「フロイラインスポーツ」なる怪しいスポーツ用品店に入った私達。
楓は何度か来てるみたいだからのこのこ付いて来たけど、大丈夫かな。
お店に入った私達を出迎えてくれたのは、恰幅のいいおばさん。
「こんにちは~」
「おや楓ちゃん。久しぶり」
お?
「楓、知り合いなの?」
「そりゃ、何度も通ってればね」
「楓ちゃん、友達かい?」
おばさんと楓も、結構仲良さそうだ。頻繁に言ってるみたいだしなあ。
「そ、中学からの友達なんだ」
「そうかい。あたしゃここの店主をしてるんだよ。いいのがあったら買っておくれ」
「あ、はい」
そこで、初めて店のラインナップを見る。
「うわぁ!」
それは、楓が言った通り、女の子向けのスポーツ用品であふれてた。
「かわいい!」
「お嬢ちゃん、スポーツは?」
うお! おばさんの屈託ない笑顔が突き刺さる!
「えぇと…体育の授業でやる…くらい…?」
「あらら、それは残念ね。楓ちゃんの友達なんだから、少しはスポーツしなきゃ!」
楓の友達だから、か。それは確かにそうだけど、運動は苦手だし…
「えりか、私が何か教えようか?」
「えーと、今急に言われても悩むよ。それより、楓は自分の買い物、いいの?」
と、とりあえず話を振ったぞ。
「あ、そうだった! おばちゃん、スパイク頂戴!」
「スパイク? 屋内と屋外、どっち?」
楓とおばさんは、慣れた様子で話を進めてる。
「ん~、体育館だから、屋内!」
「学校指定とか、気にしなくていいんだね?」
そのやりとりを、私はポカーンと見ている事しか出来なかった。
~つづく~
「フロイラインスポーツ」にて、
お店のおばさんとスパイクの相談を始めた楓。
私は特に買う物がなくて、店内をふらふらしていた。
ま、需要がないとは言っても、女の子向けの商品が多いってのは、
いいもんだ。楓が行きつけるのも、分かるかも。
「えりか~、ホントに何も買わなくていいの~?」
「んー、今の所ねー」
普段運動なんてしないし、学校で使うものは学校指定だし…
「でも、いずれお世話になるかも。このお店、すっごいかわいいの多いし」
「そうかいそうかい。それはありがたいねえ。今日買ってくれないのは
残念だけど、次は頼むよ?」
気にしてるとも気にしてないとも言えないおばさんの言葉は、
微妙にほっとさせてくれる。
「は、はい…」
確かに、次は何かを買う目的で行く事になるだろうな。
「で、楓は買い物済んだの?」
「おうよ。おばちゃん、ありがとねー」
「こっちこそ、いつもひいきにしてくれてありがとうね」
慣れたやり取りだなあ。
「んじゃ、いこっか」
「うん」
楓はおばちゃんに手を振りながら店を出た。やっぱ、親しげでいいなぁ。
「さて、私は一番の目的は果たしたし、次はどこに行く?」
「んー。私は夏物の服が見たい。おっけ?」
片手でゴーサインを作る楓。よし、了承は取り付けた。
「じゃ、行こう!」
私は意気揚々歩き出した。
「あ、あれ? どうやって行けばいいんだっけ…」
~つづく~
「フロイラインスポーツ」を出て、さあ服を見るぞと意気込んだ私。
でもその時、私は気付いた。
この場所からいつも行くお店までは、どうやって行ったらいいの?
「楓、駅まで戻りたいから、案内頼む」
「駅からは分かるの?」
私は無言で頷く。ここからはさっぱりでも、駅からの道順なら、余裕だ。
「じゃ、それでいいか」
「ん? そのいいから、歯に物が挟まったみたいだね」
私は、一瞬の言葉尻を見逃さなかった。
「あー、いや、遠回りになるんじゃないかと思って…」
「でも、楓も道順分からないんでしょ?」
楓だって、頷く。じゃあ意味ないじゃん。
「急がば回れ、て言葉があるんだし、まだまだ時間あるんだし」
「ま、そうなんだけどねー。なんか、損した気になっちゃって」
損した気、か。
「なんとなーく、分かるんだけど、分からない」
「どっちなのさ」
損した気になっていいのは、ちゃんとたどり着ける人間だけだ。
「だったら楓、行ってみる?」
「お、えりかさん、それいいねえ」
い、いいのか?
