No.1060636

九番目の熾天使・外伝 鬼滅の刃編 柱合裁判

竜神丸さん

妄想していた話を即座に書き上げてみた。おかげで脳の疲労がヤバい←

2021-05-01 23:11:12 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1702   閲覧ユーザー数:1330

死闘の果てでも、祈りを。

 

失意の底でも、感謝を。

 

絶望の淵でも、笑顔を。

 

憎悪の先にも、慈悲を。

 

残酷な世界でも、愛情を。

 

非情な結末にも、救済を。

 

重ねた罪にも、抱擁を。

 

これは、日本一慈しい鬼退治。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――きろ」

 

「……」

 

「―――起きるんだ」

 

「……うっ」

 

「おい、いつまで寝てんだ!! さっさと起きねぇか!!」

 

「ッ!?」

 

その言葉を聞いて、少年は目覚めた。ガバッと起き上がった少年に呼びかけていたのは、口元を布で隠した黒装束の男性だった。起き上がろうとする少年だったが、彼の両手は背の後ろで縄に縛られ動かせなかった。

 

(ここは……?)

 

少年が今いる場所は、綺麗な庭のある大きな屋敷。砂利の上で寝転がされていた少年は、自分が何故このような場所にいるのか、その理由がすぐにはわからなかった。

 

「この寝坊助野郎め、シャキッとしねぇか!!」

 

「……!」

 

黒装束の男性にそう言われ、少年は気付いた。倒れている少年を、見下ろしている者達の存在に。

 

「何だぁ? “鬼”を連れた鬼殺隊員っつーから派手な奴を期待したんだが……地味な野郎だなオイ」

 

「うむ! これからこの少年の裁判を行うと! なるほど!」

 

少年を見下ろしている者達の内、数人が口を開く。それを聞いた少年は、自身を見下ろしている者達の姿を視界に入れた。そこに立っていたのは合計で7人。

 

1人は、輝石をあしらった額当てを着けた、筋肉流々とした白髪の男。

 

1人は、炎を思わせる焔色の髪と、眼力のある瞳が特徴的な男。

 

1人は、「南無阿弥陀仏」と書かれた羽織や数珠を身に着けた、長身で白目の男。

 

1人は、隊服の大きく開いた胸元、そして桃色の髪が特徴の可憐な容姿の女性。

 

1人は、長い黒髪と中性的な容姿を持った、小柄で無表情な少年。

 

1人は、毛先が赤い黒髪を生やし、左目に黒い眼帯を着けた鋭い目付きの男。

 

1人は、少年が昨日の任務でも出会った、小柄な体格と蝶のような青い髪飾りが特徴的な、美しい微笑みを浮かべている女性。

 

その7人の内、ほとんどは腰に刀を携えており、その全員が只者ではない雰囲気を醸し出していた。しかし少年からすれば、蝶の髪飾りの女性以外はこれが初対面である為、彼等が何者なのか全く知らずにいた。

 

「何だ、この人達……?」

 

「口を挟むな馬鹿野郎!! 誰の前にいると思ってんだ!! “柱”の前だぞ!!」

 

(柱……?)

 

柱とは一体何なのか。そもそもここは一体どこなのか。少年はわからない事だらけだった。そんな少年に分かりやすく説明しようと、蝶の髪飾りの女性が口を開いた。

 

「ここは鬼殺隊の本部。あなたは今から裁判を受けるのですよ。竈門炭治郎君」

 

「……ッ!!」

 

それを聞いて、少年―――“竈門炭治郎(かまどたんじろう)”は思い出した。昨日の出来事を。そして今、自分がこのような場所に連れて来られてしまった理由を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炭治郎は、元々は普通の少年だった。

 

病気で亡くなった父に代わり、家計を支える為に炭焼きを営み、竈門家の家計を支えていた。それは慎ましくも、とても幸せな日常だった。

 

そんな日常は、ある日を境に崩れ去る。

 

炭を売り終え、家に戻った炭治郎を待っていたのは……何者かに惨殺され、血にまみれた家族の姿だった。

 

母を失い、兄妹達をたった一日で失ってしまった炭治郎は、唯一まだ息があった長女―――“竈門禰豆子(かまどねずこ)”だけでも救おうとした。

 

