No.1042468

紫閃の軌跡

kelvinさん

外伝~白き隼への誘い~

2020-10-03 16:44:44 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:897   閲覧ユーザー数:732

 

~エレボニア帝国 イストミア大森林 エリンの里~

 

 ロゼのアトリエに到着すると、気絶するように眠ってしまったリィン。大半の面々はこう言ったことに対処が慣れていないだろうが、幸か不幸かアスベルらには超常的な関わりがあるために診察することにした。

 

「長いこと“贄”としての力を発動させていたのと、“鬼”の力の反動だな。まあ、身体的に健康そのものだから、丸一日ぐらい休ませることになるな」

「にしても、アスベルさんって医療関係の技術が凄まじいですね」

「まあ、うちの知り合いに大概無茶する連中が多かったものでな」

 

 前世も含めての話になるが、剣を極めようとするがあまり膝を壊しかけた義理の兄の為に学んでいた医学の勉強が守護騎士になってから洗練されてしまった形だ。自分が言うのもどうかと思う、とアスベルは内心で独り言ちる。

 

「リィンが起きたら、準備を整えてクロウの言っていた<七の相克>に関しての話を聞きにいかないといけなくなるが……此奴のことだから、絶対一人で行くとか言いかねないな」

「……間違いなく言いますね」

「それについては否定できる材料もないかと」

 

 ある意味信頼されているのは既定路線だが、リィンが起き上がり次第やるべきことは決まっている。リィンが<相克>とどう向き合うかは当人たち次第である。

 

「てなわけで、リィンの様子見は任せた。俺は俺でやらなければいけないことができたからな」

「…その様子ですと、<相克>に立ち会うつもりはないのですか?」

「ああ。万全を期す形でレーヴェとカリンにはお前たちのバックアップを頼んでおくよ。最大の理由は、帝国の『大地の竜(ヨルムンガンド)』作戦の対策をしておきたいからな」

 

 数万の兵や兵器相手に無双していても、今度の帝国軍の規模は最大180万程度。流石にそれだけの数を少数精鋭で処理するのは骨が折れる作業になりかねない。

 それと、リィンを救う過程で繋がった際、トワ・ハーシェル、アルフィン・ライゼ・アルノール、エリゼ・シュバルツァーの存在を感じた。感覚的な距離だとトワは帝国西部、アルフィンとエリゼは別々だが帝都近辺の可能性が高いだろう。

 

「俺はこれでも軍人の端くれだからな。というか、お前らは士官学校の生徒なのに対人戦での甘さが目立つ。中途半端に情けを掛ければ結局後悔するのは自分自身であることを忘れるなよ」

 

 この状況でオズボーン宰相や黒のアルベリヒがリィンとクロウの戦いに水を差す可能性は極めて低い。そもそもオズボーン宰相がⅦ組らの諍う姿勢を“薪”として評価している以上、折角の燃料を減らすような真似は避けてくるだろう。

 リィンが無事に目覚め、予定調和と言わんばかりに独自行動をしようとしたリィンを仲間ら全員でツッコミを入れる形となり、リィンらがブリオニア島へと出発するのを見送った後、レイアがアスベルに声を掛けた。

 

「アスベル、行かなくてよかったの?」

「レーヴェたちがいるから問題ないと思う。最初の<相克>に茶々を入れるほど無粋なことはしないだろう」

 

 オズボーン宰相がその気になれば一気に制圧できるのに、それをしない理由。恐らくだが、宰相は“黄昏”を起こして<巨イナル一>を完成させ、帝国の呪いを一手に引き受けるつもりなのかもしれない。宰相自身も“呪い”の一端をその身に味わったからこそ、誰かが終わらせなければならないと考えた末での行動。

 その意味で自己犠牲の極致。リィンと血を分けた親子なのは間違いないだろう。本当に身勝手な人間が多いというべきか……自分もその一人なのは違いないが。

 

「アスベルは、リィンならどうすると思う?」

「そうだな……騎神と機甲兵の霊的なリンクが出来るとするなら、その気になればオルディーネを生かしたままリンクさせることは不可能じゃないと思う」

 

 なにより、敵方にいるクロウの知り合いの事や行方の分からないトワのことを考えれば、クロウを死なせる選択肢はないだろう。だが、それもこの“黄昏”が収束するまでの一時的なものでしかないが。

