No.1076058

絶撃の浜風 赤城編 04 佐世保沖海戦とティレニア海海戦(Ⅰ)

絶撃シリーズ 赤城編 第四話です

同海戦は、後に第三次深海棲艦戦争と呼ばれるものとなります
ようやく前編が完成したので上げておきます
あと、長くなりそうなのでタイトルを変更しました

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2021-10-31 22:07:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:250   閲覧ユーザー数:250

絶撃の浜風 赤城編

 

 

 

 

 

04

 

 

 

 

 

佐世保沖海戦とティレニア海海戦(Ⅰ)

 

 

 

 

 

 

 (2021年8月15日 執筆)

 

 

 

 

 

 

 

皇紀 2736年7月4日

 

 

 

赤城と加賀、そして鳳翔が演習にすら姿を見せなくなって、既に二年もの月日が流れていた

 

 

 

 その年は、アメリカはカリフォルニア州、サンディエゴ軍港においてアメリカ建国300周年記念観艦式が開催される運びとなっていた

 

 

 

 今よりおよそ60年前のあの日から、人類共通の敵は【人】から【深海棲艦】へと移っていた。人と人、国や地域同士で紛争する時代は今や過去の話である。第一次深海棲艦戦争の折、世界中の軍事力は一度この地上から消滅している。それは当時世界最強を誇っていたUSAFの5軍でさえ例外ではなかった

 

 我が国においても、太平洋方面に展開するアメリカ第七艦隊が深海棲艦軍と交戦になり、第70から79まであった10の任務部隊が全て壊滅、司令部の置かれていた揚陸指揮艦ブルーリッジは横須賀基地ごと地上から消滅した

 

 

戦う術を失った人類は、丸腰のまま深海棲艦の脅威に晒された

 

そしてそれを救ったのが、現代に至るまでその血脈を受け継がれる存在、艦娘であった

 

 

 現在この地球上に覚醒している艦娘の数は僅かに300隻余り・・・・相も変わらず深海棲艦とまともにやりあえるのは艦娘だけであった

 

 通常兵器搭載型の艦艇や航空兵器は、かつてのアメリカ沿岸警備隊、所謂第6軍の生き残りを再編・再構築したもので、その用途は、海賊やマフィア等の組織犯罪集団の摘発という、対人戦闘が主任務となっていた

 

 

 

故に、今や観艦式の主役は【艦娘】であった

 

 

 

 第二次深海棲艦戦争後の世界は、深海棲艦の絶対数が激減した事もあり、比較的平和な時代が長らく続いていた。そのような背景もあり、他国の観艦式に参加する艦娘の数は、回を重ねる毎に増加の一途を辿っていた

 

 

 

 米海軍にとってはかつての同盟国である日本からも、毎回多くの艦娘が祝賀航行部隊として参加していた

 

 そして今回日本から派遣される艦娘の総数は実に88隻にも及び、某鎮守府からは52隻が参加する予定となっていた。流石にこれは異例の事であった

 

 

 

例年他国の観艦式に派遣される艦娘はせいぜい5~10隻位が相場であった

 

 観艦式は、言ってみれば祭事のようなものである。他国の艦娘を招いて軍事交流や国際親善を促し、同時に自国民に艦娘への理解を深めてもらう場でもあった。だが、他国の観艦式に艦娘の多くを割く事は、自国の哨戒任務や有事への即応に支障を来す恐れがあった。これでは本末転倒である

 

 

 にもかかわらず、日本がこれ程の大部隊を派遣させる事になった経緯には少々複雑な事情があった

 

 

 

 

それは、今より丁度一年程前の事

 

 

 皇記2735年度上半期分の、大本営に提出されていた某鎮守府の戦闘詳報の記載内容に改竄の疑いが持たれていた事に端を発していた

 

 艦娘による鎮守府間の定期演習は、各鎮守府が持ち回りで主催し、演習内容の一部が一般に公開されている。その様子は公共の電波で報道される事もあるのだが、茶の間に流れた某鎮守府所属艦娘のオーダーが、戦闘詳報に記載され大本営に報告されていた艦種と異なっていた事があった。それを当時主計課に勤務していた大淀が気付き、演習用資材の発注伝票を精査した所、不審な点が多数見つかったのである

 

 それだけではなかった。演習や任務への参加記録が、実際の出撃データと異なっている部分が相当数に及んでいた。特に一年以上前の出撃記録の改竄が顕著であった

 

 そして調査を進めているうちに、大淀はとんでもない事実を突き止める。某鎮守府所属の超大物艦娘である赤城と加賀が、この一年もの間、演習はおろか、只の一度も哨戒任務を行っていなかったのである

 

 

 それらの調査報告書をかつての上司であり、現特務機関のトップである前川特務機関一等海佐に報告した事で、これが大本営の知る所となった。事態を重く見た前川一等海佐の要請を受け、これまでは主計課に席を置きながら極秘裏に諜報活動していた大淀は、正式に特務機関付となり、密かに某鎮守府の内情調査を行っていた

 

 

 その結果、赤城と加賀、鳳翔の三隻が、事実上の退役扱いとなっており、更に一年以上前までは某鎮守府所属艦娘のおよそ八割が、あらゆる任務や演習参加をしていなかった事実を突き止めたのである。にもかかわらず、一航戦の両名が現状に対して何の動きも見せていない。大本営や艦娘の行いに何か不手際が生じる度に、常に介入してきた赤城と加賀である。二人の性格を鑑みれば、これは有り得ない事であった

 

 某鎮守府の中で何かが起きている事は明白であり、何らかの理由で、某鎮守府所属艦娘が身動きが取れない状況に置かれている可能性が予想された

 

 

 これらの報告は、大本営にとって正に寝耳に水であった。第二次深海棲艦戦争以降、大本営は艦娘の掌握に腐心してきた。艦娘に対して不義理であるとわかっていても、ナノマシンを駆使してアドミラル権限を強化し、有事の際は艦娘の動員に不備がないよう働きかけてきた

 

 そしてその過程において、常に一航戦の赤城と加賀の介入があった。彼女たちは艦娘側にも、大本営側にもどちらにも与しないスタンスを貫いていた。軍人提督達の艦娘使い捨て横行の際には、大本営軍人処罰に関する約定を締結させた。艦娘たちの多くが深海棲艦軍との戦いをボイコットし、戦場に背を向けた時も、赤城たちは躊躇いもなく自ら進んで死地へ赴き、その命を散らしていった

 

 

 赤城と加賀の存在は、大本営にとって、事を思うように運ばせない忌々しい存在であると同時に、ここぞという時には同じ仲間である艦娘たちに背を向けてでも命を賭して人類の為に戦ってくれる頼りになる存在でもあった。彼女たちの判断と行動は、大抵の場合間違える事はなく、何時いかなる時も誠実であり続けた。そういう意味では、大本営は一航戦の二人を信頼していると言えた

 

 

その赤城と加賀が、この件に介入してくる気配がない・・・・それは、ある意味とても恐ろしい事であった

 

 

 これらの調査結果を受け、大淀は某提督解任に関する法整備の必要性を前川特務一等海佐に説き、現行の《提督権限執行権発動条件設定》の見直しを進言、前川はこれを幕僚長に報告した。大本営幹部連は、大淀から提出された草案を元に改定された軍規を国会に提出、法案は可決され、年度内に法制化される見通しとなっていた

 

ここまでは、大本営幹部連と前川特務一等海佐との見解に相違はなかった

 

 前川の当初の計画では、外堀を埋めた後、引き続き某鎮守府の内情調査を継続し、某提督の真意を把握した上で対応を検討するつもりであった。だが、大本営幹部連は某に叛意の恐れありと見なし、強制的に排除する意向を示していた

 

 この異常事態に一航戦の二人が動いていない・・・・この事実が、大本営を動揺させていた。一航戦の赤城と加賀が無力化されているという事実は、前川が思っている以上に大本営にとって極めて深刻に受け止められていたのである・・・・そして国内鎮守府でも随一の戦力を有する某鎮守府の不穏な動き・・・

 

 

 かつて大本営のお膝元にあって最大の勢力を誇っていた横須賀鎮守府・・・・そこは現在巨大な円形状の入り江に姿を変えていた。第一次深海棲艦戦争の折、第七艦隊司令部の置かれていたそこは深海棲艦の襲撃を最も激しく受けた場所でもあった。日本政府は軍事拠点を横須賀から呉へと移行せざるを得ず、後の大本営設立も広島の基町に置かれた

 

 

