No.108541

~薫る空~43話(洛陽編)

虎牢関戦その3
さて、本格的に戦いに入ってきました。やっぱり戦闘の描写はむずかしいです(´・ω・`)

2009-11-23 16:58:18 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:3412   閲覧ユーザー数:2901

 

 

 

 

 

 

 

 荒れる馬上。目の前に広がる戦場の中を俺は駆け抜けている。生臭い風が吹き抜けて、これが現実だと強制的に理解する。

 

 兵達の怒号が響くそこは、前から押し寄せる張の旗を持つ敵とぶつかる戦場。前を行く春蘭に遅れないようにくらい着いて、敵軍の中へと突き進む。

 

 武器を持って自分に襲い掛かる敵。その中に入ることに、不思議と恐怖は無かった。いや、恐怖を感じている暇すらなかったからかもしれない。敵の動きが異様に速くて、こちらはそれに振り回されないようにすることでせいいっぱいだった。秋蘭が必死に兵達に指示を飛ばすが、常に後手にまわる。

 

 多対多の戦いでは完全にこちらが不利だった。

 

 それでも敵の動きを先読みしながらの指示でなんとか完全に押し切られるまでには至っていない。

 

【春蘭】「うおおおおお!!!!」

 

 前から春蘭の叫びが聞こえた。手に持っている大剣には既にいくつかの血滴がついている。大きく振られるその刃が風斬音を鳴らすたびに、複数の命が消えていく。彼女の戦いをこれだけ近くで見たのは初めてだった。普段親しい彼女が、今はまるで別人に見える。それは怖いほどに残忍で輝いていた。

 

 これだけ死に間近で触れたのも、おそらく初めてだ。遠くから戦場を眺めていた今までとは違う。目の前で血を噴きながら、人が死んでいく。春蘭だけじゃない。彼女の部下や、妹の秋蘭、その部下、皆がその手を血に染めている。まるで別世界。

 

 黄巾の乱のとき、天和を助けようと戦場を走ったあの時の不快感を思い出す。ひとつの事に夢中になって、周りが見えずにいた、あの時でさえも、その匂いと背景に嘔吐感が押し寄せてきた。

 

 今は、自分がその背景の中にいる。俺も、この手で、殺す。

 

 ――迷い。

 

 そんなものが、今更俺の中に生まれた。もう戦は始まっているのに。俺は、まだ人を殺せないでいる。殺さなきゃいけない。その考えが間違っている。そう思う反面、それは仕方ないことだと言い聞かせる自分もいる。

 

 ――なんで殺せないんだ。

 

 殺す理由が無いから。人が人を殺すのに、理由が必要かどうかはわからない。けれど、俺は理由が欲しい。でないと動けない。動きたくない。当然だ。人を殺すのは犯罪で悪いことで、許されちゃいけないことだと学んできた。今までの人生全てがそれを否定しているんだ。今更認めて、許せるはずが無い。

 

 それが俺の常識なんだ。だけど、目の前にいる人達は簡単に俺の常識を壊してくれる。戦だから、敵を殺す。それが、仕方の無いことだと認識できているんだ。それが常識だと。ここではそれがルールなんだと。敵がいれば殺さなければいけない。そのルールに反したものは、敵に殺される。

 

 ――けれど、ルールを守っても、死ぬ人は死ぬ。

 

 そうだ。戦で敵にやられるのか、病に倒れるのか、寿命を迎えるのか。いつか必ず、それは訪れる。

 

 ――だから、人を殺してもいいんだ。

 

 そんなはずは無い。敵だからといって、殺しt――

 

【春蘭】「北郷!!!」

 

【一刀】「―――ぇ」

 

 

 

 

 

 視界を左に向けると、そこに銀色の刃があった。

 

 ”死ぬ”?

 

 時間が止まり、誰かが問いかけてきたような錯覚に陥る。現実ならば一瞬、体感的に長い時を感じる。そして、長かった一瞬が終る。

 

 ―”がはっ……”

 

 誰かが、悲鳴を上げ、血を撒き散らしながら、倒れていく。振りかざされた剣は勢いを失い、その持っていた”腕ごと落ちた”。腕を斬りおとした感触に手がしびれる。

 

 骨というのは思ったより硬い。あっさりと過ぎ去った最初の殺しの感想はそんなものだった。

 

 腕を落としながら、首の皮を切り裂く。助かりようの無い傷を負わせて、いつの間にか抜いていた太刀を下ろした。俺はいつもの訓練のように、太刀を振っただけだ。普段なら、そこには琥珀の剣がまっていて、ほぼ必ず反撃に在って吹き飛ばされる。

