No.1091798

結城友奈は勇者である~冴えない大学生の話~個別ルート:三ノ輪銀

ネメシスさん

銀ちゃんの個別ルート、になるのかな?
微妙な所です。

2022-05-15 21:34:18 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:490   閲覧ユーザー数:490

 

~死が二人を別つとも~

 

 

 

「……ここも通行止めか」

 

バイクを止め、地図にバツ印を書き込む。

地図にはすでにいくつものバツ印が書き込まれていて、それが増える度にため息が零れてしまう。

 

「にしても、これで300年前の状態なのか。まったく天の神のやろう、どれだけ荒しやがったんだよ」

 

大赦上層部の見解では、炎に包まれていた外の世界を神樹様が最後の力で300年前、大破壊が起こった時の状態に戻したのではないかと言われている。

だからもしかしたら今もどこかで生きている人がいるかもしれない、そう信じている人も本土調査に賛成した人の中にはいる。

かくいう俺もその一人だったのだが……。

 

「……もしかして世界中こんな感じで、本当にもう生き残りなんていないのかもしれないな」

 

ボロボロの街並みを見ると、ついそんなことを思ってしまう。

建物が崩れ落ち、車が折り重なり、戦車なんかも何輌も見つけたが、そのどれもが壊されたり壁に突っ込んだりしている。

おまけに何年も人の手が入ってないせいか、そこらで草木が生い茂り野生動物の姿もちらほらと見える。

 

「狸に兎、鹿に猿……動物園から逃げて来たのか? この分だとライオンとか熊とかも出てきそうで怖いな……友奈ちゃん達、大丈夫かなぁ」

 

一応、俺達に支給された物資の中には護身用のテーザーガンも入ってはいるが、肉食動物相手だとあまりにも頼りなく感じる。

とはいえ手の届くところにいない以上、今は二人を信じるしかないのがもどかしい限りだ。

 

「えーと、C地点はビル倒壊により通行不可、と。もし通るなら重機を持ってくる必要があるな。D地点は……こっちか」

 

後で報告するためメモ帳に簡単に情報を書き込み、バイクのエンジンを切って手押しで移動を始める。

燃料は余分に持って来てはいるけど、こういった障害はいくつもある。

時間はかかってしまうが燃料に限りがある以上、少しでも温存するに越したことはない。

 

「……明日くらいには、諏訪に着けるといいなぁ」

 

諏訪地方。

そこは西暦の時代、四国での防衛作戦が完了するまでの数年間、その地域の神に勇者として選ばれた白鳥歌野の活躍により、最後まで人類の生存が確認されていた地域だ。

園子ちゃんの先祖で同じく勇者だった乃木若葉、そしてその仲間達が調査に向かったが、結局生存者は確認されなかったそうだ。

そのまま北方へ向けて調査を行う予定だったそうだが、直後に四国に危機が訪れ敢え無く断念し帰還したと報告書に書かれていた。

 

俺の任務は、かつての勇者達が行うはずだった北方調査のための前準備。

当てもない調査は資源の無駄遣い以外の何物でもない。

そのため勇者白鳥歌野が活躍していた場所ということで現状の確認の他、可能なら調査の拠点として使えるものがないか調べるため俺は向かっているのだ。

 

「……正直、報告書を読んだ限りだと、望み薄な気がするけどなぁ」

 

報告書によればいろんなものが壊され、倒壊している場所も多いそうだし。

まだ利用出来る施設がいったいどれだけ残されているのやら。

そんな愚痴をこぼした時。

 

―――そんな悲観的でどうすんのさ! 楽観的なのもよくないけど、悪い方にばっかり考えるのも駄目だよ!

 

「……ま、そうだな。行って確認してみないと、正確なことなんてわからないし」

 

聞こえてきた声に返事を返す。

ここには俺以外に誰もいない。

なにせこの調査任務は、俺が一人で向かうことになったからだ。

もちろん後からも編成された調査隊が来る予定ではあるが、先行して任務にあたっているのは俺と友奈ちゃんと東郷ちゃんの3人だけ。

……では、今聞こえたのは一体誰の声か。

 

「もうさ、空から行けそうな道をナビゲートしてくれない? 飛べるだろ? 幽霊なんだから」

 

―――そりゃ、飛べるけどさぁ。これは兄ちゃんが受けた任務なんだから、ズルはよくないよ?

