の怪我も癒えてないからあっさり通しちゃったみたいなのよね」

詠の報告で桔梗も黙ってしまう。

(焔耶よ、お前はどこに行こうというのだ・・・、お前の居場所は桃香様の傍だろう?)

「それから、面白い報告が入ってるわね」

詠は桔梗に耳打ちをする。

「それは本当か?」

「まず、間違いないわね」

「そうか」

桔梗の顔が明るくなる。

「まだ、なんとかなるかもしれんな」

 

 

張遼と郭嘉は焔耶を前方に置き、後列から大局を見守っている。

城を前に焔耶はすぅと大きく息を吸い込んだ。

「我、魏文長! 天の御使い 北郷一刀並びに劉備玄徳に一騎打ちを申し込む! 臆さぬならば出て来い!!」

郭嘉はそれを聞いて唖然としている。

「まさか、大して武もない男を一騎打ちに借り出そうとするとは・・・、武人が聞いて呆れますね」

「文官がよう言うやないか」

「私は一般論を申したまでです」

「それより、退却の機会を逃がしたらあかんで?」

張遼は前方の焔耶の姿から目を離さなかった。

 

「敵軍総勢5000、率いる将は焔耶さんと張遼さんですね」

「攻めてくるには数が少ないね・・・、どう思う?雛里ちゃん」

朱里と雛里は顎に手を当てて頭を全開で稼動させている。

「やっぱり大きな戦をするつもりはなくて、何か別の目的が・・・」

そこへ、伝令が駆けて来る。

「申し上げます! 魏延様が北郷様と劉備様に対して一騎打ちを申しこんでおります!」

「え!?」

新しい情報で更に2人の頭は加速する。

「始めからこれが目的で・・・?」

「始めから・・・どこからが?」

数分後2人は同時に声を上げた。

『もしかして!』

2人はその考えの裏づけを得るために部屋を飛び出した。

「焔耶さんはご主人様と戦いたかった、その為にわざわざ曹操さんの所へ行った?」

「うん、後はどうして戦いたいのかその理由だけ」

 

 

「ご主人様! 危険です!」

「それでも、俺は焔耶と話がしたい」

護身用の剣を手に一刀は城を出ようとした時、服の裾が引っ張られた。

「大丈夫、いなくなったりしないよ」

振り返るとふらつく足で桃香が裾を掴んでいる。

「私も呼ばれてる、行かなきゃ」

愛紗が桃香の肩を掴む。

「一国の主が一騎打ちにノコノコでていくなんて、普通ありえません」

「でも・・・」

「桃香、ここは俺に任せてくれ。 必ず焔耶も連れて帰ってくるから、な?」

泣きそうな顔で桃香は首を縦に振った。

そして一刀に自分の腰にある剣を差し出した。

靖王伝家 劉備が常に携える宝剣。

「絶対に返してね? 焔耶ちゃんと一緒に・・・」

「あぁ、まかしとけ」

一刀は優しく微笑み、桃香を抱きしめた。

そして、一刀は城を出て行った。

 

 

「出てきたか・・・、北郷一刀!」

武器を構え、焔耶が威嚇する。

「桃香様はどうした?」

「ここにいる」

靖王伝家を抜き放ち、正眼の構えで対峙する。

「離れても志は共に・・・か、私には縁遠い事だな」

「戦う前に2,3いいか?」

「なんだ?」

「どうして、こんな事したんだ?」

焔耶の顔が一瞬曇り、厳しい目つきが一刀を捉える。

「私は、弱くなった・・・、桃香様の・・・お前の傍にいることで!」

「何?」

「私は気高い自分を取り戻す!」

「俺を切れば、取り戻せるのか?」

「少なくとも、一歩前に進めると信じてる」

そういう焔耶の瞳から雫が零れ落ちる。

「この涙も!未練という名の私の弱さ!」

焔耶は鈍砕骨を振りかぶる。

放たれた重たい一撃を一刀は体を横に転がし避ける。

(当ったら死ぬ・・・!)

死が近づいてくる、そんな恐怖が一刀を襲う。

ふと脳裏に桃香の泣き顔が浮かぶ。

「ここでやられる訳にはいかないよな」

すぐさま体勢を立て直し、焔耶に向かって走り出す。

焔耶は鈍砕骨を持ち上げ一刀の体をなぎ払うように振る。

一刀は体勢を低くし、それをすんでのところでかわす。

頭の上で大きく風を切る鉄の塊。

そして下から思い切り切り上げる。

「甘い!!」

鈍砕骨の反動を利用して、焔耶は体を回し一刀の胸に蹴りを放つ。

一刀はそのまま後ろに吹っ飛ばされる。

転がりながらも反動で一刀は立ち上がる。

「くっそ!」

始めから勝てる勝負ではないことはわかってる、戦の経験、体格、どれをとっても一刀に勝てる要素がない。

(でも、ここで桃香との約束を違えるわけにはいかない・・・)

