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絶撃の浜風 赤城編 05 佐世保沖海戦とティレニア海海戦(Ⅱ)

絶撃シリーズ 赤城編 第五話です

ここでようやくティレニア海の話に入ります
この物語のもう一人のヒロインが、この戦争に大きく関わっているというエピソードが含まれています

2021-12-27 13:53:16 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:504   閲覧ユーザー数:504

絶撃の浜風 赤城編

 

 

 

05

 

 

 

佐世保沖海戦とティレニア海開戦(Ⅱ)

 

 

 

 

(2021年11月1日 執筆)

 

 

 

 

イタリア半島北西部リグーリア州、そこには地中海で最も栄えた港町、ジェノヴァがある

 

 

 

 ジェノヴァ港の西側に流れるボルチェヴェラ川を遡り、かつて60年前に崩落事故を起こしたモランディ橋のあったすぐ北側に、今は国営企業となったアンサルド社の兵器工場(旧アンサルド・エネルジア)がある

 

 

 大戦中はザラ級の203mm/53連装砲やマエストラーレ級の50口径12㎝単装砲に90mm高射砲、ヴィットリオ・ヴェネト級のリットリオやローマ等軍艦の建造や偵察機SVA等の航空機、果ては某戦車アニメでお馴染みのCarro Veloce33戦車の製造に至るまで、兵器の開発・製造を幅広く手掛けていた事で知られている。英ヴィッカーズや独クルップ、日本の三菱等と並ぶ、所謂軍需産業に手を染め巨利を得ていた財閥である

 

 だが、平時における軍事技術の民間への転用がうまくいかず、その経営は大きく揺らいだ。紆余曲折を経て皇紀2653年、フィンメッカニカ社に吸収されその傘下に入るも、系列会社が次々と外資や他国企業に切り売りされ、同社の存続は風前の灯火であった

 

 

 そんなアンサルド社の転機となったのは、皇紀2673年に勃発した第一次深海棲艦戦争、そしてそれに伴う艦娘の出現であった

 

 

 かつてのイタリア軍艦の化身である艦娘達の登場により、イタリアの巨人フィアット社を差し置き、彼女たちと最も馴染みの深い企業であるアンサルド社とオート・メラーラ社に白羽の矢が立てられた。結果、彼女たちの武装の改修をそれぞれ6:4の割合で担う事となり、縮小されていた兵器開発部門が息を吹き返した。加えて同社の創業者にしてエンジニアでもあったジョヴァンニ・アンサルドの直系の子孫であるジーノ・アンサルドという一人の天才的エンジニアの出現により、同社は大躍進を遂げ、皇紀2678年にレオナルド S.p.A社(旧フィンメッカニカ社)から独立、以後、艦娘の艤装・武装の改修や開発において、欧州を代表する企業へと返り咲いたのであった

 

 

 だがそれもつかの間、皇紀2730年を境にアンサルド社に暗雲が立ち込める。イタリア政府からの受注が突然打ち切られ、更には無期限営業停止処分を受け、アンサルド社はあっさりと倒産した。盟主ジーノ・アンサルドは去り、同社はイタリア政府が接収し、国営企業として再生、そして現在に至る

 

 

 

 

 

そして・・・・・・時は皇紀2736年6月未明の深夜

 

 

 

 

 

闇に紛れ、ボルチェヴェラ川に二隻の艦娘と、一隻の補給艦が接岸していた

 

 

 

 

 

 一方の艦娘にはその両太腿に大型のバルジパックが取り付けられ、そこに予備の砲弾が詰め込まれた。そして補給艦にも大量の砲弾がギッシリ積み込まれていた

 

 

そしてもう一方の艦娘は、シルエットから察するに、どうやら航空母艦のようであった

 

 

こちらは単なる随伴のようで、ここでは特に何も搭載する様子はない

 

 

 

 

 程なくして、二隻の艦娘と一隻の補給艦はアンサルド社の兵器工場の船着き場から離れ、出航を開始

 

 

ボルチェヴェラ川をゆっくりと下ってゆく

 

 

 

 

 

 

 リグリア海に出た二隻の艦娘は、途中ラ・スペツィア軍港に立ち寄り三隻の艦娘からなる第10駆逐艦戦隊と合流し、そのままコルス島とイタリア半島との間を抜けて南下し、ティレニア海に出る

 

 

 

 

 

 