 

「ズルって……はぁ、調査の結果が芳しくないと、上からどやされるってのに。兄ちゃんを助けると思って、ここはひとつ手を貸しちゃくれないかね、銀ちゃんよ」

 

―――そうなったら、ちゃんと慰めてあげるね!

 

「……慰められる状況にはなりたくないんだけどなぁ」

 

全然手伝ってくれる様子のない、むしろ慰めるのを楽しみしてそうな銀ちゃんに、思わずため息を漏らした。

そう、俺が今、話しているのは銀ちゃんだ。

もちろん実は生きてました、なんて嬉しいオチではない。

間違いなく銀ちゃんは死んでるし、それは銀ちゃんを知る誰もが辛いながらも受け入れていることだ。

だけど俺には、その死んでしまったはずの銀ちゃんの声が聞こえてしまっているのだ。

姿も見えないし、触れもしないけど、しっかりとこの耳にその声は届いていた。

 

「(まさか、こんなことになるなんてなぁ)」

 

しばらく前に仕事が忙しすぎて幻聴が聞こえるようになってしまったのかと三好に相談し、大赦の医療機関で様々な検査をうけたのだが体調には全く問題なかった。

むしろ検査の結果で、驚くべきことが分かってしまったくらいだ。

それは俺が、霊能力に目覚めてしまったということ。

三好が言うには別に驚くことでもないらしい。

なぜなら大赦の神官、巫女に選ばれる最低条件がその霊能力の有無で、つまるところ大赦にいる神官、巫女はもれなくみんな霊能力者というわけだ。

聞いた話だと神樹様がいる頃は神樹様のお告げを聞いたり、怪我や疲労で倒れた人を癒す霊的医療を行ったり、特殊な力が込められた道具を作っていたとか。

まぁ、確かに神樹様という神様がいたのだ、霊能力者がいても今更驚くことでもないのかもしれない。

 

力に目覚める要因は色々ある。

大赦では力のある家柄の者同士で結婚する方法をとっていたというし、他にも力のある人との関り、霊的存在との接触でも力に目覚めることがあるようだ。

中には普通の一般家庭から、とんでもない才能を持って生まれてくる子供も稀にだがいるらしい。

俺の場合だと三好や安芸先輩との付き合いもそこそこ長かったが、何より前に天の神からの祟りとやらをこの身に受けた経緯もある。

おそらく俺が目覚めたとすれば、その時ではないかと三好が言っていた……思えばその頃からか、銀ちゃんの声のようなのが薄っすらと聞こえるようになったのは。

今までただの俺の妄想だとばかり思っていたけど。

 

「……はぁ。俺、幽霊とか苦手なのになぁ」

 

ポツリと小さく零す。

映画とかゲームでもゾンビとか物理で倒せるようなのは問題ないのだけど、人の手に負えない霊的存在が出てくる系だともう完全にアウトだ。

銀ちゃんの声が本当に聞こえていて、そばに銀ちゃんがいるとわかった時だって、相手が銀ちゃんだとわかっていても若干気絶しそうになったくらいだし。

せめて声だけじゃなく、姿も見えてたらまだマシだったかもしれないけど。

 

「いつか、姿もちゃんと見えるようになるのかなぁ」

 

三好から教えてもらった霊能力の修行は毎日欠かしてないのだが、一向に姿が見える気配がない。

話しが出来て、何かに触れたような触れてないようなあやふやな感触を感じ、何となくそこにいるというのが感覚的にわかるようになった程度。

一応前よりは成長してるとは思うのだけど、それこそ亀のように遅くてじれったくなってしまう。

人には向き不向きがあるらしいし、もしかしたら俺に霊視の才能がないのだろうか。

 

―――ふーん、ふふふーん♪

 

そして当の銀ちゃんはというと、何やら鼻歌を歌いながら少し前を歩いているようだ。

姿は見えないけど、なんだか楽し気なのは何となくわかる。

 

「……なにか面白いものでも見つけたのか?」

 

―――ん? 別に? なんで?