その禰豆子すらも、“鬼”という怪物になってしまい、一度は炭治郎を喰い殺そうとした。

 

しかし、炭治郎の必死な呼びかけを受けた事で、鬼となったはずの禰豆子は、僅かにだが理性を取り戻した。

 

それからというもの、ある2人の鬼殺隊士に出会った炭治郎は、その2人から「鬼殺隊士を鍛える育手」の元へ行くよう告げられた。

 

そして炭治郎は厳しい修行の末、鬼殺隊に加わり、鬼との戦いの日々は始まった。

 

戦いの日々の中、炭治郎は色々な人物と出会った。

 

金髪が特徴的な、かなりネガティブな性格の少年。

 

猪の被り物で顔を隠した、文字通り“獣”のような少年。

 

伊達眼鏡と白髪が特徴的な、物腰の柔らかい心優しい少年。

 

赤と青のオッドアイ、それから顔に生やした一本傷が特徴的な、落ち着いた大人の雰囲気の男性。

 

様々な人物と協力したり、時には対立したりしつつ、様々な鬼と戦い続けて来た炭治郎は、ある時、人食い鬼を生み出している元凶とも遭遇した。

 

鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)

 

この世に鬼を生み出している始祖であり、炭治郎の家族を惨殺し、禰豆子を鬼に変えた張本人。

 

無惨を倒し、禰豆子を人間に戻す為に、炭治郎は鬼殺隊士として戦い続けていた。

 

しかし、鬼殺隊には絶対に破ってはならない隊律が存在する。

 

それは鬼を庇ったり、鬼の存在を隠す事。

 

鬼を殺す事を使命としている鬼殺隊において、鬼を助ける行為は重罪となる。

 

当然、鬼となった禰豆子の存在を隠していた炭治郎も例外ではない。

 

ある山中での鬼達との戦いの後、禰豆子の存在がバレてしまった炭治郎は罪人として、禰豆子と共に鬼殺隊の本部まで連行されてしまった。

 

そして、現在に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分がここに連れて来られた理由は、わかりますね?」

 

(ッ……そうだ、思い出した……!! 禰豆子の事がバレたから、それで俺はここに……!!)

 

自身の前に集まっている、“(はしら)”と呼ばれる者達。そして、蝶の髪飾りの女性が告げた「裁判」という言葉。自分は今、これから裁かれる立場に置かれているのだと、炭治郎は理解させられる事となった。

 

「では、裁判を始める前に。まずは君が犯した罪の説明を―――」

 

「裁判の必要などないだろう!!」

 

蝶の髪飾りの女性が説明しようとするも、それを大声で遮る者がいた。焔色の髪をした男だ。

 

「鬼を連れるなど、明らかな隊律違反!! 我らのみで対処可能!! 鬼もろとも斬首する!!」

 

焔色の髪をした男―――改め、炎柱(えんばしら)煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)

 

「ならば、俺が派手に頸を斬ってやろう。誰よりも派手な血飛沫を見せてやるぜ。もう派手派手だ」

 

筋肉流々とした白髪の男―――改め、音柱(おとばしら)宇髄天元(うずいてんげん)

 

(えぇ? こんな可愛い子を殺してしまうなんて……胸が痛むわ、苦しいわ)

 

桃色の髪をした女性―――改め、恋柱(こいばしら)甘露寺蜜璃(かんろじみつり)

 

「あぁ、なんというみすぼらしい子供だ……可哀想に、生まれてきた事自体が可哀想だ……」

 

数珠を持った白目の男―――改め、岩柱(いわばしら)悲鳴嶼行冥(ひめじまぎょうめい)

 

「待て、煉獄に宇髄、それに悲鳴嶼さんも。罪状がどうあれ、裁判はきちんと執り行うべきだろう」

 

左目に眼帯を着けた男―――改め、嵐柱(らんばしら)榊一哉(さかきかずや)

 

(何だっけ、あの雲の形……何て言うんだっけ……)

 

中性的な黒髪の少年―――改め、霞柱(かすみばしら)時透無一郎(ときとうむいちろう)

 

柱と呼ばれる彼等は、次々と自分の意見を出し始める(一部、全く関係のない事を考えている者もいるが)。その内の大半は、隊律に違反した炭治郎を処罰しようと考えていた。

 

「お前、柱が話をしているのに一体どこを見ている! この御方達はなぁ、鬼殺隊の中で最も位の高い12名の剣士達だぞ……おい、聞いてるのか!?」

 

(ッ……禰豆子、禰豆子はどこだ!? 禰豆子、善逸、伊之助、琥珀、暁さん、村田さん……!!)