 そして、リィンたちが最初の<相克>を終えたとの報告を受けたが、そこにはオルディーネとその起動者であるクロウが加わる形となった。

 

 アスベルは休憩がてら里の奥にある騎神アクエリオスへと足を向けると、そこにはレンもいた。どうやら二人で何か話しているようだが、レンがアスベルに気付いて声を掛けてきた。

 

「あら、アスベルのお兄さん。ごめんなさいね」

「いや、ちょっと散歩していただけだから……レンはアクエリオス―――レーヴェと話でもしていたのか」

「そうね。レンはちゃんとした形でお別れも言えなかったから……こうして話せるだけでも嬉しいわ」

 

 確かに、エステルやヨシュアと違ってレンはこの世界のレーヴェの最期を看取ったわけではない。恐らく、どういった状況だったのかを直接聞いていたのだろう。

 

『あのレンがエステルやヨシュアと一緒になるとは……これもエステル・ブライトの“縁”なのだろうな。一番の果報者はカシウス・ブライトかもしれんが』

「それは確かに」

「……そういえばレインに聞いたんだけど、お兄さんがエステルの兄なんでしょ? 向こうの世界のエステルってどうなの?」

 

 レンがあっさり異世界の存在を認めているのは『影の国』の影響が大きいからだろうが……彼女からアスベルらの世界のエステルについて尋ねられたので、正直に話した。

 

「『パテル=マテル』を一本背負いでぶん投げるぐらいには強いな。まあ、あれから鍛錬を重ねてるので、どうなってるかは不透明だが」

「……懐かしい名前を聞いたけど、あの子をぶん投げるってどんな膂力をしてるのよ」

「エステルを鍛えていたのは基本的にレイアだからな。レイアの場合は幼い頃に『紅の戦鬼(オーガ・ロッソ)』を200メートルほど投げ飛ばしたらしいが」

『主の世界は人間を辞めている女子が多いのか?』

「いや、それは行き過ぎた例だから」

 

 この場合はそういう人間ばかりが自分の周りに集まってしまったというべきなのだろう。若しくは自分たち“転生者”によってのパワーアップが人間の範疇を離脱したのかもしれない。とはいえ、達人級の人間自体人外の領域と言っても差し支えないだろうが。

 

「にしても、お兄さんが守護騎士だなんてね。レンが言うのもあれだけれど、ケビンのお兄さんほどそこまでの闇を抱えているようには見えないわね」

「つらい人生というよりはそういう生き方をしてきた影響からかな」

 

 ハッキリ言えば“転生特典”に基づくものだが、その恩恵を受けているのはアスベル以外だとシルフィアしかいない。正直なところ、ある程度存在がハッキリしている面子以外の聖痕が受け継がれていても不思議ではなかったが。そうならなかった代わりに原作で本来“聖痕”を持つはずのなかった人物―――カリンとトワに受け継がれたのは驚きを禁じ得なかった。ケビンやワジの“経緯”を鑑みれば該当しうるだけの事情を抱えているのは間違いない。

 

「アクエリオス―――今はレーヴェでいいか。カリンさんには驚いただろう?」

『そうだな。向こうの“俺”とも話をさせてもらったが、主も含めた人のお陰で修羅を超えた存在となっていることには驚きだな』

「俺としては叩きのめしてただけなんだがな。まあ、今となっては同じ家族なわけだが」

 

 <百日事変>と『影の国』の後、アスベルはブライト家の人間であることを明かした。レナに泣きつかれてしまい戸惑ってしまった。とはいえ、ブライト家が必要以上に警戒されるのを考慮して戸籍上の手続きは済んでいるが、対外的に名乗ることはしていない。外国での活躍でエステル達の行動を縛るのは不本意であると考えたからだ。偶にレーヴェやヨシュアと剣の稽古をすることがあり、各々独自のやり方で力を付けてきている。

 それでも、自分を目標にするのは絶対におかしいと思う……自分の父親も含めて。

 

「そっちのブライト家もなんだか楽しそうね。向こうのエステルが出てきたら、どう驚くのか見てみたい気もするけど」

「……」

 

 その驚きは敵味方双方にも波及する、とは言わぬが花なのだろう。それはさておき、話題を変えることにした。その話題とは表向き亡くなっているオリヴァルト皇子も含めた面々のことだ。

 

