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艦隊 真・恋姫無双 150話目 《北郷 回想編 その15》

いたさん

話の中に○○如水という四字熟語がでますが、作者の造語ですので信じて使わないようにしてください。 次回の投稿は……11月頃?

2020-10-12 21:07:01 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:619   閲覧ユーザー数:598

【 暗躍 の件 】

 

〖 南方海域 連合艦隊側 にて 〗

 

 

三本橋拘束の報が入り、沸き立つ連合艦隊。 

 

自分達、いや……先の艦娘達も含め、酷い目に遭わされた上に最後は轟沈という、最悪な事態を引き起こした元上官だ。

 

それが、援軍の助力があったとはいえ拘束された。 援軍の誰かに轟沈されたのではなく、自分達の仲間が活躍し、その手で捕まえたという実績が、皆の士気を高揚させたのだ。

 

今まで諦めムードに近かった艦娘達の様子は劇的に変わり、現に皆、周囲をキラキラと幻想的なモノに覆われ、士気も最高にまで達してしまっていた。 

 

 

『やったぁぁぁっ! 川内達、やるじゃない!! よしっ、今度は五航戦も奮戦してやるわ! 七面鳥の汚名返上よ!』

 

『うむ、見事な活躍だった! だが、私も! そして、私の瑞雲も負けてはいない! 必ず、皆の仇を討ってやる!!』

 

『提督……潮は、頑張りますね。 提督の鎮守府で……第七駆逐隊の皆を……待つんです。 提督と、一緒に………』

 

 

そんな中、黒幕である南方棲戦姫が、次に襲撃するかもという予測も伝えられる。 今の提督や自分達を傷つけ、数多くの仲間達に死を選択させた、親の仇にも等しい存在。

 

艦娘達は改めて徹底的に応戦する決意を、または生き残る渇望を胸に抱き、打倒南方棲戦姫へと意欲を燃やした。

 

 

★☆★

 

 

『どうやら、上手くいったようね?』

 

『ああ、君の言った通りに川内達を配置した結果だよ。 でも、まさか……あの慎重居士な三本橋中将が、少数で真ん中に突撃してきたのは、流石に目を疑ったけど……』

 

『孫子に曰く《先ずその愛する所を奪わば、即ち聴かん》……相手の弱味を突けば、どんな大軍でも言いなりになってしまうと言う、弱点の有効性を謳っている言葉よ』

 

 

艦娘達の様子を少し離れた先で見守り、二人で語り合うのは、この連合艦隊提督である北郷一刀、横に居るのは曹孟徳こと華琳である。

 

三本橋が拘束されたとはいえ、命令を受けた深海棲艦が攻撃を中止する事はなく、未だに三国の将兵達は動き回り、暴れる敵を駆逐している最中。

 

しかし、ここは主戦場より離れている為、こうして穏やかに語る事が出来た。 そのため、一刀は三本橋の不可解な行動、それを見越した働きに教導を願い出た訳である。

 

 

『孫子兵法第十一章、九地篇の言葉……だったと記憶しているが、どうだろう?』

 

『ふふ……なかなかの知識ね。 そう、この軍勢最大の弱点を、あの女……三本橋は的確に狙ったの。 この軍の要である北郷一刀、貴方を排除し、軍の崩壊を目論んでいた』

 

 

その話の後に華琳の説明が続く。

 

此方の両翼の動きを封じる為、持てる兵(深海凄艦)を投入し、防衛を主として時間稼ぎをし、機動力に優れる少数精鋭で、一刀が居る中央の陣営に突入する。

 

もちろん、時間稼ぎと言っても兵の質は明らかに違う為に、撃破されるのは時間の問題。 だから、次の足止めに内部を混乱させる作戦を《自発的》に起こるようにした。

 

 

『貴方に近付いた破廉恥な……んんっ! あの客将達の役割は、三本橋を捕まえ連れ帰る事。 ここまでは、いい?』

 

『ああ、上官の娘だから捕縛命令が出ているらしく、ネルソンが不機嫌そうに語っていたから間違いない。 だから、両翼に関係者が入り、手掛かりを探していたとか……』

 

