「ん・・・・・・」
心地よい目覚め。今日も良い1日を送れそうだ。涼しい風が頬を撫でる。
風・・・?
窓でも開けたまま寝たのだろう。うん。
そういえば・・・いつ寝たっけか・・・・・・覚えていない。
まあいいだろう。
草木の匂いも目覚めを祝ってくれている。
草木の・・・匂い・・・?
何だ・・・野宿でもしたのか俺は。
「おい・・・起きろ・・・」
そして、野太い声が・・・
野太い・・・声?
誰だよ、こんな心地よい目覚めに無粋な真似をするのは・・・・・・
そう思いながら、北郷一刀は目を開ける。
「身ぐるみ置いていきな」
・・・・・・・・・・・・
「おい、聞いてんのか」
夢だ・・・うん。
さあ、爽やかな風・・・草木の匂い・・・・・・俺を再び夢の世界へ・・・
もう一度眼を瞑り、一刀は眠気に身を委ねた。
「起きろっつってんだろうがぁ!!!」
どす・・・と、何かが頬の横に刺さる。
ひりひりと・・・頬が痛み、生温かい感触が頬を伝った。
「・・・・・・は?」
思わず目を開き、隣を見れば、自らの顔。
それが、鋭利な刃物だと気付いた瞬間、再び野太い声が聞こえる。
「起きたか」
声の方向を見れば、黄色い布が特徴的な男3人組。
「・・・・・・誰・・・?」
見た事無い顔・・・というか、服装も・・・何というか・・・・・・変だ。コスプレ?
「おい、死にたくなきゃ、金と服置いていきな」
その辺の雑魚キャラが吐くような科白を言いながら、先程の剣を突き出す男。
何だ・・・ドッキリか。カメラ何処だよカメラ。
実は現実逃避をしてる事に気付きながら、辺りを見渡す。
木・・・木・・・木・・・チビ・・・標準体型・・・デブ・・・木・・・木・・・木
気付く。唐突に気付く。1番始めに気付かなければならない事を一刀は気付く。
「ここ・・・・・・どこ?」
こんな森はフランチェスカやその周辺には存在しない。
林はあっても森はない。
おかしい。何かがおかしい。
だって、森にいるし。目の前の人、変だし。この剣、本物っぽいし。傷、痛いし。
え・・・何これ。夢じゃないの?ドッキリじゃないの?及川がその辺隠れてて、
『ドッキリやで~!』
とか言ってくるんじゃないの?
「おい!!」
いきなりの怒鳴り声に、びくっと体が反応する。
「は、はい?」
「てめぇ、今の聞こえたか?金と服置いてけっつってんだよ!」
「・・・は、はぁ?・・・それより・・・・・・ここ、何処です?」
・・・・・・・・・・・・
沈黙。え、何その反応?そんな不味い事聞いた?・・・と、逆に不安になる一刀だが、沈黙の理由はそれではなかった。
「アニキ・・・こいつ、頭おかしいんじゃ・・・?」
「俺もそう思う・・・」
「ど、どうずる?捕まえる・・・?」
何やら相談を始める3人。あれ・・・もしかしてチャンス?
何やらピンチっぽいので、瞬間的に活性化した一刀の思考が色々な答えを導く。
1、逃げる
2、再び寝る
3、ここは夢!つまり俺はむて~き!!かかってこいやぁ!!!