 

「いや、なんか銀ちゃん、少し楽しそうな雰囲気だから」

 

―――えへへ~、いやぁ、そう見える?

 

見えないけど、銀ちゃんが楽しそうだから話の腰は折らないでおく。

 

―――こうして外の世界に行けるようになるなんて、前は少しも思ってなかったからねぇ

 

―――周りは滅茶苦茶で、当時はすっごく大変だったんだなぁっていうのがよくわかる

 

―――それを思うと不謹慎かもだけど、でも凄くワクワクしてるんだ! 初めての外の世界に!

 

「……まぁ、そうだな」

 

俺だって壁が壊れる前までは外の世界に興味はあっても、こうして実際に来ることが出来るなんて思ってもいなかったし。

任務だとわかってはいても、なんだか未開の地を進む探検家みたいで俺も少しだけワクワクしていた。

 

―――それにこうして二人っきりで歩いてると、なんだかデートしてるみたいじゃん?

 

「いや、それはないだろ。ていうか、前だって二人で遊んでたじゃないか」

 

―――……もぅ、そこは「そうだな」って言ってよ。兄ちゃんって、ほんっとうに女心がわからないよねぇ

 

少し呆れたような雰囲気。

悪かったな、これでも彼女いない歴=年齢だっつうの。

 

―――あ!

 

「今度はどうした?」

 

―――あれ! あのお店、ウェディングドレスが飾ってあるよ!

 

あれ、と言われても銀ちゃんの姿が見えない俺では、どこかなんてすぐにわからないのだが。

周りを見渡すとガラスの割れたショーケースに飾られた、ボロボロのウェディングドレスを見つけた。

 

「あぁ、あれか。看板が壊れてて何の店かはわからないけど……写真とかも飾ってるし、写真館か何かだったのかもな」

 

もしくはレンタル店か。

せっかく元は綺麗だっただろう純白のウェディングドレスが、今では黒ずんでたり破れてたりでボロボロになっている。

それなのに銀ちゃんは楽しそうにウェディングドレスを見ている……と思う、雰囲気的に。

 

―――いいなぁ、あたしもウェディングドレス着たかったなぁ

 

「……あぁ、そういやぁ、銀ちゃんの将来の夢ってお嫁さんって話だったもんなぁ」

 

いつか園子ちゃんと銀ちゃんの話で盛り上がった時、銀ちゃんの将来の夢について聞いたことがあった。

普段男勝りな性格な銀ちゃんだけど、ちゃんと女の子らしい所もあるのは俺も知っている。

将来がお嫁さんと聞いた時も、意外というより「銀ちゃんらしい」とすら思ったくらいだ。

普段から家族を大切に思ってて、生まれたばかりの弟の面倒を率先して見ていたらしいし。

 

「(きっと生きていたら、いいお嫁さんになっただろうな)……そういえば、銀ちゃんは誰か好きな人とかいなかったのか? 将来の夢でお嫁さんっていうくらいだし、もしかして同級生にそういう子がいたりとか」

 

―――……

 

銀ちゃんからの言葉はなかった。

しかしなんというか、ジト―っとした目で見られてそうな雰囲気を感じる。

またぞろ、何かしらデリカシーのない質問でもしてしまっただろうか。

 

「(……あ、そっか。仮にいたとしても、もう告白も何もできないもんな。あっちゃぁ、悪いこと言っちまったなぁ)」

 

自分の失言に気付き、謝ろうと口を開こうとした時。

先に銀ちゃんの方から声が聞こえてきた。

 

―――……ねぇ、兄ちゃん。唐突だけど、聞いてもいいかな?

 

「ん? なんだ?」

 

―――兄ちゃんってさ、“冥婚”って知ってる?