『それを好機としたの……三本橋はね。 少数の移動で自分をわざと発見させれば、あの客将達が意見を具申すれば衝突は必至、そして紛糾すれば……命令系統が遮断か遅延すると』

 

『…………………』

 

 

華琳が納得顔で説明するが、そんな華琳を軽く睨む一刀。 

 

確かに今回の勝利できた敗因は《三本橋の失策》であるので正しい。 正しいが、それは全部の答えではない。

 

何故なら、三本橋の思考を誘導するため、わざわざ様々な小道具、舞台を設置し、三本橋の思案を予め定めた方向に向かわせた、立役者が居たのを知っていたからだった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 秘密 の件 】

 

〖 南方海域 連合艦隊側 にて 〗

 

 

 

華琳の言葉に軽く睨んだ後、一刀は溜め息を吐いた。

 

 

『いや、正しくは、君が中将を謀った結果なんだろう? 上智如水……鮮やかな策謀は騙された事にも気付かせず、敵を誘導し破滅させる。 全く怖い程に優れた手腕じゃないか』

 

『…………あら、分かっていたの?』

 

『前面に配置される将兵の列が、あれほどまで露骨に少ないんだ。 何かあると誰でも考え……そうか、後ろから見れば気付くけど、前からだと重なって分からないのか』

 

 

三国の将兵は、鶴翼の陣として兵を配置するが、その比率は10の全体数に対して《 4:2:4 》と真ん中が少ない。

 

勿論、前面に密集する為、前方からは左右と変わりなく見えるが、後方からだと疎らであるのが難なく理解できた。

 

だから、何かの策ありと気付けたんだと、一刀は答えた訳である。

 

 

『ならば、説明するのが早いわ。 この策は、私の軍師が貴方の意向と安全を配慮して編成と構築したもの。 相手の自爆を誘い、味方の士気を上げる策よ』

 

『────どういう意味だ!?』

 

『急に何? 他に意味なんか無いわよ』

 

『……………どうして、俺達をここまで助ける? 勿論、助けてもらった事には大いに感謝したい。 だけど、何故……初対面の俺に対して、こうも命懸けで戦ってくれるんだっ!?』

 

『………………』

 

 

一刀は驚き真剣な表情のまま、華琳の顔を注視した。 

 

先に華琳の説明した策の内容は、大体の把握ができている。 

全てが、三本橋の少数精鋭による中央突破を、彼女自身に選択させる策であったのだと。 そして、三本橋が敗れれば、一刀に対して屈辱感に悶え苦しむだろうと看破していた。

 

しかも、中央の陣営後方で護られるばかりで、不平不満をもらす艦娘達の不満を抜き、士気高揚をさせるために川内達を配置させ捕縛を命じたのも、華琳からの提言からであった。

 

明らかに一刀の益になる働きを、何度も何度も繰り返す華琳達。 此処までくれれば完全に味方だと考え、胸襟を開いてもいいのだが、一刀は未だに納得していない事がある。

 

今こそ、このように普通の会話をしているが、そもそも自分が何で三国志の将兵に助けられたのか、何で自分の名前を知っているのか、謎だらけの筈だったのだ。

 

それが、比較的すんなりと納得し、まるで知人であったかのように、気兼ねなく会話もできる状態だ。

 

確かに、生存を諦めなければならなかった長門達を救出し、治療が急務だった自分も含め高度なて手当てを行い、そして……今回の戦いも自分の心情に配慮した案配。

 

この過剰な恩義に、流石の一刀も全ての疑問を含めた重い一言を告げたくなっても、仕方がないことであった。

 

そんな一刀の質問に少し沈黙した後、寂しそうな笑顔で華琳は理由を語る。

 

 

『貴方は……私の、私達の愛した天の御遣いの……生まれ変わり。 幸か不幸か分からないけど、貴方は……あの頃の一刀の面影を、今も色濃く残しているわ』

 

『……………』

 

