No.1066952

英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

soranoさん

第133話

2021-07-18 23:50:49 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1617   閲覧ユーザー数:1302

同日、17:00――――――

 

オルディス奪還後、紅き翼の面々はヴァイスラント新生軍と灰獅子隊が戦後処理をし、エステル達はリィン達と情報交換をしている中プリシラ皇妃とレーグニッツ知事はオルディスに残る事を伝えられた。

 

~カイエン公爵家城館・饗応の間~

 

「母上……本当にいいんですか?」

「このまま残られるなんて……」

プリシラ皇妃がオルディスに残る意思を知ったセドリックとトワは複雑そうな表情でプリシラ皇妃に確認した。

「……ええ、申し訳ありません。せっかくここまで来ていただいたのに。ですがオリヴァルト殿下、セドリックに続いて私まで皆さんと共に行動をすれば皆さんの活動の妨げにもなりかねないでしょう。」

「……それは………」

「……今回の件で帝国政府は皇族の方々を全員自分達の手から離れる事になったから、”皇妃誘拐”の罪などで私達を手配する可能性もありそうだね。」

「そうなりゃ各地を回るどころかじゃなくなるのは確かか。」

「ああ、その点、ミルディーヌ君達の元ならば例え宰相殿達が継母上(ははうえ)の奪還を狙ったとしても、ミルディーヌ君達――――――ヴァイスラント新生軍が継母上の奪還を阻止してくれるだろうし、既に帝国政府と袂を分けて連合と共に帝国政府と戦っているヴァイスラント新生軍の下でならば継母上もご自身がオルディスに滞在している事で起こるかもしれない戦いに対する罪悪感等も少しはマシになるでしょう。」

「そうだな……”軍”の協力を得る事ができていない今の俺達に帝国軍に狙われた場合、対抗する事は非常に厳しいだろうな。」

プリシラ皇妃の説明を聞いたラウラは複雑そうな表情で答えを濁し、アンゼリカとクロウは静かな表情で推測し、オリヴァルト皇子の意見にミュラーは頷いた。

 

「フフ、ミルディーヌさん達にお世話になる事も正直心苦しいのですが……リィンさん達の下で戦い続けているアルフィンもそうですが、遠い地で戦い続けている陛下の事も気がかりですから。」

「あ………」

「……クロスベルで手術が迫っているんでしたね……」

「それにヴァイスラント新生軍の保護があれば、シュバルツァー――――――”灰獅子隊”の下にいる皇女さんとの接触もやりやすいだろうな……」

「ええ……それとクロスベルにいる皇帝陛下へのお見舞いも希望すれば、連合と同盟関係であるヴァイスラント新生軍もその希望を叶える事も容易でしょうね。」

「………………………………」

苦笑した後辛そうな表情を浮かべたプリシラ皇妃の話を聞いたマキアスは呆けた声を出し、アネラスは心配そうな表情で呟き、アガットとシェラザードは複雑そうな表情で推測し、アッシュはプリシラ皇妃から目をそらして気まずそうな表情を浮かべて黙り込んでいた。

 

「……ふふ、そんな顔をなさらないで。貴方の事情はクレア少佐から聞きました。あれは帝国の”呪い”の結果であり、貴方自身の意思では無かったのだと。」

「あの女が……」

「そうでしたか………」

プリシラ皇妃のフォローと説明を聞いたアッシュはクレア少佐を思い浮かべ、サラは静かな表情で呟いた。

「それを考えれば責任の一端は皇帝家にあるのかもしれません。……陛下の事がその報いだとは思いたくありませんが……どちらにせよ戦後国民達からもそうですが、世界各国からも皇帝家に責任を追及される可能性が高いでしょう。それを考えると先の内戦の件でのメンフィル帝国に対する償いの一つとして、身分剥奪と追放処分を受けてリィンさん達シュバルツァー家の下で一生をかけてリィンさん達に御奉公する事になったアルフィンへの処罰はアルフィンにとってはよかったかもしれませんね……結果的にはアルフィンは今回の件で皇帝家が負うべき責任を負う必要はなくなったのですから……」