 だが、その後現れた艦娘の多くが、今は亡き横須賀軍港周辺に出現した。大本営の置かれていなかった当時、民間の企業や人々が、艦娘の受け入れの場として閉鎖されていた浦賀船渠跡地に暫定的に軍事拠点を建設した。それが現在の【某鎮守府】である

 

 その時の各鎮守府の戦力比のまま現在に至っている。その所属艦娘の数は某99、呉49、佐世保46、舞鶴26である。単純な数においては、呉、佐世保、舞鶴を合わせてようやく某鎮守府を上回るという陣容であった

 

 

 

大本営が某鎮守府の動向を恐れ、事態の早期収拾に乗り出したのは、無理からぬ事であった

 

 

 

 大本営は、翌年行われる予定のアメリカ建国300周年記念観艦式を利用し、某鎮守府接収プランを立案した

 一航戦の二人に加え、某鎮守府所属の主要艦娘50隻からなる計52隻の艦娘を祝賀航行部隊に派遣させ、戦力を分散の上、某鎮守府を制圧するというものであった

 

 更には呉、佐世保、舞鶴からはそれぞれ12隻ずつ、計36隻の艦娘を派遣する計画であった。既に欧州艦隊とは内々で話がついており、仮にサンディエゴに向かう途中で某鎮守府所属艦娘が反旗を翻したとしても、双方合わせれば充分に制圧可能な編成計画が組まれていた

 

 

 

 トリガー発動条件は、某提督が大本営の要請に従わず、派遣部隊に赤城と加賀を同行させなかった場合である。それを以て某提督に叛意ありと見なし、強制捜査を行う算段となっていた。そのための法整備も既に完了していた。

 

 

 

 このような大がかりな作戦を大本営が立案した背景には、第二次深海棲艦戦争以来、大本営が艦娘を信用できなくなっていた事にあった。その為にナノテクノロジーを駆使し艦娘を統制しようとしていたわけであるが、今回はそれが裏目に出た形となっていた。深海棲艦という人類共通の敵が未だに人を脅かし続けている現在、地方の提督がアドミラル権限を悪用し艦娘を掌握するという愚行は想定の外にあった。これは大本営にとって誤算であった

 

 

 

 因みに今回の作戦は、一時的とはいえ、国内の戦力を少なからず空洞化する事になり、有事の際に大変なリスクを伴う事になる。いかに赤城、加賀の沈黙に動揺していたとはいえ、言ってみればこれは大本営の怠慢・・・油断と言えなくもない。彼らとて、長らく続いた深海棲艦との小康状態に慣れきっていた感は否めなかった。これが地方の提督クラスなら、尚の事であった

 

 

 

 ともあれ、大本営は祝賀航行部隊への派遣要請を某提督に通達した。ここまでが昨年度の出来事であった

 

 

 

 

 これらの動きに対し、某提督は何の疑問も抱いていなかった。むしろ大本営の要請に従う事は、有益な得点稼ぎ位にしか思っていなかった

 

ただ、赤城・加賀両名の派遣にだけは難色を示していた

 

 両名の派遣を渋る表向きの理由は、深海棲艦の出現が近年めっきり少なくなったとはいえ、当鎮守府の虎の子の一航戦を海外派遣メンバーに加える事は、手薄になった国内の守りに支障を来す恐れがあり、好ましくないというものであった

 

 尤もそうな理由であるが、無論これは詭弁であり、そんな殊勝な事を考える某ではない。本当の理由は言わずもがな、現在の一航戦が置かれている状況を大本営に知られたくなかったからであった

 

 

 皮肉な事に、この某の表向きの見解は、大本営のそれよりも正鵠を射ていた。彼のこの決断が、結果としてこの後に起こる事態の収拾に大きく関わる事になったのである

 

 

それはそれとして・・・・

 

 

 実際の所、出世以外に興味のない某提督に叛意などあるはずもなかったのであるが、余りに不審な行動を繰り返した結果、大本営に警戒されてしまったのである

 

 

 

 

 

 

そして、その日がやってきた

 

 

 

 同年6月12日、浦賀、呉、佐世保、舞鶴を出港した艦娘たちは駿河湾に集結。総勢88隻にも及ぶ祝賀航行部隊が、アメリカはカリフォルニア州、サンディエゴに向けて出航した。予定通り内52隻が、某鎮守府所属艦娘で占められていた

 

 

 それは、まるでこれから戦争でも始めるかのような陣容の大艦隊であった

 

 

 

 

 

 

だが、そこに赤城と加賀の姿はなかった

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・やはり、出てきませんね」

 

 

 

祝賀航行部隊の陣容を確認しながら、大淀は呟く

 

 

 

「・・・だね。 大淀、後は手筈通り頼むよ。僕は当分、動けそうにないからね」

 

 

「了解しました、前川一佐。直ぐに現地に出立します」

 

 

 

 

 彼、前川一等海佐は、主計課から特務機関付となった異色の経歴の士官である。そしてかつての大日本帝国海軍士官、前川萬衛中佐の末裔でもあった

 

 大本営では今、提督任命に関する要綱の見直が検討されていた。彼はその実行委員の一人であった

 

 

 

 

 

 

 

 その四日前の6月8日には、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアからもパナマ経由でサンディエゴに向け艦娘が出航していた

 

 イギリスからはWarspite、Nelson、Ark Royalが、フランスからはRichelieuが、ドイツはBismarckとGraf Zeppelin、Prinz Eugenが・・・

 そして・・・・イタリアからはLittorio、Roma、Abruzzi、Garibaldiが派遣された

 

 

 

 

そして・・・

 

 

 

 

 ヨーロッパ連合諸国の艦娘達がサンミゲル島沖に集結し、大西洋を横断する様子を・・・息を潜めてじっと伺っている者たちがいた

 

 

 

 

 

 

 

 

《・・・・スベテハ・・・ヨテイドオリ・・・・・》

 

 

 

 

 

 それは・・・アンツィオ沖棲姫-壊と・・・・・その残党・・・・・総勢300隻に及ぶ大艦隊であった

 

 

 

 

 

 

《・・・・ソウダネ ウエカラノ オオキイノ・・・・キヲツケルヨォ!・・・・》

 

 

 

 

 

 

 

 ヨーロッパ連合の祝賀航行部隊がパナマのガトゥンロックを通過するのを見計らい、アンツィオ沖棲姫-壊が率いる深海棲艦軍はカナリア諸島を抜け、ジブラルタルに向け航行を開始した

 

 

 深海棲艦の目的地は・・・・・イタリア半島南西部に面するティレニア海に浮かぶ小さな島・・・・ウスティカ島であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、ソロモン海から南硫黄島を経由して北上していた深海棲艦群が、南西諸島沖に進路を向け、西進していた

 

 

その中心には・・・南太平洋空母棲姫-壊がいた

 

 

 

 

 

《・・・今度コソ・・・・オ前タチニ・・・トドメヲ・・・刺シテヤル・・・ッ!モォ・・・終ワリニシテヤルヨ!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 くしくも、ヨーロッパと日本・・・・・深海棲艦は、この時を待っていたかのように地球規模での両面作戦に打って出たのである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 6月24日、日本と欧州から出立した祝賀航行部隊はサンディエゴ沖に到着。三日後に控えた一般公開初日に備え、一息ついていた

 

 

 

 

そして・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦籍不明の艦隊・・・・だと?」

 

 

 

 

 

大本営統括、陸軍参謀総長、幕僚長である

 

 

 

「はい、南大東島駐屯地より入電! 二軸の推進機音多数! 音紋照合中!・・・・北緯25度71分、東経131度18分地点を巡行18ノットで沖縄方面へ向けて進行中!」

 

 

 この時代は、艦娘達の哨戒活動により制海権の大半は人類側が確保している。だが、たかだか300隻余りの艦娘で、地球上の全海域を漏れなく哨戒するのは事実上不可能であった。故に人々の多くは未だ海に出る事を恐れ、他国への移動は陸路のみを選んでいた。そのため、民間の定期航路線が途絶えて久しかった。唯一、国家間の交易に限り、艦娘にガッチリ守られた国営の貨物船の定期便が運行されるに留まっていた

 

海賊でさえ、深海棲艦を恐れその大半が廃業して久しい時代であった

 

 加えて言えば、空路に於いても同じ事が言えた。航空機が一度海上に出ると、執拗なまでの深海棲艦戦や浮遊要塞からの攻撃を受ける。故に航空機産業は大陸航路以外は全て廃れていた

 

 

 という事はつまり・・・艦娘の護衛なしに海路または海上空路を取る船舶や航空機は、テロリストの類いか、深海棲艦に限られていた

 

 

 

