No.1094209

ソニア・シューレンの休日

砥茨遵牙さん

2軸のソニアと坊っちゃんがテオ様について会話する話。
テオ様は硬派な紳士です異論は認めない。(テオ様ガチ勢)
坊っちゃん→リオン
4様→ラス

2022-06-07 12:20:43 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:371   閲覧ユーザー数:371

グレッグミンスターマクドール邸前。

「あ。」

ムツゴロウ城から帰ってきたリオンとラスが玄関前でバッタリ会ったのはソニアだった。

「ソニアさん。」

「リオン。と、色男か。」

「こんにちは。」

リオンとラスが伴侶になってから三年経っているというのに、ソニアはラスを名前で呼ばない。

三年経ってソニアのリオンに対する態度は落ち着いたものになっていて、すっかりクレオと仲良くなっていた。今日も女性限定スイーツを二人で買いに行く約束をしていたのだとか。

しかし。

「な、んだと……!?」

「クレオさん本当に残念がってました……。」

屋敷に入って出迎えに来たグレミオからソニアに告げられたのは、クレオの不在。レナンカンプの辺りでモンスターが出て、その討伐を大統領から命じられたのだとか。クレオは正規の軍人ではないが、火の紋章の扱いに長けているためモンスター退治のみ請け負っているのだ。

クレオの不在にショックを受けたソニアがガクッと膝をつく。その女性限定スイーツは女性のみ二人ペアの限定販売だそうな。シャサラザード水上砦から久しぶりに戻って楽しみにしていたのに、と嘆くソニア。

ソニアの嘆く姿にリオンは恐る恐る土産の箱を出した。

「なんだそれは?」

「…都市同盟の拠点で作られた最新の焼きチーズタルト。」

「何っ!?」

ヒエンが軍主であるムツゴロウ城はスイーツ開発に余念がない。元々はスイーツ大好きなヒエンが命じて開発させていたのだが、女性陣の士気が上がるのとそれを求めて客が来るため一大行事になっている。戦の才能があるリオンと違ってヒエンは交易、商売に敏感だ。軍師が元々交易商をしていたせいか流行りは逃さない。ラスを客寄せに利用するほどしたたかなのだ。

箱を開けて中身を見せる。ムツゴロウ城からラスの力で転移してきたため、出来立てで買ったホールのチーズタルトがほんのり香って食欲をそそる。

「よければ、一緒に食べないか?」

「っ、いいのか?」

「元々グレミオとクレオへの土産だ。いいだろグレミオ?」

「はいっ。もちろんです。お茶淹れますね。」

「僕も手伝うよグレミオ。」

「ありがとうございますラス様。坊っちゃん、ソニアさんを客間にご案内してくださいね。」

「分かった。ソニアさん、こちらへ。」

「…邪魔する。」

リオンの後にソニアがついていき、客間に入る。来客用の椅子をリオンが引いて、どうぞと声をかけるとソニアが目を丸くした。何か失礼なことをしただろうかと首を傾げる。

「あ、いや、すまない。……あまりにも動作がそっくりだったから。」

「そっくり?」

「…テオ様に。」

「っ!?」

「テオ様も食事に行った時は必ず椅子を引いて私を先に座らせてくれていた。」

父らしい、とリオンは思い出す。父は己にも部下にも厳しいが飴と鞭は使い分けていたし、女性には優しかった。レディーファーストが身に付いていたのだ。

 

ソニアが椅子に座り、退屈だから話でもしないかと言う彼女の向かい側に座る。二人の共通の話題はもちろんテオだ。

そもそもリオンは以前からテオがソニアと付き合っていたのか意外だった。ソニアはかつてテオと並んで帝国六将軍と称えられたキラウェア・シューレンの娘。同僚であり戦友の娘の彼女とそういう関係になったのは何故か知りたかった。

「貴女から見て、父はどういう人だったんだ?」

「…テオ様は硬派で紳士的で、優しかった。母亡き後いきなり将軍となった私に声をかけてくださったのは、亡き戦友の娘だったから放っておけなかったそうだ。」

キラウェア・シューレンが亡くなった当時ソニアはまだ十七歳。リオンがリーダーになった年齢と近い。将軍の娘だからと祭り上げられいきなり要職についた当時のソニアの心労は相当なものだった。

