No.1059038

英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

soranoさん

第125話

2021-04-11 19:56:35 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1743   閲覧ユーザー数:1361

 

 

2月15日、同日AM10:00―――――

 

アンリエットを仲間にした翌日、ヴァイスラント新生軍からリィン達灰獅子隊に対しての要請(オーダー)についての話し合いがしたいとの連絡を受けたリィンはレンとプリネ、ルシエル、そしてヴァイスラント新生軍の希望によりミュゼを同席させて要請相手であり、ヴァイスラント新生軍を率いている”将”であるオーレリア将軍との通信映像による話し合いを始めた。

 

~レヴォリューション・ブリーフィングルーム~

 

「画面越しとはいえ、実際に言葉を交わすのはこれが初めてになるな、シュバルツァー少将。――――――最も、”直接顔を合わせていないとはいえ、私の姿を初めて見たのは去年の内戦の最中に私がウォレスと共にレグラムを訪問した時であろうが。”」

「ハハ……やはりあの時俺達の存在に気づいていて、敢えて見逃していたのですね。」

映像端末に映るオーレリア将軍の挨拶に冷や汗をかいたリィンは苦笑しながら答え

「フフ、あの時認識していた若き気当たりを持つ者の一人が今回の戦争で数々の戦果を挙げて今この場にいる事を考えるとラウラ嬢には悪いが、”トールズ”では其方の力を存分に生かし切る事はできなかったのであろうな。――――――そして未完の大器である人物を見出し、その人物の元で日々精進されているミルディーヌ様の人を見る目はさすがですな。」

「身に余るお言葉光栄です。」

「フフッ、姫様やエリス先輩との仲を深めなければ、リィン少将との仲をこんな短期間で深める事もできなかったでしょうから、姫様やエリス先輩のお陰でもありますわ♪」

オーレリア将軍の言葉に対してリィンが謙遜した様子で答えている中ミュゼは笑顔を浮かべて答えた。

 

「あら、そういう言い方をしたって事はもしかしてミュゼ”も”リィンお兄さんのハーレムメンバーの一人になったのかしら♪」

「なっていませんから!というか”も”って、何ですか、”も”って!」

「ア、アハハ………」

「コホン。それでオーレリア将軍、灰獅子隊(わたくしたち)に依頼したい具体的な要請(オーダー)の内容を説明して頂いてもよろしいでしょうか?」

からかいの表情を浮かべたレンに視線を向けられたリィンは驚いた後反論し、その様子を見たプリネは苦笑し、ルシエルは冷や汗をかいて脱力した後咳払いをしてオーレリア将軍に問いかけた。

 

「うむ。それを答える前にヴァイスラント新生軍(われわれ)は先のノーザンブリア占領作戦成功後、ノーザンブリア方面からエレボニア――――――要するにラマール州に進軍する為やノーザンブリアの統治の為に残ったメンフィル帝国軍の部隊と共にノーザンブリアに駐屯した話は聞いているな?」

「はい。そして”黒の工房の本拠地襲撃作戦”成功後からノーザンブリア方面から進軍するクロスベル帝国軍がそちらと合流後、本格的にラマール地方に進軍して既にジュライ特区を占領した事までは知っています。」

「そうだ。そして本日我らは連合と共に”歓楽都市ラクウェル”を落とした。」

(”歓楽都市ラクウェル”とはどういった場所なのでしょうか?)

リィンとオーレリア将軍の会話を聞いてある部分が気になったルシエルは小声で自分の隣に座っているミュゼに訊ねた。

(”歓楽都市ラクウェル”とはラマール地方にあるエレボニアで有数の歓楽街が形成された都市です。都市自体の規模は小さいものの、古くから帝都方面とラマールの州都である”紺碧の海都オルディス”方面を結ぶ街道にジュライ、アラゴン鉄鉱山、そしてノーザンブリア方面からの街道が合流するラマール州内の交通の要衝でもありますわ。)

(………なるほど。という事は連合はラマール地方を落とす上に必要となる要所を既に抑えたという事ですか。そうなると、オーレリア将軍――――――いえ、ヴァイスラント新生軍の要請内容は恐らく―――――)

ミュゼの説明を聞いて納得したルシエルはある推測をしながらオーレリア将軍を見つめた。

 

「うふふ、ラクウェルが落ちたのだったら、オルディスの奪還も時間の問題なのじゃないかしら?」

「はい。――――――そして将軍はオルディスとジュノー海上要塞の奪還の協力の為に今こうしてリィン少将達に連絡を取ったですわよね?」

「ええ、ヴァイスラント新生軍だけでオルディスとジュノーを同時に落とすのはさすがに厳しいので、こうして連合内でも目覚ましい活躍をしている精鋭部隊に頼らせて頂きました。」