「・・・・・音紋データ照合・・・・これは・・・・」

 

 

「・・・・何だ!?」

 

 

「・・・南太平洋空母棲姫です! 以下、ル級、タ級、ネ級、ヲ級・・・・・ホ級、駆逐イ級多数・・・総数暫定200以上!」

 

 

 

 

「・・・・・このタイミングでか・・・・・」

 

 

「このままだと、7.5時間後に沖縄本島東沖47海里に到達します!」

 

「佐世保と舞鶴、それと某に打電! 佐世保は乙二航戦並びに第九、第十戦隊を速やかに発進、五島列島南方沖で待機させろ!舞鶴には第二警戒配備のまま追って指示があるまで現状待機! それと・・・・・」

 

 

「某に伝えろ!・・・・・あやつの言う所の有事であるとな! 今度こそ、赤城と加賀を出してもらおう! さっさと艦隊引き連れて相模湾まで出てくるよう言っておけ!」

 

 

「了解!・・・・ですが参謀総長殿・・・主力の艦娘の大半はディエゴに出向いていて・・・」

 

 

「わかっている。 すぐに前川を呼べ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして同じ頃、サンディエゴ鎮守府に救援要請が来ていた

 

 

 

 

「パナマが何者かに攻撃を受けているだと!?」

 

 

「はい。カリブ海上から対地攻撃を受け、ガトゥンロックが六基全て破壊されたそうです」

 

 

「何だと!?」

 

 

「ガトゥンレイクの湖水がアトランティックオーシャンに流出! このままではパナマは使えなくなります!」

 

 

「なんてこった! 湖が干上がったら、10年は使えなくなる・・・・くそっ、こちら側からじゃ手が出せない。マンハッタンの動きはどうなっている?」

 

 

「既に残存艦隊が出撃していますが、あそこからじゃ、早くても4日はかかります! とても間に合わない・・・」

 

 

 

 

「何者だ?・・・・欧州の艦娘の足止めか?・・・・・まさか・・・・」

 

 

 

「クリストバルより入電! 音紋照合完了・・・・・・提督・・・・・・・・・・運河棲姫です!」

 

 

 

 

「・・・深海棲艦かっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某鎮守府、執務室にて

 

 

 

「馬鹿なっ!? 深海棲艦・・だと?・・・それも・・・」

 

 

大本営からの報を受け、某提督は驚きを隠せずにいた

 

 

「ええ。それも推定200隻以上とあります・・・どうしますか?」

 

 

 

端末から情報収集をしながら、妙高は提督の指示を仰ぐ

 

 

 

「どうするもないだろう? 練度の高い艦娘は、お前と龍驤を残して全てサンディエゴに派遣済みだ。低練度の駆逐や軽巡で何ができる?」

 

 

「そうですか? 幸い、一航戦のお二方が当鎮守府に詰めていらっしゃいますし、鳳翔さんもいます。空母機動部隊の編成は可能です」

 

 

「鳳翔は出さんよ。それに、Lv.5とLv.1の艦娘に何ができる! いかに一航戦と言えどもそれは無理だろう・・・・」

 

 

 

 

 

 

「・・・・あの方たちの現状を・・・大本営に知られるのは困る、というワケですか・・・・」

 

 

 

 

臆面もなく妙高は痛いところを突く

 

 

何しろ、虎の子のはずの一航戦、赤城はたったのLv.5で

 

その相方、加賀に至っては、《始まりの艤装展開》すら受けさせていなかった

 

 

 タイミング的に最悪だった。この有事に際し、この事実を大本営に知られでもしたら、ただで済むはずがない

 

 

わかっていた事ではある・・・こんなタイトロープを渡り続けていたら・・・・・

 

 

いや・・・・彼の渡る道は・・・初めから蜘蛛の糸のように細切れだった

 

 

 

 某提督も、今自分が置かれている状況の危うさは充分に理解している。深雪を轟沈させ、鳳翔たちを恫喝したあの日から、彼の取る道は他には無くなっていただけである

 

 

 

《・・・くそっ、よりによって俺の任期中に出てくるなよ・・・・》

 

 

 

 これまで色々と悪あがきをしていた某提督であったが、どうやら自分の行く手はここで行き止まりになっているらしい事を、彼も感じていた

 

 

「・・・どちらにしたって、戦況は変わらん・・・・大本営は、何と言ってきてる?」

 

 

「一航戦を中核とした機動部隊を編成し、駿河湾で待機させよとの事です・・・・提督、詰んでますね」

 

 

 

清々しいまでに容赦なくばっさりと切り捨てる妙高。だが某はそれに反応する余裕もなくなっていた

 

 

 

「・・・やはりそうなるか・・・・」

 

 

 普通に考えて、この状況で最強の一航戦に招集がかかるのは当然の帰結であった。だが、第二次深海棲艦戦争集結から既に40年以上が経過している。大規模な反攻作戦など、某が生まれてからただの一度も起きていなかった。平和ぼけと言ってしまえばそれまでだが、やはり心の何処かでもう戦争など起きないと高をくくっていたのが本音であった

 

 某は、二年前に赤城に言われた言葉を思い出していた。深海棲艦を甘く見るな、備えは万全にしろ、と

 

 

 だが、現状はどうだ? 一航戦を飼い殺しにして演習や改修の機会を奪ってきた。加賀に至っては始まりの艤装展開すら受けさせず、文字通り何もさせなかった。備えなどという言葉とは程遠かった

 

 

「くそっ・・・・どうにもならんか・・・何かないか・・・・何か・・・・」

 

 

《・・・・この期に及んで我が身の心配ですか・・・・》

 

 

【提督】という職務が、最早形骸化を通り越して弊害でしかなくなっていると、妙高は痛感していた。そしてそんな提督に、複雑な感情を抱いている自分がいる・・・・

 

 

《・・・これが、人との間に生まれた艦娘の・・・業・・・でしょうか?》

 

 

 

 

「・・・提督、一つ、進言しておきますね」

 

 

「・・・何だ?」

 

 

「提督は、一航戦の力を低く見積もり過ぎています。あの二人にとって、レベルの有無はさしたる問題ではありません」

 

 

「・・・お前は・・・何を言ってるんだ?」

 

 

「あの方たちは、あのままで既に《最強》クラスですよ? そんなお二人を更迭してる提督は、控えめに言って馬鹿ですね」

 

 

「お前な・・・・まぁ、だとしてもだ、それが俺にとって何のメリットがある?」

 

 

「ないですね。 だから詰んでるって言ったじゃないですか。 こんな形で提督とお別れする事になるとは・・・・この妙高の手で追い出せなくて残念です」

 

 

「・・・俺もお前が揺るぎなくて嬉しいよ・・・」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「だからっ、褒めてねえよっ!」

 

 

「・・・で、どうします? あなたにとってメリットのある選択肢は多分もうありませんが、人類にとって、あなたに出来る事ならまだありますよ?」

 

 

「・・・わかってる・・・仮にも俺は提督だ・・・腹を括るしかないって事くらい、理解している・・・それはそうと、お前まだ俺の秘書官なんだから、少しは何か考えろ!」

 

 

「そうですね・・・では二つ程進言しておきます。一つは・・・些か遅きに失した感はありますが、一刻も早くあのお二人を解放し、大本営の要望に応え出撃準備に取りかからせるべきかと。この際提督のお立場については諦めて下さい」

 

 

「・・・・・あの二人の解放は・・・まぁ、妥当な線だな・・・・・・・で、もう一つは何だ?」

 

 

「もう一つはですね・・・・提督、事が済んだら一刻も早くここを逃げた方がいいですよ?」

 

 

「あ? 何故逃げねばならん?」

 

 

「もうじきここは大本営に接収されます。そうなると提督は只では済みません」

 

 

「いや、だから何でだ?」

 

 

「提督は一航戦の派遣を拒否したじゃないですか。あれで提督は大本営に対して叛意ありと疑われたんですよ。だから主力部隊を派遣に引き抜かれたんじゃないですか。気付かなかったんですか?」

 

 

「お、おい、俺に叛意なんて・・・」

 

 

「あれだけおかしな動きをしていれば、そう思われても仕方ないですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

と、その時・・・執務室の外から声が聞こえた

 

 

「あぁ・・・・別に叛意があったわけじゃなかったのですね?」

 

 

「・・・誰だっ!?」

 

 

 

 ノックもなく、執務室の扉が開く。そして数人の黒服の職員を従えて一人の女性・・・・艦娘が姿を見せる

 

 

 

 

「初めまして、某提督。 私は大本営、特務機関所属、大淀と申します」

 

 

