No.1039619

紫閃の軌跡

kelvinさん

外伝~常識の不文律~

2020-08-30 00:29:47 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:749   閲覧ユーザー数:602

~エレボニア帝国クロスベル州 ジオフロントX区画~

 

 ヨナ・セイクリッドやシュリ・アトレイドとの邂逅である程度の情報を得たところで響き渡るノック音。だが、その扉の向こうから感じるのは明らかに人の気配でないことに気付いて身構えるが、遠ざかっていく様子が感じ取れた。距離が離れたところで確認すると、明らかに結社の人形兵器であった。

 

「ノックって、人間味溢れ過ぎやしないか?」

「……ねえ、アスベル。この事実だけでも教会が『外法』と認定しそうなんだけれど」

「この世界の連中にそこまでの余力があればの話だな」

 

 アスベルらのいるゼムリア世界ならばともかく、このゼムリア大陸におけるアルテリア法国の立ち位置は正直に言って不透明のレベル。それこそ組織間の対立でごたごたしている可能性が捨てきれない。そんな組織の中にいる星杯騎士団が真っ当に動けるとは到底思えないからだ。

 ともあれ、このまま留まるのは危険だと判断して脱出することにしたわけなのだが、その行動も見越したかの如く立ち塞がってくる人形兵器と遭遇。だが、ほぼ全力のローゼリアから比べたらスパーリングというか準備運動のレベル。

 

「あれ、意外に脆かったんだけれど……金属で出来てるのよね?」

「……そうだな。それは間違いないだろう」

「武装やクオーツも充実してきましたからね」

 

 普通の枠組みから外れつつあるユウナらの会話もそこそこに脱出を継続するが、次のフロアにて待ち構えていたのは三人の東方系の人物。その中で一番の実力者が賛辞を含むような拍手を送っていた。

 

「いやはや、お見事です。あの兵器を易々と突破してくるとは」

「―――よもやここで<白蘭竜>とはな」

 

 ツァオ・リーと側近のラウ、そしてシンの三人。加えて結社の人形兵器が4体。アスベルらの戦力を勘案してのことなのだろうが、明らかに“数が足りない”。この場合の数は“戦力不均衡”という認識が正しい。

 

(あいつら、真正のバカか? いくらガキンチョがいるとはいえ、舐めてるのか?)

(駄目ですよ、アッシュさん。それは思っても口にしない方が相手のためです)

 

 何せ、新Ⅶ組もそうだが旧Ⅶ組もリハビリのレベルではなくなっている。旧Ⅶ組では最大火力を有しているだろうラウラもアスベルの手解きを受けてかなりのパワーアップを果たしている。ラウラ本人は気付いていないが、全盛期(マクバーンと対決する前)のアルゼイド子爵と遜色ない剣筋に近づきつつある。

 その事実を冷静に小声で呟くアッシュに対し、ミュゼはフォローするのかと思えばある意味死体蹴りを入れる格好の言葉を返していた。

 

「ここは、あたしたちに任せてもらうわよ!」

 

 そういって割り込んできたのは棒術を駆使する女性と導力銃でツァオ達を牽制する女性。それがこの世界のエステル・ブライトとエリィ・マクダエルということはすぐに理解できた。そして、二人の練度はアスベル達がいる世界の彼女らとは比較にならないが、それでも時間稼ぎをするには十分だと判断し、この場は任せることにした。

 

「そうだな……二人を連れて離脱しよう。この場は任せた」

(アスベルなら一人でどうにか出来るのに?)

(この場で本気を出したらジオフロントの瓦礫で生き埋めになるわ)

 

 なまじ力を持ちすぎるというのも考え物だが、割り込んできた二人はツァオやラウ相手でも不足はないと判断できるだろう。ジオフロントを抜けた先は港湾区に到着し、ヨナの案内で“ある場所”へと案内してもらう形となった。

 そんなアスベル達を灯台の上から二人の人物―――白黒の髪の青年と菫色の髪の少女が見つめていた。

 

「助太刀は要らないが……『かかし男』と『道化師』に鉄血の子供達(アイアンブリード)の筆頭―――ルーファス・アルバレアとはな。もう数人ほど執行者ぐらいはいそうだが」

「ふふっ、ルドガーやあの人も『起動者(ライザー)』となったのに、油断はしないのね?」

「この場所だと何が起きても不思議じゃないからな。にしても……レンまで飛ばされたのは意外という他ないが」

 