レンに指摘されたミュゼは頷いた後オーレリア将軍に確認し、ミュゼの確認にオーレリア将軍は頷いて答えた。

「オルディスをヴァイスラント新生軍だけで……?将軍の口ぶりですと、オルディスの制圧に連合は関わらないように聞こえますが。」

オーレリア将軍の話を聞いてある部分が気になったリィンは不思議そうな表情で指摘した。

「実は私が連合との協力関係を結んだ時の交渉での話し合い――――――つまり、リウイ陛下とヴァイスラント陛下との話し合いでオルディス地方の制圧――――――いえ、”奪還”に関しては可能な状況であれば私達ヴァイスラント決起軍に委ねて頂くことを約束して頂いたのですわ。」

「オルディスの件に関して、そんなにも前から決まっていたのですか………」

「”海都オルディス”はラマールの公都にしてカイエン公爵家の本拠地の上、”ジュノー海上要塞”はオルディスを守る盾にしてラマール領邦軍の本拠地にして領邦軍が保有している軍事基地の中でも最大規模の基地でもあるのだから、敗戦後のエレボニアの”誇り”を守る為に連合に協力しているヴァイスラントとしてはエレボニアが存続しようと、滅亡しようと戦後の自分達の”立場”を確実なものにする為にもオルディスとジュノーに関しては連合―――――他勢力の手を借りずに自分達の力だけで奪還するべきだものねぇ。幾ら何でも連合が苦労して制圧したオルディスの統治を”何の見返りもなく自分達に委ねてほしい”みたいな厚かましい事は言えないでしょうし。」

「それは………」

「……なるほど。それと後はヴァイスラント側の”士気”の関係もあるのでしょうね。」

オーレリア将軍の代わりに説明したミュゼの説明を聞いたプリネが驚いている中レンはやれやれと言った様子で肩をすくめて推測を口にし、レンの推測を聞いたリィンが複雑そうな表情をしている中ルシエルは納得した様子で呟いた後自身が推測したヴァイスラント側の思惑について口にした。

 

「ほう、”そこ”にも気づくとはさすがは”義勇兵”から”参謀”に抜擢された天使殿だな。」

ルシエルの推測を聞いたオーレリア将軍は感心した様子でルシエルを見つめた。

「”士気”……そうか……オルディスはヴァイスラント――――――いや、”貴族連合軍”にとっては”本拠地”のようなものだから、内戦時の紅き翼が母校であるトールズの奪還を”大目標”としたように、ヴァイスラント新生軍も自分達の本拠地にしてヴァイスラント決起軍を結成したミュゼ――――――”次期エレボニア側のカイエン公爵家の当主であるミルディーヌ公女が納めるべき公都を自分達の力だけで取り戻す事を目標”としているのですね?」

「うむ、その通りだ。――――――ちなみにクロスベル側のカイエン公爵家となったユーディット様達に関してはヴァイスハイト陛下とミルディーヌ様、そしてユーディット様自身との話し合いで戦後ご自身達の拠点をフォートガードに移す事に同意なされているからクロスベルやユーディット様とも既に話がついている。」

一方ルシエルの言葉を聞いて察しがついたリィンの確認に頷いたオーレリア将軍は説明を続けた。

「将軍閣下はオルディスとジュノーをご自身達のみの力で奪還するのが”筋”だという考えをされていますが……メンフィル帝国軍に所属している私達にも協力してもらう事に関してはよろしいのでしょうか?」

「ええ。それに灰獅子隊(そちら)は確かに”メンフィル帝国軍”ではありますが、灰獅子隊(そちら)にはミルディーヌ様に加えてアルフィン皇女殿下、”ヴァンダール”の次男に”風御前”もそれぞれの思惑の為に所属している事で”純粋なメンフィル帝国軍”とは言えませんから、我らからすれば協力して頂く他勢力としては許容範囲に入りますので。」

「うふふ、確かに言われてみればヴァイスラント側からすればアルフィン卿達がエレボニアの為に所属している灰獅子隊(レンたち)はその名の通り”灰色(グレー)”な部隊だものね♪」

「ふふ、仰る通り”言い得て妙”とはこの事ですな。」

オーレリア将軍がプリネの質問に答えた後小悪魔な笑みを浮かべて答えたレンの指摘にリィン達はそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中オーレリア将軍は全く動じず静かな笑みを浮かべてレンの指摘に同意していた。

 