「一応情報は粗方聞いたが……導力機関の大爆発ならともかく、単なる爆発で遺体そのものはおろかその痕跡まで無くなるなんてことは考えづらい」

『言われれば確かに』

「成程、オリビエのお兄さんが生きている可能性が高い、というわけね?」

「五体満足であるのは不明だが……だが、生きていないと説明がつかないことの方が多すぎる」

 

 アスベルとて守護騎士の仕事で聖遺物に関わったからこそ、特定の条件以外で遺体が消失するという現象は考えづらい。同じゼムリアの世界とはいえその辺の理が同一なのは確かなようだ。

 

「死を隠蔽したのは<鉄血>を出し抜くためと考えれば辻褄も合う。あの御仁も内戦時に死を偽装したからな……彼の場合は元から不死者だったので、心臓はなかったわけだが」

『自らを「駒」とするのは大した度胸の持ち主だな。皇子殿下は意趣返しも目論んだという訳か』

「フフ……そうなると、他に乗っていた人たちも救出されていそうね。ブルブランも多分一枚噛んでいそうなものだけど」

 

 ここで話したことは推論の領域を出ないため、アスベルとレン、そしてアクエリオスしか知らぬこととして胸の内に秘めることとした。

 そして、レンとキーアは各々やるべきこととの為に里を離れたのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 リィンたちが戻るまでに出来る限りの情報収集をしたほうがいいと思い、アスベルとシルフィア、レイアは一旦エリンの里を離れた。その気になれば騎神の『精霊の道』で接続できるが、ローゼリアから転位のためのペンダントを貰っている。

 

「それで、どうするの? セントアーク方面に出てきたけれど」

「この状況だが、リベール王国に抜けようと思う。幸い、法術で抜けれることは確認済みだし」

「いつの間にそんなことを……」

 

 以前タイタス門を訪れた際、少しだけユウナ達と別行動を取って色々実験していた。いつの間に安全策を講じていたのか、とシルフィアやレイアは揃って冷や汗を流した。だが、こういったことを呼吸でもするかのようにやってしまうのがアスベルという人物であり、転生者でも一番敵に回してはいけない存在なのはチート級の実力を持つルドガーですら認めるほどだった。

 尤も、アスベル本人にその自覚などないのが一番厄介なことだが。

 

「ま、あの時はちょっと時間が取れたからな。ハーケン門を抜けるのは正攻法でいいだろう。一応エステル達にも話は通しておいたし、邪険にされることはないと思う」

 

 クロスベルでエステルらと邂逅した際、可能であればアリシア女王とコンタクトを取ってほしいとお願いしていた。そして、近いうちにリベール王国を訪れることも付け加えた上で。

 エレボニア帝国がこの状況でリベール王国を訪れる……その理由に首を傾げたのはレイアであった。

 

「でも、なんでこの時期に?」

「俺らの騎神のことを考えると、幻の騎神『イクスヴェリア』の起動者であるシオンも無関係とは言えない。それと、レクター経由でシオンが連絡を寄越してきてな」

「彼もこの世界に……エレボニア帝国が滅びそうね」

「流石のシオンでも分別を弁えずに殲滅するとは思えんが……話を戻すぞ」

 

 レクターから聞き及んだ情報によると、シオンは『イクスヴェリア』だけでなくファルブラント級巡洋戦艦『アルセイユ』も伴っており、更に数名ほど転移者がいるということも付け加えられた。シオン以外の名前は防諜の意味合いで伏せられていたため、恐らくエレボニア帝国でも重要な人物も含まれていると思われる。

 

「シオンがそこまで気を回すとなると、相当ヤバい陣容ってことになりそうだね」

「それで、場所はどこなのです?」

「ヴァレリア湖畔北西部―――かの『白面』が秘密裏に建造していた結社の秘密拠点とのことだ。今回はお忍びの意味合いもあるから、下手な接触はできそうにないが」

 

 幸い、今回の訪問については上手く話を通してくれたようで、元々のゼムリア世界での素性で通せるようだ。最悪遊撃士か教会の人間で通るつもりだったので助かる。それを抜きにしてもタイタス門は法術で強引に抜ける形だが。

 

「エステルが上手く取り成した、ってことは大方クローゼ経由で伝わったのかな」

「そう考えるのが自然かな」

 

 ウォーミングアップも兼ねて街道の魔獣を殲滅しつつ徒歩での移動をする三人。考えてみれば、この三人で行動するのは大分久々な気がする。シルフィアは“第七位”であるのと総長の身内なだけにアルテリア法国との行き来をすることが多くなっていた。その度に総本山の城下町の建物が大分様変わりしているのも聞き及んでいる。