 

 ギャグのような話で、どんなに頑張って振ったところで、結局は俺が吹き飛ばされるんだ。

 

 だけど、同じように振った今、俺は吹き飛んでいない。残ったのは、赤い液体にぬれた俺の体と太刀と、その液体の元持ち主。

 

【春蘭】「ぼーっとするな!敵の中だぞ!」

 

【一刀】「あ、ああ……」

 

 生臭い匂いと鉄の味がする。制服の袖で口元を拭くと、白かった生地がべったりと赤くにじんだ。

 

【一刀】「春蘭……」

 

【春蘭】「なんだ!」

 

 落ちたテンションのまま春蘭に声をかけると、すごい形相で返事をしてくれた。戦の異様な空気に当てられてか、敵が襲ってくることにイライラしているのか。戦えると興奮していたから、そのせいかもしれない。

 

 

 

【一刀】「人殺しって、不味いな…」

 

 

 そんな春蘭に、俺は呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異様な空気。それは戦特有のものかもしれないが、少なくとも今この場で流れているものは、そんなものを遥かに凌駕する不快感だった。

 

 空気が歪む。目ではっきりと見えるほどに、ここは歪んでいた。信じられないことは、それが人の手によって成されていること。いや、あれはもう人の領域ではなかった。

 

【呂布】「………」

 

 対峙しているだけで体力を削られる。そこはいうなれば局地的なサウナ状態のようなものだった。敵の一挙手一投足、全てに全神経を張り巡らせる。指の動きですらも見逃せば命取りになる。

 

 油断なんて思うことすら不可能な相手。

 

 一対一ではまったく話にならなかった。一軍をたったひとりで抑えることの出来る武。そんなものが目の前に存在している。

 

【関羽】「――……!」

 

 偃月刀を構えたまま、関羽が走り出す。その場の空気に耐え切れなかったかのように、それはあまりに突然だった。

 

【呂布】「……」

 

 一瞬で間合いに入る。しかし、そこに待っていたのは防御のための戟でも攻撃の手でもなく、ただ関羽を見据える呂布の瞳だった。

 

【関羽】「…っ…でやあああああああ!!!」

 

 その強大な圧力を振り切って、円を描くように偃月刀を振るう。しかし、その刃が呂布に届くことは無い。”もう見切っている”そういわんばかりに、呂布は何事も無かったかのように素手で偃月刀をとめる。

 

 呂布の戟が持ち上がり、関羽へと振るわれる―――

 

 

 

 

 

【琥珀】「――っ!!」

 

 しかし、その戟が振るわれたのは、関羽への攻撃ではなく、飛来した小太刀への防御だった。

 

【呂布】「……邪魔」

 

【張飛】「てゃああーーーー!!!」

 

 呂布が片手で戟を振り回す事で、大きく彼女の正面に隙ができた。見逃さないと、張飛が蛇矛で斬りかかる。高速で振られる蛇矛に、一瞬目を向け、呂布はそのまま、後ろへと跳んだ。当然のように蛇矛は空を切る。

 

 ――しかし

 

 

【琥珀】「――っ……はああっ!!!」

 

 上。大きく飛び上がった琥珀が、最後の小太刀を握り、呂布の元へと落ちてくる。体を捻りながら、より力が加わるように、刃を振る。

 

【呂布】「っ!」

 

 気づいた呂布が、両手で持ち直し、戟を対空に振り上げ――二人がぶつかる。

 

【琥珀】「っが…は……」

 

 呂布の刃が赤い軌跡を残した。琥珀の胸をなぞるように斬撃の形を作り出す。結果を形作るように、琥珀の小太刀が砕かれ、その場に転がった。勢いに圧された琥珀の体は、血を空中へと撒きながら吹き飛ぶ。

 

 地に体が触れても少し引きずられる様は、呂布の一撃の重さを物語るのと同時に、琥珀の傷の深さの証明でもあった。

 

【関羽】「………こは……」

 

 何かに恐怖しているように、関羽の体が震える。手を伸ばそうとしているが、上手く届かない。前へ進まなければ届かないことをわかっていながらも、進めない。さっき見た呂布の瞳が体を支配する。

 

 それでも、琥珀へと手を伸ばす。二度目の喪失は、もう嫌だったから。

 

 近づく手が視界ごと震える。一瞬思い出された昔の思い出を振り切って、もう少しの距離を縮める。

 

【琥珀】「…………っ」

 

【関羽】「―っ!琥珀!」

 