「―――――状況は理解しました。灰獅子隊(こちら)としても盟友であるヴァイスラント新生軍の要請(オーダー)を請ける事に異存はありませんが………要請(オーダー)を請ける以上、まずはヴァイスラント新生軍による海都オルディス並びにジュノー海上要塞の奪還に関する流れを聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「いいだろう。まずオルディスの奪還に関しては指揮を任せたウォレス率いる領邦軍にオルディスの守備隊の撃破並びにオルディスの奪還を狙い、次にジュノーの奪還に関しては我らによるオルディスの襲撃を知ったジュノーからの援軍をゼクス将軍が指揮する正規軍と空挺部隊に迎撃し、その間に私が精鋭部隊を率いてジュノーに潜入して要塞内にいる敵将を撃破してジュノーを奪還する事を考えているのだが………二つ、”問題”があってな。その”問題”を解消する為にも其方達の手を借りたいのだ。」

「”二つの問題”、ですか?」

「まあその内の一つは間違いなく”ジュノー海上要塞”の潜入・攻略関連でしょうね。ジュノー海上要塞はエレボニアの軍事基地の中でも”難攻不落の要塞”で有名なんだから、幾ら”黄金の羅刹”が直々に率いる精鋭部隊とはいえ、潜入するだけでも相当な犠牲を覚悟する必要がある上、要塞内の攻略も容易じゃないと思うもの。」

リィンの要求に頷いた後説明したオーレリア将軍の説明を聞いてある部分が気になったプリネは首を傾げ、レンは肩をすくめて自身の推測を口にした。

「ええ。”ジュノー海上要塞”はその名の通り”海の上”にある事で、地上から要塞に入る方法は陸と要塞を結ぶ橋を渡った先にある正面門のみです。その為敵軍も正面門を突破されない為にも橋もそうですが、橋付近の守りを固めているでしょうから、そこを機甲兵の部隊のみで押し入るのは幾ら私でも”無謀”だと判断しています。また、空からの攻撃に備えて外壁に導力砲を備え付けている事から、空からの侵入も容易ではありません。」

「要塞内を攻略する上で障害となる問題は具体的にはどのような内容ですか?」

「ジュノー海上要塞は万一攻め込まれたとしても、内部を進むには仕掛けを解除しなければならない。内部を進むには仕掛けを解除しなければならないのだ。しかも、主攻と副攻の二つが存在する故、攻略の為の部隊は二組に分ける必要もある。」

「……なるほど。外の守りを突破された対策として、内部で戦力を分断させる事で分断された敵を各個撃破する為にそのような構造にしているのでしょうね。」

「うむ、その通りだ。」

リィンの質問に答えたオーレリア将軍の話を聞いてある事に気づいたルシエルの推測を聞いたオーレリア将軍は頷いた。

 

「ちなみにもう一つの問題はやはりオルディスの奪還関連でしょうか?」

「ええ。―――――とはいってもそちらは私個人―――――いえ、”ラマール領邦軍としての願望”ですから”問題”とは言えないレベルかもしれませんが。」

「”ラマール領邦軍としての願望”……?」

「―――――”オルディスの主はカイエン公爵家”。オルディスが敵軍に”占領”されているのならば、オルディスの奪還には”新たなるカイエン公爵家の当主”が兵達と共に自らの手で取り戻すのが”筋”……それが将軍閣下の仰っている”願望”かと。」

プリネの質問に答えたオーレリア将軍の話の意味がわからず、不思議そうな表情をしているリィンにミュゼが静かな表情で説明した。

「それは………」

「……将軍達の”士気”にも関わりますから、ある意味”問題”ではありますね。それとミュゼ自身がオルディスの奪還に参加すべき意図は……政治的な意味合いも含まれているのでしょう?」

ミュゼの説明を聞いたリィンが真剣な表情を浮かべている中、静かな表情で呟いたルシエルはミュゼに視線を向けて問いかけた。

 

「はい、既に”そこ”にもお気づくとはさすがはルシエルさんです。―――――リィン少将には以前にもお話しましたが、”カイエン公爵家”の当主の”資格”があるのは私とユーディお姉様とキュアさん、そしてバラッド大叔父様です。その内、ユーディお姉様とキュアさんに関しましてはクロスベルに帰属する事でカイエン公爵家の跡継ぎ争いからは外れる事になりますので、バラッド大叔父様のみが戦後の私の地位を脅かす可能性がある”政敵”になります。そして私がバラッド大叔父様を黙らせる為には一つでも多くの”バラッド大叔父様を黙らせる要素となる名声”を得る必要があるのですわ。」