 そして程なくしてウスティカ島の西岸に達すると、その内の三隻・・・・第10駆逐艦戦隊が先行し西方へ向けて航行を開始

 

 

 そして島よりおよそ27海里の洋上で停止すると、かわいらしくも、確固たる意志を感じさせる少女の声が、夜の海に小さく響き渡る

 

 

 

 

「戦闘用意!右舷後方爆雷戦準備!・・・・爆雷発射まであと三十秒・・・目標、ヨシ!」

 

 

 

 

そして・・・・

 

 

 

 

「Inizio dell'attacco!(攻撃はじめ!) Carica di profondità caduta!(爆雷投下!)」

 

 

三隻の駆逐艦娘は一斉に爆雷を投下する

 

 

 

 

「ドン・・・・・・シュルシュルシュル・・・・・・ザッ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!」

 

「ドーーーーーーーーーン!!!」

 

 

     「ドドーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!」

 

 

 

 

「ドーーーーーーーーーーン!!」

 

 

 

 

 

 

    「ーーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

 

 「----- ーー!!」

 

 

 

 

 駆逐隊旗艦グレカーレの水中探針儀が、突然始まった爆雷攻撃にあわてふためき水中を暴れ回る三隻の潜水ソ級を捉え続けていた

 

 

 

10分間に及ぶ爆雷攻撃の後、

 

 

 

 

「うちーかた、やめっ!」

 

 

 

 

 

「ーーーー ーー    ー      ー            」

 

 

 

 

 

 

「ターゲットの反応消失を確認、推進器音、ありません」

 

 

 

 

 

 

「総旗艦に報告、北緯38度70分、東経12度59分地点にて潜伏中の潜水ソ級三隻の撃沈を確認」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

「・・・・総旗艦殿?」

 

 

 

 

返事のない総旗艦に変わり、随伴する航空母艦娘が返答する

 

 

 

「ご苦労様でした、グレカーレ。総旗艦様はまだ寝ぼけてらっしゃるようですよ・・・・ふふっ」

 

 

 

彼女の緩い返答に、駆逐隊もようやく堅苦しい物言いから解放され、途端に話し方がぞんざいになる

 

 

 

「やれやれ、こんなのに総旗艦やらせて本当に大丈夫なの?」

 

 

 

 返事も返さず、不快な表情を浮かべながら、ただウスティカ島の方をじっと見つめる総旗艦に対し、グレカーレは毒づく

 

 

 

「大丈夫ですよ。総旗艦様の【二つ名】を忘れたの? こういう日の為に、ナポリ統連合軍司令部はこの子を囲い込んでいるのですから・・・・・それよりも・・・・」

 

 

 

彼女・・・・アクィラの表情が一瞬、厳しくなる

 

 

 

「わかってる・・・・・今日見た事は、何も知らない、あたしは何も見てないし、出撃した事実もない・・・・・これでいい?」

 

 

「ええ・・・それでいいです。浮きドックを手配してありますから、上陸はナポリ港湾局の指示に従って、そこからお願いしますね?」

 

 

「了解! 帰ったらもう寝るわ・・・・リベ! シロ! 行くよ!」

 

 

「リベ、ゲーセン行きた~い!」

 

 

「ダメよ! 今夜は目立たないようにしなきゃ! シロもいい!?・・・・・シロッ!」

 

 

 

 

「・・・ふゎあ~はぁ~ あ?、は~い・・・聞いてまーす・・・・」

 

 

 

「・・・・絶対寝てたでしょ、アンタ・・・」

 

 

 

「・・・あ?、は~い・・・聞いてま~す・・・・」

 

 

 

 

「・・・・・まぁいいわ・・・それでは、第10駆逐艦戦隊、帰投します!」

 

 

 

「アクィラァ、Chao Chao!」

 

 

 

「リベちゃん、Chao! グレちゃん、シロちゃん Buona notte!・・・おやすみなさ~い」

 

 

 

「・・・あふ・・・・おやすみー・・・・あ、グレちゃんまってぇ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナポリ港へ向かう最中、グレカーレはシロッコに纏わりつかれながら、漆黒の海の遥か遠くに浮かぶ、まるで宝石をちりばめたようなナポリの夜景と・・・・6年前のあの日に見た光景を・・・・無意識に重ねていた

 

 

 

 

 