 

黒装束の男性が何度も呼びかけるが、炭治郎からすればそれどころではない。妹は、同期の仲間達は、任務先で出会った先輩達は、皆無事なのか。炭治郎はその事で頭がいっぱいで、黒装束の男性の言葉など全く耳に入ってはいなかった。

 

「そんな事より冨岡と獅子吼はどうするのかね」

 

その時、別の人物の声が聞こえて来た。炭治郎が顔を見上げると、屋敷の中庭に生えた大きな松の木……その枝の上に寝転がっていたのは、口元を包帯で覆い、青緑と黄のオッドアイを持った黒髪の男だった。その首元には白い蛇を這わせている。

 

「拘束すらしてない様に、俺は頭痛がしてくるんだが。胡蝶めの話によると、隊律違反は冨岡と獅子吼も同じだろう? 柱の中から違反者が2人も出てくるとは、全くもって嘆かわしい」

 

青緑と黄のオッドアイの男―――改め、蛇柱(へびばしら)伊黒小芭内(いぐろおばない)

 

「しかも片方は、上弦の鬼をも退けた功績すらあるというのに、それを帳消しにするほどの愚行だな。さて、どう処分する? どう責任を取らせる? どんな目に遭わせてやろうか? 何とか言ったらどうなんだ? 冨岡、獅子吼」

 

(!? 冨岡さん、獅子吼さん……!!)

 

ネチネチとした口調で小芭内が指差したその先には、他の柱達から離れた場所に立っている人物が2人いた。その人物達は、炭治郎にとってよく知る人物達だった。

 

1人は、右半分が無地の赤、左半分が亀甲柄の羽織を着た、無口な黒髪の男。

 

1人は、月白色の地に、裾に瓶覗色の雪華紋様をあしらった羽織を着た、穏やかな雰囲気の茶髪の少年。

 

この2人こそ、炭治郎が鬼化した禰豆子に襲われた際に初めて出会った柱である。そして鬼化した禰豆子を殺す事なく見逃し、炭治郎を鬼殺隊の道へと導いた恩人達でもあった。

 

「……」

 

無口な黒髪の男―――改め、水柱(みずばしら)冨岡義勇(とみおかぎゆう)

 

「……どんな処罰でも、覚悟の上です。その為に僕らはここにいますから」

 

穏やかな雰囲気の茶髪の少年―――改め、氷柱(ひょうばしら)獅子吼命(ししくみこと)

 

隊律を破った身である事は自覚しているからか、(みこと)はそれ以上何か言う事はなく、義勇に至っては一言も喋らず明後日の方角を向いている。炭治郎は自分達兄妹の秘密がバレた事で、この2人まで同じように裁かれる立場に回ってしまった事に罪悪感を抱いていた。

 

(俺のせいだ……俺のせいで、冨岡さんと獅子吼さんまで……!!)

 

(伊黒さん、相変わらずネチネチして蛇みたい、しつこくて素敵! 冨岡さんと獅子吼さん、離れたところでちょっと寂しそう、可愛い!)

 

……なお、彼等の会話を聞いていた蜜璃はと言うと、どうも惚れっぽい性格なのか、1人1人に対して何やら熱い目線を送っていた事をここに書き記しておく。

 

「まぁ良いじゃないですか。2人共、大人しく付いて来てくれましたし。そちらの2人の処罰は、また後で考えるとしましょう」

 

蝶の髪飾りの女性―――改め、蟲柱(むしばしら)胡蝶(こちょう)しのぶ。

 

「それよりも、私は坊やの方から話を聞きたいですよ」

 

「それは良いが、少し待て。今もまだここに来てない面子がいるだろう」

 

しのぶの台詞を、今度は一哉が遮った。その理由は、まだこの場に集まっていない柱についてだった。

 

「まだ龍神と不死川の2人が来ていない。胡蝶、龍神はどうした?」

 