コンマ数秒で結論。
「逃げるが勝ち!!」
「あ、てめっ!!」
「ま、待つんだな~」
3人が追いかけてくるが、関係ない。逃げる。ただ逃げる。ひたすら逃げる。
ここがどうだろうと、まず命。
結局ここが何処かは聞けなかったが、命より大事なんてものはないのだから。
ひたすら走り、数分後。
「はぁ・・・はぁ・・・・・・まいたか・・・」
後ろを振り返っても誰もいない。足音も聞こえない。
「何なんだよ・・・ったく・・・・・・」
完全にまいた事で気が抜け、その場で座り込む。
周りを見渡すが、相変わらず森の中のようだ。
「・・・フランチェスカ・・・じゃない・・・・・・そもそも・・・日本・・・か・・・?」
あの時の3人を思い出す。日本語を喋ってた。日本語圏は日本だけ。必然的にここは日本なのだが・・・。
何となく、違和感が一刀の中に残る。
「とりあえず・・・歩こう・・・・・・あいつらがまた来たら困るし・・・」
幸いながら、森の出口はすぐ見つかった。
しかし、それは幸いなどではない。
それは絶望への・・・または・・・正しき世界への道。
「な、何だよ・・・・・・これ・・・?」
思わず裏返る声。
そこにあったのは・・・戦場。
人と人が殺しあう・・・愚かな舞台。
先程の男達のような黄色い布をつけた部隊と『孫』という旗を掲げた部隊。
勝敗は歴然だった。
素人の一刀でもわかる。
黄色い部隊は何の策略もなしに突っ込むだけ・・・陣形もくそったれもない。
対し、孫の部隊は陣形も定まり、突っ込んでくる敵をいなしながら横撃し、確実に殲滅していく。
あれは戦争ではない、虐殺だ。
孫の部隊が一方的に虐殺してるに過ぎない。
ちゃんとした軍隊だろう・・・大義名分もあるのだろう・・・
でも・・・それでも・・・・・・認めたくない。
いきなり襲いかかってくる非現実。
日本がどれだけ平和か、見せつけられるような非現実。
「う・・・うおぇぇ・・・げう・・・」
胃からこみ上げる物が止められない。
人の叫び声がここまで聞こえてくる。
気持ち悪い。去らなければ。ここから。去らなければならない。
その時、大勢の怒号にも似た声が聞こえてくる。
どうやら孫の部隊が勝ったようだ。
黄色い布の部隊は散り散りになりながら、逃げ去っていく。
とりあえず・・・終わった・・・・・・終わってしまった。
ここからでも見える。
死体の山が。
赤く染まる大地が。
大空へと届く煙が。
と、その時、一刀は体内に走る血が逆流する錯覚を感じた。
逃げる黄色い布の部隊の数人が・・・こちらへ向かってきている。
「まずっ・・・!」
すぐさま立ち上がり、森へ引き返した。
あんなのに出会えば、何されるかわかったもんじゃない。
というか・・・わかりきっている。
死。
頭に過る絶望を拭い、全力で森の中を駆ける。
しばらくすると、怒鳴り声や斬音が一刀の耳に入ってきた。
どうやら孫軍も追撃しているらしい。
「くそ・・・何でこんな事に・・・・・・!」
つい昨日まで友人達とバカ騒ぎしてたというのに、何故こんな目に合わなければならないのか・・・これも運命だとでもいうのか。
そんなもの・・・認めるものか!!
生きてやる・・・絶対に・・・・・・こんな所で死んでたまるか!!
俺はまだ・・・死にたくない!!
決意を胸に森を逆走するが、流石に体力が持たない。
ちょうどいい茂みがあったので、ひとまずそこに飛びこんだ。
怒声が飛びかう中、身を縮こませて耐え凌ぐ。
下手に動くよりはマシな筈・・・と、息を殺し、時が経つのを待つ。
体感での数分後、ようやく怒声が止んだ。
ほっ・・・と、息を吐き、立ち上がる・・・・・・
「名を名乗れ」
瞬間、一刀の背中に硬い物をあてられた。
「っ・・・!!」
全く気付かなかった。気配も何もなかったのに。
「・・・?・・・妙な格好だな・・・・・・お前、何者だ?」
男の声・・・先程の黄色い布の3人組とは違う。
「ほ、北郷一刀・・・・・・フランチェスカ2年・・・剣道部・・・」
とりあえず、情報だけ・・・それでも、あてられたものはどけられず、それどころかより強くあてられた。
「ふらんちぇすか・・・?そりゃ何処の邑だ?・・・お前、生まれは?」
「と、東京の浅草・・・」
「・・・知らねぇな・・・・・・!!・・・まさか・・・」
と、剣がのけられ、背後の男が目の前にやってくる。
桃色の髪をした男だった。褐色の肌に桃色、珍しいどころか、少し気味悪いとさえ思う色だが、不思議とそう感じさせない。むしろ、美しいとさえ思う色合い。年齢は・・・20代後半辺りだろうか。
「・・・・・・天の御遣い・・・か?」
「・・・はぁ?」
聞いた事のない単語で呼ばれ、思わず声に出してしまう。
それも気にせず、男はじろじろと見てきた。
「昨日の流星・・・この服装・・・間違いねぇ・・・・・・」
ぶつぶつと何かを呟く男。逃げたいのは山々だが、目の前の男には隙が全くなかった。先程といい、只者ではない。
逃げれば、殺される。
予感。
いや、恐らく事実。
とりあえず、すぐどうこうとする訳じゃなさそうだし、情報を集めよう・・・と、一刀は口を開いた。
「あ、あの・・・?」
「あ?何だ?」
「ここは・・・何処なんです?」
「ここか?荊州南陽っつうとこだ。自己紹介が遅れた。俺は孫覇。性が孫で名は覇・・・字が子威だ」
先程の男達とは違い、ちゃんと答えてくれた。
「孫・・・覇・・・さん?というか・・・字?」
字は昔の中国で使われていたものの筈・・・と、脳の片隅にある記憶を引っ張り出した。
何故、今になってそんなものを?