「皇妃陛下………」

静かな表情でアルフィンやアルノール皇家の未来を口にしたプリシラ皇妃の様子をレーグニッツ知事は複雑そうな表情で見つめた。

 

「父さん……父さんもオルディスに残って本当にいいのか?」

「ああ。ミルディーヌ公女殿下より”亡命政府”の結成の提案があって、ヴァイスラント新生軍が亡命政府の支援をしてくれるとの事で、公女殿下の提案は私にとっても渡りに船だからその厚意を受ける事にしたんだ。」

「ミュゼさんが………」

「ま、あの娘の事だから間違いなく何らかの思惑はあるでしょうね。」

マキアスの疑問に答えたレーグニッツ知事の話を聞いたエマは驚き、セリーヌは静かな表情で推測を口にした。

「……恐らくはオズボーン宰相を廃し、戦後現帝国政府を解体した後の新帝国政府の”土台”を作る為であろうな。」

「そうですね……実際、エリゼもヴァイスラント新生軍は政治的な意味合いでもレーグニッツ知事を保護するつもりだと言っていましたからその推測は間違いないでしょうね。」

アルゼイド子爵の推測にユーシスは静かな表情で頷き

「……よかったの?ミュゼ――――――というか元”貴族連合軍”の思惑に利用されることになって。」

「ハハ、確かに彼女達に対して思う所は全くないとまでは言えないが、私は私の政治信条として今の間違ったエレボニアを正す為……そして戦後のエレボニアの為にも亡命政府の結成の提案に応じる事にしたんだ。」

「父さん……」

フィーの疑問に苦笑しながら答えたレーグニッツ知事の話を聞いたマキアスは静かな表情でレーグニッツ知事を見つめた。

 

「エリオット君、ユーシス君……すまなかった……第四機甲師団の凶行を止める事ができなくて……もし前もって知っていれば、何としても阻止したのだが……」

「それってもしかして……」

「帝国政府の命を受けた帝国正規軍によるクロイツェン州全土の”焦土作戦”の件ですわね……」

「…………………………」

「ユーシス………」

「そんな……知事閣下の責任ではありませんから、どうか頭を上げてください。父さんたちは軍人として政府の指示に従わざるをえなかったですし、そもそもあの件はオズボーン宰相達によって実行するまで知事閣下の耳に入らないように手配されていたとの事ですから、知事閣下の責任ではありませんよ。」

エリオットを見つめて頭を下げて謝罪したレーグニッツ知事の話を聞いて心当たりを思い出したアリサは辛そうな表情を浮かべ、シャロンは重々しい様子を纏って呟き、辛そうな表情で黙り込んでいるユーシスをガイウスは心配そうな表情で見つめ、エリオットは謙遜した様子で答えた。

 

「気遣い、ありがとう………戦後エレボニアがどうなるかはわからないが少なくても現帝国政府の解体は免れないだろう。”焦土作戦”の件もそうだが、連合との戦争勃発、そしてリベール王国に対する冤罪の責任を取る為にも。政府が解体された事で失職した者達の償いと新たな道を作る為にも、私はここであがき続けるよ。」

「ありがとうございます、知事閣下。」

「父さん……わかった。僕達もできる限り力になるから、僕達で手伝えることがあればいつでも言ってくれ。だから頑張ってくれ。」

エリオットにお礼を言った後に答えたレーグニッツ知事の話を聞いたセドリックは感謝の言葉を述べ、マキアスは静かな表情でレーグニッツ知事に応援の言葉を送った。

「ああ、その時は頼むよ。」

「Ⅶ組の皆さんに協力者の方々、女神の加護を。セドリックとオリヴァルト殿下のこと、どうかお願いいたします――――――」

「はい(イエス)、皇妃殿下(ユア・ハイネス)……!)」

そしてレーグニッツ知事の返事の後に答えたプリシラ皇妃の言葉にその場にいる多くの者達は力強い答えを口にした。

 

その後カイエン公爵家の城館の正面ロビーで情報交換が終わったエステル達に見送られようとしていた。

 

~カイエン公爵城館・正面ロビー~

 

