No.1054477

ある魔法少女の物語 1「始まり」

Nobuさん

主人公とヒロインが今回のキーキャラクターと出会います。
そして、初めての戦闘シーンでもあります。

2021-02-15 08:00:02 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:256   閲覧ユーザー数:256

 声がしたのは、真字駆公園のマギマギ池だった。

 そこに行った恭一と奈穂子は、きょろきょろと辺りを見渡す。

「どこにいるの? あなたは誰?」

―助けて……。

 恭一と奈穂子の頭の中に、声が聞こえてくる。

「あなたなの……?」

 そこでは、オッドアイの謎の生き物が苦しそうな表情をしていた。

―恭一、奈穂子、今、世界が疫病の脅威にさらされているだろ? でも、今はもう一つの問題がある。だから、ボクを助けてほしいんだ。

「ど、どうしてそれを知っている!」

 謎の生き物は恭一と奈穂子にテレパシーで事情を伝えた。

 恭一は、全ての事情を謎の生き物が知っている事に驚いた。

―そんな事はどうでもいい、早くボクを……!

 次の瞬間、公園内の風景が変わった。

 風景の中央には、苦痛に歪んだ表情の少女が浮かんでいる。

 さらには、緑の皮膚と小柄な体格の亜人が、恭一と奈穂子を取り囲んだ。

「こ、こいつらは……!」

―こいつは魔女が生み出す使い魔だ。

「魔女……!?」

 謎の生き物が言う「魔女」が何なのか、二人には分からなかった。

―魔女は災いを生み出す邪悪な存在だ。奈穂子。キミは優しいんだよね。さあ、ボクと契約して、魔法少女になってくれ。

「嫌!」

 奈穂子は謎の生き物の勧誘を拒否した。

 彼女の返答に一瞬驚く謎の生き物だが、当然だろうな、という態度に戻る。

―でも、魔女と使い魔は魔法少女にしか倒せない。だから、ボクと契約を……。

「ふざけんな! こいつらは俺が倒す! 奈穂子、お前は安全な場所に逃げろ!」

「うん!」

 そう言って、恭一は使い魔に生身で突っ込んだ。

 奈穂子はそんな恭一を心配そうに見守りながら、使い魔の攻撃を受けない位置に逃げた。

 

「ケーッケケケケケケケ!」

 使い魔は恭一を袋叩きにしていく。

 恭一は使い魔に立ち向かうが、使い魔の力は強く、こちら側も思った以上に力が出なかった。

「くそ、力が出ねぇ……!」

 使い魔に丸腰で立ち向かうのは、無謀だった。

 それでも恭一は必死で使い魔と戦うが、次第に劣勢になっていった。

 そして、ついに膝をついてしまう。

「くそっ……俺は、奈穂子を守れないのか……!?」

 幼馴染を守れず、死んでしまうのか。

 恭一が目を閉じた、その時。

 

―諦めてはいけません。

 