『そんな貴方が……味方に騙されながら、罪なき弱き者達を守り、必死に生き延びさせようと足掻く姿に、今まで見守っていた私達は我慢が出来なくなり、こうして助けに来たのよ』

 

 

そんな話を聞いて、頭の隅に浮かぶのは、中華の三国志。 

 

確かに、天の御遣いが降りたったことは三国共通なのだが、何故か国により三国の顛末が変わっているという謎に、現在も高名な学者達が頭を抱えていると、聞いた覚えがある。

 

特に、自分と御遣いの名が同性同名だったというのが、記憶している発端だっただけに、まさか自分自身の前世だったとは、流石に思い浮かぶ筈はなかった。

 

 

『勿論、その代償は高く付いたわ。 でも、こうして……貴方の笑顔を守れることができた。 特に……あの娘……私の軍師は……大いに喜んで、最後まで力を揮うでしょうに』

 

『そ、その代償……って……』

 

『教えないわよ………っと言って、納得する貴方じゃないわね。 外史の管理者という者達との間に結んだ盟約は……』

 

 

 

────この世界から、私達の存在を消滅させること。

 

 

 

 

【 捨石 の件 】

 

〖 南方海域 深海棲艦側 にて 〗

 

 

 

『アラ………捕ラエラレタ……ノ……』

 

 

南方棲戦姫は、三本橋が捕らえられた事を見張りで監視させていた駆逐艦より知り、ようやく重い腰を上げる。

 

場所は三本橋と口約した場所より、ほんの一㌔ほど離れた海上。 軍を率いているなら、十分間に合う範囲だった。

 

 

───では、どうして救援に向かわなかったのか?

 

その答えは、三本橋が余りにも有能だったからである。

 

駆逐艦が報告を終え去った後、南方棲戦姫が独り言を呟いた。 誰に聞かせる訳でもなく、まるで走馬灯を辿るように、嬉しげな口調で。

 

 

『貴女ハ……良ク……働イタワ。 機転モ利クシ……戦艦レ級ノ力添エガ……アッタトハイエ……見事ナ統率力ダッタ』

 

 

人間である三本橋を、南方棲戦姫が深海凄艦化させたのは、ほんの戯れ。 深海凄艦中で誰も成し遂げなかった、人間の深海凄艦化が可能かどうか、遊び半分で行っただけだった。

 

しかし、中途半端なりにも成功し、基本的性能が良かったためか、かなりの働きが期待できた。

 

 

そして、その予測は現実となる。

 

 

 

ちなみに、三本橋の評価された物とは───

 

 

○ 生い立ち。 

 

元々は帝国海軍の元帥の娘であり、それなりの地位であったので、有用な情報を得られる期待は大きい。 また、艦娘の情報や戦術も多く知っているようで、そちらも頼もしい。

 

 

○ 用兵の才

 

今回の戦いで、不利な戦の中で見せた戦術眼と統率力。 練度が低い状態で、この戦い振り。 しっかり鍛えた後で編成させれば、艦娘達の大いなる強敵になる可能性大。

 

 

○ ΧΧ三国志の流布

 

言わずと知れた三本橋最大の功労。 未知なる新たな世界が開かれると同時に、深海凄艦達の目的である陸上進出の意欲に、更なる拍車が掛かる要因になった。

 

 

まだ深海凄艦化して僅か数日。

 

まさか、術を施した南方棲戦姫の地位が危ぶむほどになろうとは、思いもよらずに。

 

 

南方棲戦姫は熟考の末に策を企てた。 

 

《 狡兎死して走狗烹らる 》の言葉通り、始末を。

 

 

だが、南方棲戦姫が命じれば、そこで足がつき、配下や仲間達に不信感を植え付けてしまう。

 

だから、理由を考えた結果が、これだった。

 

 

『三本橋………聞コエテイタラ……貴女ノ生マレノ……不幸ヲ呪ウガイイワ。 貴女ハ……イイ仲間ダッタケド……貴女ノ父上ガ……イケナイノヨ。 貴女ノ父上ガ……ネェ……』

 

 