「”名声”――――――鉄血宰相達によって占領されたラマールの公都であるオルディスをエレボニア側のカイエン公爵家の当主たるミルディーヌ公女が自らの手で奪還する事は間違いなく”名声”になるし、オーレリア将軍を含めたラマール領邦軍の士気が上がる事は当然として、オルディスの帝国貴族のミルディーヌ公女に対する印象が良くなるでしょうから、その事によってバラッド侯に味方する帝国貴族達も減る―――――いえ、”皆無”にしてバラッド侯の野心を”折る”事も”狙い”なのでしょう?」

ミュゼの説明を聞いて察しがついたレンは意味ありげな笑みを浮かべてミュゼに確認し

「はい♪」

「フフ…………――――――ちなみにだが……オルディスに潜ませている我が軍の斥候が市街での情報収集をした所、帝国政府の謀によってその地位を失脚させられた”レーグニッツ元知事”がオルディスの臨時代官としてオルディスに派遣され、カイエン公爵家の城館で代官としての仕事を務めているとの事だ。」

確認されたミュゼが笑顔で答えるとリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせ、その様子を面白そうに見守っていたオーレリア将軍は気を取り直して話を続けた。

 

「!レーグニッツ知事閣下が………戦争に反対した事が原因でオルディスに左遷させられた話は聞いていましたがまさかオルディスの”代官”として派遣されていたなんて。」

「――――――そうなると、当然”紅き翼”も介入してくるでしょうね。わたくしが灰獅子隊の参謀としての任を務める事を認めて頂いた後に、メンフィル帝国軍から頂いた”紅き翼”関連の情報によると、確かⅦ組メンバーの一人がそのレーグニッツ知事という人物の息子でしたわよね?」

「ええ。それとオルディスもかつてⅦ組が”特別実習”をした場所でもあるのですが……」

オーレリア将軍の話を聞いたリィンが驚いている中、ルシエルは目を細めて推測を口にした後リィン達に訊ね、プリネがリィン達の代わりに頷いて答えた後複雑そうな表情を浮かべてリィンに視線を向けた。

「自分とセレーネはその時はA班――――――ルーレで”特別実習”を行っていましたし、内戦でもエレボニア東部を活動していましたから、自分もそうですがセレーネもオルディスを訪れるのはこれが初めてになります。」

「フフ、今回の要請(オーダー)でオルディスを奪還した際は私がオルディスの隅々まで案内させて頂きますわ♪――――――ご希望とあらば、人目のつかない所にも案内させて頂き、オルディス奪還の”お礼”をさせて頂きますわよ?」

リィンが答えた後ミュゼは妖艶な笑みを浮かべてリィンを見つめて問いかけ、その様子を見たリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

 

「ふふっ、”羽目”を外されるのも程々にしてください。――――――話を続けるが、斥候の報告によると、どうやら最近アルノール皇家の関係者が公爵家の城館に訪れ、滞在しているとの事だ。」

「へ………”アルノール皇家の関係者”ですか?――――――!もしかしてその人物は……」

「もしかしなくてもプリシラ皇妃でしょうねぇ。ユーゲント皇帝はウルスラ病院に入院中、アルフィン卿はレン達の所にいるし、セドリック皇太子とオリヴァルト皇子は”紅き翼”として活動しているのだから、後は唯一動向が不明だったプリシラ皇妃しか残っていないし。」

「だけど一体何の為にプリシラ皇妃がオルディスを……」

一方ミュゼの発言に苦笑したオーレリア将軍は気を取り直して新たな情報をリィン達に教え、その情報を聞いて察しがついたリィンは真剣な表情を浮かべ、レンは肩をすくめて推測を口にし、プリネは困惑の表情で考え込んでいた。

「恐らくは帝国政府の意向かと。オルディスは帝国貴族達を纏めていたカイエン公爵家の本拠地である事から帝国貴族達の本拠地と言っても過言ではないのですから、帝国貴族達に更なる戦費を捻出させる為に皇妃殿下をオルディスに送り込んで戦費の捻出を渋っている帝国貴族達の説得に当てているのかと思われます。」

「ただでさえ『国家総動員法』はレン達のせいで上手くいっていない事に加えて敗戦続きで、この間の作戦でクロイツェン州に続いてノルティア州まで連合の手に落ちちゃったからねぇ。利権に聡い貴族達なら今の時点でエレボニアの”敗戦”を悟って、自分達が戦後貴族として生き残る為にも帝国政府には非協力的な態度を取っているでしょうから、それを改善する為でしょうね。」

「それは………」

ミュゼとレンの推測を聞いたリィンは複雑そうな表情を浮かべた。

 

「それとアルノール皇家の関係者関連でもう一つ気になる情報がある。斥候の報告によると、そのアルノール皇家の関係者には”護衛”がついているとの事だ。―――――斥候の情報収集によるとその”護衛”とやらは”仮面を被った相当な手練れな雰囲気を纏わせた剣士”がな。」

