ある子供がいた。
その子供は自分がどこからやってきたのかもわからず,果てのないこの世の中をさまよい歩いた。
誰かの愛情を受け止めることもなく,他者と共感を持つこともなく,ただただ本能的に一匹の動物としてやみくもに餌を求めて自分の身を置いた環境の中で絶えずウロウロとした。
確かにその子供には親がいて,友達もいて,一見孤独とは無縁のはずだった。
あくまで見た目だけは。
しかし心だけは明らかに彼らとは遠のいた存在だった。
まるで己だけがこの世とは隔離された全く違う世界で生きているかのように。
共感性に欠け,他者との協調性にも欠けたその動物はいつも誰かに輪から外されては一人浮いていた。
粗暴で,乱暴で,暴力的で,でも誰よりも正直で自由を求める衝動的,多動的,独創的なその子供を皆はどこか受けつかなかったのだろう。
当初からはその子自身も己の世界で生きるままに現世を渡り歩いたものだから
誰が自身にどう感じようが全く気にすることはなかった。
誰が傷つこうが誰が愛してくれようがそれはその子にとってたいした意味は無かった。
なぜならこんな嘘だらけで悪意と虚無に満ちた世の中よりよっぽど自分の信じた世界で生きていた方がなにより価値のあることなのだと,もしかすると自覚こそしてはいなくてもそう心のどこかで信じていたのかもしれない。
きっと誰より大人になることを拒んでいた本心を持っていたに違いないだろう。
そしてその子供が大人になった今,とても狭い世界で生き続けている。
昔は広々とした自己世界でさえも今は狂った現実の脅威に圧迫され続けているのだ。
それでもまだ信じてはいた。
いつか真に自由の世界に羽ばたけるその日が来るのを待ち望んでいるのだから。
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特に意味は無い空想