 琥珀が動いた。その事実を目にした途端、関羽の体は一気に軽くなった。ずいぶん遠く感じられた隙間は、一瞬でつめられた。

 

 近くにいって見ると、琥珀は胸から肩にかけて斬られていた。あまり浅いとはいえない。だけど、まだ生きている。息をしている。目を開いていないのは痛みで気絶したのだろう。寝顔のようなそれをみていると、変わったと思っていた琥珀が、今このときだけは昔のままにおもえた。

 

 生きている。そのことが分かり、関羽は少しの安心を覚える。しかし、同時にそれを上回る怒りが湧き上がる。

 

【関羽】「鈴々……琥珀を曹操殿の下へ運んでやってくれ。このままでは助かるものも助からんだろう」

 

【張飛】「……嫌なのだ!そんな事言って、愛紗は一人で戦いたいだけなのだ!」

 

【関羽】「頼む。鈴々」

 

【張飛】「……うぅ……わ、わかったのだ……」

 

 関羽の瞳を見た張飛はしぶしぶ眠る琥珀を背負い、後ろへと走った。関羽は張飛が理解してくれたことに感謝する。

 

 

 

 

 

 

~side愛紗~

 

 ――思えば、別れる前までの琥珀はそれほど武を嗜むような奴ではなかった。寧ろ喧嘩などは弱いほうで、いつも私の後ろをついてきていた。転んでは泣いて、笑って、甘えて、そんな子供だった。それが、この間再会し、今は驚いている。あれだけの武を身につけるのに、どれだけつらい時間を過ごしただろう。

 

 あの弱かった子が、この時代を生き残るのに、どれだけ苦しんだだろうか。それを考えるだけで、あの邑が賊に襲われたとき、はぐれてしまったことがひどく悔やまれる。

 

 あの子は契りこそしていないものの、私にとっては妹のようなもので、鈴々と同じだ。

 

 だからこそ、許さない。たとえ戦であろうと、私の大切なものを傷つけた奴を許さない。

 

 ――聞け、この戦に関わるすべての者よ

 

【関羽】「………わが名は関雲長」

 

 力なき者を虐げる者達、それを許すわけには行かない。もうあの邑のような事がおきるのは耐えられない。だからこそ、私は桃香様と共に誓ったのだ。そしてその誓いと、私自身の心が告げている。

 

 我が親しきものを傷つけるのなら、我に討たれる覚悟を持て。

 

 そしてその一時、私は人を捨て、鬼とならん。

 

 

【関羽】「呂奉先……我が刃、その身に受けよ」

 

 

 

 

 

 人ならざる武が二つ、この場に生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【諸葛亮】「愛紗さんが単独で…ですか!?」

 

 伝わった伝令は、張飛が琥珀をつれ、呂布の相手を関羽が一人でしているというもの。当然ながら、諸葛亮…彼女の描いた策の中にそのような想定はない。ただでさえ兵数の少ない劉備軍が、先日の損害を抱えて尚、ここでの戦いを乗り切るには、少数での要所突破が最重要だった。

 そのためには敵の策は劉備軍にとっては都合が良かったといえる。最強の武将とはいえ、一人を相手にするのだから、数で押し切られるということは無い。

 けれど、そのために仲間が倒れていいはずもない。関羽の強さを知っている劉備たちだが、同時に先ほどの呂布の武を目の当たりして、ゆるぎない自信がある…とは言えなかった。

 関羽の強さでは、呂布に敗れるかもしれない。そんな予想が瞬時に思い浮かぶ。

 

【諸葛亮】「で、では、すぐに代案を考えましゅのでしゅこしおまちちばって――っ!…あぅぅ」

【劉備】「朱里ちゃん、落ち着いて…」

 

 慌てる諸葛亮の髪を劉備は優しくなでて、落ち着かせる。普段頼りになる孔明だが、こうしててんぱってしまうと冷静な判断が下せなくなってしまう。彼女の場合、そうなった時はよく舌を噛むので、落ち着かせる側の目安としては分かりやすかった。二、三度なでてあげると、諸葛亮は落ち着いたのか、小さくため息をつく。

 

【諸葛亮】「はぅ……ありがとうございます、桃香様。もう大丈夫でしゅ…ぅ」

【劉備】「ふふ。最初の作戦の時に、皆を信じるって話したよね」

 

 ほぼ将対将となるこの作戦は、戦うものを信じられなければ実行できない策だった。前に出るものには、それだけの期待と重圧がのしかかる。

 この人ならばいける。突破口を開いてくれる。そんな思いを兵のひとりひとりが背負っていく。だからこそ、こうして陣を構えてる者達は、信じきらなければいけないのだ。そして、その策が成功した時、最高の手柄となって彼女達に返っていくのだ。