 グレカーレたちには、任務の詳細は一切知らされていない・・・・。彼女たちが受けた命令は、ウスティカ島までの総旗艦の護衛と、当海域に三年も前から潜伏していた潜水ソ級三隻の撃沈・・・・ただそれだけであった・・・・・だが、

 

 

 

 先程はああ言ったが、総旗艦が戦場に姿を見せた時点で本作戦が単なる小競り合い程度で済むはずがない事は、グレカーレにもわかっていた・・・・・・・

 

 

 

 現在、ジブラルタルより東、地中海沿岸部全域に渡り、欧州連合による戒厳令が敷かれ、スペインやフランス、イタリアのサルデーニャ島にシチリア島、そして対岸の北アフリカの沿岸部には各国の物々しい数の陸上戦力が地中海を取り囲むように投入されていた

 

 だがこれらの軍隊は地中海に背を向け、その銃口は陸へと向けられていた。海岸線より10km以内の地域が第一種戦闘区域に指定され、軍関係者以外の立ち入りが厳しく制限されていた

 

 

 これ程厳重な情報管制を敷いているのである。何か大変な事が起きようとしているのは、誰の目にも明らかだった

 

 

 

しかも・・・

 

 

 

 不思議な事に、何故かコルス島やイタリア半島本土には戒厳令は敷かれておらず、軍隊もまばらに展開しているのみで、普段とは大きな違いはなかった

 

 

 

 

 

 もう7年もナポリ統連合軍司令部麾下で第10駆逐艦戦隊を率いてきたグレカーレには、その理由がはっきりとわかっていた・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・【イタリアの至宝】・・・・確かに、あれがもう一度見られるなら・・・・・・」

 

 

 

 

 

「・・・・しほ~~~?」

 

 

 

 

「・・・そっか・・・・シロはまだ見た事なかったわね・・・・・・見せてあげられなくて残念・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 航行灯を落とし、人目を忍ぶように静かに航行する三隻の艦影と航跡は、やがて闇に溶けて見えなくなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第10駆逐艦戦隊が現海域から離脱したのを確認した後、アクィラは総旗艦に指示を仰ぐ

 

 

 

 

 

「深海棲艦300隻・・・・ですか・・・・ちょーーーーーーっと多いですけど、大丈夫でしょう・・・・あなたなら・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、行きましょうか・・・・・・・ポーラ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

「ほらっ、いい加減機嫌を直しなさ~い・・・・行きますよ?」

 

 

「・・・やっぱりぃ・・・何だかポーラ、気が乗らないですぅ・・・・・・」

 

 

「今更何言ってるんです? ほぉら、シャンとしなさい!」

 

 

「何ですかねぇ・・・・あの島には、何かとーーーーーってもイヤなものを感じますぅ」

 

 

「何です?・・・それ?」

 

 

 

 

 彼女たちの今回の任務は、ウスティカ島北東部に在住する要人の警護と、深海棲艦軍300隻の撃滅であった。但し、要人の素性は伏せられており、接見も固く禁じられていた

 

 

 ポーラは、ウスティカ島に潜む何か・・・・いや、本作戦における護衛対象である要人を本能的に嫌悪していた・・・・護衛対象には誤爆を防ぐためのマーカーが取り付けられており、現在それは島の北東部に留まったまま動きはない。任務の詳細を知らされていない彼女たちには、それが一体誰なのかは知る由もないのだが・・・・・ただ・・・・

 

 

 

 禍々しいその気配のすぐ傍に・・・・何故かとても懐かしい・・・優しい気配も感じる・・・・

 

 

 

 

 

 それがポーラを・・・・より一層困惑させていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「ポーラァ、やっぱり帰りますぅ!」

 

 

 

 

帰ろうとするポーラの手を、アクィラは掴み、

 

 

 

 

 

「ダメですよ!」

 

 

 

「無理ですぅ~~~ポーラ帰りますぅ~~~~嫌な予感しかしませ~ん 帰って飲み直しますぅ~」

 

 

 

「ぜぇーーーーったい、帰ったらダメよ!・・・・・あなたをここに立たせるため、ザラがどれだけ頑張ってたのか・・・どれだけ大変な思いをしてきたのか、ポーラも知ってるでしょ?」

 

 

 

 

 

 

「・・・・それを・・・言うのはずるいですぅ・・・・」

 

 

 

「アクィラだって、あなたのサポートをザラに頼まれてここまで準備を重ねてきたんです・・・・ポーラがこうして再び戦場に戻ってくる事は、ザラの願いなのですよ?・・・・わかりますよね?」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 