「・・特務・・だと?・・・どうやって入ってきた?」

 

 

「ゲートのセキュリティの事でしたら、既に解除済みです。それよりも、執務室までの道中、誰にも咎められなかったのは少々驚きでした・・・・提督、ひょっとして人望があまりおありではないのでしょうか?」

 

 

「・・・・特務が何の用だ?」

 

 

「はい。早速ですが、大本営は本日付で【特別特例艦娘執行権】を発動、現時刻を以て某提督権限を剥・・・・・」

 

 

と、その時

 

 

「待って下さい!」

 

 

 

妙高は、大淀にその先の台詞を言わせなかった

 

 

 

「大淀さん・・・それは少し待って戴けませんか?」

 

 

 

 

「・・・・どういう・・・事ですか?」

 

 

怪訝そうな表情で大淀は聞き返す

 

大淀が言いかけた言葉の続き・・・・それは

 

 

【提督権限を剥奪し身柄を拘束、その権限を大本営へ移譲する】

 

 

と、いうものであった

 

 

 執務室への道すがら、ここの艦娘達は大淀に対して概ね好意的であった。それを以て今回の一連の事件は某提督の独断によるものという認識を固めていた所であった

 

 

それだけに、某提督を庇う妙高の発言は意外であった

 

 

 

「これは大本営の決定です。この件に関して妙高さんに発言権はありませんよ?」

 

 

「いえ、別に大淀さんの邪魔をする気はありません・・・ですが、提督にはまだやり残した仕事があります。ほんの10分程でいいですから、猶予を戴きたいのです」

 

 

「それは一体どういう・・・・」

 

 

大淀が言いかける間もなく、

 

 

「あまり時間がありませんから・・・・・・提督!」

 

 

 

 

「・・・・ああ・・・・・わかってる・・・・」

 

 

そういうと某はコンソールを開く

 

 モニターには艤装格納ブースの区画が表示され、加賀のアイコンをクリックすると、データベースが表示される。艤装リンクの承認画面を表示し、パスコードを入力し、指紋認証、眼紋認証を経て、加賀の艤装リンクが承認され、パスが繋がる

 

続いて赤城、加賀、鳳翔の現隊への復帰申請を行い、これを承認

 

 

 

 

「・・・これでいいか? 妙高・・・・」

 

 

「確かに、加賀さんの艤装リンクの承認及び、赤城、加賀、鳳翔の現隊復帰申請の承認、確認しました」

 

 

 

それを見ていた大淀は、

 

 

「え・・・? ちょっと・・・・まさか・・・・」

 

 

「ええ・・・見ての通り、加賀さんは艤装リンクをカットされていましたので」

 

 

「呆れた・・・まさかそんな事になっていたなんて・・・・・」

 

 

と言う事は、今の加賀はLv.1という事になる。流石にこれは大淀の想定の外にあった

 

 

 

 

 

「・・・・・ところで大淀、大本営はいつから気付いていた?」

 

 

 

今更ではあるが、そこは某にとって少し気になる所であった

 

 

 

「それに答える義務はありません・・・・が、一年前・・・位でしょうか?」

 

 

「なんだ、バレバレかよ・・・・はぁ・・・・」

 

 

 

 そんなに長きに渡り、泳がされていたという事は、大本営に相当警戒されていた事になる・・・・・流石の某も己の認識の甘さを痛感していた

 

 

 

 

何処で間違えたのか・・・某・・・いや、前・某提督は振り返る

 

 

一航戦の赤城が某鎮守府に来たのがそもそものケチの付き始めであった

 

 一航戦の二人を更迭したのは間違いだった・・・・いや、そもそも誤って大破進軍をしてしまった時、素直に謝罪すべきであった・・・・それとも・・・・・・

 

 

 

 

「最初からじゃないですか?」

 

 

 

 

まるで某の心の声が聞こえているかのように、妙高が冷たく言い放つ

 

 

 

「艦娘の事を碌に知らない・・・知ろうともしなかった貴方が、ここに来た事自体が間違えていたんですよ・・・・と最後に進言しておきますね」

 

 

「・・・・・・・・そうだな・・・・・かも知れん・・・」

 

 

「手を出して下さい・・・提督・・・」

 

 

 

妙高は、黒服から渡された手錠を某の手に掛ける

 

 

 

「俺はもう提督じゃねえよ・・・自分で言ってたろ?」

 

 

「・・・まぁ、今更言い換えるのも面倒ですし・・・それよりも・・・」

 

 

 

妙高は、少しだけ厳しい目をして言った

 

 

 

「願わくば・・・深雪ちゃんの事を、時々は思い出してあげて下さい・・・・」

 

 

 

 

 

「・・・・それも・・・貴様の進言か?」

 

 

 

 

 

「いいえ・・・・・お願いです・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ああ・・・・ま、善処するよ・・・・・・世話になったな・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 前・某提督は黒服に連行されていく。散々某鎮守府を引っ掻き回した男の末路は、案外あっけなかったようにも見えるが、これは明らかに大淀による十全な根回しの結果であった

 

 

 

 

 

 

「改めて、お久しぶりですね、妙高さん。無事で何よりです」

 

 

 

 大淀と最後に会ったのは、妙高がイタリア留学前に所属していた大本営勤務時以来であった。当時の大淀は、まだ主計課にいた前川の下で働いていたと記憶している

 

 

 

「大淀さんも変わりなく。それにしてもいつから特務付きになられたのですか?」

 

 

「前川さんが今、特務のトップなんですよ。今回の件の調査絡みで引き抜かれまして」

 

 

「あぁ・・・それで・・・・でも、意外でした。てっきり武力制圧するものだと思っていたのですが」

 

 

「流石に気付いてましたか・・・確かにそのつもりだったのですが、たまたま、こちらの艦娘を一人確保する機会がありまして、内情は大体伺いました。ついでに入所の手引きも手伝ってもらいまして」

 

 

「あの子、また勝手に外に出たのですね・・・・」

 

 

 因みに、某鎮守府の艦娘の外出、通信等は厳しく制限されていた。妙高と鳳翔、間宮以外は原則外出が禁止されていたのだが、【薄い本】欲しさに禁断症状を起こした初雪が脱走していた所を大淀に確保されたのである

 

 

 

「深雪ちゃんLOSTの真相も伺いました・・・・想定していなかったわけではありませんでしたが、まさかそこまでやるとは・・・」

 

 

 

「私たちの・・・力が及ばず、申し訳なく思います・・・」

 

 

 

「いいえ、赤城さんたちがいてさえこの状況なのですから・・・むしろよく収めていたと思います・・・・本来なら前提督や妙高さんから事情を色々伺いたい所なのですが、事態は急を要しますので・・・」

 

 

 

「ですね・・・」

 

 

 

 不思議なもので、あんな男でも二年も一緒に過ごしていると、愛着のようなものが湧いてくるものらしい。後ろ髪惹かれるような、妙な感覚が妙高の胸に去来していた。彼女がずけずけと歯に衣を着せず本音を言えるのは、あの男だけだった。妹達相手でさえ、そこまであからさまな物言いはした事がない

 

 

 

 

「・・・・・・まさかね・・・・」

 

 

 

 

そう呟くと、妙高は通信回線を開く

 

 

 

 

 

「こちら、某鎮守府秘書官妙高です。鎮守府近海哨戒任務部隊は直ちに作戦行動を中止。速やかに帰投して下さい」

 

 

 

すると、回線の向こうから《夜戦バカ》からの返信があった

 

 

 

《こちら川内。いいのかよ? 撤退命令は、提督以外は禁止されてるだろ? 後で面倒事に巻き込まれるのはゴメンだよ!》

 

 

 

川内の心配を他所に、妙高は思わず顔がほころんでいた

 

 

 

「川内さん、いい話と、悪い話があるのですが、どっちを先に聞きたいですか?」

 

 

 

妙高の、いつになくふざけたモノの言いように、明らかに怪訝そうに川内は答える

 

 

 

《何? 妙高さん、何か変だよ?》

 

 

「まぁ、そう仰らずに! どっちにします?」

 

 

《・・・・じゃあ、いい話の方で》

 

 

「先程、提督が失脚しまして、特務機関に連行されていきました」

 

 

《えっ!? マジ?》

 

 

「マジです」

 

 

《そっかぁ・・・あのクソ野郎、とうとうやらかしたかぁ! これでようやくまともになる・・・・ん? ちょっと待って! 悪い話って何?》

 

 

「南西諸島沖に、深海棲艦が向かっています。その数200隻以上!」

 

 

《ゲッ! 何その等価交換!?》

 

 

「そういう訳なので、急ぎ帰投して下さい」

 