 

【諸葛亮】「ですが、私達も見ているだけではないですよ、桃香様!」

【劉備】「うん。もちろんだよ、朱里ちゃん。そろそろ雛里ちゃんも戻る頃だし、戻ってきたら、動き始めよっか」

【諸葛亮】「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【一刀】「……はぁ……はぁ」

 

 これで、何人目だろう。目の前にはさっきまで生きて動いていた兵士が倒れている。一言で言うなら気持ち悪い。手に残る肉の感触に吐き気がした。もうどれくらいの人間の血をなめただろう。降りかかる血が顔から体全体にかけて、べったりと浴びてしまっている。

 どくどくと鼓動が最高速にまで高まっている気がして、身につけている鎧の感覚が曖昧になってくる。これだけ血を浴びても、俺はまだ、無傷でいた。物理的には何処も痛まない。健康体そのものだ。

 けれど、精神的にはもう何度自分を殺したかわからない。敵を一人殺すたび、自分を三人分は殺した気がする。

 御遣い?

 御遣いって、なんだっけ。

 世を救う、天が遣わした者。

 ずいぶんと笑わせる占いだ。これではただの兵士とかわらない。

 どうせそんな血迷った占いをするなら、魔法でも使える設定にしてくれれば良かったんだ。そうすれば、こんな戦、一人でかたをつけられる。敵なんて全部吹き飛ばして。

 ――その後に、また自分も殺して。

 少し前に、華琳が胡蝶の夢かなんかの話をしていたっけ。これが夢なら最悪の夢だ。一刻も早く目を覚まして、いつものように、うるさい目覚ましを止めて、ベッドから起きて、学園に行って。

 それで、つまらない授業をうけて、放課後になれば部活の剣道をやって。家に戻って、シャワーを浴びて、また眠りに着く。

 そうなってくれればどれだけ幸せだろうか。

 この血の匂いと感触と味も、全部嘘なんだといってくれれば。今まで殺した兵も全部嘘だといってくれれば。どれだけ幸せだろう。

 それが、ありえないと自覚しているからこそ、そんなふうに考えてしまう。

 ここが現実なんだと、俺は理解している。覚悟したんだ。

 目の前の戦いから目はそらさない。

 

【一刀】「あれは……」

 

 大きな地響きが聞こえた。疲れた首をそちらに向ければ、旗が立っていた。

 ――「張」。

 

【張遼】「いくでーー!!張文遠、推参やーーー!!!」

【一刀】「張遼…」

 

 騎馬隊の中に、ひときわ目立った将がいる。藍色の髪。関羽のそれとよく似た武器。張遼だ。

 彼女の姿が見えたことで、さっきまで自分の事で精一杯だった視界に、春蘭の姿がうつった。黒い大剣を担いだ姿は俺にはずいぶん嬉しそうに見えた。

 敵の動きは速い。騎馬ということを考えても異常な速さだった。神速の暁将という通り名は伊達ではないらしい。一瞬で張遼は俺達の目の前までやってきた。

 

【張遼】「自分らがこれの隊長か?」

 

 

 

 

 

 これだけの軍を、これといいのける気概に彼女の器の大きさがはかれてしまう。とても一軍の将あたりで終るような大きさではなかった。

 春蘭もそれを感じ取ったのか、先ほどから顔が嬉しそうでしかたがないようだ。

 

【春蘭】「張遼よ、我が名は夏候元譲!尋常に勝負しろ!」

【張遼】「ふぅん。この間からハズレ続きやったけど、やっとうちにも運回ってきたみたいやなぁ…面白い…勝負したるわ!」

 

 二人の闘気に圧されそうになる。身がすくむほどの殺気。あの呂布程ではないにしろ、これだけ近くにいると、その異常さが直に伝わってくる。

 

【春蘭】「往くぞ張遼!!!」

【張遼】「おらぁぁぁぁっ!!!」

 

 二人の武がぶつかる。

 下からすくい上げるように、偃月刀を振るう張遼。間合いをつめる速度を緩め、かわしながら、春蘭は自分の間合いへと踏み込む。一瞬の砂嵐が過ぎ去り、春蘭の斬撃を張遼は偃月刀の柄で受ける。

 

【張遼】「ぐっ…めっちゃ重いやん…か!!」

 

 一瞬さがったと思った張遼だが、わずかに出来た隙間にその刃を振り切った。

 

【春蘭】「くぅ!」

 

