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チートでチートな三国志・そして恋姫†無双

第5章 “貞観の治

2021-02-13 19:17:40 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1325   閲覧ユーザー数:1264

第70話 深夜の密談

 

 

 

 

 

 

こんなことに国費を使うのか……と思いつつ、炎蓮たちを休ませるための邸宅をつくりあげた。そこは、ハリウッドスターの家の如く豪華であり、兵も個室で全員休ませられるという至れり尽くせりな場所である。

 

 

「君ら、わざわざこんな場所をつくってくれたのか……? すまねえな。」

 

「警備上の問題もあるし、炎蓮たちだけじゃなく、他にも色々使えそうだから気にしないで使ってほしい。」

 

「私たちの兵が逃げ出さないように、よく見張っておく必要がありそうですね。」

 

冥稟が、冗談とも本気ともとれそうな強烈な言葉を発した。居心地がいいから寝返りますは確かに笑えない。そんなことことがあり、炎蓮たちを休ませてから、ようやく居城へと戻ってきた。

 

 

「やっぱり、客がいるとなかなか羽が伸ばせないね。しかし、藍里の発案であれをつくったのは正解だったみたいだ。あの様子なら無駄遣いにはならない。」

 

「は、はい……。国威も大事かと思いまして……。皆に賛成してもらえてよかったです。あうう……。」

 

と、外が少し騒がしいことに気づいた。

 

「鴻鵠! どうした?」

 

「何かありましたか……?」

 

「は! 申し訳ありません。完全に確定した情報ではないのですが、紫の髪の女性が一人、警備を突破して逃げた可能性があるとの情報が入りまして。立ち入って捜索いたすかどうかは、椿さんに決めていただくことになりますが……。」

 

「仮に逃げ出した者がいるとすれば一人で、紫の髪、というのは間違いないのですね?」

 

「はい。そこは間違いございません。確定です。」

 

「ならば放っておいてください。ただし、これ以上の逃亡者は出さぬように。もし出ようとする者がいるのならば、武器の使用も許可します。」

 

「椿、正気か……?」

 

霧雨がそうつぶやいた。俺ですらありえないと思ってしまう指示だった。

 

「おそらく、母の孫堅でしょう。狙いが何かまではわかりませんが、演武で悠煌さんの遊びを唯一見抜いていたことを鑑みても、こちらと単身で接触したいということなのではないかと思います。ここの治安は良いですし、大丈夫です。仮に武器を持っていないとしても、簡単に殺されるほど弱い人物ではありません。むしろ、こちらまで簡単に来られるように、少し、通りの警備を緩めてください。」

 

「怖い怖い……。水晶たちも同意見ですかな?」

 

「そうですね……。まあ、来るとすれば一刀さんのところでしょう。来たときに、そこでした話を我々上層部に情報共有してくれるのならば、特に問題はありません。」

 

 

マジか……。俺のことはだいぶ気に入ってくれているのか、真名も預けてくれたけれど、かなりの危険をおかしてまでわざわざ会いに来るとは、いったいなんのつもりなんだろうか。

 

 

「心の準備はしておくよ。

 

鴻鵠、天和たちと今回の一件で皆の信が揺らいだりすることはないから、心配せずに職務を続けてほしい。大丈夫、相手がちょっと抜けすぎてて予測が難しいだけのことだ。」

 

「は、はい! 一刀殿、勿体なきお言葉本当にありがとうございます……。」

 

そこでお開きにして、みな自分の部屋に戻って寝ることにした。

 

「お前は相変わらずそれを食ってるのか……。」

 

「バターと生クリーム。こんな食い物が世にあるとはな。世界は広い。」

 

小麦粉を焼いたものにのせたり、塩や砂糖で味をつけたり、とにかく飽きないらしい。

 

 

「起きろ、一刀。」

 

「なんだよ……?」

 

一眠りして少し経った頃か、突如体をゆすられた。目をあけると、月夜に照らされた顔は女媧ではなく、炎蓮だった。

 

「!?」

 

声をあげようとしたら、口をふさがれた。殺す気か。しかし落ち着いてみると、殺意は感じ取れなかった。

 

「とりあえず、水だ。飲んで、顔を洗って目を覚ませ。」

 

そう女媧に言われて少し。ようやく頭が働いてきた。

 

「ど、どうしてここに炎蓮が……?」

 

「お前と、お前の最も信頼できる仲間たちと、少し話がしたくてな。悪いと思ったが、抜け出してきた。あそこから抜け出すのは苦労したが、ここまではそうでもなかったな。案外、不用心なのか?」