 

《了解!》

 

 

 

 

 

 

 (2021年8月18日 執筆)

 

 

 

 

府内放送

 

 

 

【秘書官の妙高です。当鎮守府に所属する全ての艦娘は、1900までに演習場前に集合して下さい・・・繰り返します・・・・・・】

 

 

 

 

居酒屋鳳翔にて

 

 

 

「・・・何かあったんでしょうか?・・・もぐ」

 

 

お櫃に山盛りの炊き込みご飯をお茶碗ですくい、わしわしとかっこみながら赤城は呟く

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

「?・・・どうしました? 加賀さん?」

 

 

「・・・・いえ・・・・どうやらパスが繋がったようです・・・」

 

 

「・・・え?」

 

 

「・・・・提督に・・・何かあったようですね」

 

 

「あらら、もうバレちゃったんですね。ご愁傷様です」

 

 

「まぁ、いずれにせよ、まずは目の前の筑前煮を食してからです」

 

 

「あら、仮にも私たちの提督なんですよ彼は。いいんですか?助けに行かなくて」

 

 

「鳳翔さんの料理とあの男を比べるなんて・・・私でも怒る事はあるのですよ赤城さん?」

 

 

「・・・・すみませんでした(汗)」

 

 

 

二人のやりとりに吹き出しそうになりながら、鳳翔は加賀の大好物の筑前煮を出す

 

 

 

「妙高さんから何か聞けるかも知れないわね・・・それ食べたら行ってみましょう」

 

 

「え~、私まだイカの一夜干し食べてないんですけど」

 

 

「もー、そんなの後で作ってあげますから」

 

 

 

と、丁度その時

 

 

 

カラカラカラッ・・・と、引き戸の開く音を立て、二人の艦娘が暖簾をくぐる

 

 

 

「いらっしゃいませ・・・・あら、利根さんじゃない!それと秋津島ちゃんも!お久しぶりね~」

 

 

「鳳翔よ、お主とも久しぶりじゃな・・・それにしても・・・・相変わらずじゃな、お主達も・・」

 

 

「みんな、お久しぶりかも~。美味しそうな匂いがするかも~」

 

 

「お久しぶりですね、利根さん、秋ちゃん。今生では、初めましてでしょうか」

 

 

「・・・じゃな。 加賀も相変わらずよく食うのう」

 

 

「・・・ほひゅうわらいじ・・・・・もぐもぐむしゃむしゃ」

 

 

「・・・何を言ってるのかわからんのじゃ(汗)」

 

 

「がいひゅういひょふえふ・・・・・もしゃもしゃもしゃもしゃ・・・・」

 

 

「今のは何か・・・わかった気がするかも(汗)」

 

 

 

今も昔も、利根や秋津島にとっての加賀はまるで異星人であった

 

 

 

「しかしまぁ・・・何て言うかのう・・・・」

 

 

「やっぱ利根さんもそう思います? 今回の加賀さん、すごい手強いんですよ」

 

 

「お主が手を焼くとは・・・パナイのう(汗)」

 

 

「それはそうと、どうしたんですか? 利根さんがここに来るなんて。それに秋ちゃんまで」

 

 

 

お櫃で炊き込みご飯のおかわりを催促をしながら、赤城は尋ねる

 

 

 

「何をゆうておる。さっきの府内放送が聞こえんかったんかの?」

 

 

「何か言ってましたね 何かあったんですか?」

 

 

「深海棲艦かも。その数、200は下らないかも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あぁ・・・・それで・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、赤城の表情が一瞬にして変わる

 

 

 

 アメリカ建国300周年記念観艦式に、某鎮守府からも52隻の高練度艦が出向している。他の鎮守府からも相当数の艦娘が出向いている事は、赤城たちも知っていた

 

そしてこのタイミングでの深海棲艦襲来である。出来すぎと言えば、あまりにも出来すぎていた

 

 

 

 

「成程・・・・敵の指揮官は、相当に頭が切れるようですね・・・・」

 

 

 

 

 来るべき時が来たと、赤城は思った。瞬時に、この後の展開に思考を巡らせる・・・・そして・・・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・・・提督・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

約束を果たす時が来た・・・・・そう、思っていた

 

 

 

 

 

 

そんな赤城とは裏腹に、相方の加賀の方は、久々の大捕り物に気分が大いに高揚していた

 

 今生の加賀は、始まりの艤装展開すら受けていない身である。当然の事ながら、艦娘として覚醒して以来、只の一度もその剛腕を振るう機会がなかった。フラストレーション溜まりまくりであった

 

 

 

 そんな加賀が・・・荒事が三度の飯より大好物の彼女が、200隻の深海棲艦と聞いて、じっとしていられるわけがなかった

 

 

 

 

 

 

 

 深海棲艦200隻・・・・・それは、自分たちの獲物である事を少しも疑っていなかった

 

 

 

 

 

 

 

「200・・・ですか・・・・食後の運動には、丁度いい数です・・・・・ぐぅ・・・」

 

 

 

「・・・今食べておるのに、腹が鳴っておるのじゃ(汗)」

 

 

「加賀さんに食後なんて、永遠に訪れない気がしますけどね(笑)」

 

 

 

 

 

こんな風に利根とお馬鹿な掛け合いをするのは、いつぶりだろう?

 

 

 

 

「何だか懐かしいですね・・・・こういうのも・・・・・・・」

 

 

「これからはいくらでも馬鹿をやれるのじゃ! その前に一仕事せねばならんのじゃが」

 

 

「・・・・そう・・・ですね・・・・」

 

 

「なんじゃ? 浮かない顔をして、赤城らしくないのう! ひょっとして、加賀の事を気にしとるのか?」

 

 

「いえ、そういうわけでは・・・・ていうか、知ってたんですか?」

 

 

「まぁ、そういう事じゃ! 安心せい! ぬし等の枷は、とうに外れておる」

 

 

「・・・・の、ようですね」

 

 

「それにしても、随分と手際がいいですね?」

 

 

「まぁ、あれじゃ・・・・・大淀のやつが、チョイチョイっとのう・・・・」

 

 

「あぁ、成る程・・・・本当に優秀ですよね、大淀さんは」

 

 

「それに、ぬし等には来てもらわないと困るのじゃ。何しろ、幕僚長のご指名じゃからのう」

 

 

 

 

「幕僚長って・・・・まさか・・アイツですか?」

 

 

「彼奴じゃ!」

 

 

「・・・あのジジィ、まだ生きてたんですか」

 

 

「生きておるのじゃ。あのしぶとさは深海棲艦並じゃのう」

 

 

 

 

「・・・そう・・・ですか・・・・なら、好都合です」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

赤城の想い・・・・ここにいる面々は・・・それを知っている

 

 

 

 

《赤城の奴、まだ【あの事】を引きずっとるんかの・・・・・・何でもかんでも背負い込みすぎじゃ・・・》

 

 

 

 今生における赤城の覚醒は、彼女にとって特別な意味を持っている事は、皆も感じていた・・・・諦めと・・・決意を持っての覚醒である事を・・・・

 

 

 

 

 

「さあさ、もうそろそろいかなくっちゃね! 加賀ちゃんもあとで作ってあげますから、急いで食べちゃいなさい!」

 

 

 

張り詰めた空気が、ゆっくりと落ち着いてゆく・・・・鳳翔なりの、気遣いであった

 

 

 

「・・・仕方ありませんね・・・・・少し急ぎます・・・・・ガバッ!・・・・・・・ごきゅ、ごきゅ・・・・」

 

 

 

「か・・・加賀さんっ、炊き込みご飯は飲み物じゃありませんよ(汗)」

 

 

「のどごしが堪りません」

 

 

「と、とにかく早くいきましょう!」

 

 

 

 

「・・・やはり・・・マジパナイのう・・・」

 

 

 

「かも~(汗)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 (2021年8月19日 執筆)

 

 

 

 

演習場にて

 

 

 

 

「総員、傾注!」

 

 

 

 

【秘書官の妙高です。既に聞き及んでいる方もいるかと思いますが、当鎮守府の提督が本日付で解任されました】

 

 

開口一番に妙高が発した言葉に、艦娘達は騒然となる

 

 

「え、うそ!」

 

「まじでっ!」

 

「はぁ~、よかったぁ~。私、あの人嫌いだったんだよね」

 

「いや、好きな人いないでしょ」

 

「この集まりって、その話をするためなのかな?」

 

「ねぇねぇ、次の提督って誰がなるんだろ?」

 

 

皆、色々と思う所があったのか、そこら中で本音を吐き出す艦娘達が後を絶たなかった

 