「……そうか。やはり君達は今後も私達とは行動を共にすることはできないのか。」

「ごめんね~。クロイツェン州は終わって、ノルティア州の霊脈の遮断も8割がた終わったけど、ラマール州を含めた帝国西部の霊脈の遮断に関しては完全に手付かずだから、まだしばらくは霊脈の遮断に集中しないといけないのよ。」

「リベールの異変では力になって頂いたにも関わらず、肝心な時にお力になれなくてすみません。」

若干残念そうな表情を浮かべたオリヴァルト皇子の言葉に対してエステルは疲れた表情で答え、ヨシュアは申し訳なさそうな表情で謝罪した。

「ハハ、気にしないでくれ。今回の件も君達に対して相当無理を言った事はわかっているし、君達のお陰でこうして子爵閣下を救う事ができたのだから、助けに来てくれて本当に感謝しているよ。」

「そうだな……エステル君達の加勢がなければ、正直ベルフェゴールとアンリエットの守りを超える事もできなかったかもしれないし、例え超える事ができたとしても子爵閣下を”呪い”から解放する有効な手段がなかったからな。」

「……殿下達の要請に応えた其方達の判断には私も心から感謝している。この恩、いつか必ず殿下共々返させて頂く。」

ヨシュアの謝罪に対してオリヴァルト皇子は苦笑しながら答え、オリヴァルト皇子の言葉にミュラーは頷き、アルゼイド子爵はエステル達に会釈をした。

 

「あはは、あたし達は遊撃士として困っている人達を助けただけですから、当然の事をしただけですよ。」

「そうだよね~?本部の人達からは今回の戦争に関して色々と言われてはいるけど、子爵さんを助ける事は”遊撃士”の行動として当然だから、本部の人達も何も言えないもんね~?」

「へ…………もしかして、ミントちゃん達、ギルド本部の人達から何か忠告とかされているの?」

アルゼイド子爵の感謝を謙遜した様子で答えたエステルに続くように答えたミントの話が気になったアネラスは呆けた声を出した後エステル達に訊ねた。

「ええ。今回の戦争関連……というよりも、貴方達”紅き翼”関連の依頼を請ける時は”ある条件”に該当する場合、絶対にその依頼を請けるなと言い含められていますわ。」

「”ある条件”だと?一体どんな条件が該当する依頼なんだ?」

アネラスの疑問に対して答えたフェミリンスの説明が気になったアガットは眉を顰めて続きを促した。

 

「――――――”自らの意思で戦争に参加している者達の保護”がその”条件”に該当しますわ。」

「そ、それって……」

「今回の戦争に参加している”軍人”や”猟兵”等と言った、”自らの意思で戦争に参加している方々”を保護する依頼を請けるなという事ですわね……」

「はい……”紅き翼(わたしたち)”の”身内”の中には”軍人”を務めている人達もいますから、本部の人達はわたし達が最高ランクの遊撃士であるエステルさん達にその”身内”の人達を助ける依頼をして、その結果遊撃士協会の介入によって戦争の行方が変わる事を避けようとしているのでしょうね……」

「…………………………」

「エリオット………」

フェミリンスの答えを聞いてある事に察しがついたアリサは不安そうな表情を浮かべ、静かな表情で呟いたシャロンの推測にトワは頷いた後複雑そうな表情を浮かべ、辛そうな表情で黙り込んでいるエリオットに気づいたガイウスは心配そうな表情でエリオットを見つめた。

 

「まあ、遊撃士協会の保護対象は”民間人”だから、本部の連中の言っている事は決して間違ってはいないな。」

「そうですね………それに”戦争”は”国家権力”が関わる出来事なのですから、”民間人の保護義務”が発生しない限り”国家権力への不干渉”を貫く事でギルドとしての中立性を保とうとしているのでしょうね。」

疲れた表情で呟いたジンの言葉にエレインは複雑そうな表情で頷いて答え

「でも、どうして本部の人達はエステルちゃん達にだけ念入りにそんな注意をしたんでしょうね?オリヴァルト殿下達に直接協力している私達の方が真っ先にその注意を受けてもおかしくありませんのに。」