「ただし、迷うかもよ? 何しろ渡しはこの変に詳しくない」
「私もこの辺しか詳しくない」
なんという事でしょうね。て事はだ。
「最初に楓が道案内して、分かる所に来たら私が案内すればいいんじゃない?」
「おお、えりか名案。やってみる?」
この申し出、すっごい博打なんだけど、妙な魅力があった。
「よし、じゃあやってみよう。では楓君、駅の西側に案内したまえ」
「了解、えりか隊員」
私達は地理不案内を棚に上げて、歩き出した。
~つづく~
行きたいお店への道が分からない私。
駅まで行くのは遠回りになるという判断の元、
お互いが道の分かるエリアに行くまで、楓の先導で進む事にした。
「ねえ、この道で合ってるの?」
「そのはず。私の記憶が確かならば」
そんな冗談が聞きたいわけじゃない。というか、雑居ビルの間を進んで行くのは、
正直不安だ。ビルから危険な人が出できやしないよね?
「ねえ、なんか、暗くない?」
「まぁ、日も射さないしねー」
なんで楓はこんな悠長なの? 私は不安で一杯だよ…
「ほら、上を見て」
「上?」
全く、何をさせたいんだ? 指差すそこには、ビルと空しか見えない。
「想像通りの、ありふれた景色しか見えないけど?」
「空、見えるでしょ?」
空?
「見えるけど…」
「空は明るい。不安に思う事なんてないよ」
なっ!
「楓め…ニクイ事を言いおる」
「はっはっは、私は何年えりかの友達やってると思うの? 分かってるのさ」
言われてみればそうなんだよな~。空は明るいんだから、暗いのも、
不安に思うのも、一時なんだよなー。
「というわけで、シャキシャキ歩きなさい」
「命令口調禁止」
全く…
私は、楓に不安を取り除いてもらいつつ、歩き続けて行った。
~つづく~
楓とともに進んで行く私。
雑居ビルに囲われて、薄暗い中を進んで行く。
「それにしても、なかなか開けた所に出ないねえ」
「あー、ここ、結構長かった気がする」
なんと!
「ねえ、いくら何でもこんな道、早く抜けたいんだけど~」
「まぁまぁ、そう焦っちゃだめだよ。我慢我慢」
はぁ、我慢か。せめて何かアクシデントでもあればいいんだけど…
「そうつまらなそうな顔をしないの」
「だって…」
なんだかなぁ…
『おい!』
げ! 怒号! いくらなんでも、これはないと思う。背後からの声…
振り返るべきかどうするか。
「ね、ねえ、私達を呼んでるんじゃないよね…?」
「しー。スルースルー。本当に私達に用があったら、こっちに来るから」
な、なんでそんな冷静なんだ?
「楓、もしかしてこの手の経験あるの?」
「私はアスリートだからね」
それ、理由になるの?
「アスリートだかなんだか知らないけど、大丈夫なんだね?」
「多分ね」
た、多分って。
『おい! おいったら!』
ちょっと、声、近くない?
「楓、ホントに大丈夫なわけ?」
「信じる者は救われる!」
まじで~? うさんくさいなぁ。
『おい! お前ら!』
「ほら、私達じゃん!」
「ちっ、しゃーない、面倒だけど、相手のツラを拝んでやるか」
な、なんて言い草。とはいえ、不安のない楓の言葉は、私を安心させる。
「じゃ、行くよ」
「うん」
ごくり。
私達は、声をかけて来た相手の方に向き直った。
~つづく~
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第71回から第75回