 

 

【静粛に! まだ話は終わっていませんよ】

 

 

妙高に諭され、一様にしんと静まりかえる

 

 

 

【気持ちはわかりますが、もうしばらく気を引き締めて聞いて下さい。今後の体制についてですが、当面の間、提督は不在とし、私、妙高と、特務機関より派遣された大淀が、執務を執り行います

 

 そしてここからが本題ですが、南西諸島沖から東150海里より深海棲艦およそ200隻が沖縄本島に向け進行中。目的は不明ですが、このままだと7.2時間後に沖縄近海に到達する見込みです

 

ではこれより、参謀本部からの通達を告げます・・・・大淀さん!】

 

 

 

 

【大本営直轄、特務機関所属、大淀です

 

本日2000より、赤城、加賀両名は、第一航空戦隊を主軸とした空母機動部隊を編成

 

同日1100に、同部隊は駿河湾への進出を開始、0400集結後、追って沙汰があるまで洋上で待機となります

 

 

大淀以下残存艦隊は、引き続き某鎮守府周辺海域の哨戒と防衛に当たる事

 

 

 なお、空母機動部隊の編成や装備については、一航戦の裁量にお任せします。事情が事情なだけに、その方が良いかと判断します

 

 

 

以上です】

 

 

 

 

 深海棲艦200隻の襲来・・・その情報に艦娘達の多くが騒然とした。それもそのはずである。高練度の艦娘の大半はサンディエゴへと出向いていて不在の上、今生に於いて、これ程大がかりな戦闘は久しくなかったからだ

 

 

 平和ボケしていたのは、提督や大本営だけではなかった・・・・という事である

 

 

 

 

「・・・だそうですよ? 加賀さん」

 

 

「・・・・ならば私は工廠へ向かいます・・・艦隊編成の方は、赤城さんにお願いします」

 

 

「わかりました。あとは任せて下さい」

 

 

 

 工廟へ向かう加賀。そして一航戦の赤城の姿を見つけた大淀が、こちらに向かって歩いてきた。そして目の前に立ち止まると、深々と頭を下げた

 

 

 

「お勤め、ご苦労様でした。赤城さん」

 

 

「大淀さん、お久しぶりですね。ていうか、その挨拶はどうなんですかね?(笑)」

 

 

「これは失礼しました・・・そして赤城さんも変わりなく。でも、一体どうなさったのですか? 一航戦の方々の沈黙には、正直肝を冷やしていた所ですよ?」

 

 

「まぁ、色々とありましてね・・・」

 

 

「深雪ちゃんの件ですか?」

 

 

「・・・それもありますが、某提督・・・・彼を見ていたら、もういいかなって思ってしまいまして・・・・」

 

 

 

 その、赤城の言いように、大淀は不穏なものを感じた。そして聞かずにはいられなかった

 

 

 

「・・・・もういい・・・・・とは?」

 

 

 

「彼らに・・・私たちを主管するのは無理だったのかも知れません・・・・いえ、それが出来ていた時代もあったのですけどね・・・・・今となってはどうでもいい事ですが」

 

 

「・・・赤城さん・・・」

 

 

 

不安そうな大淀を見て、赤城は努めて平静を装いながら、

 

 

 

「心配しなくても、深海棲艦はちゃんと始末しておきますから・・・・大丈夫ですよ?」

 

 

 

 赤城のその言葉は、大淀からすれば全く以て説得力がなかった。何かを諦め、突き放すようなものの言いよう・・・・大淀は、こんなにも投げやりな赤城を見るのは初めてだった

 

 

 

 そう・・・普通に考えて、あの赤城が《大破進軍》の脅しに屈するはずがない・・・・例えLOSTするものがいたとしても、確実に某提督を始末していたはずである

 

 

 

だが、そうはしなかった

 

 

 

 それが、かえって大淀には恐ろしく感じられた。あの加賀も、赤城の意を察するかのように、何も言わずに付き従っているように見える・・・・・

 

 

 

 

何か、とんでもない事が起きようとしている・・・・いや、起こそうとしている?

 

 

 

 

 

 

 一航戦の二人が何を思い、何を成そうとしているのか・・・・今の大淀にはもうわからなくなっていた・・・・

 

 

 大本営で前川と出会い、彼の元で働いてきた大淀は、その考え方が既に大本営に染まっていた。それは・・・・大淀が前川に特別な感情を抱いていた事と無関係ではなかった

 

 

別に、艦娘サイドと距離を置いていたつもりはなかった・・・・けれど、

 

 

 

《・・・私は・・・大本営の・・・前川さんの傍に長く居すぎたのかも知れない・・・・》

 

 

 

 

 

赤城と対峙していると、自分が何をしているのかわからなくなる・・・・

 

 

 

 

 

艦娘としてではなく、ただテンプレートな思考しか出来なくなっているような気がしていた

 

 

 

 

 

それは、何だかとても気持ちの悪い感情であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで大淀さん、深海棲艦の陣容はどの程度わかっているのですか?」

 

 

 突然現実に話を振られ、大淀は正気に戻る・・・今は艦隊編成を成すのが最優先事項である。赤城の事は・・・自分の事はとりあえず後回しである

 

 

「あ、はい・・・これまでわかっているのは、南太平洋空母棲姫とヲ級4、ル級2、タ級3まではわかっています。最初に深海棲艦を発見した南大東島駐屯地ですが、直後に攻撃を受け、通信が途絶えたため、それ以上の事はわかっていません」

 

 

「・・・少なくとも、空母が5隻以上いるという事ですね」

 

 

「ええ・・・既に呉、佐世保から迅鯨を含む3隻の潜水艦隊を先遣隊として現地に向かわせています。加えて舞鶴からは神威改母が出航しており、鹿屋基地で秋津島の二式大艇と合流する予定です。後は呉の千歳、千代田が艦戦搭載後、護衛空母として種子島近海に出航準備を進めている所です」

 

 

「へぇ、それは中々の手際ですね・・・本作戦の指揮は、どなたが行っているのですか?」

 

 

「前川特務一等海佐です」

 

 

「あぁ・・・彼ですか・・・・随分と立派になられたようですね」

 

 

「赤城さんに宜しくお伝えするよう、言付けられています」

 

 

「彼に頼まれたのでは、無下には出来ませんね」

 

 

 

 赤城は、前世で少年時代の前川と面識があった。血は争えないもので、代々濱風の武勇を寝物語に聞かされて育った前川少年は、まだ一度も覚醒を見ていない【浜風】の信奉者だった。浜風提督になるのが夢で、大本営に入ったとは聞いていたが、なかなかどうして、立派な将官として成長したようである

 

 

 

「それと、これが現在某鎮守府に残っている艦艇のリストになります。その他、呉、佐世保、舞鶴からも、赤城さんが必要としそうな艦艇を抜粋し数十隻がこちらの指揮下に入ります。これが該当艦のリストと、現在地になります。この中から、空母機動部隊の編成案をお願いします。準備の方は、こちらで対応しますので」

 

 

 明石に頼んで艦隊編成及び作戦指揮用に開発した旗艦専用タブレットを赤城に手渡す。艦娘や装備アイコンをドラッグするだけで、自動で艦隊編成と必要な資材が算出される優れモノで、機械音痴の上ものぐさな赤城でも簡単に操作可能であった

 

 

「へぇ、これは便利ですね。了解しました。15分で編成案をまとめましょう」

 

 

そう言うと赤城は利根と秋津島の方を振り返る

 

 

「成る程・・・利根さんが秋ちゃんを連れてきた理由はこれですか」

 

 

 大東亜戦争の開幕以来、艦娘時代に至るまで一航戦の索敵担当は利根が務めるのが常であった。それ程までに赤城たちからの信頼が厚かった。だが、今回の深海棲艦は南西諸島沖と沖縄に程近い位置で、しかもここから1000km以上離れた所の索敵となると、流石に零観の航続距離では到底不可能であった

 

 その点、秋津島の相棒である二式大艇は、8,223kmと桁違いの航続距離を持っていた。その気になれば無給油でインドまで飛んでいける程である。しかも高度を5,000mに取れば、470km/hという高速での飛行が可能であった。南西諸島まで、およそ800海里(1481km)・・・3時間程で到達出来る

 

 

 

「まったくじゃ! こういう任務じゃと、ぬし程適任な艦娘はおるまい」

 

 

「えへへ~、そんなに褒められると、ちょっと照れるかも~」

 

 

「そう言えば大艇ちゃんと逢うのも久しぶりですね」

 

 

「舞鶴からは神威ちゃんも来てくれるから、索敵線6本出せるしバッチリかも~」

 