「!”仮面を被った相当な手練れの剣士”という事は……!」

「間違いなく”呪い”によって鉄血宰相側についた”光の剣匠”――――――いえ、今は”光のガウェイン”でしょうね。」

「確か”光の剣匠”の二つ名を持つ人物―――――ヴィクター・S・アルゼイド子爵もⅦ組メンバーの内の一人の父親でしたわね……いずれにせよ、”紅き翼”が今回の件にも介入してくる可能性は非常に高い―――――いえ、”確実”という訳ですか。」

オーレリア将軍が口にした情報を聞いたリィンは驚き、レンは目を細めて推測を口にし、ルシエルは静かな表情で今後起こりうる出来事を推測した。

「以上の事から是非其方達の”力”と”策”を貸して欲しいのだが……何か良き案はあるか?」

そしてオーレリア将軍はリィン達に問いかけた。

 

「………――――――オーレリア将軍、ジュノー海上要塞の内部の構造が記された地図の類等は現在そちらで管理されているのではないしょうか?オーレリア将軍はラマール地方を守護する領邦軍を率いる立場なのですから、恐らくジュノー海上要塞の地図の類等の管理も任されていると推測しているのですが。」

「無論今も私が厳重に管理している。そもそもジュノーはラマール領邦軍の”本拠地”であるのだからラマール領邦軍を率いる私にとっての”城”でもあるのだからな。……わざわざそういうことを聞くという事は”策”の為にジュノーの内部構造等を把握したいのだな?」

ルシエルの問いかけに頷いたオーレリア将軍はルシエルに確認した。

「ええ。協力関係とはいえ、ヴァイスラントにとっては”他国の軍”である私達にジュノー海上要塞の内部構造を開示する事は正直、あまり良くない事と理解はしていますが………」

「構わん。内部構造等戦後に作り替えればいいだけの話の上、そもそも敵軍の軍事基地を攻略する有効な手段が手元にありながらそれを活用しない等、愚の骨頂だ。――――――むしろ、戦後のジュノーの改装に備えて仕掛けもそうだが壁も景気よく破壊した方が攻略の難易度が下がる上、改装する上で必要となる撤去費用を削れるだろうから、我ら領邦軍に対する遠慮はいらんぞ。――――――今、そちらに図面のデータを送る。」

ルシエルの言葉に対して口元に笑みを浮かべて答えたオーレリア将軍の豪快な答えにリィン達はそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。そしてオーレリア将軍は端末を操作して図面をレンが操作している端末に送り、リィンやルシエル達は図面を確認した。

「………確かに確認しました。次にミュゼ。オルディスを奪還する為に最優先に占領すべき場所はどこになるのでしょうか?以前のルーレの件を考えると恐らく先程の話に挙がったラマールの統括領主である貴女の実家――――――カイエン公爵家の城館だと思われるのですが。」

「ええ、ルシエルさんの仰る通り、私がオルディスの奪還の為に最優先にすべきことは帝国政府によって利用されているカイエン公爵家の城館の奪還になりますわ。――――――ちなみにですが、カイエン公爵家の城館は貴族街の最奥にある為、正面から攻めれば間違いなくそれまでの道のりで市街戦が発生しますから、エレボニア側のカイエン公爵家の暫定当主としては市街戦は必要最小限にして欲しいというのが”本音”です。」

「まあ、オルディスはミュゼにとっての”本拠地”になる予定なんだから、本拠地を取り返す為の戦いで本拠地に大きな被害を与えた上その被害によってオルディスの市民や貴族達のミュゼに対する信頼度が下げてしまったら本末転倒だものねぇ。」

ルシエルの質問に答えた後に口にしたミュゼの希望を聞いたレンは肩をすくめて苦笑しながら呟いた。

 

「……”正面から”という言い方をしたのですから、ルーレの時のような”抜け道”の類もあるのでは?」

「はい。実はオルディス市内には大規模な地下水路がございまして。その地下水路には様々な出入口があり、その出入口の一つとしてカイエン公爵家の城館に通じている出入口もあるのですわ。」