「あぁ、先生でしたら。昨夜まで那田蜘蛛山の任務で負傷した隊士達の治療に当たっていましたから。少しだけ仮眠を取ってからここに来ると言ってましたよ」

 

「チッ、こんな時に何をやっているんだ奴は。裁判の後は大事な会議もあるというのに」

 

「まぁまぁ、先生もかなり忙しく働いてましたから。来るとしたらたぶんもうそろそろ―――」

 

「私を呼びましたか?」

 

直後、屋敷の堀を飛び越えるように庭まで跳躍して来た人物がいた。砂利の上に着地したのは、眼鏡と銀髪、そして隊服の上に纏った白衣が特徴的な男だった。

 

「ほら、ちょうど来ましたよ」

 

「おや? ひょっとして、私が一番最後だったりします?」

 

白衣を纏った男―――改め、花柱(はなばしら)龍神冬水(たつがみとうすい)

 

「いや、不死川がまだ来ていない……それよりも龍神。こんな大事な時に遅れて来るとは、一体どういう了見だ」

 

「そう言われましてもねぇ榊さん。私もしのぶさんも、昨日まで患者達の治療で大変だったんですよ? 何やら発狂して、その場で自害しようとする隊士までいたくらいですし。ちょっとくらい大目に見て下さいって」

 

「その胡蝶が早くから到着してるんだ。お前も少しは自分の弟子を見習ったらどうだ」

 

「えぇ~……めんどくさっ」

 

「オイ」

 

冬水のだらけ切った態度にイラッとなる一哉だったが、それもすぐに理性で抑え込む。その様子を見ていた炭治郎はと言うと、冬水の方を見て僅かに恐れを抱いていた。

 

(何だ、この人……? 凄く、危険な匂いがする……)

 

炭治郎は鼻が良い。その鼻の良さは単なく匂いだけでなく、相手の感情すらも敏感に感じ取ってしまうほどだ。だからこそ彼は、冬水が持つ匂いに気付き、そして恐れを抱いていた。

 

何故なら冬水が放っている匂いは、あの鬼舞辻無惨とはまた違うベクトルで狂気的な物であったのだから。

 

「……で、しのぶさん。こちらの少年が例の?」

 

「はい、先生。鬼殺隊員の身でありながら鬼を連れて活動していた、竈門炭治郎君です」

 

「ほぉほぉ、なるほど」

 

冬水が炭治郎の顔を覗き込む。冬水と視線を合わせられた炭治郎は警戒した表情を見せるが、冬水は興味深そうな目で炭治郎を見据え、そしてある事に気付いた。

 

(! 額の痣……ふむ、これは……)

 

(な、何だ? 何を見てるんだ、この人は……?)

 

炭治郎の額に浮かび上がっている赤い痣。冬水がその赤い痣をジッと眺める中、彼が何をそこまで真剣に見つめているのかわからない炭治郎は困惑した表情を浮かべる。

 

「さて、不死川さんも恐らくもうじき到着するでしょうし、時間も押してますので、ささっと話を聞きましょう。当人の説明がなければ事情も確認のしようがありませんからね」

 

「聞くまでもねぇ。ちゃちゃっと処罰すりゃ良い話だろう」

 

「やめろと言ってるだろうが宇髄」

 

天元は背中に納めていた2本の刀を引き抜こうとして、一哉に制止される。そんなやり取りを他所に、しのぶは炭治郎に改めて問いかける事にした。

 

「ゆっくりで大丈夫ですから、話して下さい」

 

「お、俺の……俺のいも……がはっ!」

 

事情をしのぶに話そうとする炭治郎だったが、話そうとした途端に彼の顎に痛みが走り、上手く喋れない。実は昨日の任務中、炭治郎は顎を負傷しており、その痛みがまだ残っていたようだ。それに気付いたしのぶは、腰に吊り下げていた瓢箪を手に取り、炭治郎の前でしゃがみ込んでから彼の口に瓢箪を近付けた。

 

「ふむ……水を飲んだ方が良いですね。顎を痛めていますから、ゆっくり飲んで下さい。即効性の鎮痛剤も入っていますので、楽になりますよ」

 

しのぶが近付けた瓢箪の水を飲む事で、少しずつ顎の痛みが引いていく炭治郎。ある程度水を飲んだ後、ようやく喋れるようになった炭治郎は事情を説明し始めた。

 

