No.1055144

ある魔法少女の物語 5「群集の魔女」

Nobuさん

どんなに悪い事実も、魔法少女の前では何の意味もなさない。
何故なら、この世界では事実より思いの方が強いから。

2021-02-23 08:00:01 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:353   閲覧ユーザー数:353

 そして、翌日――高校の授業も終わり、恭一と奈穂子が長根先輩を迎えに行こうとした時。

 

「あら? あなた、以前に見た事がある顔ね」

「あ、まり恵ちゃん!」

 二人は同級生の安養寺まり恵とすれ違った。

 赤いツインテールが、風に乗って揺れている。

「お前、もしかして以前に魔女と戦った魔法少女?」

「覚えてたのね」

 まり恵はニッコリと恭一に微笑む。

 自分を覚えてくれた事が、彼女にとって嬉しい事のようだ。

「ああ、確か名前は……えーと、まり恵だったか?」

「そうよ。それで、今日は何の用?」

「えーっと、明日は沢村の誕生日だから、長根先輩をパーティーに誘うんだ」

 彼女はリケジョだから、ちょっと誘い難いな……と思う恭一。

 だが、誘えばきっと、彼女の意外な一面も見る事ができるだろう。

「そう。じゃあ、早速彼女を探しましょう。でも、一体どこにいるのかしら」

「……分からんなぁ」

 長根三加は、今、どこにいるのか分からない。

 彼女を探すのは、時間がかかりそうだ。

 三人がどうすればいいか考えようとしていた時。

 

「きゃっ!!」

「奈穂子!!」

 突然、奈穂子が蝙蝠に襲われた。

 しかも、蝙蝠の身体は通常と異なる、水色だった。

「な、なんだこいつは!」

「分からないよ……とにかく、逃げよう!」

「ああ。悪い、奈穂子は俺から離れるな!」

「うん!」

 恭一は奈穂子の手を引き、まり恵と共に蝙蝠から逃げ出した。

 まだ誰も変身していないため、戦う事はできない。

 そのため、今は逃げるという選択肢しかなかった。

 

「こっちだ!」

「ええ!」

 三人は水色の蝙蝠から逃げていく。

 建物に身を隠したり、蝙蝠の超音波が届かない場所に逃げたり……。

 蝙蝠はしつこく追いかけてきている。

「怖いよ……」

「安心しろ、俺が守ってやる」

 怖がる奈穂子の手を、恭一は引っ張る。

 まり恵は真剣な表情で、蝙蝠から逃げた。

 やがて、逃げた先にいたのは……その蝙蝠と戦っていた、黒髪の魔法少女だった。

「長根先輩!!」

「か、彼女が?」

 奈穂子は魔法少女を見てそう叫び、恭一は驚く。

 そう、この黒髪の魔法少女こそ、恭一達が探していた、長根三加だったのである。

 そして、三加の傍には、ジュウげむがいた。

 三加は歯を食いしばりながら、水色の蝙蝠と戦っている。

「待てっ!!」

 恭一は助太刀しなければ、と思って突っ込もうとしたが、突然、恭一の足が止まった。

「な、動けない!?」

「恭一君……」

「これじゃ、長根先輩が大変な事になっちゃうわ」

「でも、どうすれば……」

 奈穂子とまり恵が困っていると、恭一の頭の中に声が聞こえてきた。

 

―危機が訪れています。あなたに力を与えましょう。

 

 すると、再び恭一の目の前に大きな剣が現れた。

 恭一がそれを手に取ると、彼の中に力が入り込んできた。

「よし! 長根先輩を助けに行くぞ!」

「あたしも戦うわ! 奈穂子は外で待ってて!」

「え、うん、分かった」

 そして、まり恵も赤い宝石を掲げて、赤い光に包まれると魔法少女に変身した。

 まり恵はハンマーを構えて、恭一と共に三加がいる現場に突っ込んでいった。

 

「恭一君……まり恵ちゃん……長根先輩……」

 奈穂子は、自分でも出来る事はないか考えていた。

 魔法少女に変身できないため、戦う力はない。

 ただついてきただけでは、足手まといになる。

 だから、自分にできる事、それは……。

 