「オルディスにそのような地下水路が……」

「ちなみにこれは余談だが、魔女殿の話によるとその地下水路にはかつて”蒼の騎神”が眠っていた”試練の地”も存在していたとの事だ。」

「!オルディーネの…………」

ルシエルの質問に答えたミュゼの説明を聞いたプリネが驚いている中ミュゼの説明を捕捉したオーレリア将軍の話を聞いて目を見開いたリィンは真剣な表情を浮かべた。

「……ミュゼ。オルディスは”海都”という呼び方から察するに、”港”もあるのではないですか?」

「ええ、オルディスの港は貨物取扱量で帝国国内はもちろん、大陸でも最大規模である事から、”沿海州の盟主”という敬称で呼ばれていますわ。」

「その港に先程の説明にあった地下水路の出入口は?」

「当然ございますわ。」

「やはりありますか。……………――――――皆様方、今回の要請(オーダー)を成功させる為の”策”を考えましたので、聞いて頂いてもよろしいでしょうか?」

「ああ、頼む。」

「フフ、噂に聞く灰獅子の頭脳、お手並み拝見させてもらおう。」

ミュゼへの質問を終えて少しの間考え込んだ後考え終えたルシエルの申し出にリィンは頷き、オーレリア将軍は興味ありげな表情で続きを促した。

 

「まずジュノー海上要塞攻略の件ですが、突入方法は”空”からになります。」

「まあ、そうなるわよね。でもルーレの時みたいに要塞の攻略メンバーを飛行騎士達に乗せてもらって要塞に降下する事は容易ではないわよ?」

ルシエルの話を聞いて納得した様子で頷いたレンはある指摘をした。

「ええ。ですから今回は飛行騎士達もそうですが、レヴォリューション自身も潜入の為の”策”として活用します。」

「飛行騎士達は理解できますが、潜入の為にレヴォリューションをどのような活用を?もしかしてレヴォリューションに搭載されている兵装で要塞を直接攻撃するのでしょうか?」

ルシエルの説明を聞いてある疑問を抱いたプリネはルシエルに説明した。

 

「いえ、後にヴァイスラントが自軍の拠点として活用するつもりでいるのですから、要塞自身を攻撃して要塞の防御力を落とすことは避けるべきです。レヴォリューションの役割は”移送”と”囮”です。」

「”移送”と”囮”……もしかしてオーレリア将軍閣下達をこのレボリューションで要塞の上空まで移送した後、敵軍がこのレヴォリューションに注意を惹きつけられている間に将軍閣下達を要塞に降下するのか?」

「はい。幸いにもレヴォリューションには姿を消す機能――――――”ステルス機能”に加えて防御結界機能も搭載されているのですから、敵軍に気取られることなく要塞の上空に近づくことは容易でしょうし、敵軍がこの船を落とす為に導力砲による砲撃をした所でこの船に搭載されている防御結界ならば耐えられます。――――――そうですよね、レン皇女?」

「そうね。この船に搭載されている防御結界もそうだけど、装甲も空中戦を想定して現存の軍用飛行艇の導力砲は当然として、ミサイルだって防げるわ。さすがに”列車砲”になると、防げるのはせいぜい2,3発でしょうけどいくら何でもそんな代物が”線路”もないジュノー海上要塞に搭載されていないでしょうし。」

リィンの質問に答えた後説明をしたルシエルに確認されたレンは頷いて答えた。

「話を続けますが更に”攻撃、防御、突入”とそれぞれの役割を果たす部隊に分けます。”攻撃”の部隊は遠距離攻撃で外壁で迎撃する敵兵達の注意を惹き、”防御”の部隊は攻撃部隊に攻撃する敵兵達の攻撃を結界で防ぎ、そして”突入”の部隊はオーレリア将軍達ヴァイスラント新生軍の精鋭部隊と共に攻略する予定の潜入部隊の一部を外回廊に突入・降下させます。そして降下後、”空”の全部隊は降下した潜入部隊と協力して外壁で迎撃する敵兵達を殲滅、外壁の敵兵達を殲滅して外回廊への降下が容易になった後にレヴォリューションに待機していた残りの潜入部隊とオーレリア将軍達を降下。その後要塞を攻略する部隊と攻略部隊の背後を守る前衛と後衛の迎撃部隊に分けてそれぞれ攻略、迎撃を担当します。」

「フム、なるほどな……その迎撃部隊は要塞を攻略する我らの背後を守る部隊だな?」

「はい。加えて要塞内部ならば敵軍は戦車や機甲兵と言った”兵器”の類が使用できず白兵戦で対処せざるを得ない上要塞内部での戦闘になると屋外での戦闘と違い、物量差で圧倒する事もできませんから白兵戦を得意とする我が軍ならばそれぞれのルートに迎撃部隊を前衛と後衛、1部隊ずつ配置しておけば十分に対処可能かと。」

「そうなると迎撃部隊の後衛は弓兵か魔道兵、前衛は重騎士等といった重装備の兵種がいいだろうな。」

ルシエルの説明を聞いたオーレリア将軍が納得している中リィンは考え込んでいた。

 