 

「めい、こん? ……あぁ、冥婚か。一応は知ってるけど」

 

いったい何の話をしてるのか一瞬わからなかったが、ウェディングドレスの前ということを考えて銀ちゃんの言葉の意味を理解した。

冥婚、それは死者と生者との間に行われる婚姻の儀。

西暦時代では死んでも一緒にいたいと願う男女が、死んだ方の死体に婚礼衣装を着せて結婚式を行うことがあったという。

あくまで一般的ではなく、ごく一部の国や人の間で行われたものらしいが

過激なところだと片方が死んだら後追い自殺をしたり、無理心中して死んだ後まで共にいようという人達もいたとか。

 

これでも一応、大赦に属している身。

様々な神事の手伝いをすることもあるし、何か役に立つかもしれないと思い色々勉強もしている。

その中で冥婚についても知った。

調べて知った時は、少し怖くて引いてしまったけど……。

 

―――ふーん、そっか。じゃぁ、さ

 

「ん? ……っ!?」

 

その時、後ろから首に薄っすらと冷たいものが巻き付いてくるような感覚に襲われた。

そして。

 

―――あたしと冥婚してみない? “こっち”に来てさ

 

「………………………………キュゥ」

 

耳元で小さく囁かれる声。

それを聞いた瞬間、俺の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

―――あはははは! もう、兄ちゃんってば本当に怖がりなんだから!

 

目の前で倒れ伏した桐生を見ながら、銀は腹を抱えて笑っていた。

 

―――でも、兄ちゃんも悪いんだよ? ……あたしに、誰か好きな人がいるかなんて聞くんだもん

 

ひとしきり笑った後、銀は少し不貞腐れたようにぷくっと頬を膨らます。

その様は姿が見えれば、園子や東郷ならば間違いなく「可愛い!」と連呼しながら写真を激写していた所だろう。

 

―――……好きでもない人のそばに、ずっと憑いてるわけないじゃん。この鈍感兄ちゃんめ

 

とはいえ自分でもそこそこ態度に出していたとは思うが、実際に桐生に向けて口にしたことはない。

鈍感なところのある桐生に自分で気づけというのが無理な話か、そう思い直し銀はため息を吐く。

 

―――死んじゃったあたしが兄ちゃんを独り占めなんて悪いもんね、仕方ないから他の人に譲ってあげるよ……でも

 

銀は白目を剥いて気絶している桐生の頬に手を添え、ゆっくりと顔を近づけていく。

そしてその唇に、そっと自身の唇を落とした。

 

―――んっ……ふぅ、やっぱりちゃんと触れないと、キスした気がしないなぁ

 

顔を離し、あまり感触のしなかった唇を指先でスーッと撫で、少しだけ悲しそうに笑みを浮かべる。

 

―――兄ちゃんがいつか死んじゃったら、その時はあたしも遠慮はしないから

 

自分はすでに死んだ人間、生きてる桐生とは住む世界が文字通り違う。

それがわかってるからこそ、銀は生きてる時に言えなかった本音を今更口にする気はなかった。

生き物はいつか必ず死ぬ。

だからいつか桐生が死に自分と同じ存在となる時まで、自分の想いは大切に胸に仕舞っておこうと決めていた。

 

―――こっちに来たら、あたしとだって触れ合えるでしょ? その時は、ちゃんとしたキスしようね!

 

今生では叶わなかった夢。

それはいつか、桐生が死んだ後に取っておくとしよう。

そう思いながら桐生が目覚めるまで、銀は桐生のそばに寄り添うのだった。

 

(あとがき)

個別ルートで銀ちゃん編やってみました。

銀ちゃんルート、でいいのか少し悩みどころな内容ですが。

思い付きで書いたので、他の子のルートを書くかはまだ未定。

 

霊能力について。

神樹がいるし、そういうのがあってもいいかなと思って書いてみました。

多分、神樹の力を借りてとは思うけど霊的医療とか巫女が力を使ってあれこれしてたり、祈りを捧げて千景砲のエネルギーを貯めてたりしてたし。

それに西暦時代にも何か神樹が現れる前から、大社は活動してたような所ありましたし、やっぱり何かしらの力は持ってたのかなぁという妄想です。

 


 
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