「あ~……その件ね……その件はレンの仕業よ。」

「実際、本部の人達がミント達にそんな注意をするように促したのはレンちゃんじゃないかっていう推測をさっきママがレンちゃんに指摘したら、レンちゃんも認めたもんね~。」

「え……ど、どうしてそこでレン皇女殿下が出てくるのでしょうか?」

アネラスの疑問に疲れた表情で溜息を吐いたエステルはジト目で答え、エステルに続くようにミントは苦笑しながら答え、エステルとミントの答えが気になったセドリックは困惑の表情で訊ねた。

 

「恐らくですけど、僕達の事をよく知っているレンは僕達……というよりもエステルとフェミリンスが”戦争”に介入すれば、戦争の流れが連合にとっては都合の悪い状況になりかねない事――――――例えば本来討つ予定だったエレボニアの”将”を保護されたりすることを危惧して遊撃士協会本部に念押しをしたのだと思います。」

「ハ?何で連合はその二人をそこまで警戒していやがるんだ?確かに剣匠様の”呪い”を解いたり、あの痴女相手にタイマンでやり合えたことからして、その二人の女は相当ヤベェ女って事はわかるが。」

ヨシュアの推測を聞いたアッシュは眉を顰めて疑問を口にし

「し、失礼ね~。”女神”のフェミリンスはともかく、あたしは”ただの人間”よ!」

「エステル……それ、本気で言っているの?」

「というか、女神(アストライア)の魂を宿した挙句そのアストライアの”神剣”を扱え、多くの異種族達と”契約”を結んでいる事に加えて”空の女神(エイドス)”専用の”神術”と”神技”を習得した今の貴女はどう考えても”ただの人間”の範疇に入りませんわよ。」

「アハハ、しかも何気にいつも”ただの新妻”を自称しているエイドスさんの口癖が移っているよ、ママ~。」

アッシュの指摘にジト目で反論したエステルの言葉を聞いたヨシュアろフェミリンスは呆れた表情で指摘し、ミントは苦笑していた。

 

「ええっ!?フェミリンスさんが女神さまぁ……ッ!?」

「し、しかもエステルさんは”空の女神”専用の”神術”と”神技”を習得したとフェミリンスさん―――――いえ、フェミリンス様は仰っていましたが……その”神術”と”神技”というのはもしかして……!」

「”光の剣匠”を蝕んでいた”呪い”自身を燃やした”虹色の焔”と、その後に放った奥義でしょうね。」

エステル達の話を聞いた仲間達がそれぞれ驚いたり血相を変えている中エリオットは思わず驚きの声を上げてフェミリンスを見つめ、エマは信じられない表情でエステルを見つめ、セリーヌは真剣な表情でエステルを見つめて指摘した。

「うん、そうよ。虹色の焔はエイドスから教えてもらった神術――――――”イリスの焔”で奥義の方は同じくエイドスから教えてもらった神技――――――”セプトブラスト”で、どっちも七耀脈の力を借りた”全属性”が込められた神術と神技よ。」

「し、七耀脈の力を借りた”全属性”の術と奥義って……あんた、一体何があって、”空の女神”自身からそんなとんでもない術と奥義を教えてもらったのよ……」

エステルの説明を聞いたその場にいる多くの者達が冷や汗をかいている中シェラザードは疲れた表情でエステルに訊ねた。

 

「ん~……そんな大した理由じゃないわよ。シェラ姉達はあたしのSクラフトの中でもとっておきのSクラフト―――――”ニーベルン・ヴァレスティ”を知っているわよね?”碧の大樹”の攻略や決戦であたしが放ったアレを見たエイドスが”碧の大樹”の件が終わった後に興味本位で聞いてきて、それでいつの間にかお互いの”神技”――――――あたしは”ニーベルン・ヴァレスティ”をエイドスに、エイドスはあたしに”イリスの焔”と”セプトブラスト”を教え合う話の流れになって、お互い教え合って習得しただけよ。」

「な、何ソレ~~~!?というか”空の女神”が自分の神術と神技を教えてまで、覚えたい”ブレイサーオブブレイサー”のとっておきのSクラフトって一体どんなのなの~!?」