「次にオルディス攻略ですが、オーレリア将軍達要塞の攻略部隊を降下させたレヴォリューションがそのままオルディスに向かい、オルディスの港に着水、そして港で迎撃部隊を展開します。……念のために確認しておきますが、この船は陸だけでなく、海や湖といった”水”に”着水”することは可能ですよね?」

「ええ、当然”着水”も可能よ。港で迎撃部隊を展開するって事は、もしかしてレヴォリューションの登場と着水によってオルディスの守備隊の注意を惹きつけてオルディスを攻めるヴァイスラントの負担を減らすかつ、”本命”である地下水路を使ったカイエン公爵家の城館を奪還する部隊の為の”囮”かしら?」

ルシエルの確認に頷いたレンは自身が推測したルシエルの策を口にしてルシエルに訊ねた。

「ええ。――――――ただし、城館を奪還する部隊は以前の少数精鋭で攻めたルーレの時と違って、ある程度の数の戦力を投入――――――最低でも3~4部隊を当てるべきです。」

「ルーレの時はそれで十分だったのに、何故あえて戦力を増強させるのですか?」

ルシエルの説明を聞いてある疑問を抱いたプリネはルシエルに質問した。

 

「敵軍はメンフィル帝国がゼムリア大陸に進出するまでかつては”大陸最強”の異名で呼ばれていたのですから、城館に通じる”抜け道”――――――地下水路の存在を見落とすといった拠点防衛の”基礎中の基礎”を怠るような愚かな事はしていないはずですからその為の対策です。」

「フフ、なるほど。城館を攻略する部隊をルーレの時よりも増強している理由は地下水路自体、もしくは地下水路の出入口付近で配備されていると思われる守備兵達を迅速に制圧する為もそうですが、城館の守りについていると思われる”将”が相当な手練れですから、その対策でもあるのですわよね?」

ルシエルの”策”の内容を知ったミュゼは静かな笑みを浮かべてルシエルに自身の推測が当たっているかをルシエルに確認した。

「城館の守りについている”相当な手練れな将”というと……」

「”光のガウェイン”――――――アルゼイド子爵閣下か………確かに”光の剣匠”が相手となると、こちらも相応の戦力を揃える必要があるな………」

「しかも”紅き翼”が介入してくる事も考えると、城館を攻略する部隊はそっちにも戦力を割く必要があるものねぇ。」

「フフ、ヴァイスラント(われら)としてはレーグニッツ知事もそうだが、皇妃殿下のお二人は”保護対象”であり、お二人が我らの”保護”を受けるかどうかはお二人の”意思”に任せるつもりの為、皇太子殿下達が介入してお二人を保護した所で支障はないのだが、ヴィクター師との戦いに邪魔が入る事はそちらにとっても”本意”ではないのだから、皇太子殿下達を阻むのも仕方がない話ではあるな。」

ミュゼの問いかけを聞いたプリネとリィンはそれぞれ複雑そうな表情で考え込み、レンはやれやれと言った様子で肩をすくめて答え、オーレリア将軍は苦笑しながら指摘した。

 

「ちなみにリィンお兄さん。光のガウェイン――――――いえ、”光の剣匠”が阻んで来た場合、”本気で殺す”つもりで挑むのかしら?」

「……………―――――はい。”光の剣匠”はこちらが”手加減”できる程の相手ではありません。”手加減”等すればそれこそこちらに甚大な被害―――――重傷者もそうですが”死者”が出る事は容易に考えられます。勿論子爵閣下に勝利した後子爵閣下が生存していたのならば捕縛に留めますが……子爵閣下と戦う際は一切の容赦はしません……オーレリア将軍閣下もそうですが、ラウラにも申し訳ないと思っていますが、自分は”灰獅子隊の軍団長”として仲間達の犠牲を防ぐ為にもその考えは曲げられません。」

意味ありげな笑みを浮かべたレンの問いかけに対して少しの間目を伏せて考え込んでいたリィンだったがやがて答えが出ると目を見開いて決意の表情で頷いて答えた。

「私に関する気遣いは不要だ。そもそも内戦の時に私は”師”であるヴィクター師もそうだが、ゼクス中将、それにマテウス師を”本気で討つ”つもりだったし、そもそもシュバルツァー少将の配下や仲間から犠牲を出さない為に強敵であるヴィクター師に一切の容赦をしないという判断は”軍を率いる者として当然の判断だ。”それにヴィクター師も”武人”の一人。戦いによって果てる覚悟も当然しているから、例え其方達との戦闘によって果てたとしても其方達を恨むような狭量な事はしないし、そのような人物を父に持つラウラ嬢は戦いによって果てた父の人生を受け入れる事もまたアルゼイド流の継承者―――――いや、武人の娘として受け入れなければならない”義務”だ。」