「……鬼は、俺の妹なんです。俺が家を留守にしている時に襲われて、帰ったら皆死んでいて……」

 

「ふむふむ」

 

「妹は鬼になったけど、人を襲った事はないんです! 今までも、これからも、人を傷つける事は絶対にしません!」

 

鬼は人間の肉を好んでいる為、夜な夜な現れては人を襲う。しかし、禰豆子はそういった事は一切しなかった。それどころか炭治郎と共に人を守った事もあるのだ。

 

しかし、今この場にいる柱達は、それを簡単に信用してくれる者達ではなかった。

 

「下らぬ妄言を吐き散らすな。そもそも身内なら庇って当たり前。言う事全て信用できない。俺は信用しない」

 

「あぁ……鬼に取り憑かれているのだ。早くこの憐れな子供を殺して、解き放ってあげよう……」

 

小芭内、行冥は炭治郎の言葉を全く信用できない様子だ。行冥に至っては涙を流しながらも、炭治郎を早く殺そうなどと物騒な事を告げる始末である。

 

「ッ……聞いて下さい!! 俺は禰豆子を治す為に剣士になったんです!! 禰豆子が鬼になったのは2年以上前の事で……その間、禰豆子は人を喰ったりしてない!!」

 

「話が地味にグルグル回ってるぞアホが。人を喰ってない事、これからも喰わない事、口先だけでなくド派手に証明してみせろ」

 

天元は同じ事を二度も繰り返し話す炭治郎に対し、口汚く罵倒しながらも冷静に意見を出す。彼の言う事はもっともである為、これについては一哉も特に口を挟む事はしなかった。

 

(……何だっけ、あの鳥……えっと……)

 

……そしてこんな状況下でも、無一郎は何も喋らないどころか、空を飛んでいる鳥を眺めていたのだが、今現在それに突っ込みを入れる者は誰もいない。

 

「あ、あのぉ……」

 

そんな時、黙って話を聞いていた蜜璃が口を開いた。

 

「疑問があるんですけど……お館様がこの事を把握してないとは思えないです。勝手に処分しちゃって良いんでしょうか?」

 

「甘露寺の言う通りだ。そっちの少年はともかく、鬼の方はその場で即処分しても良いはずなのに、あくまで確保するようにと命令が出たんだ。お館様が何か知っているかもしれない以上、俺達はここで大人しく待っているべきだろう」

 

蜜璃と一哉の言葉を聞いて、炭治郎と禰豆子を処罰しようとしていた面々は黙り込む。彼等も、鬼を処分するのではなく確保する点については、少なからず疑問には思っていたようだ。そんな中、炭治郎は必死に弁解を続ける。

 

「妹は、妹は俺と一緒に戦えます!! 鬼殺隊として人を守る為に戦えるんです!! だから―――」

 

「おいおい、何だか面白い事になってんなァ」

 

その時、また別の人物の声が聞こえ、一同が声のした方へと振り向く。その先に立っていたのは、血走ったような鋭い目付き、ボサボサの白髪、そして顔や胸部の傷痕が目立つ、見るからに凶暴そうな男。

 

「鬼を連れた鬼殺隊員ってのはそいつかい? 一体全体、どういうつもりだ?」

 

傷だらけな白髪の男―――改め、風柱(かぜばしら)不死川実弥(しなずがわさねみ)

 

(ッ……アレは……!!)

 

炭治郎はある事に気付いた。実弥が左手で高く持ち上げている物……それは鬼となった禰豆子が弱点の日光に当たらぬよう、彼女の為に炭治郎が普段から背負っている箱だった。

 

(不死川さん! また傷が増えて素敵だわ!)

 

……そんな見るからにヤバそうな外見の実弥に対しても、蜜璃は熱い視線を送っていたのは言うまでもない。

 

「し、不死川様、困ります! 箱を手離して下さいませ!」

 

実弥の後ろから、黒装束の女性が慌てた様子でやって来た。どうやら、禰豆子が入っていた箱をこの黒装束の女性が預かっていたところ、実弥が勝手に奪い取ってしまったようだ。これには先程まで常に笑顔を浮かべていたしのぶも無表情になる。

 

「……不死川さん。勝手な事はしないで下さい」

 

(しのぶちゃん怒ってるみたい! 珍しいわね、かっこいい!)