 

「そうですか・・・それでしたら早速ですが、大艇ちゃんからの定時連絡を2000より20分毎にお願いします」

 

 

「任せてかも~! ミッドウェーの借りは返すかも~」

 

 

「いえいえ、借りなんてないですよ。あの作戦の責は、大艇ちゃんじゃなくて大本営軍令部にありますから。そもそも、あの作戦は秋ちゃん絡んでませんし(笑)」

 

 

「そうなのかも?」

 

 

「大艇ちゃんにハワイ島空爆なんて馬鹿な事をさせなければ、あんな事にはならなかったでしょう・・・・アレが全てを台無しにしたと言っても過言ではないですよ」

 

 

 

 

 ここで、少しK作戦について触れておく。赤城達の命運を分けたもう一つの黒歴史である

 

 

 あの、開戦を告げる真珠湾攻撃の後、米艦隊を誘い出し艦隊決戦を目論んでいた大本営は、二式大艇二機(一機ははぐれたため実質単機)による真珠湾空襲、所謂第一次K作戦を行った。たった四発の250キロ爆弾を抱えた二式大艇一機では大した戦果を挙げられるはずもなく、うち一発は投下に成功したものの、戦果はルーズベルト高校の窓ガラスを割っただけで、米軍を警戒させただけだった

 

 二式大艇による再度の空襲を警戒した米軍は、補給の拠点が当海域にあると睨み、北西ハワイ諸島近海の哨戒と海域封鎖を行った。結果、二式大艇はフレンチ・フリゲート礁で補給任務のため三潜戦から派遣されていた伊19達からの補給が受けられなくなり、第二次K作戦は中止せざるを得なかったのである

 

 しかも、同作戦の為に伊19等三隻の潜水艦を引き抜かれた三・五潜戦は、担当哨戒海域への配備が予定していた6月2より二日も遅れてしまい、正にその日、エンタープライズ率いる第16任務部隊が五潜戦担当海域を通過していたのである

 

 

 第二次K作戦とは、ミッドウェー攻略前に敵機動部隊の動向を探る為、二式大艇により行われる予定であったハワイ島哨戒任務の事である。もし第一次K作戦を行わなかったなら、米軍は二式大艇による哨戒(実は空爆を警戒していた)を警戒していなかったため、北西ハワイ諸島の海上封鎖が行われる事はなかった。結果第二次K作戦が成功し、真珠湾にエンタープライズ、ホーネット等第16任務部隊がいない事が確認できた可能性が高い。そうなれば、ミッドウェー方面に同空母機動部隊が展開しているであろう事は自明の理であった

 

 そもそも第二次K作戦の計画そのものがなかったら、三・五潜戦が6月2日に第16任務部隊を発見し、そこでミッドウェー海戦が始まった可能性が高い。第一機動部隊と第16任務部隊とのガチンコの遭遇戦となり、雷装したままの赤城・加賀両攻撃隊がそのままエンタープライズやホーネット、ヨークタウンにトドメを差した可能性は充分にあった。歴史上のミッドウェー海戦とは全く違った結果になっていたであろう

 

 

 第一機動部隊司令の麻雲中将はK作戦の重要性をあまり理解していなかったようで、同作戦が中止の憂き目を見ても左程気にも止めていなかった。だとしても、麻雲中将がこの事実を知っていたならば、流石にミッドウェー島攻略を躊躇した可能性はあった。少なくとも、第二次攻撃の為に雷装を爆装に換えるという愚を行った可能性は低い。絶対に抑えておきたかった重要な任務であった

 

 

 

 

当時の様相を、赤城は振り返る

 

 

「あの時の第16任務部隊はまともに運用可能な空母はエンタープライズとホーネットしかありませんでした・・・・ですが、早くから航空戦力の重要性に気付き、サラトガの艦載機や修理中のヨークタウン、ハワイ島の航空戦力まで総動員したニミッツ大将の慧眼と手腕は、敵ながらあっぱれとしか言いようがありません。凡庸な司令官なら、結果は逆になっていたかも知れません。それだけ米軍もギリギリだったのですから。我が陣営が間抜けすぎたのですよ」

 

 

 たった一機や二機の空爆を行う事で米軍を警戒させ、肝心の第二次K作戦を失敗させたばかりか、第16任務部隊の通り道を哨戒する予定であった三・五潜戦を補給に向かわせ、エンタープライズをフリーにさせるなど、海軍軍令部の采配は、わざとやっているのではないかという位、やってはいけない事を全部やっていた。ミッドウェー攻略と言う愚策と合わせると、まるで大敗するためにわざわざ出ていったようなものであった

 

 

 

赤城は思う

 

 

 

 もし、大日本帝国海軍の総司令官が本山六三八大将ではなく、チェスター・ニミッツ大将であったなら・・・・少なくともミッドウェーで敗北する事はなかったであろうと・・・・

 

 

 

 

 

「今回は、大艇ちゃんに思う存分働いてもらいますから、秋ちゃんもそのつもりでいて下さい」

 

 

「まかせてかも~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤城がまとめた第一機動部隊編成案は以下の通りであった

 

 

 

 

 

第一機動部隊編成

 

 

先遣隊

 

 第十一潜水戦隊

    迅鯨(佐世保より合流)

    伊58(呉) 呂500(呉) 伊8

    伊19(佐世保) 伊168(呉)

 

 

前衛

 

 遠距離早期哨戒艦

    島風(長10cm砲、GFCS Mk.37 呉)

    天津風(長10cm砲、GFCS Mk.37 呉)

 

 

第一航空戦隊(攻撃隊)

 旗艦:

  赤城(九九式艦爆ニニ型x63、彗星一二型x10)

    彗星は索敵・遊軍誘導兼務

  加賀(九七式艦攻一二型x81、天山一二型甲x12)

 

 

第一輪形陣

 

護衛空母

 

第三・第四航空戦隊(攻撃隊護衛担当)

  鳳翔(零式艦戦21型x42)

  龍驤(零式艦戦21型x55)

 

 

 

第十一航空戦隊(防空迎撃担当)

  千歳(零式艦戦21型x51、彩雲x8)

  千代田(零式艦戦21型x51、二式艦上偵察機x8)

  (共に呉より合流)

 

索敵隊

  利根(3号砲、零式水上偵察機11型乙x14 舞鶴)

  秋津洲(二式大艇×3 舞鶴)

  神威改母(PBY-5A Catalinax3 舞鶴)

 

第四・第五戦隊(護衛艦)

  妙高 足柄(佐世保) 高雄 愛宕

  長良(佐世保) 龍田(佐世保) 名取

  (両用砲・対空電探・機銃装備)

 

 

 

第二輪形陣

 

第六戦隊(護衛艦)

  古鷹 加古 衣笠(呉) 青葉(呉)

  五十鈴 由良 川内 神通(呉) 那珂(呉)

  (両用砲・対空電探・機銃装備)

 

  神風 春風 睦月(佐世保) 如月(佐世保) 白雪(呉) 初雪(呉) 初春

  子日(佐世保) 曙 漣 朧 電 雷 山風 五月雨(佐世保)

  (長10㎝砲連撃装備)

 

  対馬

 

 

補給艦

  速吸(艦載機補充x10 佐世保)

  宗谷(佐世保)

 

給糧艦

  間宮

 

 

計 52隻

 

 

 

 因みに二航戦の蒼龍、飛龍、五航戦の翔鶴、瑞鶴、長門等は未だ覚醒を見ていない

 

 

 

 

 (2021年10月23日 執筆)

 

 

1040、浦賀港にて

 

 

 

 今生に於いて、艦娘として初めて海に降り立った加賀は、赤城、鳳翔と共に、艦隊との調速の為、回転整合を行っていた

 

 

 

「両舷のバランスは問題ありませんが・・・・少し缶の調子が良すぎるようです・・・・赤15・・・いや・・・20・・・位でしょうか」

 

 

「私と鳳翔さんは二年前の設定でほぼ問題ありません。後は駿河までの道中で微調整しましょう・・・・それはそうと・・・」

 

 

 

 (2021年10月24日 執筆)

 

 

「大淀さん・・・何か、あったんでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

「・・・それは・・・本当ですか? 前川一佐」

 

 

【公式声明はまだだが、ディエゴ派遣組の天城の話では、どうも本当らしい・・・・ガトゥンロック六基全てが破壊されたという事は・・・・・」

 

 

「サンディエゴと大西洋が分断された・・・・という事ですね」

 

 

【・・・そうだ。 これを偶然と考えるのは危険だ。 狙いは恐らく・・・・欧州だろう・・・】

 