「私は右も左も分からないまま将軍になって混乱している中で、見知った母の友人が声をかけてくれたのが嬉しかった。テオ様は未熟な将軍だった私の助けになってくださったんだ。考えてもみろ。年上で包容力もあって下心無しの優しい男性が手助けしてくれたんだぞ?当時のテオ様はまだ三十代。いたいけな少女が恋心を抱いても仕方ないと思わないか?」

「ああ、それは同意する。私もラスに助けてもらって恋をしたから。」

「…お前から見てあの色男、かっこよかったか?」

「かっこよかった。他の人間が霞むほどに。」

「私もだ。」

共通点を見つけて、フフッとお互いに笑い合う。

まだ十七歳だったソニアの芽吹いた恋心は留まることを知らず花開いていった。一年ほど経って将軍としての仕事に慣れた頃に告白したのだそうだ。

「告白は私からだ。だが、テオ様には最初断られたよ。それもそうだな。テオ様から見たら戦友の娘だ、そういう対象に見れなかったんだろう。」

それでも諦めずにアタックしていった。他の男など目に入らないほどに。年月が経つにつれて、周りはソニアがテオにアタックばかりして結婚しないのを心配し始める。アタックし続けて七年、とうとうテオが根負けする形で交際を始めた。しかし、北方の守りを担うテオと水上砦を守るソニアでは会える回数が限られていたため、手紙を送り合ったり、食事をして帰り際に口付けするといった至って健全な交際をしていたのだとか。

「交際を続けて二年ほど経った頃、息子が軍に入ったら結婚しないかと言ってくださったんだ。」

なるほど父らしい、とリオンは思う。男は戦場で強くなる持論を持っていた父のこと。軍に入った段階でリオンを一人の兵士として扱うつもりだったんだろう。

ふと、リオンはずっと引っ掛かっていたことを思いきって聞いてみることにした。

「父は貴女に手を出さなかったのか?」

「っ…、何故それを聞く。」

「硬派で厳格な父が結婚前の女性に手を出すとは考えられない。だが、もしそんな人間だったら私は父を軽蔑する。手を出していたのなら何故もっと早く結婚しなかった、女性に誠意を見せないとはそれでも男か、将軍なのだから己の行動に責任持てと墓に泥を投げつけてやるところだ。」

「やめろ。お前が考えてることは何も無い。」

「では…、」

「あの方は私に手を出さなかった。将軍歴が長いテオ様が考えないわけがない。どちらも帝国の将軍、万が一結婚前に妊娠すれば軍に影響が出る。だから、私が将軍を辞めてからお前に紹介してもらうはずだった。」

「辞めるつもりだったのか。」

「ああ。お前が軍に入った段階で私は辞めるために身辺整理を始めていたんだ。そんな中お前が反逆者になったと聞いて……、テオ様に別れようと告げられた。息子の罪に私を巻き込むわけにはいかないと。」

だからこそソニアはリオンを憎んだ。あれだけテオに大事にされていた息子のリオンが反逆者となってテオの足を引っ張るなど、許せなかったのだ。

「テオ様が解放軍討伐に向かう前に会ってな、せめて抱いて欲しいと言ったんだ。でもテオ様はそれを拒否された。もう別れたのだから関係は無いと言って。……所詮私はテオ様に迫っただけの女、本気で相手をしてくれたわけではなかった。亡き妻君には及ばなかったわけだ。」

はあ、と落ち込むソニアを見て、父の不器用さに呆れた。父はそういうところで言葉が足りない。でも、父の考えは分かる。リオンの思考能力はほとんど父譲りなのだから。

「……父は貴女が大事だったと思う。」

「そうか?死に際にすら名前を呼ばれない女だぞ?それともお前にはテオ様の考えが分かるのか?」

「分かるさ。私は似なくていいところまで父に似てしまったようだからな。」

「それ、誰が言った?」

「今際の際の父に。そもそも、父は私が無実の罪で帝国を追われたと知っていた。それを放置してたのは、這い上がってきた私と本気で戦うためだった。獅子は子を千尋の谷へ突き落とす。父らしいだろ?」