 

「それに・・・・アレをほっといたら、私たちの家族のいる街だってどうなるかわからない・・・・あなたがやるしかないの・・・」

 

 

 

「・・・ううーーーっ・・・・やりますぅ、やりますよぅ!」

 

 

 

「よしよし! いっぱい頑張ったら、ちゃーーーんと、慰めてあげましょう。あとで私の二式艦偵と彩雲あげますね?」

 

 

 

「あ、それはいらないですぅ」

 

 

 

「ちょっ・・・ひどい~、誰のために育てたと思ってるんですか!」

 

 

「だってだってぇ、ポーラぁ、それ装備出来ませ~ん」

 

 

「あれ? そうでしたっけ?」

 

 

「えとですねぇ・・・水偵ならぁ~、ポーラ、Ro.43持ってますけどぉ~、索敵がいまいちなんですよぉ~」

 

 

「Ro.43かぁ・・・確かに・・・・ん?ちょっと待って、私の日本の友人にそういうの詳しい娘がいますから、よさそうなの見繕ってもらってコッチに送って貰いましょうか?」

 

 

「え~ホントですかぁ~、アクィラいつもポーラの面倒見てくれてうれしいですぅ~、扶養に入ってもいい気がしますぅ」

 

 

「アハハ・・・遠慮しておくかな~(汗)・・・・ていうか、ザラに叱られますよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと、東の空がうっすらと明るみがかっていた

 

 

 

 

 そして・・・・いつの間にか、二人の間でシロッコが目をこすりこすりしながら波間に揺れていた

 

 

 

 

「・・・グレちゃん達には気付かれてない? 大丈夫?」

 

 

 

「ん~~っ、わかんない・・・・早く終わらせよう~ ねむ~い」

 

 

 

 

そう言うと、シロッコは単艦で前に出る

 

 

 

「15(海里)でいいんだよね?」

 

 

「ええ・・・でも無理はしないでね? 見つかったら、すぐに逃げて・・・いい?」

 

 

「うん」

 

 

 

 

 地中海の西・・・恐らくは深海棲艦が向かってきているであろう海域に向けて、シロッコはゆく

 

 

 

そして小一時間程して、通信が届く

 

 

 

 

【アクィラ~・・・着いたよ~・・・まだ誰もいないよ~】

 

 

「Ben fatto・・・・後は打ち合わせ通り頼むわね?」

 

 

【うん、わかった】

 

 

 

 

 

 

「もうそろそろ第二警戒線を越える頃ですね・・・・それじゃ、始めますよ、ポーラ」

 

 

 

東の空から昇り始めた太陽を背にし、アクィラは艦載機を次々と発艦させた

 

 

 

 

 

 だが奇妙な事に、その艦載機の中には艦戦はおろか、艦攻や艦爆が、ただの一機もなかった。その全てが、彩雲と二式艦上偵察機で占められていた

 

 

 

 

 

 

 双方合わせて66機に及ぶ偵察機の編隊が、地中海に沿って西の海域へと飛び立っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(2021年11月6日 執筆)

 

 

 

 その頃、赤城率いる第一機動部隊は、既に駿河湾を後にし、紀伊半島の南方の海域を航行中であった。時刻は正午を回っていた

 

 

 

 機動部隊総旗艦は赤城である。その元で各鎮守府や艦娘との折衝は某鎮守府の大淀が、機動部隊の直接的な指揮は、この二年間秘書官として某鎮守府の実質的な運営を取り仕切っていた妙高がその任に付いていた

 

 

 

「報告します」

 

 

 定時連絡の報告を受け、妙高は現在の深海棲艦軍の動向を説明する

 

 

 昨夜のうちに秋津洲から発艦した三機の二式大艇は鹿屋基地でCatalinaと合流した後、夜明けと共に発進。南西諸島沖に六本の索敵線を展開した。そして0730に秋津洲2号機が敵深海棲艦の艦影を捉え、以後、触接を続けていた

 

 

 

「現在、深海棲艦はマルヒトマルマルより沖縄本島近海から針路を変え、南西諸島海域をゆっくりと北上を始めたようです。やはり狙いは本土でしょうか・・・・佐世保か岩國・・・或いは・・・・・」

 

 