再び剣を構え、焔耶に向かって走り出す。

「俺は、焔耶を連れて帰るって、約束したんだ・・・」

「!?」

その言葉に焔耶の動きが止まる。

すんでの所で一刀の一撃を止める。

「何でだ! あの国に私の居場所はもうない!」

「例え裏切られても、桃香は裏切らない! 」

「私はあの国の兵を傷つけ、魏に降った! それでもか!」

「さっき桃香に様をつけた! まだ気持ちはここにあるんだろう?」

「私は・・・」

焔耶は武器を落とし、その場に膝を突く。

「そこまで!」

いきなりの制止の声に2人は同時に声の主の方を見やる。

「桔梗様・・・」

「焔耶よ、お前は本当に馬鹿だな。こうでもしなきゃ自分の気持ちにも気づけんか?」

「・・・何のことですか?」

焔耶は目を逸らしながら答える。

「お前、駐留部隊の奴らを誰も殺さなかったらしいな」

厭くまで優しい声で桔梗は語りかける。

「どういうことなんだ?」

「それは私たちが説明します」

朱里と雛里が続いて表れる。

「焔耶さんは、自身の気持ちの整理に曹操さんを利用したんです」

「私は、死ぬことを恐れた自分を恥じて、それを払拭したかった・・・」

焔耶の目からポロポロと涙が落ちる。

「お館様や桃香様と一緒にいたからそうなったなら、きっと戦えば・・・と?」

「はい・・・」

全員が言葉もなく、焔耶を見守っている。

一刀は子供のようにうずくまる焔耶に手を差し伸べた。

「桃香が待ってる、帰ろう」

「ちょい待ち!!」

「張遼殿・・・」

焔耶は顔を上げ、声の主に視線を向けた。

「そのまま、そいつをただ帰してはい終わりって訳にはいかんのや」

愛用の武器を構えた張遼が立っている。

「関羽がおらんのは残念やけど、魏延! 国に帰るんなら、ウチと勝負せいや」

「そちらでは世話になったしな、いいだろう」

「焔耶よ、あまり調子にのるでない。 お主にはまだ話があるんだ。 早く桃香様の所へ行け」

「いえ、ここはやらせてください、 張遼殿には世話になった。」

「筋は通してくれるやないかい」

魏延も武器を構える。

「はぁぁぁぁぁ!!!」

力任せに鈍砕骨を叩きつける。

それを後ろに飛んでかわし、武器を振り切った焔耶に向けて武器をを突き出す。

粉塵の中の影に武器が刺さる。

がきぃんと鉄が弾ける音がした。

「なんや!?」

粉塵が収まり中から出てきたのは、身の丈ほどの大岩だった。

「ちっ!目くらましかい!」

「私は・・・、もう負けない!!」

大岩を後ろから鈍砕骨で思いっきり叩きつける。

砕けた破片が張遼に襲い掛かる。

「賢しいわ!」

大きめの破片を叩き落としながら再度武器を構える。

「なんや、弱くなったなんて嘘っぱちやないか、機転もきく」

「弱くなったわけではないと、教えてくれたのお前だろう」

「せやった・・・な!」

神速の槍が焔耶を襲う。

大きな得物を持つ焔耶には裁くのは少しきつい。

肩や頬などに槍先が掠める。

だが、焔耶の瞳は張遼をじっと見据えている。

「あんた、死ぬのが怖い言うとったのにな」

「あぁ、怖いさ! だがな、私がいなくなって仲間を泣かす方がよほど怖い!」

「守りたいもん見つけたか」

「あぁ!」

それを聞くと、張遼は満足そうに微笑み、武器を納めた。

「さよか、ほんならあんたと仲間の力、次の戦場で楽しみにしてるわ」

「逃げるか!」

「ここであんたを討ち取った瞬間、うちが討たれてまうわ」

そういうと、後退をはじめる郭嘉の隊に向けて走り出した。

「終わったか?」

「はい・・・」

桔梗は一回焔耶の頭に拳骨を落とし、抱きしめた。

「心配掛けるでない、この馬鹿が」

桔梗の目尻には涙が浮かんでいる。

「焔耶ちゃん!!」

焔耶の耳に届いたのは、今一番聞きたかった人の声。

「桃香様・・・」

「よかった・・・、本当に・・・」

桃香は焔耶の胸に飛び込む。

「心配したんだよ? すごくすごく・・・」

「申し訳ありません、私は・・・」

これ以上の言葉が出てこなかった。

言わなきゃいけないことがあるはずなのに。

「・・・ありがとうございます」

涙を流して桃香の肩を抱きしめた。

「それから、お館様、すまなかった」

一刀は一回小さく頷いた。

「さて、本当に大変なのはこれからだぞ?」

「はい、頑張ります!」

夕日に映える焔耶の笑顔がとても眩しかった。

 

その夜

一刀がそろそろ寝るかと思いつつ仕事していると、部屋の扉が開いた。

「お館、その・・・話が」

「どうしたの?」

焔耶は顔を赤くしながら、入り口に立ち尽くしている。

「その、あ、ありがとうな、信じてくれて」

「俺より、桃香に言えよ、そういう事はさ」

「私は、きっとお前の事、好き・・・なんだと思う」

「へ!?」

「だ、だが勘違いするなよ! 桃香様の次にだからな!!」

慌てふためく一刀に焔耶が近づいてくる。

そして一刀の頬に短いキスをし、そのまま足早に部屋を出て行った。

一刀は固まったまま部屋に取り残された。

「ええぇぇぇぇぇ!!!」

宮中に謎の絶叫がこだまして、早朝から厳重注意を貰った一刀だった。

 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
26
2

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択