 今度は、謎の女性の声が聞こえてきた。

 しかも、その声は恭一にしか聞こえていない。

「誰だ……?」

―この剣を、取ってください。

 その声が聞こえると同時に、恭一の目の前に柄が青い剣が現れた。

 剣は光っていて、恭一を待っているかのようだ。

「……これを、使ってほしいのか?」

 剣は頷くように光る。

 恭一がその剣を取ると、彼の中に強い力が入り込んできた。

 同時に、恭一が負っていた傷が癒される。

「力がみなぎっていく……! よし、これならこいつらと戦える!」

「頑張って、恭一君!」

 恭一は剣で使い魔を斬りつけた。

 使い魔はなおも恭一に襲い掛かってくるが、恭一は攻撃をかわし、反撃する。

 今までとは違う、身体が軽くなったような感覚に、喜んでいる恭一と奈穂子。

 そのまま恭一はジャンプして使い魔を斬り、残りの使い魔もそのまままとめて切り裂いた。

「ふう……これで最後か?」

 使い魔が全て消え、恭一は汗を拭う。

 だが、風景はまだ、元に戻っていない。

「まだ残ってるの?」

―そうだよ。使い魔と共にいるのは、もちろん。

 謎の生き物がそう言った途端、地響きが起こった。

「な、何!?」

「何だ、何だ?」

 恭一と奈穂子が困惑すると、地面から謎の生物が姿を現した。

 生物は右手にナイフを握っており、男と少女の顔が身体に浮かび上がっている。

「こ、こいつは……!」

 化け物の姿を見た恭一と奈穂子が恐怖で震える。

 さらに、謎の生き物がテレパシーで話しかける。

―これが魔女さ。魔女を倒せば、災いはなくなる。さあ、奈穂子。ボクと契約して魔法少女に……。

「待て、こいつは俺が倒す。使い魔を倒したんだから、魔女も倒せるはずだ」

 恭一は謎の生き物の勧誘を阻止し、剣を構え直して魔女の前に立つ。

 魔女は唸り声を上げると、恭一に襲い掛かった。

「わっと!」

 恭一は攻撃をかわし、反撃するが、魔女は左手を伸ばして剣を弾き返す。

 さらに、魔女は右手のナイフで恭一を斬りつける。

「あのナイフ……どうにかして落とせないか?」

―ヒントを言おう。ナイフは魔女が魔女である証。

「……?」

 謎の生き物曰く、あのナイフが魔女の力の源となっているらしい。

 恭一の予想通りだったが、どう対処すればいいのか分からなかった。

 魔女はなおも、ナイフで恭一を攻撃しようとする。

 恭一は避ける事で精いっぱいだった。

「……待って、恭一君! あの腕を見て!」

 すると、奈穂子が魔女の腕の違和感を発見し、それを恭一に伝える。

 恭一が魔女の腕を見ると、一部分だけが細くなっていた。

「そこかっ!」

 恭一がそこに向けて、剣を突き刺す。

 すると、魔女の腕が衝撃でちぎれ、ぽとりとナイフが落ち、黒い煙になる。

「ギャアアアアアアアアアア!!」

 魔女は叫び声を上げながら、大暴れする。

 恭一は魔女の攻撃をかわしつつ、的確に魔女の身体に斬撃を刻む。

「そこだっ!」

 恭一は剣で魔女の身体を貫く。

 魔女は腕を伸ばして恭一を持ち上げ、思いっきり地面に叩きつける。

「ぐあぁっ!」

 恭一は何とか受け身を取り、骨折を防ぐ。

 しかし、恭一の疲労が溜まっていく。

 恭一はケリをつけるべく、剣に力を溜めた。

「うおおおおおおおおおおおお!!」

「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 溜めた力が光となり、魔女に向かって一閃された。

 魔女の身体が四散し、黒い煙になって消えていく。

 そして、風景は元の真字駆公園に戻った。

「……ふう、終わったか」

「凄かったよ! 恭一君!」

 恭一は汗を拭い、奈穂子は彼の勝利を称える。

 すると、謎の生き物が二人の前にやってきた。

―魔女を倒せば、起きた事の全てはリセットされるんだ。つまり、この事を覚えているのは、君達だけという事だね。

「……は? どういう事だ?」

―さあね。

「そんな事より、お前の名前は何だよ」

―ボクの名前はジュウげむ。魔女を狩る魔法少女を生み出す者だよ。

 ジュウげむと名乗った謎の生き物は、姿を消した。

 

「リセットされるって、どういう事?」

「さあ……分からないよ。そろそろ帰ろう、恭一君」

「ああ」

 恭一と奈穂子は、互いに別れを告げて帰った。

 

「おにぃ、テレビみて」

「ん……?」

 恭一が自宅に帰ると、妹の由美がテレビを指差す。

 テレビには、こんな映像が映っていた。

「次のニュースです。溝渕容疑者に殺害されたと思われた大澤ひかりさんには、何の外傷もありませんでした。

 溝渕容疑者は何をしていたのか分からない様子です」

「……え? 何?」

「殺人事件が無かった事になったみたいよ」

 恭一はもう一度テレビを見る。

 そこには、殺人事件が無かった事になったという「事実」しか映っていなかった。

 本来ならば喜ぶべき事だろうが、本来ならばあり得ない事だったため、恭一と彼の母、そして妹は頭を捻っていた。

 これも、魔女を倒したからだろうか。

 とすると、風景に浮かんだ少女は、殺人事件の被害者だった大澤ひかりで、魔女のナイフは溝渕容疑者が使っていた凶器なのだろうか。

 恭一には分からなかった。

 だが、魔女を倒せば事実は無かった事になる――ただ、それだけが「事実」だった。

 

「……ジュウげむ。あいつは一体何者なんだ。でも、絶対に、奈穂子を魔法少女にはさせない」

 

 ジュウげむと出会った恭一と奈穂子。

 彼らの歯車は、少しずつ狂い始めていった。


 
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