「敵が陽動狙いならこちらの注意を引きつけている今が、仕掛け時でしょうね・・・・」

 

 

殆ど直感的に、赤城はそう言い放つ

 

 

「現状、私たちは南西諸島方面の深海棲艦軍に対処せざるを得ません・・・・これは、大きな戦いになるかも知れません」

 

 

「いえ、まだ陽動と決まったわけでは・・・・」

 

 

 少しの迷いもなく次々と推論を立てていく赤城・・・・実の所、妙高もその可能性はあるとは思いつつ、流石に赤城のそれは早計に過ぎると感じていた

 

 

 

だが、

 

 

 

「欧州連合の方は・・・・どうなっていますか?」

 

 

 

その問いかけに、言葉が詰まる

 

 

 

「大淀さんが、欧州連合に掛け合ってくれているのですが、どうにも要領を得ないようですね・・・」

 

 

「・・・何もわからない・・・という事ですか?」

 

 

「はい・・・いえ・・・・それで私がイタリア留学時代に懇意にしていた友人とコンタクトを取った所、少しだけ話が聞けましたので・・・」

 

 

 

「友人?・・・・艦娘の・・・ですか?」

 

 

 

「・・・ええ・・・・まぁ・・・・・・」

 

 

 

 

 妙高は、某鎮守府に赴任する二年前までイタリアのナポリ統連合軍司令部に単身留学をしていた。彼女はその時の事を、どういう訳かあまり話したがらなかった・・・のだが・・・・・

 

 

 

 少しだけ逡巡し、妙高は自身の考えを赤城に話す

 

 

 

「・・・やはり赤城さんのご推察の通り、欧州でも動きがあったように思います。どうやら地中海にも深海棲艦の軍勢が現れたようですね」

 

 

「ようです・・・・とは、そのご友人がそう仰っているのですか?」

 

 

 

 

「・・・・いえ・・・・何も、話して貰えなかったので、多分そういう事なのだろうと」

 

 

「・・・ふうん・・・・そう・・・ですか・・・・」

 

 

「すみません・・・こんな不確かな・・・情報とも言えない、私の推論でしかなかったので・・・・」

 

 

「それで報告を躊躇われていたのですね?」

 

 

 

「・・・はい・・・」

 

 

 

 

 

 珍しく歯切れの悪い妙高の様子を見て、赤城はある話を思い出していた

 

 

 

 

 

 実の所、赤城はイタリア時代の妙高の交友関係を知らないでもなかった。ザラ姉妹と懇意にしていた事は、赤城も知っている

 

 

 二年間のニート生活の間、暇を持て余していた赤城は欧州勢についても調べていた

 

 

 

 

 だが、ザラ級重巡洋艦の妹の方、ポーラについてはどういうわけか情報らしい情報が殆ど入ってこなかった

 

 

 

 

 

 《・・・そういえば、前に加賀さんがポーラの事を何か言っていたような気がしますね・・・・何て言ってましたっけ?》

 

 

 

 

 赤城の知っている加賀は、何の脈絡もなく興味のない艦娘の名を口にすることはない・・・・・

 

 

 

 

 

これは赤城の勘でしかないが、妙高の態度を見る限り、今回の件はその妹の方に何か関係がありそうに思える・・・・

 

 

 

 

 

 

 

《・・・成る程・・・・・・彼女は何か知っているようですね・・・・それにしても一体何があるというのでしょうか?》

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤城のお察しの通り、妙高は欧州連合の不透明な動きに《あの娘》が関わっていると確信していた

 

 

 

 

 

 その《友人》が口を閉ざし何も語らない理由は、一つしか考えられない

 

 

 

 

 

 そして欧州連合が殊更事を公にしたがらない理由も・・・・・

 

 

 

 

 

 それはつまり、《あの娘》が戦場に赴かなければならない程に、事態が逼迫している事を意味していた

 

 

 

 

 

 

 

《・・・とうとう・・・動き始めたのですね・・・・・・・・ポーラ・・・・・・》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妙高は西の空を・・・・深海棲艦軍が北上を始めた南西諸島海域よりも更にもっと遠くの・・・・欧州のあの空に想いを馳せていた

 

 

 

 

 

 

 

 

《あの子が戦場に赴くというのなら・・・・何も心配する事はないのでしょう・・・・・ならば・・・・》

 

 

 

 

 

(2021年11月7日 執筆)

 

 