だからこそ、一人の将として本気で戦った。息子が己を越えた姿を目に焼き付け、安らかな顔で亡くなったのだ。

「…それで、テオ様の考えとは?」

「別れていれば、例え自分が息子に敗れても、息子を殺してから陛下に懇願し自分が処刑されても、貴女に害は及ばない。それに、手を出さなければ貴女は身綺麗のままだ。新たな恋もしやすいだろうと。」

「っ、そんな勝手な……、私はテオ様がいてくださればそれで…!」

「まだ若い貴女の人生を自分で縛り付ける必要は無い。新たな出会いもあるだろう。どうか幸せに生きてほしいと。だから父は貴女に別れを告げたんだと思う。」

リオンが反逆者となった時点で、テオは近い未来に息子と戦うだろうと考えていたに違いない。だからこそソニアに別れを告げ、息子と本気で戦う決意をしていた。テオはどこまでも一人の武人だったのだ。

「……私の幸せ……」

「父を殺した私を憎み続ける人生もあるだろうがな。この世を憎み続けて復讐に囚われ、向けられた愛情にすら気付かないウインディのようにはなってほしくない。」

「……憎しみか。」

少なくとも今のソニアにはリオンを強く憎む感情は無くなっていた。テオとリオンはお互い戦場で戦った。敵同士、どちらかか死ぬのは当たり前。三年前はテオを失ったショックで考えが及ばなかったが、将軍として落ち着いて考えれば分かることだった。それをテオが望んだのならどうして責められようか。

「父は貴女に愛情を持って接していた。でなければ結婚しようなどと言うはずが無い。そうじゃなかったら無責任なことを言うなと墓に泥を投げつけてやる。」

「分かった、分かったからそれはやめろ。」

「それに、私も貴女のこれからの幸せを願っている。それは忘れないでほしい。」

「リオン……」

コンコンッとノックする音がして、ガチャッと扉が開いた。お茶一式をグレミオが、ケーキを切り分けた皿のトレイをラスが持って入ってくる。

「お待たせしましたー!って、お取り込み中でした?」

「いや、父の思い出話をしていただけだ。」

「そうですか!テオ様の!」

グレミオはテオが亡くなった現場もソニアがリオンに詰め寄った現場も見ていない。ただの思い出話と思っているのだろう。

お茶とケーキが配られ、当たり前のようにリオンの隣に座るラスをチラリと見て、またリオンへ視線を戻すソニア。あの頃からラスがリオンの隣にいる。ずっとリオンの支えになってくれていたのかもしれない。

「……リオン。お前は今、幸せか?」

「はい。」

「即答か。」

「ラスが隣にいてくれることが私の幸せだから。」

「僕もだよ、リオン。」

お互いを見つめ合う二人の甘い雰囲気に当てられる。グレミオも察したのかソニアの隣に座って食べましょうかと促した。コクッと頷いて、チーズタルトを一口食べてみる。

「っ!」

「美味っ、しいですね…!」

グレミオが頬に手を当て目を輝かせる。

美味い。表面に焼き目がついていて香ばしく、一口食べるとチーズがホロリと溶ける。

「喜んでもらえたようだな。」

「並んで買ってきた甲斐があったね、リオン。」

こんな美味しいスイーツが?都市同盟の拠点にあるというのか?聞けば、今の同盟軍軍主の命令で毎月新作のスイーツを出しているとか。

「おい、リオン。」

「?」

ソニアの真面目な声のトーンに首を傾げる。

「たまにでいい。私の分もスイーツの土産を頼む。」

「…そんなに気に入ったのか?」

「美味しいスイーツは今の私の密かな楽しみだ。」

「…分かった。そういえば、アンジー達は元気にしているのか?」

「何故私に聞く!?」

「昔アンジーが貴女のことをいろいろ言っていたからな。」

「奴とはいがみ合うだけだ!それ以上の関係は無い!」

「……どう思う?ラス?」

「喧嘩するほど仲がいい、とも言うね。」

「仲良くない!!」

 

三年前には出来なかったリオンとの他愛ない会話をしながら、ソニアの休日は過ぎていったのだった。

 

 

終わり。

 

 

 


 
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