「将軍閣下……」

「……お気遣いありがとうございます。話を戻すが今回の要請(オーダー)を成功させる為の”策”は以上になるのか?」

「はい。”策”の成功率を更に上げる為の細かい変更やどの部隊が担当するか等は後で部隊長達を交えて話し合う必要はありますが、大まかな流れは以上になります。―――――これが、わたくしが考えた”策”になりますがどうでしょうか?」

オーレリア将軍のリィンに対する気遣いの言葉を聞いたミュゼは静かな表情を浮かべ、リィンは会釈して感謝の言葉を述べた後ルシエルに確認し、確認されたルシエルは頷いてオーレリア将軍に確認した。

 

「うむ、こちらとしてもその”策”で問題ないが、ジュノーの攻略に関する”策”の中で一部分を変更してもらいたい。」

「その変更部分とはどの部分でしょうか?」

「先程の話では外壁の迎撃部隊が”空”の部隊に注意を惹きつけられている隙に、そちらの攻略部隊が外回廊に降下して外壁の迎撃部隊の殲滅を開始するとの事だが、その最初に降下する部隊は私が率いる部隊にしてもらいたい。」

「え……最初に降下する部隊を将軍閣下が率いる部隊にですか?一体何故……」

ルシエルの質問に答えたオーレリア将軍の答えを聞いて呆けたプリネはオーレリア将軍に訊ねた。

「それはジュノーが我らラマール領邦軍の”居城”だからです。我らの城の奪還に手を貸してもらうとはいえ、ジュノーを占領している敵軍の”将”を討つ事もそうですが”一番槍”を務めるのが我らラマール領邦軍にとっては”義務”のようなものでもあるからです。―――――内戦時”トールズ士官学院の奪還を大目標”として活動していた其方ならば、私の要請も理解できるだろう、シュバルツァー少将?」

「……はい。ちなみにジュノー海上要塞はルートが主攻と副攻の二つに分かれているとの事ですが、将軍閣下が率いる部隊が攻略するルートは話の流れから察するにやはり”主攻”でしょうか?」

プリネの質問に答えたオーレリア将軍に問いかけられたリィンは静かな表情で頷いた後オーレリア将軍に確認した。

 

「うむ、主攻は長く険しいからな。歴戦の兵(つわもの)を充てるべきだ。よって私が率いる部隊に加勢する部隊もその点を考慮した上で配備して欲しい。最悪適正の部隊がいなくても、”副攻”の担当と我らの背後を守る事に専念してくれるだけでも我らとしては十分だから、無理に我らの部隊に加勢する部隊を決める必要はない。」

「……貴重な意見、ありがとうございます。そういう事ならば、わたくしが率いるリィン隊の天使部隊が主攻を攻める将軍達の補佐をさせて頂きます。」

「ほう。今の私の話を聞いて考える事なく申し出るという事は、ミルディーヌ様から話だけは伺っていたが、灰獅子隊(そちら)にとっても相当な精鋭部隊と判断してよいのだな?」

自分の話を聞いてすぐにある申し出をしたルシエルの申し出を聞いたオーレリア将軍は興味ありげな表情を浮かべた後リィン達に問いかけ

「ええ。ルシエル達は”人間”の自分達ではありえない程の長い年月の間、魔族との戦いに明け暮れていた事で自分達よりも遥かに”実戦経験”を積んでいる事もそうですが、その”実戦”も高い戦果を上げ続けていたとの事ですから、ルシエルの言っている事に間違いはないかと。」

「しかもルシエルお姉さんが率いる天使部隊は前衛、後衛の担当に加えて治癒魔術を得意とする天使達で構成されているから、戦闘部隊としてのバランスは完璧だし、ルシエルお姉さん自身も前衛、後衛、更に回復もこなせるから、将軍自身のフォローもこなせると思うわよ。」

「ふふっ、私は達人(マスター)クラスの戦闘能力を比較する事はできませんが、今までルシエルさんの実力をリィン少将達のお傍で見てきた身としては少なくてもルーファス卿よりは智勇共に”上”かと。」

「フッ、それは心強い話ですな。―――――ああ、それと。実はルシエル殿の”策”を聞いてからふと思いついたジュノーの潜入関連で私個人の希望もあるのだが、構わないだろうか?」

リィンとレン、ミュゼの評価を聞いて静かな笑みを浮かべたオーレリア将軍はすぐに気を取り直してある事をリィン達に頼もうとした。

「何でしょうか?」

「それは―――――」

その後オーレリア将軍との会談を終えたリィン達は部隊長達を集合させてブリーフィングを開始した――――――――――

 

 


 
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