「・・・赤城さん・・・今は欧州の事よりもこちらです・・・私は、深海棲艦200隻・・・・一隻たりとも逃すつもりはありません」

 

 

妙高の・・・目つきがいつになく鋭くなる

 

 

 赤城の言う通り、南西諸島海域の深海棲艦軍が陽動だというのなら、欧州に現れたと覚しき深海棲艦の軍勢は少なくとも200隻かそれ以上・・・・・ならば・・・・・

 

 

 

「こんなところで、後れを取るわけにはいきません」

 

 

 

そう、言い切る妙高に・・・・その意気に赤城達はつい、ほくそ笑んでしまう・・・

 

 

 

 

 

《そうですか・・・・向こうに・・・・譲れない何かがあるのですね・・・》

 

 

 

 

 

 

「無論です。元より見逃してやるつもりはありませんし、そんな義理もありません・・・・まともにやり合う気がないのなら、その気にさせてやりましょう・・」

 

 

「え?・・・・それってどういう・・・・」

 

 

「いえ、大したことじゃありませんよ。ちょっと締め上げてやればいいだけです」

 

 

「?」

 

 

 

(2021年11月24日 執筆)

 

 

「要は、逃げても無駄だと思い知らせてやればいいだけの事です。ですよね?加賀さん」

 

 

赤城は加賀に同意を求める

 

 

「・・・先程、編成案を見せて貰いましたが、たかだか200隻程度なら問題ないわ・・・・鎧袖一触です・・・作戦は、赤城さんに一任します」

 

 

「加賀さんがそういうのなら安心ですね・・・・それでは妙高さん、押して参りましょう」

 

 

 

 

「・・・はい」

 

 

 

 

(2021年11月29日 執筆)

 

 

 

ふと、妙高は不思議に思う

 

 

 

《何でしょうか・・・・この感じ・・・・》

 

 

 

 今に限った事ではない・・・・前世の時も・・・その前も・・・・ここぞという時の赤城は、どういうわけか加賀に作戦の是非を伺う事が多い気がする・・・

 

 かつて戦闘マシーンと揶揄され連合国軍を震え上がらせた《最強の第一航空戦隊旗艦》と言えば、赤城に他ならない

 

 

 

 その赤城が・・・・口調こそ対等であるが、妙高からすれば、どう見ても加賀のお墨付きを貰いたがっているようにしか思えなかった・・・・

 

 

 

 

《・・・いけない、いけない・・・・また私の悪い癖が・・・・イタリアで懲りたはずなのに・・・》

 

 

 

 

 

(2021年12月3日 執筆)

 

 

 

 妙高は、昨日更迭された《前・某提督》に二年前に言われた台詞を思い出していた

 

 

 

《・・・意外とお前とは相性がいいのかも知れんな・・・》

 

 

 

 思い出して、思わず吹き出しそうになる。あの時は、何をバカな事を言ってるんだこの男は!・・・と思っていたが・・・・

 

 

 

 

《・・・確かに・・・そうですね・・・》

 

 

 

 

妙高は苦笑する・・・・そして・・・・・・

 

 

 

そう言いながら、妙高は自身の好奇心を抑えられなくなっていた

 

 

聞いてはならない事を・・・・聞いてしまったあの時と同様に・・・・

 

 

 

つい、妙高は口をついてしまう

 

 

 

 

 

 

「あの、赤城さんて・・・こういう大事な時、加賀さんに相談というか・・・・してますよね?」

 

 

 

 

言ってしまった・・・・だが、後悔よりも好奇心の方が上回っていた

 

 

 

 

 

 

 

「・・・え?・・・・・・・・・・・・あぁ・・・・そりゃ、そうです・・・だって・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「加賀さんは・・・・・私の師匠ですから」

 

 

 

 

 

 

「・・・・え?」

 

 

 

 

この返答は、流石に予想外だった

 

 

 

 

「・・・・だって、赤城さんは確か・・・・・」

 

 

「竣工は、確かに私の方が一年早かったですが、それはワシントン海軍軍縮条約の煽りで加賀さんの艤装工事が止められたからですし、起工は加賀さんの方が先ですよ?」

 

 

「そう、なんですか? そういえばそんな話を聞いたような気がします」

 

 

「それに、加賀さんと私は、元々は長門型の流れを組む戦艦ですから。八八艦隊計画の3番艦と6番艦で、言ってみれば加賀さんは私の姉みたいなもんです」

 