「私、恭一君とまり恵ちゃん、長根先輩を応援する!!」

 三人を応援するために、自ら現場に突っ込んでいく事だった。

 一方、恭一、まり恵、三加は、蝙蝠の群れと戦っていた。

 正確に三人を追いかける上に動きも素早いので、攻撃がなかなか当たっていない。

 次第に、三人は蝙蝠に追い詰められていった。

 

 その時だった。

「恭一君!」

「奈穂子!」

 突然、奈穂子の声が聞こえてきた。

 恭一が思わず声のした方を振り向くと、彼の背後から蝙蝠が襲い掛かってきた。

「危ないですよ」

 だが、三加がその蝙蝠を魔法で攻撃したため、恭一が攻撃を食らう事はなかった。

 そして、三加は穏やかに、だが厳しい口調で奈穂子にこう言った。

「何故、戦えもしないのにこちらに来たのです?」

「だって、みんな大変な事になってるから……」

「だからといって、戦えない貴女がこちらに来る必要はないのです。速やかに現場から離れなさい」

「……でも! 私は恭一君が心配なんです! お願いします、長根先輩! 恭一君のところに行かせてください!」

 奈穂子が必死で三加に伝えると、三加は溜息をついてこう言った。

「仕方ありませんね。貴女も行かせましょう。ただし、邪魔にならないようにしてくださいね」

「うんっ!」

 

 奈穂子は、恭一達の力になるために、彼らを応援しつつ的確に指示を出した。

「まり恵ちゃん、後ろに蝙蝠が!」

「わっと、危ない! 助かったわ、奈穂子」

「えへへ」

 まり恵は、奈穂子の助言で蝙蝠からの攻撃をかわす事に成功した。

「恭一君、闇雲に剣は振らないで! 蝙蝠が襲ってきたら、振るのよ!」

「サンキュ!」

(長根先輩は……大丈夫そうだね)

 奈穂子の助言により、蝙蝠は徐々に数を減らした。

 恭一、まり恵、三加も、徐々に余裕を取り戻す。

「ありがとうございます、奈穂子さん」

「どういたしまして。……っ!」

 三加はお礼を言いながら、殺気を察知して、蝙蝠を魔法で撃ち落とした。

 どうやら、これが最後の蝙蝠のようだ。

 

「蝙蝠はみんな倒したぜ。これで終わったか?」

 恭一が明るい声で言うと、三加は首を横に振る。

「いえ、まだ終わっていません。証拠に、結界はまだ消えていません」

「ホントだ……」

「あの蝙蝠は恐らく、魔女の使い魔でしょう」

「じゃあ、残っているのって……」

「……『魔女』ですよ」

 すると、空からゆっくりと巨大な怪物が現れる。

 それは、魔法少女が倒すべき敵――魔女だった。

 魔女は無数の蝙蝠が融合し、頭部は真っ赤な血の涙を流す女性と、グロテスクな姿をしていた。

「あれが、魔女!」

「そう、私達魔法少女が倒すべき敵。災いの象徴。……さぁ、いきますよ!」

「ああ!」

「みんな、頑張って!」

 奈穂子が応援している中、二人の魔法少女と一人の勇者は、魔女と戦った。

「はっ!」

「えいっ!」

「そこです!」

 恭一の剣、まり恵のハンマー、三加の魔法の矢が魔女に命中し、ダメージを与える。

「アアアアアアアアアアア!!」

「おっと!」

「危ないっ!」

 魔女が叫び声を上げると、無数の蝙蝠が恭一とまり恵に襲い掛かる。

 恭一とまり恵は上手く攻撃をかわし、次に備えた。

 まり恵はハンマーを振り上げて、衝撃波を飛ばす。

 魔女が怯んだ隙に、恭一は剣で斬りかかり、三加は魔女の防御が薄い部分を攻撃した。

 すると、不意に魔女の身体が無数の蝙蝠となって天へと立ち上った。

 羽ばたき音は見る間に遠ざかり、辺りには静寂だけが残された。

 