とある少佐の言葉……ではなく、これが表面上の救出拒否した理由。 真の理由は隠して、都合の良い理由を流す。 下の者に反乱を起こさせない為の情報操作。

 

そんな哀れな配下である深海凄艦達へ語ったのが、三本橋の父親である帝国海軍元帥の存在。

 

この元帥もまた、元は鎮守府の司令官と赴任してから活躍し、今の地位に取り入った名のある傑物だったが、娘が出来てからは何かと甘やかす激甘親父となっている。

 

だから、『もし三本橋に何かあった場合……かの司令官が現役の頃より遥かに強力な敵に成りかねない。 そのまま、捕獲して深海凄艦化の恐ろしさを知らしめた方が良い』と。

 

 

勿論、配下の者や仲間達には、真の理由は語らない。 

 

だから、南方棲戦姫や三本橋が実際に語らなければ、真実はコレ一つだけであり、配下の者や仲間たち誰もが信じた。

 

そして、この言葉により、三本橋拘束の不満を反らすことに成功。 そして、その勢いを持って南方棲戦姫は動き出す。 

 

『フフフ……味方ノ者マデ……騙ス……トイウノハ……性ニ合ワナイワ。 デモ……戦場デハ……強力ナ武器ニナルノヨ。 コレハ……ヤムヲ得ナイコトナノ……アハハハハハハハ……!!』

 

 

あの戦場より落ち延びて来た深海凄艦を取り込み、更なる勢力と戦力を蓄え編成を整えて、連合艦隊へ攻撃を仕掛けた。

 

そんな南方棲戦姫が率いる深海凄艦の中に、特別な深海凄艦を何隻か準備して編成をしている。 

 

今度こそ、連合艦隊を確実に息の根を止め、三本橋が居なくなっても大丈夫だと、仲間内にアピールする為に、だ。

 

 

その深海凄艦の名は───潜水カ級。

 

水底より死を送り込む、優れたスナイパーである。

 

 

この潜水カ級を送り込み、北郷の艦隊に連行されていると思われる三本橋を北郷たち共々爆発させ、不慮の事故で巻き込まれての爆死とし、後顧の憂いを断つ。

 

そして……更に南方棲戦姫は、秘策を投入する。 戦艦タ級を呼び、ある取引をさせた。 始めは渋る戦艦タ級だったが、渡された物を見て直ぐに首肯したので、実行させる。

 

渡した物は、薄い桃色の彩りされた長髪のウィッグ、誰かさんの艤装と黒いビキニ。

 

そして、報酬である………とある書物。 

 

 

 

『三本橋……私カラノ……手向ケヨ』 

 

『北郷ト……仲良ク……深海デ……喧嘩………スルガイイワ……』

 

 

 

 

◆◇◆

 

【 帰還 の件 】

 

〖 南方海域 連合艦隊側 にて 〗

 

 

 

『────さて、難しい話は、これで……お仕舞い』

 

『ま、まだ! まだ、大事な────』

 

『そうよ、まだ………南方棲戦姫という、大物が残っているわ。 だから、消えてく私達のことより、今の貴方の部下達が大事にし、戦いに集中なさい』

 

 

和やかに話をしていたとは信じられないほど、一刀からの話の続行を願う言葉に、華琳は冷たく明確な拒否を示した。

 

落ち込む一刀の横を通る時、華琳はポツリと言葉を漏らす。

 

 

『貴方は昔から変わらない。 いつも自分の身は後回しにして、他人の世話ばかり。 だから、今度は、私達が貴方を世話をさせて。 もっと、私達を頼って欲しいの』 

 

『……………』

 

『それに、彼女達は……貴方のことを心配し、気に掛けているわ。 昔の女より、今の彼女達を大事にしなきゃ……哀しむわよ。 前の私達みたいに………ね』 

 

 

そう言うと、華琳は一刀の側から歩き去った。

 

後に、前に俯く北郷一刀を残したまま。

 

 

 

───────!!?