 

「宗教絡みの話はあまりしたくないが、権力争いする連中は女神に一発きついビンタでも浴びれよって思うわ」

「ビンタ以前に姿を見せただけでも大事件レベルだけれどね」

「二人とも……そこは“奇蹟”と言っておくべきかと」

 

 前世の影響もあるのだが、公的な場で弁えていればいいと総長のアインも言っていたため、アスベルとレイアはそこまで口煩くない。その一方、星杯騎士団総長の義妹ということで公的な場に駆り出されることが多く、何かと生真面目なシルフィアは信仰心というか礼節という点でかなり厳格なほう。

 ともあれ、話もそこそこにしつつタイタス門を認識改変の法術で誤魔化し、徒歩でリベール王国側にある防衛拠点―――ハーケン門に到着する。門の前は王国軍による厳戒態勢が敷かれているが、三人を待ち構えるように立っている将軍クラスの軍服を纏った人物の姿が目に入った。

 ある程度の距離に近付いてきたところで、その老将軍は部下に何か言うとアスベルらに近付いてきた。お互いに話声が聞こえる距離まで近づいたところで老将軍―――リベール王国きっての名将でもあるモルガン将軍が話しかけてきた。

 

「お主等が陛下やシオン殿の仰っていた御仁らか」

「リベール王国軍のモルガン将軍閣下直々とは恐縮です。自分はアスベル、こちらがシルフィアとレイアです……家名については混乱を避けるため、名乗らないことはご容赦ください」

「……彼から伺っていた通りか。情勢故、こちらの指示に従ってもらうことになるが、構わないか?」

「ええ、その辺りは問題ありません」

 

 帰りは誰かの騎神を呼んで『精霊の道』で帰れるため、時間の心配は特にしていない。モルガン将軍の先導で司令室に案内された三人を待っていたのは、アスベル達にとって見覚えのある人物の一人であった。

 

「アスベル。シルフィにレイアも無事でしたか」

「セリカ!? って、貴女も巻き込まれてたのね……」

「私も正直驚きでしたけれど…すみません、将軍閣下」

「構わんぞ。わしとしても其方の手解きには感謝しているのでな。軍全体の士気もそうだが、実力がメキメキと伸びていることは確かだからのう」

 

 聞けば、セリカはグランセル城の謁見の間に直接飛ばされたらしい。幸いにも時間が夜だったために発見者のヒルダとアリシア女王以外は詳しい事情が伏せられている。それはカシウス中将やクローディア王太女にも詳しい事情が伏せられているが、セリカの武術を見ればヴァンダール家所縁の者だと気付くかもしれない。

 セリカ自身も何かできることはないかと申し出て王国軍の武術訓練を担当している。流石にモルガン将軍はセリカの使っている得物でヴァンダール家の人間だと気付いているようだが、彼女にも事情があると察して追及はしていないようだ。

 

「風の噂でモルガン将軍は身分に口煩そうな印象がありましたが」

「まあ、否定はせぬが情勢が情勢だからな。聞けば彼女も用兵の心得があると言ったものでな……その動かし方がかの<隻眼>を思い出させたのは確かだが」

「あ、あはは……」

 

 セリカの身内に<隻眼>がいるのは事実だし、彼女自身一時期は帝国正規軍で師団長まで務めたほどの実力者。この状況であれば結社や帝国軍情報局が帝国内外を暗躍していてもおかしくはないが、幸か不幸か遭遇しなかったことは幸運なのだろう。

 

「それはともかく、これでお主等の確認も取れた故に通行を認めよう。セリカ嬢も世話になったな」

「いえ。私の紹介状を書いていただいた中将閣下に宜しくとお伝えください」

 

 ともあれ、セリカと合流して4人で行動するわけとなったが、ボースに入ったあたりで視線を感じるようになった。どこか敵意を含むようなものだったので、わざと路地裏に入って誘導したところをボコって素性を吐かせると、帝国軍情報局の人間であることがすぐに判明した。

 

「案の定つけてきてたけど……なってないね」

「それだけ私らも実力がついてきたということなんでしょうね」

 

 ともあれ、記憶改竄の法術を念入りに掛けた上で放置すると、そのまま市街地を抜けて一路ヴァレリア湖畔の秘密施設を目指すことになったのだった。

 

 

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