「消えた……?」

「いえ、別の場所に移動したのでしょう。近接型の貴方達はすぐに魔女を追うのです」

 三加の助言で、恭一とまり恵は逃げていった魔女を追いかけた。

 残った三加は、うごめく魔女を、まるで機械のように正確に魔法で攻撃する。

「おらぁっ!」

 恭一は剣を両手で構えて、魔女を貫いた。

 すると、恭一の身体が真っ赤に光り出した。

 チャンスだと思った恭一は、その勢いのままに魔女の身体に突っ込み、大爆発を起こして大ダメージを与えた。

 すると、再び魔女の身体が無数の蝙蝠になり、どこかに飛び去っていった。

「今度はどこに逃げたんだ……?」

「あっち!」

「そっか、サンキュ、奈穂子!」

 恭一達は、逃げ回る魔女をとにかく追いかけた。

 魔女は妨害として蝙蝠を津波のように襲わせ、そのたびに奈穂子と三加の支援を受けた恭一とまり恵が薙ぎ払う。

 だが、蝙蝠の数は予想以上に多く、どちらが体力が尽きるのか、時間の問題だった。

 それでも、恭一、まり恵、三加は諦めなかった。

 魔女は災厄の象徴、倒さなければ平和は訪れない。

「喰らえっ!」

「せやぁぁぁっ!」

「いきます!」

 そして、三人の思いはついに届いた。

 魔法少女と勇者の、魔女を倒したいという思いが、三人の武器を大きく強化したのだ。

 強化された武器は、群集と化した蝙蝠を消し去り、魔女の頭をも眩い光で包み込んだ。

 そして、魔女は白い光になり、消滅したのだった。

「やった……魔女を倒したぞ……」

 魔女を倒すと同時に結界は解け、恭一達の姿も元に戻った。

 すると、空中からジュウげむがやってきて、ふわりと、恭一の前に降りた。

「おめでとう。これで、キミ達はエボラ出血熱を地球から駆逐した」

 エボラ出血熱は、致死率が非常に高い感染症だ。

 それを、魔女を倒しただけで地球から消す事ができるなんて。

 恭一は頭に?マークを浮かべた。

 ジュウげむは、ふふん、と余裕な態度を取る。

「まぁ、そんな事は気にしなくてもいいよ。これでまた一つ、世界から災いの爪痕が消えたからね。感謝するよ、魔法少女」

 そう言うと、ジュウげむは白い光になり、その場から姿を消した。

 

「恭一君! 魔女を倒したんだね!」

「奈穂子……」

 その時、奈穂子が恭一達のところにやってくる。

 魔女が倒れ、災いの爪痕が消えたのだが、恭一は何故か納得のいかない表情だった。

「どうしたの、恭一君? 元気ないね」

「……俺は、あいつに利用されてる気がするんだ」

「利用されてる?」

「魔女は、みんな災いの象徴だってジュウげむが言ってた。魔女を倒せば災いは無かった事になる。でも、それで本当にいいんだろうか」

 災いがなければ、みんなが幸せになるのだろうか。

 苦しみなんて存在しなかった事にするのが、本当に世界に平和をもたらすのだろうか。

 恭一は、まだその事でもやもやしていた。

 すると、奈穂子は首を横に振って、恭一に笑顔でこう言った。

「大丈夫だよ、恭一君。私はまだ、魔法少女になってないんだよ」

「!」

 守るべき対象は、まだ魔法少女になっていない。

 恭一はそれに気づき、はっと目が覚める。

「私は魔法少女になんかなりたくないし、なるつもりもない。恭一君の願いは、私をジュウげむから守るんでしょ? だったら、それでいいじゃない」

「……。……そうだな、奈穂子。こんな事を考えてた俺が、馬鹿だった。

 これからも、お前をジュウげむから守ってやる。絶対に、魔法少女にはさせないからな」

「うん! 約束、だよ!」

「約束しよう」

 そう言って、恭一と奈穂子は指切りをした。

 

「じゃ、誕生日パーティーの準備をしようか! 長根先輩も、もちろん、行くよね!」

「……ええ」


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択