No.1085812

恋姫OROCHI(仮) 陸章・参ノ参 ~再会と撤退~

DTKさん

どうも、DTKです。
こんにちは、お久しぶり、初めまして。
お目に留めて頂き、またご愛読頂き、ありがとうございますm(_ _)m
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、108本目です。

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2022-02-26 16:30:07 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2304   閲覧ユーザー数:2145

 

 

 

 

剣丞一行は躑躅ヶ崎館への道を急いでいた。

 

湖衣の過去では、待ち合わせ場所で一二三を三日間待ったのち、躑躅ヶ﨑館へ向かったという。

そのとき、躑躅ヶ﨑館はもぬけの殻だった。

今回はその三日間の無駄なく直行しているので、皆がいなくなった原因が分かったり、誰かに会ったりできるかもしれない。

当事者である湖衣は柘榴が駆る馬の後ろに乗り、金神千里で常に周囲に眼を配っている。

 

「何か見えたっすか~?」

「いえ、何も……」

 

まだ三国の領域から甲斐に入って間もないし、甲斐国内も山深いため、近くの街道が一本見えればいいという程度だろう。

 

「もぬけの殻だったって事は、そこが戦場になったわけではなく、武田全軍で出陣したってことでしょ?どこかその辺にいるわよ」

 

好敵手である光璃が行方不明という事態に、ご機嫌斜めの美空。

 

「っ!小隊が見えました!」

「本当か!?」

「はい!この旗印は……薫さまです!」

 

 

 

 

 

 

ガラガラガラ…

 

一定の調子で荷車を引く音が辺りに響く。

馬上の薫はそれを心地よいと感じていた。

そして同時に、戦に向かっているのに不謹慎だとも思った。

 

薫は本軍より二日遅れで躑躅ヶ崎館を発ち、荷駄隊を率いていた。

長陣用の備えではあるが、これらの物資が使われないに越したことはない。

今は『外』から補給することができないからだ。

 

「はぁあ……」

 

溜息を一つ。

不可思議な現象。謎の敵。

不安の種は尽きない。

そして自分よりも心を痛めているであろう、長姉に思いを馳せる。

 

「こんな時、お兄ちゃんがいてくれたらなぁ…」

 

駿河と共に消えてしまった、頼りになる『兄』

こんな時に姉の、自分の側にいてくれたらどれだけ心強かっただろうと、幾度考えたか分からない夢想に薫はまた一つ溜息を吐いた。

 

「か、薫さまっ!!」

 

そこへ、周囲を警戒していた斥候が薫の元へ駆け込んできた。

 

「どうしました?」

「こ、後方より、十数騎がこちらへ向かっております!」

「後方から?」

 

後方には、今はもうほとんど誰もいないはずだ。

味方ということはないが、かといって敵と言うことも考えにくい。

 

「それで、旗は?」

「は…はっ!……それが―」

「――えっ」

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

 

 

 

「大丈夫かな…?」

 

剣丞は猛スピードで走らせる馬上でそう呟いた。

急いでいるとはいえ、部隊に突っ込んでいい速度ではない。

旗は立てているが、無条件で矢でも射掛けられても文句は言えない。

 

「大丈夫ですよ。自分の旗に自信を持ってください」

 

その呟きが聞こえたのか、隣を走っていた湖衣がそう言う。

新田一つ引き。

剣丞の旗印を、隊の真ん中で柘榴が掲げていた。

そう言われても現代育ちの剣丞には、戦国の世を潜り抜けたとはいえ、未だにピンと来ない。

そうこうしているうちに、薫の隊が近くなる。

と、その中から一騎、飛び出してきた。

 

「あれは……」

 

綺麗な空色の髪。小さな体を馬上に揺らす、光璃と瓜二つの顔。

 

「お兄ーーちゃーーーん!!」

「薫ちゃんっ!!」

 

満面の笑顔をした薫がこちらへ駆けてくる…

駆けて……

 

「って危ねぇ!」

 

猛スピード同士、このままでは衝突してしまう。

 

「ていっ♪」

 

薫は事も無げに馬首をずらすと、可愛い声を上げ馬上から剣丞へと飛び掛った。

 

「ちょおっ!?」

 

剣丞は手綱から片手を離し内転筋で身体を支えると、飛来する薫を腹筋と背筋とを総動員して受け止める。

 

「っとと…あ、危ないよ薫ちゃん……」

「え~?だってお兄ちゃんって分かったら嬉しくなっちゃって!本当に本物だよね?」

「本当に本物だよ。それに…」

 