「それ以前にそんな軽いノリで、そんな非常識過ぎる術と技をエステルさんに教えた”空の女神”は一体何を考えているんだ……?」

「フン、それこそ”女神のみぞ知る”ではないのか?」

「さすが先祖と子孫だけあって、まさに似た者同士だね。」

エステルの答えを聞いた仲間達がそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ミリアムは困惑の表情で声を上げ、疲れた表情で呟いたマキアスの疑問にユーシスは鼻を鳴らして答え、フィーはジト目でエステルを見つめた。

「あはは……という事はエイドスさんも、エステルちゃんみたいに”アレ”が放てるようになったんだ……」

「ったく、さすがエステルの”先祖”だけあって、その突拍子もない事を思いつくのもエステルとも比べ物にならないぜ、あの自称”ただの新妻”は。」

「ハハ、俺はまだ”空の女神”と直接会ってはいないが、お前さん達の様子だととんでもない人物のようだな。」

(い、一体どんな人物なのかしら、”空の女神”は……)

アネラスは冷や汗をかいて苦笑し、アガットは疲れた表情で呟き、ジンは苦笑し、その様子を見守っていたエレインは困惑の表情を浮かべていた。

 

「えっと……エステルさん。その”イリスの焔”と”セプトブラスト”のお陰で子爵閣下の”呪い”が解けたようでしたけど……もしかしてその二つは”呪い”に対して絶大な効果が発揮するんでしょうか?」

「うん。エイドスの話だと、元々はエイドスの時代にも今回の”呪い”と似たような存在がいて、そいつをやっつける為にエイドス自身が編み出した神術と神技よ。ま、エイドスの話だと、結局それらの神術と神技を叩き込んで封印できるレベルまで弱らせるのが精一杯だったって話だけどね。」

「え、えっと……エステルさん、今さりげなくとんでもない事実を口にしたわよね……?」

「フフ、間違いなく七耀教会にとっては無視できない”神話”として語り継がれて当然の事実ですわね。」

エマの質問に答えたエステルが口にした驚愕の事実を聞いた仲間達がそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中戸惑いの表情で呟いたアリサの言葉にシャロンは苦笑しながら同意した。

「”空の女神”が現存した遥か昔に存在し、そして”空の女神”達によって封印された”巨イナル黄昏の呪い”と似た存在でというのは気になるな……」

「ああ。もしかしたら”巨イナル黄昏の呪い”とも何か関連があるかもしれないね。」

「それに”封印”されているとの事ですから、もしかしたら”巨イナル黄昏”が発動した事でその”封印”に何か影響が出ているかどうかも気になりますね……」

真剣な表情で呟いたミュラーの推測に頷いたオリヴァルト皇子は考え込み、セドリックは複雑そうな表情で呟いた。

 

「あ、そいつと”巨イナル黄昏”は”無関係”だってエイドス自身は肯定していたし、そもそもそいつは”巨イナル黄昏が発動する前に滅した”から大丈夫よ。」

「え………」

「”巨イナル黄昏が発動する前に滅した”とは一体どういう事だろうか……?エステル殿の話によれば、”空の女神”ですらも”封印”する事しかできなかったとの事だが……」

しかしエステルが次に口にした更なる驚愕の事実を聞いたトワは呆けた声を出し、ラウラは困惑の表情で訊ねた。

「え、えっと……実は”碧の大樹”の件が終わってから七耀教会の人達がエイドスさん達の事をもっとよく知りたいから、七耀教会の総本山――――――アルテリア法国にエイドスさん達を招待して、エイドスさん達からそれぞれの時代の事についての説明をしてもらっていたんだけど……その時にさっきママの話に出たエイドスさんでも封印が精一杯だった”巨イナル黄昏の呪いに似た存在”の話が出て、その時に今この時代にはエイドスさんだけでなく、エイドスさんのママのフィーナさんに先祖のクレハちゃん、それに異世界の”神殺し”のセリカさんや”女神”のフェミリンスさん達が存在している今の状況だったら、その存在を滅する事ができる絶好の機会だってエイドスさんが判断して、みんなでその存在が封印されている場所に行ってエイドスさんが封印を解いた後その存在に総攻撃してエイドスさんにとっての唯一の気がかりだったその存在を滅する事ができたんだ。」