「ん~・・・こうやってみると、中々いい面構えしてんなぁ・・・目も悪くねぇ・・・・・・」
孫覇と言う男が瞳を覗きこんでくる。
「な、なんでしょう・・・」
纏う空気が、殺気から好奇心に変わっていた。
半ば安堵にも似たものを感じながら、男の次の行動を待つ。
「よし決めた・・・お前・・・・・・雪蓮達の所に行け」
「しぇれん・・・?」
「・・・っ・・・・・・おいおい・・・・・・いきなり呼ぶかお前・・・あー、でも俺が真名言ったのも悪かったのか・・・」
「まな・・・?って何です?」
「・・・・・・知らねぇのか?真名っつうのは、その者の神聖な名の事だ。親しい者、愛しい者にしか授けてはいけない名前。他人の真名を知っても、本人の許可無しで、真名を言ってはいけないという・・・暗黙の了解を持つ名・・・それが真名だ」
それって・・・今、物凄く失礼な事をしたのでは・・・・・・嫌な汗が一刀の背中を伝う。
「良かったなぁお前。雪蓮達の所でそれ言ったら、容赦なく首刎ねられたぞ」
良かった・・・この人に会えて良かったと、心から祈る。
「ま、俺も腕一本で許してやんよ」
「って全然良くない!剣構えないで、お願いだから!!」
「冗談だよ冗談」
と言いながら、目は笑わず、剣に手を添えている・・・・・・もう、不注意に人の名前を呼べない一刀であった。
「で、あの・・・その、さっきの人、誰なんですか?」
「雪蓮は俺の妹でな。名前は孫策、孫家の主だ」
・・・・・・・・・・・・は?
「そん・・・さく・・・・・・って、はい?孫策って、孫子の『孫』に、策略の『策』?」
「おお、そうだ。かの有名な『江東の虎』孫文台の娘、孫伯符その人だ」
・・・・・・ええぇええぇぇぇえぇえぇえぇえぇ!!?
孫伯符って、あの孫伯符?三国志の、孫呉の孫策!?
そうだ・・・荊州っていったら、三国志の時代の地名だ・・・・・・さっきの戦争といい・・・孫策といい・・・まさか・・・・・・ここは、三国志の世界・・・?
いや・・・待て、早まるのはよくない・・・うん。だってさ・・・言ったよね・・・この人。
孫伯符は俺の妹・・・って。
孫策に兄がいたかはともかく『妹』って。
つまり、孫策は『女』!俺の知ってる三国志ではない!!
じゃあここ何処だよ・・・でも・・・・・・ここが三国志の世界って事だったら、ある程度辻褄はあうんだよな・・・・・・どうやって、ここに来たのか以外。
色々な思考を巡らせた結果、一刀は、唯一の情報源である孫覇という男から話を聞く事にした。
「あの・・・孫覇・・・さん?質問いいですか?」
「おう、何でも聞け。ああ・・・立ち話もなんだしな、俺の家来い」
と言い、歩き出す。背中を軽く見せたという事は・・・信頼の証なのか・・・・・・背中から襲いかかってきても、いなせる自身があるという事か。
とりあえず・・・ついていくしかない。
もう・・・一刀には、その道しか残っていないのだから。
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江東の覇人 1話です。
これで2つ目…後1つで見習い卒業です。
今日中に頑張ります!