 

……この蜜璃という女性、どうやら同性相手にもこんな感じのようだ。

 

「ククク……鬼が何だって坊主? 鬼殺隊として人を守る為に戦える? そんな事はなァ……」

 

「!? おい、やめろ不死川!!」

 

それはさておき、しのぶの注意を無視した実弥は低く笑いながら、炭治郎が見ている前で腰の刀に手をかける。それを見た一哉は、実弥がやろうとしている事に気付き叫んだが、もう遅い。

  

「―――あり得ねぇんだよ馬鹿が!!!」

 

ドスゥッ!!

 

「……ッ!!」

 

「あ、おい!?」

 

瞬時に刀を抜き取り、箱に向かってその刃先を思いきり突き刺してしまった。刺した箇所から箱の中にいる禰豆子の血が噴き出し、それを見た炭治郎は激昂するあまり頬に青筋が浮かび、黒装束の男性を振り切り、腕を縛られた状態から強引に立ち上がった。

 

「俺の妹を傷つける奴は、柱だろうが何だろうが許さない!!!」

 

「クハハハ……そうかい良かったなァ!!」

 

「ッ……あの馬鹿、余計な真似を……!!」

 

禰豆子を傷つけた実弥が許せない炭治郎は、両腕が使えない状態ながら無謀にも実弥に向かって突っ込んでいく。一哉が悪態をつく中、箱から抜き取った刀の返り血を払った実弥は笑いながらも、余裕そうな表情で炭治郎を迎え撃とうとした……その時。

 

「やめろ!! もうすぐお館様がいらっしゃるぞ!!」

 

突如、今までだんまりを決め込んでいたはずの義勇が大声でそう叫んだ。それには実弥だけでなく、他の柱一同も思わず面食らった。そして一同はこう思った。

 

(((((え、このタイミングでお前がそれ言うの?)))))

 

しかし、思わず気が抜けたその一瞬が、炭治郎に対して大きな隙となってしまった。

 

「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

(!? しまっ―――)

 

気付けば既に実弥の間近まで接近していた炭治郎。すぐさま刀を振るう実弥だったが、その一撃をかわした炭治郎は大きく跳躍し……実弥の頭目掛けて、強烈な頭突きを炸裂させた。

 

ガアァンッ!!!

 

「がっ……!?」

 

思わぬ形で強烈な一撃を受けてしまい、実弥はその場にドサリと倒れ伏す。これには他の柱一同も驚愕する。まさか無名の新人隊員が、横槍があったとはいえ、柱に対して一撃を喰らわせるとは想定すらしていなかったのだから。

 

「プッ……あ、すみません」

 

実弥がやられる光景を見て、思わず噴き出してしまった蜜璃だったが、他の柱達が一斉に視線を向けて来た為、すぐに顔を両手で覆い恥ずかしそうに謝罪する……が。

 

「プ、クク……クハハハハハハハ……!」

 

「もう、先生ったら……」

 

そんな空気の中でも、平気で笑い出すのがこの龍神冬水という男である。これに対し、普段は彼を「先生」と呼び慕っているしのぶですら、流石に呆れた様子で溜め息をつく事しかできなかった。

 

(冨岡が横から口を挟んだとはいえ、不死川に一撃を入れた……)

 

一方、松の木の上から一部始終を見ていた小芭内もまた、あくまで一隊員でしかない炭治郎が、柱である実弥に一撃を入れた事に驚いていた。その炭治郎はと言うと、地面に倒れ伏している実弥に向かって少しも怖気づく事なく言い放った。

 

「善良な鬼と悪い鬼の区別が付かないなら、柱なんてやめてしまえ!!!」

 

「ッ……テメェ……!!」

 

相手が柱だろうが関係ないと言わんばかりの堂々とした物言いに対し、顔を上げた実弥は激昂した様子で炭治郎を睨みつける。

 

「いやはや、してやられちゃいましたねぇ不死川さん。あ、鼻血出てますよ大丈夫ですか~?」

 

「テメェは黙ってろや龍神ィ!! クソが、ぶっ殺してやる……!!」

 

冬水の煽るような言い方に怒鳴り散らした後、実弥は刀を拾ってからその刃先を炭治郎の首元に向ける。この時、実弥は炭治郎を斬り捨てる事しか頭になかったのだが……それを許さない者がここには1人。

 

ガキィンッ!!!