 

 

今までに聞いた事が無い音が海面上に響き渡り、離れていた二人は直ぐに顔を見合せ、船の後方を確認する。

 

そこには、海面が急速に迫り上り、黒い物体が幾つもの海上に浮上。 その数は一つ、二つ程度ではなく、百や二百と数えた方が正確な数字になると思われる程だ。

 

そんなモノが、船の近辺の海中より幾つもの浮かび上がったと思えば、直ぐに恐るべき全体像を露にする。

 

 

『───深海棲艦!? これは、どういうことだ!? この周りには、君達の兵が多数配置されている筈なのに!?』

 

『…………………』

 

 

この様子を見て、一刀は驚き華琳に問うが、華琳は黙して語らず。 ただ、辺りを見渡し、数人の魏兵が屯(たむろ)しているのを見て、安堵の溜め息をつくのみ。

 

海上より出てきたモノは、一刀が言った通りの深海棲艦。

 

その言葉通りに、三国の兵達が一刀の艦隊を護衛する、厳重な警戒網から逃れる為に深海まで一度潜り、そこから此処まで急上昇し、完全なる奇襲で敵対行動を示した。

 

 

『腐、腐腐腐腐…………』

 

 

その中にボスらしい艦が陰気な笑いをしながら現れると、長い髪を左右に分け、魅力的な身体を見せ付けるようにしながら、艤装の砲を北郷達に向ける。

 

 

『南方……棲鬼!? ここのボスは……南方棲戦姫だった筈だぞ!?!?』

 

『何度デモ……何度デモ……腐ノ沼底ニ……堕チテイクガイイ……ッ!』

 

 

確か、ここの海域は南方棲戦姫がボスだと、一生懸命に考える一刀だが、敵はどう見ても南方棲鬼。 あの髪、あの服装、あのプロポーション。 

 

 

『ま、間違いない。 あれは南方棲──痛ぁぁぁ!?』

 

『……………馬鹿……』

 

 

一刀が呟くと、何故か華琳に尻をつねられ、睨まれるのはご愛敬というところか。

 

そんな痛みよりも、姫級だけだという海軍の情報を信じていた一刀は、その情報が宛にならないと知り、悔しげに睨む。

 

何故ならば、情報収集が間違っているのならば、此方の対応が空振り、下手すれば最悪の対応をしてしまい、艦娘達全員が全滅の憂き目になりかねない。

 

まあ、実際は南方棲戦姫がボスで間違いなく、この戦艦タ級に命じ、もう一隻のボス《南方棲鬼》として、艦隊を率いて襲い掛かるようにしただけである。

 

ただ……あの書物の影響で、かなり腐教されている様子であり、台詞自体が既に怪しい。 台詞も教えてもらい、南方棲戦姫の厳しいチェックも潜り抜けた筈なのに。

 

まだ、数日の内なのに、ここまでの影響を与えた、あの書物には素直に感嘆するしかない。

 

だが、狙われた一刀達にとって、それどころではない。

 

 

『まさか、こんな事に………だ、誰かいないか!? 早く、皆に此処から退避するよう伝えてくれ!!』

 

『…………一刀……』

 

『君も急いで逃げろっ! 狙いは俺なのは明白、何とか足掻いて時間を稼ぐから、その間に逃げるんだ───』

 

 

一刀は自分を犠牲にし、華琳や残りの兵、まだ何も知らない艦娘達を逃がす為、そう叫んだ。

 

だが、深海棲艦に………慈悲は無い。

 

無情にも、南方棲鬼が砲を一刀を中心とした漁船へと目標を定め、艦隊死すべしと言わんやばかりに、砲筒を展開。

 

狙いを確実に定め、砲撃を放つ!!