 青年―――ルドガー・ローゼスレイヴの隣にいる少女―――レン・ブライトはクスッと笑みを漏らした。この世界にもレン・ブライトは存在しているし、実際に顔も合わせている。とはいえ、“楽園”から助け出された後の処遇の違いで性格面はかなり異なっている。とはいえ、悪戯好きな面だけは世界が変わっても変わらなかったことだが。

 

「でも、面白い体験が出来ているのも事実ね。それにしても……あの人たちに挑もうなんて、自殺願望でもあるのかしら?」

「思っていても言ってあげないのが優しさだよ、レン。恐らく、連中の目的は南東の湿地帯だろう。あそこなら最近生えてきたプレロマ草も見つかる可能性が高いからな。それじゃあ……レン、連中との連絡役は任せた」

「了解よ、ルドガー」

 

 誰にも気づかれることなく姿を消す二人。余談だが、ルドガーは隠形のことをレンには何も教えていないのだが、見様見真似で修得したというレンの言葉にルドガーは溜息しか出なかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ヨナに案内された場所は特務支援課があったビル。施設自体は綺麗に維持されており、何かあったときのセーフハウスの一つとしてこの場所の合鍵を持っているとのこと。ルーファス・アルバレアとてこの事実ぐらいは知っていてもおかしくはないし、何だったら見張りや監視を付けていてもおかしくはない。

 いや、実際にはここに向かう途中でビルの屋上にいるレクター・アランドールとカンパネルラの存在はきちんと把握しており、シルフィアとレイアもそのことは把握している。

 

「その指摘を言われちまうと否定できないけど……よっし、復旧完了」

 

 ともかく、情報端末から必要な情報をピックアップした結果だが、クロスベル総督ルーファス・アルバレアの帰還、軍関係者が聖ウルスラ病院に出入りしていること、『黒月』が人形兵器を用いてクロスベル全域で暴れまわっていて、潜伏中のロイド達がその対応に追われていること。

 

「俺の知り合いが数人ほどクロスベル入りしているが……正直なところ、『黒月』が逆に殲滅されると思うわ」

「そ、そんなに強いのかよ?」

「ユウナ達ならわかるだろうが、『鋼の聖女』と同等クラスの奴もいる。それも複数人」

 

 収集した情報の中にはアスベル達にしか分からない“ネタ”で埋め尽くされた文があり、それの差出人は間違いなくルドガーである。曰く『俺らの世界のネタなんてゼムリアの人間には到底理解できんだろう』とのこと。

 それはともかく、その文章によればマリク・スヴェンドもこの世界に来ているらしく、しかも彼まで騎神の起動者になったらしい。アスベル、シルフィア、レイア、ルドガー、そしてマリク。奇しくも転生者である五人が揃って騎神を手にしたこととなる。

 尤も、戦力というよりは実力を隠すためのカモフラージュ的要素が大きくなるのは致し方ないことだが。

 

「教官ですら圧倒するあの人クラスが複数人って……」

「アンタら、マジで何者なんだ?」

「ゼムリア大陸の人間だよ。それは事実だから」

 

 同じ世界の人間ではない、というニュアンスを含めつつヨナの質問に答えた後、アスベルは情報を精査する。

 ロイド達を湿地帯から遠ざけるような動きとルーファス・アルバレアの帰還は少なくともリンクしているだろう。現状において判明している6機の騎神―――灰のヴァリマール、蒼のオルディーネ、緋のテスタ・ロッサ、紫のゼクトール、銀のアルグレオン、黒のイシュメルガ。残るは金のエル=プラド―で、その騎神がある場所に繋げるための条件が整いやすい場所はただ一つ。湿地帯をおいてほかにない。

 

「湿地帯で何かをしたい魂胆見え見えなのに隠さないってことは、下手にそうすると霊力にも影響が出かねないことをしたいってことなんだろうな。それと病院やミシュラムにも影響が出かねないし」

「じゃあ、病院の件は……多分、よっぽど重要な人物が入院しているってことね」

 

 帝国の医療レベルでも手に負えない治療が必要と判断して運ばれた人物。そうなると可能性は自ずと絞られる形となり、可能性の一つに気付いたアッシュが神妙な表情をしていた。ともあれ、行動するよりほかにないと判断して支援課ビルを出た。

 ルイセからはフレディが見つけたもの―――ミュゼの機甲兵を確認し、アスベルはアクエリオスの『精霊の道』でユウナ達の機甲兵も呼び寄せる。精霊窟に似た建物でリィン・シュバルツァーに関する記憶も見た形で、シルフィアとレイアもそれを体験した。

 

(アスベル。私たちの世界ではどうなっているのですか?)