「えっと……今の話にどう反応すればいいのかな……?」

「フフ、”空の女神”すらも”封印”が精一杯だったその存在が滅された事は私達――――――いや、ゼムリア大陸は救われたんだから、素直に喜べばいいと思うよ。」

「つーか、要するに寝ていた奴を無理やりたたき起こした挙句、そのたたき起こされた奴が目覚めたばかりの所をタコ殴りして殺ったって事だろ?とんだ”世界の救い方”だぜ。」

気まずそうな表情を浮かべながら答えたミントの説明を聞いたアリサ達が再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中戸惑いの表情で呟いたエリオットの言葉にアンゼリカは苦笑しながら答え、アッシュは呆れた表情で呟いた。

 

「話を戻すが……エステル殿が”空の女神”より継承した”神術”と”神技”ならば私の時のように、”黄昏の呪い”が関連する者達を”呪い”から解放する事は可能なのではないだろうか?」

「あ……」

「ヒューゴもそうだが”贄”にされた影響がまだ残っている皇太子殿下、それに”黒の工房”の連中もジョルジュはわかんねぇが、元々はアリサの親父さんだったアルベリヒなら、子爵閣下の時のように”アルベリヒの意思のみを滅する事”ができるかもしれねぇな。」

アルゼイド子爵の指摘を聞いた仲間達がそれぞれ血相を変えている中アリサは呆けた声を出し、クロウは真剣な表情で推測を口にした。

「ごめん……期待している所申し訳ないけど、そのヒューゴって人や皇太子殿下はともかく、アルベリヒの場合は”アルベリヒの意思のみを滅する事”はできないと思うわ。」

「え……ど、どうしてですか……!?」

疲れた表情で答えたエステルの答えを聞いたアリサは驚いた後エステルに訊ねた。

「あたし達は直接やり合った事はないけど、アルスターの人達を皆殺しにする為に”黒のアルベリヒ”も結社や猟兵の連中とアルスターの人達を護送していたあたし達を襲撃して、その時にアルベリヒ自身と話した事があるんだけど……アルベリヒ……というよりもそのアルベリヒに乗っ取られているって言う”アリサちゃんのお父さんの肉体は不死者”でしょう?”イリスの焔”、”セプトブラスト”の二つが一番効果を発揮する相手は”呪い”を含めた”邪悪な存在”なのよ。だから、”悪魔”や”幽霊”同様”邪悪な存在”に分類される”不死者”であるアルベリヒに子爵さんの時みたいに”イリスの焔”や”セプトブラスト”を叩き込んだらアルベリヒ自身もそうだけど、”アルベリヒが宿っている不死者である肉体も塵も残さず浄化――――――つまり、消滅する事になるもの。”」

「………ッ!」

「お嬢様………」

「まあ、そうなるでしょうね。”浄化”とは”穢れの存在を清める”事になるんだから、本来は”既に朽ちた事で現世にとって穢れの存在になった不死者”を”清める”という事は”現世から成仏させる”という事になるでしょうからね。」

「セリーヌ!」

複雑そうな表情で答えたエステルの説明を聞いたアリサは辛そうな表情で唇を噛み締め、アリサの様子をシャロンは心配そうな表情で見つめ、納得した表情で呟いたセリーヌをエマは声を上げて睨んだ。

 

「リタもそうだけど、アンリエットさんみたいな”例外”だったら、話は別だったかもしれないんだけどね……」

「”リタ”に”アンリエット”……アンリエットもそうだが、その”リタ”という人物も”幽霊”との事だが……何故その二人はアルベリヒと同じ”アンデッド”に類される”幽霊”なのに”例外”なんだ?」

「フフ、それは私が”聖霊”、アンリエットはアイドス様の庇護下にあるからですよ。」

複雑そうな表情で呟いたヨシュアの言葉が気になったガイウスが指摘したその時リタが空から降りてきてエステル達の傍に槍を浮かした状態でアリサ達と対峙した――――――

 

 

 


 
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