 

 

『ココハ……トオシマ───』

 

 

『───猛虎蹴撃ッッッ!!』

 

 

南方棲鬼が放つ直前、急速に横から襲い掛かる白く輝く氣弾が当たり、艤装に集中していた南方棲鬼の身体が急な方向転

換、近くで次弾を準備していた深海棲艦に当たり爆発。

 

 

『────★▽☆Χ!?』

『Δ◎ΣΡΡ! ◎○&#!!』

 

 

『チッ……! ヨクモ……仲間ヲ………!! ナ、ナンダ……ソノ目ハ……!? 今ノハ……違ウ! 違ウンダァァァ!!』

 

 

余りにも予想外な攻撃、そして南方棲鬼の誤爆により、深海棲艦側が混乱に陥る。 更に、誤爆による延焼、他の深海棲艦への誘爆まで始まり、まるで手に負えない状況だ。

 

そんな大混乱の中、急な出来事に対応できない一刀の側に、三人の魏兵が集まり、一刀達を護るように列を組んで並ぶ。

 

 

『華琳様! ご無事でしょうか!?』

 

『ええ、一刀共に大丈夫よ』

 

『では、緊急事態と確認しましたので、これから私達も華琳様や隊長の護衛任務に着手します!』

 

 

華琳の言葉に魏兵が兜を脱ぎ、それぞれが顔を見せた。 そして、一様に華琳を見た後、一刀へ顔を向けると、感極まる表情で涙ぐむ。

 

 

『………隊長! お元気で……何よりです!!』

 

『にひひひっ、相変わらず魏の種馬の健在振り、この目で確認して安心したでぇ! やっぱ、ウチらの隊長や!!』

 

『わあ……あの頃より年嵩になって、中年の魅力が半端ないのぉ~! 隊長、今度出会ったらデートしてねぇ!!』

 

 

軽口を叩く者も居るが、華琳は何も言わない。 

 

一刀も三人に対して覚えはないが、何故か懐かしさに甘酸っぱさが込み上げる。

 

 

『ガァァァァッ!! ヨクモ、ヨクモ……私ノ……!! 許サナイ! 許スモノカァァァッ!!!』

 

『─────!?』

 

 

だが、そんな戦場に似つかない会話の中、南方棲鬼が半分混乱から立ち直り、怒りの形相で配下の者に命じ、再び攻撃態勢を築く。 

 

そんな南方棲鬼の足元には、海上に辛うじて浮かぶ書物が一冊。 されど、水面上では火が着火して燃え、水面下では当然なことに水浸し。 どう見ても、原形は留めてはいない。

 

大事なアノ書物が燃やされ、戦艦タ級……いや、憤怒の鬼と化した南方棲鬼は、その責は貴様らだと八つ当たり気味に、一刀達に全艦が砲を向けて、再度の攻撃を実行しようと動く。

 

その状態に慌てる一刀だが、側に居る華琳は冷静のまま。

 

 

『大丈夫よ、此方も対応策を準備してあるから。 それに……彼女達も……来てくれたわよ』

 

『────お、お前達は!!』

 

 

華琳が伝えた場所を確認すると同時に、漁船より少し離れた、南方棲鬼側の横に位置する場所から、あの頼もしい声が聞こえてくる。 

 

もう、二度と聞くことは無いと覚悟を決めていた……あの六隻の艦娘達の声が。

 

 

『久しぶりに参戦してみれば、正に決戦とは! 流石は提督、このような晴れ舞台を用意してくれるとはな!!』

 

いつも先陣を切り戦う……長門型 1番艦 戦艦 長門

 

 

『あぁー! 司令官ったら、また無茶ばっかりしてるじゃない! 駄目よ、もぉーっと私に頼ってくれなきゃ!!』

 

一刀の世話焼き女房役……暁型 3番艦 駆逐艦 雷(いかずち)

 

 

『はにゃあーっ!? 敵が、敵がいっぱいなのです!? だ、だけど……一刀さんの為、頑張りますのです!!!』

 

一刀が初めて逢った艦娘……暁型 4番艦 駆逐艦 電(いなづま)

 

 

『へっ! 丁度、腕が鈍ってたとこなんだ! 今宵の天竜様の力は、一味も二味も違うってとこ、見せてやるぜぇ!!』

 

口の悪さと裏腹に他を気遣う……天龍型 1番艦 軽巡洋艦 天龍 

 

『ふふふ………天龍ちゃんたら提督に良いとこ見せようと、張り切っちゃてぇ。 でも、私も負けないんだから~!!』

 