 

「い、いや……。」

 

何の話をするつもりなのだろうか。しかし、これをぴたりと当ててきた椿たちは本当に恐ろしい。

 

「で、俺に話ってのは……? 悪いけど、そこにいる甄は、口を挟むことはあまりないし、口外することもないけど、常にいるよ。」

 

「わかった。まあ甄さんは“特別”だから別に構わねえ。一番危ねえ“ニオイ”がする。しかし、護衛なんだろうによく俺みたいな危険人物を通したよな。俺が一刀君を殺すとは思わないのか?」

 

「疑うならやってみればよかろう? ちょうどそこに一刀の剣もあるぞ。」

 

「お、おい!」

 

「いいんだ。喧嘩に来たわけじゃねえしな。」

 

女媧の挑発に乗らなくて心底ほっとした。女媧の本来の役割は俺の護衛なのだが、本当に守られているのか不安になるくらい何をしているのかよくわからない。もちろん、守られてばかりではダメだと自覚はしているけど、簡単に強くなれたら誰も苦労しない。」

 

「なら、何をしに?」

 

「君と話をしに、よ。その後でちょっとしたお願いをな、君の仲間と一緒に、聞くだけ聞いてほしい。」

 

「俺と話……?」

 

「ああ。君は、本当に優秀な仲間に恵まれてるな。あの祭をあそこまで手玉に取る将がいるとは思ってなかった。その上、俺がもっとも欲した、自慢だったものまで持ってる。息子ほど歳の離れた奴だが、うらやましくてな。」

 

わははと笑うと俺の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。でもそれより気になる単語が飛びこんできた。

 

「炎蓮がもっとも欲した、自慢だったもの……?」

 

「“つながり”さ。あるいは“結束”や“絆”とでも言ったものか。」

 

「!」

 

「その様子だと知ってるんだろ? まあ、知らんわけがねえと思ってたけどな。俺の治めている揚州はな、強固なつながりこそ最高で、それが強さの秘密だと思ってた。確かに昔はそうだったさ。だが、今はどうだ? 娘二人が喧嘩する始末。喧嘩といっても、論争してるわけでも、陰口たたくわけでも、ましてや殴り合うわけでもねえ。ただ、完全に分かれちまったよ。

 

俺は正直、雪蓮、孫策のほうがかわいかった。よく敵将は討ち取ってきたし、何度となく俺と一騎打ちもした。だからこそ、多くの将も雪蓮についてきた。 一方、孫権、蓮華のほうはどうだ? 敵将は討つより、できるなら味方にしましょう、ときたもんだ。昔の俺は全く理解できなかったよ。今も完全に理解してるとは思えねえがな。

 

俺が憂えてるのは【佞臣】だ。」

 

娘二人がこれだけ性格がちがうふうに生まれてしまい、今後わかり合えるかどうかが謎だとすると、親としては辛いのだろう。孫権さんのスタンスは俺たちに近いのかもしれない。そうなると、やはり危険な人物である説が真実味をましてくる。

 

「いるのか!?」

 

「今はいねえよ。表面上は、な。絶対にいねえとは言い切れねえ、という感じだな。お前だって、“権力”ってもんの怖さには気づいてんだろ? 将来にわたって間違いなくそうならねえ、と断言できるのなんざ、冥稟と祭くらいだ。ただ、君も知ってるかもしれんが、あの二人は蓮華側だ。今更雪蓮について諌言したところで、雪連が聞く耳を持つとも思えねえ。

 

俺は今でも親としては、雪蓮のほうがかわいい。だが、州牧としてどちらが適任かときかれれば、それは聞くまでもねえ。蓮華だ。」

 

 

炎蓮がそうまくしたてるのを、呆然と聞いていることしかできなかった。“親”としての炎蓮と“州牧”としての炎蓮、その狭間で思うところはありすぎたのだろう。そして“権力”の怖さは確かにその通りだ。権力欲にはキリがないところもある。俺たちは今のところその欲求は我慢しているけど、もっと、もっと、を欲すことはいくらでもできる。それに、しようとしていないだけの話で、強権的に使うこともたやすくできる。民衆が今のようについてこなくなるから耐えているだけで、恐怖政治だってやろうと思えば簡単な話だ。権力があるということは、本当に危険なことなのだ。抑制的に使う、祖父からあの話を聞いていて心底よかったと思っている。

 

 