 二人の距離が開いたことで、闘いが一度治まる。

 初あわせはほぼ互角。スピードで張遼が勝っているが、力では春蘭が上だった。ぶつかった時の競り合いでは春蘭に有利となるも、その後の立ち回りでは張遼に分がある。

 周囲の兵は二人を避けるように、その場にひとつの空間を作っていた。将対将の一騎打ち。それは個人の闘いではなく、その軍をも巻き込んだ闘いなのだ。頭を失った軍がどれほどの力をみせるだろう。勝利したものの軍が戦においても勝利するのだ。

 そして、これだけの大軍での戦にもかかわらず、奇しくも連合軍は連携がとれず、董卓軍はこれ以上兵を減らすわけには行かず、互いに兵数を生かせない状況にあったのだ。

 

【一刀】「…………」

 

 

 

 

 ――あの二人はずいぶん楽しそうに闘うんだな。

 一騎打ちを見ていた俺の感想はそんなものだった。さっきまで気分の悪くなるだけのものだったそれが、あの二人にはまるで遊びのように、楽しそうに刃を交えている。これの終わりには、どちらかが死ぬかもしれないのに。死ぬ確率のほうが高いのに。

 戦というものを理解したつもりでいた。けれど、俺はわかっていなかった。所詮”仕方なく”やっていた俺には、自分から進んで闘う彼女達の感覚は理解できないでいた。

 華琳の夢のために、仕方なくやっている。皆がそうだと思っていた。だけど、違う。

 彼女達にとって、主のために闘うことは、”望み”なんだ。だから、自ら進んでいける。華琳の隣で歩いていける。ただ着いていくだけでは、共には歩めないのだ。

 何十合と、刃を重ねている彼女達。後ろでは秋蘭も戦っている。琥珀なんて、あの呂布に向かっていった。桂花や薫も、華琳と共に、この戦を乗り切ろうと頑張っている。

 

 ――俺が甘いのかな。

 

 できれば殺さないでいたい。張遼を捕らえれば終ると思っていた俺は、甘いのかもしれない。

 実際は、俺は何人も、敵を殺して、今こうして春蘭と張遼が闘っているのを眺めている。目をそらさないだけでは、ダメなのかもしれない。

 どうして春蘭は、そうやって闘えるんだ?

 俺には、まだ踏ん切りがつかない。訓練しても、人を殺しても、まだ、俺は人を殺したくない。戦いに関わりたくない。そう思っている。

 

 ――理由がほしい。

 

 俺が歩いていける理由。手足が赤色に染まろうが、歩き続けられる理由が欲しい。

 俺には…何がある。

 

 

 

 

 

 『一刀、これを見なさい。何が在るかしら?』

 『何って……街?』

 城壁から眺めたそこには街があった。けれど、華琳の求める答えはそんなものじゃなかったらしい。

 『本当にそれだけ?街には何があるの?』

 華琳は優しかった。俺が間違えても、正しい答えへと導いてくれる。だから、俺は言葉を続けられる。

 街には人がいる。歩いていく人、働く人、遊ぶ人。彼らはそれぞれのサイクルでこの街に生きている。物を生み出す人、それを加工する人、そこから何かを作り出す人、それを消費する人。そんなものが巡り巡って、この街は生きている。そして、華琳は言った。

 『いつか、この大陸すべての街が、ここのようになることを願っている』

 平和で、穏やかで、それでも退屈しない街。

 華琳が目指すもの。

 俺は……そのとき、誓った。

 共にそこを目指すと。彼女と共に歩めるなら、天の御遣いなんて名前も、悪くないと。

 

 

【一刀】「理由……あるじゃないか」

 

 

 不意に呟いていた。

 

 ――ぐあぁっ!

 

 近くで、兵の叫びが聞こえた。はっとして、俺はそちらを振り向く。

 

【華雄】「ほう……貴様、曹操軍の者か。答えよ」

【一刀】「お前……華雄…か」

 

 

 そこには、孫策軍と闘っていたはずの、戦斧を携えた女性が立っていた。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

最近なんだか、地文での表現が多くなってきた気がする。読みづらくなっていないか心配しながら、投稿です。

長反橋での鈴々の愛紗バージョンを書いてみたくて、こんな展開になりました。

んでもって、やっぱり一刀の最初の敵はこの時点での中ボス的な彼女しかいないだろうと、最後の展開です。華雄はあと変身を二回のこしている(てらフ●ーザ)。

 

琥珀の負傷については愛紗のトリガーだけではなくて、今後の展開に重要な一件となるので、次回以降読む際に意識の隅にでも置いててもらえたらと思います。

 

では、次回44話で(`・ω・´)ノ


 
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