 

「欧州連合はどうするつもりなのでしょうか?」

 

 

【主力の艦娘を欧州へ帰還させるよう、大本営経由で話を通してもらっている。手持ちのPBY-5Aに艦娘を乗せてベルファストまで搬送し、そこから大西洋を海路で帰航するよう通達してある。そこまでは合意済みだ】

 

 

「当方の派遣組からは、応援を出さなくても宜しいのですか?」

 

 

【欧州連合は、我々の介入をあまり歓迎してはいないようだ。自分たちの事は、自分で何とかするつもりなのだろうが・・・・・まぁ、色々あるのだろう・・・】

 

 

「・・・深海棲艦の、鹵獲と生体実験の噂・・・ですか?」

 

 

【それは憶測の域を出ないよ。痛くもない腹を探られるのは癪に障るだけかも知れないしね。派遣組はそのままサンディエゴの防備にあたらせてある。陽動の可能性も捨てきれない】

 

 

「そうですね・・・・マゼラン海峡経由だと一か月近くかかりますし、その点Catalinaを使うなら、ベルファストまで22時間、ジブラルタルまでは7日で行けます・・・・その間に何も無ければいいのですが・・・」

 

 

【打てる手は打った・・・・あとは状況を見て対応するしかないだろうね・・・それよりも我々のケツにも火が着き始めている・・・・当面の敵を叩く方が先だ】

 

 

「・・・この事は赤城さん達には?」

 

 

【伝えておいた方がいいだろうね・・・彼女たちの洞察は、時々私たちの及ばない所にある。きっとよい助言を得られるだろう。後は宜しく頼む】

 

 

「了解しました」

 

 

 

 

 

 

 

(2021年10月26日 執筆)

 

 

 

「何が・・・あったのですか?」

 

 

「・・・あ、赤城さん」

 

 

「何か、私の名前も出ていたようでしたので」

 

 

「・・・・はい、実は・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・そうですか・・・パナマが落ちましたか・・・・となると・・・」

 

 

「はい・・・欧州艦隊の足止めだと、前川一佐も見ています。狙いは恐らくは欧州にあるのではないかと」

 

 

「この作戦の立案者は、私の想像より相当に頭が切れるようですね・・・・我が国と、欧州の艦隊が手薄なこの時期に二方面作戦とは・・・・」

 

 

「欧州からの続報がないのが気になる所です」

 

 

「・・・・本命は・・・・どちらなのでしょうね?」

 

 

「・・え?・・・というと?」

 

 

「この大掛かりな深海棲艦軍の出現すら、陽動の可能性がある・・・・という事です」

 

 

「・・・まさか・・・いや、でも・・・・・」

 

 

「少なくとも、サンディエゴがターゲットと言う事はなさそうですね・・・・我が方からも増援を出した方がいいかも知れません」

 

 

「・・・それが、欧州連合には増援の打診をしたのですが、その必要はないと・・・」

 

 

 

 

 

 

「・・・必要・・・・ない?」

 

 

 

 

 

 

 

赤城は・・・少しだけ逡巡したかと思うと、少し不機嫌な様子でぼそっと呟く・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・あぁ・・・・じゃ、そっちが本命ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤城の・・・・漆黒の髪が・・・・・逆立ち、怒髪天を突き始める・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「・・・舐められたものです・・・・この私たちが陽動の出汁に使われるとは・・・・・」

 

 

 

「・・・ですね・・・久々に超頭にきました・・」

 

 

 

 

どうやら、加賀も同じように考えていたようである

 

 

 

 

 日本に比べ、欧州の艦娘の艦艇数は相対的にかなり少ない。深海棲艦の狙いが欧州だとしたら、欧州連合だけで太刀打ちできるとはとても思えなかった

 

 にもかかわらず、欧州連合はディエゴの日本艦隊の派遣要請を拒否している・・・・・普通ならあり得ない事である

 

 

 

 赤城の知る【欧州連合】は、今も昔もしたたかである。彼らは常に戦略的思考をし、勝つために必要な案件に傾注し、最終的には勝つ・・・・そんな彼らが今、自分たちが置かれている状況をわからないはずがない・・・・だからこそ有り得ないのである

 

 

 

 

 

 

 実の所、赤城にはこの戦いに於ける深海棲艦側の戦略がほぼ見えていた

 

 

 

 

 

 

 サンディエゴへ日欧の艦隊が集結したタイミングでの深海棲艦軍のこれみよがしな南西諸島進軍、そして直後のパナマ運河襲撃・・・・

 

 

 状況は、欧州の【どこか】が本命であり、南西諸島沖の軍勢は【陽動】である事を如実に語っていた

 

 

 ディエゴと南西諸島で艦娘を釘付けにし、その間隙を縫って何かを成そうとしている・・・・・欧州のどこかに、それ相応の大艦隊が襲来する近未来が透けて見えていた

 

 

 

 

 なのに、である

 

 

 

 

 欧州連合は増援は不要と言った。つまり、欧州連合は今、何が起きているのかを事前に知っていた可能性がある。にもかかわらず、ディエゴに主力の艦隊の派遣を中止せずそのままにしている

 

 

 欧州連合は間抜けではない・・・残された少数の艦艇だけで、その軍勢に対抗できる策がある、という事になる

 

 

 

 

 

 赤城と加賀は、深海棲艦に陽動の出汁にされた事もさることながら、欧州連合にこちらの動向まで見透かされているようで、それに腹を立てていたのである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「状況にもよりますが、こちらを片付けたら欧州に殴り込み、というのも面白そうですね、加賀さん?」

 

 

「それも一興です」

 

 

 

 

 

 

 

「全艦、準備が整いました。いつでも出れます」

 

 

 

 

「では、そろそろ行きましょう、赤城さん」

 

 

 

「ですね・・・・」

 

 

 

 

 

 

(2021年10月29日・30日 執筆)

 

 

 

本日ヒトヒトマルマル、秘書官代行の大淀から、作戦開始の合図が通達される

 

 

 

 

【作戦は開始されました! 全艦出撃! 全艦、出撃せよっ!!】

 

 

 

 

 

古鷹、加古を先導艦に、第一機動部隊は浦賀港を出航した

 

 

総勢23隻・・・・途中、呉、佐世保、舞鶴の艦艇と合流し、最終的には52隻による艦隊となる

 

 

 

 

だが、深海棲艦軍は総勢200隻以上・・・・・数にして四倍の戦力差である

 

 

流石に艦娘たちの間にも緊張が走る

 

 

 

だが、赤城と加賀はまるで意に介していないのか、実にあっけらかんとしていた

 

 

 

 

 

 

 

「たったの4対1では、些か緊張感に欠けますねぇ・・・」

 

 

 

「ですね・・・あの時に比べれば、どうということはありません。鎧袖一触です」

 

 

 

「あの時のパーティーが、吾輩たち三人だけとはちいと寂しいがのう」

 

 

 

「仕方ありませんよ。飛龍たちはまだ覚醒してませんし・・・・・ここで大いに戦果を上げて、あとであの子たちを悔しがらせてやりましょう」

 

 

 

 

 

 

 

あの時・・・・とは、第二次深海棲艦戦争の事である

 

 

 

艦娘たちの多くが戦場に背を向けたあの時

 

 

 

深海棲艦軍400隻が、この日本を襲った

 

 

 

それに立ち向かった艦娘は

 

 

 

一航戦の赤城と加賀、二航戦の蒼龍と飛龍、利根、武蔵、清霜、不知火の、僅か8隻だった

 

 

 

 50対1という絶望的な戦力比にも拘わらず、彼女たちは涼しい顔でこれに立ち向かい、敵の半数を削った後に・・・・・全滅した

 

 

 

 

 

だが、彼女たちのこの行動が艦娘たちを奮起させた

 

 

 

 艦娘としての、本来の使命を思い出した彼女たちの多くは、以後、戦場に赴くことを厭わなくなった

 

 

 

この戦いは、艦娘にとっても、人類にとっても重要なターニング・ポイントであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後の人々は、この赤城たち8隻の艦娘達の功績を称え、彼女たちの事を【グレート・エイト】と呼んだ

 

 

そしてこの戦争の顛末は近代史に刻まれ、教科書にも載せられるようになるのである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一航戦率いる第一機動部隊は、浦賀水道をゆっくりと滑り、駿河湾へと向かう

 

 

 

 

 

 

 

そして・・・・

 

 

 

 

 

 

欧州では、もう一つの戦いが始まろうとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤城 05 佐世保沖海戦とティレニア海海戦(Ⅱ) に続く


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