「かけてもいい。かけるもんなんざねえがな。俺が今死ねば、揚州は分裂する。最終的には内紛に決着がついたあたりで、どっかから食われて終わりだろうよ。それは君らからかもしれねえな。

 

さて、クソ真面目な話をしよう。お前がよく信頼をおいてる奴を、そうだな……。4人呼んでくれ。武官と文官と両方いると助かる。」

 

 

誰にしたものか。愛紗、星……。人選は常に悩ましい。それだけ将に恵まれていることの裏返しなので、贅沢な悩みと言ってしまえばその通りだが。

 

「頼む、5人にしてくれ。」

 

「構わねえ。」

 

愛紗、星、悠煌、朱里、藍里を揃えた。文官は死ぬほど迷ったけど、今回はこの二人が良い気がした。

 

「何の話なのかわかりかねますが、先に一つ良いですか? いま話す人数を減らしたところで、上層部、特に文官は全員の共有事項になります。それでも良いのですか?」

 

当たり前のことを、改めて確認するように悠煌がそういった。

 

「ああ、それは構わん。なら言うぞ。あくまで仮の話だがな。

 

 

俺が死んだ後に、揚州なり支配地域が孫策と孫権の娘二人で分裂したら、君たちの手で両方倒してほしい。できれば娘たちは助けてくれたら嬉しいが、死んでもかまわねえ。

 

外敵と戦って死ぬんなら許容できるが、娘同士が血で血をあらう争いになるのだけはな、見たくねえんだ。」

 

「これは、証文などはあるのですか?」

あまりの内容に全員が絶句していたが、思考を取り戻したのか愛紗がそんなことを聞いた。

 

「ねえ。いわば単なる“お願い”だ。だから別に破ったところで誰も責めねえよ。」

 

「炎蓮殿は、これを頼むために抜け出してきたのですか。確かにその価値のある内容ではありましょうが……。」

 

「そうだ。もちろん、俺自身またくたばるつもりはねえし、安全に次代へ引き継げる方法は今後も考えていくけどな。」

 

「それを願っているよ。即答で了とはいかないけど、もしものときは望み通りにいけるように全力をつくす。ただ……」

 

「仮にそうなったら、孫策殿は殺さざるをえないかもしれません。」

 

 

俺の言葉を引きついだのは朱里だった。降ってくれたら嬉しいけど、今日の印象と伝え聞いた話を総合しても、孫策だけは到底そうしてくれるとは思えなかった。

 

 

雪蓮(アイツ)はそういう性格だからな。負けてなお生き残るより死を選ぶ、か。それならそれでそうなる運命だったのさ。仕方ねえ。」

 

「話としては、これで終わりですかな?」

 

「ああ。ありがとう。」

 

「よし、星。炎蓮を送ってやってくれ。終わったら鴻鵠へ報告を入れてほしい。」

 

「承知した。炎蓮殿、行きましょうか。」

 

「皆、ありがとな。」

 

そうして炎蓮を見送った。その後ろ姿は、いつも堂々としていて、圧倒的な存在感を放っている将とは思えないふうに俺の目には映った。

 

「まさかここまで突っ込んだ話をされるとは思っていませんでした。一刀さんはどうでしたか?」

 

「娘の孫権さんとは会ったことがないけど、ぜんぜん性格の違う娘が2人いて、よりかわいいのは長女だけど、跡継ぎにふさわしいのは次女、なんて状況に陥ったときに、もしその2人が喧嘩するようならお前らの手で殺してほしい、なんて俺なら絶対に言えないなとは思った。もし逆で、かわいいのは次女。跡継ぎ向きなのは長女、というなら話はかなり変わってくるけど、そうじゃないから子育てを間違ったと言い切れるものでもない。」

 

これだけいろんな思いのこもった話を、よくぞある程度冷静に分析できるようになってきたな、と自分にある種の怖さを抱きながらも、今度こそ床につくことにした。

 

「一刀さん、ひとついいですか? どうして水晶さんたちじゃなくて私たちふたりを選んでくれたんですか?」

 

「いろいろ考えたけど、水晶にせよ、福莱にせよ、椿にせよ、ちょっと相手に厳しすぎるんだよね。そんなこともあって、今回されそうな話には朱里と藍里が適任だと思ったんだ。」

 

精神的に幼さも持ち合わせているから、今回選ばなかったら、それが少しでも禍根を残しそうだ、そんな気がしたのもある。実際、この二人で良かったと思う。

 

「ありがとう……ございます。」

 

「もう夜も遅い。寝られるかわからないけど、寝よう」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 


 
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