剣丞は周りに集った、というか剣丞が急停止をしたためこういう形になったのだが、仲間達に視線を送る。

と、

 

「随分と仲睦まじげねぇ…剣丞ぇ?」

 

真っ先に目が合ったのは、怖い顔で二人を睨みつけるのは美空だった。

 

「美空さん…?それに皆さん…雫ちゃんまで」

「薫さまっ!!」

「湖衣ちゃん!?今までどこに……」

「ご無事で…ご無事でなによりです……」

 

下馬して跪く湖衣。

目からは一筋零れるものがあった。

 

「え…っと、お兄ちゃん。これはどういう状況なの?」

「あぁ。掻い摘んで話すよ。でもまずは武田の現状を教えてくれるかな?光璃たちは今どこに?」

「うん。一二三ちゃんと湖衣ちゃんが出た後、しばらくしたら甲斐の北に信濃が現れて…」

「信濃が?地続きでですか?」

「うん」

 

雫の問いに頷く薫。

恐らく初めての現象だ。

 

「そしたら一徳斎おばあちゃんから、川中島に付近に正体不明の敵がいるって連絡があったんだよ。それで、お姉ちゃんたちは先行して向かってて…」

「剣丞さま!」

 

湖衣が『敵』という言葉に敏感に反応する。

剣丞もそれに応える。

 

「あぁ、嫌な予感しかしないな…薫ちゃん、こっちの事情は川中島に向かいながら話すよ。隊を誰かに預けて一緒に来てくれるか?」

「わ、分かったよ!」

 

こうして剣丞一行は薫を加え、一路川中島を目指した。

 

 

 

 

 

 

「風林火山!」

 

歴代の武田家の当主のみが、現在では光璃だけが使えるお家流だ。

甲斐源氏の名家、武田家の英霊を使役して戦う大技を、たった一人の敵に放つ。

が、

 

「…邪魔」

 

しかし、敵の攻撃がそれらをほぼ一瞬で掻き消してしまう。

 

「は、反則でやがるっ…!」

 

武田軍副将の夕霧は馬の背で唇を噛む。

撤退戦を強いられている武田軍。

もはや主立った将は、当主の光璃を除けば副将の夕霧、そして兎々しか残されてなかった。

 

「お、御館様。今のうちに少しでも距離を取ってくらさい!」

 

殿軍を指揮している兎々が光璃に指示を出す。

本来、殿軍と大将、つまり逃がすべき対象がこんなに近いはずはないのだが、逆にそれがこの撤退戦の厳しさを表している。

 

「でも!」

 

珍しく語気を荒げる光璃。

『人』相手に完膚なきまでの敗戦を味わうのは、ほぼ初めての体験だった。

多くの兵を失い、多くの将を失った今、冷静でいろというのが無理な相談だった。

そして戦場においては、一瞬の躊躇が命取りとなる。

 

「弾正さま!御館様!!」

「はっ!?」

 

光璃と兎々が押し問答をしている間に、光璃目掛けて真っ直ぐ、まるで無人の野を行くが如く、敵が突っ込んでくる。

 

「まずっ…」

「てやぁーーーー!!」

 

と、接敵する直前、夕霧の隊が敵を側面から突いた。

 

「夕霧ー!!」

「姉上!逃げるでやがるーー!!兎々っ!!姉上を――――」

 

夕霧の叫びは、戦場の喚声に掻き消された。

 

「夕霧っ!夕霧ーー!!」

「らめなのら!御館様!」

 

半狂乱状態で夕霧に、即ち、敵へ向かおうとする光璃を必死で押さえる兎々。

それでもなお暴れる光璃。

力自体は兎々の方があるかもしれないが、如何せん体格差がある。

光璃を止める手立ては一つしかなかった。

 

「御館様、御免っ!」

 

兎々は光璃の鳩尾に拳を突き立てた。

コヒュッと息が漏れ、意識が遠退く光璃。

 

「ゆ…ぎ……」

 

ガクリと全身の力が抜けた光璃を、兎々はしっかりと抱きとめる。

滂沱の涙を流しながら……

託されたのだ。御館様の命を。

託されたのだ。武田の未来を。

 

「御館様、失礼するれす」

 

自分よりも大きな光璃を背負うと、そのままひらりと近くの馬に飛び乗る。

自分の命は、最早自分だけの命ではない。

兎々は歯を食いしばりながら、馬首を南へと向けた。

 

 

 

 

 
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