 

「そうだったんですか・・・・でも、それで師匠というのは・・・・」

 

 

 

「まぁ・・・・厳密には、加賀さんだけじゃなく、鳳翔さんや龍驤ちゃんも私の師匠筋に当たります。私は竣工してからロンドン海軍軍縮会議とか友鶴事件など色々ありましたので、全通式甲板への改装もあって、実戦に出るまで11年もかかりましたから。その間、先の御三方は世界初の空母機動部隊として支那事変で多くの貴重な経験を積まれました。その後加賀さんたちには空母機動部隊の何たるかを全て叩き込まれています・・・今の私があるのは、御三方の指導の賜物ってやつですよ」

 

 

「まぁ、赤城には、あぁ~~~っという間に抜かれてしもうたけどな。ホンマ敵わんわ」

 

 

龍驤は、その当時の事を思い出し苦笑いする

 

 

「私は条約前の起工だったし、龍驤ちゃんは条約後の空母保有枠があまりなかった頃の起工だったから、どうしても小さな艦体になっちゃって・・・・あまり赤城ちゃんの参考にはならなかったと思いますけどね」

 

 

 

(2021年12月27日 執筆)

 

懐かしそうに話す鳳翔は、どこか嬉しそうだった

 

 

「ホンマ、立派になったもんや・・・真珠湾の時は、鳳翔なんか泣いとったもんなァ」

 

 

「そんな事もありましたね・・・・でも、加賀ちゃんには本当に頭が上がりませんでした。一番大変な思いをしたのは、間違いなくこの子ですから」

 

 

そう言いながらもう自分より大きくなった加賀の頭を撫でる鳳翔。加賀もまんざらでもない様子であった

 

 

 

「・・・・誰かがやらなければならない事でしたし、それがたまたま私だったというだけの事です」

 

 

 

 

 

 

「・・・あの・・・それってどういう事ですか?」

 

 

 

これは聞き捨てならないとばかり、妙高は尋ねる。それに対し、赤城はこう、答えた

 

 

 

 

 

「加賀さんは・・・・私たち空母として生まれた存在に、どうあるべきかの《道》を示してくれたんですよ・・・・蒼龍たちや・・・そして翔鶴たちにもね・・・・」

 

 

 

「・・・・・《道》・・・ですか・・?」

 

 

 

「空母機動部隊の戦い方を模索しそれを編み出したのは加賀さんです。友永や村田たちも、言ってみれば加賀さんの子供たちみたいなもんですから・・・それに・・・」

 

 

赤城は続ける

 

 

「それに、加賀さんは戦いの中で航空母艦のあるべき姿を見出し、それを体現するためにその身を何度も切り刻まれました・・・・言うなれば、戦う実験空母でした」

 

 

ちょっと暗くなりそうな話の流れを龍驤が断ち切る

 

 

 

「けどな・・・・その甲斐あって、加賀は世界に先駆けて、《空母の一つの完成形》に到達したんや! その後に建造される空母は、みんな加賀をお手本にしたんやでぇ!」

 

 

 

そして赤城は言う

 

 

 

「お手本なだけじゃありません・・・・並み居る艦娘の中で・・・・最強なのは私ではなく加賀さんです・・・・・今でも私の前に高く聳え立つ目標なんですから」

 

 

 

 それを聞いて、それまで黙って話を聞いていた加賀がようやく口をはさむ

 

 

 

「それは・・・どうでしょうか? 少なくとも、今は赤城さんとは殆ど差はないと思います・・・赤城さんは戦闘の天才ですから・・・あ、でも食欲なら、私の方が天才です(ドヤァ)」

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください加賀さん! それは聞き捨てなりません! 食欲は、この赤城のレゾンデートル・・・誇りですっ! 譲れませんっ!!!」

 

 

「そうですか・・・ならばどちらが食欲の天才かを賭けて勝負です・・・・妙高さん、戦闘糧食をこちらへ!」

 

 

「・・え”っ!?」

 

 

「望むところです! 一航戦の誇りっ、譲れませんっ!!」

 

 

「・・・・二人とも、いい加減にしなさい! 晩御飯抜きにしますよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・すみませんでした」

 

 

 

 

 

揃って水上土下座という珍しいスキルを発動する赤城と加賀であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤城 06 佐世保沖海戦とティレニア海開戦(Ⅲ) に続く


 
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