(リィンの母親は偶然にも助けることが出来た。正直なところ、ギリアス・オズボーンの関係者だと知ったのは大分後になったが)

 

 完全に偶然の産物であり、関わったのも偶然でしかなかった。一時的な仮死状態だということはイシュメルガが見逃した可能性が高い。そこまでしてギリアス・オズボーンを求めた理由…そして、ユーゲント皇帝がギリアス・オズボーンを重用している理由…アスベルは一つの仮説を立てていた。

 

(シルフィ。もしかしたらだが、ギリアス・オズボーンはドライケルス皇帝の魂が生まれ変わった存在なのかもしれない)

(……私たちみたいなのがいるから不思議ではないですけど、その証左は?)

(黒の騎神の存在だ。晩年のユーゲントに誘いかけていたというのは調べがついていたが、それが皇帝の血も引かないギリアス・オズボーンに惹かれる理由となったら……その可能性が最も高かった)

 

 どこかしらで分家の血筋を引いていた可能性があるやもしれないが、それを抜きにした場合、イシュメルガが何故ギリアス・オズボーンに狙いを付けていたのかが不明瞭となる。ただ、イシュメルガが傭兵を操ってそう仕向けたとするならば辻褄も合う。そこまでしてドライケルス・ライゼ・アルノールの魂を欲した理由は分からないが。

 

(にしても、どこで黒の騎神の存在を知ったの?)

(教会の聖典の最奥―――聖遺物(アーティファクト)に準ずる代物の保管場所にあった書物で知り、『天壌の劫火(アラストール)』を手にした際にその辺の情報も流れ込んできた)

 

 殆どの人間が知ることのできない機密情報クラスだったからこそ、殆どの人間もイシュメルガに関する情報は知らなかったのだろう。それはともかく、当初の目的を果たすために聖ウルスラ病院に入って病棟を見て回ったが、情報にあった人物の人影は確認できなかった。

 残るは特別病棟のみ、というところで病院の入り口に停車する二台の導力車。その車から降りてきたのは数人の軍人とルーファス・アルバレア、そして軍服を纏ったヴァンダイク学院長―――この場合は“元帥”なのだろう。

 すると、病院の手伝いをしているヴァレリーがこちらを見つけ、ナースステーションに一旦避難することとした。そこにはクロスベル通信社の記者であるグレイス・リンも同じ形で避難していた。

 

 クロスベル総督とエレボニア帝国軍の最高司令官がクロスベルに到着して間髪入れずに聖ウルスラ病院を訪れた理由―――それはユーゲント皇帝の見舞いであるとヴァレリーが仄めかす様に呟いた。

 すると、部屋に入ってきたセシル・ノイエスとも自己紹介を交わし、そのユーゲント皇帝から<Ⅶ組>が来たら案内するように言い含められていた。やはりアルノールの血族は一種の“特殊能力”を有している可能性が高いとは思いつつ、一同の視線はアッシュに向けられた。

 

「もう覚悟は決めてる……案内してくれや、姉ちゃん」

 

 特別病棟の一室にて、ユーゲントⅢ世と対面する。開口一番、彼は謝罪を口にした。アーティファクトの一つである『黒の史書』によって総てを知りながらも、苦難を強いている事実を。いくらアルノールの血を引いているとはいえ、人としての限界には逆らえなかった。結果として、アッシュも皇帝自身も“呪い”に導かれた結果なのだと。

 アッシュの謝罪に対し、ユーゲントⅢ世は何の罪もないとハッキリ述べた。ユウナにリィンへ語ったことも含めた内容の手紙が渡され、ユーゲントⅢ世は眠りに就いた。心臓に銃弾の破片が残っており、起き上がって話をするだけでも一杯一杯だったのは見て取れた。

 守護騎士としては手を差し伸べるべきかもしれないが、この世界の同位の守護騎士がどうなっているかもわからない以上、下手なことをして状況を混乱させたくない。それに、今のアスベルは守護騎士というよりもトールズ士官学院・Ⅶ組の人間として行動している以上、それ以外の余計なことはする気もない。

 残るは湿地帯の調査といきたかったのだが、ここで思わぬ来訪者が舞い込む。それはヴァンダイク元帥その人であった。

 

「お初にお目にかかる、新Ⅶ組の諸君。旧Ⅶ組の諸君も久しぶりだな。そして……先日、わが軍の包囲網を難なく突破した者たちも一緒とは。これも何かの因果なのだろうな」

「……軍としては指名手配にしたいのではないのですか?」

「今ここでどうにか出来る話でもあるまいて。それに、君の実力は私など歯牙に掛けぬことなど見抜いておる」

 