冷静な判断で皆を助ける……天龍型 2番艦 軽巡洋艦 龍田

 

 

『Hey、提督ゥー! 皆、こうして参戦できたから、心配なんてNothingネ!! 詳しい話はTalk soon!(また後で!)』

 

そして、最後まで一刀を案じた……金剛型 1番艦 戦艦 金剛

 

 

一度は轟沈させられたと危惧していた、ある意味……一刀が愛していた艦娘達。 どの子達も、生気溢れる元気な表情を一刀へ向ける。 まるで、内心の心配を見透かしたの様に。

 

その勇姿を見て一刀も決意し、隣に居る華琳に尋ねる。

 

 

『俺は、あの子達を今度こそ失いたくない。 それでも、君を、君達を頼らせてもらって……いいのか?』

 

『貴方から貰った物は、まだ返しきっていないのに、先に還ってしまったのは貴方よ。 だから、大いに頼りなさい』

 

『…………ありがとう……』

 

『少し妬けるけど……これも惚れた者の弱みね。 それに、桂花は既に動いているでしょうし、皆も待っているわ』

 

 

華琳から支援の了解を得ると、一刀は開戦の火蓋を切らすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

この話のどこかであった……かもしれない話もオマケで載しておきます。

 

 

 

【 災難 の件 】

 

〖 南方海域 連合艦隊側 にて 〗

 

 

『戦働きの経験は、過去何十回もあったけど………今回の出来事は正気の沙汰を疑うわ!!』

 

『………す、すまない。 止める事が出来なくて……』

 

『幾ら戦場外とはいえ、この私を裸で襲うとするなんて、何考えてるの! それに貴方も貴方よ! 何で裸の女を連れ込むの!? どういう考えしてるのか言ってみなさいッ!!』

 

 

華琳にしては珍しく、突然起きたハプニングに対して、一刀へ恨み節を語り、当の一刀はひたすら謝るしかなかった。

 

 

☆★☆

 

事の起こりは三本橋と戦う前、ポーラ達と顔合わせした時。

 

一刀と酒を酌み交わしたポーラは、案の定酔い、しかも艤装を投げ捨てたと思えば、着ていた服まで脱ぎ捨てる。

 

その行為に一刀が慌てるが、ポーラが全裸になる前に誰かが後ろから手を回し一刀の目を塞ぐ。 お陰で、ポーラと一刀の尊厳が守れたのは、もちろん言うまでもないが。

 

因みに、目を押さえた者は誰だか分からないままだ。 誰かが見ていて可笑しくない状況なのたが、何故か問い質しても、応える者が居ないのだから、仕方がない。

 

ただ、唯一分かるのが、一刀の背中に押し付けられた胸部装甲の弾力が戦艦並み、という事だけであったが。 

 

 

────閑話休題

 

 

そんなポーラは酔って眠ってしまったために、寝台に運ぼうとしたのだが、御存知の通り、他の寝台は金剛達が使用中。

 

この場合、選択の余地なく一刀の寝ていた寝台へと、寝かせるはめになった。 

 

 

それから少し時間が経過して、一刀と別れた華琳が部屋に立ち入り、一刀が寝ていた寝台に座ろうと腰を下ろしたその時、悲劇が訪れる。

 

 

『おぉ~提督ぅ、やっと捕まえましたぁ~! もぉ、ポーラを酔わせてぇこんなとこに寝かせるなんて~♪ そんな悪い提督ならポーラだって負けませんよぉ~♪ えっへへへ♪』

 

『だ、誰よ! 貴女はッ!?!?』

 

『あれぇ~? 提督じゃない~?? なんだぁ……Un'altra persona(別人)かぁ~』

 

 

座った華琳に、腕を伸ばして捕まえる酔っ払いが一隻。 しかも、艤装も服も脱いだまま。 

 

更に意味深な発言までするものだから、華琳の怒りは爆発。

 

そんな華琳のため、一刀は何度も何度も、謝罪するしかなかった訳であった。

 

 

 


 
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