 

「「ッ!?」」

 

「―――いい加減にしろ貴様ら」

 

そう、一哉だ。一瞬で実弥と炭治郎の前まで接近した彼は、瞬時に抜き取った刀で実弥の刀を宙に高く弾き上げてみせたのである。そして落ちてきた実弥の刀を、一哉は目で見る事なく左手でキャッチしてから、実弥と炭治郎の両名にそれぞれ強い殺気をぶつけた。

 

「これ以上ここで暴れるようなら、両者共に、後で相応の処置を取らせて貰う」

 

「……チッ!!」

 

一哉の強烈な殺気をぶつけられた実弥は、舌打ちしながらもその場は引き下がり、一哉から受け取った刀を鞘に納める。一方、一哉の殺気を直にぶつけられた炭治郎は、先程までの怒りが消え失せ、一哉に圧倒されていた。

 

「はぁ、こうなるのはわかってはいましたが……大丈夫ですか実弥さん。良ければこれ、使ってどうぞ」

 

「ッ……そもそもテメェらのせいでこうなってんだろうが……!!」

 

義勇と(みこと)が禰豆子を殺処分していれば、最初からこんな事態にはなっていないのだ。実弥は余計に苛立った様子で、(みこと)が貸そうとしていたハンカチを払い除けた。

 

(榊さん、凄く怒ってる! でも怒ってる顔も素敵! それに獅子吼さん、不死川さん相手でも全く怯えてない上に凄く紳士的……素敵!)

 

……そしてこんな時でも、蜜璃はやっぱり蜜璃であった。

 

その時。

 

「「お館様のお成りです」」

 

屋敷の奥から、着物を着た白髪の少女が2人、そう告げながらやって来た。その言葉に柱一同は一斉に反応し、炭治郎は突然の状況に首を傾げた。

 

そして、2人の白髪の少女に手を引かれながら、着物を着た黒髪の人物が姿を現した。その人物は、顔の上半分がまるで焼け爛れたかのような痕を持っていた。

 

「よく来たね。私の可愛い子供達」

 

どこか心が安らぐような、優しい声を発するこの男。

 

彼こそが”お館様”と呼ばれる、鬼殺隊を率いる最高管理者であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてこの時、一部始終を隠れて監視している者達がいた。

 

「あの少年、さっきはなかなか良い頭突きだったな……」

 

『そんな事よりも一城。やはりこの状況は芳しくないな。有罪派の声の大きさに、他の意見がほとんど潰されてしまっている』

 

「那田蜘蛛山で対面した時、問答無用で斬りかかろうとしていた時点で、既にわかり切っていた事さ……さて。この危機的状況を、お前さんは果たしてどう切り抜けるのかな? 竈門少年よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ちなみに~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しのぶ:まとも枠その1。冷静に裁判を執り行おうとしている。できれば師匠も一緒に連れて来て欲しい

 

杏寿郎:勝手に話を進めようとする奴その1。声がうるさいからもうちょっとボリューム下げろ

 

天元:勝手に話を進めようとする奴その2。お前はただ派手な事が好きなだけだろうが

 

行冥:勝手に話を進めようとする奴その3。最古参なんだからむしろ止める側だろしっかりしてくれ

 

蜜璃:まとも枠その2。お館様の到着まで大人しく待ってくれる。たまにこちらをジッと見ているのが気になる

 

小芭内:勝手に話を進めようとする奴その4。お館様の屋敷で木の上に登るな無礼者

 

無一郎:そもそも会話に参加すらしてない。頼むから真面目にやってくれ

 

実弥:勝手に話を進めようとする奴その5にして問題児。お前ほんといい加減にしろ

 

冬水:会議のたびに毎回時間ギリギリで来るのはやめろ。少しは弟子の行動の早さを見習え

 

(みこと)&義勇:そもそも隊律違反者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一哉「……まともなのが2人しかいないってどういう事だこのアホ共が……!!(歯軋り)」

 

 

 

 

 

 

 

 

この日もまた、一哉にとっては気苦労の絶えない一日になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く……?

 


 
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