 ただ話をしに来たという雰囲気は纏っているものの、警戒も含めて尋ねたアスベルの問いかけに対してヴァンダイク元帥は苦笑を滲ませつつそう答えた。その体格を維持していて歯が立たないなどと言われても納得しかねる話だが。

 ヴァンダイク元帥ほどの人物でも“裏”のことは何も知らされていないと元帥本人が述べた以上、得られる情報はほとんどないであろう。そして、元帥は軍人として―――国を守るために力を尽くすだけだと断言した。それが軍人としての性だとアスベルやシルフィア、レイアは理解していた。

 

「だったら、“Ⅶ組(あたしたち)”は違って見せます! 教官を取り戻した先に“道”があるはずだと皇帝陛下が仰っていました。なら、それに向かって突き進むだけです。トールズ士官学院の―――Ⅶ組として」

 

 ユウナの言葉をはじめとして、新Ⅶ組の面々も力強く決意を述べた。この流れに乗ってというユウナの視線に苦笑を滲ませつつ、アスベルもⅦ組の一人として決意を述べた。

 

「俺の場合はちょっと事情が入り組んでいますが……こんな世界の黒い御伽噺は真っ平御免被ります。軍の最高司令官である貴方に言うべき台詞ではありませんが、貴方方が国を守るためという大義名分で“黄昏”を広げようというのならば……全力を以てその総てを引っ繰り返します」

 

 滅多に口にしない“全力”という言葉にレイアから苦笑が漏れたのを感じ取り、傍にいたシルフィアがレイアにチョップでツッコミを入れ、レイアが痛みで蹲る羽目になり、周囲からは冷や汗が流れた。

 

「2年前、皇子殿下から話を貰った時はどうなるかと思ったことだが……Ⅶ組がここまで逞しく、強くなったのはかつての教育者として冥利に尽きることだな」

 

 そう言ってヴァンダイク元帥はその場を後にした。ユウナ達も長居すると病院業務のお邪魔になるため、一度本病棟の屋上に出た。さて、この先の予想としては湿地帯への調査をさせないように妨害してくることも予想される。なので、アスベルは一つの提案をユウナ達にした。

 

「え、あたし達はミシュラム経由でですか?」

「あんな情報が漏れ出ている以上、敵さんだって対策しないわけがないからな。何せ相手が相手だ」

 

 新旧Ⅶ組の面々がミシュラム経由で湿地帯の裏へと入ってもらい、アスベルとシルフィア、レイアの三人で衛士隊を正面突破する。既にトールズ士官学院本校や『赤い星座』、帝国軍と一戦交えている以上、顔を覚えられているのは既定路線だ。ミシュラムへの交通手段はヴァレリーからスタークに連絡がいったようで、彼の用意した導力ボートでユウナ達はユウナの父親への顔見せも含めて先行した。

 それを見届けた後、スタークがアスベルらに問いかけてきた。

 

「えっと、たしかアスベルさんでしたか。これからどうするのですか?」

「無論、警戒網を正面突破する。三人でも行けなくはないんだが、ここは連携を取らないとな」

 

 アスベルがARCUSⅡを取り出して通信をつなげると、端末には複数人の顔が表示された。事前に通信予定の時間は通知してあったが、難なく繋がるということは総督の指示が一時的に湿地帯の監視に止められているようだ。

 画面に映ったのはルドガー・ローゼスレイヴ、先程出会ったエステル・ブライト、そしてこの世界のロイド・バニングスに、アスベルの世界において傭兵でもあるマリク・スヴェンドの姿であった。

 

「はじめましての面子もいるが、アスベル・フォストレイト―――アスベルと呼んでくれ。時間が惜しいから作戦に取り掛かるが、準備は問題ないか?」

『ああ。しかし、奴らも俺らをずいぶんと舐めているようだな』

『いや、普通は人形兵器をおもちゃのように壊せないわよ……あたしも先日までそうだったし』

『エステル、それは自爆じゃないのか?』

 

 エステルやロイドを始めとした面々はⅦ組に渡したものと同じマスタークオーツによって理外の強化を受けている。警戒網を突破するだけの力を有している。エレボニア帝国がこの“黄昏”を利用した兵器を開発していたとしても、この世界のルールから逸脱することはできないのだから。

 

 

 大分間が空きました。新PCに慣れたり、リアルが忙しかったり、ゲームにハマったり(オイ

 創の軌跡が発売しましたが、本作はそこまで触れる予定はありません。いいところ閃Ⅲが限界だと思いますので。

 

嘘次回予告

「総督をゴールにシュウウウウウウウウウウ!!!」


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